※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

28 / 213
C-4 ナザリックのトイレ事情

 現場を確認した貴族達はあまりの凄惨な現場に嘔吐を催(もよお)したという。

 それからアインドラ家にラキュースの死がレエブン侯によって伝えられる。

「……そうですか」

 死体も残らないくらい打ち据えられて、回収できたのは数本の白い髪だけ。

「立派な戦士に対する仕打ちは許しがたい。……君の尽力によって様々な情報が集まってきた。アインドラ殿も本望なのかもしれない」

「私が……もっとしっかり冒険をしていれば……、特殊技術(スキル)くらい抵抗出来るだろうと思っていました。……あんなに弱いとは……。私に出来ることは……、何でしょうか」

 ヤントラは少し疲れた顔をしていた。

「葬儀も出せないが、陛下から恩赦(おんしゃ)などを要望するつもりだ。それに戦争の期日も迫っている。まだ色々とやることがあるが……。お悔やみ申し上げる」

「……死んでしまったものは仕方が無い。だが、惜しい人だった。国の為に働いていた人をこうも容易く切り捨てられるとは……」

「君に殺されても文句は言えないな」

「でも、礼儀作法などではアインズも喜んでいました。良い勉強になった、と」

「そうか。それはよかっ……。良くない……。使者は……絶対に彼を怒らせる……。派閥が憎たらしい……」

「むしろ、そんなダメな使者を処分してもらえばいいのでは? ラキュースもろくな使者は居ないと教えていましたから」

「おお! それは凄い」

「しかし、……アインズ達とラキュースがあんなに相性が悪いとは想定外でした。彼女は何か能力とか、感知能力に優れているとかあるのですか?」

 レエブン侯は自分の知る限りの事を伝えた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 数日後、アインドラ家は引越しの作業に取り掛かっていた。

 引っ越すのは元々住んでいたラキュースの両親でヤントラは一人で残って仕事を続ける事になっていた。

「ひっそりと暮らすのもいいのかもしれないわね」

「こんな私に娘さんを下さり、ありがとうございます。色々とご迷惑をおかけしてしまって」

「もういいよ。娘は少なくとも君の事を愛していたし、幸せそうだったと思う。戦士として知らないところで死ぬよりかは良かったんじゃないかな」

「……罪人として処分されたのは……辛いけれど……」

 娘は今まで国の為に粉骨砕身(ふんこつさいしん)の精神で働いてきた。それをあっさり罪人として処分したのだ。両親は国に不信を抱いてしまう。

「……本当に粉骨砕身されてしまいましたね。形が残らないほどと……、ううっ」

 忠誠心溢れる娘に限って、と思ってしまう。

 このところ様子がおかしかったのは理解している。

 名残惜(なごりお)しい気持ちを払拭(ふっしょく)し、両親は出て行った。

 家の中が静かになってしまった。

 それはそれでヤントラにとっては問題が無い。

 孤独な存在であるのだから、寂しさは少ない。

 だが、やはりラキュースを失うのは大きな損失だろう。本来なら共に冒険の旅に出ているはずなのだから。

 今日のところは喪(も)に服(ふく)しておこう。

 明日からまた忙しくなるのだろう。

 翌朝は邪魔な家具を一掃し、部屋の大改造に入る。

 多少の装備品で得た資金はまだ余裕があるので、仕事がし易いものへと変えていく。

 貴族というわけではないが、たまに招待状が来る。だが、ヤントラはまだ文章が読めない。

 アインドラ家の一人貴族、ヤントラ・サルヴァスパ・デイル・アインドラ。

 なにがどう貴族なのかは本人も分からない。

 妻のものは残して、それ以外は大体処分する事にした。

 魔剣キリネイラム。

 部屋の中で振り回すには大きな剣だ。

 刀身は夜空の輝きのような夜闇(よるやみ)の色。バスタードソード並みの造形。

 実践に使うのがもったいないほど。なので大切に飾ることにした。

「………」

 伴侶が居なくなると寂しいものだ。とはいえ、直接体験させなければ分からないことがある。

 今度は耐性を万全にしなければな。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ナザリック地下大墳墓の第九階層。

