※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-13 全滅に等しい敗北感

 相当な強度なのか体力が異常にあるのか。

 未だに倒しきれない敵は改めて脅威だと思う。

 そろそろ超位魔法の選定もしなければならないだろう。

 マーレのMPもだいぶ減っているだろうし。

 冒険者相手なら戦闘メイドで事足りるのに、と。

 『転移門(ゲート)』を頻繁に使うのも非効率的だ。

 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を持っていれば少しは楽かもしれないが、破壊される可能性が高い。

 攻撃の面からも混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)は確実にギルド武器を壊しそうだ。

 というか、レイドボス相手にギルド武器を使うバカは見た事が無い。

 メンバーの武器を与えたお陰か先ほどよりダメージを与えられているように見える。

 後半戦はレイドボスの防御力があがり、より倒しにくくなる傾向にある。

「至高の御方々の武器なのに……」

 アウラは手持ちの武器を疑いたくは無いが、一向に相手が倒せない事に苛立っていた。

「アウラよ。レイドボスとはそういうものだ。長期戦は覚悟の上だ」

「あっ、はい。申し訳ありません」

「それから、戦力外と落胆するな。いくら階層守護者でもあれは別格なのだ。かつての仲間達でさえ苦戦する相手……。負けても悔しがる必要は無い。私でも勝算があるのか不安を覚える」

「わぁ! それほどなんですか!?」

「そうだ。私としては脱落者を出さずにここまで戦ってくれるお前達の実力に驚いている」

 原形を保ってくれてありがとう、アルベド、と誉めてやりたい。

 コキュートスのスキルでも部位を切り飛ばすには至らないとは、頑丈な身体に驚く。

 それはまるでユグドラシルと変わらない。

 第十位階や本気の物理攻撃にここまで原形を保つこと自体、不思議だ。

 元々は大人の女性なのに。

 女神系と言われているけれど。

 九体現れる戦乙女(ワルキューレ)が一斉にレイドボス化したらさすがに敗走する。

 反省は後回しにして位階上昇化させた『魔法の矢(マジック・アロー)』を百発分、お見舞いする。

 体力が減っているなら次はもう少し早めに変化が現れるだろう。

 最低でも三回は凶悪なスキルを使うはずだ。五回でも耐え切る予定だが。

 コキュートスの三度目の大技を受けた後で敵は体勢を低くした。

 獲物を狙う猛獣のように。

 最初の攻撃を受けさせる為にアルベドに最後の攻撃を仕掛けさせ、マーレは補助の魔法をかけて、撤退させていく。

 現場にアインズとアルベド、入れ替わりに潰しの利く防御の厚い昆虫型シモベを二匹待機させる。

 その間にナザリックに帰還させた仲間達の治癒とMP回復に努めてもらう。あと、回復アイテムの補充など。

 アルベドにはギリギリまで攻撃を続けてもらう。

「同じ攻撃だとは思わないが耐え切ってくれ」

「モモンガ様の御為なら命は惜しくありませんわ」

「では、次はスキルも併用せよ。そろそろ出し惜しみが出来なくなる頃だ」

「畏まりました」

 空を飛んだり、口から猛毒を吐いたりしない分、戦いやすいのかもしれない。

 盾として黒い仔山羊を使うのもありかもしれないが、呼ぶのに犠牲が必要だからな。

 複製を置く、という点もあるけれど、相手は避けそうで怖い。

 下手をすると逆に壁として利用されるおそれがある。

 いや、今なら利用できるかもしれない。

 伝言(メッセージ)にて必要な命令を与えた黒い仔山羊の用意をさせる。

 第六階層に練習用として置いているものに急いで命令を与えるように命じる。

 事前にマニュアルを書いてくれた奴(ヤントラ)に感謝しなければならないだろう。

 でなければおかしな命令で後々、混乱する事になる。

 スキル発動前に命令が完了した黒い仔山羊に攻撃をさせる。

 容赦の無い触手攻撃。

 レイドボス相手に戦う事は想定されていないはずだ。

 普段はPKや攻城戦、大規模戦闘の為に使われるのだから。

 生け贄の少ないレイドボス戦で使えるのは幸運だろう。

 防御が硬いので一撃で倒される事は無い筈だ。むしろ、どんな結果になるのか楽しみで仕方が無い。

 改めて身体を赤熱化させる混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)。

 黒い仔山羊は触手の他に太い五本の足で踏みつけに入る。

 超重量のモンスターの攻撃に地面に沈み行くレイドボス。

 アインズは少し失敗したかも、と心配になってきた。

 物理的な攻撃にも混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)は砕け散る事無く原形を保っている。

 防御に関してもレイドボスは破格のようだ。

 そして、発動される二度目のスキル。

 

