※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-9 死の騎兵

 ンフィーレア達が退出して扉が閉まる前に様々な指示を飛ばす声が聞こえた。

 緊張感いっぱいだったンフィーレア達は大きく息を吐き出す。

 ちゃんと言うべきことは言えた、という感想だ。

 その後、観光の為の従者が一人付いてきたのだが、それは断った。

 まだ後処理が残っていたから。

 改めてバハルス帝国という国を見回りたいと思いながらカルネ村に戻ろうと思った。だが、ンフィーレアはそのまま帝国の畑の元に向かう事にし、エンリは子供が心配なので帰宅することにした。

 一口に帰宅と言っても帝国の護衛兵に囲まれる形ではあった。

 帰り道にカッツェ平野を横切るので骨の竜(スケリトル・ドラゴン)などのアンデッドの出現に警戒するためでもある。

 途中まで進むと騎士風の装備を身にまとった骸骨(スケルトン)が現れる。

 それはアンデッドの馬に跨(またが)った立派な姿のモンスター。

 黒い全身鎧(フルプレート)に赤く怪しく輝く目。棘付きの凶悪なガントレットを装備している。

 数は二騎。

「あいや、待たれよ」

 と、騎士風のアンデッドが声をかけてきた。その声は生者を恐怖に陥れる不気味な音だった。

 帝国兵士は武器に手をかけたまま停止する。

「我等はアインズ・ウール・ゴウン魔導王様の命により、貴君達とエンリ・バレアレ殿の護衛任務を仰せつかった死の騎兵(デス・キャバリエ)である。攻撃の意志は無い」

「そ、そうですか。護衛……。我等はこのまま同行してもいいんですね?」

「同盟国の者を無下にするな、と言われている」

「了解した。エンリ殿をカルネ村まで案内するゆえ、……前後の防りが良いか?」

「そちらの指示に従うように言われている」

「では、前後の護衛をお願いしたい。左右は我等だが……。二騎だけか……」

 最低でも四騎だと安心感が増す。

 だが、折角の好意なので従うことにした。

 敵として出会っていれば退散を余儀なくされそうな凶悪な面構えと武具類を装備している。

 これで骨の竜(スケリトル・ドラゴン)にあっさり蹴散らされたら笑いそうになる。

 村娘一人を護衛するには仰々(ぎょうぎょう)しいかもしれないが、アインズが部下を差し向けるほどなのだから普通の村娘ではないのだろう、と帝国騎士達は思った。

「……念のために聞くが……。侮辱と取らないでほしいのだが」

「………」

 死の騎兵(デス・キャバリエ)は前だけ見ていた。

「護衛だけで敵が現れても迎撃しない、ということは無いでしょうね?」

「エンリ・バレアレ殿に危害を加えるものは排除しろ、と命じられている」

 それはどの程度のことなのだろうか。というか、ちゃんと答えてくれたのでほっとしている。

 仕事熱心だから無駄な行動は取らない、とも言える。それはそれで立派なことだ。

 騎士達は詳しく尋ねたところでアンデッドがこと細かく答えてくれる気がしなかった。

 実際に何かしらのモンスターが現れれば分かるだろう。

「騎士達よ」

 と、馬車の中から新たな声が聞こえてきた。

「んっ?」

「我は影の悪魔(シャドウ・デーモン)。気がかりはアインズ様に報告するゆえ、仕事に専念していただきたい。もちろん、帝国兵の護衛も任務の内なので」

「そ、そうか。それは心強い」

「あー、帝国に帰還するまでが任務だ。死の騎兵(デス・キャバリエ)達よ。それは認識しているな?」

「もちろんだ、我等の同志よ」

「これで良いか、帝国兵達」

「了解しました。お心遣いに感謝します」

 というか、モンスターに守られる帝国兵というのは少しおかしなものだと思う。

 本来なら倒すべき立場のモンスターに今は守られているのだから。

 しかも、アンデッドと悪魔に。

「湧き出るアンデッドとナザリックのシモベはやはり、違うのですか?」

「一言で言えばそうだと言える。ナザリックに属しているか、いないかの違いだろう」

「なるほど~。我々は見分けが付かない気もしますが……」

「敵は倒す。だから、我等を敵と思うのであれば剣を奮うが良い。迷いは禁物だ」

「うわっ、そ、そうですか? なんだか、恥ずかしいな」

 モンスターの正論に言い返せない自分に、と。

 エンリを運ぶ馬車は魂喰らい(ソウルイーター)ではなく、普通の軍馬だ。それが周りのアンデッドに怯まずに居られるのはマジックアイテムのお陰なのだろう、と騎士達は思った。

