※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

213 / 213
P-05

 山小人(ドワーフ)王国には四つの都市があり、王都の名前は『フェオ・ベルカナ』という。

 完全に外界と接点が無い、わけではないが情報は少ない。

 東の都市『フェオ・ジュラ』

 南の都市『フェオ・ライゾ』

 西の都市『フェオ・テイワズ』

 数百年前に魔神や竜(ドラゴン)によって滅ぼされたり、放棄された歴史がある。

 外見からは見えないが洞窟の奥に都市国家が形成されているといわれている。

 その都市の入り口となる洞窟をまずは見つけなければならない。

 数日かかる事を見越して馬に餌をやりつつ迷子にならないように目印などをつけて進んでいく。

 獣道があるにはあるけれど無数に散らばっていた。

 様々なモンスターが住処としている山に一般人が気軽に入るわけもなく。屈強な冒険者に依頼でもしない限りは誰も来ない雰囲気がある。

 下界との交流無く住み続けられるのは山の恵みのおかげかもしれない。あとは天然の要塞が外敵の侵入を阻んでいる、などが考えられる。

 闇雲に山の中を突き進むわけにはいかない。古い地図を頼りに進んでいく。

 毎回、新しく地図を改訂し、次の依頼の足しにしている。

 達成できなければ地図は古いまま。

 ヤントラは方位磁石の使い方を教わりつつ仕事を淡々とこなしていく。

 山岳特有のモンスターは今のところ現れない。

 南下すれば蜥蜴人(リザードマン)達が住むトブの大森林に抜けられるが、険しい山道とたくさんのモンスター達によって気軽には向かえない、という話し*1だった。

 金級冒険者でも下準備無しには入ろうと思わないほどだとか。

 

「地図は古いし、どこへ進めばいいのやら」

 

 岩場の多い山岳地帯は舗装されていないのでガタガタと馬車が揺れる。

 車輪などが破損しないように注意はしているけれど、いざという時は徒歩移動も覚悟しておく。

 馬車が壊れて下山する事になるのは出来るだけ避けたい。

 

「モンスターが出て来ないようだが……。山賊とか出て来ないだろうな」

「頻繁に冒険者が来るようなら出てくるだろうな」

 

 ゼッデルとヘッケランが会話しながら進んでいく。

 山道に重装甲の冒険者は苦行以外の何者でもない。早々にポターゼイがバテ始めた。

 

「軽装でいいなら預かりましょうか?」

 

 と、ヤントラが苦しそうなポターゼイに声をかける。

 

「す、すみまない。足手まといになって……」

 

 登山開始から一時間もかからずに汗が全身を濡らす。

 体力勝負の山道(やまみち)において疲労は大敵だ。もちろん、気温の変化も激しいので夜間は厚着しなければならないほど冷え込んだりする。

 ヤントラは慣れた手つきでポターゼイの装備を外し、身体*2を拭いていく。

 さすがに女性陣が居る前で裸にはしなかった。

 外した装備は予備の『無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)』*3に入れていく。

 

「……すげー、アイテムだな」

「金貨十枚でお譲りしますよ」

「えっ!? マジで!?」

「おいおい、気軽に貰うんじゃねーよ」

 

 リーダーのゼッデルが呆れる。

 ヤントラはポターゼイの装備を入れた『無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)』を彼の腰袋にくくりつけた。

 落せば装備品ごと失う事を伝えて。

 

「使い方は休憩時間の時に……。では、行きましょうか」

「おお、手が入る……」

 

 重装備の仲間が足手まといになっては困るのでゼッデルはため息を吐いて諦める事にした。

 単なる都市の調査で無駄に命を散らしたくないし、仲間を切り捨てる事態は避けたいと思ったので。

 ヘッケランはただ黙ってヤントラを観察する。

 装備を剥ぎ取る時にこっそり何かを抜き取ってはいないか注意していたが、特に問題はないようだ。

 変な噂が一人歩きしているせいか、ヤントラは仲間を見捨てたり、他の冒険者を倒したりするのではないかと危惧していた。

 さすがにいきなりボロは出さないと思うけれど。

 実際、冒険者ギルドはヤントラを高く評価している。真面目で丁寧な仕事をする、というので。

 だが、冒険者の噂は真逆だ。主に変態として有名だ。

 変態だから女性冒険者には実は嫌われているヤントラ。

 

「そういえば、ヤントラさんはいつもお一人なんですか?」

 

 と、勇気ある冒険者ゼッデルが尋ねる。

 

