ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
もうすぐ自分の生まれた国とバハルス帝国との戦争が近づいている。
気にならないわけではない。
決戦地に程近い城塞都市エ・ランテルに
満足のいく食事も与えられず、ただ命令されて死にに行かされる
相手は歴戦の兵士。後ろに控えるのは帝国最強の四騎士が控えている。
鮮血帝ジルクニフは高みで戦況を楽しむ男。実際は直接は知らないが噂などは耳に入っている。今回も程よく殺しつくした後は兵を引いていくのだろう。
じわじわと王国を追い詰めるやり方で。
かつてアダマンタイト級の冒険者『蒼の薔薇』のリーダーであったラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは与えられた部屋の中で王国の未来を見ていた。
貴族として民に慕われる存在でもあった自分は罪人として処理された。しかしながら王国の民に恨みは抱いていない。
憎悪に支配されているとはいえ一方的に屈強な兵士達に蹂躙されるのは元は普通の市民たちが哀れでならない。
貴族の
そんな日常は夫の言う『つまらない』という言葉に集約されるのだろう。
満足な食事と献身的なメイド達により肉体は自分でも驚くほど回復して行った。
掃除以外の仕事が無いのとメイド達に与えられる仕事量が少ないおかげか、色々と助けられた。
歩き回れるほどに回復するまで数日もかかっていないだろう。
ただ、排泄の時はみんなに見られて困るのが欠点だが。
この階層には風呂もあり、清潔な身体を維持できる。
「こけだけの設備があるなんてすごいわね」
「至高の御方々がお創りになられたものですから。私達には想像も出来ません」
自分で身体は洗えるが背中はメイドにやってもらった。彼女達は異形種ではあるけれど変身、変態することは無いらしい。
「それぞれ
説明も丁寧。そうするように教育されている。
「……それからお風呂のマナーが悪いと
「
「はい。確か……、あのライオンだったと思います。一度動いたら守護者全員で取り押さえないといけないほどだとか……。そういう厄介なものが至るところにあると聞いております」
聞けば聞くほどとんでもないところというのは分かってきた。
なのに排泄できない身体。
何故、と疑問に思うが本人たちも知らないようなので、そういうものだと思うしかない。
使い道の無い器官というのは少しだけ可哀相と思った。
「それにしても色々と教えてくれてありがとう」
「いえいえ。我々の知るものは微々たるものにございます。それでご満足いただけるなら嬉しい限りでございます」
お世話が出来るだけで幸せそうな顔のメイド。
この子達には自分の人生という概念が無いのかもしれない。
将来の不安。それは多少はあるだろう。
人並みの幸せ。結婚とか働き口とか。
食事と就寝と仕事だけあれば一生を棒に振れる。それがメイドの幸福。
そう考えれば自分達のしてきた事とあまり変わらないかもしれない。それこそが究極的な幸福だとさえ思えてくる。
だが、それでも不安は残る。
人間は老いて死ぬ。彼らはほぼ不老の存在、だと思う。
一生を変わらぬままに生き続ける事が幸せなのだろうか。
夫の言葉を思い出す。
二千年後も同じことが言えるのか、と。
十億年後も幸せです、と言えるのだろうか。
普通なら無理だ。
生物であるならばいずれは
それが出来ない者達は、と疑問に思うと髪の毛が逆立つ気持ちが襲ってくる。
「どうかされましたか?」
自然と涙が出て来た。
「あっ、わわ、私が何か間違えてしまいましたでしょうか?」
ラキュースはお世話をしてくれるメイドを抱きしめた。言葉は無い。
ただただ彼らが哀れだと感じたからだ。
これが幸せなはずが無いだろう。
未来永劫変わらぬ暮らし。変化も無いければ新しさもない。
つまらない、を通り越して絶望。その言葉すら生ぬるい。
真の絶望。
寿命のある我々はなんて幸せな生き物なのだろうか。
「……ごめんなさい。色々とお話しを聞かせてくれてありがとう」
