※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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O-14 反省会

 アイテムの回収を終えて、転移を駆使させて現場の警備をシモベ達に任せる。

 あたり一面、穴だらけ。

 エ・アセナルでは色々と話題になっているかもしれない。

 監視要員を向かわせたいのに、な(・)ぜ(・)か(・)、行けない事態に少しずつ騒ぎ出す頃かもしれない。

 多少は見られている気もしないでもない。

 特にアーグランド評議国側は。

 派手な戦闘が起きたし、竜(ドラゴン)の超知覚を誤魔化すのは容易ではない。

 今回の戦闘で魔導国が不利になるのか。

 世界の危機を救っていたのだから文句は言われない、または言わせない。

 ある程度の手の内を見られるのは覚悟の上だが、戦略としては不味いのかもしれない。

 とはいえ、他のギルドメンバー無しで攻略せざるを得ない事態なのだから仕方が無い。

 街を破壊したわけでも無いし、詰め所の兵士は退避させたし。

「討伐される理由は無いだろう」

「アインズ様、魔導国周辺に巨大な金属の塊が落下したもようです」

 と、近くの影から影の悪魔(シャドウ・デーモン)が報告する。

「はっ? 本当に褒美が来たのか……。それらはすぐに切り分けて別々に保管せよ。多少、時間はかかっても良い」

「畏まりました」

「人的被害はどうなんだ? 落下したのだろう?」

「確認中です」

 と、別の影の悪魔(シャドウ・デーモン)が答えた。

 話しが真実なら100トンの金属の塊。それが七つ。

 落下なら相当な地震が発生する気がする。

 エ・アセナルからは遠いから何も分からないのかもしれない。

 もし、魔導国の直上に落ちていたら大損害、というか結構な死傷者が発生するだろう。

 せっかくジルクニフに作ってもらったのに。

 でも、下水は少し被害が被っているかも、と早く帰りたくなってきた。

『父上っ!』

 と伝言(メッセージ)から大声が聞こえる。それだけで誰だか分かった。

「聞こえている、パンドラズ・アクター」

『蘇生の準備が整いました。あと、外の金属は宝物庫に回収してよろしいですか?』

「種類別にな。同じ部屋には入れるな。一つだけ外に出したままでいいぞ。赤い奴とか」

『畏まりました』

「エ・アセナルの修繕は……後回しでいいか。必要な金貨は用意できたのか?」

 マーレが復活してからでもいいだろう。

 今回、戦闘に参加したNPC達の殆どが数日間の記憶を失う結果になる、というのは残念な損失だ。

 実際のところは精神支配された事による弊害、と思いたい。

 せっかく熱く戦った彼らの記憶は残っていてほしい。

 蘇生実験はある程度、しておくべきだった、と今さら悔やんでも仕方が無い。

『二十人分は用意できると報告がありました』

 レベルによって費用は変わるのだが、あえて指摘することはしなかった。

 ヤントラなら色々と察するだろう。

 レベル1の分で二十人分なら嫌がらせだ。

「……長い一日だ……。あっ、モモンの依頼が残っていたっけ……」

 途中で仕事を放棄すると違約金を払わなければならない、はずだった。

 現場の惨状を見せるにしてもモモンにならなければならない。

 今は何もしたくない。

 数年後に大きな戦いが待ち受けている、というのならば奴と共に迎え撃とう。

 手持ちのNPCだけでは被害が多すぎる。

 しかも王国の宮殿に転移ってなんなのさ、と。

「……数年の猶予なら下準備も整え易いか……」

 明日、転移してくると言われると今は不味い。

 アイテムの用意。壊れた武具の修復。

 優先的に世界級(ワールド)アイテムは回収済みだが、レイドボスにはあまり役に立たないことは分かった。

 元々が世界級(ワールド)アイテム並みの敵だ。手ごわいに決まっている。

 それよりも更に厄介をこじらせたのがワールドエネミーだ。

 こちらは百人規模で討伐する化け物たち。

