ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
顔が血で出来た仮面に覆われる。
レイドボスと化した
その凶悪なまでの邪悪な波動は今まで出会ってきたモンスターの中でも飛びぬけて強かった。
本当の高位モンスターとはこういう存在なんだろうな、とぼんやりとモモンは思う。
色んな敵と戦ってきたモモンことモモンガにとっては
「ア、アインズ様、なんかヤバそうですね」
アウラの言葉の後でマーレが現れて『
「お、遅れて……うわぁ……」
「デミウルゴスは仕方が無いとして、それぞれ散開しろ。敵は強大だ。
「うえぇ!? それほどですかぁ!」
「我々の世界ではありふれているんだがな」
「さ、さすが至高の御方……」
それでも勝つか負けるかで言えば五分五分だろう。
レイドボスはそれほど強いのだから。
たまに複数で襲って来るものも居るから油断は出来ない。
この
その
見るからに凶悪。でも、欲しい。でも、倒すと確か消えたりするんだよな、と残念にも思う。
「アルベドとシャルティア。まずは前衛を任せた。マーレは決して前に出るな」
「畏まり、ました」
「アウラ、お前は援護だ」
「了解しました」
「コキュートスはスキをうかがって自己判断で攻撃を仕掛けろ。ただし、
「長期戦デゴザイマスカ?」
「そうなるだろう。避難が終われば私も本来の姿で戦いに参加する」
「畏マリマシタ」
素早く命令を下した後、戦闘を開始する。
レベルが一気に跳ね上がる相手だ。
現存戦力でも勝てるか不明だ。
デミウルゴス不在と言うのは痛いかもしれない。
それはマーレに一任しておく。
「ウガァァ!」
理性を失った獣のごとく咆哮する
シャルティアの神器級アイテム『スポイトランス』で攻撃を受け止める。
手の感触から敵は硬いと判断。
「ブウ」
槍を力任せに振るだけで衝撃波が広がる。それをマーレが防御魔法にて防ごうとするが突破された。
「ええっ!?」
「そんな程度で驚くな。……って無理か……。お前達はレイドボスと戦った経験が無かったな。お前達が本気でもあっさり負ける程度だ。それくらいの気持ちでかかれ」
「そ、それほどまでに……。でいや!」
アルベドがバルディッシュを奮うが軽くいなされる。
シャルティアの攻撃も足技で器用に受け流される。
「オオ、コレホドノ強者トハ」
「や、ヤバイでありんすね……。弱者ばかり相手にしていたでありんすから……。身体が……」
「そうだろうシャルティア。強者とはそういうものだ。お前より強いものなど
レイドボスなら破格の強さがあるから、十人でも足りないかもしれない。
瞬殺はされないだろう。全員レベル100だし。
簡単に殺されてはナザリックの程度が知れる。
敵の一撃は重い。見た目には
「どういう身体をしているのかしら」
「レイドボスは見た目で判断できない強さがある」
「殿~! 避難は終了したでござる~!」
爆撃の如き攻撃で地面に穴が空いている。こんな調子では
監視の魔法などは無いようだから、ここからは冒険者ではなく、ナザリックの支配者として行動する。
戦士化を解いて改めて感知魔法を唱える。
アウラにもスキルを使って探らせた。戦闘中だが。
「だ、大丈夫だと思います」
「シャルティア、一旦下がってデミウルゴスと
「畏まりました」
アルベドが敵を押し留めている間、コキュートスが攻撃を仕掛けていく。
高速治癒が早すぎる。
普通の攻撃しかさせていないから当たり前だけど。
だが、攻撃はちゃんと通っている事は確認した。
「手ゴワイ……。アインズ様、
「ダメだ。楽して倒せる相手ではない。もう少し相手に技を出させろ」
本来なら囮役が色々と頑張ってくれるのだが、今のメンバーで使い捨てに出来そうなのが居ない。
ヤントラを呼べば色々と出来そうな気がするけれど。
いや、これはナザリック地下大墳墓の戦いだ。
現存戦力のみで打破しなければ成長はありえない。
「お待たせいたしました」
