ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
掃除しながら新たな敵が現れていないか探りつつ死体を集める。
ちょっとした小山になった。
知らないモンスターの部位を持っていっても報酬が出るのか怪しいのでやめておく。
大量にあると不審に思われそうだし。
その後は散発的に低位モンスターが現れるだけで厄介なモンスターの出現は起きなかったようだ。
死体の山が気になるけれど、
「ご苦労様、ナーベにハムスケ」
「うむ。小型モンスターとはいえ数で押されればひとたまりも無いようだ」
低位のモンスターなら問題は無いだろうがレベルが低くても攻撃力があるのでナーベ一人では切り刻まれて終わりだ。
物理攻撃無効のスキルでもあればまた違うのだろうけれど。
交代を挟みながら二日目に突入。
現場の掃除や食事の用意を整えてから警備の任務に就く。
朝から現場には厄介なモンスターが一体現れていた。
眼球が集まったようなニメートルほどの大きさのアンデッドモンスター
「あれは現場を見張るモンスターなので、大人しいですよ」
「そ、そうですか」
精神的な繋がりは召喚主とだけだが何かを発見すればナーベに連絡が来るだろう。
「皆さんは高位モンスターが現れたら退避するんですよね?」
「ああ、ここ最近は見慣れない奴が出るようになって困っている。アダマンタイト級でもない限り対処が難しいほどだ」
低位モンスターを倒していると現れる高位モンスター。
もちろん警備の者も倒したモンスターに法則性が無いか、調べてはいる。
それらは全てヤントラの仕業です、と言ったら怒られるだろうな。
つい悪戯心が
「不可視化モンスターは見当たらないようなので、戦闘に支障は無いと思うのだが……」
「アダマンタイト級はレベル30台だから、余程の強敵でもない限りは任せるよ」
ナーベラル・ガンマならレベル70台後半だ。
あまり極端に実力を発揮すると色々と不都合な事がある、とアインズから聞いている。
本気を出せないのは命令だから耐えられるが、モンスターごときに苦戦したくない気持ちはあった。
「身体に違和感が無ければ防御を固めて待機」
「了解した」
それから一時間、何も起きなかった。
間断なくモンスターが現れるとは限らない。
一日いっぱい来ない事もある。
昼ごろになって
まばらにやってくるのでチームというわけではないのだろう。
強い冒険者が居る、という情報を貰っていないから襲ってくるのだろうか。
普通なら警戒するものだ。
人間が居る。餌だ。襲おう。
そんな思考で来るのだろうか。
「……バカだな……」
確かに弱い人間なら襲いやすいのだろう。
ナーベとハムスケに任せて戦況を確認するヤントラ。
楽をしているようだが、ナーベ達はあくまでリハビリのようなもの。
実践訓練を重ねて強敵に対処しようとしているだけだ。
レベルでは圧倒していてもステータス的にはあまり強くない。だから、余計な攻撃を受けてしまう。
盾となって死ぬというのならば長く生き延びて役に立てるようにならなければならない。
一瞬でやられては盾役の意味が無い。
頑強なアルベドのように。
創造主に盾役のような役目を負わされなかったとしても役には立ちたい。それがナーベの願いでもあった。
「そういえば、ハムスケは何を食べるんだ?」
「野菜とか小動物とかでござるよ。森にあるものは毒性が無ければ何でも食べるでござる」
ハムスケ用の弁当は持ってきているようだが、ナーベは飲食不要のようだ。
空腹を感じたら詰め所で休んでいいと言っておく。
「モモンと冒険に出ると大変だろうか?」
「色んなところに連れて行ってくれるので、新しい発見が多いでござる。殿達の実力はケタ違いでござるからな……。いつも驚き、感心しているでござる」
ナザリック地下大墳墓の中には外の世界に居ないであろう強者がゴロゴロ居る。
それらの中で自分はなんて小さな存在なんだと思い知ったハムスケ。
「え~と、不思議な御仁殿……」
「ナザリックの一員ならバスパと呼んでくれてもいいぞ。モモンのようにバレて困る名前は持っていない」
