ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
そういえば、いつもは食べる前に殺されるので食料関係のアイテムを入れていただろうかと疑問に思った。
首を傾げるヤントラに少女は食事が合わなかったのだと思った。
「……アバターでの食事は適当だったからな……」
食欲のある人間種。食料は必須のアイテム。
一応、コックという
異形種特有なのかは忘れたが人肉料理がある。ただ単に食材が人肉になっただけで一般の素材と大差ないが、人間種が食べると病気になるはずだ。
自分の腕が食材としてゴロンと出てきたら少女はびっくりするだろうな。というよりはそんなものを入れた記憶は無いが入っていそうな気はする。
ゲーム時代は食にあんまりこだわらなかったから何も出て来ない。
現地調達してその場で消費してたのかもしれない。
ポーションばかり飲んでたからなぁ。
「やはり、お口に合わなかったのでしょうか?」
「自分の食材を探していただけですよ。これはこれで美味しいです。……しかし、干し肉とか、なんにも入っていないとは。あっても水か……」
無いものは仕方ない。さすがに隠し金庫に入れているとは思えないが、入ってたらすごいな。
ちゃんと『
「……もう少し食にこだわっておけば良かったかな……」
レアアイテムの探索やモンスターとの戦いばかりで細かい部分を色々と見落としてきたのかもしれない。
後悔しても仕方が無いが。
一通り食べ終わり、食器を少女に渡す。
腹が膨れたかと言われれば大した量ではなかったので満腹感は無い。しかし、久しぶりの食事は悪くなかった。
村の規模を見ないと分からないが、食料は豊富という事は無さそうだ。
身体が自由になったので少女に案内を頼み、村の様子を見学することにした。
人口は百人たらず。
少人数だから誰もが顔見知り。
「あそこが村長さんの家です」
村長は妻と二人暮らし。
家族構成も村人は把握している。
村も大事なのだが、ヤントラにとって一番の興味は空だった。
晴れ渡った青空。
自分達の居た世界は大気汚染の悪化で厚い雲に覆われている。
青空を見た人はヤントラの世界では殆ど居ないだろう。
それほどまでに深刻な近代社会だった。
ゲームで再現される青空くらいしか癒しの場が無いほど。
「ここまで見事な……」
と、言いかけたところで脳内、というか耳の内でノイズらしきものを感じた。しかし、すぐにそれは消える。
「? まあいいか。奇麗な空ですね」
「今日はよく晴れています。そろそろ雨季の季節に入るので、その時は一面雲に覆われます」
太陽の光り。
自然の光りは温かい。
地球では太陽と呼ばれているが、ここではなんと言うのだろうか。
「はい。
呼び名は同じか。
そういう共通点があると話しが脱線しなくて済む。
『あれは、
少なくとも
馬車やパンという言葉があって、こちらの認識と同じなのはこれからの旅には救いとなる。
さっそく村長の家に行くところだが、まずは最初の挨拶をしなければならないだろう。
「私はヤントラ。改めて、はじめてまして」
胸に手を当ててヤントラは挨拶した。
「すみません! 挨拶が遅れて申し訳ありません。エンリ・エモットです。はじめまして」
これがゲームオーバーから始まる恋になろうとは。
ということは無いがな。
少し緊張している少女ことエンリと共に村長の家に入った。
家族ぐるみの付き合いがあるとはいえ細かな手続きが無いのはヤントラにとってはありがたいことだった。
事前のアポイントメント。ということを脳裏に浮かべはしたが小さな村には関係ないのかもしれない。
もう少し大きい規模ならば役場があってもいいのだろうが、職員が働くには環境が貧しすぎる。
外の景色をざっとだが確認した限りは近くに町があるようには見えない。
ここから一番近い町まで早くて二日ほどかかる距離だとか。
「このたびはうちの者が大変失礼なことを致しまして、本当に申し訳ありませんでした」
開口一番、この村の村長だろう人物は深く頭を下げてきた。
もちろんエンリも改めて、
ゆるさん。と、イタズラ心を働かせようかとヤントラは思ったが
とはいえ、どう言えば良いのだろう。