『
「
指示を受けた
「デミウルゴス。緊急だが、お前にも頑張ってもらうぞ」
「畏まりました。……なにやら強敵が居るご様子……、何なりとお命じ下さい」
「アルベドとコキュートスの為に魔法で援護しろ。迂闊に近寄るな。特にあの槍は危険だ」
「畏まりました」
「お前もスキを見て物理攻撃を許すが、すぐに離れろ」
「『ヒットアンドウェイ』でございますね」
「隠し玉を持つボスは怖いからな。それに……、一気に殲滅できるような相手ではない筈だ」
咆哮をあげつつも守護者達と互角以上に渡り合う敵。
それを単なる雑魚と侮る事は出来ない。
時止めスキルを使うと相手に攻撃が出来なくなるおそれがあるから、その方法は取らない。
即死攻撃をする敵に即死攻撃が通じるとも思えない。無駄なMPは消費したくない。
超位魔法は最後に使う事になるだろうけれど、多少は味方を巻き込むことも考慮しなければならないだろう。
「神器級はそう簡単には壊れる事はないだろうから、シャルティアよ。思いっきり戦っていいぞ」
「は、はいでありんす」
既に思いっきり攻撃している。幾分かHPは回復できるが増える以上に減らしてくる。
一撃のダメージ量が多い。
「……しかし、なんなんでありんすか、こな敵は!」
「無駄口叩かない!」
アインズは状況を見ながら魔法を使うタイミングを練っていた。
援護と言っても意味もなく『
ここにウルベルトが居れば阿鼻叫喚の仲間割れが、とか昔の事が思い出される。
使い勝手の悪い
ペロロンチーノのような遠距離攻撃主体はタイミングの取り方が難しい。
特に今は
玉座の間でしかコンソールが出せないように『フレンド』登録の項目がログアウトのボタンと同じく消失してしまっている。尚且つ、登録した全てが解除状態だ。だから、味方に範囲攻撃が当たってしまう。
「……中位アンデッド作成」
盾役のモンスターを一体、呼び出す。
全体攻撃か局所攻撃か。
「防御!」
「はい!」
アインズの命令にマーレが答える。
「ガァ!」
凶悪な槍が近くに居たアルベドに投げられる。
「甘い! スキルで跳ね返せ!」
投擲武器であれば跳ね返せるはずだ。
アルベドは
「ミサイルパリー! カウンターアロー!」
時間を巻き戻すように槍が逆方向に向かって飛んでいき
「……うむ。そろそろ自分や相手の立ち位置を把握したか?」
数分とはいえ、
「まだ分からないなら、もう少し戦っていてくれ」
カン。ガン。ゴッ。
様々な擬音が聞こえてくる。
盾役のモンスターは既に粉砕されてしまった。
普通なら
割りと戦いにくい相手だ。
物凄く強い
「アウラ、魔獣は呼ぶな。蹴散らされるだけだし、邪魔だ」
「はい!」
細かい指示を飛ばすが今のところ敗北の色は見えない。
押し切れるか、と言われれば難しいとアインズは答える。
単なる攻撃しかしないレイドボスは存在しない。
善戦しているようだが、相手はまだまだ余裕がある。
畳み掛ける欲さえ出さなければ大丈夫だろう。
「〈
黒き炎が
全てのステータスが跳ね上がっている相手だ。多少の属性攻撃はものともしないかもしれない。
あまり弱点が無いので長時間の戦闘になりやすいのも特徴だろう。
シャルティアに余計なMPを使わせるわけにはいかないのでセバスは諦める。というか忘れていた。
「強いモンスターは見ごたえがあるな、やはり……」
「こちらの攻撃は通っているはずなのですが……」
「雑魚ばかり相手にしていたから油断が生じているのかな。少しはお前達自身で戦況を見極めても良いのだぞ」
「……これは手厳しいお言葉……。普段からアインズ様のお言葉を守っていれば油断など……」
「あ~、硬い。強い。こな敵が居るとは思っていんした……」
「ぐっ……。たかがモンスター一匹に我等がここまで苦戦するとは……」
「レイドボスともなれば、当たり前だ。それでもまだ弱い方に私には見えるがな」
「なんと!」
全盛期のアインズ・ウール・ゴウンでさえあっさりと全滅させられるモンスターは意外とたくさん居る。
