※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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C-9 死を振り撒く女騎士

 大量購入すれば楽だが資金が一気に枯渇しても仕方が無い。

 比較的安価な薬草で収穫できればコスト的にも助かる。

 第六階層は植物の育成に最適だし、ナザリック周辺の草原も少し畑にすれば、などなど。

 階層はコスト的に問題があるかも知れないが地上は制約が無い。自治権さえ取得できれば無理なことではないはずだ。

 ンフィーレアは丁寧に説明してくれるので助かるが少し数が多くなってきた気がする。

 思っていたほど種類があるんだなと。

「あっ!」

 ヤントラが急に声を上げたのでンフィーレアとリイジーはびっくりした。

「ど、どうしました」

「徴税吏(ちょうぜいり)のこと忘れてた……」

「はっ? 徴税……?」

「徴税吏は税金の取立てをする役人じゃ」

 と、リイジーが言った。

 税金についてはヤントラも持ち家があるけれど、それらの当面の資金は蒼の薔薇に預けてある。

 資金が枯渇すれば家を処分するつもりでもあるし、それはまだ数年も先の話しだ。

 ヤントラが思い出したのはカルネ村のことだ。

「カルネ村の徴税吏っていつぐらいに来るか分かる?」

「村ですか? 麦の狩り入れが……」

 と、言ったところでンフィーレアも理解した。

「ああ、小鬼(ゴブリン)のことですか!」

「近くに知り合いの貴族でも居ればいいのですが……。討伐隊とか編成されたら困りますよね」

「そ、そうですね! どど、どうしよう」

「うちの義父達が居るので大事にならなければいいのですが……」

 あまり国の政策について関わらないから分からなかった。

 大事なことは後々になって後悔するものだとヤントラは頭を痛めた。

「それならわしが都市長に言って口を利いてやってもよいぞ」

「都市ちょう? って偉い人ですか?」

 結構な世間知らずじゃな、とリイジーは思って呆れた。

「数ヶ月前までただの旅人でしたから、世の中のことはさっぱりなんです」

「……なるほど、それなら仕方が無いか」

 と、リイジーは軽く流したがンフィーレアは違った。

 ヤントラはただの旅人ではない。アダマンタイト級か英雄級ほどの実力を持つ凄い人だと認識している。

 小鬼(ゴブリン)については孫のンフィーレアから説明してもらった。というかヤントラは詳しくは聞いてなかったので説明できない。

 情報料を取ろうと思っていたが孫も関わる話しなので取るに取れなかった。

 都市長とリイジーは昔からの知り合いらしいので任せることにして薬草の説明に戻った。

 それぞれの値段。

「栽培は無理じゃろ。その土地特有の英気などが必要じゃから」

「たくさん必要な薬草は手元で作れたらいいですよね」

「便利な魔法があるんでしょうが。いざっていう時に必要な魔法やアイテムが無いと困りますので」

 と、言いながらリイジーに生理痛と髪の毛に効く薬を頼んでみた。

「大抵の物はあるぞい」

「おばあちゃん、ぼったくりはダメだからね」

「ちぇ……」

 必要な薬草と薬が揃うと結構な値段になる。金貨数枚になるだろうか。枚数的には大した事は無いが、実質十万超えともなると安くはないだろう。

 だが、購入するかは別だが。

 森祭司(ドルイド)の職業(クラス)があれば自分で取りに行くのだが面倒くさい。モンスター探すほうがいい。

 マーレを使えばなんとかなるかもしれないが、森に放り込むわけにも行かない。

 妻のためともなれば財布くらい緩(ゆる)めてやろうではないか。

「す、すみません。ちゃんと加工したものがありますので。そちらをご用意いたします。これは見本なので」

「煎(せん)じて飲むなら同じかと……」

「いえいえ。ちゃんとしたものを売りますよ」

 『保存《プリザーベイション》』の魔法をかけられた薬草、薬品を包みに入れられた。

 金貨数枚と言えど増えない金は減る一方だ。大切にしなければ。あと、仕事も考えないといけないな。

 支払いを終えたが手持ちの資金は割りとまだ豊富である。が、無駄遣いにならないようには気をつけている。

 