 多くのメイド達が働く階層で戦闘メイドのシズが見回りをしていた。

 シズは秘宝のパスワードの管理をしているので遠くに出せない。

「……異常無し」

 一部屋ずつ確認する。それは日課である。

 というよりは敵が来ない限り上の階層などには行かない。

「あ~、シズちゃんだ」

「こっちに来て~」

 一般のメイドにとってシズはマスコット的な存在だった。

 他の戦闘メイドもここを拠点としている。

「……仕事中」

「そうですか。頑張って下さい」

 一般メイドの憧れが戦闘メイド達だ。

 そんなメイド達から離れて、シズはとある部屋に入る。

 そこには複数人の一般メイドが誰かを世話している。

「……報告求む」

「シズ先輩だ。あっ、はい。とても気持ちよく眠っておられます」

「外傷も無く、肌もじきに良くなるかと。髪の毛の方はまだ時間がかかるかと」

「……大切に扱え。……バスパ様の……つ(・)ま(・)というペットだ」

「人間はつ(・)ま(・)、というペットを飼う種族でしたっけ?」

「……不明。……我々ナザリックの事を誉めた方だ。……そそうの無いように、とアインズ様より指示があった」

 アインズという名前が出ただけでメイド達に緊張が走る。代わりにバスパという名前ではあまり緊張しない。

「は、はい」

「……この階層から他の階層へは行かせてはならない。……身体に多(・)大(・)な(・)影(・)響(・)が出るとの事だ。……起きた時のための食事等は負担の少ないもの」

 シズの指示にそれぞれが元気に返事した。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 第十階層の玉座。

 ここには守護者統括のアルベドと支配者アインズが居た。

「あの者はこのまま置いてもよろしいのですね?」

「ふむ。礼儀作法などの指導がほしかったからな。服装についてもセバスでは派手すぎる。直接会わなくても誰かに覚えさせれば問題は無かろう。同じ死の支配者(オーバーロード)も居ることだし」

 アインズ以外の死の支配者(オーバーロード)に会わせてみると影響が少ないように見えた。持っている特殊技術(スキル)などが原因なのか、色々と調査中だ。

「さすがはアインズ様」

「せっかくの貴重な人材だ。……しかし、我らの特殊技術(スキル)なのか常時発動型特殊技術(パッシブスキル)なのかは分からんが、あれほど弱い人間が居るとは想定外だ。人間との交渉で余計な被害が出る前に対処方法を考える上でも役に立った」