「そ、そうでござった! ば……スパー殿は殿達に匹敵する実力を持っているのでござるのか?」
「近いところは持っている、と言っておく。勝つか負けるかはやってみないと分からない」
「それはすごいでござる」
「第二陣が来たようだ。武技ばかり使いすぎるとバテるよ。小技もからめて最小の動きで倒していきなさい」
「了解でござる」
闇雲に突っ込めばいいわけではないけれど、的確に攻撃を当てる事が大切だ、というのは後で気がついたヤントラ。
ナーベは実力を制限されているから仕方が無いとして、剣の扱いもしっかりと教えなければならないのだろうか。
元が
低位モンスターをある程度倒すと中位モンスターが現れる。
逃がさず倒すのが条件なのだろうか。
簡単には判断出来ない。しかし、冒険者としての仕事を優先すべきだろう。
そのまま夕方になり、夜間特有の虫系モンスターなどが散発的に現れた後で仮眠を取る。
極端に厄介なモンスターは現れず、翌朝最終日の三日目に突入する。
絶対に最終日に上位モンスターが現れる、という保証はない。
そうなれば冒険者が来るたびに厄介な事態になっているはずだ。
あと、数百メートル規模のバカデカイモンスターはたぶん出て来ないだろう。
ユグドラシル公式のラスボス『九曜の世界喰い』は規模で言えば数百メートルの邪竜モンスター。
唯一ソロプレイヤーでも戦えるワールドエネミー。
仮にもし、このモンスターが来て倒してしまうとクリアと見なされて現実世界に戻されるのだろうか。
ラキュース、
封印された施設も放っておく事はできないだろう。
永遠の管理はさせられない。
あと、槍使いは打ち止めか。
「仕事は夕方で終了だ。それまで各自気を抜くな」
「はい!」
兵士達が見張りや他の詰め所などに向かっていく。
ナーベは一通り低位の魔法でも立ち回れるようになったのか、剣による戦闘を増やしていった。
ハムスケは尻尾を駆使して必要な時に武技を使う事を心がける。
ヤントラはのんびりと感知魔法で色々と探っていた。
戦闘はナーベ達に任せようと思った。
「〈
確実に行動不能に出来る場所を狙って魔法を唱える。反撃も想定し、口元を守るような仕草を取っている。
続いて現れたのはヤントラも見た事が無いモンスターだ。
獣人には違いが無いのだが丸みを帯びた格好に武器らしいものは携帯していない。
己の爪で獲物を引き裂くタイプかもしれない。
体毛は黒。
それが二体ほど詰め所に近寄ってくる。大きさは大人の人間よりは低めだろう。
「……特に要らない気もするが……。あれはどんなモンスターなんだろうか」
「それがしも知らないモンスターでござる。この地域特有の種族でござるかもしれない」
ナーベも知らないと言ってきた。
「あれは……、アゼルリシア山脈に住んでいる亜人で
と、責任者の兵士が教えてくれた。
「どうしましょうか」
「襲ってきたら対処してもいいと思いますが、お帰り願えたらいいですね。何か用があるなら別ですが」
無理して襲うほどの種族ではないし、今まで襲撃されたことも無いので兵士達も対処が分からないようだった。
人間を食べるのかまでは分からないようだった。
問題の
「我等は争いに来たわけではない! 仲間がケガを負っているのだ! あと、食料が尽きてしまった! 出来れば助けてほしい!」
最初は
手負いの
それは偽装ではないだろう。
ヤントラは罠でも近づく人間だ。だから、普通に彼らの下に行く。
ケガの度合いを確かめて治癒魔法をかける。それからいくつか食料を分け与える。
「す、すまない……」
「ちなみに亜人のようだが……。人間は食べられるのかな?」
「我々は鉱石を食べる。もちろん、生き物も食べはするが……、人間は我等の土地に来ないから……」
「分かりました。お疲れでしょう。なにか厄介なモンスターに襲われましたか?」
「ああ、
まずは詰め所の近くに避難させ、飲み水を与える。
山に住む亜人種で坑道内を住処とする好戦的な種族だ。
今は
強い者に弱い者は従う。そういう分かり易い社会構造だった。
ケガを負った
それは
分かっていることはアンデッドではないということ。
さっき来ていた強い忍者だろうかとヤントラは首を傾げた。
