※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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D-8 浄化されたイビルアイ

 自分の人生は分かっているだけで二百五十年。

 アンデッドとして生活する上では楽しい人生とはいえない。

 人間は死ぬ。死なないほうが楽かと思うのは最初だけだ。

 とんでもない化け物にでも会わない限りは仲間達も死に別れて孤独になるのだろうと何度も思った。

 それがここ最近は死ぬ恐怖が迫っている。尋常ではない敵が大勢居るという情報が入った。

 信じられない。

 実際に目撃した粘体(スライム)型のモンスター。

 のちに出会う紳士の老人。

 どれも桁外れだった。戦ってはいけない、と身体が訴えるほどだ。

 生存本能などとうの昔に消えたとばかり思っていたが、どうやら眠っていただけのようだ。

 性欲がひしひしと感じられる。死ぬ前に男に抱かれろと。

 女の身体が性欲の飢えに苦しみだした。

 十二歳という年齢で成長が止まっているはずなのに男性を受け入れようと粘液が舌なめずりしている。

 だが、素直になれない。

 女の敵と戦い続けて目撃した現場の様子には嫌悪感が身体を駆け巡る。

 殴り殺された女の死体。元の顔が分からないほど。

 暴力により全身が腫(は)れ上がっていた。それならば特に問題は無い。

 視線の先にあったのは暴力を奮った醜い肉塊のような姿の男の股間に生えている男性器の様子だ。

 人食いおお鬼(オーガ)並みに醜いそれは白い、白濁(はくだく)した精液を垂らしていた。

 当然、死んだ女の膣をかき回したのだろう。

 死んだことで筋肉の収縮を止め、開いたままの穴から夥(おびただ)しい精液がこぼれだしていた。

 乱暴にされたのだろう。血も垂れていた。

 イビルアイは当然、長い人生経験から交尾の知識はある。自慰行為も知っているしやったこともある。

 だが、これほど嫌悪感を抱いたことは無かった。

 すぐさま殺そうとしたが仲間に止められた。

「うぉ……」

 また吐きそうになってきた。

 同時に股間もうずく。

 唇(くちびる)をきつく結びつつも頬が紅潮する様子が憎たらしい。

 ラキュースの苦しみはきっとこんなものだろう。

 それでも国の為に足を開いたのだ。侮辱など出来る筈が無い。

 

 同じことが何度もあるので隙あらば仲間達に気付かれる前に吸血鬼の特殊技術(スキル)『魅惑の魔眼』を使いながら奴らの生殖器を抉(えぐ)り取り、無理矢理食わせて、しっかり咀嚼(そしゃく)させ、飲みこませるところまでやった。特殊技術(スキル)を解けば自分が何を食べたのか思い出して暴れるだろう。

 他には自分の生殖器と死ぬまで交尾させてやった。自分の精液で妊娠しろと思いつつ。特殊技術(スキル)のお陰で気持ちよさそうな顔をしていたな。

 だが、本当は汚くて醜い形の男性器など触りたくなかった。怒りが勝(まさ)ってやってしまった。

 切り取った男性器は骨の無い軟体生物で臭い。持っているだけで射精までして手を汚してくる。そして、その白い精液も臭い。陰毛に覆われた陰嚢(いんのう)を引き裂いて出て来たピンク色の睾丸(こうがん)が臭くて白濁した精子を毎日のように生産している。

 最後はそれらの残骸を切り口の奥にねじ込んでから首を撥ねてやった。それくらいイビルアイは憎悪した。しかし、手首まで入れた行為が強姦(ごうかん)と変わらないのでうっかり自分の手を切り落としたくなってしまった。

 メスであるゆえか精液の臭い匂いが股間をうずかせてくる。これを舐めて飲むのがメスの正しい姿だと訴えているような気さえした。睾丸ですら鳥の卵のごとく食べそうになった。仮面のお陰もあるが我を忘れそうになる。