しっかりとした下準備と攻略方法を練るのが普通だ。
対プレイヤー戦と違い、情報の読み合いはあまりしなくていいが、耐久力のある敵はなかなかに手ごわい。
「……シカシ、
「ヒャアァァァ」
赤き槍を振り回す
その身に黒い炎がまとわりついていく。ただし、これはアインズの魔法ではない。
大したダメージでもないのに特殊な攻撃はまだ来ないとアインズは予想していた。
世界が壊れる。
それは見ている範囲なのか、世界全体なのか。
魔法が解呪された時のようにガラスが砕けるような効果エフェクトが周りで起きた。
「ハアァァァ!」
「変身した!?」
女神だった
レベル150の真のレイドボス。
虚空より現れるトゲトゲの植物の
「ガアァ!」
元々が女神であった頃の美しい声音は無く邪悪でおぞましいしわがれたな咆哮。
シャルティアが迎撃するも押し返された。
続いてコキュートスの一撃が切り込まれはするのだが、強引に弾かれる。
「……うぅわ……、見た目だけってわけじゃないみたいね」
アインズは胸の内で冷や汗をかいていた。
これ、ヤバイんじゃね、と。
切り札としてヤントラを呼びつける計画を残し、出来るだけ作戦を練る。
アルベドの防御スキルは多用できない。
「緊急事態だ。アルベドよ『
「は、はい」
疑問を挟み込む余地は無いと感じたアルベドは実行に移す。
相手は更に速度と攻撃力を上げて襲ってくる。それを懸命に捌く守護者達。
「こんな敵は多くは出て来ない。落ち着いて対処すれば光明が見えるはずだ。どんな敵も倒せなくては世界の危機だからな」
そう。世界の危機だ。
こんなモンスターが都市部にやってきたら一瞬で焦土と化すだろう。
黒い仔山羊に怯える市民や兵士達のように。
ヤントラはそれを防ぐ為に色々なものを用意したのだろう。
想定外の規格外モンスター。
普通ならばこんな災害級モンスターが現れれば討伐隊が来そうなものだが、それはそれで願ったりだ。
敵性プレイヤーを炙り出す、という点では。
他のプレイヤーに気を取られて全滅しては元も子もない。
こういう敵にも勝てなければ長い統治など出来ないだろう。
他にも気がかりはある。
高レベルモンスターのレイドボス化だ。
特定の条件があるはずだが、それを見つけるのも冒険の醍醐味かもしれない。
一つだけ安心できる点は『
ムカつく人間の施設ではあるけれど、不思議と安心した。
「ここで
「そ、それなりに……」
「アインズ様のご命令であればっ!」
「イツデモゴ命ジ下サイ」
アルベドは
絶対に破壊されないし、劣化しない優秀なアイテム。
様々な形態に変化させられる。
対モンスター戦において攻撃には特化していないので、有効的なダメージは期待できないのが残念な点だ。
少なくとも凶悪なゲイ・ボルグを防ぐ上では役立っている。
防御をアルベドに任せてシャルティアとコキュートスが迎撃する。
「……わぁ、素早くて回復も早い……」
「臆スルナ、シャルティア」
「このようなモンスターと至高の御方々は戦われていたのですね」
それはそうなんだけど、嫌な予感がするアインズ。
変身するとは想定外だった。
激闘ゆえに戦闘時間が長く感じるが、まだ一時間も経過していないはずだ。
それなのに辺りは穴だらけ。守護者達も土ぼこりにまみれて、と思ったけれど行動阻害防止アイテムとスキルなどのお陰か、一部の者は汚れ一つ無い姿だった。
臨場感が台無しだが、今はそんな事を指摘している場合ではない。
少なくとも後、2チームほど欲しい。
レイドボスは複数のチームで討伐するのが基本の強敵だ。それを1チームだけで倒さなければならないのだから苦行以上の何者でもない。
ワールドエネミーは更に強い、とみんなに言ったらどんな顔するんだろうな。
立ち居振る舞いからそろそろ頃合だろうか、とアインズは一つ頷く。
「マーレ、治癒が必要な者は居るか?」
「お、おそらくアルベド様が必要かと」
