※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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C-10 クレマンティーヌとの激闘

 地上に戻るとクレマンティーヌが笑顔で出迎えてくれた。しかし、カジット達は怒りの形相だった。

「おっ帰りー。うわー、なんか更に血まみれになってるねー。あれ? 実は結構苦戦した? あっさり終わるものと思ってたのに」

「貴様っ! どうやって骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を! キリネイラムは負の属性のはず!」

 その言葉でクレマンティーヌは時間がかかった理由に納得する。

「あっはー。倒そうとして回復させちゃったんだ。そうかそうか。そりゃ時間がかかるよねー。でも、倒したんでしょう? どうやったのかな。魔法?」

「骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は魔法に絶対の耐性を持つ。魔法で倒せる筈がないだろう!」

「じゃあ、確認してみるよ、カジっちゃん」

 足取り軽く、石棺の中に入っていくクレマンティーヌ。彼女は全く緊張がないようだ。

「だが、切り札があれだけと思うな! 見よ! 死の宝珠の力を!」

 手に持っていた黒い玉を天に向かって突き出す。

 淡い光りを放つと同時に上空からもう一体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が飛来してきた。

 数分も経たずにクレマンティーヌが戻ってきた。

「カジっちゃーん。奇麗に消滅してたよー。って、あれれー。ここにも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が居るー。洞窟抜けてきたの?」

 クレマンティーヌは新たに現れた骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を眺めて、首を傾げた。

「し、消滅だと! 貴様、どうやって……」

 お互いが疑問に思っている頃には女騎士は駆け出していた。

 先ほどと同じく身体を解体するように斬撃を加える。

「やはり、魔剣の力か……。しかし、負属性にも関わらず攻撃が通るとは……」

「……いや、普通に攻撃してるからでしょー。それにしても強いねー」

 カジットは違う意味で驚いていた。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は骨で出来ているため斬撃、刺突の攻撃では効果が期待出来ないモンスターだ。簡単に斬り伏せられる筈がない。

 本来、有効な攻撃は棍棒やメイスなどの殴打武器。

 つまりキリネイラムを大剣でありながら殴打武器のように扱っているということなのかもしれない。

「〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉、〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉、〈死者の炎(アンデッド・フレイム)〉、〈盾壁(シールドウォール)〉」

 カジットは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に魔法をかけた。

 今まで容易く斬り裂けた骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の身体に刃が途中で止められた。

「うわー……。えげつないねー。カジっちゃん」

 攻撃が止められたと同時に女騎士の身体が燃え上がる。

「無駄だ。もうお前に勝機は無い」

「……〈負属性防御(プロテクションエナジー・ネガティブ)〉、〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉、〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉」

 勝ち誇るカジットを無視し、女騎士は魔法を唱える。

 女騎士の苦悶に似た声で唱えられた魔法で炎はすぐに消えた。

 黙って立ったまま魔法を唱えたわけではなく、攻撃は続いている。

 ガン。ガン。と、キリネイラムが悲鳴を上げるような打撃音が響き渡る。

「カジっちゃん。あんまり相手をなめすぎだよねー。蒼の薔薇のリーダーって魔法詠唱者(マジック・キャスター)でもあるってこと知らないのかなー」

「なっ!」

 知らなかったのではない。忘れていたのだ。

 カジットは全身から冷や汗が出る感覚に陥った。

「それに魔法が使えないなんて思うほうがバカでしょ。これはひょっとするとヤバイかもねー」

 筋力を増強することにより、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)への一撃が強くなった。

 地響きといってもいいくらいの衝撃。

 それは斬撃というには生易しいほどの破壊音。キリネイラムが無事でいることの方が不思議なくらいだった。

 『鎧強化《リーンフォース・アーマー》』によって女騎士は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の攻撃を受けきった。

 いや、相手も筋力を増強しているので互角になるはずが無い。では、何故か。

 『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』が防御の盾として女騎士を守りきったからだ。

 本来は攻撃と防御を兼ね備えた武器である。壁の激突にも耐え切ったのだ。相当、丈夫なのだろう。

 数撃の攻防の最中にカジットは魔法を唱える。

「〈酸の投げ槍(アシッド・ジャベリン)〉」

 大剣ゆえに隙も大きくなる。その魔法は女騎士の顔面に直撃した。

「戦士の戦いに水を差すのはよくないなー。カジっちゃん」

 顔に攻撃を受け、視界が悪くなったのか。剣が空振りし、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前足の攻撃を受けた。