 食い破れ、深淵の影たちよ(影の国に幸あれ)。

 

 巨大化した赤い茨(いばら)が黒い仔山羊を包み込む。そして、それは周りにも広がる。

 アルベドとアインズは避難しようとするのだが、身体が重い。

 移動阻害対策が施されているにも関わらず。

「フィールド全体に効果があるスキルか!?」

 直径100メートルに存在するあらゆるものを拘束し、逃がさない。

 転移阻害。

 そうだろうな、とアインズはがっかりした。

 『転移門(ゲート)』も使えないかもしれない。

 それでも慌てないアインズ。

 色んなモンスターと戦ってきたのだから、この程度では動揺はしない。

「メエエエェェェ!」

「〈暗黒孔(ブラックホール)〉」

 慌てずに魔法を唱える。

 一部の空間に穴を開けて茨(いばら)の効果ごと吸い込む。

 それを数度、繰り返せば安全地帯が出来上がる。

 ゲーム時代では無理だが、ここでは可能になるのではないかと予想していた。

「アルベド……。すまないが……死んでくれ」

「喜んで!」

 二つ返事で答える守護者統括アルベド。

 安全地帯に入ったアインズは解呪魔法を唱えてから『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』にて魔導国に帰還する。

 解呪するエフェクトが発生したので呪文効果はちゃんと機能して安心した。

 あえてアルベドを残したのは相手のスキルを全て受け止めてもらうためだ。

 迂闊に退避すれば効果時間が許す限り獲物を求めて襲い続ける可能性がある。まして、今回は更なる回数分が予想される。

 スキルを併用してもアルベドが原型を保つ確率は低いだろう。

 世界と天秤にかければアルベドの方が重いと答えられない弱い自分に腹が立つのだが、仕方がない。

 自分にはまだ守るべき者がたくさん居るし、たくさんあるのだから。

 探索担当のニグレドの報告で現場の状況を聞いたり、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で確認しつつ装備品の再確認をしていく。

「発動が終わればすぐに現場に向かう。それぞれ準備はいいか?」

「いつでも」

「MPの回復は中途半端でありんすが……」

「構わない。後半は物理で殴る。それぞれ治癒アイテムを多く持参しろ」

「畏まりました!」

鏡には凶悪な茨(いばら)による惨劇が始まっていた。

 

 ガリガリガリガリガリ、ガガガガガァァ。

 ガリリガリリ、ガガリガリリ、ガリィィ。

 ガガガッ、ガリリ、ガガァ。ガリリィィ。

 ガガガッ、ガガガッ、ガリィ。ガガァァ。

 ガリリ、ガガガ、ガガリィィ。ガガガッ。

 

