ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
状態や保管方法。高さなどを測っていたデミウルゴスは作業を終えた後、一礼して去っていった。
来客があっても見せるものが無いのは宝物庫だから仕方が無いとしても少しは気にする。
解体ショーをするわけにもいかない。
魔法だとコストが色々とかかるけれど建築資材を駆使すれば作れなくは無い。もちろん、重さの問題を克服しなければならないけれど。
誰も居なくなった後で何人かのメイドを呼び、それぞれ指示を与えていく。
『マグヌム・オプス』の重要な仕事を任せる特別なメイド達が存在し、それらはイビルアイ達も知り得ない。
自分に何かがあれば全封印を解く権限も与えている。
ただ、悪用を防ぐ為にいくつかの条件をクリアしなければならないけれど。
簡単にクリアされては世界が崩壊する。だからこそ一般常識を持つ者には解き難いものとなっている。
それを簡単にクリアできるものはペロロンチーノだけかもしれない。
エロの師匠だから。
正攻法では難解だろうけれど非合法だとびっくりするほど簡単に突破されてしまう。
そうなる時は諦める。
抵抗し続ける事は世界にとって良くないだろう。
諦める代わりに頑張ってくれという意味合いもある。
一通りの作業の後は装備品の点検だ。
アゼルリシア山脈の奥深くにあるという
ヒゲモジャの小人のおっさんには興味ないが可愛い女の子は居ないものだろうか。
それとンフィーレアとイビルアイに施設に関するメモも用意しておかなければ。
よく考えたらエ・アセナルから向かうのは非効率的だ。場所的にはリ・アインドルが近いだろう。
リ・ウロヴァールとエ・レエブルも近いけれど。
旅行だと思えば楽しみではある。
二週間なら充分な食料が必要だろう。便利な指輪はあるけれど。
冬山だろうから防寒対策も必須。
他の冒険者の面倒も見る必要がありそうだから、余計な荷物が増えるんだろうな。
せっかく溜めた備蓄を無駄にするのももったいない。
銀級冒険者に
もし滅ぼせ、なんていう依頼だったらリ・エスティーゼ王国はどうかしているのか、ヤントラの常識の方が間違っているのか、だ。
傍若無人な国の文化でも受け入れなければならないのだろうか。
嫌だな、そんな文化。
エロいなら許容できるけれど、とヤントラは思う。
少なくとも路上で性行為している文化は無いようだ。
夏になったら全裸で歩き回ること、という法律も無い。
まだ自分の思っている常識はそれほど乖離していないのだろう。
そんなことを考えながら荷物の整理が終わった時は夕方。一般メイド達が来る時間になっていた。
毎回、ランダムな人数が来るようだが、それぞれ仕事が割り振られており、その中で休日に入っている者たちだけが訪れる。
「そういえば、六の宝物庫は活動を停止していたっけ」
牛と羊は既に容器にて保管しているので六の宝物庫は動かないメイド達以外は誰もいない。
まずメイド達を運び込み、それから清掃を頼むとメイド達の目が輝いた。
「細かい毛が舞うと思うので予め水を撒いておくよ。作業はそれからだ。浄化方法はもう覚えたかな?」
「はい。大丈夫です」
「排水溝には
「広大なお部屋ですものね。少人数では一部屋が精一杯かもしれません」
「いつも綺麗にされているので清掃に意味があるのか悩みます」
常に汚してくれれば、という欲求も無いわけではない。
ヤントラはメイド達が感心するほど清潔好きだ。
清潔にしないとモンスターが発生するというのはユグドラシル時代にあったことだ。
モンスターの血液から生まれるアンデッドや眼球が独自に動き回るモンスターというのが居たので。
場を浄化する魔法があるくらいだから、清潔にする意識も自然と身についてしまう。
死体を放置するとアンデッドモンスターとして復活するかもしれない。
ゲームと違ってより繊細な行動が取れるから、何が起こっても不思議ではない。
「壁については君たちの目線まででいいよ。天井まで高いから徹底的には出来ないだろう。このところぼ~っとする事が多かったけれど、何か装飾でも施すよ」
いずれ更地にするけれど、と思ってはいけないのかもしれない。
