※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-11 影の国の女王

 地図を頼りにアーグランド評議国の国境付近にある詰め所に向かい、依頼書を兵士に渡す。

 詰め所は街道を避けた場所に四つほど。繁殖期や冬場には施設を増設したりするらしい。

「まず荷物を運んでください」

「アダマンタイト級のモモンさんに来ていただけるとは……。依頼料が少なくてがっかりしませんでした?」

「払えない依頼料で国に打撃を与えるわけには行きませんからね」

「どうもこの辺りの貴族がケチっているらしいんですよ。小さな声では言えませんけどね」

「あっははは」

「色んな冒険者のお陰で生き延びさせていただいております。前に来た冒険者なんか霜の竜(フロスト・ドラゴン)の目の前で焼き肉パーティしてたんですよ」

 バカなことは全て脳裏に浮かぶ犯人に繋がる。

「妖巨人(トロール)達は倒すのに竜(ドラゴン)類は返しちゃったんですよね。評議国が近いからかは分かりませんが……」

「珍しいモンスターだから、とかではないですか?」

「まあ、そうなんでしょうが……。それにしても強かったな……」

 モモンは兵士達と共に荷物をまとめたり掃除したりした。

 一緒に連れて来たナーベは外の清掃に従事している。

 モンスターが来ないと冒険者は活躍しないので小休止のような状態だった。

 依頼を受けた冒険者にやらせているわけではなく、駐屯地に居る全ての兵士が掃除に従事していた。

 楽して命令しかしないような現場ではなかったのがモモンにとっては驚きだった。

 これがブラック企業なら命令だけして仕事らしいこともせず、怠惰な時間を過ごす兵士の姿が見られたことだろう。

 冒険者のクセに、とか嫌味も言われて。

「交代要員は来るんですか?」

「はい。一日おきに数人ずつ」

 現在、常駐している兵士はおよそ二十人。

 一日おきとはいえ入れ替わりが激しいのが疑問だった。

 四人ずつだとして長くて五日間滞在することになる。

 物資の搬入や武器の手入れ、現場清掃。備品整理と忙しい。

 これでモンスターが襲って来ようものなら戦場になるだろう。

 程よい忙しさ、緊張感などを維持する上では不思議はないのかもしれない。

「人食い大鬼(オーガ)の一団が見えました!」

 兵士達は作業を止めて武器を手にする。

「数は……五体……」

「モモンさん、行ってくれますか。我々はモンスター退治ではなく、監視が主な任務なので」

「了解しました。ですが、皆さんも戦われるんですよね?」

「数が十を超えれば……。あと、かなり凶悪なモンスターが出た時とかですね」

「了解しました」

「余裕があれば部位を取っておくと臨時収入になりますよ」

「ありがとうごさいます」

 むさ苦しい職場だと思っていたが、兵士達の対応に驚いた。

 こんなに親切にされるものかと。

 何か騙されているんじゃないかとさえ思えてくる。

 俺、カルマは極悪だぞ、と。

 もしかして、悪人に優しい国なのか。

「で、では」

 モモンは外に出て指定された場所に向かう。

 後ろからハムスケとナーベを伴ない敵勢力に顔を向ける。

 頻繁に来る事から評議国側には数万体のモンスターが居て、知性の低いものが王国側にやってくるらしい。

 現場の兵士の任務は往来する人々の安全を守ること。

 だからこそ評議国側からの抗議がほとんど来ない。

 勝手に襲う者は関知しない、ということだろう。

 関所破りする者は王国側で排除してかまわない、という厳しい対応でも取られているのかもしれない。

「ナーベよ。呼吸は苦しくないか?」

「はっ、今のところは問題が無いかと」

「プレイヤーばかりに気を取られた報いかもしれないな。意外な強敵は分かり易いものばかりではないということだろう」

「精進いたします」

「二度と、とか厳しいことは言わない。多くの未知を既知と変えようか。まずはナーベ、魔法で迎撃せよ」

「畏まりました」

 山岳方面から棍棒を持った人食い大鬼(オーガ)の一団にナーベは走りより、魔法を放つ。

 一直線上に居た三体の人食い大鬼(オーガ)達は次々と倒れた。

「違和感が無ければ続けて構わない」

「畏まりました」

