※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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C-6 ナーベが現れた

 ティア達は枯れ木同然のラキュースを遠くから見ていて知っていた。

 あんな状態でも戦士であろうとした彼女の姿に涙してしまった。

 刑の執行は残念ながら見ていない。それは急な話しだったせいもある。

 リーダーが居ない間もティア達は王国の闇を調査しなければならなかったから。

「ナザリックでどういう目にあったら枯れ木になるの?」

「……彼女が彼らに対してあれほどの相性の悪さが出るとは思わなかった。威圧感なら理解出来るが……、もっと早く耐性に気付いてやれれば……。だが、ショックを受けたからとやめる程の余裕は無かったが、最後まで耐えてくれたことは感謝している。帰ったら食欲不振になってしまったが……」

 聞きたくない事ではあるが自分達のリーダーの末路だからしっかり聞いた。

 心も体も精神も命も疲弊(ひへい)したラキュース。それは魔法やアイテムでは癒せなかったほどの状態なのだろう。

 臣民の為に身も心も全てを捧げた全てに誇れるいい女。

「ラキュースは……。立派な戦士魂を持つ女性だった。そうそう代わりはいないよ」

「うん」

「同意」

 ある程度、食料を買い込み、王都の中心地を通り過ぎる。

 ラキュースの罪人としての罪状内容の張り紙が今も立て札として立てられていた。

 三人は立て札は気に止めずに自宅に向かった。

 

 アインドラ家に入るとティア達の知る雰囲気はどこにもなかった。

 殆どの調度品が無くなっていた。

 居間に飾っていた魔剣キリネイラムなども無くなって引越し前の家のように感じた。

 ティア達もその事は指摘しない。彼の家のなのだから。

「そういえば」

 荷物を置きつつティアは尋ねた。

「旦那さんってたくさんアイテムを持っているよね」

「一応ね。……欲しいとかかい?」

 見抜かれている事に二人は少し恥ずかしくなった。

「国に出回っていないものが多いから市場が混乱すると思って。……でもまあ、君たちのリーダーを使い潰したんだ。ポーションくらいしか上げられないけど……」

「出来れば武器とかも見せてほしいな」

 まずはポーションを二十本、残っていたテーブルの上に置く。

「普通のポーションは青いのに、これは赤いよね」

「効果は同じく回復。私達のところはこれが一般的だった。実用的なものしか持ってないから変わったものは無いと思う」

 二人はポーションを色々と観察した。

 次に武器を床に並べる。

「その懐(ふところ)から出すのは秘密だっけ?」

「そうだね。それぞれ特有の能力みたいなものだから教えても出来ないよ」

 剣と短剣が並べられる。

「君達の得物(えもの)は短剣? 盗賊(ローグ)系だとこの辺りかな?」

「おうおう。オリハルコン」

「ミスリルが充実している」

 それぞれ手にとって確かめる。

「たくさん持っているのは一人で戦うからだけど……。仲間に指示出したりとか出来そうに無いな。後方で眺めるのが関の山。ラキュースと戦闘訓練するのが楽しみだったが一度も出来なかったな」

「無理にパーティ組まなくていいよ」

「そそ。人にはそれぞれの得意分野があるから」

「ありがとう」

 武器のいくつかは二人に渡し、追加の食料を買い出してから家の鍵を渡した。

 家を蒼の薔薇に任せてヤントラはエ・ランテルを目指して出かけることにした。

 次の仲間候補『クレマンティーヌ』という女性は金髪であることと刺突武器を持っていて軽装鎧を着ている。笑った顔が狂気そのものだからすぐ分かる、という情報を頼ってみることにした。

 既に死んでたらごめんね、と出かけぎわに言われた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 王都を出立したヤントラは道すがら妻の事を思い浮かべる。

