ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
結果としては折れた骨が元に戻ろうとするゴキだのバキだのが気持ち悪く聞こえてきて効果音はよく分からない。
一応は成功のようだ。
呪文を唱えて何も起きなければ、それはそれで『この人は脳もやられたのかしら』と思われていただろう。たぶん。
一般常識で言えば魔法が成功する筈はないのだが、身体がユグドラシルのアバターという時点で異常である。
その点を忘れてはいけない。
自分で言うのもおかしいが、かなりアンバランスな身体設定をしている。
前の適当に選んで作ったアバターよりは外見は多少はマシな程度だと思う。
今回のアバターは外見より中身を充実させている。
さすがに一回の魔法で完治するわけもないので更に二度ほど追加する。
「……だ、大丈夫ですか?」
少女の困惑した声が聞こえる。
それはケガのことなのか、お前の頭という意味でなのか。
「腕さえ動けばどうにでもなるので」
安心させる意味で言ってみたが身体が固定されているので何も出来なかった。
応急手当としては間違ってはいないが、これはこれで不自由感があるな。
馬車で
胸というか腹部の骨折はおいといて、腕の拘束をまず解いてもらわなければならない。
「黙って見てないで包帯とか取ってほしいんだけど」
「えっ……、は、はい」
納得がいかない少女は混乱する頭でヤントラの腕の包帯を取ろうとする。しかし、しっかりと結んでいる為に時間がかかった。
無理にせかす理由もなかったので大人しく待った。
目の前に現る少女は一言で言えばみすぼらしい。いかにも農村の村娘。
シャンプーの匂いは漂ってこない。
潔癖症の人間であれば村に居るだけで拷問だろう。
髪の毛もよく手入れしているとは思えない。
普通の汚い女の子。
ゲームの世界であれば、そういう風に作られていても不思議は無い。
だが、人の手の入ったキャラクターは不自然な美がある。
汚さに違和感があるのがゲームのキャラクターというもの。
目の前に居る少女は血の通った本物の人間。だと思う。
わざとらしい汗も無い。服の動きも制御されたものとは違う自然さがある。
髪の毛も表現の限界を超える細かさ。極限のリアルさよりは本物だと認めたほうが早いほど。
「取れないなら刃物で切ったら?」
「そ、そうですよね」
「慌てないこと。……そんなに私は怖い顔でもしているのかな?」
「……いえ、驚いているだけです」
コミュニケーションに問題は無さそうだ。
実際は顔が異形種に変更されている、という線もあるのかも。
もし、そうだったら村人が殺しに来るか。
近寄っているという事は顔は特に大丈夫なんだろう。または額に第三の目があるとかかな。
少女が短刀を持ってきて包帯を切る。
包帯というか太い
思い込みというのは怖いな。
解放された腕は見事に完治。とまではいかないが動くことは動く。片手だけでも充分だろう。
自分の腕ではないとはいえリアルな腕だ。腕から手へ。
胴体が男性。腕も男性だったかな。とはいえ
性別は不明。それは男女どちらの特徴も取り込めるもの。
自由度の高いユグドラシルに性別の選択も複数存在する。
男性が女性キャラクターを使い、女性が男性キャラクターを使う。そんなことは無数のオンラインゲームでは当たり前のように存在していた。
では、不明とは何か。
部位ごとに男女のパラメータを選択できるもの。
いわゆる『ジェンダーフリー』というやつだ。
装備品の中には男性用と女性用があり、装備に制限があるものが存在する。
可愛いものは装備したい。かっこいいものは装備したい。
人間種特有の特典かもしれない。
間違った。
