※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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P-2 鎌鼬が現れた

 アインズ達がエ・ランテルの視察を行(おこな)っている間、ヤントラはエ・アセナルに来ていた。

 既に破壊された大地は何(・)者(・)か(・)によって空けられた穴は塞がれていた。

 色々と大変な事態が起きていたのでアインズの語学レッスンは当人の希望で数ヶ月、休止する事になった。ただ、メイドへの勉強は続けられる。

 冒険者組合で大規模戦闘の考察は未だに続いていた。

「モモンさんの活躍を間近で見られないのは残念だが、見物できる様子ではないのは分かったよ」

「どういうモンスターが出たら大地が穴だらけになるんだ」

「竜王(ドラゴンロード)と戦ったって言われても信じるね、俺は」

 もちろん、見えない戦闘ばかりではなく、ナーベ達の戦闘も混じっていた。こちらは目撃例があるので噂に過剰な尾ひれは付かない。

 それらを聞きながら依頼書の一つを取るヤントラ。

「相変わらずお一人なんですね」

「仮に別の冒険者と一緒でも仕事は請けられますか?」

「出来ますよ。例えばアダマンタイト級の場合は殆どが上位の冒険者に依頼料が行きますが、基本的には依頼を受ける冒険者が基準となっております」

 依頼料を増額するかは依頼人の裁量が関わるけれど、基本的に増額は見込めない。

「勝手に増やしてはいけません。事前連絡は必須となっております」

 ヤントラは冒険者の規則の例外ばかり質問してくるので受付嬢も組合長などと相談して色々と勉強していた。

 悪質な冒険者というわけではなく、疑問点を純粋に突いてくるのでギルドとしては色々と感心されていた。

「丁度、漆黒の美姫ナーベとハムスケを借りたので、今回は二人と一匹で受けてもいいですか?」

「はっ? えっと……。モモンさんの相棒とですか!?」

「モモンは忙しいらしく、ナーベ達が暇になる、というので……。こういう場合は相棒がアダマンタイトだと駄目だとか?」

「い、いえ……。少し驚いただけです。同意されているのであれば……。依頼料は変えられませんよ」

「たぶん、大丈夫でしょう。なんでも、少し病気で身体が鈍(なま)っていた、と言っていましたから」

「そ、そうですか。あっ、では、こちらは一人用なので。三人……魔獣も含めての依頼書をお取り下さい」

 一人用があるのはソロで活動している人のためなのだろう。

 警備の依頼は毎日でもほしい、ということで一人からでも受け付けられている。

 最大で五人まで。

 それ以上の場合は二チームに分かれる必要がある。

 あまり多人数のチームが居ないので想定されていない、というだけだ。

 改めて依頼書を提出するヤントラ。

「規定の依頼に達成しているので昇進試験も受けられますよ。こちらはアゼルリシア山脈の山小人(ドワーフ)の王国の調査となっております。今回の依頼を終えたら詳細を伝えますけど、受けるかはヤントラさんの都合でいいです」

「分かりました。まずは目の前の仕事を片付けます」

「ちなみに竜王(ドラゴンロード)とかの討伐依頼ではないので穏便にお願いします、とギルト長から言われております」

「もしかして、評議国から抗議でもありました?」

 受付嬢は苦笑する。

「抗議というか評議員から直々に……。いえ、抗議ですね。来てもいいが襲うなよ、と……」

「すっかり嫌われたようですね」

「……本当に竜王(ドラゴンロード)にケンカを売ったんですか?」

「いいえ。聞き分けの無い竜(ドラゴン)を懲(こ)らしめただけですよ。あと、誰も殺してません」

 受付嬢は引きつった顔のまま笑った。

「評(・)議(・)国(・)に(・)は(・)迷惑はかけてませんので、戦争にはならないでしょう」

 抗議が来ている時点で迷惑をかけたとしか思えない。

「なっては困りますよ」

「勝手に行ったわけではありませんよ」

「そうですか?」

 ヤントラの噂は色々と楽しいのだが、不思議な人だと受付嬢は思った。

 人当たりも悪くない。とても真面目である、という点が何故か信じられないくらい酷い結果を生む。

 確かに暗い噂は聞かない。

 行動が想像を超えているだけだ。

 