 それでも苦戦するのだから、案外プレイヤー一人と戦うのは楽かもしれない。

「……数トンは奴にやろう。でも、武器作りをしていないから……多く貰っても困るか……。いや、今回の敵対策の為には必要だろう」

 アインズは影の悪魔(シャドウ・デーモン)達に指示を飛ばし、ナザリック地下大墳墓に戻る。

 普段なら出迎えのアルベドの甘ったるい声が聞こえる。

 アウラとマーレの元気の良い声。

 マーレはおどおどしていても笑顔は可愛い。

 コキュートスの重厚な声。セバスはどうなったんだっけ。

 パンドラズ・アクター以外は全滅したからセバスも散ったか。

 デミウルゴスも無し。

 戦闘メイドも無し。こちらは盾にすらならなかった。

 とはいえ、全員ではなかったはずだ。何人かは居た筈だが、誰が残っているのかコンソールを出して確かめる。

 殆ど真っ黒でがっかりした。

 エントマは無事。シズも無事。ソリュシャンも無事。

 ユリとルプスレギナとナーベラル。

 ペストーニャ。

 ここまで失ったのは敗北同然ではないか。

 怒りは湧くが仕方が無い。

 相手が悪い。

 少なくとも敗走はしていない。それだけでも御の字だろう。

 あと、黒い仔山羊が居たっけ。そういえば、二体ほど復活させようとしていたけど、どうなったかな。

 増えたら減らせばいい。丁度いいストレス発散に使えるだろう。

「パンドラズ・アクター」

「はっ!」

「今はお前が無事で気持ち的に助かった。アイテム類はやれないが、整理整頓を任せる」

「ありがとうございます、父上。ですが、今回の被害状況を察するに、無理しておられると思います。心労は大敵です。ゆっくりとお休み下さいますよう……」

「アンデッドは眠らない。……だが、礼を言う。復活の儀式を終えたら、外の金属はお前に任せる。決して七色を一箇所に集めるな」

「畏まりました」

 普段なら賑やかな第十階層が急に寂しくなったものだ。

 まるで、ゲームが終了する数時間前の光景だ。

 あの時はパンドラズ・アクターは居ないし、命令しない限り何もしゃべらないNPCしか居なかった。

 誰も居ない玉座というのは、こんなにも寂しいものだとは。

 アインズは手を前に突き出す。だが、命令を受けるべき従者は誰も居ない。

 これが世界を支配する死の支配者(オーバーロード)の末路だとは思いたくない。

 この光景がヤントラの見たものならば少しは理解出来る。

 

 つまらん。

 

 本当につまらない世界だ。

 感傷に浸っている場合ではない。

 犠牲になったアルベド達を復活させなければならない。

 ここで復活に同意しない者達ばかりであればもっと寂しくなるんだろうな、という考えが浮かんだ。

 生きている方がいい、という世界を作らなければ本当に誰も居なくなってしまう。

 数十年後に成長したアウラ達の姿を見るのだから。

 シャルティアとユリ以外は復活魔法の方がいいだろう。

 まずはアルベドからだ。

「復活せよ、我が愛しい者達よ」

 と、言ってみたが何も起こらない。

 当たり前だが、アインズは魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。蘇生魔法は習得していない。

 そんな恥ずかしいことも今は誰にも見られていない。

 いや、天井には八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が控えていたんだった。

「八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達よ。蘇生魔法の使えるメイド達を呼んでこい」

「畏まりました」

 恥ずかしい。

 数分後に玉座下に何人もメイドが集められた。

 まずは金貨を集めるところから始める。誰も居ないので警戒を解く事が出来ない。

 転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)の管理を担当する者と監視要員を配置して金貨を一直線上に流れるようにしておく。