せっかく作った施設だからメイド達の仕事がしやすい環境造りもギリギリまで整えてあげるのも悪くは無いだろう。
「丁寧に作業をすると数日はかかりそうだね」
「少人数での作業ならばそうなるかもしれませんね」
「元の部屋の倍も広いから……。出来る所まででいい。数日かかると延々と掃除し続ける事になる気がするな」
仕事が間断なく続けられればメイド達は喜ぶだろう。だが、使用したい時のタイミングが取りにくい。
計画書などを作らないと駄目だろう。
とりあえずとして今居る人数で清掃をさせてみる。
いちいち上の階に上がる必要はないけれど所々封印されているので移動が不便な時がある。
特に五の宝物庫。
扉を開けるに開けられない状態だ。
割りと頑丈なので建築に携わった人達に深く感謝する。
九割方のヤントラのメイドは七の宝物庫に寝かせている。こちらのお世話もしなければならない。
広い空間とたくさんのメイド。たくさんの容器。
一般メイドが一日で全てを完了するのは至難の技だろう。
程よい忙しさは一般メイド達にとっては喜びだ。
なおかつナザリックでの仕事も間断なく続けられる。
もちろん、ヤントラ側は突然仕様変更するので油断は出来ない。
メイド達に命令を与えた次の日にはエ・アセナルに向かう。
見張りとして監督役の戦闘メイドが来るだろうから任せても大丈夫だろう。
特にシズは常に待機している。
荷物の用意を整え、エ・アセナルに向かう。
本来なら馬車移動などで数日、または一週間ほどはかかる距離にある都市だ。
素早い移動が出来るヤントラには距離感が分からなくなる事の一つだ。
中には転移で移動する場合もある。
殆どの冒険者は地元で活動する。多くはヤントラのような事が出来ないからだ。
モモンもハムスケを使い、移動するので都市間は意外と時間をかけている。
全ての者が転移魔法を使えるわけではないし、ヤントラのような様々な
そこは優遇された者の強みかもしれない。
イビルアイも割りと移動は早い方だ。
まず冒険者ギルドで噂話しに聞き耳を立てる。
大きな混乱や騒動は起きていないようだ。
「大きな
一日二日で大きな変化は無いと思い、受付に向かう。
「昇進試験を受けられますか?」
「はい」
「
と、受付嬢と共に会議室に向かう。
どの都市の冒険者ギルドも建物の造りは同じだ。
多少の差異はあるかもしれないけれど、よその都市から来ても混乱しないように、という配慮かもしれない。
会議室には既に冒険者チームが待機していた。
毎回思うが試験を受けなかった場合は彼らはどうなるのだろうか。
「事前に連絡するので大丈夫ですよ。確かに貴方のような昇進を受ける人が毎日現れる保証はありません。ですが、一定期間待機してくれる冒険者チームがいるのです。彼らもヤントラさんが受けられるというので連絡した次第です。即日にチームを揃えられるのは銅級くらいでしょう」
と、受付嬢が答えてくれた。
丁寧な対応はとても助かる。
「特にヤントラさんは各都市で活動なさるようですから、馴染みが無いかもしれませんね。一般的に冒険者はホームポイントの都市から離れない傾向にあるので……。だいたい必要な人材は集め易いんです」
「なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ」
中には冒険者が集まる場所で個人的に一緒に冒険しましょう、と声をかける場合がある。
それは互いに同意していれば依頼を受けるのに差しさわりが無い。
絶対に受付嬢の許可が必要ということも無い。
冒険者の規則を守るかぎりにおいて、と付くだろうけれど。
「仮にナーベを連れて来た場合は昇進試験は無効ですか?」
「……銀級の昇進ですからね。この場合は急に雇い入れるのは無効扱いになるかもしれません。もちろん、昇進するためだけっていう場合です」
元々チームを組んでいれば問題は無いけれど、後で追加されると手続きが大変になる。
「勝手は許さないと……」
「そうですね。冒険者の為にならないでしょう」
「暇だから一緒に行く、という場合は?」
「断ってもらうかもしれませんね。試験は他の依頼と
控えにメイドが数人居るけれど。不可視化して外で待機しているとは思うまい。