 手続きを終えて外で待機していた『美姫ナーベ』とハムスケと合流する。

「美姫が苗字っぽく聞こえるのだが……。美姫って付けて呼ばないと駄目なのかな?」

 つい美姫と自分でも言ってしまうようになっていた。

「有象無象の下等生物(シロアリ)共が言っているだけだ。呼びにくいなら付けなければいい」

「拙者はナーベ殿と呼んでいるでござる」

 身長が二メートル近い巨大ハムスターが言った。

「モモンの武具を装備してきたら良かったかな」

 その時は口唇蟲を使わないといけないかもしれないけれど。

「……そういえば……」

「アルベドに作ってもらったものだけど、私の体型では大きすぎるな」

 モモンは割りと長身だ。

 死の支配者(オーバーロード)の基本的な背丈なのかもしれないけれど。

 本体も背が高いのだろうか。

 平均的なヤントラはハムスケよりは低い。

「期間は三日か」

「そう。あと、荷物の搬入つき。依頼料は安くても構わないか?」

「ああ。特に言及はされていない。生きて帰るのが主目的だ。あと、適度に戦闘させてもらう」

 モモンからは強者との戦闘はヤントラの指示を仰ぐ事と言われている。

 ナーベとしては戦わず敗走しなければならないのがもどかしいと思っている。今回は命令だから諦められる。

 アインズの盾となって死ぬ事は誉(ほま)れである。

 ただ、ハムスケは主の為に死ぬところまでの忠誠心は無い。生き延びて忠誠を尽くすことが大事だと思っている。

 荷物をハムスケに持ってもらい、現場に向かう。

 国境までは歩いていける距離だが今回はハムスケにナーベを乗せる。

 モモンが居ないし、ヤントラが乗る必要も無い。

 専用の防具と鞍(くら)をくくりつけているので無理して大股開きにならずに済んでいる。

 最初の頃は直に丸いハムスケに乗るので身体を支えるのが大変だった。

「今回はいつものメンバーではないけれど、よろしくね。ハムスケ」

「こちらこそでござる」

 現場に到着し、承諾書のスクロールを提出する。

「また君に会えるとはな」

 詰め所で現場監督をしている兵士が言った。

 入れ替わりが激しいので名前自体は覚えていない。

「今回もよろしくお願いします」

「早速なんだが妖巨人(トロール)が数体来ている。頼めるかな?」

「お任せ下さい」

 まず荷物を置いて、ヤントラは報告にあった場所に向かう。

 敵性モンスターは三体。一体だけ巨人(ジャイアント)並みに大きい個体が居た。

 山岳妖巨人(マウンテン・トロール)と呼ばれるモンスターだ。

「エンカウント(モンスター遭遇)率が高い地域なのかな」

 強そうなのでナーベ達に任せてみた。

 妖巨人(トロール)は魔法詠唱者(マジック・キャスター)には弱い。

 物理攻撃が強いし、再生力が高い。けれども酸などの攻撃を受けると再生しにくくなる。

「了解した」

 ハムスケは普通の妖巨人(トロール)の相手をさせる事にしてナーベは巨大モンスターの元に向かう。

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)・雷撃(ライトニング)〉」

 落ち着いて魔法を放つナーベ。

「ぐおお!」

 肉体を貫通していく魔法を受けて苦悶の声を上げる妖巨人(トロール)。

 傷口が焼け焦げて再生が起きない。

 続いて何発か魔法を唱えるナーベ。

 ハムスケは武技を使いつつ妖巨人(トロール)の肉体を削り取るように殴打していく。

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)・電撃球(エレクトロ・スフィア)〉」

 的(まと)が大きいので致命傷なのか分からない。

 それでも確実に攻撃は当てていく。

 斬撃が効きにくいので魔法を連発しなければならない。

「時間ばかりかかるな。〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉」

 相手の頭上に簡易転移するナーベ。

 続けて脳天から足元を貫くように複数回、電撃の魔法を唱える。

「ぐああ!」

 一方的に魔法を受けた山岳妖巨人(マウンテン・トロール)は地面に倒れこんだ。その後で身体から煙が立ちこめる。

 トドメとして股間にも電撃の魔法を放っておく。

 召喚物とは違い、消滅しないので本(・)当(・)に(・)死んだのか確認しにくい。

 しばらく動かなければ死んだ事にしようと思った。もちろん、死んだふりも想定して。

「〈剛撃〉!」