 最初に出会ったいでたちは理想の凛々しい戦士。強さと美しさを兼ね備えて忠義の厚い人間だった。

 欲しければもらうが無理強(じ)いする考えはなかった。

 ただ、己の保身しか考えていない貴族のお陰で、悪い言い方では、うまく行った。

 貴族を煽(あお)れば色々な要求が通るだろう。

 それほど冒険者や魔法詠唱者(マジック・キャスター)に対する扱いが酷いと言えるし、理解出来た。

 ラキュースが手に入った後は更に磨き上げていこうと思っていた。アインズが居なければ。

 彼らに危害を加えようとすれば大勢の犠牲が出るのは目に見えて明らか。

 下手をすれば国ごと滅ぼすだろう。対抗手段があるとは思えない。

 ファンタジーの世界の原住民に抗うすべは基本的に無いのが普通だ。

 強大なエネミー、ボスクラスでも保有しているのならば別だが。

 予定とは違うが結婚することになろうとは計算外だった。

 お陰で女体観賞は出来たし、女という生き物の様々な反応を確かめられた。

 では、用が済んだので捨ててしまおう。今更未練も無いし。

 そんな風に淡白(たんぱく)に考えられるわけもない。アインズのような種族なら出来るかもしれないが。

 愛していたかと問われれば別になんとも思ってないと答える。

 人間的な感情はもとより欠如している。

 それでも彼女はついてきた。偽りであろうとそれが愛であるなら可愛がろう。

 この身がアバターでなければ。

 本当の姿であったなら、もっと人間的に接してあげられたかもしれない。

 ラキュースは全てを捨て、奪われ、地を這(は)い蹲《つくば》り絶望の中を泳ぎつづけた。

 それほどまでの様々な苦痛に耐えつつもついてきてくれた。

 己の運命を呪い、破壊するほどの憎悪。

 そんな彼女をすぐに捨てられるわけがない。それができる時は自分が死ぬ時だ。

 その時が訪れない限りは彼女を守り、助けよう。

 それが愛だとすればそれはそれで結構な事だ。

 ラキュースはいい女だ。

 パーティから奪ったことは申し訳ないと思っている。

 蒼の薔薇には色々と貸しを作ってしまった。しっかりとしたお礼を考えおかなければいけない。

 そして、心より感謝する。

 途中にあるエ・ペスペルの検問はアインドラの徽章(きしょう)などのお陰か滞(とどこお)りなく終わった。

 権力とは凄いなと思った。

 それほどの地位に居るわけではないが、アインドラ家というのはそれなりに各都市に影響があり、蒼の薔薇の威光も凄いようだ。

 ラキュース個人の名誉は罪人として失墜したようだが、貴族としての威光は維持されたまま。

 冒険者組合に行き、再登録はせずに依頼内容を眺める。

 ある程度の文字が読めるとはいえ、たどたどしい。

「あ、あの……。登録されていないんですよね?」

 新しい受付嬢が不審な目でヤントラに声をかけた。

「読もうとしているだけ。文字の勉強」

「そ、そうですか」

 邪魔にならないように小一時間は格闘しただろうか。

 ついつい見入ってしまった。

「失礼。お邪魔した」

 そう言って立ち去る。

 別に冒険者ギルドに入ってはいけない法律は無いのだから、迷惑を掛けなければ問題はないだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 次に向かったのは魔術師ギルド。