「ハムスケは待機だ」

「えっ?」

「いま少しナーベの様子を見るためだ。それに人食い大鬼(オーガ)如きでは準備運動にもならんだろう」

「そ、そうでござるか。いやしかし、ナーベ殿の魔法は綺麗でござるな」

 今のハムスケがナーベの魔法を受けると結構なダメージになるが即死はしない。

 悪くて尻尾が千切れる程度だ。

 ものの数分で人食い大鬼(オーガ)は全滅する。

 一旦、詰め所に戻るモモンたち。

「そういえば聞きそびれていたのですが、モンスターの死体はどうすればいいのでしょうか?」

 と言った後で耳などの部位を回収するのを忘れていた。

「あー、そうでしたね。新たな敵影が無ければ回収班を向かわせます」

「了解しました」

 監視の兵士から新たな敵影の報告がないのでモモンは部位の回収に向かった。

 小さな事だが貴重な収入源だ。

「そのような事ならば私が……」

「細かい作業をすることで見逃しがないかの訓練になる。後でナーベにもやってもらう」

「はっ」

 回収を終えた後は人食い大鬼(オーガ)達の死体を一箇所に集める。それで回収しやすくなるはずだ。

 地味な作業とて侮れない。

 モモンは回収した部位をそのままにしておけば腐ってしまうのではないかと気がついた。

 詰め所に戻って尋ねると失念していたと兵士達は言った。

「『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』は無いよな?」

「無いですね。保存(プリザーベイション)を使える魔法詠唱者(マジック・キャスター)でも居れば良かったですね」

 あいつ(ヤントラ)なら女体目当てに色々と用意するか、とモモンは苦笑する。

 下準備は大切だな、と。

 ならば、とモモンが取る方法は色々とある。

 人脈というものは大切にしておくと何かと便利だ、という証明だ。

「〈伝言(メッセージ)〉……あー、アインズだ。ンフィーレア、今忙しいだろうか? 一つ頼みたい事があるのだが……」

 数分後には色々と物資が届くという結果に。

 女体目当てではないモモンとしては大きな容器は必要としない。

「三日間の仕事に大部隊は来ないだろうから、この程度で充分か」

「殿~、妖巨人(トロール)が二体接近中とのことでござるよ~」

「ああ、聞こえている」

 再生力のある妖巨人(トロール)も耳を切り取るらしいが、そこから復活したら怖いだろうな。

 あまりにも小さい部分だと再生力がある妖巨人(トロール)でも全身を再構成することは出来ないらしい。

 部位を切り取ったら、再生が止まるまで様子を見てから仕舞うのが正しい方法だと聞いている。

「勉強は大事だ。あと、色んな冒険者の意見も……」

 背中に背負ったグレートソードを引き抜き、妖巨人(トロール)を切り裂く。

 細切れにすればいいのだが炎と酸の魔法のスクロールを持ってくるべきか。

 雑魚モンスター相手に貴重なスクロールはもったいないな、と判断した。

「ナーベ、魔法の試し打ちをしていいぞ。妖巨人(トロール)相手にどの程度、効果的なのか調べるのだ」

「畏まりました」

「終わったら回復に努めよ。それ程連続戦闘をさせる気は無いが……。回復手段の確保も大事だ」

「はっ」

 その後、散発的に雑魚モンスターが現れる。

 数としてはエ・ランテルよりも多い。

 ここだけで物凄く強くなれるかと聞かれれば無理だろう、と思う。

 雑魚モンスターを延々と倒したところで数十年くらいはかかるかもしれない。

 聞いた話しではアンデッドモンスターの出現はあまり無いらしい。

 前は物騒なアンデッドが現れたが倒されてしまい、今日に至るまで出てきていないとか。

「赤帽子の小鬼(レッドキャップ)! 数は三っ!」

「モモンさんは戦えるか? 我々は避難させていただくが」

「避難? 倒しに行かないのですか?」

「一部の強いモンスターに対しては避難するように言われています」

「了解しました。我々は大丈夫です」

「よろしくお願いします」

 兵士達が相手に出来るモンスターはどの程度なのだろうか。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)で避難するということなら小鬼(ゴブリン)くらいしか倒せないとか。