「はい。一人なのでチーム名とか無いんですよ。変態というのが相応しいのかもしれませんが……」

 

 ヘッケランは苦笑する。

 自分で言うとは思わなかったからだ。

 

「皆さんのように仲間と活動する事が無かったので、よく分からないんです」

「そうですか」

 

 言葉使いは柔らかい印象を受ける。

 口のうまい詐欺師特有とでもいうのか。

 軽装だから盗賊(ローグ)は確実だと思うけれど。

 

「随分と身軽ですが……。職業(クラス)は何ですか?」

「盗賊(ローグ)系です。暗殺者(アサシン)もあり、聖職者(クレリック)系もあるという……」

「……はっ? 暗殺者(アサシン)……ですか?」

 

 聖職者(クレリック)に暗殺者(アサシン)など聞いた事が無い。

 ゼッデルは改めてヤントラを頭から足元まで見る。

 言葉が事実なら相当な手練(てだれ)であるはずだ。

 

「……あのアイテム(無限の背負い袋)を持ってるから身軽なのか……」

 

 と、ポターゼイは呟く。

 身軽に見えて準備はちゃんとしているのかもしれない。そう考えるとヤントラを侮れなくなる。

 

◆ ● ∞ ● ◆

 

 不安は少し大きくなったが探索は続ける。

 怪しいからとて何か問題行動を起こしたわけでは無いし、依頼を途中で放棄するには材料が足りない。

 それぞれ色々と考えつつ山岳地帯の奥に進む。

 草木の少ない岩ばかりが続くが馬車が通る分には問題は無い。

 危険なモンスターも現れず。

 アゼルリシア山脈の奥にまで上る者は少ない。それは岩場が多くて生活するには不便だからだ。

 山小人(ドワーフ)のような種族のように洞窟を開拓し、都市国家を築きでもしない限りは。

 水の確保や動植物も居なければ生きていけない。

 武器などを作る上で多少の交易が存在しているようだが、実際のところ山小人(ドワーフ)達の文化はよく分かっていない。

 噂では無類の酒好きというヤントラの敵だ。

 登山の途中で辺りが暗くなり、野営の準備を始める。

 山間部とはいえ夜間の気温はかなり低くなる。

 充分な防寒具が無ければ凍死する事もありえなくはない。

 一通りの作業を終えたゼッデルたちを確認したヤントラは地面の小石などを拾う。

 山間部の鉱石や土を採取する為だ。

 

「石ころなんか拾って武器にでもするんですか?」

「草木の生えない土地の調査です。崖下には高山植物が生えているので、栄養などの調査をする為に必要……、といったところでしょうか」

 

 ヤントラが相手にするのは空気の無い不毛な大地だ。

 そこ(月)を開拓する上で土の入れ替えなど簡単にはできない。

 そこにある土地を利用して開拓するには色々と苛酷な環境を調べる必要がある。

 依頼は依頼として進めるが、ヤントラは色々と勉強しなければならない事が山積みだった。

 高山植物もいくつか手に入れておく。

 真面目に作業する姿からは変態という噂が信じられない。

 作業を終えて、寝袋に入り、さっさと眠るヤントラ。

 

「縛っておくか?」

「最初はそれもありかな」

 

 それぞれ納得したところでヤントラを寝袋ごとロープで縛っておく。

 さすがに外に放り出すのは可哀想なので、女性陣から離れた位置に置いておく。

 

「このまま山小人(ドワーフ)の国に行けるといいな」

「厄介なモンスターが現れない事を祈ろうか」

 

 そして、三日目が始まる。

 山登りは馬車移動でも遅くなる。それだけ馬に負担をかけるからだ。

 少しずつ空気が薄くなり、それぞれ顔にマスクを付けはじめる。

 それほど高い標高ではないけれど、顔を冷やさない目的もある。

 気温が低くなるので厚着に着替える。

 その中でヤントラは薄着のままだ。

 特に不満を言わずに辺りを警戒している。というか馬車移動で少し疲れているような感じに見えるけれど。

 聞けば馬車が苦手だという。だから、元気が無い。

 大人しいのは具合が悪いから、と思えば色々と納得する。

 では、平地であれば変態振りが拝めるのか。それはそれで知りたくない事実かもしれない。

 ヤントラばかりに感(かま)けているわけにいかない。

 二チームの冒険者八名と半分ほど縛られたヤントラは奥深くに進んでいく。

 山小人(ドワーフ)の国は山にいくつかある洞窟の奥に存在し、迷路状になっているのが通説だ。

 