 女騎士は吹き飛ばされ霊廟の壁に激突する。

「……うわー。痛そう……」

 女騎士は何かの魔法を唱えたようだが、同時に吐血もしたようだ。

 顔から酸の煙があがりつつも立ち上がろうとしている。

 クレマンティーヌ達は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の邪魔にならない位置から戦いを見守っていた。

 なかなかお目にかかれない戦いなのでクレマンティーヌはじっくり観戦したい気持ちだった。

「〈負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)〉」

 カジットは魔法で骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を回復させた。

「カジっちゃんも大人気ないよねー。私も応援しちゃおっかなー」

 スティレットを抜き放ち、どちらを攻撃しようか考えた。

「貴様の刺突武器では骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は倒せまい」

「カジっちゃんは殺せるかもよ」

 と、言っている側から女騎士の大上段からの一撃が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に浴びせかけられた。

 肩口を砕きつつ魔剣が食い込んでいく。そのまま剣を引き抜き反対側の前足を下から次ぎ上げるように切り裂いていく。

 動きが先ほどよりも早くなっている。

「へー。『早足(クイック・マーチ)』かー。さっきより期待できるかも」

 第一位階の魔法とはいえ使い手次第では脅威になる。

 次々と解体されていく骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。

 強化も回復もMPの枯渇した方が負けるという持久戦となる。

 回復させたとしても相手はそれを許さない。徹底的に破壊し尽くしてくる。

「こ、これがアダマンタイト級の冒険者の実力か……」

「いんやー。それ以上かもねー。もう人間超えてるよー」

 自分も参戦したくてうずうずしてくる。クレマンティーヌは武器を持つ手が自然と強くなっていた。

 早く殺したい。滅多刺しにしたい気持ちが湧いてくる。

 横に広がる口元が得物を狙う猛獣へと変わってくる。

 アンデッドだろうとなかろうと殺したい。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 どれだけの斬撃を繰り返しただろうか。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は確実に小さくなっている。

 回復以上の破壊を繰り返しているのだから当たり前だろう。

「くっ……。こちらは負のエルネギーが空か……」

 カジットは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を諦め、仲間と共に立ち去ろうとした。しかし、それはクレマンティーヌが阻止する。

「どこへ行くのかなー。もうちょっと見てったらいいのに」

「ふざけるな! 一度、計画を練り直さんといかんではないか」

「じゃあさ……」

 と、クレマンティーヌの姿が掻き消え、カジットの仲間。正確には弟子達をスティレットの一撃で殺しつくした。

 鮮やかな手並み。確実に急所のみを突く。一撃のみで絶命させていった。

「ほら。これで回復できたんじゃない?」

「どこまで狂っておるのだ、この性格破綻者め!」

 カジットが回復しないので骨の竜(スケリトル・ドラゴン)も攻撃する部位を失ってただの骨の塊へと変わっていく。

「ただ破壊しただけじゃあ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は復活しちゃうよ。どうするの? 魔法で焼き切るのは無理じゃないかな」

 正直、洞窟の惨状はクレマンティーヌも驚いていた。

 あちこちに血溜まりがあったので相当苦戦していたのは理解した。しかし、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を消し去るほどの魔法は記憶に無い。ただあったのは何かで焼き尽くしたような黒い煤だけが残っていた。

 通常の攻撃魔法は無効化する骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を女騎士はどうやって消し炭にしたのか興味があった。魔剣では不可能だが、隠された能力でもあるのだろうか。とても知りたかった。

 小さくなっても魔法の耐性は消えない。

 更なる回復に備え、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)をかなり細かく砕く。

 そして、自分の胸を触る。

「……〈天使召喚(サモン・エンジェル)〉」

 触っていた胸が燃え上がったが、それは一瞬の出来事だった。

 呪詛(じゅそ)のようなおぞましい小声はクレマンティーヌ達には聞き取れなかった。

 その後、女騎士はカジットに走り寄り、胸倉を掴む。

「ぐっ。貴様っ! 今、何をした!」

 無言のままカジットを骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の残骸に投げ捨てた。それと同時に天使が出現する。