 と叫びつつ普通の妖巨人(トロール)の脳天を砕くハムスケ。

 無駄な事を言わずに行動で示していく。

「〈空斬〉! 〈縮地〉!」

 色々な武技を使って妖巨人(トロール)二体を翻弄している。だが、多用しすぎれば疲労で倒れてしまう。

 武技は一つ使うたびに集中力を消費してしまう。

「〈火球(ファイアボール)〉」

 ハムスケの戦況を見ながらヤントラが魔法を行使する。

「無駄に時間を取られていれば三日は耐えられないぞ」

「そ、そうでござった。すまぬでござる」

 もう一体の妖巨人(トロール)も魔法一発で焼き尽くされる。

 『雷撃(ライトニング)』は弱くは無いが貫通力があるので再生力の高いモンスターには効きにくい。

 冒険者のナーベはあまり派手な魔法を使ってはいけないとも命令されていた。

「部位の採取は君達に任せるよ」

「了解した」

 ヤントラはナーベに『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』を渡して詰め所に戻る。

 モモンとは違い、ナーベ達の活躍に関して特に言及しないヤントラ。

 もとより彼に何か特訓を受けよ、とは言われていないので自分の役目に集中するナーベ達。

 続いて人食い大鬼(オーガ)が五体現れたがこちらはナーベ達だけで討伐させた。

「私は防衛でナーベは戦闘を担当する。お互いの利害が一致した戦い方だと思うけれど」

「それに関しては文句は無い。戦闘経験を積むのが我等の目的だ」

 詰め所の兵士達は苦笑する。

 完全に仕事人の顔だったから余計な口を挟む隙(スキ)が見えない。

 新たなモンスターが現れるまでナーベは壁際で大人しくしているし、ハムスケは鍛錬に勤しんでいるのか、気合を入れるような声が聞こえている。

 魔獣と言われているけれど人語を解する。

 ヤントラは比較的、色々な事を話してくれる。

 散発的に人食い大鬼(オーガ)が来るがナーベが撃退していく。

 急所を狙えば『雷撃(ライトニング)』一発で済む。

 無駄にMPを消費しないので戦闘が終われば回復に入る。

「さて、そろそろ強者が来るだろう。今回はチームを組んでいるから私にも戦闘のチャンスがあるかもしれないな」

「む……」

 ソロプレイヤーはレイドボスとの戦闘の資格を得られない。

 それがこの世界でも適応されるのであればヤントラは決して危機に陥る事は無い。

 そして、今回はあえてチームとして依頼に参加している。

「ぎ、巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)が出現っ! 数は二!」

 ヤントラの予想が的中したかのように厄介なモンスターが出現したようだ。

「二体ならナーベ達だけでいいだろう。猛毒に注意すれば倒せない事は無い」

 毒無効のマジックアイテムは所持している。

 二つ返事でナーベは外に行き、ハムスケと共にモンスターと対峙する。

 巨大な蜥蜴(とかげ)型のモンスター。

 石化の魔眼を持っているとはいえ、眼を潰してしまえば怖くは無い。

 妖巨人(トロール)と違い、再生力はほぼ無い。なので落ち着いていれば倒せない相手ではない。

 硬い表皮を持っているけれど魔法詠唱者(マジック・キャスター)には関係ない。だが、ハムスケは少してこずるかもしれない。

「これでも『森の賢王』でござる。いざ、勝負でござる」

 意気揚々と走りより、頭部に攻撃しようとした。

 そこに横から何かが投げつけられる。

 慌てたハムスケは空中で暴れて無様に地面に落ちる。

「な、何でござるか!?」

 ナーベは魔法にて一体を撃破したところだった。

 頭が砕けた巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)が体液を撒き散らしたので素早く退避する。

 巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)を攻撃したのは物凄い速さで移動する何者か、としか分からなかった。

 敏捷が目で追えないほどだ。

「〈流水加速〉!」

 覚えたての武技を使うハムスケ。

 ゆっくりとした時間の中で見たのは忍者のような存在だった。

 一体だけだが武技使用中でもかなり早い移動を見せている。

「忍者でござるか!?」

 背中に背負った刀を引き抜き、鮮やかな手並みで巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)を切り刻んでいく。

