※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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C-13 ジルクニフが現れた

 皇帝の謁見の間には天井に届くほどの高さと広さのある両扉で左右には剣を携帯している重厚な全身鎧(フルプレート)をまとった護衛兵が待機していた。

 王国よりも重厚そうに見た。

「……二度目となると……意外性が薄くなるな」

 そんな呟きはレイナースには届かず、扉は開かれた。

 最初の印象としては煌びやかな装飾品、というイメージは崩された。

 豪華ではあるのだが、落ち着いた雰囲気にまとめられている。

 色彩も実務的。過度な装飾が無い分、皇帝の権力を凝縮したような造りになっていた。

 絨毯は床全面に広がっていて、一応玉座はあるが横に広かった。

 玉座の横にもう一つ小さな玉座があり女性が座っていた。后だろうとヤントラは思った。

 そしてて、左右に控えているのは騎士風の男性達ばかり。

 貴族らしい者が見当たらない。

 目の前の玉座に居るのがバハルス帝国の皇帝『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』だ。

 愁(うれ)いを帯びた顔立ちに短く刈り込まれた金髪。

 着流した服装は皇帝らしくない格好だった。肩肘を突き足は組まれている。

 客人をもてなす気は無いのかもしれない。

「陛下。忙しい中、お目通りを許していただきありがとうございます」

 レイナースは軽く皇帝に一礼した。それから片膝を付く。

「挨拶はいい。報告でだいたいの事は把握した。そちらがアインドラ卿だな?」

「始めまして、皇帝陛下。ヤントラとお呼びください。敬称は気恥ずかしいので」

 ヤントラは一礼だけして立ち尽くす。

「骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を一人で四体も撃破したそうだな」

「それは私めが確認いたしました。それは凄い手並みでございました」

 皇帝の隣りに控える后(きさき)は頬に手を当てて不思議そうにヤントラを眺めた。

 美しき后というわけではなく、何所にでも居そうな街のおばさんのような顔立ちをしている。

 皇帝の側には幾枚ものスクロールが散らばっていて、それが報告書なのだろうとヤントラは推測する。

「本当にまことか『重爆』よ」

「兵士も目撃している」

 横からの質問にぶっきらぼうに言い返すレイナース。

「それで貴様は何を要求したい? 報酬か?」

 無駄な議論はしない。ジルクニフはヤントラにとっては不思議な人に見えた。

 年のころは二十歳過ぎ。鮮血帝と呼ばれている事は聞いていたが貫禄(かんろく)はあるなと思った。

 生まれながらの支配者体質。その行動、言葉に迷いが無い。

「あえて言えば……、戦争の放棄。王国との講和ですかね」

「ありえん!」

 と、別の男性騎士が叫ぶ。

「既に準備は進められている。今更王国と講和だと!?」

「……それは貴様が王国の人間だからか?」

 静かにジルクニフは言った。

「か弱き者を虐(しいた)げるのはやめろ、と言っているだけです。民兵の虐殺がご趣味なのですか?」

 ヤントラは微笑みながら皇帝に言った。

「それが戦争なのだ。勝つためなら手段は選ばん」

「では、文句は無いようですね。この国を滅ぼしても……」

 その言葉に騎士達が剣を抜き放つ。しかし、すぐに皇帝は手で制した。

「楽しい人間だな、貴様は。だが、兵は送る。犠牲は出る」

「話し合いは平行線ですか?」

「そうなるな。……このままでは」

 ジルクニフは玉座から立ち上がった。

「お前の要求を聞こう。こちらも忙しいのでな。村の襲撃のことか?」

 周りがどよめきだす。

 皇帝の話しについていけなかったからだ。