お詫びとして村を焼き払ってもいいですか。皆殺しで手打ちとしましょう。
重装備に身を包み、両手に大きな武器を持っている私を怒らせたな。
そんなふざけた文言が浮かんでしまったが、それらは懸命に脳内から追い出す。
現在のヤントラの装備は胸をはだけていた物から見られても困らない軽装の服装に着替えている。
武器はもちろん携帯していない。携帯していたら盗賊に見えるかもしれない。
さすがに
「まずは座ってもいいですか?」
「あっ、はい。どうぞ」
全てがお手製。木製のテーブルに椅子。
職人が作ったとは思えない粗末な調度品の数々。
村長は見た目は四十代を過ぎた男性で奥に奥さんの姿もある。
エンリは入り口側で何故か地面に正座している。
「それにしても随分と……」
村長は一応、ケガ人の状態を見ていたのでピンピンしているヤントラが信じられなかった。
両腕の骨折も今は何事も無かったように回復している。
「馬車で
「おっしゃるとおりです」
何か言いたそうなエンリはヤントラが手を軽く
「とりあえず、私はヤントラと言います。なんと言えばいいのか……。旅人のようなものです」
「これはどうも」
「彼女に色々と教えてもらいましたが、私の知る世界とはまるで違う。まあ、それよりも大事な事がありますね」
ヤントラは青空に感動していて忘れるところだった。
「私はとある建物で眠っていたはずなのですが、どういうわけか道端に置かれてしまったらしく、それから
相手に反論させず、決して早口にならない口調でヤントラは言った。
「彼女も理不尽な事態の被害者。それに皆様方の手厚い看病。
「それはもったいないお言葉でございます」
「それからケガの方はもう大丈夫です。毎回、馬車に轢かれているわけではありませんが、あれくらいのことは
腕を振って無事である事を見せてみる。
ヤントラが
ユグドラシルでのヤントラは物静かなプレイヤーだった。それはアインズ・ウール・ゴウンの中では、という意味でだ。
ギルドメンバーは基本的に社会人で構成されている。なので会話が苦手では仕事に支障が出る。
ブラック企業に勤めるものもいるし、ゲームなのに会社の話しが自然と多くなる。
ゲームをやり始めたヤントラ、バスパという名前だった頃はまだ学生だった。時と共に社会人になるのだが、大人の世界は厳しいものだと実感する。
生の苦労話し。それはとても興味深く、勉強になったものだ。
社会人なのにPKしたり問題を起こしたり、悪のロールプレイをするのはきっとストレスのせいだ、と当時のヤントラは思ったものだ。
ゲームなのに社会人のいろはを学ぶ。マナー違反かもしれないけれど楽しかった。
それがどう間違ったのか、相手を罠にかけたり、人身掌握に
汚い大人の世界だからこそ自分を守るすべを身に付ける。それはとても
さすがに現実の人間を罠にかけて殺すわけにもいかないが、人付き合いの大変さには役立った点も多々あるだろう。
特にギルドマスターのモモンガは外と中に敵が居る。
リアルでは
時が過ぎ、ヤントラも自分の意見をぶつけるようになる。
モモンガとは主義主張が合わないので度々、言い争いに発展する。それはゲーム内容というよりは個人の考え方。
過剰なまでのギルド愛はヤントラから見て異常。もう少し楽しい方向に持っていきたかった。
困っている人が居たら助ける。
ギルド以外の敵は叩き潰す。
これらはヤントラもある程度は許容している。ゲームであるのだから敵は倒す。
ただ、メンバーの個人的な家庭環境まで干渉しようとする姿勢は最後まで納得できなかった。
ゲームというかギルド至上主義。いわゆる原理主義というやつだ。これがヤントラには我慢なら無いほど気に食わない考え方だ。
ゲームとリアル。どちらが大事かはモモンガも頭では分かっているのだろう。
とはいえ、引退していくメンバーに対しては怒りを覚えている
ゲームだけで生活は出来ない。気持ちよく送り出すべきだ。
廃人プレイヤーにありがちな病気と言ってしまえばそれまでだが。
ユグドラシルの運営最終日、モモンガが怒り狂って全てを破壊するんじゃないかと心配になって円卓で控えていたが、破壊の影響で飛ばされたのかな。
さすがにメンバーが作り上げたナザリック地下大墳墓を個人の怒りで崩壊させるには文字通り『骨が折れる』だろう。