 ここは色々なスクロールを購入することが出来る。

 この世界特有のオリジナル魔法もあるかもしれない。

 ただ、位階は低いだろう。

 一般的なもので最高は第三位階。天才くらいしか到達できないと言われている。

 そうなるとアインズは神の領域。太刀打ちできない。

 彼らに何が出来るのだろうか。ある意味ではあきれ果てる結果だ。

「ようこそ、魔術師ギルドへ」

 丁寧な挨拶を受け、ヤントラも軽く頭を下げる。

 購入する時は一覧表を記載した分厚い書物を見せられるが、大事な代物なので一回一回取り行かなければならないらしい。

 たとえスクロール一枚だろうと。

 それほど貴重な存在だということだ。

「……あ……」

 自分の職業(クラス)で使えない魔法を見ても仕方が無いことを思い出した。

 補助系統は扱えるが攻撃魔法はそれほど仕えない。

 アサシン(暗殺者)などの職業(クラス)が持つ特殊技術(スキル)には関係ないか、と後になって思い出す。

「補助系統や治癒系統の魔法についての一覧を見せて欲しい」

「代読(だいどく)は有料でございますがよろしいですか?」

「お願いします」

「畏(かしこ)まりました」

 魔法は系統によって扱えない場合がある。ヤントラは信仰系なら特に問題はない。逆にアインズのような攻撃系統は不得手の分類になる。

 儀式などで魔法を増やすことが出来るらしいが、魔法についてはそれほど詳しくない。

 自然と覚えるものと思っていた。

 ウォー・ウィザードを取っているから攻撃魔法も使えないわけではない。

 奥の部屋から分厚い書物が運ばれてくる。

 紙質が厚いらしく、重い書物になってしまう。

 識字率も低いので代読も普通にやってくれる。

「重そうだね。見るだけなのに申し訳ない」

「いえいえ、これも仕事なので」

 拷問用具に見えてきた。

 耐性の魔法はそれほど充実していないので一通り説明を受ける。

 手持ちのスクロールや装備品の属性耐性の参考にするために。

「そういえば……、各都市の魔術師ギルドと一覧は共通なのでしょうか?」

「……確認はしておりませんが……、おそらくはそれぞれ異なった部分はあるかもしれません。距離もありますし、遠ければ抜けも多くなってしまうのではと思います」

「移動は大変だものね」

 王都からエ・ランテルは相当な距離がある。

 馬車での移動が交通手段。よって小旅行なみに荷物が必要になる。

 バハルス帝国では空を飛ぶモンスター、鷲獅子(グリフォン)や鷲馬(ヒポグリフ)などに乗る部隊があるらしい。

 馬にもランクがあり、八本足の八足馬(スレイプニール)という貴族御用達の馬が居るらしい。

 竜(ドラゴン)か飛竜(ワイバーン)でも捕まえたら移動が楽になる。ただし、飼育が大変なんだろう。

「……感知系はいっぱいあるねー。妨害に偽装……、面倒くさい」

 第六位階魔法だが特定の対象を探知する『物体発見(ロケート・オブジェクト)』というものがある。

 敵の探知に対抗する魔法もあり、一回の作業に対し十近い対策をアインズは取る。

 ヤントラは面倒なことは苦手なのでアインズほどの慎重さが無い。

 ある意味では突貫型とも言える。

 モンスターに対していちいちビクビクしていられないということもある。

 ギルドは敵対プレイヤー対策を講じるのでいくつもの工程を経るのは仕方がない。

 一通り一覧を眺めてみたものの食欲不振、精神回復などは見つからない。高い位階魔法なのかもしれないし、そんな都合のいいものは無い、ということかもしれない。

 薬草などのアイテムを探してみることにする。

 めぼしい物は無いが勉強にはなった。懇切丁寧に解説してくれるので助かる。

 魔術師ギルドを出て、軽く食事を取ってから次の目的地『カルネ村』に向かう事にした。

 保存食をかじりつつ『飛行(フライ)』で向かう。

 地図があるし、馬車移動が苦手なので。

 さすがに一気にはいけない。

 適度な睡眠は大事。野宿は平気な方だからあっさりと眠れた。

 翌朝、空は少しだけ曇(くも)りなっていた。

 この世界にも四季があり冬には雪も降るらしい。今の季節は秋ごろのようで麦の刈り取りが各村々で行われている。

 カルネ村も人口が減ったとはいえ農作業は無くならない。

 馬で移動しない理由の一つは揺れ。もう一つは乗馬特殊技術(スキル)が無い。

 盗賊(ローグ)系なら案外平気かもしれないが、世話が大変なのと飛んだ方が楽かなと。

 飛んで移動してはいけない法律はない。検問を勝手に突破しなければ何も問題は無い。

 カルネ村以外にも農村はあるがいくつかは焼け野原として放置されていた。

 貴族の対応の酷さがよく分かる風景といってもいいだろう。

 王国に期待するだけ徒労かもしれない。

 全ての村というわけではなく、何も異常の無いの村もある。

 さすがに魔法とはいえ一気には目的地に到達できない。息苦しくなる。

 それぞれの地点に転移でも出来れば楽なのだろうが、都合のいい魔法はヤントラは持ち合わせていない。

「……はぁ、疲れるわ」

 無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)で水を飲む。

 ソロプレイ時代も同じように移動で苦労したなと思った。

 人間種なので疲労、食事、睡眠は必要。酸素がなければ水の中で溺死してしまう。

 魔法で相手を溺死させるものがある。骸骨(スケルトン)や海のモンスターには無意味だが。

「そういえば使者はどうなったかな」

 城の情報はヤントラの耳には入らないが、そろそろ交渉が行われていないといけない時期の筈だ。帝国側も使者を送り込んでいる、というのは聞いたが、その後にどうなったかは不明だ。

 成功しようが失敗しようがヤントラが関知することではない。

 移動に集中していて忘れていたが旅の目的地の一つはエ・ランテル。

 元漆黒聖典の女戦士の捜索。

 少し忘れかけていた。

 PKされない日々が続いたので感覚が少し鈍っているのかもしれない。既に四十八回は死んでいるところだ。

 それが未(いま)だにゼロなのだから凄いことだ。

 少し休憩する間、自分の身分について改めて考察する。なんか忘れそうという気持ちがあったからだ。

 アインドラ家は貴族ではあるがラキュースの一件で領地は没収。

 貴族の爵位の喪失は恩赦により継続。

 彼女の両親に関しても特に咎(とが)められることはなかった。

 レエブン侯などの名前に爵位が付いているのだがヤントラも一応は貴族らしい。徽章(きしょう)もこれまで通り有効なので、基本的に『アインドラ卿(きょう)』と呼ばれる事になる。とはいえ、城に来た時くらいしか呼ばれないようだが。