 モンスターと共に行動するようになって色々と常識が崩れ、今の仕事に疑問に思ったりするようになった。

 亜人の国があるくらいだから、アンデッドくらいで怯んではいけないのだろう。

 少なくとも彼らは飲食不要なので食べられることは無いようだ。

 人間を食べるアンデッドも居るらしいが。

 

 道程は順調だった。

 いくつかの骸骨(スケルトン)系モンスターが現れたが死の騎兵(デス・キャバリエ)の槍が容易く粉砕していく。

 遠くに冒険者の姿が見えたが、誰も襲ってこない。というか、圧倒的な存在感で近づけないのかもしれない。

 勇敢な冒険者が来ても帝国兵士は追い返すけれど。

 彼らの力試しに付き合う気は無い。

「影の悪魔(シャドウ・デーモン)よ。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)より巨大なアンデッドモンスターというものは存在するのか?」

「大陸級と呼ばれる大型アンデッドは存在する。だが、帝国近辺には居ないだろう。もし、居れば国など簡単に滅んでしまう」

「……会いたくないな……」

「大陸級……。数百メートルってことか……。そりゃ滅ぶわ」

 大陸級とはいえ身体が大きいので内部に潜入して部位を破壊して倒すのが一般的だ。

 巨大ゆえに動きも鈍くなる。

 超重量のモンスターは鈍重になりやすい。

 黒い仔山羊はその中でもまだ小ぶりな方だ。しっかり支える足もあるから早く移動できる。

 集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャアイント)が居るくらいだから、もっと巨大化したものが居てもおかしくないだろう。