「おぅわー。天使かー。しかも、これはヤバイやつだねー」

 クレマンティーヌは天使から距離を取った。

 女騎士が手で合図を送る。

 召喚された『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』は手に持つ笏(しゃく)を砕く。

 カジットは逃げ出したいが細かい骨にローブが絡まり、足元の骨で足をとられたりして前に進めなかった。

 彼が逃げ出す前に『善なる極撃(ホーリー・スマイト)』が発動する。

 アンデッドモンスターごと人間すらも浄化の光りが降り注ぐ。その最中、女騎士は魔剣をカジットに投げつけてトドメを刺す。

 カジットは最後の言葉すら発する事無く息絶えた。

 善なる極撃(ホーリー・スマイト)は高い位階魔法だが人間を消し去るほどには強くない。対アンデッドモンスター用とも言える。だが、ダメージは人間にも与えられる。

「ありゃりゃー。カジっちゃんが浄化されちゃったねー。あーあ。数年越しの計画が台無しだねー」

 クレマンティーヌは死んだカジットに対して特に気にもせず笑っていた。

 カジットの手から『死の宝珠』が零れ落ちる。

「……せっかく奪った『叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)』が無駄になっちゃったな……。君にあげる」

 いとも簡単にクレマンティーヌは『叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)』を女騎士に投げつけてきた。

 空中で手に取ると思ったが身体に当たって落ちてしまった。

「あーもー、秘密組織が壊滅しちゃったじゃん。これからどうしよう……。風花の奴らはまだ追ってくるだろうし……。それにしても君は強いねー。っていうか、この天使が強いのかな?」

 未だに退去していない巨大な『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』を見上げるクレマンティーヌ。

 すぐに視線を女騎士に向ける。

「じゃあやろっかー。殺し合い。私は人を殺すのが大好きで愛しているの。アンデッドでもどうでもいいんだけどねー。強いやつを倒すのも嫌いじゃないからさー」

 クレマンティーヌは別のスティレットを取り出して不敵に笑った。

 女騎士は手を軽く振ると天使は消えていった。

「いいの? 別に天使相手でも良かったんだけど」

 獲物を狙う猛獣が笑う。

 自分の実力に絶対の自信を持っているからこその発言だろう。

「私はクレマンティーヌ。ここまでの戦いに敬意を表して教えてあげる。蒼の薔薇のリーダーだがなんだか知らないけど、よろしくね」

 軽く後方にジャンプして戦闘態勢を取るクレマンティーヌ。

 対する女騎士はクレマンティーヌを見据えたまま吐血。

 ここまで楽勝とは行かないがかなりのダメージが蓄積しているようだ。

 もし、アンデッドであったとしても肉体的な損傷は軽微ではない。

 キリネイラムを鞘に戻し、背中に設置。代わりに『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』の二本を持つ。

「……我ハ憎悪ノ具現『アンリマンユ』……」

 静かに語る声はこの世のものとは思えない声。

 おそよ人間には出せないような禍々(まがまが)しい響きを伴(ともな)っていた。

「あんり…まん…ゆ……、アンリマンユ……かー。アンリちゃんって呼ぶね。ラッきゅんもいいと思ったんだけどなー」

「……ココデ死ヌカ……、蒼ノ薔薇ノ仲間ニナルカ、選ベ……。共ニ旅スル仲間ヲ我ハ欲スル」

「仲間に欲しいってこと? 私は人が殺せればいいんだけど……、蒼の薔薇じゃあ楽しめないじゃん。……強い奴と戦うのはいいんだけどさー」

 少し不機嫌になりつつも首を左右に動かして身体をほぐすクレマンティーヌ。

 

 悪い話ではないのだろう。

 戦えばどちらかが死ぬだけだ。強者に従うのは自然の摂理とさえ思っている。

 問題なのは自分は人を殺しすぎていることだろう。今更仲間を得ることは無理だ。

 自身が身につけている軽装鎧を覆っているのは多くの冒険者を殺して奪ったプレートで作られている。

 銅(カッパー)からオリハルコンまで。自分は殺しつくしてきた。

 アダマンタイト級もいずれは加えたいとも思っている。

 その点では仲間になる話しも悪くは無いかもしれない。

「……まあスレイン法国には未練は無いけどさー。こっちも秘密結社『ズーラーノーン』の幹部なわけよ。すんなりと要求を飲めないっての。……本当はこんな組織とは手を切っちゃえばいいんだけどねー」