 人的被害を出さないようにするにしても逃げるようでは意味が無い。

 ただ、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の強さを知っているのならば仕方が無いかもしれない。

 近場のモンスターの中では死の騎士(デス・ナイト)より強いかもしれないほどだから。

 攻撃と敏捷では赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の方が上だろう。

 色々と分析していると赤い小鬼(ゴブリン)達が斧や短剣を持って物凄い速さでかけてくる。

 モモンの目にはそれ程速い速度には見えなかった。

「ナーベとハムスケ。お前達で迎撃しろ」

「畏まりました」

「任せて下され」

 二人共、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)より強いから大丈夫だろう。たかだか三体。

 第三位階では一撃で倒せないかもしれないが、ナーベは剣が使える。

 ハムスケも色々と武技が使える戦士だ。

 意気揚々とやられたらお仕置きだな。

「〈剛撃〉でござる! あっ、避けないでほしいでござる」

「〈電撃球(エレクトロ・スフィア)〉!」

「倒して構わないからな」

「はっ」

「甘いでござる」

「ハムスケ、武技の名前以外は喋らず戦闘に集中しろ」

「そ、そんなことを言われても……。おっと〈回避〉! 〈超回避〉、でござる」

 染み付いた個性は取れないか。それはそれで仕方が無い。

 戦闘においては少し邪魔な気がするのだが。

 ちゃんと集中できるのか、心配になってきた。

「命の奪い……」

「いいから、戦え」

「ごめんでござる。〈斬撃〉!」

 で、ござると言わなくても出来るじゃん、とモモンは唸る。

 素早いモンスターと本当の意味で死闘を繰り広げるのは訓練では味わえない臨場感だ。

 相手の動きは予定調和ではない。

「〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉」

「アマイゼ」

 ナーベの転移先を読んで防御する赤帽子の小鬼(レッドキャップ)。

「この……下等生物(テントウムシ)が!」

 力押しで剣を奮うが元々が魔法詠唱者(マジック・キャスター)のナーベの筋力は赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の力と拮抗した。

 だが、それは赤帽子の小鬼(レッドキャップ)側にとっては驚くべきことだったようだ。

 人間風情に押し留められるとは、と。

 ナーベが魔法を唱えようとした時、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)は何かを投げつけた。

「がはっ」

 それは細い針状の投擲武器。

 開いた口の中に放り込まれ、魔法が中断してしまった。

「……うむ」

 それなりに賢いモンスターは手数も多いものだなとモモンは感心するが大事な仲間を傷つけられて平静でいられるのも時間の問題だった。

 傷は治癒できる。だが、格下の相手に手傷を負わされるのは面白くない。

「〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉!」

 と、血を吐きつつ魔法を唱えるナーベ。

 第五位階の魔法が飛んでくると思わなかった赤帽子の小鬼(レッドキャップ)はまともに食らって黒焦げになった。

「も、申し訳ありません……。無様な姿を……」

「そうだな。だが、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の弱点を突くのは初歩の手だ。今回はお前の油断だぞ、ナーベ。あー、それからあくまでも学習が目的だからな。色々と学んでいけばいい」