アインズはアイテムボックスからポーションを取り出して、無造作に中身をアルベドに振り掛ける。
「皆の者、それぞれ仲間に攻撃を当てないように
「畏まりました!」
「勝利を御身に捧げます!」
「御意!」
それぞれ元気よく返事を返す。
周りを取り囲み、存分に強力な攻撃を叩き込む。時にはマーレの補助を受けながら。
アインズも巻き込まない程度の魔法を打ち込む。
指示と攻撃を同時にこなすのはユグドラシル以来の荒行だ。だが、悪くないと思った。
ちょっと世界を滅ぼす力を行使しているけれど、緊急事態だし、不可抗力として周りの国々には黙っていてもらいたい。
もちろん、隠し通すことは難しいだろう。
これはこれで敵性プレイヤーを炙り出す作戦だと開き直れば耐えられる。
こちらにはまだまだ隠し玉がある。
多少は投資だと思って諦める。
「……あとで地面を補修してくれ……」
「……畏まり、まし、た……」
穴をあけたまま、さようなら、は不味いだろうから。
ブチッ。
いきなり嫌な音が聞こえた。
見ればアウラの腕が食い千切られたところだった。
獣そのものの攻撃に転じている。
「だ、大丈夫です!」
「なら良し」
普段ならケガを治せ、と命じるが今はそんなことは言っていられない。
コキュートスの攻撃を連続で食らっているはずなのに平然としている。
無傷ではないだろうけれど、体力がかなり多いのだろうか。
それぞれの完全耐性も突破されている気がする。
それはアインズにとっては
高レベルの守護者達が苦戦する相手はこちらの世界に来てから初めて見る。
レイドボスという普通のプレイヤーよりも実は強いモンスター相手なのだから仕方が無いのかもしれない。それでも健闘している彼らはゲーム時代よりも動きが良い気がする。
というかゲーム時代のNPCの事はほとんど知らないアインズ。彼らの創造主の事はよく知っている。つい混同してしまった。
ただの盾役NPCではない。
小難しい面倒な命令をしなくていい分、頼れる仲間だと思える。
ちゃんと自分たちで判断出来るようだし。
「……ふふ。ふははは。いいぞ、お前達。私はとても……、嬉しい」
「あ、アインズ様?」
「こんな時に笑われるとは……。さすが至高の御方……」
「本来はもう少し多人数で当たらなければならないのだが……。よく善戦している。素晴らしいぞ。……死なせてしまうのが勿体ないのだが……」
「お気になさいますな」
「死しても復活させる。今はお前たちの命、無駄に使わせてもらう」
「勝利を
ほぼ同時に守護者達は言った。
もちろん、アインズも見物ばかりしているわけではない。
合間に第十位階魔法を打ち込む。
大技は発動まで時間がかかる。コキュートスはそれらでは非効率的と判断し、連続でダメージを与える戦法を採る。
アウラも片腕ではあるけれど、仲間の補助に回り、マーレが代わりに攻撃魔法を放つ。
第九位階『
大体範囲魔法が多いかもしれないので魔法の選定に時間がかかっている。
嵐とか岩の雨とか。
補助が二人いるだでも物理攻撃担当にとっては少し楽になる。
セバスもやはり必要だったかな、とアインズは思う。
第七位階『
それぞれ盲目に耐性があるのか、少しだけ眩しいだけで済んだようだ。
レイドボスは色々と優遇されているので多少の事では動じない。だが、それでも弱点はある。
膨大な能力によって効果が無い様に見えてしまうだけだ。
無属性で思い出すのはラキュースの持つ真・魔剣キリネイラムという大剣だ。
ああいう武器でチクチクと攻撃し続けるしかない事もあるだろう。
「〈
「〈
「やはり、硬いな……。相手が大人しくなった時は気をつけろ! 範囲攻撃の恐れがある!」
大抵は何回か決まったダメージ量になるとレイドボス特有の凶悪な攻撃が飛んでくるものだ。
三回ほどHPが満タンになるスキルとかは嫌になる。
回数制限のあるスキルを使わせるのも戦法の一つだが、シャルティアのスキルは出来る限り温存したい。
「シャルティア、アウラはセバスと交代させよ。アウラよ、腕を回収し、治癒して来い」