 自分以外の者の心配もするようになったのだな。

 ラキュースを失う結果になったらどうなるんだろうか。肉団子になったら戻してやろう。アンデッドにされたらナザリックを破壊しよう。

 死を望んだら、それはちゃんと弔(とむら)ってやろう。

 悪い事ばかり考えても仕方が無い。

 人間世界に彼女の帰る場所を作ってやるのも悪くは無いかもな。

 クレマンティーヌはどうしようか。特別何も考えていないけれど、まあ会ってから考えるか。

 ガガーランみたいな人だったら殺そう、すぐに。

「……お客様に大変失礼と存じますが……」

「はい」

「冒険者……ではないと言うのは本当なんですね」

「はい。作用ですよ。でも、趣味はモンスター退治、かな」

 少年に普通に明るく答えた。

「あなた程の人が冒険者だったら凄いと思うのですが……」

「まだ行きたい場所がありますからね。ゆっくり考えますよ。細かい約束事とか覚えるの苦手なので。名声とか要らないから楽しく冒険させてほしい、それくらいですよ」

「……ほう、そんなに強いのか?」

「強いなんてもんじゃないよ! 全身鎧(フルプレート)の冒険者を一撃で殴り飛ばすほどなんだから!」

 少し興奮気味にンフィーレアは言った。

 それもただの冒険者ではない。人食い大鬼(オーガ)を両断するほどの強者である。

 それをどうやってか一撃、大きなガントレットで吹き飛ばしたのだから信じられない。

「……ちょっと気が動転してただけですよ」

「確かにモモンさんは凄い人ですけど、ナーベさんとの戦いも凄かった。帝国の四騎士とも渡り合えるのでは、というくらいです。しかも、武技まで使っていないんでしょう」

「……ああ、武技って何か知らないんです。あんまり必殺技とか詳しくなくて」

「戦士版の魔法みたいなものです。それにしても凄かった」

「戦士職なら魔法詠唱者(マジック・キャスター)には勝てんじゃろ」

「そうですね。強い魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であれば……、勝てないかも」

「いやいや、おばあちゃん。第三位階の魔法を使うナーベさんを撃退したんだよ。弱いはず無いと思う。『雷撃(ライトニング)』もすぐに対処してたし。なんか強い魔法も」

「そりゃあ魔法を知っとりゃあ対策くらい出来るじゃろ」

 だが、とリイジーは思う。

 第三位階の魔法詠唱者(マジック・キャスター)を倒すのは実際には難しい。

 それは第三位階を使える者が少ないからだ。

 戦う機会も当然少ない。それを撃退できる者は相当の冒険者であらねばならないだろう。

 それはただ事ではない。アダマンタイト級、英雄級もありえるだろう。

「……つまり第三位階の魔法を熟知するつわものということかの?」

 ついリイジーは独り言が口に出てしまった。

 天才の部類に入る第三位階を熟知する。英雄級なら第五位階もあるかもしれない。

「あんまり魔法には詳しくないです。魔術師ギルドで一覧表を見せてもらいましたが、あれを全部覚えられる自信はないです。三つくらいならなんとか」

「……それもそうじゃな」

「よく使う魔法なら対処はし易いですよ。火、雷と……、それくらい分かればよさそうな気がします」

「それでもあの流れるような攻撃は素晴らしかったです」

 しかも武技無しで繰り広げのだから相当なものだ。もちろん対するナーベも凄かった。

 御前試合にでも出場すれば凄い活躍が出来るかもしれない。

 新たな王国最強も夢物語ではないだろう。

 名残惜しいンフィーレア達に礼を言って、次なる目的地。

 巨大墓地に向かう。

 買い物は済んだし、あとは気楽に散策することしか出来ない。

 途中で気付く。そもそも『クレマンティーヌ』ってどこに居るのか知らないことを。

 エ・ランテルの墓地には門があり、アンデッドに備える為の衛兵が何にも配置されていた。

 ヤントラも途中まで来た者の素直に通してくれるのか疑問だった。というより墓地にアンデッドが出るような管理不行き届きの墓地が都市にある事自体おかしい。

「……塀は高そうだ……」

 三メートルから五メートル以上はあるかもしれない壁が墓地の周囲に張り巡らされていた。

 壁に穴をあけて進むわけにも行かず、とりあえず、兵士達を眺める。

 軽装備に剣と槍。

 それほど優秀ではないが、強そうには見えない。

 日はまだ明るいし、一旦戻って、と思った時にっ、などと都合よく何か起きたりはしないよな。

 実際はポンポンとトラブルが起きないものだ。

 墓地ならではの演出でもして見ようかな、とか考えつつ商店街に戻ることにした。

 

 日が暮れかける頃、兵士達は先ほど眺めただけで去っていった者の事を離していた。

「中に用でもあったのかな?」

「眺めただけで帰っていきましたが……。墓参りなら言ってくれればいいのに」

「物々(ものもの)しさで諦めたのかも知れない」

 墓地とはいえアンデッドが出没する。兵士達はそのために警戒している。

 アンデッドは放っておくと、より強いアンデッドが生まれやすくなる特性があるらしい。

 手に負えなくなる前に対処しなければ深刻な事態になる。

 カッツェ平野ではかなり強いアンデッドが出ることで有名な場所。

 物資の運搬の時は王国と帝国が共同でアンデッドを討伐するくらいだ。

「もうすぐ日が暮れると骸骨(スケルトン)とか出てくる気配が……」

「骸骨(スケルトン)なら可愛い方だ。百足状の骸骨(スケルトン・センチュピート)とか来たら厄介だ」

 兵士達が話している間、墓地方面を巡回していた仲間が急いで戻ってきた。

「骸骨(スケルトン)がたくさん現れたぞ!」

「総員、警戒態勢!」

 毎日ではないが、アンデッドの出現比率は高い。

 今回も十数体は覚悟している。

「……お、おい、後ろから誰か来るぞ」

「さっきの人か?」

「違う……と思う」

 塀の上に居た兵士が振り返ると、そこには煌(きら)びやかな鎧。背中には六本の剣のようなものを浮かせた存在がゆっくりと歩いてきた。手には自身の身長ほどもある大剣が握られている。