 ユグドラシルの中ではイベントボスやレイドボスとして出て来るものだが、雑魚モンスターとしては出て来ない。規模が大きすぎるから。

 第四階層守護者のガルガンチュアですら三十メートルだ。

「不安がらせてしまったか。そのような巨大モンスターが存在するならば近隣で地震が発生するだろう。それが無ければ近場には居ないと言える」

「骨の竜(スケリトル・ドラゴン)程度で怖気付いている場合ではありませんね」

「もし太刀打ちできない強敵が現れれば敗走を許可する。応援を呼ぶ用意はこちらにあるからな」

「その時は……頼らせていただく」

 巨人(ジャイアント)が居るくらいだから、突然変異のモンスターが現れても不思議ではない。

 馬車の中に居るエンリは毛布に包まり、睡眠を取っていた。

 皇帝との謁見で精神的に疲れたためだろう。

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)が安眠の邪魔をしないように見張っている。

 更に進んでいくと魔法を行使する音が外では聞こえてくるのだが、室内は『静寂(サイレンス)』の魔法によって喧騒は聞こえない。

「え、死の大魔法使い(エルダーリッチ)か?」

「いや、骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)のようだ」

 その骸骨モンスターは冒険者に倒されていった。

「それにしても骸骨(スケルトン)系のモンスター多いな。だいぶ骨は回収した筈なのだが……」

 肉体のみのアンデッドは意外と見当たらないことに兵士は気付く。

 居れば厄介ではあるのだが。

「霧が……。死の騎兵(デス・キャバリエ)達は視界不良でも大丈夫ですか?」

「心配は無い」

「ふむ。応援を呼ぶゆえ、停止を要求する」

「は、はい」

 視界は数十メートルから五メートルほどまで見えないくらい霧が深まってきた。

 カッツェ平野を覆う霧はアンデッドの反応が含まれているといわれている。

 その影響で様々なアンデッドモンスターが湧き出しているというのが通説になっている。

 原因解明には未だに至っていない現象だ。

「何か青白い炎が……」

「馬? 誰か乗って……」

 視界不良の霧の少し上の方に青白い炎のようなものが小さいが見えていた。

 黒っぽい馬の形がぼんやりと見える程度なので、どんな姿なのかは判断しにくい。

 蹄(ひづめ)で地面をかけるような音が聞こえる。

「お仲間さんでしょうか?」

 死の騎兵(デス・キャバリエ)達が駆け巡る存在を追う。

「いや、あれは我等の同志ではない」

「……おお、あれはアインズ様が捜し求められた首無し騎士(デュラハン)ではないか!」

「私達にはよく見えないんですが……」

「兵士達はその場から動かない方が良い。無駄に命を散らす事になる」

「りょ、了解しました」

「首無し馬(コシュタ・バワー)と共にあるな。すぐに連絡を」

「すぐに捕獲の者が来る。死の騎兵(デス・キャバリエ)達は兵士の護衛を優先せよ。地面からモンスターが現れることに注視せよ」

「心得た」

 エンリを乗せた場所の近くに『転移門(ゲート)』が現れ、中から出て来たのは棘付きのガントレットを装備した黒髪を夜会巻きにする戦闘メイド『ユリ・アルファ』と執事の『セバス・チャン』だった。