そうじゃない。男女の特徴を無くすのが正しい。
産毛はあるが男性というわけではない。
どのみち鎧を着たら性別とかどうでもよくなるから指摘されることはほとんど無い。
先ほどのパラメータでは男女を平均化したものとなる。
ある意味、男性的にも女性的にも成長しないタイプと言えばいいだろうか。
ステータスに
それと男性、女性限定の職業も選べたはず。
基本的な職業や種族は攻略サイトに掲載されているらしいが特殊な条件で現れるものは非公開にされることが多い。
公式が発表しない情報がかなり多いのもユグドラシルの特徴だろう。
『
システムの
例としてキャラクターのデータそのものを抹消する、と聞けばどれほど狂ったシステムかは理解出来るだろう。というか理解したくない。
運営に直談判してエリア封鎖もお手の物。もうゲームの範囲を超えている。
そんなゲームがよく十年以上も続いたものだ。あと、そんなゲームを十年近くやってこられたものだ。
基本利用料が無料。
魅力的なアイテムはだいたいが
給料をつぎ込んでくれる廃人プレイヤーが大勢居たのだろう。
レアアイテムあるところにトラブルあり。むしろトラブルが無いほうが不思議だろう。
レアアイテム欲しさにPKするのはまだ可愛い方だ。
自己破産した者もきっといるだろう。モモンガも給料をつぎ込んで大量のハズレアイテムに囲まれた。
運の要素は時として人生を狂わせる。
廃人プレイヤーにはお似合いかもしれないが。
ヤントラが課金した金額はトータルで五万円くらいになるんだろうか。レアアイテムが欲しかった訳ではなく、課金によるデータ増量がほとんど。
あと『アインズ・ウール・ゴウン』の
それくらいしないとギルマスであるモモンガは納得しないだろうから。いくら多数決で決めるギルドとはいえ。
必要経費は出るものだ。
ただ、
ほぼ異形種だからPKに当たらないシステムだがプレイヤーは殺したことが無い。せいぜい半殺し。
普通は半殺しに出来るような弱い奴はギルドには数えるほどしか居ないけれど。
多くはNPCだな。レベル的にもいい勝負が出来る。
拠点に居た戦闘メイド。
個人的には欲しいが、この世界でも居ないかな。メイドでなくてもいいが。
狂気をはらんだ女騎士とか
ワルキューレの装備がしたいがための性別設定ともいえるが装備品が見つからない。あるにはある。レアもので手が出せなかった。
せっかく『ヴァルキュリアの失墜』という名前が付いているのだから入手は簡単だろうと思っていたのに。
レアアイテムからの製作は私のもっとも苦手とする分野。
集めた素材でギルドメンバーに頼み込むことも少なくない。
それらは今頃どうなっているのか。
話しの脱線はここまでにして、これからどうするかが問題だ。
魔法が使えることは確認した。
自分が分身体のアバターであることも否応なく理解する。
少なくとも『自身の本体』でなかっただけ幸運かもしれない。
ひどいケガをした人間が一日で復帰したことにキョトンとしている少女にヤントラは気付き、
顔の動きはなんとなく感覚で分かった。
視点が
「刃物を持ったままぼ~っとするのは危ないですよ」
そう言うと少女はようやく我に返った。
「す、すみません」
普通は驚く。
それが当たり前の反応なのだから。
腕が切り落とされているのに普通に挨拶してくる村娘が居るなら見てみたい。
ユグドラシルは感情表現にデータは割り振らない。
代わりに感情アイコンというものがキャラクターの頭上に浮かぶシステムになっている。本来なら。
顔の筋肉が動く感覚があるし、アイコンも出て来ない。
私にとってはさして重要なことではない。細かい事を気にしても頭の悪い私には理解できない。
それらの問題は自然と理解していくものだろう。