「……そろそろ洞窟が見えてくるはずだが……。どれから入ろうか」

 

 人間との交流があるので道案内の立て札でもあれば分かり易いのだが、そういうものは見当たらない。

 しばらく進んでいくと昔から開拓されてきたのか、いくつもの穴が見えてくる。

 それらの奥に目的地の山小人(ドワーフ)の国がある。もちろん、間違った洞窟に入ったらたどり着けない。

 おそらく鉱石を採るだけに空けられたものが多数あるはずだから。

 道案内してくれそうな人の気配というものは無く、モンスターの気配も今のところ無い。

 無闇に進むわけではなく、途中までの地図はある。それを頼りに進んでいるのだが、情報が古いのか、それとも地形が変わったのか。

 見えるものは無数の洞窟類のみ。

 一つ一つ入って確かめるとなると二週間では無理な気がするほどだ。

 どこかに特徴的な入り口があるはずなのだが、それはまだ見つかっていない。

 

「大抵は中腹辺りだが……。一応、進むか?」

「そうだな」

「……今回の仕事はあの人の昇進のついでだから我々ばかり仕事しちゃ駄目なんじゃないの?」

「……そ、そうだったな」

 

 馬車の中で待機させられているヤントラが一番仕事をしなければならない。

 縛ったまま連れ帰れば当然、仕事は失敗。そして、自分達の報酬も当然、無し。

 徒労に終わるだけじゃなく、ここまで来た人的資源の投資が無駄になる。

 山登りで馬の疲労も溜まる。

 

「洞窟が多くなってきたが……。立て看板が無いとは……」

「一つずつ調べますか?」

 

 堅実的ではあるけれど無謀に近い。

 国交があるならば目立つ印が無ければ困る。または国交のある国にしか地図を渡していない秘密の多い国という事もありえなくはない。

 どの道、人と出会う前提が無ければ山小人(ドワーフ)の困難を救いに来られない。

 ある程度進んだところでヤントラを解放する。

 

「……洞窟が一杯ですね~」

「この中に本命があればいいのだが……。君ならどうする?」

「よく出入りしている証拠が無いか探すのが基本でしょう。足跡とか」

「……うん。そうだね」

 

 頻繁に出入りしていれば足跡が無くとも整地されてて平坦になっている事もある。

 山小人(ドワーフ)に隠蔽体質が居なければ見つけることは難しくない。

 これで暗殺集団ならまず足跡は残さない。

 手分けして洞窟の地面を探っていく。

 女性陣はどれも似たような地面に早くも飽きてきた。

 

「盗掘の基本ではあるが……。こんな足場がガタガタしたところで整地された地面ってあるのか」

 

 と、ヘッケランは似たような地面に変易する。

 とにかく石ころが多い。

 その中で綺麗な地面を探すのはなかなか大変だ。

 野伏(レンジャー)でも熟練技術が要るんじゃないかと思わせるほど。

 

「〈生命探知(ディテクト・ライフ)〉」*4

 

 徐(おもむろ)に魔法を唱えるヤントラ。

 自分達以外の生命体の反応は効果範囲には無いようだ。

 

「案内役無しで探すのは困難か……」

 

 時間をかければ探し出せない事は無い。

 食料とか体力とか失って行くから、長くて三日が限界かもしれない。

 それ以上は報酬に見合わない、という推測だが。

洞窟一つ一つに魔法を唱えていてはMPがすぐに枯渇してしまう。

 

「……ここはやはり中が駄目なら外か……」

 

 飛行(フライ)で空を飛び、地域全体に『生命探知(ディテクト・ライフ)』を使ってみる。

 あまり意味がない気もしたが。

 見える範囲では何も感じなかった。

 やはり徒労だったようだ。

 地面に着地すると他のメンバーに驚かれた。

 

「それ(飛行)は第三位階の魔法だよな?」

「あー、はい」

 

 この世界は第三位階で大騒ぎする事を久しぶりに思い出した。

 バハルス帝国では割りとありふれたものになったのではないか。それとも王国ではまだ認知度が低いとか。

 物騒な魔法の使い手が居ても困るけれど、可能性は否定したくない。

 

「それは誰でも覚えられるものか?」

「努力次第です。……なるほど」

 

 どういう噂が出回ったのか正確な事は分からないが、魔法を覚えるのに『裸』にならなければならない、とでも伝わったのか。

 もちろん、女性は大歓迎だ。

 