 さすがのアインズも目(・)の(・)前(・)で(・)顔(・)が(・)破(・)裂(・)す(・)る(・)ような事態になるとは思わなかった。

 アルベドの声を聞いただけで影響が出たのは今回が始めてではないだろうか。

 デミウルゴスの常時発動型特殊技術(パッシブスキル)『支配の呪言』ならまだ理解出来る。

 折角来てくれた使者を何もしていない内に死なせるのは色々と面倒事の種になる。

「……車椅子の方は出来そうか?」

「はい。鋭意製作中でございます」

「うむ。想定外の事態は中々に対応が難しい。今回は良い勉強になった。……しかし、王国もろくな人材が居ないのだな」

「か弱き人間を無為(むい)に死なせるとは。我らでも許しがたい事態でございます」

 戦争であるのだから仕方が無い、とアインズは理解しているが、問題は使者の質が良くないということだ。

 正直に言えば、そんな奴を相手にしたくない。

 世の中には腹の立つ奴はたくさん居る。ヤントラもと言うと、また意味が違ってくるので除外する。

「そのか弱き者をあいつは何とか助けようとしていたのだろう。その貴族という奴らから」

「まあ、なんとお優しい方でしょう。その優しさを理解しない同じ人間というのは理解しかねます」

「私が動けば王国は大打撃だ。しかし、死ぬのはか弱き者であって貴族ではない。それをどうにかしようと暗躍していたのだろう。この私と敵対してでも」

「では、力でねじ伏せれば……」

「いや、それでは奴は冒険が出来なくなる。……まあ、人間種特有のジレンマという奴だ。それにお前達を悪にしたくない気持ちもあったのだろう。私の脅威を知った上で戦わずに済めば、私は戦わずに後ろ盾を得て国民から慕われる……」

「……申し訳ありません。アインズ様を脅威と捉える事と慕われることが……、分かりかねます」

 アルベドはヤントラの考えはアインズほど理解できていない。

 ただ、誰にでも優しい人間という印象が強い。

「王国では魔法詠唱者(マジック・キャスター)の扱いは最悪だそうだ。だから私は危ない、恐ろしい、と貴族達は考える」

「はい」

「だが、それを逆手に取ればどうだ? そういう危険な存在を取り込み、うまく利用することで王国が利することにならないか?」

「ですが、それではアインズ様がいいように利用されるだけでは? いえ、利用しても……怒らせたら怖い、ということでしょうか?」

「そうだ。利用されてやる代わりに私の要求を呑(の)んでもらう。でなければ滅ぼす、とでも言ってな」

「それではますます貴族達には悪い評判になるのではと」

「貴族達にはな。腐った貴族に悪者にされても誰が困るというのだ。現にあの者は命を掛けてまで自分の国の現状を訴えたのだぞ。私を悪く言う資格は貴族には無いだろう。か弱き国民に慕われればいいのだ」

 アルベドは必至に頭を回転させる。

 主の言葉を理解するのは臣下の喜びだから。

 アインズもヤントラが自分の悪口を触れ回ったと思っていたぐらいだ。

 

 来たらぶっ殺してやろうと。

 

 だが、その考えはセバスの報告で覆(くつがえ)る。

 自分の今後の運命を告げられたような気がした。もたらされた情報は決してナザリックに仇(あだ)なす者ではなく、情報収集において必要なものばかりだった。

 設定されているNPCに丸投げして大丈夫だと思った自分が甘いことを悟った。

 悔しいが今回は色々と折れてやる必要を感じた。だから質の悪い武具もくれてやった。

「貴族が私を取り込めば、か弱き多くの民が死ななくて済む。しかし、戦争が終わった後に処分しようにも強大な私に敵対できる者は居るとは思えないし、居たら居たで情報として手に入れられる。蒼の薔薇というアダマンタイト級の力もだいたいは把握した。王国は既に脅威ではない。それに悪い事ばかりではないだろう。他国の情報も得やすくなる。私が大人しくしていれば向こうから情報が入るだろう」

 それは決して悪い事ばかりではない。

 貴族達を押さえ込めれば名声も上がる。

 何より英雄視してきた冒険者を切り捨てたのだ。臣民の不信はアインズではなく、貴族に向かうだろう。

「さすがでございます」

「だが、それはヤントラの考えだ。あいつはただ自分の冒険のために私を利用した。口惜しいが失態が出なかっただけ御の字だと言えるだろう。セバス達も動きやすくなったことだし」

「……バスパ様はそこまでお考えに!?」

「さすが私の考えを手に取るように理解する男だ。敵にはしたくないな。それに王国に取り入ればナザリックの土地も問題なく解決するだろう。貴族に難癖は付けられるかもしれないが……」