「いえいえ」
「ここはメイド達と……守護者という人達も来るのよね?」
「はい。今は皆さんお仕事で忙しいようですが……。アルベド様がおられるので、よく利用されております」
腰から黒い翼を生やし、頭に角のある異形。
彼女の声は人間を蹂躙する。
「みんなはそのアルベドという人と居て平気なの?」
「あまりお近くには寄れませんが、特に何もありませんよ」
自分だけ物凄い影響を受ける、ということだろうか。
さすがに二度も体験はしたくない。
「これは……答えてもらえるか分からないけれどいいかしら?」
「はい」
「アルベドという人はどんな種族か分かる?」
「確か……、
名前くらいは伝説などでラキュースも知っていた。
人を惑わす
「……私の天敵だわ」
テンプラーの
今まで出会わなかったから分からなかったことかもしれないけれど、あれほどとは思わなかった。
他の守護者の声を聞いても吐き気はあったが、アルベドは別格だった。
アインズの方がまだ優しいかもしれない。肉体的に、という意味では。
「見た目は美しい化け物なのに……」
「人間のあなたには化け物かもしれませんが……。そういう事はナザリックでは控えていただいた方が……」
「そうお? 人間蔑視するくらいだから、言い返す権利くらいあると思うけど」
「いいえ。守護者を侮辱するのはおそれ多い事なので。我々のような下のものなら我慢出来ますが……」
格上の相手には敬意を表す、という意味なのね、とラキュースは納得した。
そういえば、支配者の悪口は言ってはいけない、ということを思い出した。
「ごめんなさい。つい口が滑って……。あまりここのこと詳しくなくて。守護者の事とかまだ知らないのよ」
「そうでしたか。それは良かった。あなた様に何かあってはお叱りを受けてしまいます。分からない事があればお答えできる限り、ご質問に答えさせていただきます」
丁寧な言葉を
意外と教えてくれるのには驚いた。
「階層の事は全て知っているの?」
「基本的にメイドはここと第十階層しか移動しません。ご命令があれば上の階層にも行く機会はあるかもしれませんが……。そこから先は戦闘メイドの先輩に尋ねられた方が良いかも知れません」
より詳しい話しは戦闘メイドに会うしかないようだ。
少しでもここに慣れるには情報が必要だが、だからといって逃げ出す事もできない。
自分には帰る国が無い。
お風呂からあがり、与えられた服を着て階層を散策する。
第九階層の中の許可された範囲であれば行動は自由だった。メイドが興味津々に見つめてくるけれど。
それもそのはず、この階層にいる人間はラキュースただ一人。
敵陣のど真ん中に居る気分だった。
料理人というのも異形だとは思っていたが相当に気持ち悪い存在だった。
きのこ人間とでもいうのか。だが、作られる料理は美味しいというので、何か悔しい。
「……それにしても平和ね、ナザリックって」
「敵が居ないからですよ。普段は静かですね」
始終、側につき従うメイドが話し相手になってくれる。監視付きではあるけれど一人で歩くことも出来る。
監視が必要なのはトラップの危険性があるためだ。
「人間が住むと肥え太ってしまいそうだわ。運動とか出来るところはあるの?」
第九階層には娯楽施設がたくさんあるらしい。
至高の存在が
正直に言えば他の階層にも興味はある。だが、人体に有害な危険性は感じる。
「う~ん。……誰か夫を連れてきてくれないかしら」
「それは……バスパ様ですか?」
「そうよ。というか、ヤントラとは呼ばないのね」
ほぼ全員がバスパと呼んでいる。
「はあ……。昔からそうお呼びするようになっていたもので。名を変えられても以前の呼び方で構わないとおっしゃられたので」
「私も夫とかあなたとか言うから、一緒か……。……そういえば、姿を変えたのよね……。前のバスパとはどういう存在だったの?」
「……難しい質問ですね」
「顔とか話し方とかでいいわ」
「全体的には女性的……ですね。髪の色は青で目は赤だったと思います。すみません、なにしろ