 乱雑に動くチェーンソーのようにあらゆるものを引き裂く。

 ゲイ・ボルグの特性で回復がしにくい点も厄介だ。

 通常の二割ほど落ち込む程度が変に希望を持たせてしまう。

 数分持てばいいが、全滅を織り込むレイドボス戦において味方を囮として使うのはゲームだけにしたい。

 どんな攻撃だろうと世界級(ワールド)アイテムだけは無事だろう。

 能力的には互角かもしれないが、破壊不能アイテムというものはレイドボスでも破壊できないものだ、一般的には。

 一部の神器級アイテムは無敵ではない。

 アルベドの身にまとっている『ヘルメス・トリスメギストス』は破壊されることを前提に作られている神器級アイテムだ。

 下手をすればスポイトランスも壊れるかもしれない。

 その中で世界級(ワールド)アイテムは別格だ。

 消費するタイプ以外は壊れない仕様になっている、はず。

 故意に壊そうとする者を知らないだけで、壊せるものもあるのかもしれないけれど。

「あ、アルベドの身体が……」

「……うわぁ、嫌な音が響いているわね」

「黒い仔山羊の強固な外皮でも引き裂くとは……」

 レイドボス相手だと黒い仔山羊も普通のモンスターに見える。

「……すげー……。あのモンスターを簡単に引き裂いている……」

 茨(いばら)に包まれた状態で放置してきたが、まだ異音が続いている。

 どれだけ長くつづく攻撃なんだろうか。

 相手が死ぬまでだろうか。

 ゲイ・ボルグは相手をどこまでも追いかける性質があるらしいが、自分はそこから抜け出した。

 今頃、別の茨(いばら)が向かっているかもしれない。

 アンデッドをも殺す攻撃と言うのは食らいたくないな、とアインズは少し地上に戻るのが怖くなった。

 沈静化されないところを見ると、まだ完全に恐怖に沈んでいないのだろう。

「黒い仔山羊が小さくなっていくでありんす」

「……ムウ。微塵切リダナ、アレデハ」

 控えている戦闘メイド達も顔を青くしている。

 もし、彼女たちも参戦させていれば挽き肉同然になっていただろう。

 それも、数秒もかからず。

 と、思っている間に黒い仔山羊は滅びて消え去った。

 盾役が一回で消えてしまうとは、とそれぞれ驚く。

「そろそろ、行くぞ」

「はい」

 現場に残るアルベドはまだ少し形が残っていた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 終わりの無い永遠の鋸(のこぎり)の刑罰。

 それでも愛する者の役に立ててアルベドは幸せだった。

 鎧は既に粉々、手足も感覚は無い。顔もいいように削られている。

 それでも意識はある。

 持てる特殊技術(スキル)は使い切った。時間差の攻撃のようで一回では終わらなかった。だが、そもそもスキルが通用するのかは分からなかった。だが、出来る限りの抵抗は試(こころ)みた。後に続く者達の為に。

 『真なる無(ギンヌンガガプ)』で全身を包み込む防御型は思いついていたが、残念ながらそれは出来なかった。あくまで武器として使用する目的の世界級(ワールド)アイテムで防具形態は想定されていなかった。