「部下が勝手にやったなどと言おうものなら連帯責任って言おうと考えていたんですが……。愚かな人ではないようで助かります」

「……連帯責任。……それは嫌いな言葉だな。言い訳がしにくくなる。だが、証拠はあるんだろうな」

 そう言うと玉座の前に一つの鎧が投げ出される。それは何所から投げられたものだろうか。

 その鎧は血にまみれていて胸の所には国の紋章が刻まれていた。

 紛うことなきバハルス帝国の紋章だった。

「私は物持ちが良い方ですが死体までは……、用意できません」

 皇帝は僅かに眉根を寄せた。

「貴様がアサシン(暗殺者)か。なるほど。死体は何所だ? 埋めたのか?」

「今頃はナザリックのアンデッドの材料にされているでしょう。村人を虐殺する者に遠慮はしません。それに私も寝込みを襲われたので。きっちりぶち殺してあげました」

 殺気は放たず、丁寧にヤントラは言った。

「アサシン(暗殺者)と言っても暗殺は苦手なので、皇帝陛下をこっそり亡き者にはしません。基本はモンスター退治ですので。敵は殺しますが……。村人を半数も……、他にも襲撃していたようですから情けは無用でしょう」

 ジルクニフは表情は変えないが、手には力が入っていた。

 それは恐れか、怒りか。

「カルネ村に謝罪と賠償。他の村は分かりませんが、同様にされると良いでしょう。貴重な労働力を失ったのですから。そうそう、カルネ村に小鬼(ゴブリン)が居て守っていますが話しは通じますので。野良のモンスターより知能が高いのですぐ分かると思います」

「……検討しておこう」

「ありがどうございます」

「それだけではあるまい。今日は聞くだけ聞いてやろう。それに今の言葉に出たナザリックについても」

 ヤントラは椅子を取り出し、座った。

 ジルクニフは特に指摘はせず、周りには手だけで合図していた。

「支配欲が強いようですが……、王国が嫌いなのですか? 領土は他国以外にもあり、めぼしい宝があるとは思えませんが」

「国というよりは人だな。全ての権力を手に入れたい。その為にはほかの国が邪魔なだけだ。講和に関しては政治の問題だからなんとも言えん」

「私は世界征服が大嫌いなんですが……。冒険が出来なくなると困りますね。それに多くの人間が死にすぎると世の中の回りが遅くなる。つまらなくなる」

「貴様は冒険者ではないのだろう?」

「一度は諦めたけれど改めて始めようかなと……。何しろ冒険者じゃないとモンスター退治も自由に出来ないみたいで。仕事を奪ってしまうから仕方が無いのですけど……」

 ヤントラは苦笑した。

 ジルクニフも彼が嘘を言っているようには聞こえなかった。

「ならば貴様はナザリックのモンスター、たぶん居るのだろうけれどそこには行かないのか?」

 ジルクニフはヤントラがナザリックに出入りしている情報は知っていたがあえて尋ねた。

 ナザリックと思しき場所には数々の調査を行ってはいるが詳細が全く手に入らない。

「あそこは別格です。何もしなければとても大人しい子達ばかりですから。外で、向かってきたら迎撃するだけです」

 モンスターが居るのは確定した。

「アインズ・ウール・ゴウンという魔法詠唱者(マジック・キャスター)はどんな奴だ?」

「私の十年来の敵です」

 と言うと周りがどよめいた。

「意見の合わないケンカ相手、とも言いますか……。……一言で言えば……至上主義者です。私の嫌いなタイプですね」

「ほう。もし、戦うことになれば勝てるか?」

「無理です。同じ質問を受けてきましたが、無理なものは無理。自分の実力はよく分かっています。魔法を三つくらい使われたら死にますね、確実に」

「勝つ方法は無いということか」

「奴個人だけならあるのかもしれませんが……。難しいでしょう。バハルス帝国は魔法詠唱者(マジック・キャスター)に対しては寛大(かんだい)な国と聞きました。王国よりかは話しを聞くかもしれません。ですが、リ・エスティーゼに籍(せき)を置く私には色々と厄介な事態ではありますけどね」

