ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
呼び出された建物。正確には誘拐してから脅迫状を置くはずが蒼の薔薇の撃退によって作戦は失敗。
脅迫状だけ落としてしまう結果となっていた。
ヤントラ達が向かっている建物は既に引き払っている可能性はあったが、クライムの下に探索班の一人が報告にやってきた。
「敵は『六腕』の残り全てが集まっているそうです」
「……撃退する自信があると見える。ちなみにゼロとはどういう人間ですか?」
「拳のみに特化した攻撃を得意とした格闘家だそうです」
「セバスみたいな人ですね。暢気に遊ぶわけにもいきませんから、さっさと倒しましょう。セバスは雑魚の掃除を頼むよ」
「畏まりました。それから証拠資料の収集を行った後は彼女達にお渡ししておきます」
ヤントラは頷き、それからすぐに目的地の建物に到着する。
目が夜に慣れてきたとはいえ視界は悪い。
『
ヤントラは後から来た協力者に捕縛を頼む。
「場合によっては手足の
普通の会話のように言うヤントラに数人が背筋に冷たいものを感じた。
〈
捜索隊よりも先にヤントラは敵勢力を把握する。
というよりは盗賊系の
高い塀に囲まれているが複雑な造りはしていない。
庭の方に数人が固まっていて、建物内部はまばらに生命体が居るようだ。
「セバスは庭の奴らを片付けて、我々は建物内部。人質は任せました」
いつの間にかヤントラに仕切られてしまったが誰も文句は言えなかった。
セバスはすぐに移動する。その速さは誰もが驚くほどだった。
「一人、行って下さい。無駄な時間は無いのでしょう?」
「は、はい!」
彼が駆け出すとともにヤントラも建物内部に突入する。
「……そういえばアインドラ卿は
今更ながら思い出すクライムにブレインはただただ呆気に取られていた。
自分の活躍の場が無い気配を感じた。
五分後にはセバスが戻ってきた。
『六腕』の四人が固まっていたらしいが、一人はアンデッドで滅び、残りは手足が千切れたり、折れたりしているが生きたまま確保となった。
討伐には一分ほどかかったとセバスは言った。
「……早い。早すぎだろう、あんた」
「周りの調査に時間がかかりましたよ」
セバスが返事を返す頃に入り口から人間が転がり出て来た。
ヤントラが暗い通路から姿を現す。彼は誰かを引きずっているようで、ブレインの下に無造作に投げて寄越した。
「いや~、丈夫だね」
「……貴様」
怒っているのがゼロらしいが、ヤントラは困った、という顔をしていた。
「こいつ、サキュロントじゃねーか」
投げ渡された人物を見てブレインは驚く。
捕縛されていた者が何故、と思いはしたが保釈されていたのだとすぐに理解した。
そのサキュロントが手足を折られた状態で気絶している。
ヤントラは軽い動作で大人の人間を放り投げた。それは普通の人間には出来ない芸当だろう。
「人質に化けて待っていたようだけど、その人質が居ないのに意味無いよね」
そう言っている間にゼロは
身体に彫られた
筋骨
彼はシャーマニック・アデプトというクラスを持ち、動物の霊魂を身体に憑依させ、そのすぐれた肉体機能を行使する
そんな能力はヤントラには興味を抱かせるほどではなく、一瞬で距離を詰め鎖骨を殴りつける。
優れた筋肉ならば耐え切るかもしれないが、ヤントラは特に相手の事など知るよしも無い。
攻撃を当てさえすればいいのだから。
相手がヤントラの攻撃を避けられるものなら避けるべきだ。
動物の身体機能だろうとモンスターを倒してきたヤントラには関係ないことだ。
ズトン。
という重い衝撃がゼロの肩から広がっていくが、ヤントラは構わず次の攻撃に移りゼロの横っ面を殴る。殴られた近くの眼球が飛び出る。しかし、ここで殺してはいけないことに気付き、手加減しなければと思いつつ反対側の鎖骨を殴る。そのまま内太ももを殴る。殴る。殴る。
硬いガントレットで殴るのだ。受けた骨は即座に粉砕される。というより粉砕するように殴っているのだ。
それは滅多打ちだった。後でどうせ回復させるのだから抵抗しないように徹底的に痛めつけておく。
ここまでの攻撃は一分も経っていない。いや、三十秒も経っていないだろう。
総攻撃数は十を少し超えていたが、そこでやめる。
やめたのは殴ること。それで終わらないのがヤントラである。
手早く用意した短剣で両腕と両足を複数回、滅多刺し。