 結社にいるのは自分の快楽を満たせるからであって、それ以外には大して興味は抱かない。

 あえて言えば強者と戦いたい気持ちがあるくらいだ。

 裏切ったとはいえスレイン法国の六色聖典の一つ『漆黒聖典』第九席次だった実力者。

 目の前の餌は逃したくない。

「結社を裏切って追っ手を殺せば問題は解決するかー。あー、それはそれでいい話しって思っちゃうなー」

 頭をかきながらクレマンティーヌは悩みだす。

 こんな自分を誘う物好きが居るのだ。殺し合いをするというのに楽しくなってしまう。

 だが、勝負はやめない。それは決定事項だ。

 スティレットを握り、戦闘態勢に移行する。

「……とりあえずは終わってから考えるよー」

 一拍の呼吸の後、駆け出すクレマンティーヌ。

 一瞬で相手との距離を詰める〈流水加速〉という武技により、爆発的な加速を持って相手に肉薄する。相手の動きが水中の中のように遅く見えるほど。

 だが、動きは確かに遅くなったが確実にスティレットの突きに相手は剣を対応させてくる。

「!?」

 〈流水加速〉に僅かながら追いついている。

 同じ武技でも使ってこなければ出来ない芸当だろう。

 それでも構わず、二撃目を繰り出す。こちらも僅かながら反応してくる。

 一本ではダメだと判断し、二本目を繰り出すがことごとく僅かな差で捌かれる。途中で軌道を変えようとしても相手の武器はちゃんと追ってくる。

 ぶつかり合う金属音。武技の使用中はいやに長めに聞こえてくる。

 一度、後退して呼吸を整える。

「いやー、びっくりびっくり。よくついてこられるね。さすが骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を二匹も相手にしてきたことはあるねー。私も楽しくなってきたよー」

 本音を言えば対等に戦える強者に加えてもいいぐらいだとクレマンティーヌは思った。

 蒼の薔薇のガガーランとは対等に戦えるとは思っていたがリーダー、いや、アンリマンユも相当な強さがある。それは決して侮れない。

「……でも、まだまだ私は本気じゃないよー」

 まだ自分は武技を一つしか使っていない。

 先ほど同じく〈流水加速〉の武技を使い、手数を増やす。

 七つほど捌かれたところで〈疾風走破〉の武技を発動。更に加速し、顔の目の部分にスティレットを突こうとしたが相手の剣がクレマンティーヌの顔目掛けて剣を突き出したので相打ちを覚悟した。

 読まれている。

 このまま行くべきか、と一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後に引き下がる。

 アンデッドであれば相打ちなど無意味だ。こちらが不利になるだけ。

 少しだけ離れたがクレマンティーヌの顔には笑みがあった。

 楽しくて楽しくて仕方が無い。

 胸の鼓動すら感じる。

「いいねー。いいねー! ゾクゾクするよ。殺し合いはこうでなくっちゃ」

 ただの騎士ではない。他にも職業(クラス)があるようだとクレマンティーヌは分析する。

 こちらの手数に合わせるくらいだ。

 自分の記憶にあるもので近いのはアサシンかニンジャくらいだ。

 蒼の薔薇のリーダーはそんな職業(クラス)を持っていたのか、それとも隠し玉なのか。

 切り札は最後まで取っておくものだからと自分を納得させる。

 

 暗殺者(アサシン)などは分かり易い例えでしかない。

 騎士でも強ければこれくらいの芸当をやってのけるかもしれない。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)のような硬い敵とは違い、人間との戦闘では戦い方に違いが生まれてもおかしくない。