「アインズ様がアゼルリシア山脈に向かわれたとは聞いていない」
と、ナーベは言った。
先ほど連絡した時もナザリック地下大墳墓に居る事は確認した。
「人間との交流はあるのですか?」
「盛んかどうか……」
言葉が通じるようだから無い事は無いだろうし、敵視政策も取られていないのかもしれない。
ナーベは
山間部で暮らす亜人だが皮膚は硬いし、体毛も刺さるほどではないが硬めだった。
その皮膚を切り裂くのだから腕の立つ戦士なのかもしれない。
もちろん、山間部にコキュートスが向かう話しは聞いていない。自分だけが知らない、ということもある。
「野蛮な種族という訳ではないようだな」
話しぶりからナーベは
一定レベルの文化を持つ賢い種族。
「人間達よ。手厚い救護に感謝する」
「それで君たちは戻るのだろう? 大丈夫なのか?」
「あのモンスターが暴れて我等の種族が蹂躙されているかは分からない。だが……、戻らねばならない。我等にも家族が居るからな」
ヤントラは仕事を放棄できない。ナーベは救援する気は無いが気にはしている。
恩を売るべきか、という点で。
自分の判断が後に大きな失態に繋がってはいけないので建物の裏に回りナザリックに報告する。
『
「いかが致しましょう」
『
「畏まりました」
『……それで……、何か異常事態は起きたか?』
「『かまいたち』なるモンスターが現れました」
そう言うとアインズが唸った。
『妖怪系か……。確か、そいつらはチームを組んで襲ってくる結構強いモンスターだったはずだ。無事……だから連絡しているのだよな』
「はい。ほぼ一網打尽にしてしまいましたが……。何匹か捕らえた方が……」
『危険と判断したのであれば……。ナーベ達は戦闘に慣れるために送ったのだから、余計な仕事はしなくていい。無理は良くないぞ』
優しげな言葉だったので、ナーベは少し嗚咽する。
下々の存在である自分に勿体ない言葉をかけてくれるアインズに深く感謝した。
『
「いえ、未だに姿はありません」
『そうか。制限を設けた戦いを敷いて悪いな、ナーベラル。だが、それも危機意識を養うためには必要なのだ。必要な時にMPが足りない、では困るからな』
「はっ」
『クアゴアの件はお前からの報告を吟味してから考えるとしよう。無事にナザリックに帰還せよ』
「畏まりました」
『そうそう、ハムスケも一緒にな。あいつは……、特に問題は無いだろう』
「はい」
連絡を終えてナーベは詰め所に戻る。
敵として来るならば迎え撃つまでだ、という意思を持って。
無闇にモンスターを蹴散らすのも悪いとは思っている。けれど黙って殺されるわけには行かない。
大勢の
「人間達の分は大丈夫なのか?」
「一日ごとに物資の入れ替えをする。それに備蓄にも余裕があるからな」
「すまない。一族を代表して感謝する」
「ついでに君たちを襲っているモンスターの事も聞きたいな。剣を持つモンスターというと人間くらいしか居ない気がするのだが……。大勢で襲う山賊か何かか?」
「敵は一体だけだ。人間のような姿だが……。見たことも無い派手な鎧をまとっていた」
派手な鎧をまとう英雄は意外と多いので特定するのは難しい。
金色でも何体か居る。
上半身が裸でも特定は出来ない。
「それに該当する敵がたくさん出てくるのだが……。他に何か特徴的なことはないのか。必殺技の名前とか」
「必殺……。それかどうか分からないが……。ごあぁぁと叫んでいた」
それじゃあ分からないよ。
人の言葉を話さない
派手な鎧を着た
「分かりました。会ったらぶっ殺しておきます」
「や、ヤントラさん。
と、苦笑する兵士。
説明が分からない時は苛々するものだ。だから理解できないわけではない。
初めて出会う敵ならば仕方が無いだろう。
この地域に現れる未知の強敵たちは自分たちもうまく説明できた試しはないから。
「種族名で悪いが、
「そ、そうか。確かに我等は鉱石くらいしか持ち合わせが無い」
「どの道、私は昇進試験で
「……ん……」
依頼相手が
「……いや、これ以上は何も言うまい。貴方達の恩に報いるためにも……。次に会う時、敵同士であるならば、それはそれで不幸な運命を呪うだろう」