ゼロは意識がないのか、ずっと黙っていた。
「こんなところか。あとは任せたよ。たぶん、生きてると思うけどね」
涼しい顔でヤントラは近くに居た人間に声をかけた。
「……あっ、はい」
相手が無防備にやられる様は滑稽に見えるほどだった。
打撃音があったことさえ忘れるほど。
ゼロの身体は一分後に出血する許可を得て、満足したように沈黙する。
「屋敷の調査もお願いします。では、次に行こうか、クライム君」
「……はい。とても……、驚きました」
「一撃で倒せない辺りは大した事ないよ。強いモンスターはだいたい硬い肉体を持ってるから倒すの大変なんだよ。クライム君、しぶとい敵になりなさい。それだけで戦う相手にとっては脅威になるから」
「はい」
「手柄は君達にあげるから、飛び級は勘弁してね」
本当に時間を無駄にせず『六腕』を叩き潰してしまった。
彼らの装備品を貰えないかと聞いてみたが事件が終わらないうちは全て回収することになっていると答えた。
ヤントラは『六腕』を片付けたのでセバスとは別行動に移ることにした。
「私は蒼の薔薇の下に行くよ。気をつけて」
「そちらこそ」
ブレインはただ見てるだけだったが謎のヤントラに戦いを挑むのは日を改めた方がいいと判断した。
いとも簡単にやってのけていたが、肉体的な損傷は計り知れないだろう。
鎖骨への一撃。あれだけでゼロは反撃の機会を失ったのだ。
次の頭部への一撃。それで勝負はついていただろう。
一方的な攻撃。反撃を許さず、手足への滅多刺し。あれは骨も断っていただろう。
「俺の知ってる化け物とどっちが強いだろうか」
あの『
『八本指』の各拠点を襲撃する計画に参加していた蒼の薔薇のガガーランは尋常ならざる敵と遭遇していた。
人の手足を貪り喰らうメイド服を着たモンスター。
「今はぁ、お腹がいっぱいだから見逃してあげるぅ」
戦闘用の装備に身を包むガガーランは本能的に武器を構えて相手を見据える。
「そこに居た奴はみんな食ったのか?」
「人間のことぉ? お腹が空いてたから美味しく頂いたのぅ」
甘ったるい声を出すが表情が変わらない。代わりに喋るたびにギチギチと金属を擦り合わせるような音が聞こえる。
「人質かどうか判断してるのか?」
「んー、今日はぁ、男ばかり食べたけどぉ。よく分からない」
最初こそは化け物と思って倒そうと思ったが人間の言葉を喋るので会話を試していた。
正直、食べている現場を少し見てしまったので殺してやろうという気持ちが強かった。
声は成人女性。顔には切れ目のようなものが走っており、作り物のように思えた。
「そこにたくさんの資料というか証拠品があるはずなんだけどさ。それ、渡してくれねーか? 食べた人間は仕方ねーけど」
肉片を渡されても困る。
「ゴミみたいな紙くずも欲しいの?」
「お前らにとってはゴミかもしれないが、調べないといけないんでな。写しは渡すぜ」
「……そんな命令は受けてないけどぉ。別口は知らないなぁ。それ……、本当かなぁ」
聞けば聞くほど気持ち悪い。というのもモンスターの顎から血が垂れているからだ。
顔の口の他に顎のところにも口があるらしい。
目的の建物にガガーランがついた時は既にモンスター娘が出て来たところだった。
おそらくは制圧されたのだろう。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
モンスター娘は懐から『
「セバス様。至急ご確認したいことがございます」
と、丁寧な口調でモンスター娘は喋り始めた。しかし、顔の口は一切動いていない。
数分間のやりとりの後でモンスター娘は丁寧にお辞儀してきた。
使い終わった符はボロボロに崩れ去る。
「確認いたしました。証拠品は多数ありますので、その全てを持ち帰ることが出来ません。確かに写しを頂けるのであれば、そちらに提出しても良い、とのことでした」
先ほどまでの甘ったるい喋り方ではなく、丁寧な口調になった。
「……ほっ。では、調査に協力してくれるのか?」
「協力? そのような命令は受けておりません。あなた方に証拠品となるものを提出することだけでございます」
「ケチクセーな。まあいいか。中に生存者は居るのか?」
「刃向かう人間はぁ、おいしくいただきました~」
それだけで中には誰も居ないと分かった。
足元に転がる紙の塊を拾いつつ、ガガーランは施設の中に入る。
凄惨な現場だった。
あたり一面が血の海のようになっていた。