「はっ、では、次の戦闘に……」

 と、続きを言おうとするナーベにポーションが投げ渡される。

「それを飲め。もう一匹くらいは頑張って倒して来い」

「アイテムを使用してもよろしいのですか?」

「よろしいのだ。まだ在庫は豊富にあるからな。スクロールはまだ実験中だから、ということもある」

 というか、さっさと飲めと言いたかった。

 長いやり取りも戦闘にとっては致命的なことなのだが。

 黒焦げになった赤帽子の小鬼(レッドキャップ)から取れそうな部位は見当たらない。

 意外と部位の採取は難しいのかもしれない。

 無敵を誇るナザリックがどの程度、万能ではないかを見極める為だけど仲間が傷つくのは胸に痛いな、とモモンは大きく息を吐きたい気分だった。

 徹底的な対処を取れば無傷かもしれない。けれども、時にはそれが仇(あだ)となるかもしれない。

 無敵ゆえに利用されると手痛い反撃を受ける。

 自分達の弱点を見るには対等な相手と戦うのが一番いいのだが、この世界にそこそこ強いモンスターがなかなか居ないから困った。

 強さで言えばヤントラのモンスターや奴本人と戦えばいいのだろう。それはそれで敵プレイヤーと戦うのと違う気がする。

 あくまでヤントラは教訓としての存在に過ぎない。

 まあ、ヤントラが本気を出しちゃうと戦闘メイドが木っ端微塵になる気はする。

 レベル的にも低いし。

 適度にケガをする方がナザリックの者達の慢心も抑制されるだろう。ここは支配者として我慢するしかない。

 死なない程度の内は温かく見守ろう。

 それは自分のためでもある。

「ハムスケ、いつまでてこずっている。それ程、強い相手ではないだろう」

 レベル的にも充分、勝てるはずなんだけどな、とモモンは首を傾げる。

 動きについて行っているし、攻撃も通っている。

 実戦経験が少ないのが原因のはず。

 本当の戦闘はもっと苛烈だ、ということを知ってほしい。

「殿~! あの施設(屠殺場)のモンスターより手ごわいでござるよ~」

「それが普通なんだ。あそこは無抵抗だから足しになるわけがないだろう」

 無抵抗の敵が手ごわいわけがないだろう、バカかお前と。

「ナーベ、もう一体を二十秒以内で倒せ」

「か、畏まりました!」

 戦闘メイドではなく冒険者ナーベだからてこずっているんじゃないのか、と。

 冒険者でもアダマンタイト級なんだから、さっさと倒せばいいのに、と軽く憤慨するモモン。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の素早さに身体が慣れていない、と言われると文句が言えないけれど。

 ここを乗り越えないと次の段階に行けない。

 筋力が低いから物理攻撃では倒しにくい、ということもある。首をしっかり狙えナーベ。と、モモンは密に応援する。

 ハムスケもそこで武技、とか色々と口には出さないが胸の内で言っていた。

 ここで階層守護者を呼んでいたら身も蓋も無いだろうな、と残念な気持ちなる。

 

 ナーベ達のパワーレベリングによる拠点ポイントの変動を色々と調べておいた。

 オーバー分によって赤い警告が出ると思っていたが使用したポイントに変化が無かったせいか、警告は出てこなかった。

 元々の総合ポイントが増えるわけではなく、使用した後のNPCが獲得したポイントは別物として扱われているのか、表示に変化は無かった。

 通常であればNPCの経験値は一切増減しない。固定数値のままだ。

 パワーレベリングによって一般プレイヤーのように経験値を得る事により、おそらくレベル100以下のNPCは更なる成長が見込めるかもしれない。

 普通にモンスターを倒しただけでは増減しなかったものが、急に経験値を得るようになったのは驚いた。その後、モンスターをいくつか倒させたが経験値は微動だにしなかった。

 ただ、ヤントラからもたらされた『悪用方法』に沿ってモンスターを倒すと経験値が増えていた。

 数値なら何でも良いわけではない。

 自分でも実験すればいいのだが、なかなか前に踏み出せなかった。

 まだまだ実験するには覚悟の要る要件がありそうで怖い。

 ナザリックのオリジナルと原住民と複製によって効果が変わる場合もあるかもしれない。

 もちろんオリジナルで実験など怖くて出来ないが、確かめる必要はあるだろう。

 正攻法では見つけられない方法というものは確かに存在する。

 個人的にはメンバーから色々とアドバイスが欲しい。自分ひとりでは限界があるし、責任を取りたくない、というのが本音だ。

 後々怒られたくないから。勝手に外装増やしやがって、とか。

 あと、レベル100の階層守護者達だけど。こちらは経験値は割り振れるけれど何が起きるか分からなくて、途中でやめちゃったっけ。

 正確にはレベル100で終わりではない。実際にはもう少し経験値を溜める事が出来るのは知っている。そこから1レベルアップするのかが未確認なだけだ。

 『悪用方法』には書いていない。試していないのか、書けない程危険なのか。

 伝える前に殺してしまったから忘れてしまった、ということも。

 レベルアップによる障害が発生するのは怖い。

 限界を超えることで世界全体のレベル上限が引き上げられてしまう可能性があるかもしれない。そうなるとレベル10000の敵が発生しても驚かない。手の着けられない破滅しか待っていないだろう。それもまたヤントラの予見する最悪の未来の一つでもある。