「おお! あら? それはどこかで聞いた話しのような……」

「お前達がこの玉座で奴(ヤントラ)から聞いた内容だと思うが……」

 アルベドは驚愕に目を見開く。縦に割れた金色の瞳がこぼれそうなほど。

「ああ! マスターソースの時の……。申し訳ありません。失念しておりました」

「よい。ここは本当に王国領となっているらしい。だからこその法律書だ。私の事を悪く言うクセにお前達の暮らしを守る為に努力していたのだな」

「私達のためにですか!?」

「人間種ではあるがナザリックに住むものを愛しているといってもいいくらいだ。人間側の味方だがな」

「いずれは敵対するものと……。あの方もアインズ様と同じく我々を気にかけてくださっているのですね」

「支配者には頭は下げない男だがな。だが、不要な悪評は今のところ出ていない。セバス達も順調に情報を集めている。あとは……外にいる連中がいつアプローチをかけてくるかだがな」

「隠れているつもりなのでしょうけれど、既に把握しております。命令次第ではいつでも捕縛は可能です」

「うむ。誰がどう出てくるか楽しみだな。……まあ、帝国のもてなし方次第でも、どう転がるかは……、分からんがな」

「はい」

 その日は決して遠くない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 自分は王国に見捨てられ殺された。戦士では罪人として殺された。

