ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
戦争を無くすという事は侵略を許す、ということだ。帝国は少なくとも引く気は無い。
王国は弱体化している。
結果は見えている。抵抗するだけ犠牲が積み重なるだけだ。
「問題は貴族の態度かな」
貴族くらいは居るだろう。王国というからには。
好きで戦争する平民は居ない。
「お兄ちゃんがせんそうを止めてくれるの?」
ネムが無邪気に尋ねてきた。
「正義の味方もいいけれど、仮に帝国を倒しても王国側が攻勢をかけて犠牲者を出すだけだよ。結局はみんなが困る」
今の言葉に大人が感心したようだ。
「では、どうすれば争いを無くせるのでしょうか?」
エンリが身を乗り出さんばかりに尋ねてきた。
その瞳は真剣そのものだった。
「国民が仲良くなればいい。それぞれの国は往来を禁止しているわけではないのでしょ? あくまで命令する権力者が困るようなほど仲良くなればいい。偉い人は国民の幸せのための知恵を絞ればいいわけだ」
理想論ではあるが暴論というほどでもない。
「一度手にした権力は手放したくないもの。ですが、国民とて商売するためには知恵を絞るでしょう。偉い人を倒すだけが平和への道ではありません。と、私は思います」
平和的な意見にエンリも納得したのか、何度も頷いていた。
ヤントラにとって戦争は特別なものではない。
いざとなれば渦中に飛び込みたい気持ちだった。しかし今は色々な情報欲の方が
理想論は結局は理想でしかない。実現には途方も無い時間がかかるもの。
冒険をするヤントラにとってはモンスター退治の方が魅力的だった。
ヤントラには支配欲が無い。
モモンガのようにギルドをまとめる能力も無い。
政治に切り込む気はないが邪魔する者は許さない。ただそれだけだ。
「理想論を言っても仕方が無いけれど、帝国も騎士たちを
「そこまでは分かりかねます」
「例えば騎士や兵士の武器を作る職人が仕事放棄したらどうなるんでしょうね。自分たちで武器を作れるんでしょうか? それとも強制労働に
「……ああ。すみません。そういうことは考えた事が無くて」
言われて見ればそうだ、とは思うが深くは考えた事が無かった。
農民には思いつかない世界だからだ。
「例えば国から兵士や騎士以外の国民を排除したとします。誰がご飯を作るのでしょうか? 誰が必要な農作物を作るのでしょうか? 本当に大切にしなければならないものがなんなのか、偉い人達は考えるべきだと思います」
「はい! 私もそうだと思います!」
「元気がいいですね、エンリさん」
「じゃあなんで戦争するんだろう?」
至極当然の疑問。
国は何故、戦争をするのか。侵略目的だと分かっていても分からない問題。
「弱いものイジメが好きなんでしょう。
「そんな理由で戦争するんですか?」
「戦争を起こすだけの力があれば不可能ではありませんよ。凶暴な
「戦争する理由を無くすってことですか?」
「はい。人間が嫌いだっていう理由の場合は……、お手上げかもしれませんが」
今の意見に大人たちは苦笑した。
難しい話しではあったがエンリは頑張って理解しようとしていた。
仲良く暮らすことに誰も反対しないだろう。
「国を統一すれば問題は解決する、と言ってくるかもしれません」
エンリが必死に考えている最中にヤントラは次の攻撃を仕掛けてきた。
「一見すると納得しそうですが、問題があります」
旅人にしては
本当に何も分からない人間なのだろうかと。
「国の仕事が無くなります。何故か。お金が流通しなくなるからです。治安も悪くなるでしょう。儲からない仕事は誰もやりたがらない。上層部が
言葉を重ねるたびにエンリは顔を青ざめる。
両親も少し深刻に思えてきた。