 嫌悪しつつどこかで自分は人間が食べたい、交尾がしたい、と吐き気を催しながら、思っていると悲しくなってくる。

 数人を処分した辺りでリーダーに叱られたが反論はしなかった。

 あんな汚いものに貫かれたくはない。

 そう思っても身体は正直だ。このまま仕事をしていたら仮面を取って喰らい付いてしまうのも時間の問題だ。ピンク色の睾丸はご馳走にしか見えない。

 形が良くて綺麗な男性器なら『保存(プリザーベイション)』をかけてしゃぶりつくすかもしれない。下手をすれば自分の性器に突っ込んでしまうかもしれない。

 それくらい血液以上に性欲に飢えていた。臭い匂いなのに身体はそれを欲している。

 吐きすぎたせいか、今は胃液しか出ないようだ。

 アンデッド、吸血鬼の身体が命を求めている。血を吸う事は耐えられる。というよりは犯罪者で事足りるゆえに無用の犠牲が生まれない。

 割りと天職だと思っている。

「……旦那さんは他の男と違う。だからなのか。親しみを感じるのは」

 どんな男も肉欲の醜い獣。

 ヤントラのその中にあって不思議な人物だと思う。

 性欲に関しては化け物級だろうけれど。

 普段はとても気配りのできる専業主夫。しかも綺麗好き。

 異形種も平気と好印象だ。

 毎日クレマンティーヌの身体を抱くのかと思ったが、看病は丁寧に行っていたし、身の回りの洗い物もやってくれる。

 かなり強敵だ。

 

 湯船の中に身を沈める。

 呼吸を必要としないので溺死(できし)はしない。死なないけれど身体に水が満ちて止め処もなく放尿が止まらなくなる。というよりは肛門からもダラダラと垂れてくる。

 飲食も出来て排泄もできる身体は人には見せられない欠点があるようだ。というか見せたくない。

 身を沈めるときは目蓋を閉じて鼻と口も閉じる。

 アンデッドなのに子孫を残そうとする。

 生前の欲望の残滓(ざんし)なのだろうか。

 それとも自分の欲望を身体が叶えようと必死になっているのだろうか。

 ヤントラは醜い男たちとは違い女性を大切にする。

 艶(つや)やかなクレマンティーヌの姿を見るとそう思えてしまう。

 肉棒が無くてもいい。だからこそ求めたくなるのだろうか。

 小便を出すのと女を犯(おか)すことにしか使われない肉の棒。

 それでも入れてかき回してほしいと身体が抗議している気がする。

 それに抗えない自分は情けないのかもしれないが、それが女の本能なのだろう。

 普通の少女であったら考えなかった淫靡(いんび)な願いだ。

 今は二百年以上も経った。男に飢えても仕方が無いほどに。

 冷水の湯船から上がり、一旦は水を捨てる。

 新しく注(そそ)ぐのは温められた湯。

 湯が満たされる前に向かおう。

 バスタオルで水気を取り、裸足で歩いても足跡が残らないか確認する。

 華奢な手足だが、既に女の身体だ。

 歩けば床に落ちるだろう。

 戦士のラキュースはそれに耐えた。仲間として私も耐えよう。

 身体を拭いたはずなのに内股から滴り落ちる粘液の感触が頬を紅潮させる。

 もはや我慢しきれないのだろう。

 