 アイテムで一時的にレベル100を超えることは出来る。実際、神器級装備の自分のレベルは確実に100を超えている。

 この場合は特に問題は無いようだ。というよりはユグドラシルで問題にならない方法であれば転移後の世界にもあまり影響が無いのかもしれない。

 色々と気になることや調べたい事はあるけれど、ヤントラ側の増強分で様子を見ることにしている。

 今から考えるととても恐ろしい事を色々とやっているよな、あいつ。

 自由な発想は見習いたいところだが。

 『システム・アリアドネ』が機能していない今、色々と実験してみたい気持ちにはなるけれど。

 デメリットがとても怖い。

 じわじわ広がる細菌並みに怖い。

 アンデッドで支配者なのに怖い事ばかり多くて困る。意外と小心者なのだなとアインズは愕然とする。

 この先、もっと困難が待ち受けている筈だから免疫はつけられるだけつけたいところだ。

「……正攻法で戦いすぎだ。試合ではないのだ。足を潰せ」

「と、殿~」

 卑怯と言われる筋合いは無い。

 モンスター討伐において綺麗な戦い方をしても報酬は変わらないのだから。

 無駄にケガをしない方がいいに決まっている。

「〈全種族魅了(チャームスピーシーズ)〉」

「オオッ」

 動きを止めた赤帽子の小鬼(レッドキャップ)。既に一体はナーベが撃破しているが、もっと早く使えば良かったのでは、とモモンは頭を抱える。

「〈斬撃〉!」

 素早い尻尾の一撃で赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の首が断ち切られた。

 攻撃は弱くない。当たれば大ダメージだ。

「やっと終わったか。随分と苦戦したな、お前達」

「申し訳ありません」

「まあよい。のんびりと鍛錬を積んで行こうか。三日間もあるのだから」

 一度の失敗で部下を処分しては絶滅してしまう。

 今回は何度も失敗しても折り込み済みと判断する事にしたのだから、色々と学べばいい。

 同時に自分の弱さ、甘さ、判断力の程度も知る事が出来る。

 ここにシャルティアが居ればほぼ一撃で勝負がついてしまい、何の鍛錬にもならない気がする。

 他の戦闘メイドも連れて来たいところだけど冒険者モモンの相棒はナーベだけだから、ちょっと問題になりそうだ。

 女ばかりのハーレムチームとしてヤントラのように変態呼ばわりされるのは勘弁願いたいところだ。

 新たなモンスターの襲来が無い事を確認して二時間が経過。

 レベルが高くとも魔法詠唱者(マジック・キャスター)としては物理攻撃の脆弱性は仕方がないだろう。攻撃力を高める魔法を使えばいいと言われるかもしれない。

 魔法に頼りすぎると討伐に時間ばかりかかってしまう。

 攻守の采配は難しいものだ。

「まずは反省だ」

「……はい」

「はいでござる」

 戦闘において油断は命に関わる。

 反省会を毎回する事になるかもしれないけれど、一つ一つ見つめなおさないと同じ失敗ばかり積み重なってしまう。

 そこはギルド時代を思い出す。

 

 完璧な戦闘は滅多にできるものではない。

 それでも余計な怪我を負わずに無駄な動きをしないように、と色々と知恵を使わなければならない。

 PK術以前の基礎的な部分だ。

 特にハムスケは自分より強大なモンスターでもない相手には持っている技術を効率的に使うべきだ。だが、それらの事柄をアインズは教えてこなかった。

 最終的には支配者が責任を負う形となる。

 責任者としての責務は部下に任せて後方で構えていることなのかもしれない。

 正直、責任は取りたくないけれど。というか、嫌いな言葉だ。

「今は少人数だからいいが、多数の戦闘に関してはまた少し毛色が変わる。対アンデッドもそうだ。……それから記憶にとどめるよりメモか何かに残す方がいい。無駄な事は書類で済ませるように」