「オーレオール。負担だとは思うがよろしく頼むぞ」

『お任せ下さい、アインズ様』

 と、優しげな声で応答するのは戦闘メイド『プレイアデス』の末妹にしてリーダー。

 第八階層の桜花領域の領域守護者にしてナザリック地下大墳墓の階層転移を管理するレベル100のNPC『オーレオール・オメガ』という。

 巫女服を着た人間の姿をしている。

 普段は第八階層から出られない立場なので姉妹が揃うことは殆ど無い。

「いつでもどうぞ」

 と、答えたのは無表情の肉人形メイド。

「では、我が愛する者達の復活を執り行(おこな)う」

 と、言って見たものの聞いているのは他人のメイド。

 まずは守護者統括のアルベドから。

 蘇生にかかる費用はそれぞれ五億枚。これは経験値の残量は関係なく、レベルのみで計算されている。

 膨大な金貨のうねりが玉座の下で起こる。

 復活すると裸の場合が多いので一般メイド達が着替えを用意して無事を祈る。

 金貨がうなる、という事は蘇生にほとんど成功したようなものだからアインズとしては安心できることだ。

 充分な資材があるので壊れた防具は直せる。破片さえあれば修復魔法を駆使すれば直せたりする。

 さすがに世界級(ワールド)アイテムは規格外なので魔法は通用しない。

 かつてシャルティアと戦った時、鎧を破壊したが修繕できた。

 復活したアルベド。

 白い裸体はとても美しかった。

「……ん、んん……。はっ、アインズ様!?」

「ここだ、アルベドよ。無事に復活できたようだな」

 復活したアルベドは周りを見回す。

 見覚えのある風景。それはとても懐かしいものだった。

「て、敵は……。いえ、ここにアインズ様がいらっしゃるということは……」

「戦闘の記憶はあるのか?」

「あっ……。はい。そのようです。ガリガリと削られる最後の時……。いえ、お耳に入れるには……」

「良い。とにかく、無事に復活できたことを素直に喜べ」

「はい」

 メイド達によって着替えが運ばれる。

 精神支配された時に記憶が削られるのだろうか、とアインズはアルベドの着替えを眺めつつ思った。

 既に身体にバスタオルのような物が巻かれているので見る分には問題ない。アルベドがわざと取らない限り。

「大敗北だ。ナザリック的には……、という意味でな」

「敗北……」

「パンドラズ・アクター以外は全滅……。これを勝利と呼べるのだろうか……」

「アインズ様がご無事であれば勝利でございます」

「……私が敗北と言ったのにか?」

 ナザリックでは支配者が白いものを黒と言ったらシモベ達は黒と答えるのではなかっただろうか。

「ナザリック地下大墳墓に敗北など毛頭ございませんとも」

 妙に説得力のある言葉にアインズは驚いた。

 だが、それでも心強い言葉に嬉しくなったのは嘘ではないだろう。

「意地悪を言う雰囲気ではないな……。今回は相手が悪かった。アルベドのスキルも大して通用しないようだったが……。一つの大技を潰してくれただけでも大いに助かった」

「勿体なきお言葉にございます」

「広範囲即死スキルだったら危なかった。いくら強いとはいえ、あまり相手にしたくないな、あれは……」

 レイドボスはとにかく強い。

 報酬が無ければ戦いたくない相手だ。

 とにかく、色んな物を失う。

 特殊なドロップアイテムがあるならまだしも。

「っていうか、レイドボスに1チームで挑む方がどうかしてるだろ!」

 アインズは我慢の限界を超えたらしく、つい叫んでしまった。

 言い終わってから精神が沈静化する。

 今のはすっきりした、とアインズは納得する。

「とにかく、他の者も復活させねばな」

 アウラ。マーレ。デミウルゴス。コキュートス。セバス。

 戦闘メイド達とペストーニャ。

 黒い仔山羊はデータ抹消。

 大勢で挑んでいたら復活費用で破産しそうだ。

 アンデッドのシャルティアとユリはコンソールを使わなければならない。

 第八階層から取り寄せた『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使い、復活の命令を下す。

 高レベルNPCの復活の為に黄金の海を何度も観賞することになろうとは、とアインズはがっかりした気持ちになる。

 見た目には美しいのだが。

 復活した者達はコキュートスを除けば全裸。

 それぞれの着替えを済ませていくのだが、武具の修理が終わらないものが多い。