 二階の執務室まで無言で突入する。

 ノックは忘れたが、家主は黙ってイビルアイを見つめた。

 そのまま彼のところまで行き、ダンっとヤントラの股間部分に開いた空間に足を乗せた。

 『飛行(フライ)』を使って机の上に足でも乗せても良かったが背丈が足りないし、体勢が狂いそうだったので諦めた。

 そして、バスタオルを落す。

 白雪の如く白い素肌。綺麗な割れ目に陰毛は無く、嫌らしい粘液のみがゆっくりと内股を濡らしていた。

「何も言わずに犯してくれ。いっそよがり狂うほどに」

 恥ずかしい言葉を言っている。

 それでも言わずにはいられない。

 小さな女の子の性器は二百五十年近く経っても形は変わらない。

 犯されずにいたからこそ変わらなかったのかもしれない。

 自慰こそすれど、綺麗な性器は今も健在だった。

「女をこんな格好で待たせるな」

 冷徹で険しい視線をヤントラに向ける。

 彼は少しだけ驚いていたようだが、構わない。

 上げた足を床に下ろし、仁王立ちになって両足を少し開いた。ヤントラにはっきりと性器が見えるような体勢を取る。

 そのまま今までやってきたように少しだけ盛り上がった胸を揉んだり乳首をつまみながら自慰を始める。

 クチャクチャと音が聞こえるように。

 しばらくヤントラは黙って見ていたがイビルアイも彼の言葉を待ちつつ自慰は続けた。

 自分でやったところで小さな波しか来ない。

 少し噴き出し、彼の足にかかるが気にせず粘液まみれの指を舐める。

 その間、股からはまだまだ粘液が滴り落ち続けていた。

 もう一度、自慰を再開しようとした時に彼は疲れたようにため息をつく。

 呆れられたのは覚悟した。

「全員と関係を持たされそうですね」

「すまないと思っているぞ。でも仕方が無いんだ。き、きっとあれだ。媚薬のせいだ」

 仮面の無いイビルアイの少女らしい声が弁明する。

「……本当に申し訳ないと思っているんだ。仕事の弊害かもしれない……。あるいはご主人の言う化け物たちの影響かも……。死ぬ前に犯されろと身体が男を求めて仕方が無いんだ。この身は異形だが、恐怖は感じる」

 自分がはしたない事をしているのは分かっている。

 だが、このままでは仕事に支障を来たす。

 未だに膣から溢れる粘液を垂らしつつ己の痴態を悔やむ女性を眺めたヤントラは軽く息を吐く。

 トラブルの次は女難の相にも見舞われるとは、と思った。

 可愛い女性は好きだが、やたらと身体を許す輩が多い気がした。

 アダマンタイト級の冒険者なのだから、と思いはしたが女性には違わない。

 個人的にはハーレムにする気は無かった。

 メイドは実験とはいえ仕方が無かったが、今度の相手は一段と幼(おさな)い。

 歳はかなり上なのかもしれないが、欲情には勝てなかったか。

 落ちたバスタオルを拾い、イビルアイを抱っこした。

 世間で有名なお姫様抱っこ。

「おっ!?」

「部屋の中で放尿されても困りますからね。……私は別に君達の身体が目当てというわけではないよ」

 裸の女性は大好きだが、次から次へと出てくるのはさすがに対処に困る。

 イビルアイの返答を待たずに扉などを器用に開けつつ風呂場まで進んだ。

 途中でイビルアイの頭を打ち付けそうになったが守った。

 風呂場まで運び、彼女を降ろす。

「中で……待ってます。ごめんなさい」

 イビルアイは軽く頭を下げて風呂場に入った。

 湯船の事も心配だったからだ。

 広い浴槽を満たすにはまだ少し時間がかかりそうなのは分かったので、彼が来るまで床などを洗い流す。

 性器を持たない相手に自分は何をされるのかと思うと怖いが、自分で頼んでしまったのだから諦めるしかない。

 そういえば湯船には入ったが身体は洗ってなかった事を思い出す。

 体臭は酷くはないだろうが、今後のことも考えてしっかり清潔にしようと思った。

 男女の交合は相手を気遣うから清潔さが気になるのだろう。それが少し理解出来た。

 それにしても恥ずかしいことを言ってしまったとイビルアイは全身から汗が出る思いだった。

 一歩間違えたら先ほどの店の路地裏で犯せ、とか言っていたかもしれない。

 あられもない声を街行く市民に聞かせながら。

 我らがリーダーは偉大だったのだなと改めて感心した。

 それからすぐに風呂場に全裸の男性が現れる。

 胸板はあるが下は穴が無いし、棒も玉も無い。

 間近で見ると不思議な身体ではある。

 余計なものが無い分、恥ずかしいとは思わなかった。

「さて、お嬢さん。お覚悟はよろしいですね?」

「せん……、魔法詠唱者(マジック・キャスター)に二言(にごん)は無い。存分に犯し尽くしてくれ」

 そんな言葉が出る時点で顔が真っ赤になるくらい恥ずかしいが、かかってこい。

 