というか音や振動で分かるだろう、そんなものは。
ずっとモモンガの名前が頻繁に出てくるが、メンバー公認のライバル扱いされているためでもある。
ギルマスの影響を受けないソロプレイヤー。いや、受けることは受けると思うけど。
立ち入り制限かけたら一発だ。
戦闘では圧倒的に負ける。それは理解している。
メンバーが邪魔しなければ少しくらいはダメージを与えられるかもしれないが、人間種というかヤントラの実力はプロのプレイヤーには遠く及ばない、かもしれない。
凄腕プレイヤーはメンバーの話しでも数千人規模も居るのだからユグドラシルというゲームの規模は想像を絶する。
モモンガの暴走はバスパにお願い。と、言われるまでになったかどうかは定かではない。しかし、度々、モモンガの消火役にされることがある。
そういう経緯もあり、荒波に揉まれることが多々あった。
恋人か、というほどモモンガの思考パターンが読めるほど。というのは言いすぎか。
戦闘では敵わないが、それ以外なら勝てる。かもしれない。
メンバーにだって生活がある。それは尊重しなければならない。
ダメな大人の見本市。
アインズ・ウール・ゴウンというギルドはそういうところだった。
もちろんメンバーにも好き嫌いがあり、苦手とする人間が居る。全員が仲良し、というわけでもないが楽しい集団だったのは間違いない。
ヤントラの嫌いなメンバーはモモンガの他には『るし★ふぁー』と『タブラ・スマラグディナ』辺りだろう。
殺意が湧くほどかと問われれば、それほど嫌ってはいない。特にタブラ。
他にも苦手な人。仲の良い人。と続くが割愛だ。
ペロロンチーノはどうかと言えば変態なのでコメント出来ません。
良い人に分類してもいいのだが、
基本的に真面目な人間が好き。武人系とでもいうのか。
でも、悪の集団なんだよな、とヤントラは苦笑する。
思考がいつものように脱線したヤントラは現実に戻る。
ソロプレイヤーであるヤントラはギルドの戦いに口は出さないし、マナーとして出してはいけないと思っている。
非道のプレイであっても。
戦闘が終了したら言うかもしれない。
PKやめろ。これはむしろユグドラシル全体に言える問題だと思うので、ギルドに言っても意味が無い。あと、運営の職務
個人的にはクズは殺していい。ヤントラとてそう思っている。
無秩序な殺戮というかPKは許せない。楽しいゲームに水を差すのは良くない。
「どうかしましたか?」
ついつい思考が脱線するのもヤントラがギルドでの思い出が忘れられないほど楽しかったからかもしれない。
さすがに
モモンガが気に食わないとしても認めるところはヤントラだって認める。
「あまりにも整然としておられるので……。驚いてしまいました」
大怪我した人間が何事も無かったように微笑んでいるのだから村長としてもどう対応すればよいのか分からない様子だった。
「よく言われました。まずは嫌な話しはやめましょう」
ヤントラは正座しているエンリを手招きして呼び寄せ、椅子に座るように命じた。
土ぼこりのついた膝をヤントラは軽く払ってやった。
「先ほど言いましたが旅人なので右も左も分かりません。誰かに目隠しされてこの辺りに捨てられたのかもしれません。なので、地図か何かありますか?」
「はい。ご用意させていただきます」
そう言って村長は急いで部屋を出る。
村長の家は迷うほど大きくは無く、ヤントラの印象では部屋数も少ないように感じた。
手持ち
「ただの水だから飲みなさい。果実を絞った飲み物でもあれば良かったのだが……」
「も、申し訳ありません」
手に持たされたアイテムは高価そうな印象を受けた。
「そのまま直に飲んでもいいし、器とかに入れてもいい」
「はい」
「別に殴ったり蹴ったりはしないよ。それとも私は怖い顔をしているのかな?」
「いいえ! その……お詫びの仕方が分からないだけです」
「なら、私の言う事を聞くことだね。それと、物騒なことは言わないよ」
エンリは言われるまま水を飲む。
井戸水よりも
ずっと飲みそうな雰囲気だったのでヤントラはすぐにアイテムを取り上げる。
「そういう拷問じゃないから。飲みすぎはお腹に良くないよ」
「……すみません。とてもおいしくて」