「家があるからか?」

「私が手に入れた拠点でもあります。それに妻の帰る場所も用意しておかないといけませんから。……恩は感じますよ、私も」

「今回の戦争ではエ・ランテルを手に入れる予定だから王都は関係ないだろう。それに冒険者ギルドは帝国にもある」

「私が欲しいのは未知の冒険だ。全てを掌握する者には分からないと思いますが……、知らない土地に行くのは楽しいんですよ。よその文化に触れたりとか。皇帝陛下は国民の幸せを考えなければいけない立場でしょうけれど、国民自体は戦争が無くても交流は出来ます。そもそも戦う理由は無いはずなんですが……」

 王国を占領する理由。

 バハルス帝国にとって必要な事なのか。ヤントラには分からない。

「いやいや、恐れ入ったアインドラ卿とやら。だが、帝国は軍事国家だ。一度始めた事は止められん」

「いや、止められますけど」

「なに?」

 ごく普通に当たり前のことのようにヤントラは言ったのでジルクニフは優越感を阻害されて眉根を寄せた。

 横に座る后は口元を押さえて小さく笑っていた。

「私が悪人になってしまいますが……。戦争は止められます。ただ、来年再開されることになると意味が無いのですけどね。だから困りましたね、話し合いで解決してほしいです」

「どうやって止める気だ」

「兵士全ての両足でも折ればいい。戦争どころではありませんね。多少、ショック死する人が出るかもしれませんけど……」

 暴論かもしれないが戦争は止まるだろう。ただ、それは帝国側だけならば、の話しだ。

 もちろん相手も手足なりを折るのだろう。

「……総勢数万の兵をか? 面白いな」

「面倒くさいからぶった切った方が楽だけど……。穏便な方法としては妥当かと」

 その話しを現実にやりとげられるというのか、この男は。

 確かに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を単身で四体も屠るくらいだ。口先だけではないだろう。しかもアサシン(暗殺者)の技術まで持っているのだ。全員とまではいかなくても帝国側に結構な打撃は与えられるかもしれない。

「王国側は貴族が権力を握っていますから、その貴族を少なくとも三人は倒さなければなりません。兵士同士は極力殺し合いは避けてほしいのですが……」

「それほど民兵が大切とみえる。こちらも兵士は大切にしているが……」

「徴兵された農民たちですから。貴族達の思惑に犠牲になるのは……心が痛みますね」

 平民出の騎士は何度か頷いていた。

「では、アインズ・ウール・ゴウンならばどう戦争を収める?」

「一方的な虐殺。それしかないです」

「……なんだと」

「どちらについても大規模魔法の的がたくさん居て大喜びします。昔は少なくともそうでした。戦争だから人が死ぬのが当たり前。責められる筋合いは無いと思うかもしれません。戦後賠償とか嫌いな言葉に思う奴ですからね。世界征服すれば関係ないとか言うかもしれませんよ」

「それほどの実力があるのか。戦争を終わらせるほどの」

「兵士相手なら一人で充分でしょう。どちらの兵力でも一つの魔法で事足りますね」

「そんなバカな!」

 一人の騎士が叫ぶ。

「たかが魔法詠唱者(マジック・キャスター)一人が数万の敵を殲滅するというのか!」

「数万程度の的です。普通に可能です」

 ごく当たり前にヤントラは言いきった。

 ジルクニフは笑みを作って耐えていた。

「魔法的な防御対策もしていないでしょう。王国側は粗末な装備品だし。動く的でしかない」

「それにしてもそこまでの魔法など……」

「くっははは! それはすごいなアインズ・ウール・ゴウンというのは。それが真実であったなら素晴らしい力だ。アインドラ卿は魔法はどの程度使える?」

「私は戦士系なので魔法はさっぱりです。回復魔法が少し。信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)みたいな感じです」