 防具のように扱う事は出来たけれど。

 自らの創造主『タブラ・スマラグディナ』に強固な身体を作ってもらって今日ほど感謝した事は無かっただろう。

 大きな自慢の胸を削られ、膣が裂かれて子宮がズタズタになる感覚は顔をしかめる事態なのだが。というか今は顰める顔も無いかもしれない。

 徹底的に細かく切り刻む攻撃ならば仕方が無い。

 先ほどから脳も削られて、何故だか気持ちが良い気もしてきた。

「……ああ、モモ……」

 最後に脳裏に浮かんだのは愛する人と結ばれて、その人との間に出来た子供を抱(いだ)く、未来の幸せな風景だった。

 凶悪な攻撃は沈んだ大地にも及び、地面を削り続けている。

 攻撃対象はありとあらゆるもの。

 それはすなわち『世界』すら破壊対象となっている。

 星そのものも粉々にしない限り、止まらないスキル。

 ターゲッティングを免(まぬか)れた者はすぐには攻撃対象にはならないようだ。

 再度の転移で勝負を付けるアインズ。

 既にアルベドは細切れの血溜まりと化している。それを一瞥し、倒すべき敵に怒りをぶつける。

「……よくも愛する仲間を殺してくれたなぁぁ!」

 捨て石にするようなことをさせたのは自分だ。それは言い逃れしない。

 それでも生き残ってほしいと願った。

 復活できるとしても。

「こぉのぉ……、ゴミクズがぁぁ! 貴様はここで殺す!」

 攻撃の止まない混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)のスキル。

 相打ち覚悟で出し惜しみは出来ないだろう。

 三度目のスキル発動ももちろん心配だ。

「シャルティア、勇者の魂(エインヘリヤル)を使ってもいい。秒殺されるかもしれないが……」

 新たな黒い仔山羊二体の復活は数十分ほどかかるし、命令を与えるのも数分はかかる。

「茨(いばら)は破壊できそうか?」

「強固なため、難しいかと」

 元は伝説級(レジェンド)武器のゲイ・ボルグ。

 そう簡単に破壊されてくれないようだ。

 レイドボスが奮う事で世界級(ワールド)アイテムに匹敵しているかもしれない。

 希望は潰(つい)えていない。

 人類の守り手に『マグヌム・オプス』がある。

 アインズの復活を阻止する可能性があったとしても傍観者ではいられないだろう。

 世界の破壊は望んでいない、と言っていたのだから。

 その原因を作ったのはアインズかもしれないけれど。これは不可抗力として諦めよう。

 ナザリックは少なくとも世界を壊したいとは思っていない。多少の説教は覚悟しておく事にする。

 いや、マジで不可抗力なんです、ヤントラさん、と。

 レイドボス化は想定外だし。

 というか、強ぇー。

「茨(いばら)に触るとアウトかもな。それぞれ攻撃は出来るだけ行(おこな)ってくれ。私も超位魔法の準備を始める」

「畏まりました!」

 普通のモンスターとは違い、一撃で倒す場合は強力なスキルを使わせた後が望ましい。

 しかし、どうも地面を攻撃したまま一向にスキルが終わる気配が無い。

 このまま攻撃を続行するしかないんだろう。

 相手はその場から動かないようだけど。

 ここでシモベを送ってもやられるだけだし。

 アインズは色々と戦略を練るが有効な手は浮かばない。

 一撃にかけた攻撃をし続けるしかないのかもしれない。

 どうしても攻略したいダンジョンのボスみたいで嫌な気分になる。

 レイドボスとはいえ何も得るものが無さそうだし。無駄にアイテムを消費する戦闘はやりたくない。

「あっ、そうだ。『暗黒孔(ブラックホール)』は通用したんだった……」

 MPが許す限り、NPC達の援護がいいだろう。

 ペストーニャとルプスレギナにMPの回復作業に入ってもらう。

「私が援護する。遠慮無く突っ込め」

 マーレに『強欲と無欲』を装備させておけば多少は持つだろう。

 アルベドが持っていた『真する無(ギンヌンガガプ)』をアウラに持たせる。

「デミウルゴスは魔法で攻撃。シャルティア、スキルの効きはどうだ?」

 先ほど『清浄投擲槍』を投げ込んだようだが異音を響かせてレイドボスに突き刺さったまま抵抗していた。

 パンドラズ・アクターも攻撃力のあるギルドメンバーに変身して攻撃を仕掛けていく。

 それはもう魔法とスキルの爆撃だった。

 三度目のスキル発動に怯えている場合ではない。

 それから数分も経たない内に広がっていた茨(いばら)が収縮する。

 アインズは少し安心した。広がったまま戻らないんじゃないかと。

「三度目のスキルだろう。だが、攻撃の手は止めなくていい。倒しきれ」

「畏まりました!」

 感覚的には次で最後のはずだ。

 ここで体力全回復とかだったら、嫌だな。

 仮にそうであってもスキルの再使用は普通は起きない。

 でなければ延々と繰り返す事になってしまう。

 三度目も身体が赤くなるのだが、攻撃の手ごたえは回数を追うごとに硬くなる。

 コキュートスはあと数撃の攻撃を受ければ死ぬかもしれないと思うほどダメージを受けていた。

 他の者も一気に殲滅するダメージは食らっているだろう。

 攻撃の手を休めている合間に回復作業に入る。それにアインズは口を挟まない。

 勇者の魂(エインヘリヤル)は予想通り、秒殺されていた。

 何のためのスキルなのか、分からないほどだ。

 高速治癒のシャルティアも回復が間に合わないのか、ズタボロだった。

 既にMPも尽きかけているだろう。何度も『転移門(ゲート)』を使っているのだから。

「最後の『転移門(ゲート)』を開く用意はしておけ。後は総力戦だ。戦いが終われば時間はかかるが復活させることは約束しよう。問題は記憶を数日分、失うのがもったいないのだが……」

「お気になさいますな」

「記録係が居ると、思うので。たぶん、大丈夫です」

 ナザリック地下大墳墓でこの戦いを記録させているけれど、守護者達の中に残らないのは残念だと思う。

 実際に体験した経験を失う損失は少なくない。

「では、復活後に各自戦闘をじっくりと見て、色々と学べ」

 アインズはルプスレギナからMPを貰う。

 シャルティアは最後までスポイトランスを使わせる事にした。

 見たところ神器級武器は無事のようだ。

 既に犠牲が出た時点で無傷の帰還は不可能。

 残るのは勝利のみだ。

 負ければ文字通り、世界の終焉か、奴(ヤントラ)が本気を出すかだ。

 調子が悪いとダメなのだが。

 色々と考えつつ超位魔法の準備を始める。それと同時に三度目のスキルが発動する。

 

 我を殺すに足る者に栄光あれ(オーバーキル・オブ・スカアハ)。

 