 ものの数十分で撃沈。

 風呂場の床に突っ伏すイビルアイ。いや、初めて他人に触れられるのだ。

 想像以上の快感が襲ってきても不思議は無い。

 三点攻めとも言うのだろうか。

 体内の水分を絞りつくす御技。アンデッドの身とはいえ尋常ではなかった。

 身体が弛緩しているような感じでだらしない顔になり、今も肛門から止め処も無く排泄している最中だった。

 脱糞の快感も相まって全身が喜びに打ち震えているのが分かる。

 小便を出すだけでも気持ちがいいのだから。

「……はぁはぁ、はぁ……」

 呼吸をしなくていいはずの自分が酸素を求めてしまうくらい身体は性欲に飢えていた。

 声を出すにも体内の器官は必要だ。

 今までの人生でこれほどの嬌声は出したことが無い。

 仲間には聞かせられない。

 あと、リーダー。あんたすげーよ。

 イビルアイは素直に感心した。

 この後、仰向けにされてしゃぶり尽くされる事になるが手足が麻痺したように動かない。

 麻痺無効のはずだが言う事をきかない。

 身体の方が本体に反抗しているような感じだった。お前はされるがままになっていろ、と。

 更に魔法で敏捷とか上げやがったせいか、もはや何をされているのか分からない。

 イビルアイはただ声が嗄(か)れるまで、嗄れなかったけれど嬌声をあげ続け、出せるものは出し尽くしていった。

 

 一言で言えば甘く見ていたのかもしれない。

 この世には触れてはいけない世界があるのだと。

 次に発情したらアンデッドというか吸血鬼でも死ぬと思った。

 疲労しない、嘘だ。全身が悲鳴を上げている。

 睡眠無効。正直に言えば気絶したい。

 精神作用無効。いっそ発狂したい。

 意識をしっかりと保ったまま快感の海に溺れることになるのは拷問に匹敵する。

 リーダーのように下手をすると自慰行為を本当に一日中やりつづけることになるかもしれない。

 全ての穴が気持ちいい。これは不味い。

 頭は冷静なのだが身体がおかしい。

 この世の未練はもうありません。ありがとう、と感謝しているかもしれない。

「生きてますか?」

 うるせー化け物め。と言いそうになったが、自分から頼んで悪態(あくたい)をつくのは失礼だよな。

「……残念ながら。ここまで凄いとは思わなかった……。ぷしゃーって」

 女の身体は神秘に満ちている。

 さすが吸血鬼。事が終わると急速に回復しようとする。

 だが、大股開きのまま動けないのは辛いな。

 あと、臭い。さすがに今まで身体に入っていたものが出てくると匂いが凄い。

 イビルアイの疑念はヤントラが解決する。

 いつもの作業のように手際よく風呂場が十分たらずで綺麗になる。

 身体がだいぶ動けるまで回復する頃には上体も起こせるようになる。

 地獄から生還した戦士。魔法詠唱者(マジック・キャスター)だが。

 気がつけば湯船から湯が溢れて温かい水温が感じられた。

 やり尽くした後にヤントラはイビルアイの手足を丁寧に洗い始めた。

 されるがまま。小さな胸も臀部(でんぶ)も尻も背中も丁寧に洗われる。

 股間部分はまた少し感じてしまい、おそらくはわざとだと思うが、果てる結果となる。しかも執拗(しつよう)に擦ってくるし、こちらはどうぞ何度でもと身体が率先して快感に跳ね飛ぶ始末だ。回復しては跳ねるんじゃないかと、少しだけ怖くなった。

 精液を持たぬヤントラなので実際の男性だったらもっと酷いことになっていたのだろうか。あの匂いにまた発情するかもしれない。そんな危惧が頭を過(よ)ぎる。

 実際に快感は感じられるだけ感じていたいのだろう。顔がにやける。もっともっとと要求するイビルアイ。

 嫌なら拒むことは出来ただろう。だが、今のイビルアイは両手をダランと両脇に垂らしたまま。気が付けば擦(こす)り易いように自分から股を開いて、『飛行(フライ)』を使って腰を少し浮かせている。尻の穴も使って下さいというように。

