※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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C-11 レイナースが現れた

 ざっと兵士達の装備品を見回す。

 防具は王国の兵士よりランクは上だがアダマンタイト製というわけではなさそうだ。

 よくてミスリル。それ以外は鋼か何かだろう。

 国による正式な鎧の差異はヤントラには分からなかったので、カルネ村を襲った連中と一緒なのかは判断できなかった。

 武器も槍と剣と弓。変わったものは見当たらない。

「武器を置いて地面に伏せろ!」

「お断りします」

 ヤントラは胸を張って言った。もう少し強く言い放っても良かったが、余計な労力が増えそうなのでやめた。

「〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉、〈下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)〉」

 攻撃魔法ではないので文句を言われる前に使っておこう。

「多少、戦力を削ったところで意味は無いか……」

 一万人くらいは倒さないと本当はいけないんだろうな。

 帝国に行く必要も無いか。戦争が終わってから考えればいいことだし。などと色々と考え込んだ。

 『飛行(フライ)』で逃げてもいいのだが、上空の敵勢力が襲ってくるだろうし、穏便に済ませるにはどうすればよいだろうか。

 穏便に済ませる必要も本当はないかもしれないが。

「捕縛しろ!」

 一斉に飛び掛る。

 実に愚かな選択をしたものだ。

 ヤントラは十人近い兵士達に押し潰されるように身体を押さえつけられた。

「……これで正当防衛が成立したな」

「やめろ! 何をやっている!」

 力を込める前に誰かが叫んだ。

「怪しい奴が居たので捕縛して尋問に掛けようと」

「何人だ?」

「一人でございます」

「一人にこんなに……。帝国の名を汚す気か!」

 声の質からは兵士たちより上位の存在だろう。見えないけれど。

「……だがまあ、モンスターに襲われたのなら……仕方が無いな」

「は、はっ!」

「……お待ちを! この者は魔法詠唱者(マジック・キャスター)でございます! 既にいくつか魔法を使われているので……。迂闊に手出しは……」

 そう言うと上位の者が驚きの声を上げた。

「戦士で魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと!? 何かの間違いではないのか?」

「れっさーすとれんぐす、とか言っておりました」

「冒険者なのか!?」

「プレートはありません」

 何やら込み入った事態になりつつあるようだ。正直、上の人間にはどいてもらいたかった。

 一つ一つに驚かれると話しの進みが遅くなる。

 もっと効率的に報告したまえよ。と、ヤントラは面倒くさくなってきた。

 帝国には魔法についての学院などがあり、魔法文化はわりと優遇されていると聞いている。

 だからとてヤントラには興味が持てるほどの情報は集まっていない。

「なにをしているか!」

 兵士達の後方から新たな声が轟く。

 先ほどのものよりも威圧的でしっかりと響いてくる力強さをヤントラは感じた。

「ロックブルズ殿!?」

「賊(ぞく)か?」

 それぞれ片膝をつく姿勢を取り、責任者と思しきものが説明する。

 帝国四騎士の一人で『重爆』の二つ名を持つ『レイナース・ロックブルズ』は四人の中の紅一点である。

 片方の目を隠すような薄い金色の髪に深い青の瞳。

「ただの冒険者……でもないか……。大勢で取り押さえるほどのことか」

「いやしかし……。魔法詠唱者(マジック・キャスター)であれば……」

「ふん。よい、離れよ。さっさとしろ!」

 怒号一つでヤントラの身は軽くなった。

「……女……? 装備から優男(やさおとこ)か……」

「まだ何か用ですか? あと立っていいんですね?」

「ああ」

 ヤントラはゆっくりと立ち上がる。そして、目の前の騎士を見据える。

 無表情に近い女性。装備は他の物よりも立派なのでロックブルズという者なのは理解した。

「武器……モンスターでも退治していたのか?」

「趣味みたいなものです。ここまで来たら捕まった、という次第です」

 周りの兵士達はヤントラから距離を置きつつも武器は向けたまま待機していた。しかし、レイナースはヤントラを見つめるだけで武器は抜かない。

 ヤントラの胸についていた徽章(きしょう)に目を向ける。

「……それは……アインドラ家の紋章か……? いやまさか……」