結果は普通に壊れるだけで水が無限に
魔法の中にはアイテム破壊が存在する。
呪われたアイテムなどが他人や仲間に悪用されたりしないように、という時に使われる。
アイテムの質にもよるが簡単に壊せないものも存在する。
上級以上のアイテムが当てはまるだろう。
とりあえず、
物珍しそうにアイテムを眺める彼女の
この水差しは魔法のアイテムなので簡単には壊せない、はず。たぶん、落しても大丈夫だろう。
でなければ何の為にアイテム破壊の魔法が存在するのか、疑問である。
手に持って使用するので傾けて放置しても大丈夫。少しはこぼれるだろうけれど。
しばらく彼女を眺めていると村長がやってきた。その後で奥さんが人数分の
この村には電気が無い。見れば分かる事だが、基本は
湯を
そして、忘れてはいけないのは下水。
風景からして下水は無いのだろう。畑の
それが村では当たり前の風景なのだからヤントラとて文句は言わない。
地図は羊皮紙。少し大きい地図は当然の事ながら見た事の無い地形が描かれていた。
ユグドラシルのものではないことは一目で分かるほどに。
つまり帰る拠点すら分からない事だ。
前も後ろも自分の知らない土地。横も空もと追加しても同じだろう。
ログアウト出来ない時点で察してはいたが、覚悟するにはまだ少し時間がかかりそうだ。
不安はある。けれど冒険の楽しみは残されている。
モモンガのアンデッドの特性である精神の安定化に似た特性でも発動したのかもしれない。
不安で泣きたくなるのが当たり前のはずなのに。
ヤントラは冒険の旅に出たくてたまらない。
食い入るように地図を眺めるヤントラに村長は少しだけ驚いた。
書かれている文字は大方の予想通り、読めなかった。
ご都合主義にも限度があるようだ。
それは想定内なので驚きは無いが、勉強はヤントラの苦手分野でもある。
一番簡単なのは『あいうえお順』だ。
問題なのは書くべき紙が無いのと羊皮紙は意外と貴重品であること。
それはおいおい考えるとして、現在位置をまずは把握しなければならない。
「ここが我々の住んでいるカルネ村です」
地図と言っても全土は記載されておらず、一部を切り取ったに過ぎない。それでも広い範囲に土地が広がっていることは理解した。
この村は『リ・エスティーゼ王国』の領土内にあるカルネ村。
右隣にはバハルス帝国。二国の真下に位置する『スレイン法国』があり、三国はにらみ合っているとか。
スレイン法国とバハルス帝国の間には『カッツェ平野』という戦争に使われる場所があり、アンデッドがよく出るという噂がある。
王国と帝国の間には『トブの大森林』が挟まっており、カルネ村の住人も近くまで行って薬草などを採取する。
「モンスターが居る……」
ここから一番近い都市が『城塞都市エ・ランテル』でカルネ村とカッツェ平野の間に位置する都市。
一通りの説明を受けた感想ではモンスターの名前が聞き覚えのある単語だった事が驚きだ。
メジャーな名前なのだろうか。きっと
帝国が王国に対して侵略戦争を度々仕掛けている。
「つまりは戦争状態であると……」
「町での噂ではありますが」
モンスターが居るのに戦争を仕掛ける。
「近くに都市があるなら行ってみるしかないですね。他に近くに町とか村とかはあるんですか?」
「危険な場所には行かないもので、それ以上は……」
村には大した情報が無いと思っていたので期待はしていなかったが、大きな都市の情報はとても有意義だった。
とはいえ歩いていくと三日四日はかかる距離らしいが。
ふと物思いに
誰かが『
ノイズが強く走る時点で通話は期待できない。
もとよりソロプレイヤーであったヤントラはこの『
ユグドラシル時代ではイタズラ電話のようにノイズがかかることがあるので、無視を決め込むことが多い。
というよりはフィルターをかけて
ヤントラはノイズに対しては驚いていない。
他のプレイヤーが居てもおかしく無いと想定しているからなのと、ギルドメンバーが居ることも
とはいえ返事は出来ない。
ノイズは一瞬しか伝わらない。どう頑張ろうと言葉は伝えられない設定なのだから。
「どうかしましたか?」
頭を押さえたヤントラに村長は声をかけた。