 それも的確に関節を狙って。

 体液の噴出も避けていく。

「す、すごいでござる」

 その凄い忍者が巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)ごと何かでぶった切られた。

「………。はっ!?」

 何で斬られたのか分からない。

 衝撃波はハムスケのところには来なかったようだが、どこから飛んできたのか分からない。

 遠距離攻撃かと思い、避難するハムスケ。

 ナーベも敵が突然、分断されたので驚いた。

「……ん、強者が来たかもしれない。ハムスケ、避難しろ」

 そう言いつつナーベにも体勢を低くするように合図を送る。

「わ、分かったでござる」

 今の攻撃は明らかに斬撃。

 影の国の女王(スカアハ)の攻撃とは思えなかった。

 斬撃を飛ばす敵。それは身に覚えが無い。

 身を低くするナーベ。だが、ハムスケは低い体勢になりにくい身体だった。

 少し呆れ気味に周りに警戒しながら詰め所に戻る。

 ナーベは『兎の耳(ラビッツ・イヤー)』を使い、警戒態勢に入る。

 匍匐(ほふく)前進するように辺りに注意を向けていく。

 敵は遠距離からの斬撃を可能としている。

 戦士系のモンスターはそうそう飛ぶ斬撃は使わない。

 侍(サムライ)などの職ならばブレインとかが思い浮かぶのだが、ヤントラの感知外からの攻撃のようだから、相当な腕がなければ無理だろう。

 それこそ、至(・)高(・)の(・)四(・)十(・)一(・)人(・)くらいでなければ。

「……不可視化も出来る相手か……」

 襲ってきた忍者(ニンジャ)はモンスターのようだが上忍(ジョウニン)以上だろう。

 忍者(ニンジャ)系は色々と居るのだがアゼルリシア山脈に生息しているとは思わなかった。

 少なくとも出会った事が無い。

「半蔵(ハンゾウ)、風魔(フウマ)、飛び加藤(トビカトウ)。あとはなんだ……。まだ居たような気がするけど……」

 レベル80超えのモンスターだが、はっきり言えば詳しくない。

 どれかだとしても『ふ~ん』というリアクションだ。

 最上位モンスターは平安貴族のような奴だった気がする。

 一撃で倒されるくらいだから中位程度の忍者(ニンジャ)なのだろう。

 女忍者(クノイチ)ではないことははっきりしている。

「……まあいいか」

 考えるの面倒くさい。

 装備品を変えて高レベルモンスターに対処する防具を選定する。

 誰が来るか、楽しみにしながら。

 数分待ってみたが誰も来ない。

「……逃げたかな……」

 それはそれで別にいい。仕事の邪魔だし。

 ヤントラは相手が誰であろうと慌てないように辺りを見回す。

 ナーベ達は既に詰め所に避難していた。

 スクロールで数体の天使を召喚しておく。

 反応があれば攻撃が来るかもしれない。

 低位のモンスターでは来ない、とかあるのだろうか。

 黙っていても暇だから死体を集めておこうと思った。

 攻撃は斬撃なのは間違いない。武器でなければ魔法だが。

「取れそうな部位は……」

 出現するモンスターのリストは冒険者組合から貰えるけれど未確認だと当然、書かれていない。

 取れそうに無いモンスターも居る。

 人間型は殺人と変わらないから無理そうだな、と色々と呟くヤントラ。

 それからしばらく経って現れたのは獣系のモンスターと数匹の小鬼(ゴブリン)だった。

 それらは邪魔なので近づいた時に倒していく。

 大蛇とさして変わらない竜蛇(ワーム)も現れた。

 散発的なモンスターの出現はあるけれど妖巨人(トロール)などは出て来なかった。

「アゼルリシア山脈方面から霧の巨人(フロスト・ジャイアント)と思われるモンスターが見えました!」

 と、警戒していた兵士の一人が言った。

 霧の竜(フロスト・ドラゴン)と長年敵対している巨人(ジャイアント)系のモンスターと言われている。

 色白の肌に巨大な山小人(ドワーフ)と言われてもおかしくない髭モジャがイメージにある。

 ヤントラとしては別に興味があるわけではないが女体なら少し見物したくなってくる。

 女しか居ない種族とかあるけれど山小人(ドワーフ)にも女性が居る。

 地響きを轟かせてやってくる霧の巨人(フロスト・ジャイアント)は一体だけのようだ。

 体長は十メートル近いだろうか。

 色白というか青白い。無骨な装備品で身を固め、巨大な斧を背負っている。

 冬山に生息しているので冷気に耐性を持っているはずだ。

 わざわざ山から辺鄙な詰め所に何しに来たんだろうか。

 理由を聞くのが面倒くさいから殺しちゃおっかな~、という事が浮かんだが冒険者の規則では珍しいモンスターとか、生態系を崩すような事をしてはいけないとか言われていた気がする。