 それは残念と言う顔をジルクニフはした。

「じいを呼べ」

「いいのですか?」

「構わん」

 即断即決のジルクニフ。一切の無駄を省いたような人間だった。

 騎士の一人が急いで退出していく。

 このシチュエーションを前にも体験したなとヤントラは思った。次は身体を斬られる展開かもしれないと思った。

「既に使者は送ったが……、興味が出て来たぞ。それでナザリックとはどんなところだ」

「上の階層から直接入るのはオススメしません。まずはログハウスに行って下さい。それと色々と身体に悪影響が出るかもしれませんので負属性などの耐性のある装備をした方がいいです。妻はそれで死に掛けましたので」

「そうか。では、装備の用意もしておけ」

 と、騎士に命令を下す。

「私は平気でしたがあなた達にはどういう影響が出るのかは分かりません」

「わかった」

「どんなところと言われても説明が難しい気がしますが、上は敵を迎撃するための危険地帯です。客人をもてなす階層はとても美しいところです。贅(ぜい)の限りを尽くした場所とも言えます。ただ、それは彼らが心血を注いで手に入れたもの。決して侮辱してはいけません。まして金貨に換算など殺されても知りませんからね」

「それは恐ろしいな」

「事前に礼儀作法を教えたお陰で使者の無礼にも耐えるかもしれません。あいつのことだから腹を立てたら道に肉片をばら撒くくらいやってしまいます」

 今の言葉にはさずかの皇帝も唸った。

 相手を怒らせてはいけないらしい。

 怒涛(どとう)の如く注意事項が述べられる。秘匿(ひとく)と言う言葉を知らんのか、と騎士達の間でも不安と驚きが広がっていた。

「特に仲間を侮辱するのは許せない奴です。仲間意識が強いので。それと敵対者の迎撃の準備は何重にも重ねています。徹底的なほどに。請負人(ワーカー)などを送り込めば誰も帰ってきませんから。依頼もせず、送り込みもしない方が安全です」

 皇帝は黙ってしまった。

 それからすぐに扉が開かれて一人の老人が姿を現す。

 

 長く白い髭が足元まで伸び居ていてローブを見にまとうのは帝国主席魔法使いの『フールーダ・パラダイン』だった。

「……じい。請負人(ワーカー)はどうした?」

 開口一番、ジルクニフは尋ねた。

「未(いま)だに戻ってきておりません」

「……ご愁傷様(しゅうしょうさま)です」

 ヤントラは言った。

「全員を始末したなら気分もすっきりしたでしょう。敵対者には容赦しないのがナザリック風ですから」

「……請負人(ワーカー)達の腕は確かだったんだろうな?」

「それはもちろん。オリハルコン級に負けないものを」

「ナザリックは過小評価されているようですが……」

「いや、そんなことはない。あまく見るなと言ってある」

「友好的な者には手厚い歓迎をしますが、敵対者には厳しいところです。そして、そこにある宝の殆どはとても大事にしているんですよ。褒美として与える以外の物は許可を得なければなりません」