 今の攻撃は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)には殆(ほとん)ど通じないだろう。

 大剣を使うしか脳の無いバカではない。相手は確実に的確に攻撃が出来る。

 全身が訴えている。これほどのご馳走(ちそう)は久しぶりだと。

「やっばい。脳天から痺(しび)れてきたよー! あははー!」

 再度の〈疾風走破〉で加速。

 感覚が鋭敏(えいびん)になってきている。

 数度の刺突は数十に増えているが全て捌かれている。相手の攻撃が少しずつ通っている気がする。気がつけば擦過傷(さっかしょう)が出来ていた。

 金属音から武器の振るう空気を切り裂く音へ。

 今まで受けのみに回っていた相手が突進してきた。

「おおっと」

 決して捌けないわけではないが的確に傷を作ってくる。無駄な打ち合わせをしてこない。

 それでもクレマンティーヌは歴戦の戦士だ。その程度で動揺などしない。

 相手が武技を使っているのか、魔法により敏捷(びんしょう)をあげているのかは分からない。分かるのは確実にこちらの武技に追いついているということだ。

「あはは! ヤバイヤバイ! これは……、ヤバイ!」

 危ないところは〈流水加速〉や〈超回避〉などで逃れているが、クレマンティーヌは冷や汗を感じていた。

 攻めきれない。刺突武器であるがゆえに的確に急所が狙えなければ意味が無い。

 それにもましてクレマンティーヌが危惧しているのは戦いの最中だというのに股間がうずき始めている。

 快楽が刺激されているのだ。

 動きに集中できなくなる。

「ぎぎっ! やるねー! こんなにたくさんの攻防はそうそうやったことないよ」

 一旦、後方に逃れるが相手は追ってくる。

 逃げの一手ではあるが武技とて集中力を消費する。

 一気に畳(たた)み掛けたいところだが、全身の神経が鋭敏になりすぎている気がする。

 このままの長期戦はマズイ。

 狂戦士といえども頭がおかしくなる。そこを狙われたらひとたまりもない。

「……やばい……気持ちいい……。何なのよ、戦いの邪魔しないでよ。集中させなさいよ。これほどのご馳走が居るんだからー!」

 更に大きくジャンプして後退する。着地した瞬間に股間のうずきが強くなり何かが噴き出す感覚と音が聞こえた気がしたが無視した。

 今は目の前にご馳走がある。それだけ分かれば後は全て捨てる。

 ほんの一瞬でいい、それだでクレマンティーヌは前に進める。

 尻を突き上げたまま上半身を地面に向かって倒し、片手を地面につける姿勢を取る。

 それは四足歩行の獣が得物を襲い掛かるような体勢。柔軟な肉体がなせる業(わざ)。

 〈疾風走破〉、〈超回避〉、〈能力向上〉と続けざまに武技を発動させた。と、同時に感覚も更に強くなり、失禁並みに噴き出すが気にすることはやめている。

 〈能力超向上〉の武技で最早ただのメスの獣と化す。

 この武技の連続使用は必殺の手段。確実に得物を仕留める時に使う最上の切り札とも言える。

 頬は高潮し、交尾を待つだけの恐ろしき発情した獣。

 顔の笑みも限界までにやける。

 〈流水加速〉の武技で更にダメ押し。

 脳内が一瞬で快感に満たされる。が、意識は驚くほど鮮明になる。

 数多の敵を屠(ほふ)ってきた自身の鍛え上げた肉体が生み出す爆発力で疾走する。

 スティレットという刺突武器のみに特化した戦法の真骨頂(しんこっちょう)ともいうべきもの。

 相手の攻撃を掻い潜り、顔の急所を的確に狙う。

 反撃は〈不落要塞〉で対処する。

 これで突破できない事は無い。信じて疑わず、針よりもなお鋭い突き。あらゆる軌道変更にすら対応する柔軟性も持ち合わせている。

 目は大きく見開かれている。

 そして、クレマンティーヌは見た。

 勝利する自分の姿を。

 

 いや、それは幻だったことが数瞬で明らかになってしまった。

 突き出した腕が相手に届く前に切り裂かれていく。刃物が素通りするように通っていく。いや、通った。

 武技を発動しているとはいえ手甲とガントレットに包まれているのだ。そう簡単に刃は通らない、筈だった。

 それは視界の外。意識の外とも言える所から飛んできた『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』が防具の無い部分を狙ってきたためだ。

 目の前の相手に集中するためとはいえ開けた視界にも死角はある。目は相手の持つ武器に使用。残りの『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』が無くなっている事に気付いたのは腕が断たれた時だった。