「……一応、事情は話しておくので簡単に絶望しないで下さいね。……一方的に敵だから殺す、というのも不健康でしょうから」
と、ヤントラは小声で
「そ、そういうものか? 人間社会はよく分からないが……。もし、敵対であれば八氏族が総力を挙げて抵抗する」
「了解しました。じゃあ、さっそく君達を捕虜……、失礼。無事に帰還できることを祈るよ」
「んっ!?」
「ヤントラさん、物騒なことは言いっこなしですよ。
お互いを宥めるように言う兵士。
荷物を持たせた後で敵の気配が無いか、確認してから
夕方になり、仕事の完了を告げられてエ・アセナルに戻る。
最後に大物は現れなかったが厄介そうな敵の影は確認出来た。
ナーベとハムスケも無事だった。
念のために大きなケガがないか確認はした。
「ナーベ達はこの後は帰還するのか?」
「報告書をまとめる為に帰還する」
「分かった。チームらしいことは出来なかったが、また組めたらいいな。……引き抜きはしないぞ」
「ご命令次第だ」
途中で分かれると問題があるかもしれないので冒険者ギルドに向かい、仕事の完了を告げて報酬を貰う。
その後で解散する。
ヤントラは『マグヌム・オプス』に戻り、大まかに点検していく。
一般メイド達の身回りは従来どおりだが、素材や金貨の状況は確認しておく。
ほぼ全自動化されているような施設だが、放置するのはまだ怖い。
砂漠地帯に置いてあるシリカと石鹸の製作も残っている。
程よく忙しい毎日はそれ程悪くは無いのだが、単調すぎると飽きてくる。
ゲシュタルト崩壊が目下の敵かもしれない。
一通りの点検を終えた後でリ・アインドルに向かい、ゆっくりと休息する。
お抱えのメイドによる転移は便利だが、多用は飽きを生むかもしれない。
移動に時間ばかりかけていたら危機に対して後手後手になるのも必定。だから、もどかしい。
次の日は子供達と食事をした後でもう一度、エ・アセナルに赴く。
石鹸は製造に時間がかかり、他の素材もまだまだ必要だ。
数ヶ月は手が出ない。
ンフィーレアはエンリと共に魔導国やバハルス帝国の農業で忙しいし、イビルアイも国の催し関係で飛び回っている。
冒険者組合に向かうとハムスケが居た。
「少しばかり滞在する事になったでござる。なにやら不穏な空気を感じるので殿から都市全体の調査をおおせつかったのでござる」
「外に居る間は退屈しないのか?」
「獣ゆえ、別に人間と馴れ合わなくても問題は無いでござる。拙者は元々は自由気ままな『森の賢王』ゆえ」
退屈しないのであればヤントラも連れまわすような事は考えなくていいようだ。
特殊な種族のようだし、仲間が居ないと寂しいはずだ。だが、無駄に増殖されては困る。
それとは別にふさふさの毛皮は相変わらず柔らかい。
ずっと外で生活しているから不潔かと言われると、そうでもない。
ナザリックに戻れば毎日のように身体を洗われる。モモンが使役する魔獣が不潔では困る、というので。
暇になるナーベラルの仕事にもされているほどだ。
その後、冒険者ギルドに入り、中の様子をうかがうとナーベが大人しく周りの冒険者の話しを聞いていた。
自分から話さなければ大人しい女性に見える。ただ、口を開けば下等生物呼ばわりする。
軽く一瞥した後で受付嬢の元に向かう。
今日の目的は『昇進試験』だ。金級への。
ここまで四年かかっている。他の冒険者もだいたい数年かけてミスリルやオリハルコンになるらしい。
一定数の依頼をこなせば誰でも最上位にいけそうだが、そこは人となりや仕事をする内容、他の者たちの印象や依頼人の印象も加わるだろう。
ただ強いだけでは上に上がれない。
命のかかった仕事が多いから気軽に上を目指すと命を落としやすくなってしまう。
特に最上位のアダマンタイト級は国の要請を受けて国家防衛の義務が課せられる、とか。
もちろん、戦争には参加できないが下の冒険者の模範となるように色々と束縛が多くなる。
それを知らないモモンは毎回、影武者を使ったり、面倒ごとを避けようと必死だ。
「昇進試験を受けられる場合は金級と白金級の冒険者と共同となります」
「私は絶対に一人じゃ嫌ってわけじゃないですよ」