「陛下……。この者は?」

「王国に住んでいるアインドラ卿だ。ナザリックに出入りしている、というくらいしか知らないが……」

「王国にも同じ事を言った気がしますが、アインズ・ウール・ゴウンとは昔から親しくしてもらっている者です。正式には仲間ではありませんけれどね」

 騎士達は全員が驚愕した。レイナースは両手で顔を覆っている。后も同じような格好なので女性的な仕草なのだろう。

「別に私は皇帝を殺しに来たわけではありませんよ。か弱い国民の命は助けてあげてください、と言いたかっただけです」

 フールーダがヤントラを見据えると少し驚いた顔になった。

「……まさか第六位階の魔法が使えるのか? その若さで……」

「第五位階までだと思ってたのに……。『大治癒(ヒール)』は第六位階だったか……」

「じいと同じくらいすごいということか?」

「そ、そうなりますかな」

 第六位階どころかそれ以上の位階魔法を使えるかもしれない。しかし、それ以上は分からなかった。

「魔法はあまり詳しくないので……。ご期待には添(そ)えません」

 詳しくないのに第六位階を扱える男。不可思議すぎるだろうという声が騎士達からあがる。

 アインズ・ウール・ゴウンは彼以上の位階魔法を使う事になる。

 先ほどの一つの魔法で数十万の敵を一掃するのも嘘ではないかもしれない、ということになる。

 フールーダは相手がどの程度の位階魔法を使うのか分かる『生まれながらの異能(タレント)』持ちだった。

 そのフールーダが言うのだから間違いは無いのだろう、とジルクニフは苦笑する。

「ぜ、ぜひお話しを……」

 ヤントラの足にすがりつくようにフールーダは駆け寄った。

「魔法については専門家のアインズに尋ねたらいい。無礼さえ働かなければ意外と優しいので。倒すとか言ってたらダメですよ。マジで世界が崩壊しますから」

「……緊張感の無い言葉なので真実味が無いな……」

「明日、直接会えば分かるだろう。……ちなみに探知は出来るのか?」

「反撃を食らいますよ。自動迎撃する魔法があったと思います。変なモンスターを送り込まれるかもしれないので、やめた方がいい」

「帝国が誇(ほこ)る魔法であってもか」

「どの国も自国の利益の為に情報収集する気持ちは分かりますけれどね。支配欲を持つ者の相手は面倒くさい。特に至上主義者ならなおさらだ。仲良く出来たらいいのですが……。難しい問題に私も頭を痛めております」

 レイナースは少なくともヤントラは無闇な殺戮は望んでいないように感じた。

 聞かれた質問にも隠さずに答えている。本来は各国が喉から手が出るほど欲していた情報のはずだ。それをいとも簡単に話している。

 それは王国も同じかもしれない。

「第六位階以上の魔法は伝説とも言われている。もしや第十位階も……」

「私は詳しくないけれど、使えるんじゃないですか? なにがありましたっけね……。『内部爆散(インプロージョン)』かな?」

「口からでまかせかも知れんぞ」

「即死、召喚、攻撃など多岐に渡りますから。信仰系は使えないみたいです。装備品を変えたら使えるとか言ってた気がしますが……」

「強大な力を持つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)……。その力が本物なのか知りたいな」

 皇帝が喜ぶとヤントラにとっては不利になる。

 レイナースは戦争を止める理由がますます出来なくるのではと思った。

 魔法の試し撃ち。それは本当に起こりうる未来のような気がする。

 たった一つの魔法で戦争を終わらせる。それはどんな力でなら可能なのだろうか。

「……魔法のことは王国もご存知なのですよね?」

 レイナースは言った。

「はい」

 いとも簡単にヤントラは答えた。

「アインズは基本的に慎重派です。相手がどのような対策をしてくるのか普段から考え、裏の裏を読み、自らの弱点の研究はかかしません。魔法にしても対処方法は把握していますし、偽装魔法、対抗魔法も数多く扱えます。もちろん仲間達の諜報活動も盛んですし、数多くのマジックアイテムも所有しています。相手の感知を掻い潜るすべも研究しているくらいですよ」

 聞いているうちに、騎士達の顔色が悪くなってきた。

 軽い口調なのにやけに専門的な言葉が並んでいる。それがとても恐ろしい。

 ただ皇帝はそれでも笑う。

 絶対的な強敵だとしても会いたくて仕方が無い。

「……アインズとは人間なのか?」

「化け物ですよ」

 当たり前のようにヤントラは即答した。

「それからアインズ・ウール・ゴウンというのは仲間達の総称なのでバカにしないように。アインズにとっては仲間全てを侮辱することに匹敵しますので。呼び方はアインズでもゴウンでも構いません。あと、スレイン法国とは関係ありません」

 言いなれた説明に王国にも言ったのだろうと察しがついた。

「正しいアインズとの付き合い方みたいになってきましたね。私としてはあんな奴とは一緒になりたくないけど」

「アインドラ卿はアインズという者とは……、その……仲良くないのですか?」

「昔から仲良くないです。主義主張の相違は誰にでもあると思いますが、そんな感じです」

 アインズとの仲の指摘の時だけヤントラの本音が見えてくる気がした。

「皇帝陛下に危害は加えないと思いますが、必要以上に怯えないことです。あと仮面を被ってますが皆が怖がるからです。化け物とか言うから。意外と気配りするんですよ、あいつ」