 あんな国で働いていた自分が憎い。

 多くの臣民の目の前でさらし者にされてしまった。それは今となっては仕方が無い。

 臣民を守る為に頑張ってきた自分が臣民の手によって殺される。

 これほどの屈辱は味わったことが無い。

 王国が憎い。ラナーも憎い。

 憎くても気が狂わない。強靭な精神力なんか要らない。

「夢でも見ているのでしょうか」

「心身がボロボロになっていたのですから。そっとしておきましょう」

 そばに女の子の声が聞こえる。

 誰だろう、目蓋を上げる。

「あ、起こしてしまいましたか?」

 そこに居たのはメイド。

「……私は死んだの? 刑は?」

「生きていますよ。けい、とは何でしょうか?」

「余計な質問はいいの。聞いてあげるだけにしておきなさい」

「す、すみません」

 意識は回復してきたが、何かが変だと思った。

 自分の身体に視線を落したかったが、身体が動かない。

 腕も少ししか上がらない。

「お飲み物でもお持ちしましょうか?」

 優しい声のメイド。

 素直に頷く。

 すると瞬く間に飲み物が用意された。

「ささ、ゆっくりとどうぞ。身体は私達が支えますので。どうぞ、ゆっくりとおくつろぎください」

 冷たくて美味しい飲み物。こんなに美味しいものは久しく飲んだ事がないような気がした。いや、先日、飲ませてもらった。

「……戦闘メイド!?」

「いいえ。私達は一般のメイドでございます。あなた様のお世話を仰せつかっております」

「そ、そうなの。あんまり……苦しくないわね」

「あなた様は大変衰弱されていました。私どもで出来るだけ看病させていただきました。……ですが、髪の毛だけは……」

 身体だが動かないので確認出来ない。

 メイドが居るということは夫にでも生かされたのだろうか。

 また死ねなかった。

 時間の経過は不明だが、上体を起こせるまで回復すると色々なことが分かってくる。

 メイドはとにかくたくさん居る。お世話が上手。用意された料理は美味しい。

 それに怖い存在ではないということ。

「こんなに早い期間で回復するものなのね。……私、余命一週間程だったんだけど……」

 気がつけば腕も脚もふっくらしている気がする。

 頬も張りがあるような気がした。

 手は人間の手だし、足も人間。身体が改造されているわけではないようだ。

「この第九階層の中のみ移動を許されております。どうか、他の階層には赴(おもむ)かないで下さいね。ご命令なので」

「そ、そう。それにしてもここはメイドしか居ないの?」

「以前は至高の御方々がいらっしゃいましたが今は多くが無人の部屋となっております。我々はそれらの部屋の清掃などを仰せつかっております」

 丁寧なメイドの説明。

「……よろしければお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。いいわよ」

「あなたはバスパ様のペットなのですか、つ(・)ま(・)、なのですか? 私どもには、ペットとつ(・)ま(・)、というものが理解出来ませんので」

「どちらでもいい気がしてきた……。妻が人間にとって正しいわ。夫婦、あなた達風だと……、つがい、かしら?」

「おお、そうだったのですか。そんなこととは露(つゆ)知らず、大変失礼致しました」

 メイド達がそれぞれ平伏していく。

 それにしても、と思う。

 バスパとは何者なのだと。たぶん、夫(ヤントラ)のことなのだろうけれど。

「私からもいいかしら?」

「は、はい。なんなりと」

「バスパってどういう人なの?」

 そう尋ねるとそれぞれ頬を紅潮させていく。とても嬉しそうな顔に見えて、少し怖いと思った。それが目に見える全員がそうなのだから。

「このナザリック地下大墳墓における至高の御方々に連なる者です。もちろん、最高支配者であらせられるアインズ様も素晴らしい方ですが、あの方も我々全てを愛してくれる素晴らしい方です」