「誰かの為に働く方が生きる目的になって幸せだと思いませんか?」
「……思います。すみません。お話が難しくて……」
「経済という分野があります。商売をしている人には
「………」
「互いに独占せず、互いに
「それが出来れば苦労はしませんね」
「苦労すればいい。幸せのためなら何も問題は無い。苦労したくないんでしょう。戦争する人は」
「そうかもしれません」
エンリは完全に沈黙してしまった。
「下っ端である我々に出来る事はみんなに考えてもらうことです。それで少しずつ直談判。大勢で押しかけると圧力をかけられるかもしれません。小さな石でも積み重ねれば城も作れますよ」
ヤントラとしてはエンリが大人しくなったので泣かしてしまったのでは、と思った。
覗き込むと彼女は今にも泣きそうな顔になっていた。
平和への道はヤントラも遠いことだと思っているし、実現する可能性はとても低い。
経済を持ち出してみたが村人には難しい問題だろうとは思う。
労働力を大切にしない国は荒れる。それは帝国も王国もどこでも一緒。
いつも苦しむのは力の無い国民だ。
だから、力が無いなりに努力するしかない。
飲食、睡眠、酸素を必要としないアンデットはどうだろうか。
ヤントラはアンデッドだから問題は無いとは思っていない。
彼らにも欠点はある。
「難しくて分からないかもしれないけれど、自分で答えを探したほうが価値がありますよ。エンリさんにも見つかるといいですね。幸せになる方法」
「……はい。頑張ります」
それはとても弱々しい声だった。
エンリの頭の中は大混乱に陥っていたからだ。
「意地悪な質問かもしれませんが、ヤントラさんの幸せはどんなものですか?」
娘の
「モンスター退治ですね。国とかはどうでもいいので。未知の冒険のほうが魅力的ですから。町の
幸せそうなヤントラの顔に両親は驚いた。
彼にとっては先ほどの話しが全く興味の無いものに映っていると思った。
「そ、そうですか……」
すごい事を考えているはずなのに戦争は二の次のような扱い。
ヤントラの人となりがますます分からなくなった。
「では……、ヤントラさんが戦争に巻き込まれた場合はどうなさるのですか?」
「むろん戦います」
即答に父親は驚いた。
「弱いものイジメする騎士をぶちのめす。私は少なくとも弱い者の味方でいたいです。弱い者というか
触れれば切れる。そんな印象を受けた。
ヤントラはただのふざけている人間では無いとはっきり感じた。
戦うべきときは戦う。ヤントラはそう言っている。
村人である自分には出来ない力があるのかもしれない。
話しを切り上げ、晩御飯を頂く事になった。
オートミールは同じものだったが干した果実に
飲み水はヤントラの
「水は本当にただの冷たい水です。何も魔法はかかってませんよ」
母親はさっそく水を
意味は無いけれど用心することに関してはヤントラも賛成した。
「食料は現地調達が多かったみたいで、何も用意してなくてすみません」
ヤントラは深く頭を下げた。
正直、何か入れているだろうと思っていたのにポーション類しか入ってなかったのは計算外だった。
今まで何を食べてきたのだろうか。
ログアウトしてご飯を食べるとゲーム内の飲食がおろそかになる、というところは思い出せた。
ユグドラシル内の食事に
飲食不要のアイテムがあるせいだ。
時間の感覚は分からないが、村人にとっては就寝時間になりエンリ達は自分の部屋に向かった。
後半は無言になったエンリが気になったが仕方が無い。
ヤントラの寝場所は両親の部屋の壁際となった。
寝袋を取り出すが毎回、どこから出すのかとネムと両親は驚いていた。
旅人たるもの
アインズ・ウール・ゴウンの中には自分の部屋が無い。なので寝袋で一夜を明かすことがある。