食べ残しと思われる骨や肉片が転がっている。
顔を布で多い、血の匂いに耐えつつ証拠品の捜索を始める。
外では遅れてやってきたティアがモンスター娘と遭遇。
施設の入り口で黙って突っ立っているので話しかけてみた。
「私は蒼の薔薇の一人、ティア。中に誰か居る?」
「美味しそうな筋肉がぁ、一人入っていきましたぁ」
それだけでガガーランだと理解した。
「君はどうしてそこに居るの?」
「人間が逃げ出さないように見張っているのです。証拠品や証拠書類の写しを頂くまで」
「……それ、検証するのに時間かかるけど……。もし、待つ気なら私達の家に来る?」
「人間の住処にご招待? 人間食べ放題?」
「人間以外は食べないの?」
「一番は
「うちは女所帯だよ」
普通に会話が成り立つ。
一般的なモンスターなら問答無用が多い。
先に入ったガガーランは捜索が不得手だろうから交代することにして、建物の中に入った。
すぐにガガーランが出てきて、待機する事になったのだが、化け物がじっと見つめてくるのは気持ち悪かった。
完全に食料だと思っているのかもしれない。
「お前、人間を食べるようだが種族は何だ? 虫人間か?」
「私は『
「アラクノイドって何だっけ?」
モンスター娘は顔を外した。外れた顔も一つの生き物でカサカサと音を立てている。
彼女の素顔は無数の
ガガーランはそれで理解した。
「……蜘蛛っぽい顔だ」
虫が人を喰らう。
その蜘蛛がガガーランに顔を近づける。
「おうっ。何だっ」
「……不思議な匂いする」
逃げようとするガガーランを素早い動きで捕まえる。外していた顔は後頭部に移動していた。
モンスター娘はガガーランの鎧からくまなく匂いを嗅ぎはじめる。
彼女が腰から背中へと匂いをかぎつつ、ガガーランの首筋にまで這い寄ってくる。
「……おっと、いけないいけない。うっかり食べてしまうところでしたぁ」
「おいおい」
振りほどけない。
力に自信があるガガーランでもモンスター娘を引き剥がせない。それは並みのモンスターではない証し。
見た目は弱そうだが、強いのだろう。
「……力が強いなら荷物運びを手伝ってくれねーか? 密輸品とか調べなきゃならねーから」
「人間に持てないほどならば……、仕方ありませんね」
ちゃんと会話が成り立っている。
それは素直に驚いた。
知能の高いモンスター。
ティアが建物から出てきて、袋をガガーランに渡す。
「荷物はこいつに運んでもらう。っていうか、名前はあるのか?」
「人間に名乗らなければなりませんか?」
「……多少は呼ぶのに困るけれど、いい愛称とかあればいいかな」
ガガーランから離れ、姿勢を正すモンスター。
「私は『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ』と申しますぅ」
「俺はガガーラン。よろしくな」
「先ほどシモベ達に運ばせたものも持ってきた方がいいですね。写しの作業をこちらからも派遣いたしましょうか?」
「それは助かるけど……。それにしても王都によく入れたね」
自分たちが調べた限りは見かけない姿をしている。
八本指が裏で動いているのに把握できないのだから仕方が無いのかもしれない。
膨大な資料だろうと精査しなければならない。
それには蒼の薔薇以外の協力も必要だろう。
今回の一斉襲撃には多くの助っ人が参加している。彼らにも手伝ってもらいたかった。
「他の貴族には内密で運べるかな?」
「細かい注文にはお応えしかねます。ですが、出来る限り努力致します」
丁寧な挨拶をする虫人間。
言うが早いか、複数の符の札を撒き、様々なモンスターを召喚する。
魔法の系統では精神系と言われるものだ。
「荷物はどちらまで運べばよろしいでしょうか?」
「案内するよ」
ガガーランは呆気に取られていた。
事前の説明が無ければ戦っていたんだろうなと思った。
それはそれで結構な事だが、本来の任務がおろそかになってしまう。
「ガガーランも……って、武器は邪魔だね。荷物はこっちで運ぶから次の場所に向かって」
「ん……。分かった」
今回はモンスター退治ではなく王都の闇を退治しなければならない。それを忘れてはならない。
次々と八本指の拠点を制圧していくが複数の拠点を使い、逃げ回る幹部を見つけるのは困難を極めていた。
彼らの集合場所は未だに発見できず。
証拠品の多くはアインドラ家に一時保管することになった。