 その大剣は鞘に収まっていて、柄ではなく鞘の中ほどに持ち手があるらしい。

 髪は金髪の縦ロールが肩から流れている。

 顔には白い仮面が嵌められていたが目と口の部分からは血が垂れていた。そしてそれは鎧にも落ちている。

 足取り自体はしっかりしていてアンデッドのようには見えなかったが時間帯から異様な姿に映った。

 手足は細く、女騎士に見える。

「と、止まれ。今は中でモンスターが発生していて……」

「………」

 女騎士は構わず進む。

 締め切られた門は避けて塀の上にある見張り台へ行く階段を登り始める。

 何者にも止められない迫力があった。

「あ、あの……」

 肩を掴もうと思ったが血がついているのでためらってしまった。

 女騎士は一番上の塀に登り、墓地を見下ろす。

 遠くに数匹の骸骨(スケルトン)が確認出来た。

「……まさか蒼の薔薇!?」

 女騎士の頭の髪飾り、純白の鎧の中心から直垂の意匠も薔薇になっていた。

 王国内では有名な噂になっている。

 蒼の薔薇のリーダー、ラキュースが罪人として処刑されたということを。

 純白の鎧を着たメンバーはリーダーだけだ。

「……まさかアンデッドとして蘇った!?」

 仮にそうだとしても兵士を襲わず、眼下のアンデッドに顔が向けられている。

 背中の剣が独りでに動き出す。周りに向かって飛び出す形を取る。

「ひぃ!」

 女騎士に近づくのは危険と判断した兵士達はそれぞれ逃げ出した。

 内側の仲間を回収し、敵襲に備えつつ亡霊とおぼしきラキュースを兵士達は見つめる。

 女騎士は鞘を抜き放つ。

 蒼の薔薇としても有名になったラキュースの愛剣、伝説の『魔剣キリネイラム』が姿を現す。

 そのバスタードソード並みの刀身は宝石が散りばめられたような輝きを持つ夜闇(よるやみ)の如き漆黒。

 その魔剣キリネイラムは闇のエネルギーを放つ、と言われている。

 近づいてくる骸骨(スケルトン)目掛けて魔剣を向けて漆黒のエネルギーが静かに発射される。

 遠くに居る骸骨(スケルトン)に当たると闇のエネルギーが吸収されていく。しかし、亡霊は気付いていないのか、次々と正確に当てていく。

「アンデッドに負のエネルギーは回復させるだけですよ!」

「……蒼の薔薇の亡霊か……」

「剣も本物みたいだ……。本物のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラじゃないのか」

 兵士達の言葉に女騎士は『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』を発動させて骸骨(スケルトン)を次々と打ち砕く。

 静かに無駄なく、確実に。

 十数体ほどの骸骨(スケルトン)は瞬く間に瓦礫と化した。

 『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』に攻撃を切り替えたので魔剣は鞘に納められる。そして、またじっと眼下を見据える。

 おもむろに女騎士は墓地内に飛び降りた。着地の音が一切聞こえないほどだった。そして、そのまま歩いていった。

「……王国を憎んでいたんじゃないのか?」

「俺たちを助けてくれたのかな」

「無辜(むこ)の民を救うラキュース……。あんな人がどうして罪人に……」

 兵士達の言葉は眼下の女騎士には届かない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 墓地はとても広大だった。

 女騎士が歩いているだけで敵が寄ってくるように骸骨(スケルトン)が武器を携えて襲ってくる。それを魔剣で切り裂く。

 鞘は背中に掛けておく。

 魔剣キリネイラムは両手剣。

 一度振るえば骸骨(スケルトン)は粉々に吹き飛ぶ。ただの攻撃であれば回復しないようだ。

 それは斬撃というよりも金槌(かなづち)でぶっ叩くような豪快さがある。

 切れ味に特化していないのかもしれないが、刀身が痛まないのか疑問である。

 奥へ奥へ行くごとに夜は深くなる。

 出会うモンスターの大半は骸骨(スケルトン)。

 動死体(ゾンビ)や食屍鬼(グール)のようなアンデッドはまだ出てこない。

 骨の集合体のアンデッドも居るが今のところは姿を現していない。

「………」

 足元から突如として腕を伸ばし、女騎士の両足を掴む。しかし、背中の『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』が足元の動死体(ゾンビ)と思われるモンスターを滅多刺しにして黙らせる。

 更に前方には卵型の人間の死体で全体的にピンク色。身体の全面が縦に割れてそこから夥(おびただ)しい内臓を出している『内臓の卵(オーガン・エッグ)』というモンスターが複数浮いていた。