 兵士達が口々に『アインドラ』と騒ぎ始めた。

 自分の家名ともなったものがどこまで有名なのか、正直に言えば分からない。

 殆どの有名どころも知らないわけだが、ガゼフ・ストロノーフの有名さから過剰な味付けが加わっているような気もする。

 アダマンタイト級もピンからキリまでのように色々とあるはずなのだが、一緒くたにされて強いのか弱いのかがヤントラには理解できなかった。

「そのアインドラ家……、当主様なのかな?」

「……まあそんな感じです。一人貴族みたいなものですね」

 喋るたびに驚かれている気がする。とはいえ、驚いているのは後ろの兵士達だけだったが。

「……ほう……、そのわりには貴族らしくは見えないが……。平民出の私にはどうでもいいがな」

 無表情のままヤントラの頭から足元までレイナースは眺めた。

 自分の知るアインドラ家はアダマンタイト級の冒険者にして女性のイメージが強かった。

 目の前の存在は少なくとも女顔ではあるが男性だ。

 カッツェ平野に一人でここまで軽装で来たのだ。単なる優男というのはありえないだろう。

 伏兵の存在は見た感じでは居ないようだが、何者なのだろうか、という疑問をレイナースは抱いた。

 そう、単独で軽装で居ること事態、おかしい。

「……そうとう腕がたつ御仁なのかな? いやはや兵士が無駄に犠牲にならずに済んだのかもしれない」

 そうレイナースが言うと兵士達にどよめきが起こる。

 たった一人でここまで来た事実に気付いたからだ。

「今は戦争の準備中だ。特に用が無ければご帰還を願えると嬉しいのだが……。戦場で会いたいものだ」

「志願兵ではないが……、こんな茶番に付き合う気は無い。帝国側の一方的な虐殺……。それで決着は突く」

 ヤントラの言葉にレイナースは呻く。

 

 今回の戦争は例年通りの行事のように終わると思っているからだ。

 戦力的に敗北はしない。ただ適度に王国軍を蹴散らして終わり。

 それを一方的な虐殺と捉えるのは特に不思議ではない。

 相手の戦力は市民を徴兵した程度の部隊であるのは分かっていることだから。

「そなたの言うとおりだ。だが、それが戦争だ。我々は命令を遂行するだけだ」

 相手が平民だろうと命令を受ければ戦うだけだ。

「だが、分からんぞ。そちらは数十万の兵を用意してくるのだろう?」

「私なら数十人で殲滅できる程度の戦力だ。そちらの犠牲者はそれほど多くは出ないと思うが?」

 数十人で殲滅、と聞いてレイナースは少しだけ唸る。

 確かに帝国の犠牲者は少ないだろう。というよりは自国が勝つ、とか言わないのは何故と思った。

「帝国が相手にするのは皮装備の国民だ。帝国に犠牲が出るほどのことでしょうか?」

「……まあそうだな。こちらは充分に鍛えられた兵士達だ。負ける要素は無いな」

 それでも戦わなければならない。それが自分に与えられた命令だから。

 徴兵された市民という点は多少は心が痛むが、戦場では情けはかけられない。

「ところで……、あなたは偉い人ですか?」

 急に話題が変わったのでレイナースはびっくりした。

 兵士に囲まれているとはいえ、胆が据わった男にレイナースは少しばかり興味を抱く。

「帝国最強の四騎士、と呼ばれてはいるが……」

「それらしいのは聞いたことがありますが……、詳しくは知りません」

 無表情とはいえ苦笑に似た感情を抱くレイナース。

「この兵士達をまとめるぶんには偉いな」

「無駄に戦争せずに済む方法は無いものですかね。話し合いが出来ないから戦争するんでしょうけれど……」

「うむ。それはそれで結構な事だが……。皇帝陛下のご命令ならば従うしかないのが現状だ。そちらは貴族達がけしかけているとお見受けするが?」

「……その貴族を片付けたとしても帝国は止まってくれるのでしょうか?」

「……無理だな。覇道を歩む陛下だ。一度、進めたものは戻さんだろう」

 帝国四騎士と普通に話す謎の優男のことが兵士達の間で気になりだしてきた。

 そんな喧騒にレイナースも気付き、少しだけ思案する。

「そちらが武器を収めるのであれば我が軍でも見ていくかね? 本当に一人ならば、歓迎してやろう」

「ロックブルズ殿! 敵国の人間を招くのですか!?」

「どうせ決着は目に見えて明らか。今更スパイを用意しようが我々の勝利は揺るがない。それとも我が軍はそれほどまで弱いと言うのか?」

「い、いえ……」

 レイナースが見たところ二振りの剣が主武装のようだ。魔法は気になるが数で押せばどうにかなる相手だろう。

 アダマンタイト級でも無い限りは。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ヤントラは親切な帝国騎士に従うことにした。