「えっ? ……はい」
「交代させる理由は後で教えてやる。とにかく、今はお前が邪魔だ」
アインズは厳しく言った。
これがゲーム時代でも同じだろう。
『
攻撃に特化したシモベの残りはガルガンチュアくらいだが、三十メートル級のゴーレムにレイドボスは相性が悪いだろう。
大群相手なら有効なのだが。
『ルベド』を連れてくるのは少し不安だった。戦場をかき乱すのではないかという恐れからだ。
それにチームとしての付き合いも浅いだろう。急に新キャラが加入しても意思疎通がうまく出来なければ意味が無い。
現れたセバスに簡単に状況を説明する。
「手加減はしなくていい。多少の攻撃を受けるかもしれないが、それは無視してもらうぞ」
「畏まりました」
チームプレイの時の
命令一つで大惨事になるのだから。
素早く近づき、重い一撃を見舞うセバス。
即死攻撃が来ないとはいえ、相手は一撃が重い。普段以上のダメージを受けてしまう。
雑魚相手なら避けなくても良いのだが、今は普通に骨折するほどだ。
シャルティアでさえボロボロにされている。
高速治癒で傷跡は目立たないが。
「なんという化け物でありんすか!」
「八つ目ウナギのあなたに言われては相手が可哀相よ」
ヘルムに大きな傷を作るアルベドが皮肉を言う。亀裂から血が垂れている。
気分的な余裕も戦闘には必要だ。
絶望を持たない限り、アインズ・ウール・ゴウンに敗北は無い。
「悪魔の諸相:豪魔の巨腕」
デミウルゴスの腕が空気で膨らませたように膨らむ。
大きくなった腕で乱暴に殴りつける。その攻撃で何本かの槍が腕に刺さる。
「大振りの攻撃では分が悪いか……」
痛みで怯まず、冷静に分析する悪魔のデミウルゴス。
セバスは相手の攻撃を最小の動きで避けつつ拳で殴る。
敵は空を飛んだり、口から炎は出さないが素早く、力強い物理攻撃と複数の槍で攻撃してくる。
槍で受けた傷は治りにくい。
継続ダメージだと受けた者達は理解していく。
「レイドボスに敗北は出来ないが、相手が相手だ。敗北は恥ではない。だから、遠慮はするな。アウラのように入れ替えれもする気でいるから多少の無茶も許そう」
「畏まりました」
「今回に限って戦闘メイドは全く無駄だ。居るだけで邪魔になる。他に気になる点があれば遠慮するな」
「い、いえ。歴戦の経験者の意見に従います」
「部位の搾取や武器の奪取は今回に限っては無駄だろう。たとえ奴でも勝てる見込みが無い限り、攻撃の手を休ませる事はないだろう。敗北は世界の終わりと知れ。我等の敗北はただの一国の敗北とは訳が違う」
普通のレイドボスなら敗北しても現場から動かない気はするのだが、平地に現れる厄介なモンスターを野放しにするのはアインズとて怖い。
「防御ばかりで悪いなアルベド。セバス、足も狙え」
「仲間が密集していると範囲魔法が使えませんね」
「かといって攻撃の手を休めると高速治癒で回復してしまいます」
出来る限り止め処も無い攻撃が望ましいが、大きな一撃が欲しい。
「コキュートス。我々が魔法攻撃している間に大技の準備をしてかまわない。チマチマ攻撃しては時間ばかりかかる。数撃ほど様子見で使え」
「畏マリマシタ」
大太刀『
放つは居合い系の一太刀。当たれば大きいが発動まで時間がかかる使いどころが難しい技だ。
レイドボスとて回復量には限界がある。既に何割かは減っている、はずだ。次の大技で相手に変化があるかもしれないとアインズは予想する。
それでも複数の連続攻撃を可能とし、階層守護者で取り囲んでいるにもかかわらず、余裕を見せている。
もちろん、こちらの攻撃もいくつか通っているが休まる暇が見つからない。
多少の課金アイテムも使いたいところだが、それは最後の切り札に残したい。
補給要員として戦闘メイドを控えさせたいけれど、弱い方に行ってしまうと簡単に蹴散らされてしまうおそれがある。
それだけで攻撃回数を無駄にするだろう。
「相手の敏捷の方がまだ高いか……」