 誉め方が異常だった。そもそも、ここは異常だらけだが。

 自分の知らない夫の話しが聞けるかもしれない。今はそれだけでも気が晴れる。

 バスパというのはもちろんヤントラ・サルヴァスパ。

 このラキュース・アルベイン・デイル・アインドラだった罪人女の夫。

 彼は今ではデイル・アインドラと続く。

「我々にとっては神に匹敵する方です」

「部外者だから外神ですね」

「我々にはすがる神のような存在が居てくださるだけで嬉しいのです」

「至高の御方々のお姿は下っ端である我々には滅多にお目にかかれなかったですけど。その威容、お力は離れていても身体に感じるほど強いものです」

 話しを聞けば聞くほど化け物としか思えない。実際、化け物なのだろう。

「バスパ様は特に下の者に優しい方です」

「そういば、よく墳墓内のトラップに引っかかってたって聞いた」

「そうそう。バスパ様は新作の罠に引っかかって出来を確かめるのに大いに役立ったって話しも」

「昔、アルベド様達にミンチにされてタブラ・スマラグディナ様を八つ裂きにされたことがあったとかないとか……」

「わたし、るし★ふぁー様を半殺しにしたって聞いた」

「まあ、至高の御方々と戦ったことがおありだとは」

「ルプスレギナ先輩やエントマ先輩はご(・)飯(・)の(・)人(・)とか言ってた気がする」

「それ、ソリュシャン先輩のことじゃない?」

 聞いているうちに夫がこの墳墓内でかなり酷い目にあっていたことが分かってくる。

 酷い目なのか、彼らにとっての日常だったのか。

「ソリュシャン?」

「戦闘メイド『プレアデス』のソリュシャン・イプシロン先輩です。捕食型粘体(スライム)という粘体(スライム)系の方(かた)です」

 だから粘体(スライム)なんだ、と理解した。

「それよりお腹が空きませんか? 料理をお持ちしますけど?」

「どんな料理があるのか分からなくて……。人間の肉はちょっと……」

「それは承(うけたまわ)っております。身体に優しい穀物類などはいかがでしょう。オートミールという料理がありますが」

「人間ばかり食べていると思ってたわ」

「それは特別な人くらいです。それに人間はそう簡単には手に入りません」

「私達はとても弱いので人間社会に出てはいけないと厳命されております」

 それぞれうんうんと頷いた後、料理を注文しに一人のメイドが出て行った。

「ここはとても賑やかなとこなのね」

「食事時は静かですよ。休憩中くらいですかね、静かなのは。うるさいのも居る事は居ますが」

 メイド達の笑顔が輝いている。

 おそらく全員が異形種なのだろうけれど、とても人間的で驚かされる。

 話しを聞くぶんには至高の存在と直接触れ合えるわけではないので詳細は想像でしかない、ということは分かった。

 バスパとは気軽に誰にでも話す人。

 普通。というほか無い。ただ、よく酷い目にあっているのは聞いていて分かった。

 とても人間では耐えられないような拷問じみたもののはずだけど。

 あの化け物なら納得するしかない。

「私達のような下っ端より戦闘メイドの方々の方が更にお話しが聞けるかもしれません」

「よくお話しされていたのを覚えております」

「でも、ナーベラル先輩は嫌っているので無理っぽいです」

「色々たのしい話しをありがとう」

 そう言った後で料理が届いた。

 湯気が立ち上る、まごうことなきオートミールだった。

「他にもありますが、まずは軽めの食事で身体を慣らしてください」

 懇切丁寧なメイド達。

 自分の国でもお目にかかれない。

 自然と涙が出て来た。

「ど、どうかしましたか?」

「ごめんなさい。……みんなの温かさに感動して……」

 化け物の世界の方がよっぽど温かい。

 オートミールを銀製のスプーンでかき混ぜる。食器も高級品。それを惜しみも無く使っている。

 一口食べただけで感動で涙が止まらない。

 これが人間の目玉入りオートミールだと言われても美味しく食べられる自信がある。

 すきっ腹に優しく落ち込む。

 これほど丁寧な料理を作っているのも異形なのだろう。

 人間種はごく僅かしか居ないと聞いた覚えがある。

 その中の一つが闇妖精(ダークエルフ)だったはずだ。

「バスパ様はお一人が好きな方だと思っておりました。それがつがい、つまでしたね。つまを得るとは……」

「いつも一人ってこと?」

「パーティを組まない方だと聞いております。元々はナザリックの者ではないし、人間種なので条件に合わない部外者……、そんな感じです。基本的には遊びに来てくれる方って感じかもしれません」

 確かに一人で冒険していたと聞いた。

 ここでも一人だったのか。

 一般のメイドに詳しい話しは無理だろうから、まずは歩けるまでにしっかり食べようと思った。

 

 食事の後はメイド達によりマッサージ。懇切丁寧な仕事は感心する。

 常に三人ずつ交代でお世話をしてくれる。

「厠(かわや)のようなものはあるかしら?」

 ずっと寝ていたせいか、我慢出来なくて内股になってしまう。

「かわや……。すみません。具体的にはどういうものでしょうか?」

「はっ? あなた達、食べたら出さないの? 排泄」

「はぁ……。すみません。我々は『はいせつ』などというものは理解できません」

 何を言っているんだ、と驚愕する。その間にも何かが噴火しそうな勢いがあった。

「お尻から何も出ないの?」

「出ませんよ」

「はあ! ふざけないでよ!」

 目の前の人物が何故、怒っているのか、メイド達には全く理解できなかった。

 それよりも怒らせてしまった事をどう弁解すればいいか、戸惑いだした。

「も、申し訳ありません。我々には理解できません。どうか……」

 と、言ったところで他のメイドが現れた。

「ど、どうしまた?」

「ねえ、だれか、はいせつって分かる子いる?」

「………。たぶん、分かると思います」

 と、そのメイドは言う。

「それで……、なにがどうなっているんですか?」

「排泄がしたいから、出せる場所はどこかと聞いているの? もう、が、がまんするのも……」

「……あ~、桶(おけ)を持ってきてくれます」

「分かったわ」

 メイドはすぐさま行動に移る。

 その間、残ったメイド。見た目には利発(りはつ)そうな顔をしている。

「あれですよね。尿道から水を出す、という」

「そうだけど! お尻の方よ」

「尻の穴からも水がでるんですか? それは知らなかった」

「違うわよ! なんなのよ、あなたたちは!」

 我慢しているので声が大きくなってしまう。尻の穴がしっかりしまっている内に、と祈った。

「私達は人造人間(ホムンクルス)という種(しゅ)みたいです。バスパ様が排泄、について実験したいと……。それはもう頑張りました」

 と言っている間に大き目の桶が運び込まれた。

 メイドはバスパに忘れるように言われたことを思い出し口をつぐむ。

「と、とにかく、これに出してください。私達も興味ありますが……。ぜひ、排泄というものを」

 目を輝かせて見物しようとするメイド、メイド、メイド達。

 人生でそう何度も経験しないであろう怒りに似た感情が芽生える。

「おう! 上等だ。しっかり目に焼き付けるがいいわ!」

 そう叫ぶように言いながら桶に跨(またが)る。怒りで歩けることに気づかなかったようだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 行為が終わるとメイド達は桶の中や女性の下半身をまじまじと見つめた。