 普段とは違った姿に目新しさを感じる。

「此度の戦いで犠牲になった者達よ。至らぬ支配者の犠牲になり、とても心苦しい思いであった。こんな私の命令を聞いてくれた事に深く感謝する」

 慙愧に堪えない、という言葉が合ったがどういう意味だったかど忘れしたので使わなかった。

 知らない言葉を無理して言うのは危険だ。

「アインズ様が謝罪なさることはありませんよ」

「我々は、アインズ様の、お役に立てられるだけで……」

 アインズは改めて復活したNPCを眺める。

 それぞれ役に立てた事を嬉しく思っている顔をしている。

 お前ら、本当はマゾなんじゃないのか、と言いそうになった。

 時々、怪しい雰囲気を感じる。

 あと、ハムスケを忘れてきた事を思い出す。

 一人寂しくエ・アセナルで待機しているんだろうな、と。

「此度の相手は『レイドボス』という。この手の相手には複数のチームで挑むのが基本だ。高レベルのプレイヤーであっても少数で挑めないほどに強い」

 アウラ達が唸った。

 復活した者達は戦闘の記憶はほぼ保持していた。

 精神支配された時だけが特別だったのかもしれない。

「……それにしてもお前たちの黒い名前が並ぶ様は愕然としたぞ。これが自分の選択の結果なのだと……」

 側に居るアルベドがNPCの管理データを呼び出す。

 各NPCの名前は全て白。

「使い捨てにするようなまねをして申し訳なかったな、プレイアデス達。あと、巻き添えにしたペス」

 特にセバスとペストーニャは気が付いたら死んでいたタイプだ。

「お前たちの回復が無ければ諦めていたかも知れない。結果的に勝利を得たとはいえ、私にとっては大敗北だ」

 ダンと手すりに拳を叩きつける。

「は、発言してもいいでしょうか?」

 と、マーレが手を挙げた。

「なんだ、マーレ」

「その『れいどぼす』なる、モンスターと、アインズ様が捜しておられる敵のプレイヤーはどちらが強いのでしょうか?」

「今言わなかったか? レイドボスは複数のプレイヤーがチームを組んで相手にする敵だって」

「あっ! も、申し訳ありません」

「復活したばかりだから頭の整理がつかないか。レイドボスはとんでもなく強い。そう覚えておいてくれ」

「そ、それはアインズ様よりも、ですか?」

「そうだ。かつてワールドチャンピンの一人がレイドボス化した時は凄かったぞ」

 三十人のプレイヤーと互角の戦いを繰り広げた動画は伝説に残るほどだ。

「いや、レイドボスではなかったな。もっと凶悪な奴だ」

「そのレイドボスはプレイヤーではない、という認識でよろしいのですか?」

「特定のダンジョンを守っていたりするものだが……。正確なことは分からない。このナザリック地下大墳墓にも居たのだぞ。手に入れるときに倒してしまったが……」

 元もとのナザリック地下大墳墓は自然の要塞でギルドメンバー総出で手に入れたものだ。その時には今の階層守護者のように屈強なレイドボスが待ち構えていた。

「今回戦った相手は影の国の女王(スカアハ)だから、プレイヤーではないだろう」

「我々を打ち滅ぼせる相手……。油断の出来ない敵ですね」

「ウム。……ダガ、我々ハ成長デキナイカラ、次ノ対処方法ガ分カラン」

「レイドボスに関しては切り札はある。成長に関しては今のままがいいだろう」

「ナ、ナゼデゴザイマスカ?」

「余計な欲を抱くと世界の抗体とやらが現れる。とするならば堅実な暮らしをし、ゆっくりと世界を取る方が健康的なのだろう。少なくとも征服してはならない、とは言われなかった」

 どういう条件があるのかは色々と調べていくしかないのだろう。

 自分のせいで世界がつぶれると言われなかっただけ良かった。

「散らばったアイテムは全て回収しているから、それは安心しろ。……だが、アンデッドの私も今回ばかりは参ったぞ。とにかく戦闘は終わった」

「最後ハアインズ様ノ超位魔法ニテトドメヲ刺サレタノデスネ」

「そこまでの道のりを作ってくれたのはお前たちだ。私一人だけの勝利ではない」

 そう言うと全員が改めて片膝を付く姿勢を取る。

「我等はアインズ様に勝利を献上する役に立てたのですね」

「みんなの勝利だ。その証拠が外にある金属の塊だ。本来ならば皆に休暇を与えたいところだが、仕事の途中で抜け出しているので、この後エ・アセナルに戻らねばならない。改めて何か物品で欲しい褒美があれば言ってくれ」