 『卿(きょう)』の方が無難だと教えられた。他の者にもそう呼ばせるとレエブン侯は言っていた。

 戦争開始か戦後に王との謁見でも叶えば、どう呼ばれるのかが判明する。

 爵位は五つ。とはいえ貴族のことには詳しくないし、興味が無いのでそれぞれの違いは分からない。

 位にこだわる貴族とはあまり仲良くしたくないな。というよりはレエブン侯以外の貴族は良い印象は抱かない。

 好き好んで貴族になる人間の気持ちは分からない。

 領地を持ったら高圧的になるのかな、と少しだけ不安になった。

 冒険者になるはずだったのに貴族になってしまった。

 一足飛びするから何していいか分からなくなった。

「普通にモンスター退治がしたい……」

 それにしてもモンスターと出会う機会が少なくて少し残念に思った。

 ナザリックには文字通り腐るほど居るのに。いや、腐りきっているほどに、か。

 一休みを終えて出発した。

 空を掛けるのはいいが、思ったほどは早くない。

 所詮は浮くだけ。物凄い速度は出ない。

 それでもガタガタの道を行くよりは多少は楽。

 二時間ほどかけていくと下方にモンスターの姿が見えてきた。

この辺りには小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)などが生息しているので居ても不思議は無い。

 雑魚モンスターといえど見つかると素直に嬉しかった。

 トブの大森林にはたくさんのモンスターが居ることも今、思い出したくらいだ。とはいえ、森に行く予定は無いので、それは日を改めて調査しようと思った。

 冒険者ではないから倒しても報酬は貰えない。

 色々ともったいない事になってしまったなと残念に思う。

 それもこれもナザリックが飛ばされてしまったのが原因なのだが。

 アインズを妬んだり、恨んだりしても仕方がないのは分かっている。だから、責めはしない。邪魔したらボコボコにするだけだ。

 カルネ村は既に視認できたので後は歩きながら小鬼(ゴブリン)でも殴って行こうかと思った。

 道の左右には黄金色の草が広がっていた。

 風に揺れる草は絵になる光景だった。

 執務室にこもってばかりだったので運動しないといけないかな、と思いつつ足取り軽くモンスターの所に向かう。

 カルネ村に行く理由は単純、様子見のみ。

 別に用件も無いし。エンリが殺意を振りまくかもしれないが、馬車で轢(ひ)いた事は覚えている。

 よくよく考えればエンリに恨まれる筋合いはないんだよな、とぼんやり思った。

 歩いていると戦闘中らしい事が判明する。しかし、ヤントラには関係ない。

 普通に前を歩くだけだ。

「人食い大鬼(オーガ)も居るとは……。やっぱり同じ姿だ。竜(ドラゴン)も期待できるな」

 本当に竜(ドラゴン)が居た場合、ヤントラでも苦戦する。

 特に身体が大きく単体でいるボスクラスは要注意だ。アルベド並みに苦戦するだろう。

 知性のあるモンスターは特に厄介だ。

 複数の小鬼(ゴブリン)と人食い大鬼(オーガ)に対するは冒険者らしい集団。側に馬車もある。

 御者台には非戦闘員が一人居た。荷台の方にも黒い全身鎧(フルプレート)ともう一人の二人が様子を見ているようだった。

 相手が野生のモンスターなら心配は無さそうだ。

 生の戦闘は迫力があって楽しい。

 亜人種である小鬼(ゴブリン)にはたくさんの種類が居る。

 職業(クラス)を付ければどんな種族も膨大な数になるけれど。

 雑魚モンスターといえど冒険者の基本討伐対象。可愛いものだ。

 歩きながら考え事をしていると、モンスターは対象の数が少ない方に向かってくる性質がある事を思い出した。

「おう。今は絶好の的だな」

 冒険者からヤントラへと攻撃対象を変えた。気付くのが遅れて少しだけ恥ずかしくなった。

 外に出るときはモンスターの遭遇は想定しているので防具は万全である。

「やっべ、あの人が狙われる!」

 少し離れた位置から男性の声が聞こえた。

「なぜ、こんなところに……」

 と、口々に冒険者達は騒ぎ出す。

 ヤントラからしてみればのこのこ近づいてくる小鬼(ゴブリン)が可愛い小動物に見えていた。

 人間と天使しか会っていなかったので亜人種はむしろ珍しいとさえ思えた。

 二メートル近い大きさの人食い大鬼(オーガ)ですら可愛く見えるほどだ。