「……コキュートスの技にそれぞれ自己判断で避けよ。〈
三本の黒い剣がレイドボスに突き刺さる。
「〈
「〈
容赦の無い魔法と物理攻撃の雨にも敵は怯まない。
特殊な魔法や技を使用しない分、後が怖いけれど減らせるだけ攻撃を加えていく。
両手に持つ槍の効果便り、ということもある。
両手だけではなく身体から打ち出される分もあるけれど、それらはデミウルゴス達に弾かれたり、叩き落されたりする。
広範囲即死魔法が使えないけれど、局所的なダメージは与え続けられている。
ナザリックが総力を挙げても勝てる気がしない。それが強敵と言うものだ。
自分たちが敵と思って探しているプレイヤーもこれくらいは強い、と想定している。
転移やアイテム、人数なども関わってくるけれど。
「クソが!」
怒りを
低位の魔法では邪魔以外の何者でもない。だから、他のシモベも呼ぶに呼べない。
一対一で勝てるような相手ではない。それははっきりと分かった。
序盤でスキルを使わせ無くて良かった、と今は思う。
階層守護者の何倍も強い。
防御魔法を平然と突破する物理攻撃。
普通の人間なら数秒でミンチだ。
黒い仔山羊に潰された方がまだ形が残っている可能がある、と言ってもいいくらいだ。
デミウルゴスは血だらけだ。色んな色に服が染まっているけれど。
セバスも服がボロボロになってだらしなく見える。
シャルティアの鎧も半分近くが砕けている。
後方支援のマーレと魔法しか使わない自分くらいだろうか、無事なのは。
コキュートスも気が付けば腕が一本もげているし。
アルベドはヘルムが歪んでいて顔が腫れ上がっているのかもしれない。
前が見えているのか分からないくらいだ。というか、誰か治癒してやれよ、可哀相に。
と思ったが、ポーションを持っていた事にすぐ気付き、中身を振りかける。
みるみるヘルムの形が元に戻っていく。
防御担当とはいえ酷い使い方をしている。
それぞれ攻撃している合間に『
荷物運びなら戦闘メイド達にも出来るだろう。ついでにアウラの回復状況も聞く。
第十位階の連発によりシャルティアのMPの消費が激しいだろう。ペストーニャとルプスレギナの待機も命じる。それと回復アイテムの用意も。
「オ待タセシタ。
不動明王の持つ
煩悩を焼き尽くすと言われる攻撃に対し、レイドボスは複数の槍で対抗。そのスキにセバスとデミウルゴスが巻き添えを覚悟に左右から挟撃。更に次の明王撃の準備に入る。
アルベドもバルディッシュで様子を見ながら仕掛けていく。
頭からかち割られる形で攻撃を受けても動きは止まらない。
弱点らしいものが見当たらないので、コキュートスは次の攻撃に入る。
その間にシャルティアのMPが充分か尋ね、マーレの補助の様子を確認する。
長期戦は覚悟していたがいきなりの実践はなかなか大変だった。
仲間内なら色々と想定しているだろうけれど、今回は全てNPCだ。
ユグドラシル時代でもプレイヤー以外で傭兵などを引き連れる事はあるけれど、三体ほどが限界だ。
慣れたとしても十体は無理だろう。
なのでそれぞれ自我を得ている今は少しありがたかった。ちゃんと自分達の様子を見て、それぞれ動いている。
アインズは大まかな命令をするだけだ。
『父上っ! 準備が整いました』
と、元気よく連絡してきたのはパンドラズ・アクターだった。
アインズ自らが作り上げたNPCなので『父上』というのは間違っていないのだが、気恥ずかしいものがある。
『入れ替え準備も万端です!』
「うむ。もう少しで『
『心得ております、父上っ! ただ一言、ご命令くださればいいのです』
「……そこでオーバーリアクションはしていないだろうな? 今は緊急時で見逃すが……」
『おっ……』
「おっ、てなんだよ。まあ良い」
まだ一度も範囲攻撃や特殊攻撃が来ない。それは少し奇妙ではある。
大抵のレイドボスはただステータスが膨大な敵というわけではない。
専用
それは例え完全耐性を持つものにすら効果を発揮する