 それらの身体から腸(ちょう)のような内臓で女騎士を絡めと取ろうとした。しかし、それらも背中の剣によって裁断され、魔剣で斬り刻まれる。

 倒したのもつかの間、他にも骸骨(スケルトン)を初め、様々なアンデッドが廻りにうごめいているのが見えてきた。

 墓地としては機能していない。ただのアンデッド工場にも見える。

 こちらが歩いているだけで近づいてくるのだから追う手間が省ける。

 今のところ出現しているアンデッドは大して脅威にならず、数もまばらで護衛の兵士だけでもなんとか撃退できるだろう。

 余程の凶暴なモンスターでも出ない限り。またはモンスター退治が未経験の者でもない限りは。

 暗い雑木林(ぞうきばやし)の中はほぼ闇。

 歩けば足元から現れる動死体(ゾンビ)。遺族がかわいそうだ。

 遺骨とか遺体に関してはあまり頓着しない国なら、仕方が無いが。

 正直、墓石だけあればいいのではないかとさえ思えくる。

 さすがに死の騎士(デス・ナイト)や死の騎兵(デス・キャバリエ)のような凶暴なアンデッドは居ないようだ。

 この墓地には大きな石造りの霊廟(れいびょう)が存在する。

 アンデッドを倒しているうちに視界が開けていき、建物が見えてくる。

 雑木林を抜ける先は見晴らしのいい景色になっている。

 普段なら遺族たちが祈りでも捧げ、神官が死者を弔(とむら)う儀式でも行うのだろう。今は人の気配も無い邪悪なアンデッドの住処のような様相となっている。

 霊廟に近づくに連れてアンデッドも数を増していく。ほぼアンデッド系モンスターしか出て来ない。

 実体の無いモンスターも『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』の前に霧散していく。

 無数の骨が集まった『集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャアイント)』というモンスターが地面から競(せ)り上がるように現れる。

「ゴォォォ」

 アンデッドの咆哮も女騎士には微塵も通じない。

 所詮は骨の集まり、十を超える斬撃でモンスターは崩れ去る。

 魔剣を背中に設置して散らばる骨を踏み砕きつつ霊廟の石扉を開けて中に入る女騎士。

 