「か、畏まりました」

 賢いアンデッドなのに記憶力に乏しいのが難点なんだよな、と残念に思うアインズ。

 忘れる事が多いのは脳みそが無いからでは、と思うことがある。

 ゲーム時代の基礎的な知識はしっかりあるけれど、この世界で起きた事は色々と忘れている気がする。

 種族の特性で人間の見極めがしにくい、とかあるのかもしれないけれど。

「ここに出没するモンスターで先ほどの赤帽子の小鬼(レッドキャップ)が割りと強い部類にあるようだが、もっと強いモンスターも出てくるらしい」

「はい」

 聞いた事が間違っていなければ古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)が現れるという。

 このモンスターはとても大人しいと聞いているから戦わずに退散してもらおう、と思った。

 他には天使系のモンスターがいくつかと槍使いのモンスターが出るという。

「死の大魔法使い(エルダーリッチ)が一体!」

 と、大声で伝えられる。

「今度はハムスケ、お前一人で倒して来い」

「ここに現れる死の大魔法使い(エルダーリッチ)は友好的なものも出ると聞いたでござる」

「元が生者で人間としての残滓(ざんし)が残っていればありえなくはないな」

 だからといって全てをナザリックに持ってこられても困る。

「死者には塵に還ってもらえ」

「りょ、了解したでござる」

「こ、後方にアンデッドの馬と思われるものが一体っ! 充分に気を付けられよ!」

 モモンは偵察隊の元に行き、正体を見極める。

 首があるので首無し馬(コシュタ・バワー)ではないようだ。

「あれは魂喰らい(ソウルイーター)ですね」

 王国の中では相当な強さがあるという伝説的なアンデッドモンスターだ。

 手を出さなければ大人しいモンスターだが、迂闊に攻撃を仕掛ければ範囲攻撃を仕掛けてくる。その攻撃で倒されると蘇生が困難になるという。

「ハムスケはそのまま向かえ。あの馬は私が倒してこよう」

「も、モモンさんお一人で、ですか!?」

 と、驚くのはナーベ。

「お前はメモを書いておけ」

「か、畏まりました」

「敵の数が少ない内に休むのも大切だ」

 そう言ってから地面を駆けるモモン。

 意気揚々と向かって軽くあしらわれてしまったら情けない事この上ない。

 ハムスケは数撃の武技を使用して死の大魔法使い(エルダーリッチ)を撃破。およそ二分以内。

 やればできるじゃないかとモモンは胸の内で賞賛する。

 問題の魂食らい(ソウルイーター)は圧倒的な強者を感じ取ったのか逃げ腰になった。

 無理して確保したいほどの魅力は無いので駆逐しようと剣を構える。すると上空に気配を感じて一歩下がるモモン。

 すると魂食らい(ソウルイーター)を赤い槍が貫いていく。

 伝え聞いた内容が真実であるならば、高位モンスターのはずだ。

 見たことはあるけれど天然ものは初めてかもしれない。

「私の獲物を横取りするのは何者だ?」

 と、凛々しい声が響いてきた。

 魂食らい(ソウルイーター)は今の一撃で粉砕されて消えてしまった。

「何者だ?」

 と、言って見たものの正体はだいたい分かっている。

 女性の声なので影の国の女王(スカアハ)だろう。というか、槍使いで女性はそれほど居ないはずだ。

「我は影の国を統べる者……。影の国の女王(スカアハ)姉さんと呼びな!」

「す、影の国の女王(スカアハ)姉さん……」

「よろしい」

 という言葉の後で地面に降り立つ褐色肌で黒髪の女戦士。

 言い終わる前に槍を奪ったら、どういう反応をするんだろう、と少しだけ意地悪心が動いたが我慢した。

「おやおや、強そうな邪悪な気配だね~。あんた、アンデッドかい?」

「さあ、どうだろうか」

 高位モンスターには幻術や偽装が通用しないものが居る。

 歴戦の戦士であれば尚更だ。

「それよりあんたかい。世界を穢す邪悪なモンスターというのは」

「はっ? 世界をけがす? 具体的にはどういうことなのか知りたいところだな」

「私も詳しくは知らないけれど……。世界を毒で覆う事さ。大地が死ぬ音が私には聞こえる」

 聞き逃してはならない話しかもしれない。けれども、今は戦闘中だ。

 興味が無いと一笑に伏せる議題だろうか。

「これでも自然に優しい国づくりを心がけているのだがな。お前の危惧は人違いだろう」

「そうだといいね。……ちっ、またモンスターの質が変わってきたよ。どうなってんだい、いったい……」