 事が終わるまで一時間以上はかかっただろう。二時間かもしれないが。

 疲労しない、自動的に回復する。いずれは食事と水分補給さえ出来れば一年間やり続けられるのではという恐ろしい考えが浮かんだ。それでは真の性処理道具だ。

 それから湯が掛けられるがザバっと豪快にではなく、優しく掛けられた。

 頭も洗われたが、こちらはこちらで気持ちよかった。顔はもちろん綻(ほころ)んでしまう。

 リーダーには悪いが良いご主人様だと思った。

 そして、深く感謝した。こんな発情した吸血鬼の願いを聞き届けてくれて。

 簡単には死ねなくなった。

 恩には必ず報います。

 イビルアイは強く決意した。

 

●↑●

 やり尽くしたお陰か身体はとても楽になっていた。もちろん気分的にも。

 一緒に湯船にも入ったが特に違和感も無い。

 これほど素顔どころか身体を晒しても安心するのは二百年ぶり以上かもしれない。

「もう大丈夫だ。ご主人は先に上がって下さい。……今日は付き合ってくれてありがとう」

「お腹とか空いているだろう」

「また吐いたら悪いので……。い、いえ、食べます。しっかり体力つけます」

 飲食は必要ないが気分的には大事かもしれない。余計な吸血行為もしなくて済んでいる。

 名残惜しそうにヤントラは風呂から上がっていった。

 一人残ったイビルアイは顔が急に真っ赤になる。

 ついにやっちまったと後悔の念が襲ってきた。

 人前であられもない姿と言葉を言う女なってしまった。

 両手で顔を覆い、今までの体験が巻き戻しのように襲いかかってくる。

「きゃー!」

 心臓が動いていたら死んでいるところだ。

 風呂から上がる前は何も証拠が残っていないか確認するように拭き掃除をしたくらいだ。

 もちろん、湯上りの後も床を拭けるだけ拭いた。

 股間のうずきは驚くほど静まっている。天に召されたら本望だろう。

 安心するのもつかの間。自分の一部の下着類は乾かしている最中だった。

 比較的無難なローブと仮面を被り、残りは普通の白い衣服を身につける。下着は布巾などで縛っておこう。

 手足は露出したまま。靴下も履(は)かずに裸足(はだし)。

 最低限の装備になったイビルアイは改めてヤントラに深く謝罪とお礼を述べた。

 ペタペタと階段を下りるさまは小さな女の子だった。

 

 仲間達が帰宅すると見違えたイビルアイにそれぞれ驚く。

「……頭でも打ったか?」

「打とうとしたけど諦めた」

「イビルアイが浄化された!?」

「生足(なまあし)のイビルアイも貴重で最高だぜ」

 意外と仲間達の感想は悪くなかったのが驚きだった。

 クレマンティーヌはまだ帰宅していないが、彼女はどう驚くだろうか。

 意外と見抜くかもしれないな。

「なんかいい匂いする」

「ご主人に風呂の小物を買ってもらった。みんなの分もあるようだ」

 呼び方が『ご主人』になっていることに気付いたが今さらなので諦める。

「おおっ! それは是非に確かめねば」

 ティア達はすぐに風呂場に駆け込んだ。

 重装備のガガーランは一つ一つ装備を外していた。

「俺は何も言わないぜ」

「出来ればそのまま聞かないでほしいな」

「いい女の匂いっていいもんだな」

「言ってんじゃねーか!」

 蹴ろうかと思ったが素足(すあし)なのでやめた。

 