 いくら〈不落要塞〉の武技とて肉体で受けきるには限界がある。

 相手の武器は二本ではない、六本だ。

 上と下から挟み込み断ち斬ったのだろう。綺麗な腕の断面すら確認できた。

 ならば次はどこを狙われるのか。もう片方の腕だろう。

 気がつけば既にもう片方の腕も宙を舞っているのに気がつく。とても静かな斬撃だった。

 斬られた事すら気がつかないほどの静寂。痛みは快感が勝っていたのか感じなかった。

 だが、勢いのついた身体は止められない。

 死ぬ。殺される。

 次は足か首。または肌の露出している胸への滅多刺し。

 〈流水加速〉で自分がどのように死ぬのか、ゆっくりと見ることになってしまう。

 前を見ると相手がクレマンティーヌの首を刈り取る体勢に入っているのか見えた。

 見えてしまった。自分の死に様を。

 左右から首を刈り取ろうとする敵に自ら撥ねてください、と言わんばかりに飛び込んでいく。

 両手に持つ剣が襲い掛かってくる時、目の前が真っ白になった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 それからしばらくして我に返るクレマンティーヌ。

 どれくらい意識が無かったのだろうか。いつ気絶したのかは分からない。

 死んだ筈だと思っていたが生きているようだ。顔を覆うとしたが腕が無い。二本とも。痛みは後からやってきた。だが、何故だか安心した。

「……殺さなかったんだ……」

 搾(しぼ)り出すように呟いた。

「……捨テル命ナラバ貰ッテイク。……文句ガアルナラバ聞イテオコウ」

 地面に仰向けになっているクレマンティーヌはすっかり夜の更けた墓地から空を見上げる。

 死線を潜り抜けた先に幸せはないと思っていたが、意外と楽しかった。

 全身から力も抜けて股間が濡れている事だけが少し恥ずかしいとさえ思った。

 腕が無いから起きにくいけれど、これはまあ自業自得だと思えば気にならない。

「あはは……。世の中にはすっごい人が居るんだねー。私はまだまだってことかー。悔しいなー。本当に悔しい」

 もっと強くなりたいと思った。

 手数ももっと増やさなければいけないと思った。

 だが、自分はここで死ぬのかもしれない。それはそれで運命なんだから、と言えたらよかったのかなと疑問に思う。

 ここで終わってもいいと思えない。

「腕が無くてもいいの?」

「……ソレクライ治シテヤロウ」

「……なら、アンリちゃんに従う。というか、負けた人は勝った人に従わないとね。……それで蒼の薔薇ってどこに居るの?」

 クレマンティーヌに蒼の薔薇の居場所を伝え、死の宝珠と叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)を回収した。

「……良キ戦イデアッタ。ソナタハ立派ナ戦士ダ」

 クレマンティーヌは狂戦士で性格破綻者かもしれない。しかし、今の戦闘は戦士として誰にも侮辱できない正々堂々とした掛け値なしの真剣勝負。

 急所を狙うのは武器の特性として何も間違っていない。

 真っ向勝負以外の何ものでもない。それがたとえスティレットに魔法的な細工がされていようとも。きっと勝負は変わらなかっただろう。

 それはクレマンティーヌ自身がそう思っているからだ。それでも負けていただろうと。

 小細工で勝てるような相手ではない事を認めてしまった。

「えへへ。ありがと」

 クレマンティーヌは素直に礼を受け取った。

 アンリマンユの魔法により腕は再生されたが少しの間、クレマンティーヌは仰向けのまま夜空を眺めた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)とクレマンティーヌの戦いを終えて門のある場所まで戻る間、現れたアンデッドはしっかりと片付けた。