 これぞファンタジーだ。

 手甲を装備したが武器は出さなかった。

「こうして見ると気持ち悪い顔のゴブリンも可愛いと思うのは不思議な気持ちだ」

 手を叩けばどんどん寄ってくるんじゃないかとさえ思えてくる。

 ざっとエネミー(敵)は十五匹以上。

 逃げ回る人間に比べたらさほどの脅威も感じない。

 さっそく近づいてきた小鬼(ゴブリン)が武器を向けてくる。

「冒険者でもないのに勝手に倒したら報酬が減るか……」

 小鬼(ゴブリン)を眺めながらヤントラは呟く。

 とりあえず、歩きながら考えるか、と軽い気持ちで思った。

 その間にもモンスターはどんどん近づいてくる。

「小鬼(ゴブリン)達が!」

「なんであの人、平然と歩いているんだ!」

 冒険者の数は四人。それぞれ特色のある装備を身につけている。

 剣に弓、メイス。もう一人は杖を持っているので魔法詠唱者(マジック・キャスター)だろう。

 基本的なパーティなのは見てすぐ分かる。

 ヤントラから見れば冒険者もエネミーと一緒だ。ソロプレイヤーは自分以外は全て敵、という感じになってしまう。

 さすがに冒険者だと分かってて倒したりはしない。

 一応、貴族だ。殺戮者ではない。

 

 聞き取れないだみ声を発しながら小鬼(ゴブリン)が襲ってきたが、ヤントラは普通に捕まえる。

 小鬼(ゴブリン)の身長は一メートルほど。すんなり持ち上げられるほどには軽くないがヤントラは苦も無く持ち上げた。

「ほう。細かい造形ですな」

 質感的にも生物だ。逆さまにしたり、身につけている装備も確認。

 匂いは臭い。それはよく分かった。

 捕まえた小鬼(ゴブリン)は冒険者に向かって放った。

「なんなんだ、あの人は!?」

「というか凄くね? 小鬼(ゴブリン)共をなんとも思っていないって感じだ」

 そうしている間にも人食い大鬼(オーガ)などが向かっていった。

 冒険者達も謎の人物に助太刀する形で小鬼(ゴブリン)を確実に仕留めていく。

 チームプレイで数匹の小鬼(ゴブリン)は倒せたが人食い大鬼(オーガ)までは届かない。

「危ない!」

 と、叫んでみたもののヤントラは人食い大鬼(オーガ)を興味深げに眺めただけだった。

 大きな棍棒を振りかざし、ヤントラを攻撃する。

 だが、攻撃が届く前にぺしっ、という音と共に武器だけが叩き落とされた。

「ガッ?」

 人食い大鬼(オーガ)は何が起きたのか理解できないのか、しばらく呆然とした。

「あっ?」

 戦士風の冒険者の一人が呆気に取られた。

「凶暴性もまあまああるな。どうやったらこんなに太るんだ? 水太りか?」

 人食い大鬼(オーガ)のお腹を軽く押したりして色々と観察していく。

 呆気に取られる人食い大鬼(オーガ)と小鬼(ゴブリン)たち。

「んっ? どうした? かかって……こられたらまずいか。他人の仕事を取ってはいけないな」

 と、言いつつヤントラは歩き出した。

 歩きつつも様々な小鬼(ゴブリン)を眺めては観察する。

「なんなんですか、あなたは!」

「モンスター退治が好きな人です。すみません、どうぞ、お構いなく」

「と、とにかくやるぞ」

 呆気と意表を突かれたとはいえ戦闘が終わったわけではない。

 小鬼(ゴブリン)退治は多少は苦戦しているが確実に倒している。

「さすが冒険者。手馴れていらっしゃる」

 腕を組んで感心するヤントラを無視して冒険者達は善戦した。

 人食い大鬼(オーガ)は三体居たが二人がかりで一体を倒す。相当、苦戦しているように見えた。

 杖を持った冒険者がヤントラに近づく。

「よく平気でいられますね」

「うん」

 にっこりと笑顔で答えられた。

「私はチームプレイの出来ない人間だから、一人でこんな戦闘にあっても平気なのさ」

「いやいや、それは言いすぎですよ」

 と、言いつつも魔法の援護は忘れない。

 

 人食い大鬼(オーガ)以外は難なくモンスターを倒しているが、一人は腕を折られたのか戦いにくそうにしていた。

「〈軽傷治癒(ライト・ヒーリング)〉」

 メイスを持った男性が魔法を唱える。

「手伝おうか? タダで」

「いえ。こちらにはまだ仲間が居ますから」

 そう言うと馬車の方から二本の巨大な剣、グレートソードを持ち赤い外套をなびかせる黒い全身鎧(フルプレート)をまとった存在が人食い大鬼(オーガ)に向かって突進して行った。