「では、皆の意見を集めておきます」

「出来れば個人個人に分けられるものだ。一まとめでは可哀相だ。さすがに人間が欲しい、というのは考えてしまうがな」

 複製でいいなら貰ってくるけど。

「皆の者、ご苦労だった。シャルティアよ、鎧の損傷が激しいがしばし待て」

「はいでありんす」

「それと、復活資金を持ってきたメイド達よ。ご苦労だったな。後で礼を持っていくからお前たちは戻っていいぞ」

 無表情の肉人形達は軽くうなずいただけでその場から動かなかった。

 ルプスレギナに施設に運ぶように命令しておいた。

 わざとではないだろうが、命令が不十分だったようだ。

 様子のおかしい者を無理に動かしたのだから多少は我慢する。

「それぞれ装備品が治るまで休息を命じる。ナーベは改めてエ・アセナルまで同行してもらう。復活して間もないが……」

「畏まりました」

「アルベドよ。他の皆よ。我々は勝利した。しかし、それに胡坐はかけない。数年後に厄介な敵が襲来するそうだ。今回の戦闘をそれぞれ分析し、明日の糧としてくれ」

「畏まりました!」

 NPC達の元気な声に満足し、冒険者モモンとしてエ・アセナルに戻る。

 正直に言えば読書して休みたかった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 まだ一日目だという事実に驚愕を覚えるアインズ。

 モモンとなってエ・アセナルの冒険者ギルドに向かうと人が増えていた。

 避難した兵士達が居るのだから多く見えて当たり前かもしれない。

「おお、モモンさん。無事でしたか」

「皆さんも無事のようですね」

 まだ数時間しか経っていないけれど。物凄い時間が経過したような気がした。

 戦闘が苛烈だと時間の流れが速く感じる。

 体感時間的には二日目でも不思議は無い。

 昨日はナーベの顔が破裂したんだっけ、と遠い昔のように思えてきた。

 こんなに忙しい毎日は送りたくない。

 ブラック企業の方がまだ楽なのではないかと。

「物凄い爆発音が響いてましたよ。あまりに酷いのでモンスターも逃げたでしょうね」

「さっき現場を見たら、死の大魔法使い(エルダーリッチ)の大群と巨人(ジャイアント)や霜の竜(フロスト・ドラゴン)とで戦争でもしたのかと思いました」

 ナザリックとレイドボスの戦争かもしれない。

 敵一体に皆殺しにされるレベル100のナザリック。

 本当は自分達はとても弱いのかもしれない。

 少なくともレイドボスの世界では。

「噂の八欲王でも復活したのかな」

「警備の仕事はどうなるんですか?」

「もう一時間、何事も無ければ詰め所に戻ります。……しかし、大変な一日になりましたね」

「そうですね」

 兵士達が赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の出現で退避するように自分たちはレイドボスで退避した方が良かったのだろうか。

 急に自信がなくなってきたモモン。

 そういえば、戦う前に言っていたモンスターの質とやらはどうなったのだろうか。

「そういえば、この中で先ほどの大きな音以降でモンスターと戦われた人は居ますか?」

「ほ~い。小鬼(ゴブリン)と戦いました~」

「その小鬼(ゴブリン)は強さ的にはどうでしたか?」

「ん~、普通だった」

 彼の言う普通が他の人と同じとは限らない。けれど、普段と変わらないのならば問題は無いのだろう。

 急にレベルアップするモンスター達。という事は大型アップデートでもない限りは起きないはずだ。

 その権利をレイドボスが持っているとすれば厄介かもしれない。

 悪質なプレイヤーならばレベルダウンも想定されるが、今のところはそんなことは起きていない。

 気がかりばかり増えていく。

 ここは奴(ヤントラ)の出番だろうか。

 もう少し優しく接してやればよかったかな。だが、今さらな話しだろう。

 影の国の女王(スカアハ)の言葉は気になるけれど、話しぶりからヤントラとは関係が無さそうだ。

 ナザリック地下大墳墓か魔導国か。

 少なくとも影の国の女王(スカアハ)は魔導王の存在は知らなかった。または知らないフリなのか。

 モンスターの質の変化とは何なのか。

 急に動き出した問題にモモンはもちろん、対応など出来るはずがない。

 