「……はっ?」
それらしい事は聞いたことがあるがメイドが苦笑するほどまともな姿では印象に残っていないらしいことは分かった。
「形を保っている状態で拝見できるのが珍しい、というか。殆どは遠目からしか拝見したことがありません。他の子は話した事があるのかもしれませんが……。姿を変えられた後はよく覚えております。至高の御方々達と話せることは滅多に出来ないもので」
ここで自分の主人は面白い人として生活していたのね、ということにした。
メイドの印象からも愉快な存在だったのかもしれない。
そもそも
ヤントラの妻なので共にミンチになる、わけにもいかない。
下手をすると妻だから潰れても構わないだろう、と言ってくる奴が出てくるかもしれない。
「私は潰れたくないので、ミンチとかは遠慮させていただきます」
「お客様をぞんざいに扱うなど致しません。……ですが守護者の皆様がどう思っているのかは分からないので、メイドの身分ではできない事もございます」
立場的なものもあるのだろう。
メイドに殺されることはなさそうだ。
「異形種ということだけど至高の人はみんな同じ種族なの?」
「様々な種族の方達です。
大量の食材をもくもくと食べるメイド。きちんと食べ終わってから喋る几帳面さ。
「メイド以外にも会いたくなってきた……」
「皆様方はお仕事がお忙しいようなので、今はメイドばかりですが。お話し相手がお望みならば様々な方にお声をかけてみます」
「ありがとう」
気持ちよく食べるメイドに『あなたも人間を食べるの?』と聞いてみたくなるが背筋に悪寒が走りそうなのでやめた。
さすがに生きたまま
だいぶ時間が過ぎた頃にメイド長なるものが来たと報告を受けた。
全てのメイドの頂点らしい。少し緊張してしまう。
部屋に入ってきたのは異様な姿のメイドだった。いや、メイド服を着た異形だ。
頭以外は普通の人間。
頭部は二つの頭を左右で縫い合わせた犬そのもの。
「ご機嫌はいかがですか? ……わん」
犬が人間の言葉を話した。という印象しか受けない。
被り物ではない。それは見ていて分かった。
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、……わん。私はメイド長のペストーニャと申します」
「ラキュース……です」
新しい異形は心臓に悪い。だが、この人もいずれは慣れるんだろうな。
慣れとは恐ろしいものだ。見えない者を恐怖することはあるが見えてしまえば何も怖くない。
犬の頭のメイド長は今までのメイドと違って風格を感じさせる。
それに邪悪な気配も無い。
「だいぶ回復されたとか。このままゆっくりとおくつろぎ下さい」
「ありがとう」
「バスパ様のペット、いえ、つまでしたね。あの方に尽くしていただきありがとうございます。お一人であったバスパ様も
コロコロと人間のように笑うペストーニャ。しかし、犬の頭部のせいか表情が読みにくい。
というよりは人間の頭を犬に
「失礼ですが、種族は?」
「
神官職なら相性も悪くないわね、と思った。
「失礼。……わん。私どもにもお話しできないことがございますので、どうかご理解下さい。……わん」
「分かったわ」
最後の『わん』はなんだろうと疑問に思った。
「ペストーニャさんは人間を食べたりするのかしら?」
「大好物にございます。……わん」
普通に答えたペストーニャに対し、ラキュースは血の気が引いていくのを感じた。
「特に肉団子に加工した生きた人間の丸かじりなどは……」
噂に聞いた肉団子はペストーニャのことだったのか、と驚いた。
犬の口が凶悪に開かれ、
「うわ~! 結構結構! それは言わないで~!」
聞いてはいけない事を聞いたせいか、涙が出てくる。
なんておぞましい生き物なのか、と恐怖する。
「大変失礼致しました。……わん。あなたも人間でしたね。同種が食べられることに抵抗がおありのようで。ご配慮が足らず、申し訳ありません。……わん」
今の叫びで他のメイドが顔をのぞかせる。