 最初に見た時よりもおぞましい姿になってきたラキュースの亡霊を見た兵士達は恐怖におののいた。

 『飛行(フライ)』で門の上の見張り台に降り立つ。ボタボタと落ちる血が恐怖を増大させる。

 槍を向けつつ警戒はしているが攻撃はしたくなかった。

 全身が血まみれと言っていいほどの惨状。何と戦っていたのか怖くて誰も声をかけられない。

 通り過ぎる時に兵士達は見た。

 ラキュースの亡霊の仮面と肌が焼け爛(ただ)れているのを。

 その後は何事も無く街の方へと静かに去っていった。

 翌朝になると墓地での噂が出始める。

 死刑になった蒼の薔薇のリーダーが亡霊となりアンデッドを駆逐(くちく)したことなど。

 宿屋で一夜を明かしたヤントラは宿屋兼食事どころで朝食を食べつつ、次の目的地についてぼんやりと考えた。

 戦争の決戦地『カッツェ平野』に行く予定ではあるが、やはり冒険者になった方が良いのだろうか。

 勝手にモンスターを倒すのも悪い気がしてきた。それでも倒したいモンスター。

 モンスターというかエネミーだが。

 多少は決戦地を見るのも悪くは無いかな、と思えてきた。

 旅の支度をしてさっさと行ってこよう。文句を言われる前に。

 出入りは検問を受けないと怪しまれる。とはいえ、随分と慣れたものだ。

 普通は他の街に行く時は余程の短距離でもない限りは馬車や乗馬で移動するのが一般的でと言われている。

 今は戦争が控えている。いつも以上に緊張感のある雰囲気が周りに広がっている。

 徒歩での移動自体は何も問題は無く、咎(とが)められるようなことはない。

 いつもよりかは長くかかってしまったがエ・ランテルの外に出た後は自由だ。

 カルネ村に行くもよし。トブの大森林に行くも良し。カッツェ平野を通って新たな街に行くもよしだ。

 ここからでも既にカッツェ平野は見えている。それくらい近い場所にある。ただ、広さは分からないが戦場になるくらいだから広いのだろう。

 『飛行(フライ)』を使って空中散歩。

 もちろん、人の目が無い事を確認はした。

 見られても別に構わない気もするが、騒ぎは小さいほうがいい。

 第三位階の魔法だから使う人間は少ないのだろうが、使えるのだから仕方ない。スクロールでも発動は出来る。

 町の中で即死魔法で遊ぶわけでもないし。

 探知に関しては無視する。こそこそするのは市民だけでたくさんだ。

 MPが心許ないとはいえ低位階の魔法なら三百発くらいは放てる。

 一般的なレベル百の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は第一位階を普通なら千発ほど。それと比べてのものだ。

 MPの回復はほぼ自然回復のみ。数時間はかかる。

 一日寝たら満タンになる。

 第十位階ならヤントラは単純に三十発となる。物量戦になればすぐMPが枯渇してしまうだろう。

 少ない回数でどれだけの敵を屠(ほふ)れるかが勝利の鍵となる。

 アンデッドの出現頻度の多いカッツェ平野に降り立つ。

 赤茶けた平原とは名ばかりの死者が徘徊(はいかい)するのに相応しい雰囲気をかもし出している。

 この平野には霧(きり)のようなもやが広がっていて、昼でも薄暗く感じる。

 周りでは既に戦闘準備をしている人間達が動いていた。

 戦争も形式的に行われる行事の一つで互いに宣誓(せんせい)してから始められるとか。

 そんなことするくらいなら首脳会談とかで解決すればいい気はするが、そういうシステムはまだ無いらしい。

 市民を犠牲にしなければならない戦いというのも変だなと思う。

 街に攻め入って占領するのが一般的なのだろうか。

 アンデッドが出るという割には足元にたくさんの人骨が散らばっているようなことはない。

 奥まで行かないといけないのかもしれないが、見えている範囲では普通の平野にしか見えない。

 とりあえず、物陰でも行って装備を新調しなければ。

 見晴らしのいい場所なので緑系の色で行こうかな。

 砂漠ならカーキ色。雪山なら白か水色。森は新緑。

 保護色は基本だが、土色もある。

 ボス戦は多少派手なものにするかもしれない。赤とか青。黄色。白銀。

 金色はオリハルコンで代用するので、無理して金色にはしない。派手すぎるけど。

 装備を整えて、いざ冒険の旅だ。

 さすがに帝国の兵士には襲われないと思うが、その時はその時理論で考えよう。

 アンデッドに対して軽装鎧は少し心持無い。全身鎧(フルプレート)は余程の厄介なアンデッドでも出ない限りは目立つ事この上ない。

 また冒険者とかに出会いそうだ。

 多少の大物でも出て来ないかなと歩き続ける。

 人影が少なくなる頃に剣戟(けんげき)の音が聞こえてくる。

 多くの冒険者はアンデッド討伐の依頼でカッツェ平野に訪れる事が多いので、戦闘は珍しくない。

 適度に倒しているせいか、弱い骸骨(スケルトン)や動死体(ゾンビ)の姿を遠くで見かけた。

 何所から出てくるのかは謎。ここに埋められた兵士や市民たちではないかと言われてはいるが調査は遅々(ちち)として進んでいない。

 強いアンデッドが出るためだとか。

 一応、腰に実体用と非実体用のブロードソードを携帯。

 いかにも冒険者らしく。プレートは無いけど。

 打ち漏らしや厄介なモンスターが現れたら助けてやろう。モンスターが即死魔法を使うような奴でもないかぎりは。

 