 無用な争いはモンスター相手だけに向けたいところだった。

 兵士達の監視がついているがヤントラは一切、気にせずレイナースの案内を受けた。

 カッツェ平野に陣取っているバハルス帝国軍の兵士達の駐屯地に案内された。

 ほぼ要塞と化している駐屯地には数多くの軍馬がそろえられ兵士達は武具の手入れに余念が無い。

 見たところ訓練されたものが多く、表情に余裕があるようにも見える。

「現在、第八軍まである内の三つが合流している。じきに残りも集まるだろう。総勢は五万以上。……圧倒的かな?」

「……う~ん。無駄に多い兵士の食料がもったいない」

「ほう? これでも多いか。だが、相手は十万を超えると聞いているぞ」

「十万のでくの坊です。戦い方の知らない農民が多く駆り出されているのだから訓練したところで……」

 恐れているのではなく、冷静に分析しているのだとレイナースは少し感心した。

 確かに兵士達は日頃から訓練している。徴兵された兵士に負けるはずがない。

 毎年のようにこれだけの兵士に王国側は国力というか臣民の命を削られている。

 数で押し切る方法を取る限り勝ち目以前に色んなものを失うだろう。

 そしてそれを帝国側は楽しんでいる。

 弱い者を蹂躙している。

 ヤントラはアインズとは違う。

 ナザリックの為なら手段は選ばない、そんな人間ではない。

 ただ純粋に弱きものの為に武器を振るう。それが悪と呼ばれることになろうとも。

 だからこそアインズと敵対することもいとわない。

「これが戦争だと割り切れれば済むのかもれしないが……」

 レイナースは側に居るヤントラから殺気が噴出してくるのを感じた。

「こちらの兵も我らの大切な国民。あまり暴れてはくれるなよ」

 同じ国民ではあるが互いに殺し合いをさせている。

 帝国側は少し相手の気持ちを考えておくべきなのかもしれない。農民の徴兵ももちろんレイナースは知っている。

「全員の手足を一本ずつ落せば平和的に解決しますかね?」

 恐ろしい言葉が聞こえたがレイナースは冷静で居られた。そして、もしそうなった場合の事を頭に浮かべてみる。

 自国の労働力に多大な影響が出る。彼らの生活を保障する金額が跳ね上がる。

「莫大(ばくだい)な損失になるのは確かだ」

「……うん。ちょっと酷かった。骨折程度にしておこう。総戦力全てを片付けるのは……」

 冗談なのか本気なのか。

 仮に本気だとすると恐ろしいことだが、仮定としては面白い発想だ。

 平和的に戦争が無くなるかもしれない。お互いに得るものは無いだろうが。

「私が冒険者なら多少は名声が得られるんだろうが……。無意味な労働に終わりそうだな」

 兵士達を眺めてどう倒すか算段している辺り本気かもしれないとレイナースは思った。

「冒険者であったなら規則違反として処罰されるだろう」

「おや? そうでしたか。これは失礼しました」

 本気で一人で帝国の兵士を倒す気で居るのだろうかと。

 アインドラ家の当主。それは『あの』アダマンタイト級の冒険者の名前と同じ。

 自分が知るアインドラは女性。魔剣使い。

 目の前の者とは違う気がする。

 そうだとしてもこちらには八人の将軍と帝国最強の四騎士。更には主席魔法使いが控えている。

 仮に本気だとしても取り押さえるだけの人員は居る。先ほど見えた限りでは恐れるほどのこともないかもしれない。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)だとしても魔力系、信仰系と様々だ。帝国主席魔法使いのような第六位階でも使えるほどならば脅威だろうが。

 得物は剣。戦士系。単独行動のところから見て悪くてアサシンくらいの力量があるかもしれない。

 