「ちょっと頭痛が……。それより近くの町まで案内してほしいのですが、構いませんか? あと資金がありません。こちらの
「そうですか。それはお困りでしょう」
「武器を買い取れというのは困るでしょうし、そちらが納得するようなアイテムでもあればいいのですが……」
そう言いながらどこからとも無く、革鎧、短剣などをテーブルの上に置いていく。
もちろん、これらは
「私は売り買いの経験が
村長はヤントラが提示した品物を丁寧に見定める。
村に武具は似合わないが、それなりの値段は付くだろうと予想される。
「それともゴミ同然で値は付きませんかね? それはそれでご迷惑でしょうね」
「いやいや。売れないことは無いと思いますが……」
「旅人ですからね。身分の分からない者がいきなり売りに来るのは……」
「確かに。おっしゃるとおりです」
エンリも興味半分で武具を見つめる。
見た目は普通の武具。
先ほどまでの魔法のアイテムに比べれば落ち着いた雰囲気を感じる。これならば売りに出せるかもしれない。
「大きい剣もありますが……。出すのはやめましょう」
「そうですね」
狭いですし、と言いそうになった村長は言葉を飲み込む。
旅人と言った男性が何者なのか分からなくなった。
言葉使いは丁寧だし、物取りというわけでもない。
得体の知れない相手に見えなくも無いが、疑えばキリがない事も事実だ。
「では……、エンリに町で買い取りをお願いされてはどうだろうか。ついでに案内も出来ますし。準備に時間がかかりますが……」
「それは助かります。……しかし、こちらには差し上げる食材がありません。村にとって食料は貴重でしょう? いくら賠償と言っても……」
「数日分くらいならば村のものから借りることは出来ます」
村長の言葉にエンリは少しだけ表情を明るくした。
「ついでに地図を頂きたいが町にもあるのでしょうか? 写しでも構わないのですが、だいたい分かればいいので」
「分かりました。なんとか用意いたしましょう」
話し方が丁寧な村人だとヤントラは思った。
ゲーム開始の人々の会話が思い出される。
いわば今はチュートリアルに当たるイベントだろう。
ここは初心者に戻って丁寧に聞くべきだ。何事も最初が肝心なのは世界共通の意識かもしれない。
エンリの自宅に案内される間、ヤントラはこれからどう自分は進めばいいのか考えていた。
自分の持ち物に
手持ちのポーションなどはどうも高額アイテムの扱いになっている気がする。
「そういえば」
エンリの自宅にてヤントラは尋ねた。
「友達に
「はい」
「
「エ・ランテルに住んでいるんです。薬草を売りに出かけた先で様子を見る程度です」
そう言いながら出迎えた妹のネムがエンリに抱きつく。
ネム・エモットは十歳。
年齢を聞いている分には一年は何日あるのだろうかと首を傾げた。
世界特有の時刻があるように、ここにも通常とは違った
「このたびは娘が大怪我をさせてしまい、申し訳ありません」
そう言って娘同様に床にひれ伏すのは彼女の両親だった。
「もう元気ですから、お顔を上げて下さい」
妹も両親に
大半の村人はヤントラがどれくらいのケガをしたのか知っているようで、行く先々で頭を下げていた。
「とりあえず……、座りましょうか」
エンリの家族がいつも
「これから町に行って娘さんを売り払って……。すみません、間違えました。娘さんに手伝ってもらうことになっています」
「お金が必要だというのでエ・ランテルに行くことになったから」
「我々がお支払いするお金ですか?」
「その話しは終わりました。落ち着いてください」
ヤントラはエンリに説明させた。
自分が言っても要領を
「数日間、というか今日ですかね?」
「準備は今からやっても明日までかかると思います」
「分かりました。それまで世間話などを聞かせてはもらえませんか? 旅人なので何も分からないのです」
「そうでしたか。大した話しはありませんが……」
「その前に……。お仕事が残っているのであればそちらを優先してもよろしいですよ。私も少し村を見学したいので」
「そうですか。分かりました」
今のところは会話も順調だ。
人付き合いの難しさは理解しているが、相手を落ち着かせるのは難しいものだ。
ネムは不思議そうにヤントラを見つめている。