「ご苦労様です。捕獲は我々に任せて防衛体制を取ってください」

「畏まりました」

 死の騎兵(デス・キャバリエ)達は兵士達の前に武器を掲げ、警戒態勢に入った。

「首無し馬(コシュタ・バワー)に騎乗する首無し騎士(デュラハン)が一騎です」

「了解しました」

 ユリはガントレットの拳部分を覆う。

「全身鎧(フルプレート)の首無し騎士(デュラハン)ですね。天然モンスターは初めて見ます」

「うっかり滅ぼさないで下さいね」

「心得ておりますよ。手足は折ってしまうかもしれませんが……」

「拘束出来れば問題は無いでしょう。首無し馬(コシュタ・バワー)を痛めつけるのは気が進みませんね」

 首無し騎士(デュラハン)はレベルにして25ほどのアンデッド。

 死の騎士(デス・ナイト)よりレベルが低く、強さも弱い部類だ。理由としては自分の首を持って移動するから。戦闘にあまり特化していないところがある。

 中途半端に魔法も使ってくるけれど、特徴的な攻撃は殆ど無いかもしれない微妙なモンスターだ。

 首無し馬(コシュタ・バワー)はレベル20ほどだが、空を翔る程度の能力しかない。

 セットだからと特別な力は無いが、希少なモンスターであることは事実だろう。

 空を飛ぶので『飛行(フライ)』を習得していないユリ達に分が悪いと思われるが、それはマジックアイテムで解決できる。

「〈飛行(フライ)〉」

 とユリは貸与されたマジックアイテムを起動し、敵モンスターに近づく。

 近くで見る首無し騎士(デュラハン)は病的な顔の女性で美しさはあまり感じない。

 首を小脇に抱えているのだが扱いは乱暴だ。

「なんと醜悪な……」

 軽く殴りつける。

 レベルが低いせいか、思考力が低いのか、天然のアンデッドだからかは分からないけれど、攻撃を避けられることは無かった。

 ただただ、ユリは失望した。

 品性、知性、共に劣る下等なアンデッドだと。だが、それでも主が所望したのだから捕獲しなければならない。

 せめて首無し馬(コシュタ・バワー)だけでも聞き分けの良いモンスターであってほしいと願って。

 非実体のモンスターではないので、比較的楽に作業が済んだ。

「これが同種だとは……」

 あまりにも簡単に捕獲出来たのでユリはがっかりした。もう少し強いモンスターだと思って期待していたので。

 レベル的にはバハルス帝国の騎士達にとっては強敵なのだが。ユリの感触からはせいぜい『ナザリック・老墓守(オールド・ガーダー)』くらいだと思った。

 マジックアイテムのロープでアンデッドモンスターを縛り付けて『転移門(ゲート)』を呼び出してもらい、中に放り込んだ。

「忘れないうちに……。さあ、来なさい」

 ユリの命令を受けて『転移門(ゲート)』から死の騎兵(デス・キャバリエ)が新たに二騎、現れた。

「ユリ様、モンスターにも色々とおります。優秀なものが居れば下劣なものも」

 と、影の悪魔(シャドウ・デーモン)は言った。

「そうですね。少し期待してしまった私も悪いのでしょう。エンリ様の御身の警護は任せましたよ」

「畏まりました」

 少し気が晴れたのか、ユリは少しだけ口角を上げてセバスと共にナザリックに帰還する。

「四騎となりましたが進みましょう」

「申し訳……ないのだが……。霧が深くて……」

「人間とは不便な生き物」

「脆弱であるからこそ、我々が守護しているのだ」

 と、それぞれの死の騎兵(デス・キャバリエ)は言った。

 モンスターとして色々と優遇された特殊技術(スキル)を持っているのかもしれないけれど、人間はそれ程器用ではない。

 帝国の騎士達は自覚しているので反論はしなかった。

 侮辱かもしれないけれど、それでも自分たちは任務を全うする為に生き残るのだと、胸の内に強く決意する。

 

 五メートルの視界しか有効範囲が無い状態では進みにくい。

 晴れるのを待つか、死の騎兵(デス・キャバリエ)達の案内に任せるべきか。

「我々はここまでのようだが、皆さんはカルネ村の位置は分かるものなのか?」

「少し待たれよ、主に報告するゆえ」

「この霧は魔法か?」

「いや、昔からカッツェ平野を覆っている。原因は今も分からない」

「アンデッド反応があるのだが、非実体のモンスターかと言われると、そうでもないようだ。まあ、原因不明のまま百年以上は経っているのかな」

 会話自体は帝国騎士達も慣れた。

 愚劣な人間と交わす舌は持ち合わせていない、とか言われると思っていた。

 アンデッド兵に舌があるのかは不明なのだが。

「馬は今のところ怯えてはいないようだ」

「こうも視界不良では……」

 近くに居る死の騎兵(デス・キャバリエ)が本(・)当(・)に(・)味(・)方(・)なのか分からなくなる。

 

 ヒュ。

 カン。

 