次はアイテム。
彼はほぼ無防備とも言える格好をしている。全裸ではないが。
基本的にアイテムはコンソールから呼び出すもの。ポケットに入れたりはしない。
コンソールが現れない今はどうやって取り出すのか。
魔法と同様に行動すれば良い。システム的に違いが無ければ出来るはずだ。
胸と服の隙間に手を入れると普通なら内ポケットがあるはずだが、今は違う。
内ポケットの代わりに空間そのものに手を突き入れている状態になる。
予想していたとはいえ間近で見ると気持ち悪いな。手が途中から
このまま手首を斬られたら、手首というアイテムとして入ってしまうのだろうか。
それはそれでグロい。内臓を生のままアイテムボックスに入れたくは無いな。
この空間がアイテムボックスの代わりとなっている。という認識で理解する。
何の疑いも無く、そう思えた。
そして実際に『
人の頭ほどの大きさの袋が突然、出て来た様子に少女は小さな声を出して驚いたようだ。
他にもいくつか武器やアイテムもアイテムボックスには入っているのだが、入れる時が怖いな。
無限と名前についているが総重量は500キロまでの制限がある。これを私は多数所持している。
総重量は50トンくらいかもしれない。
そういうおかしなところも楽しいのだが。
身体のどこかに仕舞うのではなく、手の届くところなら頭の上でも可能。
手の部位さえ無事なら、という意味で。
まずは『
あとは魔法を行使する
小さな袋の中は少女には想像もつかないほどのアイテムが詰め込まれている。
魔法職ではないけれどそれなりの
このスクロールを使う為に様々な
超位魔法は確か未修得だったはずだ。高い位階魔法も一部だけだが扱える。
覚えている範囲だけだが。
魔法同様にアイテムやスクロールの全てを暗記しているわけではない。
中にはゴミも入っているかもしれないし、ゴミみたいだけど希少金属かもしれない。
しばらく整理していなかったので何が出るやら。
ポーションは見れば分かるけど。
スクロールは使うとその場で燃えて跡形も無く消える。いわゆる消費アイテム。
常に在庫管理しないと危ないのだが、これから戦闘になるのか使わずに済むのかは分からない。
ちなみにポーションは飲むと空き瓶として残る。再利用できるアイテム。
一時期はダンジョンや山の一角に『うんこ』とか『バカ』とか描く為に捨てていった覚えがある。
ギルドメンバーからリサイクルするから
空き瓶はざっと数十本は溜まっている。
捨てるのも
そんなことを考えていると少女が物珍しげに眺めていることに気付く。
他人の持ち物に興味を持つのは不思議ではない。私も変わった物を持っている人が居たら見たいし。
彼女に気を取られたせいか、何のスクロールを使ったのか忘れてしまった。
というか使ったのかな。
少女の側からすれば先ほどまで重症だった人間がピンピンしているのが信じられなかった。
明らかに動かせるはずのない両腕は確かにへし折れていた。
腹部もへこんでいた。
それが
呆気に取られる。
それに明らかに荷物をたくさん持っているようには見えなかったのにどこからとも無く膨れた袋を取り出した。
寝袋らしきものは近くに置いてあるけれど、目の前の光景が信じられない。
「………」
町に行く機会があってアイテムなどを眺めることがあった。
効果のあるアイテムは高く。ポーションもそれなりに値を張る。
薬草を加工して知り合いの薬師に卸す仕事をしている関係もあり、少しばかりは目利きがある。
彼の持つアイテムは見た感じでも金貨数百枚分はあるかもしれない。
スクロール一枚だけでも金貨と交換できるのだから、それらが無造作とはいえ何十枚もあれば驚きで言葉が出ない。
「……すごい」
「どうすごいのですか?