戦況を平然と覆す事も強敵たるゆえんだ。
「コキュートス、連続で攻撃して構わん」
セバスに回復ポーションを振りかけたり、魔法で援護したりとアインズは忙しく動いた。
マーレに守護者達の補助を任せる。
相手に
行動阻害は仕方ないとして、あらゆる攻撃をものともしないとは。
普段の逆の立場に立たされたような気分だ。
圧倒的強者とはどういうものか、アインズは思い知る。
たった一人でレベル100と渡り合うのだから。
普通はレベル100のプレイヤーでもこうはいかないけれど。
「……こんな敵が他にも湧き出しては困るな……」
全ての
あれらは確実に
自分たちはまだ世界を知らない、ということかもしれない。
「キャアアアァァァ」
魔獣が金切り声を上げた。
人間が居れば何らかの精神攻撃を受けそうな気配がするがマーレがしっかり防衛していた。だが、完璧ではなかったのか、涙を流している。
恐怖でも受けたのだろうか。
完全耐性を無効化するような攻撃ならば咎められはしない。
相当な攻撃を仕掛けて三分の一だけだったらがっかりするところだ。
「防御体制っ! アルベド、スキルで耐えろ」
「畏まりました!」
そう命令したものの耐えられそうな気配がしない。
一日に三回まで超位魔法すら無効化するほどの絶対防御とはいえ相手はレイドボスだ。
どこまで効果があるのか不安ではある。
アインズ達は魔法効果が及ぶ場所まで後退する。
特にシャルティアとマーレは死なせるのはまだ早い。
「アルベドよ、ギリギリまで攻撃せよ」
黙って待っていると回復してしまうので。少しでも減らしておくに限る。
治癒魔法を使っていないところを見ると高速治癒も極端な回復量があるわけではないようだ。
一度の攻撃で倒さなければならないほどバカみたいな回復量なら無敵キャラと変わらない。
それこそルベドを投入する事態だ。
ギルドメンバーが居ればもう少し派手で強力な技が見られるのに。
援護に超位魔法とか。
無いものねだりしても仕方が無い。
咆哮を終えた
世界に終焉をもたらす極大
自らを魔槍ゲイ・ボルグと化し、標的を追い回しながら辺りを破壊しつくす。
一度、放たれた極大の赤き槍は軌跡のみ残して飛翔する。
それは美しき花を彩るように。
ガン、ガン、ガン、ガン、ガン。
ガン、ガン、ガン、ガン、ガン。
ガンガンガンガンガン。
ガンガンガンガンガン。
ガンガンガンガンガン。
ガガガガガガガガガガ。
ガガガガガガガガガガ。
ガガガガガガガガガガ。
ガガガガガガガガガガ。
ガガガガガガガガガガ。
ガガガァァァ。
アルベドに当たる速度を増しつつ、数える事もできない。
周りに爆撃の魔法でも放たれているのか、衝撃波なのか、地面が吹き飛んでいく。
防御体制を崩せばアルベドは原形をとどめないほどに粉々にされるのではないかと。その
相手を殺しつくすまで止まらない、というのであれば敗北は必至。
そこまで凶悪な攻撃では困る。なので今の内に『
「一般プレイヤーはあそこまでは出来ないだろうが、よく見ておけ。自分達の強さの程度を」
「……はい」
「我々は慢心で身を滅ぼすかもしれない。このような強敵が居てくれる事は案外、よい教訓となるだろう」
このような化け物じみた攻撃を前にしてアインズが落ち着いた言葉を言うので守護者達は驚いていた。
至高の存在はこのような攻撃にもうろたえていない、ということに。
アインズとしては『うわぁ、アルベトのやつ、大丈夫かな。下手すりや、木っ端微塵も』と色々と心配していた。
理不尽な攻撃と言うのはアインズにとっては珍しくない。
敗北経験があるから、とも言える。
レイドボスの極大攻撃は普通にメンバーを全滅させられるほどだ。もちろん、蘇生アイテムなどを常備するのは基本だ。
今回は都合のいいアイテム無しでどこまで出来るのか、興味から無理を押している。
複製の報酬で切り札投入も残している。だから、アインズは余裕だ。起死回生の手法はいくつも持っていなければ無茶な戦いなどしたりしない。