 レイナースは落ち着いてヤントラを分析した。

 伏兵の存在は秘密裏に調べさせたが、今のところ報告としては発見できない、となっている。

 本当に一人でここまで来たのなら侮れないが帝国最強の『重爆』の騎士たる自分に止められない事はないはずだ。

「ほ、報告します!」

 兵士の一人が息急ききって報告にやってきた。その顔には驚愕が浮かんでいた。

「どうした」

「巨大な! アンデッドが出現したらしいと他の部下からの報告がありました」

「どんなアンデッドだ。落ち着いて正確に答えよ」

 レイナースは慌てずに部下に命令する。

「竜(ドラゴン)……。恐らくは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)かと思われます!」

 モンスター名を聞いて近くに居た兵士達にどよめきが走る。

 最強クラスのアンデッドであり、バハルス帝国でも撤退を余儀なくされるほどのモンスター。

 オリハルコン級以上の冒険者でも無ければ対応できないと言われている。

「それは本当なのか!」

「骨で出来た爬虫類じみた姿だと言っておりました!」

 危険度が高いせいか、それぞれ声が大きくなっていた。

「ちなみに……、そのモンスターは一体ですか?」

 ヤントラは報告に来た兵士に尋ねた。一瞬、誰だこいつ、という顔を兵士は見せる。

「二……三体かと。複数体がこちらの方に……」

 複数と聞いてレイナースは顔を押さえた。それは自分の表情を誰にも見せたくない行動なのだろう。

「帝国の兵士でも怖がるモンスターですか?」

「そ、それはそうだろう。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は優秀な冒険者にしか対応出来ない凶暴なアンデッドだと聞いている」

「とにかく、兵士達に伝達! 一時後退せよ!」

 素早い判断を決断し、レイナースは指示を飛ばした。

「……ならそのモンスターは私が相手をしてもいいですか? どこから来るのか、教えてくれないか?」

「はっ? 何言ってんだ! 冒険者でもないのだろう」

 プレートが見当たらないし、軽装で武器は二本の剣。

 頭がおかしいとしか言いようが無いと兵士は思い、睨みつけるように言った。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)はバハルス帝国の中では最強クラスのアンデッドという認識がある。

 強力な魔法耐性を持ち、斬撃と刺突武器の耐性もあるので兵士達には歯が立たない。

 殴打武器が有効とはいえ近づくのは無謀。長い手と尻尾が暴風のように襲ってくる。

 身体は硬く人骨の集合体で出来ている。

「冒険者にならないと何言ってもダメか……。帰ったら考えようかな……」

「相手にすると言うけど……、本気なの?」

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の名前を聞いても平然としているようだが、そのアンデッドのことを普通の骸骨(スケルトン)と勘違いしているのだろうか、とレイナースは首を傾げながら思った。

「粉々には出来るでしょう。所詮は骨。硬いのもいるかもしれないけど……、……問題はどうやって滅ぼすか……。後の始末が出来る人が居るなら任せますけど……」

「あんた、そこらの骸骨(スケルトン)とは違うんだぞ!」

 暢気なヤントラに兵士は怒りをぶつける。

 一口に滅ぼすといっても魔法耐性を持つ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を浄化できる可能性が高いのは帝国主席魔法使いくらいしか思い浮かばない。

「三体同時か……。まあ同士討ちを警戒してくれれば問題ないか……」

 ヤントラが暢気に戦略を練っていると別の兵士からも報告があがる。

 敵骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は三体。

「とにかく、避難だ! 場合によっては撤退する!」

 レイナースの命令が飛ぶ。しかし、ヤントラは兵士の一人を捕まえる。

「……その前に何所から来るか聞いてないけど……」

「南東方面からだ」

 それを聞いてヤントラは兵士を放す。

「その三体を倒したら戦争回避の手段でも考えておいてくれ。無駄な犠牲は少ないほうがいい。私は……、弱い者の味方でいたいのでね」

 そう言ってヤントラは報告にあった場所に歩き出す。

「一人で倒す気か!?」

「いつも一人で倒してきたけど。気になるなら手伝ってくれますか? 邪魔したら殺しますけど」

 顔は笑っているが放つ殺気は恐ろしいものだった。

 兵士は言い返せなかった。言葉が何故か出てこなかった。

 暢気に歩き始めたヤントラが気になったのかレイナースが離れた位置から追ってきた。更に後方には部下と思われる数人が馬を引き連れて歩いてくる。

「もうちょっと離れたほうが狙われないと思いますから。それと助けに行けないと思うので逃走の準備は整えておいてください」

 そうヤントラは言った。

「言われなくても」

 レイナースは興味があった。

 アインドラの名を持つ不可思議な人間に。

 ここまで一人で軽装できた謎も解ける。

 口だけの愚か者なのか、伏兵の存在も明らかになるだろう。

 