基本的に夜型ではあるがNPCの中には不眠不休で動いているものが居る。それらを眺めるのも好きだった。
カルマが悪に傾いているのと人間蔑視のNPCが多いので、ほぼ
同じ人間種も居るけれど悪に傾いているせいか、友好的なセリフを聞いた事が無い。
たまには普通に挨拶してくることもあるけれど。
今ナザリック地下大墳墓に行ったら瞬殺されそうな気がする。せめて戦闘メイドの一人くらいは仲良くなりたかったな。
下等生物と仲良くなりたい異形種は居ないか。と、ヤントラは少し寂しくなった。
バスパから新たにアバターを変更したがNPC達の様子は特に変化していなかったと思う。
攻撃こそ止んでいたが、友好的とは言えない気もする。
邪悪と極悪だらけだし。中立以上のキャラは少ないかもしれない。
正式メンバーではなかったから贅沢を言っても仕方ないな。
でも、戦闘メイドは魅力的。自分も欲しいと思った。
旅で素敵な戦闘メイドさんが見つかるといいな。とは思ったものの居るわけないか、と呟いた。
別にメイド服にこだわりがあるわけではない。
戦闘メイドの立ち居振る舞いがかっこいいなと思っただけだ。
無骨なガントレットを装備した『ユリ・アルファ』とか。
今だったら本当に
結論から言えば、どいつもこいつも仲良くなれない。
どんな人間に会えるのか楽しみにしつつ眠りにつく。
睡眠不要のアイテムもあるが、ずっと起きているのはヤントラにとっては苦痛なので素直に眠る。
長い夜は一人では寂しいから。
ユグドラシルの人間種の睡眠はログインしている限りは眠り続けることが出来る。
普通はすぐにログアウトするものだが、第三者から見てみないと分からないがログインしたままになっているもよう。
ログアウトするとアバターが消える。
寝込みを襲うことも可能なので冒険に出るときは充分に睡眠を取るか、ギルドメンバーにアバターを守ってもらう必要がある。
ヤントラの場合はやられ放題。集中砲火とも評されたことがある。
本人は
面白さを逆手にとって危険な場所で寝てはシュールな最後を
ヤントラのリアルを知る者は少ないが、たっち・みーの
なので、寝起きに
深々と
痛みで目が覚めることはよくあったが今日はどうも寝付けない。
もう一度寝ようかとさえ思ったが、さすがにそれは常識的に起きなければならないだろう。
聞くまでもないが、異常事態らしい。
軽い挨拶でも、と思ったが気の利いた言葉は冴えない頭では浮かばない。
耳を澄ませばいくつもの悲鳴も聞こえる。決して目覚ましの音ではない。
寝起きを襲った割りに寝ぼけているようなヤントラに襲撃者は驚いたようだが、我に返り
出血量からは助かる見込みは無いと判断し、次の標的に向かって移動を開始する。
「村人は全て殺せ!」
「家は焼いてもかまわん!」
野太い怒声がこだまする。
多くの足音が静かな村に響き渡る。
金属音のぶつかる音。それは襲撃者の身につけている防具の音。
剣で目に付く村人を襲い続ける。
「………」
おぼろげながら聞こえてくる音をヤントラは聞きながら分析する。
統制の取れた動きなのか、たまたま村を遅いに来た強盗の
どちらにせよ、物取りではなく虐殺。
相手がどんな目的があるにせよ、理不尽な殺戮は許してはならない。そしてそれは立派な理由となる。
ヤントラは眼を見開き、飛び起きる。それはとても自然な動きだった。
ただただ無言のうちでアイテムボックスを
素早く着替える事も技術のうち。それは何度も経験した動きである。
回復用のポーションも既に飲みなれた。スクロールも自然な動きで取り出し、次々とボロボロに
「さて、こちらも
よく知る人物の口真似をする。たぶん合っていると思いたい。
両手に黒くて小さな剣を持ち、軽装鎧のはずだが色は少し血の様に赤い。
一呼吸で精神を統一し、