と、言うと受付嬢は苦笑する。
「そうですよね。期間は二週間ほど。現場までは険しいので、充分な食糧確保もままなりません」
冒険者の他に食材などを運ぶ山岳専用の荷物運びも同行することになった。
試験内容はアゼルリシア山脈にある
今回が初めてというわけではなく、王国領内のいろいろな場所に冒険者を派遣することは珍しくないという。
鉄級と銀級が野盗のねぐらの調査だったりする。
他国の情勢は王宮内で育てている諜報部隊が担当する事が多いとイビルアイが言っていた。というか、イビルアイ自身も諜報員のような事をしているという。
秘密にしないのは『八本指』の掃討に協力を仰いだ事と『マグヌム・オプス』の中だけの話しにしているからだ。
「準備期間は二日。二日後にまた来て下さい」
「分かりました」
相手の都合もあるので即日行動とはならない。
他人との協調性は中々に難しい。
ソロプレイヤーのような気楽さは無い。
長期間、留守にするから色々と命令を与えておかなければならない。
砂漠においてきたシリカ担当は撤退させておく。
黒い仔山羊は処分するしかないだろう。石鹸は相当量は倉庫に保管しているから、問題はない。
特に目新しい事柄が無いので、ンフィーレアとイビルアイに任せても大丈夫そうだった。
結構な時間が経つが大きな混乱も無く無事でいてくれた。
建設中の『
とはいえ、安心している時に限って要らぬ混乱が発生するものだ。アインズのように。
レイドボス化はヤントラも想定していなかった。
通常は特定の場所に配置されているボスモンスターが殆どだから雑魚モンスターがボス化するなど覚えが無い。
この世界特有の現象であるならば仕方が無い。
きっと
敵はプレイヤーだけではなく変貌する世界そのものかもしれない。
ナザリックが苦戦する原因の一つが『
変化した武器は奪えない。少し残念だが、専用スキルの為の形態変化であれば仕方が無いと諦められる。
ヤントラが欲しいのは槍ではなく刀剣類。
接近戦を好むので飛び道具は魅力が無い。理由としては飛ばすのは矢だから。
弓で殴るわけではない。
見回りに来ていた一般メイドを連れて七の宝物庫の地下二階に向かう。
「ここは特に問題は無い。上も取り出しは無いだろうけれど」
「はい」
「一部のメイドと隠し部屋を開けておくから掃除とお世話をお願いしようかな」
「隠し部屋の清掃ですか!?」
メイド達はそれぞれ驚く。
施設の重要性は度々、アインズから言及されていたので開放されることはセキュリティの低下に繋がるのでは、と思った。
「最重要がいくつか残っていればいいだろう。君たちは外に情報を出したりしないはずだし」
ナザリックのメイド達は他国に情報を売るような者は一人も居ない。
「施設の責任者に従いますが……」
「一の宝物庫以外はそれほど重要な部分は無い。作業している場所は入ると汚れたり、金貨で埋まったりするから立ち入り禁止だけど」
「はい。それは存じております。六の宝物庫は常に汚れる場所だと……」
「君達に心配されるようになるとはね」
「我々は……、アインズ様に仕事のご許可を得ておりますので」
「お仕事を下さるバスパ様には深い感謝の念を抱いております」
「文句はありませんが、心配で……」
至高の存在に連なる者の
疑問を挟まずに言う通りにすればいいのかもしれないけれど、何かの問題が発生してはいけない。分からない事があれば聞くように命令は受けている。だから、心配になって疑問点をぶつけている。
「最終的に更地にする予定だ。いつになるか分からないけれど。その時までには魔導国で君達にいろいろな仕事が与えられるのではないか?」
「そうだとしても……。いえ、我がままを言っている場合ではありませんね」
「我々はナザリックに属するもの……」
「最後の時までお仕事はしっかりとやり遂げて見せます」
真面目な受け答えが出来るメイド達。
「では、よろしくお願いします」
「畏まりました!」
十人規模の威勢の良い返事にヤントラは満足する。
その後で隠し部屋の位置や動かさないメイド達を七の宝物庫に運んでいく。
金貨とアイテムの部屋は今のところ封印。