「増強の報酬は貰います。それが対価というものです。それに可能性を否定するのは勿体ない」

 

 散らす命は全て貰う。それくらいの意気込みで今まで努力してきた。

 健全な方法も出来なくは無い。

 ただ闇雲に力を与えていけば世界が壊れる気がした。

 

「ご立派な発言だが……。女だけか?」

「望むなら男女種族問わずです。悪の組織は……、お断りしたいところですよ、もちろん」

「そうするとあんた自身はどうするんだ? 自分より強い奴にしないとか」

「自分の強さにはもう満足していますから。そろそろ新しい可能性に挑戦したいところです」

 

 月を手に入れて、その先に進む為に。

 今の身体では障害が多い。

 いわゆる『第三形態』への進化のようなものだ。

 戦闘に関しては一通り満足したのは事実だ。もはやアインズも敵の候補から外れている。

 後は『至高の四十一人』の他のメンバーに挑戦する事が残っているけれど。

 

「誰でもアダマンタイトになれるかと言われれば出来そうですが、報酬を払うギルドは面白くないでしょう」

「……うむ」

「増長すれば犯罪が増えます。倒す敵がモンスターから人へ。それは避けたいところです」

 

 正論ではあるが強さに魅力を感じるのは冒険者であれば誰もが思う。

 そこには報酬の多さが約束されているのだから。

 とはいえ、全員がアダマンタイトになってしまうとギルドが困る。

 ただでさえアダマンタイト級に支払う報酬は膨大で与える仕事も今はそれほど無い状態だ。下手をすれば運営が困難になってしまう。

 

「犯罪組織に対処し難くなっては困るな」

 

 強さに溺れる者はだいたい悪の道に歩むものだ。

 それぞれ何かを納得するように頷いていく。

 それでも高い位階魔法を扱えるのであれば何を犠牲にしてもいいと思う者も居るかもしれない。

 特にアルシェは自分の実力に限界を感じていた。

 第三位階を扱うヤントラを見て、物凄い葛藤が自身の中で渦巻いているほどだ。

 才能には限界がある。それは世の中の通説となっている。

 だが、それを覆す存在が目の前に居る。

 

「……人の欲望は果てしないもんだ。……しかし、人を強くする方法を見つけたアンタは色んなことを考えているんだな」

「むしろ、ちゃんと弊害を考えていない奴だったら世界は結構、危ない事になっていたのかもな」

「……でもなー、裸になるってのが……」

「そうしないといけない事態になるんだろう。血まみれとか」

 

 それぞれ唸り始めたが仕事の事は忘れていない。

 話しを切り上げたいところだが、交流する時間くらいは許容しようとヤントラは納得する事にした。

 

◆ ● ∞ ● ◆

 

 洞窟内に生命反応がない。それが分かっても仕方が無い。

 誰かが居なければならない理由はないし、もっと奥まったところに誰かが居るのかもしれない。

 あるいは誰も居ないか、だ。

 馬車を進めて他の洞窟類も検分していく。

 人の往来がありそうな洞窟を求めて。

 山小人(ドワーフ)は成人の人間の半分ほどの背丈があり、ヒゲモジャのおっさんというイメージがヤントラにはある。

 ユグドラシル時代の山小人(ドワーフ)は大体、そういうものだった。もちろん、女性も居る。女性なのに髭があったり、無かったりする種族だ。

 小さな身体で人間の倍以上の力を持ち、創作系の能力に優れている。

 

「山小人(ドワーフ)自体が見つからないんじゃあ、王国の調査は出来ないな」

 

 とはいえ、すぐ諦めて引き返すわけには行かない。

 数日かけた苦労は取り戻さなくては。

 それから洞窟ごとに立ち止まり調査を続けていく。

 膨大という程ではなかったが生命反応が見つからない。あるいは隠す武具かマジックアイテムを身につけているかだ。

 後方では不可視化したメイド達が丹念に調査している。未だに報告はないけれど。

 ついでに鉱石類の回収を行(おこな)っているので誰も居なくても問題は無い。

 それから二時間ほど山道を進み、休憩に入る。

 

「目印でもあればいいんだが……」

「モンスターの姿も無いし。何かの異常事態かしら?」

 

 ヤントラは黙々と休憩施設の設営に働いていた。

 他の仲間達が無視するので話しかける事を諦めた、ように見える。

 旅する仲間の扱いが雑なので、そろそろ話しの輪に入れておかないと何も喋らなくなるのではないかと思った。

 もはや人気(ひとけ)は無いし、何かをするなら今、とは思う。だが、ヤントラからは何もしてこない。

 怪しいけれど疑ってばかりというのは後々の仕事に差支えがあるかもしれない。

 煉獄聖典のゼッデルがヤントラに話しかける。

 