総勢四十一名のメイドは全て人間も食べるということだ。
「……お、お願いします……。夫を……連れてきて……。ここに居たくない……」
「あなたの身の安全は我々が保障致します。バスパ様に連絡できるかは保証いたしかねますが、努力致します。……わん。それにここが人間にとって一番安全だと思われるのですが……、わん。何か不安な事でも?」
「全部よ! 何もかも不安だらけよ! ああ、なんか、
ペストーニャは客人の不安が理解出来なかった。
受けた命令は人間の安全を保証し、手厚くもてなすこと。他の階層には移動させないこと。などが厳命されていた。
その中に『殺せ』という文言は入っていない。
言われていない事は何をやってもいい、という思考はペストーニャにはなく、メイドとしての仕事を重要視するように作られている。
「申し訳ありません。我々はあなたの不安を解消する方法が分かりません。どうか、お気を静めて下さいませ。戦闘メイド達にも来るように命令を出しておきましょう」
ベッドの中で丸くなり、むせび泣くラキュースにペストーニャは困惑する。
命令を守るのが自分の仕事である。
目の前の人間をどう扱えば落ち着いてくれるのか、想像出来なかった。
「メイド長。その方は人間を食べない方です。それが原因かと愚考いたします」
「つまり……わん。どういうことですか?」
「ご自分が食材になるのでは……と」
「それは確かにご命令があれば人間も食材に致しますよ。……わん」
それのどこに原因があるのだろうとペストーニャは首を傾げる。
自分の知る中では人間の親が自分の子供の丸焼きをうれし泣きで食べていた話しを聞いたことがあった。
ただの好き嫌いだろうか、とペストーニャは思う。
「抵抗があるのでしたらいくつか人間の料理をご用意いたしましょう。まだ少し食材が」
ベッドから飛び起きてペストーニャを殴りつける。しかし、ペストーニャは
手首が折れる音が鳴った。
「はうぅ!」
「あらあら、よく分かりませんが、手当てを致しますから……」
無事な方の手で平手打ちした。しかし、ペストーニャには通じない。
「わ、私は食料じゃないわ! 人間……」
気持ち悪い話題が続いたせいか、嘔吐した。しかし、メイド達は感動していた。
自分が食べてきたもの全てに人間の部位が入っていたのではないかと不安になって嘔吐がしばらく続いた。
さっきまで人間の目玉が入ったオートミールでも平気、という気持ちが嘘のように
ペストーニャは困惑する。
自分は命令を守れていないのではないかと。
身の安全を保証するはずが何やら危険にさらしている気がしてきた。
これは一刻も早く上になり、他の者と相談する必要があると判断した。
メイド達に世話されながらラキュースは思った。
自分はまだ異形に対して理解していなかったと。
こんな存在と仲良くなろうとするのはまだ無理だった。
先程の犬頭のメイド長が居なくなって気分は少しだけ楽になった。
手首の方は包帯だけ巻かれた。
一般のメイドは何も能力が無いらしい。
お世話だけに特化した存在。
「……あなた」
「はい。私ですか?」
「この手をあげるといったら食べる?」
「えっ? いいんですか?」
笑顔で何でもない事のように答える人間の姿をしたメイドの女の子。
彼らはそういう生き物なのだ。
食べていいなら、と思ってどんな調理方法で食べようか考えているようだ。
とても嬉しそうに見つめてくる。
つまり夫はそれが出来る人だ。
彼らの要求を満たせる存在。
人間じゃない。化け物。そして、それを超越するもの。
「生肉は趣味ではありませんが、やはり調理されたお肉のほうが私は好きですね」
人間にも平和だと思った自分を殺したい。
ここは人間が食料か役に立つかの二つしか選べない地獄なのだ。
必要が無くなればアンデッドか彼らの食料になるのだろう。
そんな存在と我々が仲良くなれるものなのか。ラキュースは新たな疑問を感じる。
可愛いかもしれない。けれども彼らは人間を食料にする。
どう考えても仲良くなれる気がしないのだけど。
それとも役に立たない人間は食料にしていいということだろうか。