それ以外だと大浴場となるのだが、色々と即席で作っていた為にどれが必要なのか分からなくなってきた。
その日の午後に珍しい客人が現れた。
聖王国付近で仕事をしている悪魔のデミウルゴスだった。
共は一般メイド数人。
「お邪魔しますよ、バスパ様」
丁寧な挨拶をする紳士的な佇まいの悪魔。
デミウルゴスは今日が初めて、というわけではない。アーグランド評議国との会談以来となる。
他の者と同様に同じ服を着ている、という印象を受ける。
装備品が同じなのは仕方が無いかもしれないけれど、創造主達は普段着を多く手に入れていなかったのだろうか。
少なくともアインズはたくさん持っている。
ゲーム時代ではないのだから、と言うのは簡単か、とヤントラは少し残念に思う。
自由に着替えができないのは不便だろう。
「……守護者達は他の服を持っていないのか?」
「戦闘に特化したものですからね。外出する時は信用できる装備にしているのです」
悪魔は肉体強化が出来るし、装備品にこだわりが無いかもしれない。
風呂にはそれぞれ入るとはいえ、だ。
修繕できる装備品だから頓着しない事もあるかもしれない。
「言いたい事は分かりますが、大丈夫ですよ」
落ち着いた口調で言うデミウルゴス。
彼の創造主であるウルベルトとは旧知の間柄。いわゆる
現実では数人しか交流を持たなかったが、自分は色々とあって知らない人間と会うのは難しい状態だった。代わりにゲームの中では多くの交流があったので、それなりに充実していたのではないだろうか。
全てのプレイヤーがオフ会をせずに互いを探り合うような物騒なことは無く、ゲームはゲームとして割り切るのが多い。
少なくともヤントラはそう思っている。
中には現実にまで影響するような事も無いとは言いきれないけれど。
それぞれの趣味をNPCにぶち込んだせいで色々と厄介な事態になってますよ、創造主さんたち。と胸の内で叫ぶ。
もし、自分がNPCを作るとしたらどんなキャラクターがいいだろうか。
天使系だろうか。
美男美女は当たり前。
と、考えているとデミウルゴスの尻が目の前にあった。
これでオナラで返事をしたら面白いだろうな。というか、どのキャラも面白そうだ。
少なくとも反応のあるキャラ限定。
環境最悪の酷い場所で育った
イビルアイに鞍替えする気は無いけれど、ちゃんと愛そうという気持ちはある。
たっち・みーやウルベルトがこの世界に来ていたらどう思い、何を感じるだろうか。
聞きたい気持ちはある。だから、居てくれ、来てくれと願ってみたい。
「背中に何か付いているのでしょうか?」
尻尾以外は特になし。
背筋がまっすぐ伸びた姿勢のよい姿に少し見惚れる。
全ての悪魔が紳士的なイメージ通りではないけれど。
高位の悪魔でも気持ち悪いものは居る。
デミウルゴスの目的は保存した献体だろう。今の六の宝物庫は活動を停止している。
解体作業は封印中。一の宝物庫も使用している部屋は封印中。アイテム類のある二の宝物庫と五の宝物庫も封印中。大浴場は使用中だが、半分は封印中。ただし、仕切り壁程度だが。
「……膨大な数は驚嘆すべきものを感じますね……」
七の宝物庫の地下二階の様子を見てデミウルゴスは何度か頷く。
「『
「遠慮は要らないよ」
「はい。オリジナルと共に成長するという複製は
「精神が宿らない肉体は目覚めずに死ぬって意味だよ。特に『
この魔法は制限があるので色々と説明が複雑化している。
『新たな複製で復活した時』は既に作っていた二体目は死んでいく。
何らかの事情で『復活できなくなった時』も作っておいた複製達は死んでいく。こちらは老衰が分かり易い例えかもしれない。
ヤントラも言っていて混乱してくるので説明書が必要だ。
「予めたくさんの複製を用意する事が出来ない。既に作っている二体目以降は一体目に精神が宿った時点で複製が作れなくなる」
「二体以上の複製を作ったとして精神が宿るのは最初の一体だけ」
複製に失敗したものは途中で腐って死んでいく。
召喚魔法の精神的なリンクのように、繋がりが切れてしまった時点で複製体が滅びていく感じだ。
それは
死体に
「宿った後で二体目の複製は目覚めないし、それから改めて『