いつも無傷の戦いばかりではない。これは自分への試練でもある。世界の危機に対応する訓練も必要なんだろうな、とぼんやり思った。自分たちは強者だ。だから慢心もする。それで大きな失態を犯すのは火を見るより明らか。大被害も想定できなければ今後の活動にも影響が出るだろう。
考え事をしている間に攻撃が止みつつあった。
百撃で止まるかと思っていたが、けっこう長く続いていた。防御に
攻撃が止んだところを狙ってアルベドの下に行き、治癒のポーションを使う。これはナザリック内で生産できるので失っても惜しくない。瓶一本金貨一枚のコストがかかる。だから、空瓶はちゃんと保管する。
「攻撃終了時を狙い、再度の攻勢に出る。あの攻撃は後二回ほどあるかもしれん。アルベド、次は更に強力かも知れない。その時、お前は死ぬ可能性があるが覚悟はいいか?」
「余計な心配ですわ、アインズ様。あなたを守れるならば命など惜しくはありません」
数撃の後で攻撃が止んだ。
冷却期間というやつだろうか、
身体から煙が立ち上る。だが、それを悠長に見物などしない。
攻撃の準備を終えたコキュートスが雷属性を持つ大太刀『建御雷八式』で強力な一撃を見舞う。
防御し切ったアルベドにすばやくペストーニャが『
ルプスレギナは他の階層守護者たちの治癒をして撤退する。
撤退した後はMPの回復に努める。
アウラはペロロンチーノの武器『ゲイ・ボウ』という弓で援護射撃。打ち出す矢は魔法そのものと言われている。なので魔法に対する防御魔法で簡単に防がれてしまう。
大技を使った今の敵は動きが鈍いし、魔法的な防衛もしていないようで、簡単に当たっていく。
アルベドは『血ヲ啜リ肉ヲ喰ウ』という無骨な斧に装備変更し、叩きつけていく。
指示を出し終えたアインズも攻撃魔法を唱えるのだが、途中でやめて魔力譲渡を受ける事にした。
回復量はそれほど多くないが、パンドラズ・アクターに色々とスキルを使わせてみる。
全体的に八割程度に落ち込んでいるとはいえ、強力なスキルや魔法は見ごたえがある。
あまり調子に乗ると『
攻撃を再開する
純粋なモンスターであれば決まった攻撃方法を取りがちだ。だから、それは珍しくない。
槍から体術に変更し、魔法も使い始める。
HPが減れば減るほど手ごわい攻撃に移る。
最終的には手に負えなくなるが、そこは残った力を振り絞るように対応するしかない。
「もう一撃来るかもしれない。慌てず落ち着いて、相手の動きを見ろ」
本来なら魔獣を呼ぶところだが、相手が悪いアウラは地道に弓で攻撃する。
「先ほどのスキルを連発してくる可能性はありますか?」
「普通ならば無い、と答える。だが……、瀕死になった時は何をしてくるか分からないものだ。しかも、スキル発動中にダメージを与えられない」
全てのスキルが発動中は攻撃出来ない、ということはない。
狙いがつけられなかっただけだ。
「アルベド。まだスキルは使えるな?」
「もちろんでございます」
「シャルティア、そろそろスキルの用意をしておけ」
「畏まりんした」
総力戦までそう時間はかからない気がした。
一体でここまで苦戦するのだから、大勢のプレイヤー相手に自分たちはどこまで抵抗出来るだろうか。
ギルドメンバー不在。
NPCのみ。
千人単位は想像したくないが、レイドボスを手持ちの戦力だけで撃退出来れば気分的には楽になれそうな気がする。
少なくともレベル100、20人分くらいはあるんじゃないだろうか。
いや、36人か72人分か。
後者であれば結構安心感がある。
ナザリックのトラップとか総動員できない平地での戦闘だから、各守護者による人数減らしが出来ないのは痛い。
ナザリック地下大墳墓の恩恵は大きいんだな、と今さらながら感心した。
今さらだが、アルベド一人で耐え切ってくれた事は大いに助かった。戦力の温存と言う観点からも優位性が増す、というものだ。
あと、
前面で盾役になる人、ありがとう。
というか、まだ倒せないのかよ、と。