 建物の中心には大きな石棺(せっかん)があるだけで他にはめぼしいものは無かった。

 モンスターも居ないようだ。

 女騎士は石棺の周りを観察するように歩き回った。

「あっれー、先客がいるー」

 石扉に頭からフードを被った人物が姿を現した。

 完全に身体を隠しているわけではなく、胸元が見えていた。

 体つきはしっかりした筋肉のついた細身の女性で露出の激しい鱗鎧(スケイルアーマー)のようなものを着用。

 動くたびにチャラチャラと金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

「あれれー、どっかで見たことある格好だー。わーすごいすごーい」

 とても楽しそうに彼女は手を叩きつつ近づいてくる。

 フードの下から覗く肢体はよく鍛え上げられた肉体美を晒している。

 武器は数本の短剣と思しきものとモーニングスターのみ。腕は手甲に包まれ人間の顔を抉りそうな凶悪な金属のガントレット。

 暗闇に浮かぶ愛らしい顔立ちは獲物を狙うネコ科の動物のようだ。

 短く切りそろえられた金髪が僅かにのぞいている。

 年のころは二十歳だろうか。大きな胸は僅かな金属の防具が包んでいる。

「あー、ガガーランのとこのリーダーでしょ。なーに、アンデッドになって挨拶しに来たの? カジっちゃんに用が……あるようには見えないけど……。来る?」

 近づいても何も反応を示さないところから敵意は無いと判断したようだ。

「聞いたよ聞いたよー。国民による撲殺の刑で死んだってね。身体がぐちゃぐちゃになったって聞いたけどー。よく復活出来たね」

 一方的に喋りながら石棺を調べる女性。

 何かの仕掛けを作動させる女性。すると石棺が動き、下から階段が現れる。

 作業の間、女騎士が黙っていたが女性は構わず階段を降りはじめる。その後を女騎士もついていく。

 階段を降りていくと青白い光りが辺りを照らす。

 人工的だったのは上部だけで周りはほぼ自然の洞窟になっていた。

 時折聞こえるのは天井から落ちる水滴。

「ふんふんふーん」

 鼻歌交じりで女性は進んでいく。

 警戒心の欠片も感じさせない足取りだった。

 女騎士も殺気などを一切振り撒かない中ついていく。

「カジっちゃん居るー? お客さん連れて来たよ」

 だいぶ降りていくと床に魔方陣が描かれているものが複数見えてきた。

 ここは地下神殿の様相をていしているだ。

 奥には黒いローブに身を包んだ者達が何かの儀式でもやっているのか、ぶつぶつと呟いている。

「ちわー、カジっちゃん」

 雰囲気とは似つかわしくない親しげな呼びかけに儀式をしていた者達は不快感を露(あら)わにする。

「その挨拶はやめんか」

「なんか知らないけど、お客さん。カジっちゃんに用があるのかは知らないけどー」

 カジっちゃん、と呼ばれたものは髪も眉も無いような細身の男性だった。

 他の者と違い、一人だけ顔を出していた。

 カジっちゃん、おそらくはただの愛称だろうが死人のような姿をした男は女性の背後に居る女騎士を見て驚いた。

「蒼の薔薇のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラか!?」