「このままだと手が腐るかもしれません。メイド長はどこかに行ってしまわれましたし、どうしましょう。斬り落としますか?」
平然と言うメイド。命以外はあまり
早く夫に会いたい。これほど待ち
と、同時に食べさせてもいい、と言われたらどうしよう。そんな不安も同時に来た。
腕くらいで大げさな、と笑われるだろうか。
罪人として処分されたし、生きていても意味が無い。
いまさら生にしがみついてどうしようというのだろうか。
ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは既に死んでいるのだ。
異形の食料くらいで怖がってどうするというのだろう。
食べたければ食べればいい。捨てた命だ。
ここで肥え太って皆の食料になる結末。
それが私の最後に相応しいのかもしれない。
肉団子にされて回復されながらメイド達のお腹を満足させる。
「ど、どうしました? どこか痛いのですか? 手はまだ待ってくださいね。メイド長が戻るまで我慢ですよ」
もう何度、むせび泣いた事だろうか。
「……私の居場所ってあるのかな……」
人間、異形に居場所は無さそうだ。とはいえ亜人もダメだろう。
どこにも居場所が無い。
最初から無いのかもしれない。
飼育された豚のように出荷を待っている。
飼育員に育てられている豚。それが今の自分だ。
「だ、だれか、来て~! 応援を求めます~!」
ラキュースはたくさんの人食いメイドに身体を拘束されて泣いて叫んだ。
早く殺してくれと。
半狂乱になる彼女に救いの手は来なかった。
第十階層の玉座にてラキュースの報告を受けたアインズは少し驚いていた。
「今まで大人しくしていたのに何があった?」
「そ、それが分かりません。ペストーニャに会った辺りからおかしくなったと」
「神官職なら相性はいいはずだ。あいつが何かしたのか?」
「報告によると突然ペストーニャに殴りかかったとあります」
「それだけでは分からん。理由もなしに殴るわけがなかろう。それでペスは何所に居る?」
「もうすぐこちらに来ます」
貴重な貴族の情報源なので丁重に扱っていたのに何があったというのだろうか。
礼儀作法、服装の
問題のペストーニャがやってきて玉座の下で申し訳なさそうにひれ伏していた。
ナザリックの中でも温厚で癒し系とまで言われた彼女が失態を犯すとは考えられなかった。
「ペス。お前ほどのものが失態を犯すとは考えられないのだが、出来るだけ正確に報告せよ」
と、声がかかった途端に身体を揺るわせるペストーニャ。
「そ、それが私にも……わん。普通に話していただけで……」
「どんな内容だ? 落ち着いて話せ」
支配者とて部下を毎回叱り付けているけではない。
威厳のある喋り方は意識していると難しいが普通の会話ならまだ楽な方だろう。
「はい。あの方から人間は食べるのか、と質問を受けたので。大好物ですよ、と答えました」
「………。続けろ。いや、他に何か質問されなかったか?」
言わなくても予想が出来た気がした。
「いいえ、その後は叫んだり暴れたりで……わん」
「んん。……例えばだ。自分が食材にされるのでは、とか?」
「それはメイドからです。それが何か?」
「好き嫌いはよくないと思いまして。丸かじりは良く無かったかと思いまして抵抗の少なくなる人間の料理でもと……」
逆効果だった。
「役に立たない人間はアンデッドか食材くらいにしか利用価値はありませんものね」
アルベドはペストーニャが気の毒に思えた。
「ご自分も人間の味に慣れれば大人しくなるのではありませんか?」
「やはり、そうですか! では、そのように」
アインズは二人のやり取りに頭を痛めた。
「待て、二人共」
「はっ」
二人はピシッと動きを止めた。
このナザリックは人間を食料にする者がたくさん居る。
その中に人間を一人放り込んだのだ。不安になって当たり前だろう。
いつ食材にされるか不安なのに更に
もちろん、ペストーニャ達には悪気は無い。悪い事でもないのだから。