 地響きが聞こえてきた。相当巨大なモンスターが居るのだろう。

 ヤントラは素早く防具を整える。

 無防備で戦えるのは小型のモンスターくらいだ。音からいって攻撃を喰らわないとも限らない。

「あんな鎧、持ってたか?」

 遠くから見ていた兵士が首を傾げていた。

 防具に身を包むヤントラ。普通の剣を持っていたはずなのに長くて白い斧が現れた。

「……マジックアイテム……」

 軽装の理由をレイナースは理解した。

 帝国兵士を全員相手に出来るアイテムも持っているかもしれない。それは悪寒を感じるに足る恐怖。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)数体を一人で相手にする人間。それは異常事態だ。

 準備が終わったヤントラは少しだけ重装備になった程度だ。

 全身鎧(フルプレート)でもなく身軽さを重視している。盾は装備していない。白い斧。バルディッシュ一本のみで戦う気だ。

 〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉、〈下級敏捷性増大(レッサー・デクスタリティ)〉、〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉

 次々と魔法を唱える。

 そして、魔法の詠唱が終わるのを合図に地響きと共にモンスターが姿を現す。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)二体と空中から降りて来る一体。更に後方にも一体居るようだ。

 現段階では四体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が確認出来た。

 兵士達がおののいている最中、レイナースとヤントラは冷静だった。

 確かに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は巨大なアンデッドだが密になって攻撃できるほど器用ではない。互いに身体がぶつかるから。

 対するヤントラは身体の小さい標的。複数で襲うには厄介な存在かもしれない。

「大きい雑魚モンスターも複数居ると壮観だな。まだ居ないのか? 二十体くらいまでなら余裕で相手してやるぞ」

 骨の身体のせいか鳴き声が聞こえない。口を開けて威圧しているようだが。

「そうそう〈早足(クイック・マーチ)〉も。では……」

 上体を少し倒しつつ戦闘態勢を取る。

「……蹂躙を開始んす……」

 割りと気に入っているセリフを言った後で疾走する。転ばないように地面は既に確認済み。

 なぜそんなことをするのか。

 よく躓(つまず)くし、骸骨(スケトルン)が出るかもしれないからだ。

 ヤントラが現在装備しているのは『天召(てんしょう)バルディッシュ』という白い斧。

 正・神聖属性付与で遺産級の代物だ。

 白いがヒヒイロカネ製である。

 ちなみにヤントラの持ち武器のいくつかは自分で名付けたものになっている。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は意外と素早いがヤントラはそれを凌駕する。動きについていけないことはない。

 最初の一体は尻尾で攻撃してきたので、挨拶代わりに尻尾を器用にバルディッシュで下から回すように迎撃する。

 素材がいいのか、大した衝撃は手に伝わらない。

 骨とバルディッシュがぶつかる。普通なら食い込んで終わりだが、筋力が増強されているので構わず断ち斬っていく。

 前足を出してきたら同じく迎撃。あくまで外側から削り取るように確実に部位を減らしていく。

 他の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が兵士達に向かわないように適度に相手を変える。同士討ちを誘いながら確実に。

「すげー……」

「おいおいおい! 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)だぞ! どうしてあんなに簡単に!」

 目撃している兵士達は驚愕していた。

 いくら魔法で強化されているとはいえあれほど簡単に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と戦えるはずがないと驚きの声を上げていた。

 一体目が沈黙するのに十分もかからなかっただろう。

 帝国最強と言われたレイナースも言葉が出なかった。

 ただの人間ではない。未だに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)から攻撃を受けていないのだ。

 かわしている、というよりは来た攻撃はその場で潰している。バルディッシュ一本で。

 身体が大きい骨の竜(スケリトル・ドラゴン)といえども攻撃は激しい。どうして一撃で破壊できる。

 動きを読んでいるとすれば相当な実力者でなければ無理だ。

 アダマンタイト級でもないかぎりは。

「……アインドラ……。その家名は偽りではないかもな」

 レイナースの知るアインドラはアダマンタイト級の『蒼の薔薇』という冒険者集団のリーダーである『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』だ。