 一時間ほど進んだ結果。骸骨(スケルトン)と動死体(ゾンビ)が十体ずつ。

 武器が少し立派な骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)。

 骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)。

 ちょっと厄介な百足状の骸骨(スケルトン・センチュピート)。

 骸骨(スケルトン)ばかり。新鮮な死体ではないから仕方が無い。

 『悪霊犬(バーゲスト)』というモンスターもちらほら見かけた。身体に鎖が巻きついた犬だが、割りと凶暴。

 まばらに出てくるので脅威というほどのことはなかった。

 悪魔や吸血鬼の類いは居ないようだ。

 女淫魔(サキュバス)でも居れば捕まえたいところだが。

 アンデッドばかり見て来たせいか、他のモンスターも見たい。

 人馬(ケンタウロス)、有翼人(ハルピュイア)、人蛇(ラミア)に単眼巨人(サイクロプス)。

 海には人魚男(マーマン)とか魔獣の子(スキュラ)とか居るのかな。まだ海まで行ったことないけど。

 そういえば召喚で呼び出す中で厄介なのがいくつか居たな。

 三頭の地獄の番犬(ケルベロス)とか。

 魔獣では大地の狼(フェンリル)。この辺りになると苦戦してくるが、この平野には居ないだろう。

 一人で歩いているせいか、モンスターから寄ってくるので楽ではある。

 硬いアンデッドが多いから殴打武器に変えようかな。

 手ごろなメイスに変えて散策を再開。

 ガッツンガッツン殴り殺す様は残酷な気もするが仕方ない。

 しばらく進むと兵士の姿が見えてきた。

 王国とは雰囲気や装備品などが違うようなのでバハルス帝国まで来たのかもしれない。

 平野自体は広大なので別方向に行けばまだ何か出てくるかもしれない。

「おい、待て!」

 引き返そうとするものを呼び止める。それは帝国にとって命取りだろう。

 すぐさま数人の兵士達が集まってくる。

 武器を向けてくるもの。戦争間近とはいえ物々しい。

「王国の者か?」

「……ん……まあそうなるかな。ここまで来てはいけないとは聞いていないが」

「冒険者……にしてはプレートが無いな」

「趣味でモンスター退治しているだけです」

 言っている間に取り囲まれた。見事に厄介ごとに首を突っ込むはめになってしまった。

 平和的に話し合いで済めばいいのだが。たぶん無理そうな予感がする。

 そういえば帝国の兵士達を殺したっけ、という事を今更ながら思い出す。

 逃げられないな、きっと。

 村人を殺戮するような人種に情けは掛けないけれど。

 メイスをやめて対人装備に移行。その作業はとても慣れたもので十秒もあれば装備の入れ替えは終了する。

 モンスターから人狩りへ。

 で、最初に死にたい奴はだれだ、などと言ってみたくなったが今は大人しくしておこう。

 うっかり発言が多いのは自覚している。

 怪しい奴め、と言ってくれた方が楽かもしれない。

 こんなところに来る奴は殆どが怪しい人しか居ないと思うのだが。

 〈生命感知(ディテクト・ライフ)〉

 およそ四十名。ただし、見た感じなのでかなり大雑把。

「こいつ! 魔法詠唱者(マジック・キャスター)か!?」

 こんな魔法で大騒ぎされても困る。

 モンスターじゃなくても寄ってくるとは。これはソロプレイヤーの宿命なのだろうか。

 またミスリルを持っているというだけで騒ぎ出すんじゃないだろうか、とヤントラは不機嫌な顔で思った。

 兵士が二百人くらいなら問題なく対処できるが身動きが取れない。

 空にも敵が居る。

 鷲獅子(グリフォン)なのか鷲馬(ヒポグリフ)なのかは分からないが、兵士が騎乗しているのはすぐに分かった。

 

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