「見た目はねー。っていうか、顔から血がずっと出てるけど大丈夫なのかなー」

 鎧の前面部分は血で濡れていて、肩から腕にかけても血が垂れている。

「なぜ、そいつが……。いや、死んだのではなかったのか!」

「アンデッドになって蘇(よみがえ)ったんじゃないの? 特に攻撃してこないし、放っておいても大丈夫じゃない?」

 気楽そうに女性は言った。

 見た目は確かに蒼の薔薇のラキュースの装備だと男性は思った。

「すると背中の大剣が魔剣キリネイラムか」

 その言葉に反応した女騎士は背中から大剣を外し、鞘を抜き放つ。

「おおー。真っ黒というより夜の色だねー。奇麗」

 女性は魔剣のを興味深げに観察し始める。

「いやまさか……。本物なのか……」

 魔剣を向けられた男性は両手を上げる。その片方の手には黒い球が握られていた。

「ま、待て待て。剣を降ろせ」

 そう言うと素直に剣を引き鞘に納め、背中に設置した。

「うふ。いいねー。あっ、そうだ。カジっちゃんにこれあげる」

 女性はローブの中から蜘蛛の巣の金属糸のところどころに小さな宝石を付けられたようなサークレットを取り出す。その中心には黒い水晶のような大きな宝石がはめこまれていた。

「巫女姫の証し! 叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)! スレイン法国の最秘宝の一つではないか!」

「そうだよー。女の子がこんな変なのしてから奪ってあげたの」

 実に楽しそうに女性はサークレットを指で回しながら言った。

「そんなことをすれば……」

 二人が会話している間、女騎士は儀式をしていた場所まで移動を開始した。

 女騎士が近づくと黒いローブの者達は恐れて後ずさりしていく。

 地面に巨大な魔方陣。

 周りは自然の洞窟。

「きれいなところでしょー」

「儀式の邪魔をしに来たのか!」

「見物くらいさせてあげなよー。殺気とか無いんだし、なんかあっても私が居るしー」

 魔方陣の描かれている部分から外は水で満たされている。どこからか流れ込んでいるようで神秘的でもある。

 その水に女騎士は手を入れて顔に掛ける。

「そうそうアンデッドならその『死の宝珠』で操れないの?」

 女性が指差すところにあるのはカジっちゃんの手に握られている黒い球。

「アダマンタイト級ともなると難しいな。下手に手を出して暴れられてもかなわん」

「えー。つまんないのー。あっそうだ。ラッきゅんって呼ぶね。もしよければ私達の仲間ならない? この街を死の街にするっていうからさ」

「………」

 女騎士は女性達に向き直った。

「アンデッドが増えれば強いアンデッドが生まれる。そしてさらに強いアンデッドがってどんどん増やすんだってー。いつかカジっちゃん殺されるかもしれないけどねー」

 強すぎるアンデッドになったら制御する前に死ぬんじゃない、と楽しそうに女性は言った。

「それを可能にするのがこの『死の宝珠』の力なのだ。儂(わし)はここで数年の歳月を掛けて準備をした。それをおぬしの下らん遊びでこの計画が駄目になるような事態はごめんだからな」