気が付けばヤントラの顔が近くにあった。
「す、すみません。その……、マジックアイテムは高価なものばかりなので……。それがこんなにあるのは……初めて見たもので」
ヤントラからすれば取り出した中に高価なものは無いように見える。
高い位階魔法のスクロールはさすがに大事にしまっている。
取り出したのは少しだけ確認する為で自慢したいわけではなかった。
ユグドラシルでは全てが金貨。銅や素材アイテムの方が価値があるくらいありふれた金属。
売買の他にもコストとして支払って様々な用途にも使われる
旧硬貨とアップデート後に変わった新硬貨の二種類があるけれどゲーム内ではどちらも同じように使えた。
違いはデザイン。
旧硬貨は男性の横顔。新硬貨は女性の横顔。
「このスクロール一枚を買ってくれと言われた場合……」
「無理です! 家にはお支払いできるほどお金は……」
「例え話ですよ。あと、怖がらないように。けっこう傷つきます」
「すみません」
少女は何度も頭を下げた。
人を轢いた犯人であるのだから何を言われるのか怖くてたまらないのだろう。
「このスクロールはどれくらいの価値で買い取ってくれますか? 聞きたいのは値打ちですよ」
出来るだけ優しく言ってみた。
優しい分だけ恐怖が増える、ということもあるのかもしれないが、今は考えないことにする。
「中身はなんでもいいので。一番安い値段としてでも」
「は、はい。……えっと、私の知る限りでは金貨二枚ほどかと」
素直にそれが高価かと思うと首を傾げたくなる。
ユグドラシルでははした金同然だからだ。
「枚数が単位なんですか?」
「はい。銅貨、銀貨、金貨と続きます。それ以上は……、分かりかねます」
『所変われば品変わる』というからユグドラシルとは
「……すみません。本来なら慰謝料などの賠償金を支払わなければならない立場なのに……。ですが、あなたにお支払いできるほどの余裕がありません。お金でなくて良いのであれば……この身を
少女はその場にひれ伏しながら言った。
高額アイテムを所有する相手に対して出来る精一杯の謝罪。
家族を苦しめるわけにはいかない。けれども自分の
ヤントラとしては少女を買ってもメリットは無さそうだなと思っている。
正直に言えば今は謝罪の言葉はどうでもよかった。
興味があるのは世界の情報。
人身売買。ふとギルドメンバーの『ペロロンチーノ』の嫌らしい顔が浮かんだ。
会うたびに
行動原理は全てエロ。よく運営に消されなかったものだ。
「女の子の裸を観賞するのも……。おっと、失礼。つい
「………」
ヤントラとて奇麗な裸体は大好きです。
「それよりも重要なことがあると思うのですが」
「はい?」
「私は建物の中で眠っていたはず。それがまたどうして道端で寝転ぶことになったのか。それがさっぱり理解できない。君がひき殺す為に運び込んだとは思えないが……。不思議だ」
ヤントラは『ナザリック
どういう原因かは知らないが階層をぶち抜いて飛ばされたにしてはケガの程度が合わない。
というかアレをぶち抜けるのか、という疑問が残る。
ナザリック地下大墳墓とは度々言及しているギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地である。
ユグドラシルにあった全六階層の墳墓を占領し、メンバーが大幅にリフォームした場所だ。
今では十階層まである。九階層目にギルドメンバーが集まる円卓の間があり、ヤントラは最終日にそこで寝正月気分を
何人かメンバーが居たが最後まで起こそうとはしなかったようだ。
墳墓の第九階層と第十階層は敵を迎撃するような物騒な仕掛けはなく、過ごし易い空間となっている。ヤントラの
制限があり全ての階層には入れなかったが、メンバーの楽しい会話を聞くのは楽しみの一つだった。
もちろんギルマスのモモンガは良い顔はしなかったのだろうが。こちらも出来る限り迷惑をかけないように気を使った。
その為の覚書だ。ひかえおろう。
モモンガ、モモンガと言っているのはギルドマスターだから。責任者だから。
あと、あいつは私の『敵』だ。と、ヤントラは思った。
何度宣戦布告したのか分からないが、いつかは倒したいな。
魔法職でなければ勝てるのに。たぶん。
一芸に秀でたプレイヤーは確かに手ごわい。
実力は認めるが考え方は認めない。それは譲れない。