 親しみ易いのかどうなのか分からなくなってきた。

 自分たちがあまりにも警戒しているせいかもしれない。

「アインドラ卿はナザリックの情報を言って大丈夫なのか?」

「用済みになれば私を様々な方法で殺そうと考える奴ですからね。いまさらそんなことを言われても仕方がありません。その時が来たらどんな方法で殺されるんでしょうね。結構えげつない方法を好みますから」

「我々を巻き込むおつもりではないでしょうな?」

「そんなことはしませんよ。別に名前を出してもらってもいいので。こちらは何も切り札もございません。アインズに直接聞いたっていい」

 こちらに不利益は無いかもしれないが、彼には利益となる材料があるのだろうか。

 戦争にしても止められそうに無い。ナザリックの情報も得てしまった。

 それでも彼は何も利益が無い。

「……陛下。アインドラ卿に何か褒美などは……。なにやら嫌な予感がします」

「だそうだが。村への慰謝料。戦争は……いまさら止められんだろう」

 ヤントラが望む報酬。それは結局のところ皇帝にも分からない。

 事前に様々な事を安全に把握出来ただけでもすごい進歩だろう。これだけの為にどれだけの人材と資金をむだにしたかと思うと頭が痛い。

 

 皇帝は騎士達に次々と命令は下すが隣りの后はヤントラをただ眺めているようだ。

 ヤントラが微笑みかけると頷いてくれた。

「……結局のところ兵士が戦う理由は無く、政治で決着してほしい」

「軍事力の誇示は大国の威信がかかっている」

「個人的には豪華な褒美よりかは帝国の中を色々と見てみたい気もします。魔法の学校とか。奴隷(どれい)の売り買いがあるそうですね? 闘技場とか。興味は尽きませんが……」

「土地や名声、権力も用意できるが……。街の案内で良いなら一人用意してやろう。女でもいいぞ」

「お気遣い無く。それはまたいずれ訪れる時までに考えておきます。家が気になりますから」

 意外と欲が無い事にそれぞれ驚いた。

 報酬目当てに莫大な資金を要求されるのを覚悟していた。

「帰るのであれば軍馬の一頭でも用意するが……」

「いえ。この後、トブの大森林を突っ切って王都に帰ります。珍しいモンスターとか居るかもしれないので」

「そうか。ナザリックについては充分に気をつけよう」

「請負人(ワーカー)ついでに。上から進入するのは無謀です。皇帝陛下はいきなり第十階層あたりに招待されるかもしれませんが、上の階層ほど危険なんです。罠とかいっぱいありますから。第十階層は守護者が睨んで来るくらいで比較的、安全です。あと子供が居ますが、とても強いのであまく見ないでくださいね。私より強いはずです」

 聞けば聞くほどとんでもないところなのは分かった。

 子供がヤントラより強い、というのが全く想像できない。

「それと……、すみません。注意事項ばかりで」

「いや、構わない」

「耐性付与の装備品などは外せ、とか言われないと思うので。しっかり身を固めてください。一人だけ言葉で従わせる奴が居るので。精神操作系の対策は必須です。洗脳はしないと思いますが、それも念のために。もし、お疑いならログハウスで待機しているメイドに装備の事を尋ねてください。たぶん、ユリが出迎えてくれるはずなので聞いてみてはいかがでしょう」