 混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)の背後に大人よりも大きな時計が出現する。

 それはアインズのスキル『あらゆる生あるものの(The goal of )目指すところは死である(life is death)』に似ていた。

 秒針が背後で動き始める。

 隠し職業(クラス)かと思ったが、そんなものではないとアインズは感じた。

 混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)の姿は赤熱したままだが、時間が経つごとに身体から茨(いばら)を出して鎧のようにまとっていく。

「ここまで追い詰められるとは……。お姉さんは参ったよ」

 ずっと獣の咆哮しかしてこなかった影の国の女王(スカアハ)が人間的に喋り始める。

 声質に異常は無い。

「……私みたいなのは世界を穢そうとする者が現れない限り、出てきたりしない」

「強制力か」

「そうだね。後ろに時計が見えるだろ? あの秒針が真上に来て一分間……、耐え切るなり、倒すなりしてみろ。……もし、仕損じたら……。ずずーっと……」

 と、人差し指でその場を一回転する影の国の女王(スカアハ)。

「だいたいの範囲は消し飛ぶと思え。あー、耐え切ったらダメになるな、これは失敬」

「その前に問いたいな。お前、達なのだろうが、目的は何だ?」

「世界救済。まあ、異物に対する抗体のようなものだ。大抵は対象が死ぬから自然と浄化出来てたんだけどな。浄化サイクルは100年を要する。その禁を破ろうとする害悪が数年後に……っとと折角だ。猶予をやろう」