 何かが飛来する音と防ぐ音が聞こえた。

「矢か!?」

 飛び道具を持つアンデッドも確認されているから不思議ではない。

 この視界不良で襲撃するのはアンデッド兵くらいだろう。

「すまぬ、我々は敵影が確認出来ない」

「承知している」

「生者を伴っているから狙われてしまうのだろう」

 アンデッドは基本的に生者を襲う性質がある。

「……良い的(まと)なのだろうな」

 カン、カン、と不定期で聞こえてくる音が少し怖い。

 武器としては大したものではないのだろうけれど、顔とかに当たりたくないなと思った。

「アンデッド軍団に襲われる、という噂は聞いた事が無いから散発的なのだろう」

 たまに『火球(ファイアボール)』が来る。それも死の騎兵(デス・キャバリエ)の盾に防がれる。

 第三位階の魔法をものともしないあたり、死の騎兵(デス・キャバリエ)は強いのだろう。

 帝国兵士としては『火球(ファイアボール)』に耐え切る自信はあるけれど、一斉攻撃はさすがに怯む。

「アインズ様より集眼の屍(アイボール・コープス)を一体送られるということだ。道案内はそのモンスターに任せよう」

「アイボール? どのような姿なのかお教え願えるか?」

「大きさは二メートル。眼球が集まった姿だと思っていただきたい」

「……うわぁ、そういうのも居るんですね」

「探索に優れたモンスターだが、戦闘能力は低い」

 低いけれど上位モンスターだ。

 帝国騎士達に倒せるかは分からない。

 少しだけ待っていると騎士達の視界に醜悪な丸いモンスターが迫ってきた。

 確かに眼球がたくさんあるモンスターだった。ただ、全ての目が白濁していた。

「目が……」

「これが集眼の屍(アイボール・コープス)だ」

 と言っている側で矢が飛んできた。だが、集眼の屍(アイボール・コープス)の身体には刺さらず弾かれた。

「なんと! アインズ様のモンスターに攻撃をっ」

「下等なアンデッドの分際で!」

 と、それぞれのアンデッドが怒り出した。

「愚劣なアンデッド共がぁ!」

 怒った二騎の死の騎兵(デス・キャバリエ)が霧の中に突入し、何かを砕く音の後で戻ってきた。

「愚か者共がぁ!」

 と、激高するアンデッド。

 人並みの感情があるようで不思議だなと騎士達は思った。

 アインズが保有するモンスターは自分達(バハルス帝国)の知るアンデッドと何かが違う。それは感じた。

 敵に回せば恐ろしい知性溢れるモンスター。

 もし、敵対していれば勝てるだろうか。

 勝つには相当に強くならなければならないだろう。

「では、集眼の屍(アイボール・コープス)が案内役となるので着いて来てくれ」

「了解した」

 大きくて丸い奇怪なモンスターに先導される形で帝国騎士達の馬は歩き出した。

 願わくば冒険者が襲ってきませんように、と願う。

 人間相手なら自分達に出番があるだろう。

 ただ問題なのは帰りもアンデッド達と共にしなければならない事だ。

 騎士達の一日はまだ終わっていない。

 