「いやいや。そこまでお気遣いしてくれるとは……。ありがたいが大丈夫だ。身はしっかり守ろう」

 ヤントラは本当に身体の心配をしているらしい事は理解した。

 そこにはふざけた気持ちは入っていないように感じる。

 ナザリックを甘く見ると命の保証は本当に出来ない、ということだろう。

 本来は戦争を止めたり、村の襲撃を責める立場のはずなのに皇帝の身を案じている。

 そこにはどんな意味が込められているのか、それぞれの騎士達は考えていた。

「アインドラ卿は命を大切にしてほしいと、それだけの為におっしゃられているのですか?」

「皇帝だからじゃないですよ。私は冒険がしたいだけです。国を揺るがすようなことになると色々と動きにくい気がして。ナザリックの面々と戦うのはまだ嫌です。数年は各地を回りたいので」

 竜の国やら海上都市にも行ってみたい。ただそれだけだ。

 後は妻と楽しく暮らせたらいいのかもしれないが、それはまだ自分の中では幸せなイメージは出来なかった。

 

 特に報酬らしいものは出なかったが言いたいことが言えただけでヤントラは満足した。

 あと、斬りかかられる事もなかったし。

 皇帝に一礼して退出するヤントラ。レイナースが外まで案内することになった。

 ジルクニフは椅子に座り、隣の后に顔を向ける。

「印象としては?」

「……普通。特に何も感じないわね。モンスターというわけでもないようだし」

「ナザリックの情報をあれだけ普通に言うとは思わなかった。今までの諜報員の犠牲が無駄になってしまった気がするな」

「まだ真実かどうかは……」

「だが、奴は実際にナザリックに入っているのだろう? 疑うだけの理由があるのか?」

 この言葉に誰も反論できなかった。

「直接アインズ・ウール・ゴウンに会えば分かるさ。言われた通りに装備品で身を固めてな。……それで、じい。第六位階の話しはまことか?」

「……はい。あやつは第六位階の魔法を使えるでしょう。……しかし、信じられません」

「じいの生まれながらの異能(タレント)を疑うわけではないが……。確証はほしいな」

「確証と言われましても……。どんな魔法かまでは分かりかねます」

「そうか。直接聞いた方が早いかもしれん。確か、さきほどヒールと言っていたな」

「確かに信仰系の第六位階の魔法に『大治癒(ヒール)』はありますが、大儀式でもない限りは……」

「だが、奴は知っていた。偶然か?」

 見た目の印象からは想像出来ない情報が詰まっているのかもしれない。

 アインズも脅威なのかもしれないが、アインドラ卿とやらも気にしなければならないだうろ。

 レイナースと共に城の外に出たヤントラは大きく伸びをした。

 戦争とは簡単に止めることの出来ない問題だと改めて知った。

「では、お供を一人呼ぼう。私は戦場に戻らねばならないので」

「あの皇帝陛下は案外アインズと相性が合うかもしれませんね。王国の未来は暗そうだ……」

 王国に籍を置く者としては戦争を回避したいのだろう。それでも正直な意見を言う彼は不思議な存在だった。

 街の道案内を用意した後、レイナースは一礼して戦場に戻っていった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アーウィンタールはリ・エスティーゼに劣らない活気のある街だった。

 エ・ランテルのような巨大な墓地は無いようだが、貴族の家や商店街が充実しているらしい。

 王都では禁止されている奴隷市場があり、モンスターなどと戦わせる闘技場もあった。

 この王都には魔法詠唱者(マジック・キャスター)を育成する学院もある。

「首都はどこも人が多いですね」

「では、最初はどこに行かれますか? 見学だけなら魔法学院も案内出来ます」

 案内役の兵士はヤントラを怒らせないように言われているのか、低姿勢で接してきていた。

 それと彼には重要な任務が課せられていたので顔から脂汗が流れている。

「すぐに出立する予定なので、少しだけ見させていただきます。もちろん、帝国の秘密の施設とか無茶な事は言いませんよ」

「……ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

 帝国魔法学院という場所に向かう事になった。

 帝国には更にフールーダが関わっている魔法を研究する施設があるが、こちらは学生の為のものである。

「私の機嫌を損ねてもナザリックには影響が無いので楽にしてください。さっきから顔色が悪いので心配になってきました」

「は、はい。すみません」

「ナザリックはその昔、大軍勢で攻め込まれたことがありました。その時の経験で敵対者に対し更なる徹底的な対策を取っています。……多少は甘く見ているかもしれませんが、守護者達が居るので微々たるものでしょうけれど」