 慌しい日を終えて依頼二日目。

 詰め所に戻ったモモンは懐かしい我が家に帰ってきたような気がした。

 昨日の激戦の影響からか、モンスターは現れず。

 感知対策を施してきたり、シモベに追い返しを命令したせいか、警戒して近づかないのかもしれない。

 それはそれで別段、問題は無い。

 エ・アセナルの地域を調べるのが主な目的だから。戦闘は二の次だ。

 ナーベは普段より大人しい気がしたが、近づく男が居なかっただけかもしれない。

 黙っていればしおらしい戦闘メイドに見える。

「殿、モンスターの気配が全く感じないでござるな」

「安全だと分かったらやってくるだろうさ。あるいはアンデッドモンスターとかな」

 モンスターが来てくれないと困る、という事はモモンには無い。

 警備任務なのだから何も起きない方がいい。

 採取した部位のこともつい忘れていたほどだ。

 生物の部位をアイテムボックスに入れたままと言うのは気持ち悪い。

「……あ、そういえば……」

 ゲイ・ボルグは相手に継続ダメージを与えると言われている。

 いや、傷の直りが悪い方だったか。

 一日過ぎたから呪いの様な効果は無くなっているのかな、とナーベの様子を見る。

「傷跡は無いな?」

「ご覧になられますか?」

「風呂に入る時、確認しなかったのか?」

 第九階層の風呂場には出来るだけ入るように言っている。

 特に昨日は入っていないと戦闘メイドとして、よりは女性として困るのではないだろうか。

 安い宿屋のシャワーは期待できないけれど。

 裸にするわけにもいかないので腕まくりだけさせた。

 色白の肌が綺麗だと思った。

 ミミズ腫れのようなものは見当たらなかった。

「復活後も継続ダメージが有効だったら泣くぞ」

 スキルを使い切った後で死んで復活すればその日にまたスキルが使えるか、というと無理だと答える。

 その応用として一度受けた呪いは死んでも明日まで解除されないとかは聞いた事がない。

 この世界では蘇生は特別で頻繁には行(おこな)われない。

 だからこそ、どうなるのかは分からない事が多い。

 頻繁に出来るナザリックが実験していないので、疑問があっても答えられない事が多い。

 それはひとえにデメリットを恐れる支配者の責任だ。

 気になっても実験しなかった自分が悪い。

 はい、すみません。と、自己嫌悪。

「たまにはのんびりするのも悪くは無いだろう」

 空は白い雲が浮かぶ程度で晴れ渡っている。

 気温も少し涼しい程度、なのだろう。

 寒さに絶対の耐性を持つのでよく分からないけれど。

 ハムスケは毛が豊富だから寒さは感じにくいかもしれない。

 ナーベは薄着っぽいが冬場も同じかっこうだったような気がする。夏場も。

 季節に合わせた装備は必要だろう。

 年中同じかっこうというのも。

 その代わり、支配者の衣装は毎回変わる。いや、皆さんも色々と変えて下さいよ、と言いたい。

 髪形も変えた方がいいのかな。

 ナーベの髪も実は肉体で色々と変化をつけられる。

 元の肉体がそもそも頭髪を持っていない。

 二重の影(ドッペルゲンガー)だから。

「ナーベよ、ソリュシャンのような髪型にしてみろ」

「あの金髪ロールですか?」

「黒髪のままで良い」

「か、畏まりました……」

 ナーベは髪を引っ張ろうとしたが動かない。

 それもそのはず、外装を一つしか持っていないナーベに他の変装はそもそも想定されていないから変化は付けられない。

 無理に変えようとすると肉体を引き千切る結果になるかもしれない。

「……ああ、いい。無茶なお願いだったな。無理をすると血まみれになってしまう」

「申し訳ありません。種族レベルを増やすご許可を頂ければ外装を増やします」

 そういえば、それが出来るんだった、とモモンは思った。

 だが、迂闊に種族レベルを変更するのはまだ少し怖い。

 職業(クラス)レベルで様子見をしている最中だった。

 新たに覚えた魔法はちゃんと発動することは確認した。だから、種族レベルも恐らくは可能だろう。

 問題は外装をどう増やすかだ。

 単純にレベルを上げればいい、というわけにはいかない。

 そこは仕事が終わってから色々と研究するしかないだろう。

 気が付いたら顔が無くなっていた、という事態は避けたい。

 あと、種族レベルが1しか無いのも可哀相だよな、と思う。