「また作り直す作業に入れば出来なくは無いかもしれない。造り置きは出来ない、ということだろう。あくまで肉体の予備を作って復活をうかがう魔法だ。問題は『
デミウルゴスは一つずつの献体を眺めつつ、感心していた。
「『
「おお、そのような魔法があるのですね」
「こちらはまず複数体を用意しておく。死ぬたびに作った順番に精神が宿っていく万能なものだ。ただし、不死化するわけではない。等しくオリジナルと共に成長していく」
「素晴らしい魔法のようですが……。どのようなデメリットがあるのでしょうか?」
「『
アインズも金のかかる複製だと知っているから無闇に作らない。
一体につきユグドラシル金貨二百万枚。それを数十万人に使えるか、と言われればアインズはきっと無理と答えるだろう。
現地通貨だと金貨二百枚だとしても充分な資金を確保しなければならない。
その資金を確保する為に田畑を開拓しているし、産業を充実させようとしている。
「あと、高い位階魔法だ。乱発が出来ない」
「……アインズ様が手を出さないのは、そのようなデメリットからですか……」
「アインズもこんな事の為に散財しようだなどとは思わないだろう」
ほぼノーコストの
もう一つ大事なのが綺麗に解体することだ。雑だと複製どころか死体と化して魔法が効かなくなるおそれがある。
複製を作るメリットが無ければならないことも重要だ。
アインズは
『悪用方法』は渡してあるのでじっくりといずれは研究するだろう。今すぐしなければならないのは魔導国の安定だ。遊ぶのはもう少し先かもしれない。
「肉体だけなら……。ああそうでした。アインズ様は魔力系
「アンデッドも条件を整えれば
「アンデッドは滅びやすいですから複製は作りにくいでしょうね」
ユリの複製が居るのはデミウルゴスも知っている。
「魅力的な方法だとしてもアインズ様は我々より理性的でしたね。つい欲に目がくらんでしまいましたよ」
「あと、当たり前だがオリジナルが生きる事に同意していないと作りにくい。多くは明日に希望を持つ者だが……。まれに絶望している者が居る。その場合は魔法の効果が消えて、そのまま腐敗する。千体の内、三体くらいの割合だが」
「こっそり部位を取られた場合は成功するものですか?」
「成功するんだろう。デミウルゴスの前だが……。あまり追い詰めてはいけないよ」
悪魔とはどういう存在か、ヤントラは分かった上で言っている。それにデミウルゴスは反論しない。
それは正論だと分かっているから。
賢い悪魔はとても打算的だ。
自分に有利になる情報のためなら多少の投資も惜しくないくらいに。
「中に満たされている溶液は一度、献体を取り出したらどうなさるのですか?」
「浄化して捨てる。密閉すると汚れにくいから、出すたびに入れ替えるようにする。効果が無くなるかは分からないけれど」
「酸化防止というやつですね」
「色々と二重三重に対処しているけれど、無駄な行為かも、と思いつつやっている。気がかりを残さないようにね」
丁寧な対処により、デミウルゴスが見ている範囲で溶液の濁りはほぼ見当たらない。
水平に保たれた浮遊する金属板。
埃一つ積もっていないのではないかという清潔感。
温度管理も徹底されているのかもしれない。
「膨大な数を保存するには広い空間が必要ですね。ナザリックも無限の広さがあるわけではありませんから、効率の良い収納術は必要でしょう」
色々と観察を始めるデミウルゴスにヤントラは特に何も言わなかった。
容器類はナザリックでも用意できるものだが保管施設であるこの宝物庫自体の設計思想とかに興味を覚えたのか知れない。
高い天井を遊ばせない積層構造。密にすると見回りがしにくいし、天井に配置している
腐食しにくい金属板は衝撃に強い。石材なら壊れて崩れるので。
「この調子では解体風景も単調なものなのでしょうね」
「最初は期待してしまうものだよ。仕事と割り切ると意外と耐えられる」
「複製は我々が思っている以上に夢があるわけではなさそうだ。高い位階魔法は
単調な攻撃魔法はあまり代償を必要としない。
MPがコストだから、ということもあるかもしれないけれど。