 そして、二体の人食い大鬼(オーガ)は一刀両断の下に切り捨てられていく。それは黒い疾風のようだった。

 残りの小鬼(ゴブリン)達は弱い冒険者に標的を定め襲い掛かる。

「そちらは任せた」

 黒い兜(ヘルム)越しに声が発せられたと同時に馬車からもう一人が飛び降り、駆け抜けて小鬼(ゴブリン)達に肉薄する。

 粗末な外套で身を包み、黒髪のポニーテールを揺らしつつ確実に小鬼(ゴブリン)を切り捨てる。

「〈雷撃(ライトニング)〉」

 と、黒髪ポニーテールは魔法を放ち、離れた小鬼(ゴブリン)をしとめた。

 鮮やかな手並みだった。

「これで終わりですね」

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の冒険者は安心したが黒髪の方は勢いそのままにヤントラに向かって剣を抜き放つ。

「おっ?」

「ちょ! ナーベさん!?」

 ヤントラは近くに居た魔法詠唱者(マジック・キャスター)から数歩離れ、手甲で黒髪の剣を受ける。

「おっとっと。これはこれは威勢の良い冒険者だ」

「……死ね。下等生物(カマドウマ)」

 ガンガンと金属音が響き、相手を後方へと押し込む。

 斬撃の嵐(あらし)。その全てを手甲で捌(さば)ききる。

 十数回もの激しい斬撃を受けていたら手が痛くなってきた。それほど殺意に満ちた重みのある斬撃だった。

 

 さすがに手甲では限界があるだろう。見た目には普通のショートソードに見えるが手甲は無事でも中身の手は長くは耐えられそうにない。

 途中で足も出る。

 流れるような斬撃と蹴りに少し見とれそうになる。

「っち」

 と、ナーベと呼ばれた冒険者は苛立(いらだ)ちを露(あら)わにする。

 ヤントラは懐(ふところ)から武器を抜きだす。得物(えもの)は同じくショートソード。ごく普通の素材だ。

「早い早い。中々の腕だ。少し楽しくなってきたな」

「……その減らず口がいつまで持つかな」

 二人が斬り合いをしている間、黒い全身鎧(フルプレート)の方は手だけ挙げて呆然としているようだった。

「ナーベさん、やめて下さい!」

「モモンさん、どうしましょう」

「……困りましたね」

「……しかし、相手も凄い腕なのである」

 メイスを持ったひげ面の男性は感心して見ていた。

 止めども無くぶつかり合う斬撃。

 お互い一本の武器のみ。

 ナーベは明らかに力技で攻めている。対するヤントラはなんとか捌(さば)いている具合だ。

 ガンガンガンと絶え間なく、勢いが衰えない速さ。

 剣捌(さば)きはお互い五分のように他の冒険者には見えていた。

「モモンさんにあだなす下等生物(ガ)め!」

「あだなす? 理由くらい教えてほしいものだ」

「黙れ……」

 ヤントラの腹部にナーベの蹴りが入り、距離が離れた。

「〈雷撃(ライトニング)〉」

 ナーベの魔法が炸裂。

 人間に魔法を使うとは他の冒険者も思っていなかったのだろう。驚愕の表情になった。

 ヤントラはナーベの魔法を手持ちの武器を放ることで防ぎ、もう一本、ショートソードを抜いてナーベに詰め寄る。

 『雷撃(ライトニング)』は直線的で対象を貫通させる魔法だが、金属の傾きで用意に軌道は変えられる。意志を持つ雷でもないかぎり。もちろん、自分に向かうような放り方はヤントラはしない。