 夜になりクレマンティーヌが帰宅する。

 彼女も諜報活動が出来るというので見張りなどを頼んでいた。見た目には派手だが隠れるためのアイテムは持っているらしい。

 独自のコネクションを持っている、と言っていたがよく相手を殺すので不審がられているという。

「……それお前のせいじゃん」

「クレマン、情報屋は大事にしようね」

「要らない奴はすぐ殺した方がいいんだよ。請負人(ワーカー)は裏切るって世間の常識」

「それでもだよ、クレマン」

「……そろそろ本題に入ろう。今後のことで大事な話しがある」

 白い服装で生足を披露しているイビルアイはヤントラからの話しと注意事項を伝えた。

「クレマンティーヌも迂闊に手は出さない方がいい奴がいるから。今はどうしようもないから自重してくれ」

「はーい」

 イビルアイの格好については特に言及してこなかった。言わないでくれるのならば追求はしないし、したくない。

「ご主人としては手を出せば甚大な犠牲が出ることを恐れている。一匹倒せば徒党を組んで仕返しに来る相手だそうだから、出来るだけ戦闘は避けてほしいようだ」

「手を組めたら心強いんだけど……」

「ご主人だって我々に死んでほしくないんだろ。あの粘体(スライム)一匹だけでも我々は勝てない。たとえ勝てたとしてもまだ後ろに何かが控えている。狡猾(こうかつ)で残忍(ざんにん)で知性のあるモンスターだ」

 話している最中にヤントラが降りてきた。

 

 一堂が会議しているのを見て手を振ってきた。

「お帰り。話し声は聞こえたけれど……」

「すまない、ご主人」

「ただいまー。無事に帰ってきたよ」

「お帰り。君も無茶はしないようにね」

「はーい」

 ニッコリと微笑みながらクレマンティーヌは返事を返した。

 素直なところは殺人者には見えないが、仕事最中は味方すら殺しかねない残忍な顔を見せる。

 ヤントラは調理を始めた。

 出来るだけ料理をするように心がけているとか。

「ねえねえ、ご主人。ナザリックの強い奴ってどれくらい居るの?」

 無遠慮(ぶえんりょ)にクレマンティーヌは言った。

「私より強い基準では、およそ百人くらいかな」

「……意外と少ない気がする……」

「総戦力は一万体かもしれないけれど。多くが召喚、アンデッド作成などで呼び出したシモベ達だ。多少は強いけれど、こちらは倒してもいいし、脅威ではない。戦闘メイドも一人くらいなら君たちでも倒せるかもしれない」

「マジ? あの粘体(スライム)めっちゃ強いと思うけど」

「戦士職には辛いだろうけど、囮を用意して高位階魔法をお見舞いすればなんとか撃退出来ると思う。犠牲なくして勝利なし。強い敵ほど無傷の勝利は得られないからね」

 倒せると思っているご主人の方がすげー、とティア達は思った。

 スティレットでは勝てないと悟ったクレマンティーヌは少しだけ面白くない、という顔をした。

「元々、大規模侵攻に対抗する為に特化した組織だ。簡単には突破は出来ないし、今も守備を固めているはずだ。物量戦より諜報活動で得たもので狡猾な戦法を取るのを得意としている。戦争を一つの魔法で終わらせる実力というのも色々と意味があるんだよ」

 クレマンティーヌ以外は戦いたくないな、と改めて思った。

 ただのモンスターではない。それは理解していた。

 知能戦を得意とする圧倒的なモンスターは戦いようが分からなくなる。

「皆殺しで終わりって事?」

「あまりの実力に戦う気とアインズに反抗する気を削(そ)ぐ。それはどちらの国であっても思い知るだろう」

「……確かに」

 圧倒的過ぎる実力を見せられれば敵味方関係なく従属を選んでしまうかもしれない。

 対抗する勢力が存在しなければ人間の敗北は確定してしまう。

「……いずれは通る道だ。覚悟はしていた。ご主人はちなみに対抗できる方法はあると思う?」

「あるにはあるが、難しい」

 簡単に答える分、恐ろしい人だなと思う。

「相手は支配者に絶対の忠誠を誓う者達で構成されている。人間と違い、支配者に必要とされるためだけに生きている、と思っている狂信者ような者たちだ。手ごわいよ。それらに対抗するには強い勢力が必要だ。少なくとも階層守護者並みに強くないとだめだ。私もまだ少し弱いから勝てそうにないが、世界各地に行けば何か見つかるかもしれない」