思い出すと殺意しか湧かないからやめよう。なんだか、自然と表情が険しくなりそうだ。
「……失礼。嫌なことが急に思い出されたもので」
「……はあ」
少女にとってみれば何のことかは理解できなかったようだ。
殺意と言ってもゲームでの話しだが。
ヤントラとてリアルとゲームの区別くらい付く。つい先日までは。
ひれ伏す少女に改めて事情を聞く。
目新しい情報はないが道路に瞬間移動でもしたのだろうか。
手持ちのアイテムで道路に瞬間移動するものは無かったはずだ。
この指輪はナザリック内の場所移動限定だし。
なおかつヤントラの持っている番外の
例としては八階層目。いわゆる最終決戦場とも言われる。
一応、階層守護者の『ヴィクティム』というものが居るのは聞いたことがある。
というかアイテム名が長い。
「銅貨二十枚で銀貨一枚。二十枚で金貨と……」
銅貨四百枚で金貨一枚。
普通に聞くと金貨の価値はあまり高くない気がする。
よっぽど物価が安いのか、低賃金が当たり前なのか。
「銅貨一枚はどんなものが買えますか?」
「パンの材料である小麦が二袋。傷薬に使う薬草が五枚くらい? 掃除に使う布が三枚といったところでしょうか?」
ヤントラは少女を椅子に座らせて話しをさせた。
途中で話に出て来た品物を持ってこさせて確認する。
銅貨一枚はおよそ250円ほどの価値だと推定する。
こんなしょぼいスクロールが二十万円となるようだ。消費アイテムとしては確かに高額だ。
ぼったくりじゃねーか。
日本の今の貨幣価値からすれば逆に安い、わけはないな。
村での銅貨の価値は確かに高いのだろう。贅沢しなければ充分暮らしていけるのかもしれない。
ということをメモしたいが紙が無い。
スクロールの羊皮紙を使うわけにもいかないし、何か良いものはないか。
「そういえば勉強というか教育はどうなっているのですか?」
「町に行けば教育機関があるのかもしれませんが、授業料を払うお金がありません」
口ぶりでは無い事はないようだ。
文化的に言葉が発達しているのだから大人が色々と教えているのだろう。
次に
「これがこの国のお金です」
ユグドラシルの金貨とはデザイン的にも違うのは分かった。
形は円形だがいびつで立体的に歪んでいた。
「平たくないのですね」
「はい。こういう形で流通しています。銀貨も似たものですから金貨もおそらくは……」
紙幣は無いようだ。手形らしきものがあるらしいが見たことはないとか。
「そ、そういえば朝ごはんがまだでしたね。お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞ召し上がっていってください。もちろん、お詫びには程遠いと思いますが……」
少女の忘れていった銅貨を眺めながらヤントラはこれからどうすべきか思案する。
全く知らない世界。
魔法はあるらしい。言葉も通じる。
では、次に何をするべきなのか。
考えるとキリはないが、
ユグドラシルの金貨は手持ちでもかなりの額は持っている。これを両替できるのかは未知数だ。少なくとも村では無理だろう。
あと売れそうなのは調べないと分からないが期待は出来ない。
村に武器を売るわけにはいかないし。
このアイテムは文字通り冷たい水が無限に
普通はコップとかに入れるのだろうが、冒険中は直飲み。
口の中をゆすぐ為に使う。
アバターなので歯を磨くことはしなくても良いのだろうが、その辺はどうなっているのか気になるところだ。
息の
ミント系の食べ物でも探さなければならないな。
アンデッドでプレイする人間も居るのだから気にしても仕方が無いのかも。
行動の指針が定まるまで村に滞在するのも悪くは無いだろう。
とりあえずはメモを取る方法を考えてみようか。
ヤントラは朝ごはんが来るまで軽く身体を動かして自分の今の状況を再確認する。
アバターの調子は良い。ケガもほぼ完治した。
ナザリックに戻りたいところだが、消え去っていると諦めるしかない。
頼れるのは手持ちのアイテムだけ。
前途多難だ。
一応、いつもの武具はあるので戦闘の準備に問題は無い。いきなり
ワールドエネミーはソロプレイヤーに戦闘の資格が無かったと思うが、出て来たら諦めるしかないだろう。というか一度は戦ってみたいものだ。
食欲不要のアイテムを身につけておけば長い旅に出る事は可能だが、まだ色々と知っておかなければならないことがある。
貨幣価値はクリア。
言葉もクリア。