 つまり彼は夫なのだろうか。確かに結婚した噂は聞いているし、死刑に処されたことも伝え聞いた。

 だからといって夫だからアダマンタイト級というのはありえない。

 だが、現実にアダマンタイト級に匹敵、または英雄級とも言える戦いが繰り広げられている。

 そんなことを考えている内に二体目も瓦礫の山のように沈黙した。そして、三体目はいきなり身体を削られ、地面に倒れ付している。

 それはまさに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の解体作業の風景だった。

 最強のアンデッドが雑魚モンスターのごとく蹂躙されている。

 残る四体目も既に攻撃を受け、腕がバラバラになっていた。

「……なんだこれは……。なんなんだ」

 レイナースは誰にもはばからず言った。

 

 ヤントラのレベルは現在90である。戦士(ファイター)の職業(クラス)は15。その他盗賊(ローグ)系も加わり、物理攻撃力は割りと高い。

 ナザリック基準で言えばアウラより弱い程度。

 それでも人間種の中では強い方だ。

 物理攻撃は高いが装備品による魔法耐性はそんなに高くない。

 肉体的にも脆弱。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の攻撃を受ければ骨折くらいはするかもしれない。

 同レベルのプレイヤーがチームで襲ってきた場合は苦戦するだろう。

 弱点を補う仲間が居ないのがヤントラの致命的な弱点かもしれない。

 ナザリック基準で言えば骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は雑魚モンスターに入る。

 魔法耐性を利用するくらいしか価値は無い。

 ヤントラにはアンデッドを活用する気が無いので不勉強なだけだ。

 四体を解体するのに三十分。

 辺りは人骨の山。

 頭部の部分は徹底的に粉々にしている最中だが、戦闘は終わった。

 兵士達からの歓声は無かった。ただただ目の前で起こったことが信じられなかった。

「もう出て来ないのか……。これ以上の巨大モンスターは……さすがに居ないか……。あっと、終わりました」

「……ああ。ご苦労様……」

 力なくレイナースは言った。

 細かく砕けば魔法も効果があるか試したが特に何も反応を示さなかった。

「……また復活されても困るし……、どうしよう……」

「骨をみんなで細かく砕け! 後は丁重に弔えばしばらくは大丈夫だろう!」

 レイナースの命令に兵士達は一斉に動いた。

「お見事だ。……名を聞いていなかったな。私はレイナース・ロックブルズ」

「ヤントラです」

「……できれば下の名前まで知りたいな」

 それは完全に興味本位だった。拒否されても仕方がないと判断する。

「一人貴族なので大層な者ではありませんが……。ヤントラ・サルヴァスパ・デイル・アインドラ。あまり有名ではないので申し訳ない」

「蒼の薔薇とはどのようなご関係なのですか? これも興味からだが」

「知り合いです。今も自宅で留守番をしてもらっているので、そろそろ帰らないといけないかもしれない」

 それだけで充分だとレイナースは思った。ただし、それは個人的な話しだ。

「それだけの実力者。なおかつ帝国の兵士を救ってくれた礼はしたい。アインドラ……、すまない敬称に詳しくは無いのだが……」

「私も詳しくはありませんよ。ヤントラで結構です」

「そうはいかないんだ。アインドラの方で呼ばなければ……、私の立場上、色々とね」

 レイナースは両手を合わせる仕草で頼んできた。

「……仕方ないですね。領地も無いんで偉そうなことは言えませんが……。アインドラ卿、というのが一般的だとか」

「……ああ、そちらでは色々とあったそうだね。……いや、我がままを聞いてくださり感謝する。皇帝陛下に報告しようと思う。……おそらくアインドラ卿もいずれは会う気でいたのだろう?」

 何かあってもあの実力なら他の四騎士、八人の将軍が居ても切り抜けてくれそうだと思った。

 なにしろ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を目の前で四体も屠って見せたのだ。実力を疑うことは出来ない。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の残骸は部下に任せ、駐屯地へと戻ると兵士達が撤退の準備を進めていた。