危険な麻薬は多かったが、それは木箱に詰められるだけ詰めていった。
「書類の精査には時間がかかるけれど、君たちは急ぎの用があるの?」
「次のご命令があるまでは待機だよぉ」
案内された家の中でエントマは椅子に座ってくつろいでいた。
室内の匂いが気に入ったのか、大人しくしていた。
「家の中に虫をばら撒いたりしないでね。一人、虫で……あっ……」
今、会わせてはいけない人物を思い出した。
確実に戦闘になる気がした。
「エントマはどんな虫が使えるの? 急ぎで教えて」
「様々な虫を呼べますよぉ」
「じゃあさ、身体の中に茶色くて羽の生えた昆虫みたいなのも使うの?」
エントマは首を軽く傾げる。
「それは……」
と、言いかけたところで家の扉が開かれる。
そこには今まさに会わせたくない人物が立っていた。
漆黒のローブを頭から被り、宝石が額に付いた白い仮面を付けたイビルアイが居た。
「変なモンスターを見かけたと思ったら……、何者だ?」
「こ、こちらはエントマちゃん。お手伝いさんだよ」
遠目からでもおかしな姿をしているのは分かるのだが、自分の記憶にある知り合いの姿は無い様だった。
エントマは喋らなくてもキィキィと何かの鳴き声が身体から出てくる。
「こちらはイビルアイ」
エントマは大きな目をイビルアイに向ける。
「全員と顔合わせが済まないと戦闘になりそうだから、エントマちゃんは出来れば大人しくしてほしい」
「お腹が空くと分かりませんよぉ」
口を閉じた状態で喋るエントマ。
「そういえば、茶色い虫でしたね」
「むっ」
自分の胸を押さえつつもう片方の手をエントマに向けるイビルアイ。
ティアはすぐさま両者の間に立つ。
「イビルアイ、ここは我慢だよ」
「あなたのおっしゃる通りなら……、その虫は『恐怖公』の眷属かもしれません」
「エントマちゃんの虫とは違うんだね」
「あれは拷問に使いますからぁ。それとぉ、私のお菓子として頂いておりまぁす。体内の臓器を食い……」
「ああ、いいから。詳しくは言わなくていい。それはまた今度にして」
エントマは軽く唸り、大人しくなる。
イビルアイは倒すべき敵に『きょうふこう』という名前を刻んだ。
とても強いかもしれないが殺虫してやる、と殺意を覚える。
「ティナは大丈夫としてクレマンが来てくれないと不味いかも」
「……ティアはそのまま待機してくれ。エントマだったな。仲間を食ったら殺すぞ」
「ご命令があるまで私は人間は食べませんよぉ」
「というより人間以外では何を食べるの?」
「虫かなぁ。お野菜も頂きますよ」
雑食なのは分かった。
人間しか食べない相手ならば一緒に居てはいけない気がした。
「!? なにやつ!」
ティアは天井付近に『クナイ』を投げる。
イビルアイはティアほどの探知能力が無いので驚いた。
飛んでいったクナイは途中でピタリと停止した。そのすぐ後に何者かの姿が現れる。
「よく分かったっすね。さすが『蒼の薔薇』……」
クナイを持って地面に降り立つのは健康的な浅黒い肌を持ち、長い赤い髪を三つ編みのツインテールにした女性だった。ただし、仮面を被っていた。
服装はイビルアイも見たことの無いものでスリットの入った黒くて長いスカートだった。
しかも彼女は背に聖印を象った巨大な武器を背負っていた。
「ほいっと」
掴んだ武器をティアに返す。
「エンちゃんが人様のお宅に連れ込まれたから様子を見に来たんすけどね」
「任務だから」
「完全不可視化……、不可知化か?」
全く音も気配も感じなかったイビルアイは一歩下がった。
「ちなみに私は人間よりジャガイモとか好きっすよ。それにしても……、いい匂いするっすね、この家」
「うん」
エントマは頷きつつ言った。
「あっ、私らは蒼の薔薇の皆さんと仲良くするように言われているっすから。戦闘はしないっすよ。エンちゃんも仲良くするように、との事です」
「む……。了解」
「改めて、私はルプ……、ベータと呼んでくれっす。荷物運び、手伝うっすよ」
「じゃあ、書類と物品を分けて。羊皮紙は上に持っていくから、貴方達は物品の整理をお願い」
「りょーかい。他の人は居ないんすね?」
「みんな拠点襲撃に出払っているから。精査の作業に時間かかるけど……」
「外の荷物を考えたらすぐに出来ないのは分かってるっす。急かしませんよ。ご飯出るっすか?」
ティアは色々と説明をはじめ、イビルアイは外に出て仲間の無事を祈ることにした。
別の襲撃地点に向かっていたクレマンティーヌは敵以外の人物に出くわしていた。