 と、顔をしかめる影の国の女王(スカアハ)。

 周りを見ても異常は見られない。

 モモンの探知は『完璧な戦士(パーフェクト・ウォリアー)』によって今は思うように探れない状態だが、ナザリックからは何も報告は無い。

「強き戦士よ。世界が呪われていくぞ」

 通常の影の国の女王(スカアハ)の目は人間と同じようなものだが急に邪悪な笑みを見せた彼女の白目の部分は黒くなり、瞳部分は赤くなっていった。

 

 黒化。

 

 褐色の肌は人間から化け物らしいくすんだ灰色を帯び始める。

 レベル125の黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)へと変貌する。

「まだ自我がある内に言っておくぞ」

 と、全身を奮わせる黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)。

 それは今、誰かに聞いてほしい遺言(ゆいごん)のようなものに似ていた。

 このままでは自分が自分でなくなるような。

「世界を壊さないでくれ」

 モモンとしては目の前の黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)は呪いによってレイドボス化しているように見えた。

 ユグドラシル時代にもある呪いによる強化。

 一気にステータスが上昇し、圧倒的な力を得る代わりに暴れまわる。

 暴走状態に陥る。

 危険と判断したモモンは『伝言(メッセージ)』にて階層守護者達を呼ぶ事にする。

 辺りに被害が出るかもしれないし、一人で倒せるとは限らない。

「……生き残って世界を救ってくれ……」

「了解した。このモモンに任せてもらおう」

 『転移門(ゲート)』がモモンの後方に開き、現れたのは漆黒の全身鎧(フルプレート)をまとうアルベド。その後からはコキュートス。

 更に、そのすぐ後にアウラと完全武装のシャルティアが出て来た。

「も、申し訳ありません。マーレは遅れてきます」

「よい。それより気をつけろ。ハムスケ」

 と、呼ぶと二メートルの巨大ハムスターは意気揚々と走り寄ってきた。

「現場は放棄した方がいいかもしれん。避難誘導を任せる。ナーベと共に行け」

「と、殿はどうするでござるか」

「ここで奴を食い止める。これは訓練ではない。世界の危機だと思え」

「いい判断だ」

 と、地獄の底から響いてくるような声を出したのは黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)。両目から赤い血が垂れていた。必死に耐えているのかもしれない。

「悪いが、何人か死ぬかもしれない。そういう覚悟で望んでくれ」

「承知イタシマシタ」

「世界級(ワールド)アイテムを使わずに倒せたらいいが……。シャルティア、出来るだけMPは温存しろ。無理かもしれないが、初手から出し切るな。相手の出方をうかがえ」

「畏まりました!」

 通常のレイドボス戦は複数のチームで当たる。

 それぞれ命令系統が分かれているから意思疎通はとても大事だ。

「最後に聞きたい。世界を救う方法は……、もしかして空に浮かぶ施設を破壊すればいい、というものか?」

 黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)は迷い無く向けた顔の先には『万魔殿(パンデモニウム)』がある。つまりは所在を把握している、またはたまたまか。

「あれは関係ない。だが、……滅びはとても近いところにある」

 赤い槍をモモンに向ける。

「今より数年後に現れる者を倒してみろ。そうすれば世界の理(ことわり)が現れるかもしれない」

「なに? 今すぐじゃなくて数年後?」

「……私に分かるのは……、言えるのはそのくらいだ。詳しく言えなくて悪いな、強き戦士達……。後は……、頼んだ」

 にこりと微笑む黒化・影の国の女王(ニグレド・スカアハ)。それはとても美しい笑顔だった。

 その後すぐに顔にヒビが入り、血が吹き出す。そして、その血が禍々しい外皮を形成していく。

「この私に依頼したのだから、無下には出来ないだろう」

 死の支配者(オーバーロード)なんだけどな、とモモンは思った。

 だけど、世界の危機と聞いて無視することは出来ない。

 この世界を統べるのはアインズ・ウール・ゴウンなのだから。

 

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