「死の螺旋、だっけ?」

「そうだ。我らが盟主が行われたな。これ以上の厄介ごとを起こすならおぬしを殺すぞ」

 叱られたいたずらっ子のように女性は頬を膨らませ不機嫌な顔になる。しかし、それは一瞬。次の瞬間には殺意を振り撒く暴風と化した。

 女性が腰から下げている複数の鞘から一本抜き出し、カジっちゃん目掛けて突き出す。

 その動きに迷いは無く、確実に相手をしとめる殺人の一撃。

 彼女が繰り出した武器は刺突専門の武器『スティレット』と呼ばれるもの。

 四十センチほどの小ぶりの短剣である。

 一拍(いっぱく)の呼吸で相手の視界からは霞(かす)むほどの速度で繰り出される。

 だが、それを見越したのかカジっちゃんの足元の地面が割れ、主を守るように硬いものが女性の武器を受け止める。

 その壁は無数の骨で出来ていた。

 彼女の尋常ではない攻撃を防いだカジっちゃんも只者ではない。

「てへ、ごめんねー。でも、全然本気出してないからー」

 悪びれた様子も無くスティレットを振りながら女性は笑いながら言った。

「嘘を言うな、クレマンティーヌ。お主はそういう人間ではあるまい」

「うわー、本当だよー。でも、防いでなかったら身体のどっかは貫いてたかもねー。いやー、カジっちゃん凄いねー」

 二人が会話を交わしている間、骨の集合は地面へと帰ろうとしていた。

 そこへ黒い剣閃が走る。

 巨大な骨の壁を下から斜め上へと静かな、いや、ガリガリと骨を砕き削る斬撃が通り過ぎる。

「ほわー」

「なにっ!」

 クレマンティーヌという女性は感心し、カジっちゃんは驚愕する。

 後ろに控えていた仲間と思(おぼ)しき者たちも驚く。

「カジット様!」

 斬られた骨は残骸となって散らばり、地面の底から何者かが唸り声をあげる。

「すごいすごいー! えー、なに。強いじゃん」

 女騎士は何事も無く、魔剣を鞘に納める。

「この馬鹿者が! アンデッドが暴走するではないか!」

 斬られた事により、地面の下に居るアンデッドが上に上がろうと地面を砕く。

 他の者たちは急いで現場から去ろうと階段へかけていく。もちろん、カジットも逃げ出す。

 クレマンティーヌは興味があったのか、残った。

「あはは。もしかして倒す気? 止めないけど、案外……、倒すかもね。いいねー。終わったら上で殺し合おっか……」

 笑いながらクレマンティーヌも暢気に階段へと向かう。

 魔方陣の中心まで女騎士は移動し、出てくるものを出迎える。

 地面を砕き、洞窟全体が崩れ落ちそうなほどの振動を振り撒くもの。

 それは骨で出来た竜(ドラゴン)。

 膜(まく)の無い骨の翼を持ち、長い尻尾を振るう『骨の竜(スケリトル・ドラゴン)』と呼ばれるモンスターだ。

 一般的には戦わずに逃げろと言われるほどの強いアンデッドと言われていて、カッツェ平野でも目撃例がある。

 女騎士は全体が出るまで悠長に待つ気はなく、頭が見えた時点で攻撃を始めた。

 それは圧倒的。防御などしていないかの如く骨が砕かれる。

 魔剣の切れ味が鋭いわけでも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が弱すぎる訳でもない。

 女騎士が強かっただけだ。

 とはいえ、骨の集合体である骨の竜(スケリトル・ドラゴン)も一撃で倒せる相手ではない。

 骨の再生が無い事を確認したのか、今度は更に斬撃の速度を上げていく。

「………」

 最後の止めとして闇のエネルギーを発射してしまった。本来、負属性の攻撃を受ければアンデッドなら回復してしまう。当たり前だが、倒せたはずの骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が驚異的な回復を遂げてしまった。砕けたはずの骨が再接合されていく。