問題は相容れない種族の相互理解の
とはいえ悪い事ばかりではない。そういう問題があることを気付かせてくれたのだから彼女には感謝しなければならない。
アインズが何か言おうする時、新たな報告が『
「なんだ、いったい」
いきなりだったので不機嫌気味に尋ねた。
『申し訳ありません、アインズ様ぁ』
と、甘ったるい声と虫がうごめく音が聞こえてきた。
「エントマか。なんだ」
『保護していたアインドラ様がぁ舌を
「なにをしてるんだまったく……。ペス! すぐラキュースの元に向かえ。死なせてはならんぞ」
「はっ!」
脱兎の如くペストーニャは駆け出した。
「あ、アインズ様?」
「種族の壁か……。これは困ったな」
非常に友好的な人材は代わりを見つけるのは難しい。
今、ラキュースを失うわけにはいかない。
ペストーニャがダメだとすればユリくらいしか浮かばない。
「ヤントラを呼ぶしかないか……。ったくあいつ今、何してんだ……」
お前の妻が危険だぞ、このやろう。っていうか、妻がここに居ることを伝えたっけか。
アインズは頭を抱えてしまった。
「……シャルティアを呼べ」
「シャルティアは現在エ・ランテルに向かっています」
「……ああ、野盗などの調査だったな。仕方ない、シャルティアの部屋に居る『
「それならば私が」
「いいや。アルベドは報告を待て。それほど重要ではない」
ペロロンチーノが設定したグッズの知識でシャルティアは数々のアイテムを作らせたはずだ。その中に確か舌の噛み切りによる自害を防ぐものがあったような覚えがある。
拷問官のニューロニストのところにあるものよりかは怖がられる事は少ないかもしれない。
いや、そもそも自分が行けばラキュースは大惨事になるな。でも、
そう判断してアインズは転移した。
頭脳労働は本来苦手なヤントラはリ・エスティーゼ王国の自宅の執務室で文字の勉強をしていた。
あいうえお順はなんとか分かった。数字もクリア。
他言語を理解するのは時間がかかる。解読アイテムが欲しいところだ。
それらしいものはセバスが所有しているらしく、あまり邪魔しても悪いと思い自力で挑戦していた。
誰も居なくなったアインドラ家。
数年分の活動資金はあるので今すぐどうにかなるような事は無い。
「全然分からん。それでも、
一人プレイが長いものは得てして独り言も多い。
時々、レエブン侯が来る。
ラキュース亡き今、新たな人材も探さなければならない。
冒険はまだ全然進んでいないから。
復活が出来ない分、志願兵は却下せざるを得ない。
アインズ関連とは関係ないところで計画を練らなければならない。
他のプレイヤーの存在のこともある。
一息ついて家の中を見渡す。随分と散らかってきた。
仕事部屋以外は奇麗な方だ。使ってないから。
魔剣キリネイラムはまだ
時々、
遺品として『
玉座に関しては、
自分の拠点の最重要地点は決めるのに時間をかけている。
「メイドの一人でも
魔法だって有限だし。
天使でもだめだろう。
そういえば
モンスターは全滅だ。
「エ・ランテルにでも行こうかな……」
近くにカッツェ平野というアンデッドがよく出るという噂を聞いているし、戦争の舞台になる予定のところ。気晴らしに様子を見るのも悪くないかな。
家を空けるのはなかなかに勇気が居る。大事な武具はアイテムボックスに放り込めばいいが、家が荒らされるのは困るな。大事な拠点だから。
「『大人しい
召喚したものは時間になると消えるんだったと思い、頭をかかえる。
「蒼の薔薇のメンバーにも解放すれば良かったかな」
少なくとも誰かが管理してくれる。
家に鍵をかけて、少し気晴らしに散策する。
ラキュースが刑に処されてまだ数日しか経っていないが、もうすぐ戦争が始まる。
兵士の数が目立つようになってきた。
「おっ、
「散歩?」
壁の上から飛び降りてきたのは蒼の薔薇のメンバーの双子。
基本的に二人は行動するときも一緒のようだ。
「丁度良かった。家のことを頼める? 遠出したくても心配で」
「食料があれば」
「イビルアイも呼んでおくよ」