気の利いたギャグでも言えればいいが、何も浮かばなかった。
父親は農作業に向かい、エンリは家の裏手に回って馬車の用意を始める。
残った母親は昼食の
この小さな少女にどう対応すれば良いだろうか。
ヤントラはアイテムボックスに手を入れつつ思案する。
正直、子供が喜ぶようなものは持ち合わせていない。というよりは非道なプレイヤーに囲まれていた為に小さなキャラクターとの接点がまったくと言っていいほど無かった。
あればあったで悲惨な末路が予想される。
ユグドラシルとは弱者に対し非情なゲームである。
「ずずいっと」
隠し切れないほどの大きな剣を取り出して見せた。
「わぁ!」
ビックリしたネムは
「これは一般的なブロードソードだよ。これでモンスターをばっさりと斬るわけだ。もっと大きいものになるとバスタードソードというものがあってね」
武器の説明を始めるとネムも少しだけ近寄ってくる。
あまり怖がらせてもいけないので武器はすぐに仕舞い、次に取り出したのは手ごろな
処分品扱いだが、これならネムにも触ってもらえるだろう。
「普通の盾だが、身に付けてみるかい?」
先ほどの武器よりは安全だと判断したのか、興味深げに盾を見つめる。
「腕に装備するんだけど、多少の打撃なら防げる。剣を相手にするには心許はないかもしれない」
その小さい盾でも使い方次第では剣が相手でも問題は無い。
小さな子に武具を見せるのはまだ早いかもしれないな、と思ったヤントラは盾をしまった。
それよりは外に居るエンリの元に行った方がいいかもしれない。
「外に居るお姉ちゃんのところに行ってみようか?」
「うん」
元気な笑顔を見せられるとヤントラも嫌とは言えなくなる。
言えなくはないが。
馬の世話をしているエンリの元に向かうとネムはさっそく彼女の側に駆け寄った。
慣れているのか、馬の側には
馬車に使う馬は乗馬用とは違い、全体的に太った印象を受ける。
長距離を走るのだから体力が無いともたない。
貴重な移動手段であるから大切に育てられているのが見て分かる。
馬の状態に問題は無く、荷物を
急ぐ旅でもないが、彼女の仕事ぶりを黙って見つめる。
じっと見つめているのも悪いので、ヤントラは一人で他の場所にも
村の中に畑は無く、周りの草原に出て行く人影がちらほら見えた。
カルネ村は大麦、小麦の生産の他には様々な野菜を育てている。
井戸は村の中心にあり、貴重な水源となっているようだ。
ヤントラは井戸を
そばにあった
「………」
大自然の恵みとはいえ溜まったままの水は奇麗とは言えない。
地形的には山から下りてくるのだろうが
飲み水に適した水の確保というのは甘く見てはいけない。
ナザリック近郊の毒の沼に比べれば奇麗ではあるが、何かの事情で毒を放り込まれたらカルネ村は崩壊する。
近くでは戦争をしている。それを忘れてはいけない。
一通り農作業を見学した後、エンリの家に帰る頃には日が落ちかかっていた。
随分と時間が経つのが早いものだと思い、自然と苦笑していた。
近代社会が失った自然。それについつい見とれてしまったようだ。
村の一日は早寝早起き。
晩御飯の
「山から流れてくる清流が美味しく感じられるのは様々な栄養素を含んだ石などを通過するためです」
ヤントラは食卓で自分の知る知識を話していた。
「溜めた水は腐ります。常に移動させたり浄化したりしなければお腹を壊します。
「しゃふ?」
「水を
「水は村にとっては生命線ですからな」
特別な魔法も素材も必要の無い技術の一端を話しているだけだが、それでも村の人達は熱心に聞いてくれた。
続いて炭の活用方法を知りうる限り、話してみた。
ヤントラばかり話しても仕方が無いので村の生活も聞いてみた。
国同士の戦争がカルネ村にも飛び火するかもしれない。そんな話題からだった。
リ・エスティーゼ王国は
一般の平民に兵士をさせてきた。
相手のバハルス帝国は訓練された兵士を突入する。
力の差は歴然だが、戦争は長く続けられていた。
平民が犠牲になっているのだから働き手が自然と減るのは道理だろう。
戦争の目的は侵略。
着実に王国を弱体化させている。
「スレイン法国は高みの見物と……」
「早く戦争が無くなるといいのに」
誰もが思うことをエンリは言った。