ヤントラはもはや無駄な軽口は叩かない。
カルネ村の襲撃。
それは
襲撃者はみんな兵士風の鎧を身にまとっている。
剣や槍を装備し、村人に襲い掛かる。
反撃するすべを持たない普通の村人にはなすすべが無い。
与えられた命令は『殺せ』だけだろう。
地下室が無いか調べられ、家に火を放たれる。
まさしく
いち早く気付いて逃げ出したエンリ達は旅人であるヤントラを見捨てることになり、後悔していた。
それでも助かりたい一心で
両親は襲われてしまい、どうなったかは見ていない。
妹を連れて逃げろ、と言うのが精一杯だったのかもしれない。
エンリの背中には逃げる瞬間に切りつけられた刀傷があり、血が服ににじんでいた。
走るたびに痛む背中を我慢して妹と共に逃げる。
痛みは今は我慢できる、と強く自分に言い聞かせて。
それでも一般人のエンリ達には訓練された兵士の足には敵わない。
「へっ、一人も逃がすなって命令なんでね」
勝ち
逃げ切れない。反撃しようにも武器が無い。あっても村娘のエンリには
言葉の通じない殺戮者。
これが戦争。理不尽な殺戮。
ヤントラの言葉をもっと真面目に聞けばよかったのだろうか。
相手に言えることは何も無いのだろうか。
人を殺すことをなんとも思っていない顔が目の前にある。
幸せになりたい、という言葉が意味を持たなくなる思い。
剣を構える人間に反撃するすべは先ほど使ってしまった。意表を突く殴打は結局のところ、自身の手を
無事な手は妹に繋がれている。
逃げ道も無く、ただ死を待つだけ。
戦争を無くす方法。みんなを幸せにする方法。
死の間際に思い浮かんだ言葉。
エンリは思う。
私はきっとこういう結末から目を
振り下ろされる剣は妹の命綱を簡単に断ち切ってしまった。
「ぁぁ!」
声にならない悲鳴。
兵士はわざと剣の
姉から離れていく、姉の一部。繋がった
力なく地面に落ちようとしているしっかかりと握っていた姉の腕。
ネムはそれでも離さなかった。信じられない現実に驚きつつも受け入れがたい結果をただただ見つめる。
悲鳴を上げるどころではないのかもしれない。
「おっと、失敗」
嫌らしい言い方で兵士は言った。人を斬る人間の顔とはかくも
噴き出す血は数瞬で途絶える。筋肉の収縮が始まろうとしているからだろう。
人間は簡単には死なない生き物だ。
それが例え腕の途中からたくさんの血が流れ出ようとも。
身体の重心が突然に狂うエンリ。
立っていられない。痛みと恐怖が
痛みを抑えようとも押さえるべき部位は妹と共にある。
「……うぁぁ!」
前のめりに倒れこむのを必死に耐えるのがエンリに出来たたった一つの生きる希望。
妹はほぼ放心状態でエンリを見つめる。悲鳴もあげられない。
それでも殺戮が終わるわけではない。
兵士はエンリの髪を掴む。
「おうおう、小便臭くなったな~。村娘は小汚くていけねーな」
「あんまり遊ぶなよ。まだ村人が残ってるんだからな」
後ろの兵士は村娘の惨状に
どんな風に悲鳴をあげ、助かるための
失禁などしたくてするわけじゃない。妹だって泣き叫びたい気持ちでいっぱいなのだろう。しかし、幼い少女は恐怖を表現することが出来ない。
呼びかけたくても
そんな絶望的な状況に更なる
兵士の手が無造作にエンリの顔に向けられる。
妹の目の前で
殺戮を好む人間は凶悪なモンスターすら
ズブリ。
そんな擬音がエンリの顔全体で聞こえて感じた。
痛みはもう分からない。
悲鳴も出ない。
顔から何かが引きずり出されることは分かった。
繋がっていた筈のものがブチブチと振動となって伝わってくる。
「見えるかい、おじょうちゃん。おねえちゃんの眼が」
容赦なく引きちぎられたエンリの眼球。視界が一気に暗黒に染まり、無事な方は赤く染まっていく。