「これがはいせつ、とは。初めて見ました」

「うぁ……。人間て尻からこんなものを」

 羞恥心が無い。というのはこういう時にありがたいものだと誰かに感謝した。

 メイドが桶の汚物を触ろうとしたが、それは止めた。

「汚いので触らないように。それからお尻とか拭く布とかない? あと、これを捨てられる場所ってあるの?」

 それにしてもメイド達に汚物を見学されるとは思っても見なかった。

 放尿もじっくりと目(・)蓋(・)を(・)限(・)界(・)ま(・)で(・)見(・)開(・)い(・)て(・)見るものだから余計に出が悪かったけど。

「私達は食べたら何も出しません。出ないみたいです。異次元とかに繋がってるとか」

「そうなんだ。知らなかった」

「普通は食べたら排泄するはずなのだけど……」

 と、メイド達が桶の中身を気にしつつどこかに持っていった。代わりに女性の尻などを拭くメイドがかいがいしく行っている。

 彼女たちにも羞恥心が無いのかもしれない。

「どう~頑張っても出ません!」

 力強く答えるメイド。ただ、他のメイドは首を傾げていた。

「じゃあなに、あなたもヤントラみたいに股間部分がつるつるとか?」

 と、言った時、さっきまでのメイドの顔色が青くなった。

「あわわわ。バスパ様に殺されるかも……」

 秘密を言ってしまった気がしたのだろう。怯(おび)え方が尋常ではない。

 至高の存在のお世話が出来るだけで幸せと思う存在だから当たり前かもしれない。

「たぶん、大丈夫よ。わたしは妻なの。夫のことは知る権利があるわよ」

「つ(・)ま(・)とは、そういう権利が! あ、でも命令は命令なので。本人以外はだめです。でも、感想としては私達は恵まれている、ってことなんでしょうか」

 命令は絶対厳守。鉄の掟(おきて)のようなものだとラキュースは判断する。

 命令を破るとどうなるのか気になった。

 そもそもナザリックに裏切りはあるのだろうか。

「命令を破るとどうなるの?」

「分かりません」

「ルプスレギナ先輩はユリ先輩によく叱られていました。叩かれるのでは?」

「ふ~ん。では、裏切りは……無いわよね?」

「それは絶対に無いと思います」

 自信をもってメイドは答え、周りのメイドも頷く。

 それは確信ともいうべき予感だった。

 これ以上を聞くとメイド達が化け物に変貌しそうな恐ろしさを感じた。

「なら、ヤントラはあなたたち、ナザリックと敵対するとか言ってたけど、その事については?」

 メイドの中に動揺(どうよう)が走る。信じられない、という顔をしている。

「至高の方々のお考えは我々には分かりません。ですが、バスパ様はとても私達を可愛がってくれてます。見た感じでは敵っていうことは無かったかと」

「この前も普通に手を振って下さったわ」

 メイドに聞いてもダメかもしれない。

「新しいお召(め)し物です」

「ひゃっ!?」

 すっと、いきなり出てくるメイドにラキュースはびっくりした。

 仕事はしっかりこなすメイドには驚きの連続だった。

 よくよく考えたら全員が女性。何も恥ずかしいことはない。無いはずなのに捨てた羞恥心が時々蘇(よみがえ)る。

 