 疲労しないアンデッドに対して人間は休息が必要だ。

 大きな岩場で野宿する事になる。もちろん、アンデッド達は人間の脆弱さは把握しているので文句は言わなかった。

 仕事を優先せよ、とか言われると思っていた。

 後、霧が深くて進めないというのも原因だろう。

 アンデッド兵は平気でも。

 今回の護衛はアインズにとっても渡りに船だった。

 転移で楽して移動させても良かったが、同盟国としてお互い仲がいい事をアピール出来る。もちろん、何も問題が起きない事が条件だ。

 時間はかかるが仕事を無事に終えれば魔導国としての経験値にもなるだろう。

 騎士達も大変だがエンリを運ぶ馬車を操る御者は生きた心地がしないだろう。

 ずっと大人しかったが生きてはいるようだ。帰還したら仕事を辞めそうで心配だが。

「御者は骸骨(スケルトン)で良かったのでは?」

「いや、何かの拍子で信仰系のアンデッド退散を食らうかもしれない」

 死の騎兵(デス・キャバリエ)を退散させるようなものは余程のつわものでもない限り無理だ。それこそアダマンタイト級かプレイヤーくらいかもしれない。

 そこもアインズの狙いの一つとなっている。

 あくまで護衛任務なので攻撃してきたら大義名分が出来る、と考えていた。

 運んでいるのはリ・エスティーゼ王国では有名な村長エンリだ。

 影響は小さくない。

「新鮮な死体が無いせいか、骸骨(スケルトン)系のモンスターが多いな」

「……確かに」

 騎士の言葉に反応したのは影の悪魔(シャドウ・デーモン)。

「この霧を吸い込むとアンデッドになることはあるのか?」

「長く活動してきた冒険者の意見では、そのような事例は無いようです。ただ、口元はしっかり守るようにしていますよ」

「我等にも影響が出るものだろうか」

 今のところはアンデッド兵に異常は無い。

 野営を築き騎士達は手持ちの食料の調理を始める。

 馬車に数日分の蓄えが積まれているので馬が逃げ出さなければ問題は無い。

 転移を利用するようになったエンリも長い馬車移動は思っていたほど疲労を感じるものだった。

 楽をすると身体が鈍(なま)るのかもしれない。

「この辺りに草木は無いようですね」

「雑草程度は生えておりますが……」

「この霧の影響かも……。日照の都合もあるでしょう」

「夜中になると燐光の松明(ウィルオーウィスプ)が現れて幻想的な風景になるんですよ。あと非実体のモンスターが現れたりしますけど」

 武器の通じないモンスターは多くの魔法詠唱者(マジック・キャスター)達が討伐していく。

 話しを聞きつつエンリは地面を掘る。

 地域ごとの土の採取も大事だと言われているので。

「農家にとって地質は重要なので」

「そこから巨大アンデッドはさすがに出て来ないでしょうね」

 そもそもどうしてアンデッドが発生するのか、帝国の長い研究においても未だに謎とされている。

 採取した土から骸骨(スケルトン)が発生した、という噂は聞かない。

 馬車の中に持ち込み『永続光(コンティニュアル・ライト)』で検査する。

 霧の発生は無い。

 土には異常が無く、大気が原因なのだろうかと推測する。もちろん、現場にある岩石という事もあるだろう。

 一定周期で濃くなったり薄くなったりするようで、朝方には大抵は晴れる。

 それ以外は本当に気まぐれで濃度はまちまち。

 罪人の死体を放置した実験も行(おこな)った事があるようだが、結果は芳(かんば)しくなかったようだ。

 

 カッツェ平野は一部を通るだけなので次の日には霧の無い普通の平野に出る。

 霧が無い分、共のアンデッド達は物凄い目立つ。

 大部隊というわけではないけれど、これで襲い掛かってくるものが居れば凄い勇者だろう。

 先導役の集眼の屍(アイボール・コープス)は既に居ない。規定の時間になって退去していった。

 見晴らしの良い景色になった後はアンデッドモンスターの姿は確認されず、カルネ村までは障害らしい邪魔者には阻まれず、数日の行程でたどり着いた。

 仕事はそれで終わりではなく、帝国騎士達はこれからバハルス帝国に戻らねばならない。

 死の騎兵(デス・キャバリエ)達は規定時間と言うものが無いのか、退去はしなかったがカッツェ平野をまた通って帰るのは頭の痛い問題だった。

 せめて晴れている時間が多ければいいのだが、気まぐれの霧は人間の都合に合わせてくれない。

 エンリ達から帰りの食料などをもらい、カッツェ平野に入ると案の定、視界不良だった。

 多くの冒険者が入り込んでいる筈だが、彼らは魔法によって視界不良の中でも活動ができるらしい。

 そこかしこで戦いの音が聞こえてくる。

 時々、飛んでくる矢や魔法は死の騎兵(デス・キャバリエ)達が防いでくれる。

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)はエンリと共にカルネ村に居るようで話しかけてみたが答えは返ってこなかった。