「話しかけないこちらも悪いかもしれないが……。あんたは何か面白い話しは持ってないのか?」

「生憎(あいにく)と……。女体モンスターくらいしか出て来ないですね」

「……それはそれで男としては興味があるけどな」

 

 女体モンスター。

 いい響きだ、とゼッデルは感心した。

 女性陣は嫌な顔をしていたが男性陣はもちろん無視。

 

◆ ● ∞ ● ◆

 

 山脈の規模は地図では分からないほど広くて大きいのは理解した。

 ただの直線距離なら対した事は無い筈だが高低差が激しいので倍以上に感じる。

 三十個目の洞窟の調査を終える頃には薄暗くなり、同時に肌寒くなってきた。

 同行する御者も仕事とはいえ大変だと思った。

 馬車が入れる規模の洞窟に入り、休憩に入る。

 

「このままだと反対側まで行かないと駄目かもしれないな」

 

 事前に調査したのか疑問が残るが、何も発見できないのは困るとフォーサイトの面々は思っている。

 単なる昇進の付き添いでは利益が出ない。

 

「洞窟の奥の地下都市なのかな」

「その線が大きいな。帝国と貿易しているなら見張り台とか立て看板とかあればいいのに」

 

 ヤントラ側もこっそり調査させているが未だに痕跡が見つからない。それはつまりもっと奥に行く必要があるという事だ。

 もう数日はかかりそうだ。

 食料などは充分に用意しているので問題は無いが、豊富な物資を彼らが使ってくれるかは未知だ。

 それにもまして馬車移動の連続でヤントラの気分は沈んでいた。

 昇進試験だと何度も忘れそうになるが、思い出しては外の調査とこっそりと鉱石などの回収に励む。

 高山植物も目つければ手に入れるのだが、この辺りは雪山が多いせいか、樹木以外の小さな植物が見当たらなくなってきた。

 そろそろ霜の竜(フロスト・ドラゴン)の縄張りに入る頃かもしれない、とヤントラ以外の冒険者が噂する。

 アゼルリシア山脈の支配者と言われているけれど、他の竜(ドラゴン)はどうしているのか。

 同じ竜(ドラゴン)に白竜(ホワイト・ドラゴン)が居た筈だ。

 属性は同じ。白い鱗が特徴で雪山に生息する。

 色による名前の違いはあるものの、外見はだいたい似ている。

 ヘッケラン達がそれぞれテントの用意をしている頃、ヤントラは辺りの調査を続けた。

 大人数のチームなので大物が出るかもしれない。それはそれで楽しみだ。

 それとは別にナザリック勢とかち合った場合はどうすればいいのか。それを失念していたがナーベラルの報告が届いたのならばヤントラの行動も分かっている筈だ。それをあえて邪魔しに来るかは支配者の裁量だけど。

 来たら来たで歓迎するだけだ。

 魔導国だから敵だ、殺せ。とはならない。というか、そうなったらバカだ。

 そんな事を思っている間に洞窟内にいくつかのテントが完成する。

 御者が凍えないようにヤントラは持ってきた物資の一部を渡しておく。

 日が暮れるのは早く、山の気温は一気に下がる。

 

「………」

 

 普通ならすぐ眠る時間がだヤントラは洞窟近くに明かりを置いた後は飛行(フライ)で周りを一望する。

 闇夜に沈み行く風景は自分の故郷では拝めない絶景だ。

 この世界に来て数年の月日が経ち、自分のアバターがだいぶ世界に馴染んだのが今は良く分かる。

 見上げる月に果たして到達出来るのか。

 それともただただ朽ちるまで平和に過ごす事になるのか。

 どういう選択肢がこれから自分の前に提示されていくのか。

 

*1:
『話』ではなく『話し』である。全ての作品において共通明記事項。送り仮名は必須。

*2:
『話し』同様に『体』ではなく『身体』である。特別な読み方――例えば『身体(しんたい)』――として使わない限りは『からだ』と読む。

*3:
500キログラムまでアイテムを収納できる皮袋。ただし、アイテムとして認識された死体でもない限り人間や動像(ゴーレム)などを丸ごと入れる事は出来ない。抜け道が無い訳ではないけれど――

*4:
詳細は『ギルガメッシュ』の付録を参照。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(必須:40文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。