 時計に指を向ける影の国の女王(スカアハ)。

 それだけで秒針は消えた。

「数年後に訪れる害悪を駆除してほしい」

「それは……プレイヤーなのか?」

 話している間に回復などを済ませるように命令する。

「……そこまでは分からないな。この世界に存在する者を消滅させたりするんじゃないか。未来感知は得意と言うわけではないけれど……」

「今の時点では存在しないのは確かなんだな?」

「そうだね。漠然としているが……。十年以内だろう。場所はリ・エスティーゼ王国のヴァランシア宮殿のどこか……」

「はっ? あの王国が原因なのか?」

 時間的に考えればラナーが産む子供とかだろうか、とアインズは思った。

 十年以内だと話しが合わないかもしれない。

 王女の婚姻はもう少し早いかもしれないし。十年と言う長さに何か意味があるのだろうか。

 絶対に十年後というわけではないだろう。

 明日かもしれない。

 数年後と言われれば三年くらいは先かもしれない。

「『現れる』んだな? 生まれる、ではなくて」

「……そうだね。転移するって言葉が一番、近いだろう」

 つまりアインズ達のようなプレイヤーが来る、ということだろうか。

 だが、それではツアー達が言っていた100年周期はどうなるのだろうか。

 それとも十年くらいの誤差があるのだろうか。

 きっかり100年、という正確無比であれば分かり易い。

「人なのかどうかは分からないんだな」

「あ、ああそうだね。もやもやしてて分からない」

 つまり核兵器が転移して世界を吹き飛ばす事もありえるわけだ。

 または未知の病原菌だ。こちらは身に覚えがある。

「数年後の強敵に対する予行演習として最後まで付き合いなよ。対処を怠れば……、この世界はきっと無くなるだろう」

「ちなみに、それは一度だけか? 対抗する、という意味で」

「それより先は別の者が現れて教えてくれるよ。私はここで君たちと戦い滅びていく。もし、倒しそこなえば……。世界は今日で終わりだ」

 アインズにとって今の言葉は聞き捨てなら無い。

 のんびり暮らす事が出来ない、という意味になるからだ。

 毎回、未知の敵に対抗する為に、こんな厄介なレイドボスと連闘し続けなくてはならないのは正直に言って面倒くさい。

 何かの褒美が欲しい。それこそ世界級(ワールド)アイテムとか。

「メリットが無い戦いは嫌いなんだがな」

「褒美が欲しいのか?」

「当たり前だ。仲間を失うような戦いをして何も得られないなど……」

「れべる上限とやらを引き上げよう。ただ、敵も強くなるけどな」

「むっ……。アイテムがいいな」

 というより世界に干渉できるのだろうか。

 レイドボスだけの特権かもしれない。

「七色鉱の金属を100トンずつ」

「乗った」

 アインズは即答した。

 レベルは魅力的だが、いらぬ敵は作りたくないし、上限については実はそれ程魅力は感じない。

 多少は気になるけれど、自分の実力を十全に使う方がいい。

 魔法全てと言っても使いたくない魔法が実はあるので、人任せでいいと思っている。

 過剰にMPがあってもつまらない。

 アインズにとっては適度な不自由さがある方が退屈しないと思っている。

 無敵では敵対した時が怖いので、階層守護者たちの強化は限定的にしている。実際、アルベドが無敵では自分はかなり危機的状況に追い込まれる自信があったから。

 物理的というか、男として、というか。

「大量の七色鉱があると反応して消えてしまうのではないか?」

 七色鉱を大量消費して生まれるのが『熱素石(カロリックストーン)』だ。

 一気に無くなるのでアイテム製作する上では保管方法に頭を痛める。

 世界級(ワールド)アイテムは魅力的だが、一個だけ転がると何か物凄く勿体ない気がする。

「こうして話している間にお前は体力が満タンになっているんだよな?」

「ここまで健闘した戦士に無粋な真似はしない。この……今は混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)か……。お姉さんは強い戦士が好きなんだよ。そうそう、金属だったね。うまく切り分けて別々に保管すればいいんじゃないか」

「出来れば反応しない場所に出してほしい」

「そこまでは付き合いきれない。自分で苦難を乗り越えるんだね」

 混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)は地面に口に含んでいた血を吐き出す。

「一分以内に倒し切ってみろ。健闘する戦士に褒美をやろう。世界の覇者だと言っていたら毎年のように襲いに来ていたところだ」

 そう言われてアインズは唸る。

 世界征服という褒美が欲しいと言っていたら毎年レイドボスの相手をする事になる、という意味だろうか。

「毎年倒せば報酬はその都度、もらえるものかな? あと、世界征服する予定なのだが……」

「はっ? やるわけねーだろ。世界征服は愚王がなるものだ。ろくに治められない王に広い世界はもったいない」

「それが出来る王が居るかもしれないぞ」

「そういう愚か者は数多く居たが……。万年の孤独に耐えられた試し無し。それがアンデッドであうとな。長くて千年が限度だ。それ以上は精神が蝕み、世界の穢れと共に朽ち果てる。例外は確かに居るだろう。それでも永遠は居ない」

 永遠の統治。

 確かにそこまで先の事は考えていない。というか明日の事も怪しいくらいだ。

「世界の王になるのは自由だが……。まあ、野暮は言わないでおこう」

 混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)が器用に指を鳴らすと秒針が現れた。

「これから私は更に強くなるけどな。褒美を与えるなんて私くらいだぞ。他の者に期待はするなよ、未来の王様」

「いや、今は魔導王という王様だ」

 と言うと混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)は驚き、そして、笑った。

「あっははは! これは失礼した! だが、しかし……。元の世界に戻りたいと願わなかったのは何故だい? 仲間が居るから?」

 それは失念していた。

 だが、NPCを置いてはいけないだろう。

 話しぶりからは元の世界に戻してやる、と言われた場合は一人だけ、という気がした。

 それはまたの機会にしてもいいのだろう。

 別段、元の世界に戻りたい欲は無い。

 あえてあるとすればメンバーに会いたい、だろうか。

「さあ、時間切れだ。覚悟を決めな、戦士達」

 真っ赤な棘の鎧をまとう混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)。

 背後の秒針が動き始めた途端に姿が掻き消える。

 