即答でオーケーしてきた。
「本当にいいのかい? 仕事とかは?」
「我々は情報調査が中心だから問題ない」
「ない」
「寝床とか処分しちゃったけど……」
「へーきへーき」
「頼めるなら食料の買出しだな」
三人はまず食料品店に向かった。
ある程度の単語は読めるようになったので、一人でも買い物は可能だが、調理法は口頭でなら理解出来る。
「で、旦那さんは何所に行く予定?」
「狂気をはらんだ女戦士でも見つけに」
この言葉に双子は該当しそうな人物を思い浮かべる。
数々の歴戦を潜り抜けたので有名どころはだいたい浮かぶ。
「その条件にぴったりな女子がおりますぜ、ボス」
「それは期待出来そうですね」
「スレイン法国の
漆黒聖典という言葉は王女も言っていた事を思い出す。
「人外らしいから楽しいと思うよ」
「元、漆黒聖典だ。裏切ったらしいから」
「それよりも、なぜそういう局所的な要望をご所望なのですかな?」
「冒険するなら派手さだったり狂気はつきもの。素敵な女性ならなお良し。おしとやかだと真っ先に倒されそうで」
考えればキリがないが、大雑把な要望の一例として述べた。
巫女だの陰のある未亡人だのも脳裏には浮かんだ。
ヤントラに果物を買ってもらい双子はさっそくかぶりつく。
「ラキュースも見た瞬間にこの人素敵と思いました」
「……惜しい人を亡くした」
「旦那さん的には鬼ボスのことどう思ってるの? 愛してた?」
質問すれば即答してくる。
双子はヤントラは少しは考えて喋っているのか、疑問に思うことがある。
頭の回転が速いのならば理解も出来るが、見た目では何も考えていないような気がしていた。
「愛ですか?」
「それとも……、居なくなったものは仕方ない。新しい女を見つければいいか。……程度の存在?」
今の言葉の方がヤントラが言いそうな予感がした。
妻が罪人扱いされていたのに何とも思っていない気配を感じたからだ。
「そう言ってほしいなら言いますが……。確かに……君達の言うとおりだ。新しい女を捜している」
無感動な顔でヤントラは言った。
ティア達も予想していたことなので怒りはそれほど湧かなかった。
いずれは死ぬ。それが遅いか早いか。冒険者はいつでも自分の死を覚悟しなければならない職業だから納得していた。
「とはいえ、せっかく共に居てくれた人だ。大事に思っていたよ。愛していたかという点はどうだったのかな。異形の中にも居たものだから人間的な愛なのかどうか正確なところは分からない」
「鬼リーダーはわりと評価高かったかも」
「君達から見たら薄情な亭主だったのだろう。それもこれも精神力の鍛錬だったわけだし、いずれナザリックと交渉する時に現地の人間の反応は貴重な財産になる。今回は様々な要因について互いに勉強になった。貴い犠牲……。とはいえ切り捨てる気はなかった。……多くの人間を救う為に個人の命の重さを考えてやらなかった私が悪い」
「いやいや。国を背負うってそういうこと」
「わたしらも通ってきた道。どんまい」
軽く言っているが自分達のリーダーが貴い犠牲になって嬉しいとは思っていない。
戦争に巻き込まれる多くの人間の命がかかっていることも分かっている。だから双子はヤントラを責めはしないが、多少は恨む。
それに案外、リーダーの事を気にかけているようだし、それほどの非道な人間とも思えなかった。
感情論で動かない辺りヤントラは
「で、次の女とも結婚するのかね?」
「結婚はラキュースだけでいい。
様々な食料を物色していく。
「君達のリーダーを大切に出来なくて申し訳ない。使者が行くまでに事態を少しでも良い方向へと持って行きたかったから徹底的に追い詰める結果になってしまった」
「……うん。酷かった」
「とても人間の所業じゃないね。よく自害しなかった」
「いや、あれだけのことを最後まで耐え切ったリーダーすげーよ」
「鬼ボス。最後までかっこよかった」
普通なら耐え切れない。耐えられる人間などいないだろう。
狂気に
『
罪人と呼ばれようが自分達の誇れるリーダーはラキュースただ一人だろう。