それは王国最強の戦士長『ガゼフ・ストロノーフ』だった。
「漆黒聖典の君がなぜここに?」
「んー。今は蒼の薔薇に所属してるよー。なーに、ここで殺し合いでもする?」
建物内部で鉢合わせの格好となり、お互い相手の出方を窺っていた。
数度の激突でガゼフは相手の正体を看破した。
髪や顔、装備を黒く染めてはいるが戦い方に覚えがあった。
「我々も『八本指』の壊滅に動いている。協力してくれ」
「いいよー。っていうかもうやってるよー」
クレマンティーヌは即答した。
「結構、人は殺したし。割りと充実してるんだー。じゃあ行こうか」
「分かった」
「……それから私を罠に嵌めてもいいよー。きっちり殺してあげるからさー」
邪悪な笑みを浮かべつつクレマンティーヌは各部屋を静かに捜索する。
ガゼフの後を着いてきた協力者達はそれぞれ戦々恐々としていた。
ただ、ガゼフは彼女の仕事ぶりを見て、感心していた。
言葉は悪いが仕事は丁寧だったからだ。
「『六腕』は既に確保したそうだ」
「早いねー。結構てこずると思ってたけど……。じゃあ私達も頑張らないとね」
そう言いながら手下と思われる者をスティレット一本で次々としとめていく。
確実に行動不能にはしているが決して殺さない。
〈流水加速〉ですばやく手足を突き刺し、殴打による昏倒という方法を取っていた。
縛り上げるのはガゼフ達に任せている。
「手際がいいな」
「あんたらが雑なだけ。隠密に向かないよ」
「耳に痛いな」
暗闇の中を泳ぐように移動する彼女は敵にとっては脅威だろう。
リーダーを欠いた蒼の薔薇が気になっていたが、意外な人物を取り込んだものだ。
『六腕』という武闘派が居なければ後は雑魚ばかり。
次々と拠点を制圧していく。
『八本指』には統率するボスのような者は存在せず、互いの利益獲得の為に顔合わせするだけの組織である。
だから一角を落とされても他の幹部が無事なら新たな幹部を用意するだけだ。
それらを貴族連中がいいように利用して利益を貪る歴史を続けてきた。
その歴史は今日で終わることになる。
上での襲撃と同時に下ではナザリック地下大墳墓の階層守護者の一人『アウラ』が残った首脳陣を制圧していた。
「あれれー。五人だけ? こいつも入れて六人しか居ないね」
「上で残り、二人は、制圧された、みたいだよ。お姉ちゃん」
「そうなの? まあいいっか」
「か、勝手にやってバスパ様に、叱られないかな?」
「アインズ様のご命令だからいいんじゃない? あの人、命令系統はちゃんと理解してくれると思うけど」
そう言うとアウラの弟であり同じ階層守護者の『マーレ』はほっと胸を撫で下ろす。
「あの人が踏み込んでくると厄介だから、みんな連れて行くよ」
「うん」
「証拠書類などはセバスに渡しておいて。あたしらは解読できないから」
「うん」
二人はそのまま暗い通路を通って消えていった。
各拠点の制圧が終わる頃、次の拠点の情報が無いヤントラは帰宅することにした。
無理して全てを回る必要は無く、蒼の薔薇の為に夜食でも作ろうかと思ったからだ。
ギルドへの報告は朝でも出来る。
協力者に挨拶してから我が家へ戻ると廃墟になっていた。
モンスターがはびこる
普通なら武器を手にするが、ヤントラは普通に玄関を覗き込んだ。
「うわっ……。なんだこれ」
室内はゴミで溢れていた。
数時間前まで掃除して綺麗だった家の中とは思えない有様に眉根を寄せる。
「あっ、バスパ様~。お邪魔してるっすよ」
「ルプー……なのか? エントマも。来てたのか?」
「なんとかっていう組織の壊滅のお手伝いにね。あ~、バスパ様の家だからいい匂いがしてたんすね」
足の踏み場というかゴミが散乱していた。何匹か虫も潰れている。
自分の眷属の扱いは割りと雑なところがあるからな、と思いつつ家の中を見渡す。
「上にティアって人ともう一人仮面の人が働いてるっす。あと、八本指っすか? 制圧完了したそうっす。お疲れ様でした」
「そうか。それで君たちは何をしてるんだ?」
「資料の運び込みと写しを頂くまで待機、という形っす」
「次の指令があるまでぇ、待機命令も出ましたぁ」
「分かった。まずは掃除だな。エントマ。小さな虫は呼ぶな。とりあえず、応援を呼ぼうか。いや……、その前に腹ごしらえだな」
やることが急に増えてヤントラは苦笑した。
外での仕事の次は家での仕事。
暢気なメイドにも働いてもらおうと思った。