 兵士の言葉を忘れてしまったのか、ついうっかり撃ってしまったのかは定かではない。だが、このミスは大きかった。

 急速に復元した骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の巨大な尻尾が女騎士に叩きつけられる。

 洞窟の壁に叩きつけられた女騎士の顔から血が噴き出す。しかし、敵は更に頭で体当たりしてきた。

「………」

 鎧のお陰か壁に埋まる事無く、ゆっくりと落ちていく。

 『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』は壁に刺さった。

 無数の骨が軋(きし)みあう音が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の咆哮のように洞窟内に響き渡る。

 頭から水に落ちていく女騎士の足を骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は掴み、砕けている魔方陣に叩きつける。

 それだけで周りに血が飛び散る。

 

 それは形勢が逆転した殺戮。

 普通の人間なら今の一撃で即死しているだろう。

 鎧は無事でも中身はぐしゃぐしゃ。内臓も破裂していてもおかしくない。

 どんな屈強な防具だろうと中身は人間。刃物で斬られれば傷つき、出血する。

 だが、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が相手にしているのは並みの人間ではない。

 蒼の薔薇の装備を身につける化け物である。

 全身から血を流しつつ、決して魔剣は手放さなかった。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前足は容易く切り裂かれ、女騎士は自由になる。だが、全身のダメージは深刻で足腰がふらついていた。

「………」

 始めて女騎士は言葉を発した。それは誰にも聞き取れないほど小さな呟き。

 全身が魔法の光りに包まれる。全身からボキバキと骨の鳴る音が聞こえてくる。

 女騎士は軽く首を捻るとゴキっという音が鳴った。そして、すぐに駆け出す。

「………」

 更に何がしかの魔法が唱えられ、女騎士の身体が光っていく。そして、そんなことを気にもせずに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に切りかかっていく。

 攻撃に関して女騎士がほぼ圧倒的に切り刻んでいるようにしか見えなかった。

 両前足。背の翼。尻尾は少しずつ短く切り裂かれていく。後ろ足も既に滅多切り。

 巨体を解体していく様は滑稽にさえ思うほどだ。休み無く続く攻撃も頭部を残すのにさほどの時間もかからなかっただろう。

 攻撃手段を失った状態にまで解体された骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の頭に女騎士は手を置く。

 もう片方の手は自分の胸を触る。その手は少し鎧の中に沈み込むような感じになった。

「〈天使召喚(サモン・エンジェル)〉」

 それは人間の声とは思えないおぞましい呪詛が音となったようなものだった。

 白銀の鎧の胸の部分が燃え上がったがすぐに消えた。

 そして、洞窟に巨大で神々しい天使が姿を現す。

 〈天使召喚(サモン・エンジェル)〉で呼ばれたのは『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』という天使。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)並みの大きさの身体を持ち、背には複数の羽が広がっていて、全体が白銀に輝いていた。

 人間の姿に近いが鎧で身を固めていて、手には笏(しゃく)が握られている。

「………」

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)から離れて壁に刺さっていた『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』を回収し、階段を数段登る。

 そして、手を骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に向ける。

 天使は笏(しゃく)を破壊し、その破片で魔法の威力を増幅する。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は魔法に耐性を持つが、それは第六位階までの話し。それ以上の魔法を持ってすれば滅ぼせる。

 第七位階の天使召喚によって呼ばれた威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の聖なる一撃〈善なる極撃(ホーリー・スマイト)〉が放たれる。

 散らばる骨すらも塵に帰すほどの清浄な攻撃は人間であっても耐えられないほど。

 女騎士は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の最後を見ずに階段を登り、途中で天使に退去を命じた。もとより巨大な天使では洞窟から出られない。

 

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