「ほら、プレゼントだ。飴玉だと思ってお食べよ」
兵士は笑いながらネムに無理矢理姉の目玉を食べさせる。
抵抗しなかったのが不思議なくらい、ネムはされるがままになっていた。
もう考える力が無くなったのか。現実を受け入れる事を諦めたのか。
ただただ兵士によって口を動かす。
「お前、よくそんなことが出来るな。俺はそこまで人間はやめてねーぞ」
「いいじゃねーか。皆殺しの命令下したお偉いさんの言う事を聞いてんだから。これくらい経験してもバチは当たらんだろう」
姉の目を食べつつ傷だらけの姉を見つめる妹。
エンリは確かに残った眼で見た。
薄く笑いながら噛み砕いた姉の眼球を飲み込む妹の顔を。
言う通りにしたから助かるかもしれない。
そう言っているように見えた。
妹を責めることは出来ない。声が出せるなら
ネムのお姉ちゃんで嬉しかったよ、と。
「………」
絶望は留まることを知らない。
エンリはそう感じた。
今、笑っていたはずの妹の顔が消えた。
顔というか、首から上が。
いつ消えたのだろうか。
いつどうやって見えなくなったのだろうか。
まだ十歳に満たない妹には幸せになる時間がたくさんあったはずなのに。
それとも自分の目が役に立たなくなって見えなくなっただけなのか。
エンリは考えようとしているのに考えは全くまとならない。
側に居るはずの兵士も何もかも見えない。見えないというよりは真っ白すぎて他の色が見当たらない。
色どころか音も無い。
「そろそろ救世主の出番なのだろうけれど、私はそこまで善人じゃないと思うよ」
唐突な声。
「君の絶望はレベルアップにはまだ程遠い。案外、君は私の敵になるかもしれないな」
「………」
背中に突然の鈍痛が走る。
視界が一気に回りだす。いや、回っている感覚が襲う。
吐きそうなほどの不快感。
「そのまま死んでいなさい」
視界は白から黒に変わろうとしていた。
この声は聞き覚えがある。
私達が真っ先に手放した後悔。
村人の半数は兵士によって殺害されてしまった。
「あらかた片付いたかな」
「大変です!
監視していた兵士に伝令役の兵士が緊急事態を告げる。
「なんだ。王国の兵士どもでも来たのか?」
「いえ。それが……妙なんですよね。敵と戦っている報告が無いんです。発見時には死体となった後で……」
「なんだと!」
派遣された兵士は村人にどうこうできるほど弱くはない。
訓練された精鋭が集められているのだから、よほどの
「音も無くか?」
「
村に
部隊の責任者の兵士は村長に詰め寄る。
「村に
無駄な時間がかかるからだ。
「し、知りません。村に来る人がどんな人かまでは……」
「では、質問を変えよう。最近、村に来た新顔は居ないのか?」
村長に職業まで見抜けるわけも無いと少し失態を
小さな村に
もう一度、村長に意識を向けた途端にこの世のものとは思えない
「オオオォォォー!」
人間というよりは巨大なモンスターの鳴き声だろう。
兵士たちの誰もが聞いた事のないものではあったが、一斉に緊張が走ったのは事実だった。
とても人間の出せる声量ではない。
それぞれが身構えていると広場に人間大の
「お前の言った
静かな殺戮者が大声で叫ぶはずがない。
飛んできたものは連れて来た兵士の一人だった。
手足があらぬ方向に曲がりくねっていて絶命しているように見えた。
よほど怖いものを見たのだろう。恐怖に
「て、敵襲~!」
誰かが叫んだ。
村を襲撃する際は村人が逃げ出さないように計画してから行われている。もちろん外部からの応援も考慮してだ。
異常があれば即座に連絡が来る。
「数は!」
「一人……、一体と言った方が……。とにかく、化け物です!」
化け物くらいなら
だが、隊長格の兵士は首を傾げる。
この辺りに出没する凶悪なモンスターはせいぜいが身体の大きな『