 この土地の頂点に居るモンスターは出来る限り殺してはいけない、だっただろうか。

 適度に痛めつければいいってことかな。

 身体が大きい割りにレベルは低そう。いや、難度という数値だったか。

 ここは声をかけない、を選択してみよう。

 ドスッ、ドスッ、と地面を砕くような力強い歩き方で青白い巨人(フロスト・ジァイアント)はヤントラを通り過ぎていく。

 僅かに冷たい風が通り過ぎた。

 向かった先はアーグランド評議国ではなく、平地が広がる平野。

 更に先には海しかない。

 水汲みだろうか。それならば反対側が近いはずだ。

 まあ、声をかけても仕方が無いだろう。

 よくよく考えたら襲いに来たわけではなく、通り過ぎて水汲みとか薬草取りとかに来たモンスターということもあるよな、とぼんやりヤントラは思った。

 武器を振り上げて襲ってくる奴は敵でいい。

 深く考えると冷や汗が出そうだ。

 確実に霧の竜(フロスト・ドラゴン)は襲ってきた。だから、問題なし。

「『不落要塞』」

 と、ヤントラは武技名を言ってみた。

 当然のように何もおきない。

 代わりにドズッという鈍い音が背中から聞こえる。

「……やはり使えないか……」

 がっかりしつつ治癒魔法を唱える。

 遠距離から飛来する斬撃。発生してからしか感知出来ないようだ。

 こんな嫌がらせをする人物には全く心当たりが無い。

 あるとしてもプレイヤーくらいだ。

 じゃあプレイヤーじゃん、犯人。

 いや、まあなんだ。自分の精神とアバターが乖離気味なせいか、意識すれば行動に支障が出る。

 どうやら、と、分析している場合ではない。

 遠距離で斬撃飛ばし。

 正確に攻撃を仕掛けてくる高レベルのモンスターで思い当たる者は居ない。

 知らないだけだろうけれど。

 一撃で分断できないところから、それほどレベルは高くないと予想する。少なくとも中位以上の忍者を一撃で倒す攻撃だから弱くは無いけれど。

 現在、装備している防具が優秀なのかな、とヤントラはぼんやりと思った。

 武技で斬撃を飛ばすものは知っているが、超遠距離でも可能だっただろうか。

 誰かの失敗武技がたまたま飛んできた、ということもあるのだろうか。もし、あったらそれはそれで厄介この上ない。

 とはいえ、巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)を一撃で倒したのは見事だろう。

 手負いだったけれど。いや、数撃は入れていた後だったか。

 詰め所は今のところ無事のようだ。

 後方から来る斬撃を気にしつつ人食い大鬼(オーガ)の一団を倒す。

 二度ある事は三度も四度もある。

 不定期で攻撃してくる場合は性質の悪い悪戯と変わらない。

 国境を挟んで左右は小高い山。潜む上では木々などを使えば容易い地形。

 あと小さな洞窟類。

 山間部を移動する狙撃手(スナイパー)ということもある。

 竜王(ドラゴンロード)のブレスではないのは確実だ。

 しばらく現場に待機していると服の汚れを気にせず、匍匐(ほふく)前進しながらナーベが近づいてきた。

 感知出来ないと体勢を低くしても意味がない気がする。

「散発的だが、攻撃は今のところ一定ではない。同じ場所でもないようだ」

「防御魔法で身を守っているといい。魔法よりは武技のような気がする。風の魔法だとしてもここまで長距離に有効なものは確か無かったはずだ」

 少なくとも二百メートル以上は離れている。

 空にモンスターの姿は無い。

 地面から、というのは絶対にない。

 北欧神話で剣の使い手だとすると誰が浮かぶだろうか。

 剣の英雄だとみんな斬撃くらい飛ばして来そうな気がする。

 虹色の軌跡なら『カラドボルグ』。

 光線は色々とあるので特定不能。

 あと、炎系。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なら『アスカロン』だろうか。