 メイド達に見られながら着替えるのも気恥ずかしいものがある。

 しかも仕事は丁寧。

 ここで暮らすのも悪くないかもと思えてしまう。

「……メイド達は一人に対して何人も担当するの?」

「いいえ。本来は至高の方々それぞれを担当していました。今はお一人になられたので仕事が激減してしまいました」

 これだけのメイドが集まる理由をようやく悟った。

 仕えるべき主人が居ないのだ。

「もったいないわね。宿泊施設とかに……」

「ダメです! ここには至高の御方々の大切なお部屋があります。下賎な者など……。申し訳ありません。ここは主(あるじ)の大切な寝所(しんじょ)なのです。どうか、ご容赦を」

 自分の発言で気を悪くされたのでは思ったメイドが平伏する。

 主人への絶対服従。

 それは居なくなっても続く呪いのようなもの。

「顔を上げて。私も知らなかった事とはいえ、軽はずみだったわ。ごめんなさい」

「いいえ。滅相も無い」

「そういえば、戦闘メイドという人達とは会えるのしら?」

「先輩たちは特別な方々ですから……。今は誰が居ますかね?」

「シズ先輩は絶対に居ます」

「でもあの人、口数が少ないですからね」

「ユリ先輩は上のろ(・)ぐ(・)は(・)う(・)す(・)、というところで仕事中でしたね」

「みんなと話しているとお代わりが欲しくなってきちゃった。他の料理はどんなものがあるのかしら? あと、排泄できるものを」

 そう言われて、それぞれが世話しなく移動を開始する。

 仕事をするメイドは素晴らしく良い動きをしている。

「……メイドが排泄なしに食べ続けるっていうのが……」

 見た目には細い身体なのに。胸もあるし。

 どういう身体構造を、と思ったところで夫も似た感じであったことを思います。

 彼は排泄が出来ないのだと。それと同じ構造なのだろうか。

 食べ物は美味しいが、排泄が見世物になってしまうのではないかと危惧している。

 興味津々のメイドの数が多い。

 入れ替わり立ち代わり違う顔のメイドが現れる。

 総勢四十一人。全部覚えられない。

 それにしても身体の調子がとてもいいのが不思議だった。

 病気を治す魔法とかアイテムでもあるのだろうか。

 アイテムは夫のより豊富だろう。

 そう言っている間にも尿意(にょうい)が来てしまった。すぐまた便意(べんい)も来る。さすがに一回では出し切れなかったようだ。

「……排泄に必要な場所が欲しい……」

 来客向きではないな、と思った。

 メイドの大きく見開かれた目に見られながら排泄行為をしていると汚物などはどう処理するのだろうか。

 まさか捨てるところが無くて食べたり飲んだりしてはいないだろうか、と心配になってきた。などと思っている間も桶に落ちる音が生々しく響き渡る。

 可愛いメイドの顔が口に汚物を着けて笑う姿は見たくない。

 出し終わった桶はどこへ持って行くのか尋ねてみた。

「それがちょっと分からないので困ってます」

「食べないように。それはちょっとメイドとして残念な事になるから」

 命令されたらやりかねないかもと思って心配になる。

「水洗所……はダメね。ああもう! あっ! そうだ。確か地上に転移するアイテムってなかったっけ?」

「『転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)』ですか? ありますけれど……」

「地上は平原なんだから、地面に埋めた方がいい。というか捨て場所を作っておいて」

「は、はい。シズ先輩に聞いてきます」

 汚物の入った桶を持ってメイドがうろうろするのは可哀相だ。

 全く、なんで異形の心配してるんだか、と思いつつも夫も同じように考えていたのだろうか。

 異形とて生きて動いている。特殊な力は持っているけれど使い方さえ間違えなければ彼らと付き合う事も可能ではないのかもしれない。

 少なくとも夫はそうしてきたのだろう。

 たかだか排泄行為ひとつで余計な労力を使ったような気がした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。