訓練された兵士にとってはさして脅威になるようなものではない。
それとも兵士には対応できない強さを持っているのか。
色々と思考をめぐらせるが答えは当然、出ない。
「オオオォォォアアアー!」
雄叫びは更に大きくなった。
近づいている証拠だ。
小さな村なのだから姿が見えないのはおかしい。建物の影になっているせいだろうか。
そう思った次の瞬間、黒い暴風が仲間の兵士を吹き飛ばしながら疾走してくる。
それは暴力の
否。
一撃の下に
形が保たれていれば運が良いとさえ思うほどに。
大きさはニメートルを少し超えた巨人と呼んでも良いくらいの背丈。
化け物が装備しているのは凶悪な雰囲気をかもし出している大型の剣。それはフランベルジュと言われる刀身が波打つような形の大剣。
もう片方の手には大型の盾。おそらくはタワーシールドだろうか。
悪魔を
その異様に一部の兵士が放心したように見つめる。
戦う意志を
明らかに兵士だけを狙っている。
確実に。
逃走を許さないとでも言うのか。追うスピードは早く、馬よりも早いのではと思わせるほど。
見る限りは鈍重そうな印象を受けるが、自らの装備品など最初から無かったかのごとく軽やかな動きをしていた。
振られる剣は
中には盾で押し潰されている者も居た。
どれだけの重量があれば
悪魔の如き襲撃者の剣と盾は血と肉片で凶悪さが増しているようだった。
「隊長! あれを!」
兵士に指されれたのは眼を
悪魔に殺された筈の死体が動いている。
全身の骨が砕かれているのは遠目でも分かるほど。その死体が動いている。
死んでいなかった。そう思う者も居ないわけではないだろう。
隊長は経験から生者と死者の違いを予感のようなもので察知できる。
あれは死者だと自分の心が告げている。
多くの者を殺してきたのだ。見るだけで分かることもある。
「スクワイア・ゾンビ!?」
『
カルネ村より離れたところにあるカッツェ平野には多くのモンスターが出没する。
戦争の舞台にも使われる土地で、兵士の死体が転がっていても不思議は無いほど。
アンデッドモンスターに殺される中には
それが目の前に現れた。
肉塊になったものはさすがに襲ってこないだろうが肉片とはいえ、集まればなんらかのアンデッドモンスターになる可能性はある。
ユグドラシルにも存在し、倒した者と同じレベルで
ちなみに
鎧を着た
敵が増える、ということは対処に
迫り来る黒い暴風一体でも厄介なのに、これ以上の増援は不利になる可能性がある。
「気を引き締めろ! 防御を固めるのを忘れるな!」
村人を虐殺していた兵士とは思えない
虐殺対象が村人だったのが今は自分たちが虐殺対象になってしまった。
相手は確実に仲間を殺している。
動きは素早いが、離れた兵士にわざわざ向かっている。
それは近くに兵士が居るか、居ないかの違いかもしれない。
今回連れて来た兵士は二百人。半数は村の外で監視している。
それらが未だに何も合図を送ってこない。
そのことに隊長はようやく気付いた。
外の兵士はどうして何も合図してこない。
考えられることは王国軍の兵士と交戦している。逃げ出した村人の数は少ないのだから、彼らと戦っているとは思えないが。
もう一つは既に全滅している。
どちらなのだろうか。または第三の可能性でもあるのだろうか。
近くに居る兵士は十人たらず。これだけでも残っている村人は全員殺せる。
「くそ!」
先ほどの報告にあった
謎の襲撃者が外の仲間を倒したのか。それにしては
村を取り囲む形に兵士たちを配置しているのだ。
数人が倒されただけでも報告の角笛くらい吹けるだろう。
それが一切無いのは異常事態だ。
「……それとも、中の様子に気付いていない?」
それもありえる事態だろう。
とはいえ、獣じみた
今も奴は