「どうした、その程度の魔法でどうにかなると?」

「だったら……」

 と、前を向いたまま後方に向かって飛びつつ両腕を横に開く。

「〈魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)・電撃球(エレクトロスフィア)〉」

 先ほどの電撃(でんげき)よりも高威力の魔法が放たれようとしていた。

 だが、放たれるより数瞬早くヤントラは地面に剣を二本刺した。当然、魔法は金属の剣に当たり地面に吸い込まれていく。

「イライラさせるな……、この下等生物(マイマイカブリ)は……」

「よく分からないが……。下着を脱がすぞ」

「死ね!」

 剣を抜き放ち、襲い掛かろうとしたナーベを横から突進してきた黒い全身鎧(フルプレート)が体当たりする。

 ナーベは無様(ぶざま)に地面に転がったがすぐに体勢を立て直す。

「いい加減にしろ!」

「あ……、モモンさん!?」

「いきなりどうしたんだ、ナーベ。お前らしくもない」

 モモンと呼ばれた黒い全身鎧(フルプレート)はナーベに詰め寄る。

「この者は敵です。ここに来たのはモモンさんに危害を加えるのではと……」

「そんなわけあるか。どうしたらそういう風に見えるんだ」

 二人が説教している間に剣は回収していく。意外と無事だった剣に感心した。

 あれだけの攻防にもかかわらずヤントラは涼しい顔をしていた。

「た、大変失礼しました! お怪我(けが)は?」

 お腹にナーベの蹴り跡がついているくらいで平気そうだった。

「なかなか元気なお仲間さんで。歯ごたえのある人ですね」

「……正直にすげー。あんた何者だよ」

 他の冒険者も集まってきた。どうやらモンスターの部位の回収が終わったらしい。

 ヤントラは倒れた小鬼(ゴブリン)達に顔を向ける。

 部位は取ったが残った死体は放置するんだろうか、と疑問に思った。その事はギルドでも特に聞いていないし、今気が付いたところだ。

 大地の栄養になるなら別にいいか、とヤントラは思った。

「連れが失礼した。お怪我はありませんか?」

「平気。よ(・)く(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)だから」

 向こうから自然と襲ってくるのは体質なのだろうか、とヤントラは思った。

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の方はかなり驚いていた。

 相手の魔法の対処方法を熟知している腕に。並みの冒険者では普通に喰らってしまう。

 それに始めて見る高威力の魔法にも平然と対処してきた。

 何者なのだろうか、と。

 少なくともミスリル級以上だ。

 ナーベが落ち着いたところで冒険者はそれぞれ自己紹介してきた。

「私は『漆黒の剣』のリーダーのペテル・モーク。野伏(レンジャー)のルクルット・ボルブ。森祭司(ドルイド)のダイン・ウッドワンダー。そして、チームの頭脳、ニニャ」

 それぞれ頭を下げてきた。

「私はモモン。こちらはナーベ。連れが大変失礼した」

 御者台(ぎょしゃだい)に居た人物もやってきた。

「ぼくはンフィーレア・バレアレといいます」

 目元を隠すような髪形の男性だった。

「……大所帯ですな」

 そう言うとナーベが剣を抜こうとしたのでモモンが軽くナーベの頭に手刀を落す。

 ゴン。

 という痛そうな音が聞こえてきた。

「面倒くさいことは苦手なので。とりあえずはよろしく」

 ヤントラはにこやかに手を振った。

 先ほどまで持っていた筈の剣がどこにも見当たらないことをペテル達は気付き、それぞれ驚いた。

 冒険者はカルネ村に用があるというのでヤントラもついていくことにした。

「ちょっと様子を見るだけで、すぐにエ・ランテルに行く予定です。その後はカッツェ平野でモンスターでも見つけようかなと」

「今、あそこ戦場になるって聞きましたけど」

 揺れる馬車に相乗りさせてもらったがナーベがずっと睨(にら)んでくる。

「そうらしいですね」

「それにしてもお強いですね。冒険者だったのですか?」

「なる予定だったのですが、いきなり銅(カッパー)のプレートを割られたので諦めました。世の中には酷い人がいたものです」

「そ、それは災難でしたね」

「登録初日ですからショックでした。もう昔の出来事のようです。せっかくあの長い説明に耐えたのに……」

 彼の言う長い説明は冒険者なら誰もが通る道だったのでそれぞれ頷いていた。

「……すみません、馬車の揺れは苦手で……」

 馬車が平気なのは二十分ほどまでのようだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 揺られ続けること一時間でカルネ村が見えてきた。