「でも、それは相手も考えているんだよね?」

 互いの手を読み合う戦法は打つ手を間違えば致命的となる。

 ヤントラは出来た料理を皆に振舞いつつ席に着く。

「無理に倒す必要は無い。これも一つの手段だ。たとえば、かつての仲間にアインズ・ウール・ゴウンを否定してもらえばいい。アインズとて仲間の意見は聞かないわけにはいかないからね。今のところ片鱗すら見つからないが……」

「粛清(しゅくせい)されたりしないの?」

「それもあるかもしれない。仲間を捨てた時、もはやアインズはただのクズと成り下がる。正義の失墜だ。全ての敵となるだろう。誰にも信頼されない道を選ぶ時、あいつは絶望する」

 ヤントラが世にもおぞましい笑顔となり、メンバーは息を呑(の)み、クレマンティーヌは興味深げに笑った。

 ヤントラが化け物だと改めて再認識した。こいつも危険だと。

「ちょっと驚かしてしまったね。でも、私は人間の姿をした異形。それでいいんだよ」

「悲しいよ、それ」

「悲しいんだよ。自覚しているから。それでもラキュースは共に来てくれた。今は彼女が心のよりどころだ。君たちも友達だと思っているよ。さすがに仲間はおこがましいだろうけれど」

「仲間でもいい気がするけれど。でも、旦那さんは人間と異形の妥協点を探してくれている」

「うんうん」

「あんたの味方にはなりたいわな」

「真の蒼の薔薇……。『真蒼(しんそう)の薔薇(ばら)』ってチーム名にするなら私は仲間になってもいい」

「真紅に対抗してだね。いいかも」

「クレマンも入ったことだし。そういえばクレマンの防具にも薔薇の模様とか入れてもらおうか?」

「胸かお尻くらいしか無いけど?」

「あっ、ダメだ。私は冒険者として一人で頑張らないと……。君達の無事は祈っているよ」

「そうだったね。アダマンタイトまで登ったら改めて考えておくよ。ねっ、脳筋リーダー代行」

「うん? みんながいいなら異論はねーが。リーダーがなんて言うかな」

「ラキュースは蒼の薔薇には戻らないつもりみたいだよ。今は、と言っておこう。刑の問題とか残ってるから」

 そう言うと、メンバーはそれぞれ無言で頷いたがクレマンティーヌだけは聞き流していた。

 基本的にクレマンティーヌは自由な活動を好む。殺し意外はあんまり興味が無さそうだった。

 それでも与えられた仕事はプロとしてこなすのだから頼もしい。

 

 それぞれが食べ始める頃になると静かになった。

 特に理由は無いのだろうけれど、それぞれ食べ方に違いはあれど不平不満は出なかった。つまりは美味しいということだろう。

「ちょっと前まで一人だったのに。たくさん増えると安心はする。急に居なくなると……、私でも寂しくなるよ。無茶はせず生き残って下さい」

「もちろんだよ、旦那さん」

「私も生き残るよー」

 笑顔で手をプラプラと振るクレマンティーヌ。

「この家はアインドラ家だが、拠点名は『蒼薔薇の園』とする。ラキュースは居ないけれど、みんなは大切な仲間だよ。家族の方がいいかな?」

「仲間でも特に異論は無い」

「俺もねーけどな」

「同意。蒼薔薇の園か……。でも、この家……蒼くはないよね」

「それらしい絵でも探しておくよ」

「私達が壁に描いておくから」

 それぞれが楽しく話しているとヤントラは心の内では大切な人達を守りたくなった、と思った。

 冷酷な自分に嫌がらずについてきてくれたのだから、彼女の達の為に住みよい環境は整えたい。

 目下は麻薬事件がどう進展するかが気がかりだ。

 貴族が圧力をかけにくるのは不快ではあるが、敵は倒す。

 イビルアイも手を拳にして力を込めているようだった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 あくる日、ヤントラは魔術師ギルドに向かい、目ぼしいスクロールを調査していた。