 それはそれで仕方が無い。

「視界不良だが十メートルは確保……。まだ夜中でもないのに薄暗いな」

「霧のモンスターだとしてもここまで広範囲のモンスーは存在するのだろうか」

 それこそカッツェ平野全域を覆うほどの霧が一匹の非実体モンスターだったら、正しく大陸級に相応しい。

「カッツェ・ゴースト。というモンスターなら相応しいかもな」

「その言葉、アインズ・ウール・ゴウン様に伝えておこう」

 と、死の騎兵(デス・キャバリエ)が言った。

「例えですけどね」

「未知の敵を想定することは悪い事ではない」

「仮に巨大ゴーストだとしても中に居る人間に影響がないのはおかしいだろう。それとも、じわじわと苦しめるような能力があるのか」

 自然現象がたまたまアンデッド反応を含むもの、ということもありえる。

 人体に有害でなければいいな、と騎士達は思った。

「骸骨(スケルトン)共め、次から次へと」

 騎士達からは見えないのだが死の騎兵(デス・キャバリエ)は剣を奮い、外敵を排除しているようだ。

 時折、何かが壊れる音が聞こえる。

 もちろん、自分たちも近くに来た敵は排除するのだが視界が狭いので索敵が難しい。

「骸骨(スケルトン)は本当に多岐に渡るモンスターですよね」

「赤い骸骨(スケルトン)はしぶといし、燃えている骸骨(スケルトン)は火属性の攻撃をしてくる。様々なモンスターの死体からも生まれる」

 腕がたくさんあったり、魔法まで使ってきたり。

 生物の対極に位置するだけあり、多種多様だ。

「んっ、盾装備」

「了解」

 風切り音が聞こえた。

 骸骨の弓兵(スケルトン・アーチャー)かもしれない。

 知性が乏しいのが多いので騎士に致命傷を与えるようなつわものは現れない。だが、数で押されるときつい。

 コン。カン。と小気良い音が聞こえる。

 筋肉が無い骸骨(スケルトン)ではバハルス帝国の強固な鎧は易々と突破出来ない。

「どっから矢を調達しているんだ?」

「石ならまだ理解出来るが……」

 視界不良を良い事にいいようにやられているのは面白くない。だが、それは帝国騎士だけの問題であり、死の騎兵(デス・キャバリエ)には関係ない。

 帝国騎士達を守る為に外敵を排除していく。

 圧倒的とも言える。

 低位モンスターと上位の力量差とも言うのだろうか。

「散発的だからいいけれど、徒党を組んだ骸骨(スケルトン)が来たらひとたまりもないな」

「死の大魔法使い(エルダーリッチ)が壁を作ってたらやだな~」

 統率の取れたモンスターは脅威だ。

 一日を終えて休息するが死の騎兵(デス・キャバリエ)達は文句は言わなかった。

 不眠不休で働けと言われるか、置いていかれるか危惧したが。

 地面からモンスターが這い出すことは無く、次の日の夕刻には霧が晴れて帝都が見えてきた。

 だが、現場に到着するまでは油断できない。

「なんだ……。人食い大鬼(オーガ)か?」

「今度は生身のモンスターのようだな」

 小鬼(ゴブリン)達に引き連れられた一団が遠くに見えた。

 彼らが狙うのは農作業をしている村人のようだ。すぐに向かうが死の騎兵(デス・キャバリエ)達も着いて来た。

 知らない者が見たらアンデッドモンスターに追われる帝国兵に見えるだろう。

「冒険者の姿は無いか……」

「仕方が無い。我々だけでやるか」

 村人といえど帝国民。

 モンスターに襲わせることは出来ない。

「うせろ、モンスター共!」

 馬車を二騎の死の騎兵(デス・キャバリエ)が守り、残りは騎士達の援護に回った。

 手助けをしないものと思っていたが共に戦ってくれたので意外だと思った。それがたとえ命令の中にあったとしても。

 ものの数分で敵性モンスターは駆逐した。

 というか、死の騎兵(デス・キャバリエ)達は容赦が無かった。全部、逃がさず倒してしまった。

「我々はバハルス帝国の者だ。畑は無事か?」

「は、はい!」

「彼らは魔導国の者達だ。すまないが、モンスターの処分は任せる」

「あ、ありがとうございます」

 そういえば死の騎兵(デス・キャバリエ)が倒したモンスターは従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)にならないのだろうか、という事が浮かんだ。

「すまないが、貴殿達が生身のモンスターを倒すと従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)に……」

 と言っている合間に起き上がってくる倒した小鬼(ゴブリン)達。

 やはり、従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)になってしまうようだ。

 ただ、骸骨(スケルトン)などは倒しても復活しない。というか復活しなかった。

 二度手間だが、もう一度倒す必要がある。

「野放しには出来ないな」

 呆れつつも、これも経験だと思って従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)達を倒していく。

 従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)に気付かなければ村人が襲われて動死体(ゾンビ)にされていたかもしれない。早めに気付いて良かった、と騎士達は安堵する。

「なるほど。我等は生身相手では不都合のようだ」

「これも経験です」

 賢い死の騎兵(デス・キャバリエ)達は些事(さじ)と受け取らず、納得してくれたようだ。

 それもまた意外だと思える事柄だった。

 従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)になった途端に手ごたえが硬くなり、少し手ごわくなったような気がした。

 普段から鍛えていて良かったと騎士達は思った。

 復活の兆候は無く、本当に死体となった事を確認した後で帝都に向かう。

 帝都の上空は皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)が警戒任務についているので騎士達は帝都の入り口について、ようやく安堵した。

「ここまでの護衛任務、ご苦労様でした」

「我等は任務を完了し、帰投する」

 四騎の死の騎兵(デス・キャバリエ)達は物凄い勢いで走り出し、魔導国に向かって消えて行った。

「早い……」

「それにしても無事にたどり着いて良かった」

 騎士達は帝城にて報告を済ませた後でそれぞれ宿に向かったり、自宅に戻った。

 

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