 兵士は黙ってしまった。

「敵対するよりは仲良くするほうがいい。贅(ぜい)はたくさんありますし、女性もたくさん居ます。権力に興味があるとは思えませんが、帝国としては差し出す費用が節約できるので助かるかもしれませんよ」

 それだけ聞いていると無欲なのでは、と思ってしまう。

 皇帝自ら会いに行く相手がそんなに簡単な存在ではないだろう。

 王国側の人間のはずだよな、と兵士はヤントラを不思議そうに眺めた。

 帝国を利する発言が多いのが気になった。

「贈り物とかに興味が無い、という意味ですか?」

「むしろ質の悪い宝を押し付けられて困ると思います」

「では、……質問ばかりで申し訳ありません」

「結構ですよ。そういう任務なのでしょう? 今はアインズに余計な殺戮をさせたくないのです。あいつはすぐ調子に乗りますから」

「……すみません。質問を……、続けさせていただきます。どのような宝ならば良いのでしょう。私も興味がありますので」

「珍しいマジックアイテムですね。これは品質に関わらず、です。つまらなかったら捨てるだけで態度は変わりませんので安心して下さい。値段が張るものが多いかもしれませんが、あいつは値段より効果を重視します」

「マジックアイテムは手に入りにくいので確かに高額になります」

「無理にアイテムを要求してこないので、そこは無理しなくていいですよ。今のところ欲しいものがあるとすれば……、情報ですね」

「……それはなんか難しそうですね」

「強い冒険者の情報とか。とにかく強いやつ。蒼の薔薇は既に知っているので、それ以外で何かあれば有益な関係になるかもしれません」

「ありがとうございます。それにしてもあなたは王国の人間なのに……」

「アインズに殺戮をさせたくないだけです。それが私のメリット。意外に思われるかもしれませんが」

 兵士は実際に意外だと思った。

 それの何所がメリットなのだろうと。理解が出来ない。

「モンスター退治がしたいのにアインズが出てくると殆ど蹂躙されてしまうんですよ。つまらないでしょう? それを阻止する為に嫌がらせをしているんです。個人的に冒険するなら私も邪魔はしませんが、大勢を引き連れて出てこられるのは勘弁願いたい」

 これを報告しても信じてもらえるのか、兵士には分からないが仕事であるのだから伝えるしかない。

「……報告に出してもいいんですね?」

「口封じとかしませんよ。帰りに暗殺者に会わないように付いていってもいいですよ。なんか心配になってきました」

「それは……、とてもありがたいです。しかし、見送れなくなってしまいます」

「出口は分かりますから……。ああ、検問所で捕まりますか……。困りましたね」

 ヤントラは苦笑した。

 話している分には優しそうな感じだか、帝国だろうと関係なく心配してくれる気持ちはきっと本物かもしれない。

 少しの間、話しこんでしまったが帝国魔法学院に入る事にした。

 今回は見学の為に様々な許可申請が出ている。

 いざとなれば帝国のスパイ防止法の適応で確保もありうる。だが、彼は大人しく捕まるだろうか、という疑問が残る。

 学院内の廊下を二人で歩いていると通りを行き交う生徒達が不思議そうな目で見てくる。

「……そうそう。ここで自害とかしないで下さいね」

「!?」

 何もしていないのに何が緊張した。

「私は一人で活動しているので蘇生魔法とか使えませんから。あと、蘇生に失敗すると灰になるそうです。私は未熟者なので責任は取れませんから」

「……はい」

 何かを見透かしている。そんな気がした。

 だが、それは兵士の身を案じてのことだとすると優しい気遣いに聞こえる。

 蘇生に失敗する、という話しが本当なら淡い期待はしない方がいいと思えた。

 

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