 補助系で使える物は多少必要なので勉強がてら学んでいる。

 上級クラスは扱っていないようだが、毒や病気関係以外の特殊なケースが無いか探した。

 ユグドラシルでは六千近くの魔法があると言われていたが、それらにも含まれない零位階魔法があったり、『警告(アラーム)』もこの世界特有の魔法だと後で知ったくらいだ。

 たくさんありすぎて新しいのかどうかははっきりしなかったが、超位魔法や第四位階以上は扱っていない事は理解した。というよりかは伝説の部類なので誰も知らないのだとか。

 魔法は開発することが出来る。

 その作成はさすがに秘匿されているが、新しい発見はヤントラにとって使えなくても楽しくさせた。

 鍵開けや罠回避よりかは転移は無いかと探したが無かった。

 拠点移動は自力でするしかないようだ。

 次に向かったのは馬屋。

 普通の馬から軍馬まで扱うらしいが今は農作業以外は売られてしまっているらしい。

 軍馬の中で高級品と言われているのが八本足(スレイプニール)。

 バハルス帝国は多数持っているが王国にはなかなか出回らない。

 殆ど高級品は貴族が独占してしまうらしいので市場には貧相なものしかない。

 普通の馬を買うくらいなら飛ぶよな、とがっかりして引き返す。

 帰り道にがっしりとした体格の老人を見かけた。

 レアモンスターのセバスだろう。あれほどの存在は王国でも見かけない。

 背筋を伸ばし、堂々とする様は老人とは思えない。実際、中身はかなり若いはずだが仕方が無い。

 仕事の邪魔しても仕方ないと判断し、引き返そうかと思ったが、一つ確認しなければならないことを思い出す。

 執事のセバスはこちらの気配に気付いたのか、振り向いた。

 以前より殺気は感じないが迫力は伝わってくる。厳(いか)つい顔なので仕方ない。

「これはバスパ様。奇遇ですな」

「そうだね。飛び回っていたから久しぶりだ。今日も調査かい?」

 落ち着ける場所に移動しつつヤントラはセバスと共に歩いた。

 ユグドラシル時代のセバスは設定された言葉以外は喋らないし、表情の変化も感情も表さないキャラクターだった。

 設定では色々と盛り込まれているのだが、カルマ値は極善となっていて悪のナザリックのメンバーの中では珍しい部類だ。

 単純な攻撃では階層守護者を超えるとも言われているが、本気のセバスはなかなかお目にかかれない。

 

 王都の中で城に近い場所に憩いの場があり、二人は腰掛けられる場所に落ち着く。

「……君しか思い浮かばないが……、ラキュースを救ったのはセバスか?」

 無駄な議論はしない。単刀直入に切り出す。

「私はただ枯れ木を拾っただけでございます。皆様方が街中に落ちているゴミにお困りのご様子だったもので」

 表情の変化は無い。いや、セバスとてバスパに対し言葉は選ぶ。

「それで連絡も無しか……」

 そういうとセバスが小さく唸った。

「……そのお陰か、私にも怒りがある事は分かったし、彼女を愛おしいと思った。ただの冒険の仲間に過ぎないはずが……。手放せない存在になるとはな」

 セバスは黙って聞き入る。

「素直に礼を言う。セバスのお陰で色々と予定が変わり、新しい道に進めることになった。だが、幸せな道ではないのは変わらないようだが……。とにかく、ありがとう」

 ヤントラは深く頭を下げた。

 セバスの行動を咎めるつもりは少ししか無いが、それはまあ無視することにした。

 仲間と共に未知の旅をするのがヤントラにとっては憧れだ。

 難易度の高いダンジョンでもあれば潜りたい。

 苦楽を共にする仲間は必要だろう。ユグドラシル時代が酷かっただけで。

 初期の頃に付き合っていた森妖精(エルフ)の二人は仲間という訳ではないが、それなりに冒険を一緒にさせてもらっていた。

 目的が無いから三人で移動していただけ。

 初心者も時が過ぎればそれぞれ自分の冒険に向かう。

 ただそれだけで別れていった。当時のレベルでは三十辺りだっただろうか。

 出会いと別れは冒険では不思議なことは無い。引退していく者も居る。

 

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