 敵ではなく自然現象、というオチ。

 山颪(やまおろし)がたまたま『かまいたち』のようになったか、鎌鼬(かまいたち)というモンスターなのか。

 妖怪系が居たユグドラシルにそんなのが居たのかは覚えていない。

「攻撃ではなくモンスター、ということもあるかもね」

「そういう斬撃のモンスター?」

「様々な神話モンスターが出てくる。居ないと断じるのは早いのだろう」

 正体を見極めるなら『生命感知(ディテクト・ライフ)』や『敵感知(センス・エネミー)』を使えば早い。

 アインズなら『感知増幅(センサー・ブースト)』かな。

「ディテ……」

 と、魔法を唱えようとしたら首を斬られた。

 景気良く血が噴出したので血管が切れたのだろう。

 細かい演出に少し驚く。

 そもそもこのアバターに、と分析している場合ではなかった。というか、狙われすぎだろうと思う。

 すばやく治癒して改めて魔法を唱える。

「うわぁ」

 結果はすさまじいものだ。

 分かる範囲全てに敵の反応がある。

 というか敵に包み込まれているとも言える。

 見えない敵。それが縦横無尽に動き回っている。

 不可視化の暗殺者(アサシン)集団。

 これほどのモンスターが居るからエンカウント率が高い、とか。

「自業自得とも言える……」

 死した魂がモンスターとして復活するなら、これくらいは普(・)通(・)かもしれない。

 行き場の無い魂が新たなモンスターを生み出すとすれば、の話しだが。

 仮説は実証しなければ証明足りえない。

 ナーベを抱えて詰め所に戻る。すると後方から地面に何かが激突する音が聞こえる。

「防御魔法を唱えておけ」

「了解した」

 ナーベを詰め所に入れた後、不可視化で控えているメイドを呼び出す。

 転移で消えて数分後に数十人のメイドが現れ、それぞれ魂喰らい(ソウルイーター)を召喚する。

 それも大量に。

「蹂躙せよ」

 一斉に現場を駆け回る魂喰らい(ソウルイーター)数百頭。

 それぞれ等間隔に移動してからスキルを発動して不可視化のモンスターを攻撃していく。

 それから円を描くように駆け回り周りに散っていく。出来るだけ間断なくスキルを使いながら。

 既定時間になれば魂喰らい(ソウルイーター)達は消えて、残った現場には夥しいモンスターの死骸だけが残る。

 予想通り妖怪系モンスター『鎌鼬(かまいたち)』だった。

 体長は三十から五十センチメートル程度の小型で両手は鋭い鎌の形をした刃物になっている。宙に浮くし治癒魔法も使える。

 高速移動と不可視化で翻弄する割りと手ごわいモンスター。

 暗殺に特化しているのでレベルも五十台と高め。それらが千匹ほど地面に倒れ伏している。

 もっと居るかもしれないけれど。

 まだまだ新手が来るかもしれないが、第一陣は駆逐できた。

 ずっと現場に居れば誰かが被害を受けていただろう。だから、このモンスターはつ(・)い(・)先(・)ほ(・)ど(・)大量に出現したはずだ。

 斬撃のスキルが巨大石化の魔眼の毒蜥蜴(ギガント・バジリスク)を凌駕しているところから強いのは確かだろう。

 一斉攻撃しなかったのは不可視化を解呪しなかったから、とかあるのかもしれない。

 至高の四十一人で無かったのは残念だ。

 それで安全かというとそうでもない。

 大量に撃破することで現れる強者が居るはずだ。と、考えていると先ほどの霧の巨人(フロスト・ジャイアント)が戻ってきたので無視しておいた。

 倒した鎌鼬(かまいたち)達を景気よく踏み潰して去っていった。

 丈夫な靴を履いているのか、鎌が刺さった気配は無い様だった。

 まずはモンスターを一箇所に集めておくか。

 

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