それはそれで卑怯のようだが、今は不測の事態を避けたいし、無駄な犠牲は生みたくない。
抜け道的な質問に受付嬢は怯まずに答えてくれるのはありがたかった。
アイテム抜きならば一人でも達成する自信はある。
旅の仲間は大事にしなければならないだろう。
「では、改めて……。今回の試験に同行なさる冒険者チームの皆様です」
「初めまして、ヤントラです。お世話になります」
「こちらは金級冒険者チーム『フォーサイト』と白金級冒険者チーム『煉獄聖典』の皆さんです」
受付嬢の言葉にヤントラは首を傾げる。
れんごくせいてん、と聞こえたので。
待機していたのは八人。
それぞれ四人ずつ離れて座っていた。
男女混合のようで綺麗に半分ずつに分かれている。
「まずはこちらの『フォーサイト』の皆さんから」
受付嬢に促されて立ち上がったのはリーダー格の男性。
もう一チームも男性がリーダーのような気がした。
「初めまして、フォーサイトのリーダー『ヘッケラン』だ。俺達の仲間はイミーナ、ロバーデイク、アルシェ」
耳が少し長く華奢な体躯の女性がイミーナ。
見るからにがっしりした男性がロバーデイク。
小柄だが杖を持っているので魔法詠唱者と思われる女性がアルシェ。
「『煉獄聖典』のリーダーの『ゼッデル』だ、よろしくな。こっちはアーニャ、ポターゼイ、ラナティエル」
それぞれ一礼していく。
煉獄聖典は全員が人間のようだ。というか、全員だった。つい
無駄な説明がない分、気が楽だが、すぐ死にそうで名前を覚えられる自身が無い。
長い付き合いになりそうに無いし、顔だけ覚えて敵かどうかだけ分かればいいような気がする。
男性陣はそれほどでもないが女性陣はヤントラを見る目が少し冷たい気がした。
変態の噂でも広がっているのだろうか。
風呂には入ってきたから臭くはないはずだ。
それとも上半身裸とか。いや、ちゃんと厚着している。
「挨拶が済みましたら席に……」
立っていたのはリーダーとヤントラの三人だけ。
席に着いた後で受付嬢はテーブルに何枚かの羊皮紙を広げる。
依頼内容と地図、報酬などが書かれている。
そして、それはチームごとに配布される。
最初はやたらと多くて疑問だったが、それぞれに配布する為に複数枚用意されていたのだと今は分かる。
「ヤントラさんの昇進と共に皆様にはアゼルリシア山脈にある
「交渉ですか……」
「険しい山の中にある国ですからね。期間は二週間ほど。交渉の他には現地調査も時間を許す限りしてもらいたいです。どんなモンスターが出てくるのか、後続の冒険者の為に」
「交渉決裂の場合は?」
「彼らは酒を渡せば大抵はご
ヤントラとは仲良く出来そうにない。
受付嬢は
「二週間分の報告書を提出すれば依頼達成と見なします。楽をして嘘を書いてはいけませんよ」
冒険者に依頼する前にある程度の調査は冒険者ギルドが
「
「了解しました」
と、ゼッデルが言った。
奥に居るラナティエルという女性はどことなくラナー王女に雰囲気が似ていた。ただし、戦士風の装備を身にまとっていて髪の毛も荒れ気味に見える。
「ヤントラさんは
「……は~い」
煉獄聖典の女性陣達は笑ったがフォーサイトの方は蔑んだ目を向けるだけだった。
どこかで彼らに会ったのだろうか。全く覚えが無い。
必要な書類を置いた後で受付嬢は退出し、冒険者のみとなった。
「明日、早速出発だが……。何か用意するという人は居るかい?」
「こっちは用意万端」
「食事くらいだ」
「改めて自己紹介するか。俺はゼッデル・ソラリウム・ガイル・リベセンテ。チーム名は有名どころから拝借したのだが、スレイン法国とは関係ないからな」
「私はアーニャ・ララック。槍使いの
「
軽くお辞儀する様は風格のある王族のようだ。
「フォーサイトのリーダー、ヘッケラン・ターマイト。こちらは
フォーサイトと煉獄聖典は互いに握手するがヤントラは無視されたような形になっていた。
噂なのか、一人だけの冒険者だからなのか。
それとも下着を頭から被っているのが原因なのか。いや、被っていないけど。
特にアルシェという女性は化け物でも見るような怯えた目でヤントラから距離を取る。
背中に聖なる剣でも刺さっているのだろうか。