 最終スキル『我を殺すに足る者に栄光あれ(オーバーキル・オブ・スカアハ)』は一分間だけレベルが200まで上がる。

 絶望的な実力差が発生する。

 普段、ナザリック地下大墳墓が一般市民に向ける実力を自分たちが味わう事になる。

 レベル差は二倍。

 そう言われれば苦も無さそうだが。

 問題は倒さなければ世界が崩壊するという事だ。真実かは分からないが。

 圧倒的な戦闘力で回復したての仲間達が吹き飛ばされる。

 残り体力はとても少ないはずだ。

 課金アイテムを使って超位魔法ということも脳裏に過ぎったが、ここはあえて無課金アイテムで挑戦する。

 また同じ戦闘になった時、課金アイテムが無い、という状況になったらどう対処するのか知った方がいいだろうから。

 敏捷を上げて初めて相手の動きが捉えられる程度だ。

 盗賊(ローグ)系でも無い限り、動きについて行けないのではないだろうか。

 デミウルゴスが素手で切り刻まれる。

 全身がゲイ・ボルグで出来ているような感じだ。もはや無手でも充分に脅威という事だろう。

「……早いな……」

 魔方陣を展開し、とどめに使うつもりだが失敗した時は課金アイテムを使う。

 身体の大きいコキュートスは防御しつつ小技で対応している。大技は当たりそうにない。

 意外と効果的に当てているのは今まで温存したパンドラズ・アクターだ。

 弐式炎雷の姿で互角とまでは言わないが懸命に相手を追っている。

 気が付けばアウラは前面部を乱暴に抉り取られた状態で死んでいる。

 マーレも、と顔を向けた瞬間には首だけが飛んで行った。

 高レベルNPCをこうもあっさりと殺す敵は驚愕ものだ。

 湧き上がる怒りは魔法に込めたいが自分が狙われると勝負が終わる。

 盾として他のNPC達を投入するために最後の『転移門(ゲート)』を使わせる。この際、犠牲は覚悟の上だ。

 復活費用が頭を過ぎるが、今は世界を救うためだとして諦めよう。

 戦闘メイドは要るだけで粉々になる。何も出来ない。

 だが、シャルティアの残りのMPを乗せた必中の『清浄投擲槍』での牽制と残りのスキルを全て使わせて時間稼ぎは出来た。

「感謝するぞ、お前達。そして、食らえ!」

 範囲攻撃だから転移で撤退でもしない限り、絶対に逃げられない。

 シャルティアが最後まで足掻いた。首の無い状態にされてしまったが、超位魔法は発動した。

 最後はコキュートスにシャルティアごと武器で刺し貫かれて身動きを止められる混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)。

 

 〈失墜する天空(フォールンダウン)〉

 

 念のために『隕石落し(メテオフォール)』を時間差で唱えておく。

 これで勝負がついたはずだ。というかまだダメージを受けている最中か、とアインズは結果が知りたくなってきた。

 仲間の犠牲が多すぎる。

 本来はもっと多人数で取り掛かる案件だ。

 色々と無茶を通してしまった。

 敵一体にナザリックが全滅。

 仲間が聞いたら卒倒ものではないだろうか。

 魔法効果が終わり、辺りが鮮明になってくる。すでに一分は超えているだろう。

 最後の魔法でコキュートスごと吹き飛ばしてしまった気もするが、仕方が無い。

 デミウルゴスはどうしているだろうか、と探してみたが見当たらない。

 そういえば細かく分割されていた事を思い出す。

 シャルティアの鎧が見えた。ただし、鎧だけだ。

 側に黒こげになった死体が散乱している。

 問題の混沌に堕ちし影(スカアハ・オブ・ディザスター)は黒い土の山に変貌していた。周りにはゲイ・ボルグの破片と思われる棘(とげ)が散らばる。

 これで世界が救われるのだろうか。

 全員が死んだ、と思った。

「父上っ! ご無事ですか!」

「あれ、お前……。生きてたの?」

「もちろんでございます。ぶくぶく茶釜様に変身し、防御を固めておりました!」

 さすが粘体盾と呼ばれるだけはある。

 一人ぼっちの世界で寂しくなるところだった。

 今まで邪険にしていたパンドラズ・アクターの声は紛れも無く希望だ。

 自分はまだ一人ではない。それが分かった。

 肉体があれば号泣しているところだ。

 だが、感動の感情も高ぶれば抑制される。それがアンデッドの特性であり、呪いのようなものだ。

 だが、全てを許そう、と。

 ナザリック地下大墳墓は勝利したのだから。

「まずは仲間達の装備を回収しろ」

「畏まりました!」

 というのは全て幻。

 幻聴に過ぎない。

 荒野が広がる世界には自分ひとりしか居ないのだ。

 と、奴なら言うだろう。

 どんな時も甘い希望にすがらない。最悪の結末を想定し続ける。

「父上?」

「どんな時も油断するな、と誰かの言葉を思い出していた」

「それは凄いですね。至高の御方の誰か、でしょうか」

「そうかもな。転移できるまで休息し……。いや、集められるだけ集めてから行動を再開しよう」

 レイドボス戦はいつだってきつい。だが、勝利の後は不思議と笑顔になれるものだ。

 それが仲間の多くを失ったとしても。

「あんな敵がポコポコいてはたまらないぞ。……一体だけで良かった……」

 複製の件を帳消しにする代わりに復活費用を出してもらおう。

 いや、今は黙って蘇生のメイドを借りようかな、と色々と考え事をしながらパンドラズ・アクターの仕事終了の報告を待つ。

 

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