次は文字。おそらくは自分の知らないものだろう。
地域の地図。
全くの別世界。大型アップデートによって生まれた新世界だと思えば気も楽になるだろう。
物語の最初はいつだって白紙だ。自分で一つ一つ書き加えていくだけだ。
ギルドメンバーが同じ立場だと現地の人間とコミュニケーションが出来るのだろうか。一応、異形種ぞろいの変態ギルド。
大混乱になるか。異形種も大歓迎という事になるのか。
逆にそうなってくれた方が目印になって良いか。
ソロプレイヤーであるヤントラにとっては仲間が居ないことが当たり前なので、さして切羽詰った状況とは思っていない。
それでも心配事はある。
ナザリック地下大墳墓にある自分のアイテムだ。
無くすには
PKに
思い出すとキリが無いだろう。
これだけ大人しくしていて攻撃されないのはヤントラにとっては珍しいことだ。
ユグドラシルでは異形種狩りというPKが横行していた。
ヤントラは人間種だがPKの経験は豊富だ。豊富すぎるほどに。
もちろん『PKされる』方だが。
異形種はその見た目からモンスターと区別されない為に被害にあうプレイヤーは大勢居たらしい。
本来ならPKには罰則があるらしいが、異形種は抜け穴的でPKのカウントがされないのだとか。
モモンガを含めた異形種のギルドメンバーも被害にあっていたのかもしれない。
心を折られる事もあっただろう。私は同情はしないがな。
自業自得とは言わないが、強く生きてほしい。
たっちお兄ちゃんも正義の味方面してえげつない組織を作ったものだ。
ヤントラがPKした数は最終的に『2』である。
いつ誰をPKしたのかは記憶に無い。ギルドメンバーは異形種なので除外したとしても誰を殺したのか、全く覚えていない。
何かの魔法で巻き添えにしたのかもしれないし、その可能性の方が確率的に高い。
同じソロプレイヤーだった二人のエルフとはすぐに別れたので除外しても良いだろう。
ユグドラシルの運営がプレゼントしてくれたのかもしれないし、勝手にカウントが増えたのかもしれない。
ヤントラにとっては謎となっている部分だ。
以前のアバターは『0』いや、今のアバターかもしれないが、そうだったはずだ。
システム変更を可能とするワールドアイテムがあるくらいだから、その辺りの影響もあるのかもしれない。
実際、PKをするやつは異形種とか関係なく殺しにやってくる。
それが後に戦争へと繋がるとは。
多くのギルドはPKを目的とせずゲームを楽しんでたけどな。
ギルドは数百も存在し、アインズ・ウール・ゴウンも上位ギルドに位置していた。
モモンガは栄光にすがっていたようだが、やっていることは悪のロールプレイ。
悪い意味で様々なギルドに狙われる組織だった。
実際、いくものギルドを壊滅させたりしていたし。
PKの
そんな悪のギルドよりも最悪なギルドが存在する。
それが人間のクズが集まったとしか思えない無差別PK大好きギルド。正式名称もたぶん無いだろう。
ギルドというか説明したくないが、非常に厄介な人間が
アインズ・ウール・ゴウンは自他共に認める悪の組織だが、メンバーの絆は固い。
悪には悪の美学があり、プライドがある。
ギルドマスターであるモモンガが頑張って組織運営を行っていた事も大きいだろう。
秩序のあるアインズ・ウール・ゴウンと違い、クズは好き勝手やるものだ。
拠点を破壊されたり、
通常のギルド構成員は多くて百人まで。
千人越えはテロリストと変わらない。
寄せ集めとはいえ数が多いので襲われるギルドや一般プレイヤーには大迷惑だ。
そんなクズプレイヤーがこの世界に来ている可能性もゼロではないだろう。
クズとはいえレベルは低くないと思うし。100レベルプレイヤーならなおさら脅威だ。
ヤントラとて死線を
レベル的な不利はあるが負けない自信はある。
武具が
潰しがきく武具で冒険していた為でもある。
それでも少し強いモンスターくらいなら戦える。
いきなり敵対プレイヤーが現れるとは思えないが用心はしておこうと思った。
アイテム整理が一段落つく頃に少女が朝ごはんを持って現れた。
村でよく食べられている固めの黒パンとオートミール。牛の乳を木の器に入れてあった。
「
「いえいえ。では、頂きます」
普段は適当に食べてたり、アイテムで食欲不要にしていたりと
アバターなのに味覚がある。
それはとても凄いことなのだろう。
きっと毒を飲めば毒の味がするのだろう。