 パンドラズ・アクターは既にレベル100だから無理だし。

 こういう時、相談したい仲間が居ればいいのに。

 モモンは無骨な手甲でナーベの頭を撫で付ける。

 はた目には女性の頭をなでる黒き戦士という姿だ。

「改めて見るとお前達を創造した者達は凄いのだな。私など服装しかこだわっていない」

 美男子に作って上げらればパンドラズ・アクターもオーバー・リアクションの似合う存在になっていたかもしれない。

 もうちょっと努力していれば良かったかな、と少しだけ後悔する。

「んっ? 顔が赤いな。また風邪か?」

「い、いえ。て、照れているだけでございます」

 ナーベの頭に手を乗せている事に気付くモモン。

 上司が部下の頭を撫でているだけなのだが、と思うのだが何か変なのだろうか。

「うむ。日頃は命令するだけで何も褒美を与えてやれないからな。頭くらいはなでさせてもらおうかなと」

 さすがに胸を揉むのは不味いだろう。人目があるし。

 というか、部下を労わるのに胸揉みするのはセクハラオヤジだ。

「顔が破裂したり、使い捨てにしたり……。ロクな扱いをしてこなかった罰なのだろうな。だが、無事に復活してくれて嬉しく思うぞ。もちろん、他の者たちも含めての事だ」

「ありがたき幸せにございます」

 戦闘の記憶も保持してくれたし。

 精神支配されると記憶の一部が改竄等されて消し去られる、という事があるのかもしれない。

 確かに『記憶操作(コントロール・アムニジア)』で下手に記憶をいじると取り返しがつかなくなる事がある。

 既に存在している記憶の改竄による前の記憶の消失。

 シャルティアはそれが起こってしまったから数日間の記憶が消えてしまった、とも考えられる。

 普通に死んだものを復活させた場合、記憶の消失はそれほど起きていないのも蜥蜴人(リザードマン)達で実証されてきた。

「……だが、いちいち殺して試すのは危険だな」

「モモンさん?」

 ナーベの頭に手を置いたまま思考の海に没していたようだ。

「すまない。考え事をしていた。さて、異常は無いな?」

「我が身に関しては特に……。顔に違和感もございません」

 今のは外の様子の事だが言い方が悪かったようだ。

「……元の本性から考えれば目と口に入り放題だよな」

 何かで蓋をする、という可哀想な事はできないし。

 その後、モンスターの襲来が無く、一日が過ぎて三日目に突入した。

 兵士達の入れ替わりや清掃等を手伝っているとモンスターの出現が報告される。

 一般的な人食い大鬼(オーガ)が五体ほど。

 モモンは影の国の女王(スカアハ)の言葉が気になり、様子見がてら一人で戦ってみる事にした。

 間近まで接近して人食い大鬼(オーガ)達を観察する。

 特に変わったところは見当たらない。攻撃を受けてもなんとも思わない。

 一体を軽く切り伏せても手ごたえが変わったような気がしない。

「うーむ。何が違うのか分からん」

 拳で殴りつけると簡単に死んだ。

 今のモモンはレベル100相当の戦士となっているから物理攻撃は高い。

 黒く変色して強力なモンスターになるのか、少しだけ眺めたが何かが起きそうな気配は全く感じられなかった。

「おいハムスケ。少し戦ってみろ」

「はいでござる」

 言われたハムスケが武技などを使い、討伐していく。

 苦戦しているようには見えない。ほぼ一撃で倒した。

「手ごたえはどうだ? 昨日までと何か違うか?」

「人食い大鬼(オーガ)のことでござるか?」

 それ以外に何か居たのか、と言ってみたかったが我慢する。

「あいや、普通の人食い大鬼(オーガ)でござったよ」

「そうか。物凄く強くなったとかは居ないんだな」

「手ごたえからは……、普通でござるな」

 たまたまなのか。

 何かが浄化でもされたのか。

 冒険者組合でも急にモンスターが強くなった、という話しは聞かない。

 セバスとソリュシャンに他の冒険者ギルドでそれとなく噂を集めるように言っておいたが、まだ連絡が来ない。

 あるいは報告するような事が無かったか、だ。

 激しい戦闘の後だ。少し神経質すぎるのかもしれない。

 だが、第二戦を行(おこな)える状態ではない。

 レイドボス戦は連戦できるような戦いではない。

 

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