「あれ? 柵が出来てる」

 カルネ村は外からでは見えないほどの高さの木の杭でも打ち込んだような壁で取り囲まれていた。

「なんか様子がおかしいね」

「調べてみるか」

 ヤントラ以外が馬車を降りそれぞれ周りに注意を向ける。

「ところどころ麦(むぎ)が刈り取られている」

「麦(むぎ)? これらの草のことですか?」

 と、黒い全身鎧(フルプレート)は仲間に尋ねた。

「はい。道の左右にある全てが麦畑になっているんですよ」

「ただの雑草だとばかり……」

 申し訳無さそうにモモンは言った。そして、荷台(にだい)に居るヤントラも感心した。

「へ~。奇麗な麦畑ですね。実際に見るのは初めてなもので。あ~、全然気付きませんでした」

 と、ヤントラは声を出した。

「そうですか? わりとありふれた風景だと思いますけど」

「町の暮らしが長かったせいかもしれません」

 ヤントラは広大な麦畑を改めてじっくりと見つめた。

 麦畑に見とれている場合ではない冒険者達は警戒しつつカルネ村の入り口を目指した。

 とても静かで風に揺れる麦の触れ合う音が聞こえるほどだった。

「……くぅぅ……」

 あまりにも見とれすぎてヤントラはあっさりと睡魔に負けて眠ってしまった。

「なんだ、今の音は?」

「なんだか眠ってしまわれたみたいです」

 御者台から中を見たンフィーレアが言った。

「……まあ、長閑(のどか)な風景だ。仕方あるまい」

 動こうとしたナーベの肩をモモンは掴む。

「お前は周りに集中しろ」

「す、すみません」

 寝息を聞きつつペテル達は一歩ずつ進んだ。

 カルネ村まではまだ数十メートルも離れてはいるが静か過ぎる。

 ところどころ麦が刈り取られていることも気になる。

 周りに何かが潜んでいることもありえる、などなど冒険者達は思い、警戒していく。

 動くものが居ないか確認はしているが、今のところは何も無い。

「………」

「……それにしても刈り取られているのは一部だけみたいですね」

 所々が穴のようになっていた。

 それが無数に点在している。

 ペテルが何気なく麦の中に顔を入れたりしていると何かの気配、違和感のようなものを感じた。

 長年の勘ともいうべきもの。

「何か居るかもしれない。気をつけ……」

 と、まで言いかけてペテルは驚愕する。

 身体を麦の穂で隠した小さい存在がペテルに弓を向けている。

「おっと、動かないでいただきやしょう」

「武器は捨ててくだせぇ」

 更に一体増えた。

 周りには複数の敵が潜伏しているようだ。

 一歩前に出た敵は先ほど倒した小鬼(ゴブリン)にそっくりだった。

「小鬼(ゴブリン)?」

 さっきのが野生の小鬼(ゴブリン)なら目の前に居るのは訓練された小鬼(ゴブリン)。筋肉も装備もしっかりしている。油断できない相手だとそれぞれの目には見えた。

 姿を隠す知性からも戦って勝てるかペテル達は迷った。

 他のメンバーもそれぞれ小鬼(ゴブリン)達に武器を向けられている。

「そちらの兄さんもおとなしくしててくれると助かるんですがね」

「降参してくれると、こちらとしても助かるんで」

 小鬼(ゴブリン)達の言葉にペテル達は従うしかないと思っていた。

 ただ、荷台から暢気(のんき)な寝息が聞こえているのが雰囲気(ふんいき)をぶち壊す。

「そっちの全身鎧(フルプレート)の人。あまり動かないでほしいんですけどね。戦いたくないので」

「もちろんだとも。そちらが攻撃しないのであれば、従う」

「そいつはありがてぇ」

「そっちの姉さんもうごかないでくだせぇよ。な~んかよくない事が起きそうなんで」

 モモンは両手を広げる仕草をした。

「姐(あね)さんが来るまで待ってほしいだけなんで」

 そう言うと一部の小鬼(ゴブリン)が移動を開始した。

「あねさんというのは何だ! そいつがカルネ村を占拠したのか!」

 ンフィーレアが怒鳴った。その声でヤントラが目覚める。

「あら、寝てた……。はあ~あ。いつの間に……」

 首を軽く動かしてから荷台から降りる。

 周りを一瞥する。

「ほう。これはこれは歯ごたえがありそうですな」

「そこの兄さんも……って武器はなさそうだな」

 ヤントラは屈強な小鬼(ゴブリン)を見つめた。

 知性体であることは理解した。しっかりと訓練されたような筋肉。

 先ほどの小鬼(ゴブリン)とは気配も違う。ということは分析できた。

「君達は村を襲う者かね?」

「村を守ってる者だ。最近帝国の騎士の格好をした奴らに襲われたっていうから……、警戒しているだけだ」

 知性があるから言葉が通じる。

「じゃあ何の問題も無いな。中に案内しなさい。冒険者と騎士の区別も出来ないのか?」

 小鬼(ゴブリン)は言い知れない迫力を武器も持たない人間から受けて武器を持つ手が震えだした。

 目の前の人間に逆らったら殺される、そんな気配を感じた。

「い、今、姐さんが来るから待て」

 他の小鬼(ゴブリン)もヤントラに武器を向けて警戒を強めた。

 ペテル達の警戒は緩んだが、ヤントラがたくさんの小鬼(ゴブリン)に囲まれるという事態に陥った。

「人気者は辛(つら)いね」

 本人は至って平気そうな顔をしていた。

「そのまま大人しくしていれば大丈夫だろう」

「っち」

 ナーベは舌打ちした。

 大人しく待っていると村の入り口から小鬼(ゴブリン)達に守られながら一人の少女が姿を現した。

「エンリ!」

 ンフィーレアは叫んだ。

「ンフィーレア!?」

 姐さんとはエンリのことだったようだ。

 

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