 問題のアンデッドは駆逐されたので撤退は中止し、戦争の準備を再開された。

 ヤントラも特に何も言わなかった。それは受けた命令に従うのが帝国の騎士として当然だからだ。

「戦争以外にもアンデッド対策に兵士は必要だ」

「愚痴は言いますが、そちらも理由があって行動しているのでしょう? お互いに立場があることくらい承知していますよ」

「ご理解していただき感謝する」

 見た目の不可解さとは違い、愚か者ではないと感じた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ヤントラがバハルス帝国の帝都アーウィンタールに向かって出発する頃、ナザリック地下大墳墓では更なる礼儀作法の特訓をアインズは受けていた。

 王国相手の時は厳しかったが他の国は多少は柔らかくなっていた。

 魔法を七百近く暗記できるアインズにとって基本的な動作は自然と振舞えるようになっていた。

「帝国式、法国式は大体把握した」

『他の国の作法は新たに手に入れなければ分かりません……。ごほっ……。失礼……喉(のど)が嗄(か)れて……』

「よいよい。今日はもう休むが良い」

『は、はい。……うっふ……』

 水を一口飲んだ後で映像は途絶えた。

「一通り学んだとはいえ、それぞれに頭を下げなければならんとは……」

 側に居る守護者達は不満の声を上げた。

 それらはアインズが手で制して黙らせる。

「おそれながら。支配者が頭(こうべ)を垂れるのは侮辱以外の何ものでもありません」

「支配者と言ってもまだ世界を手にしたわけではない。このナザリック地下大墳墓の中だけの支配者だ。外の連中にはうかがい知れない事だから仕方あるまい」

 いずれは頭を下げさせる時が来るのだろう。

 仕返しは格好悪いと思うが、NPC達に無様な姿は見せられない。

「次は帝国側が来る事になっていたのだったな?」

 側に控えているアルベドに尋ねた。

「はい。予定通りならば訪問は明日の昼ごろになるそうです」

「……そう何度も奇跡は起きないと思うが……。外交というのは大変だな」

 それは世界を征服したとしても他人と顔を合わせ、話しをしなければならない。

 命令だけして楽が出来るほど実際は甘くない。

 休息を取ることになったラキュースは第九階層の食事どころで豪勢な料理に囲まれていた。

 大半が数人のメイド達が食べる分である。

「……それだけの量が納まるあなたたちのお腹って凄いわね」

「そうですか? これでも控えめなんですけどね」

「ラキュース様は逆に少食ですよね?」

 ラキュース様、アインドラ様とメイドによって呼び方は様々だ。

「……これが一般的な人間が食べる量だと思うけれど……」

 どう見ても自分の三倍はあるのでは、と思うほどだった。この調子では本当に食料を食い尽くしそうだった。

 メイド達は野に放ってはいけないなと思った。

「今頃、夫は何をしているのかしら? ここから分かるアイテムって無いのかしら?」

「〈千里眼(クレアボヤンス)〉とか使えば分かるかもしれませんが……、どこまで分かるのかは私どもには分かりません」

「定期連絡ではバスパ様は『カッツェ平野』というところに向かわれたそうですよ」

「戦争の決戦地ね。でもまだ戦争は始まっていないから……、アンデッドでも倒しに行ったのかしら?」

 様々なモンスターが出る事は知っているし、自分も討伐に行った事がある。

 悪霊犬(バーゲスト)とか居たな、と思い出す。

「あの人なら骨の竜(スケリトル・ドラゴン)くらい倒せるわね」

「そのモンスターは強いんですか?」

「それなりにね。魔法に耐性を持っているから粉々にしてもいつかは復活してしまう。滅ぼすのが大変だから。あと私の魔剣とは相性が悪い。逆に回復させてしまうかもしれない」

 昔、かっこよく必殺技として闇のエネルギーを止めとして放ったら復活して大変な目にあったっけ、と苦笑しながら思い出した。

 仲間達の協力で粉々にはしたけれど。

「そういえば、訓練の為の武器防具。練習相手をご用意していただけることになりました」

「えっ? 許可が出たの?」

「ラキュース様は魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではありませんよね?」

「信仰系よ」

 そう言うとメイドが安心したように胸を撫で下ろす。

「壁とか施設を破壊しないのであれば必要な物を用意するとアルベド様より仰せつかりました。いきなり高レベルモンスターはきついでしょうからと骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を何体かお貸ししてくださるとの事です」

 身体をならすには丁度良いかもしれないが、今の自分は骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)よりも弱いかもしれない。そんな思いがあった。

 

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