足元に血は垂れていないのは確認した。
「……初対面ですよね?」
「ああ、直接会うのは初めてだ」
良かった、とヤントラは胸を撫で下ろす。
カルネ村以降、殺生をした覚えは無い。
もしかして、都市に忍び込んだ時に部位を取られた中の一人だろうか。
確かに手当たり次第に搾取したけれど。
八人の名前と顔に覚えがある者は一人も居ない。
八欲王という言葉が過ぎったけれど。
「気にしない方がいい。アルシェは普段からこんな感じだから」
優しそうな顔だが、胸の内ではどうやってヤントラをぶっ殺そうか考えている顔に見える。
被害妄想は色々と想像できるけれど、大抵は近づいてくる
相手から攻撃を受ける特性でもあるのだろうか。
「ああ、女難の相か……。そういうこともあるのか……」
人から好かれるにはどうすればいいのだろうか。
最初から警戒されるとヤントラとしてはどうしようもない。
このチームで依頼をこなせる自信は無い、とヤントラは思う。
チームを組んで移動するしかないので必要な荷物を持ち、外に出る。
ヤントラは無駄な会話は控えた方がいいと判断する事にした。
八人程度の冒険者の命を守るなど造作も無い。というのは言いすぎか。
バラバラに移動されればヤントラとて難儀する。
比較的、友好的な紅蓮聖典だが増長天だかのチームの後を追う。
「煉獄聖典だ」
「すみません」
覚えにくいなら自分は変態でいいか、と思えてきた。
「二週間分の食料と身の回りのものを調達しなければならないけれど、フォーサイトは準備してきたか?」
「ああ、こっちはいつでも行ける」
アルシェとイミーナの刺すような視線を受けるヤントラ。
代わりに連続聖典の女性達は笑顔を向けていた。
「煉獄。チーム名は頑張って覚えてくれ」
モノローグに介入するリーダーは実は凄いのでは、と思う。
あるいは名前が出ない場合を想定しているのかもしれない。
「それで……、ヤントラだったな。そんな身軽な格好で登山する気か?」
「はい」
ヤントラ自身の準備はすでに終わっている。これ以上の追加は無い。
足りないものはチームから借りようなどとは思っていない。
「煉獄聖典。あんまりしつこく聞くな。プレートはウソを付かないだろう」
「そ、そうだな」
自分は完全に浮いている。魔法による浮遊ではないけれど、そう思った。
これがユグドラシル時代なら、と思い出そうとしたがチームプレイ経験が殆ど無いので何も出てこなかった。
ほぼ敵だらけだった。
何も教訓らしいものが出て来ない。
残念に思いつつ出発用の大型の幌馬車に乗り込む。
それぞれ二頭立てで就寝もしっかり出来る。
御者役は男連中が引き受けるのだが、ヤントラはアゼルリシア山脈に疎いので道案内できそうにない。
あと、馬車移動が苦手なのですぐにダウンする。
フォーサイトの馬車では具合が悪いだろうからと煉獄聖典のチームに相乗りさせてもらう事になった。
もちろん、優しい冒険者も居れば嫌な冒険者も居る。
煉獄聖典はその中ではどちだろうか。
安易に殺すわけにも行かないので敵対すれば叩きのめすだけだ。
数時間ごとの交代と仮眠で一日目は終わる。
目的の場所まで片道で早くて三日かかる。もちろん、周りを警戒して慎重に向かうので時間がかかるのは当然だ。
途中で出会うモンスターは主に
珍しいモンスターの出現は無いが、それぞれのチームは的確に討伐し、部位を回収していく。
ちゃんとそれぞれ『
ヤントラは戦闘には参加せず、周りを警戒し、必要な事をメモしていく。
書くべき事はあまり無いけれど、
散発的なのでヤントラが寝ている間に戦闘が終わっていたりする。
夜間はヤントラが見回りをするのだが、特に脅威と呼べるものは現れない。
男女混合とはいえ性行為するような事態は起きていないようだ。
幌馬車が揺れるのは風か中で荷物整理でもしているのだろう。
危機的状況に置かれると人間は子孫を残そうとする傾向にある。当然、男女の冒険であれば互いの身体を求める事は別段、不思議ではない。
男女間の仲違いが発生して依頼遂行が困難になっては困る。
一日目で急に危機的状況にはならないな、とヤントラは自分のエロい思考に呆れる。
そのまま朝を迎えて荷物確認と排泄などを経て、出発する。