※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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E-7 森妖精を貰う

 ヤントラを背中に乗せるのかと思いきや、身体にかぶりついて運び出す。

 背中には乗せないけれど運んでやる、ということらしい。

 それでもヤントラは文句を言わずに大人しくしていた。

 アウラ達の寝床は四十メートルほどもある大木をくりぬいて作った住居である。

 階層構造になっており地下もある。

 高い木々が生い茂る中にあり、通常の侵入者は到達が難しい。もちろんトラップが発動すればの話しだが。

 フェンの案内で巨木の住居の入り口に『ペッ』という感じで吐き出され、幹に激突するヤントラ。

「丁寧に下ろしてくれ」

「グウゥ!」

 ここまで連れてきてやったんだから文句を言うな、を一言で表したような返事だった。

 ヤントラはフェンに背を向けて、入り口を数回ノックする。

 ユグドラシル時代は頻繁に訪れてきた場所だが、フェン達が見張る上で彼らの案内を必要とするように言われていた。

 多くはぶくぶく茶釜に取り込まれるように運ばれることが多かったが。

「は、はーい。どちら様でしょうか?」

 聞きなれない声が扉の向こうから聞こえた。

「ヤントラと言います。アウラとマーレはご在宅でしょうか?」

 そう言うと扉の向こうで息を飲む音が聞こえた。これも盗賊(ローグ)系特殊技術(スキル)の影響だろうか。

「……侵入者!? 一体何者ですか!?」

「……聞いた事の無い名前ですね……」

 声の主は女性のようで複数人居るようだ。というよりは森妖精(エルフ)が三人居ることは知っている。その内の二人なのだろう。

「今、言った以上の事をどう言えば理解されるのか、逆に聞きたいね」

 名乗って誰だ、と言われればどうしようもないだろう。

 振り返り、その場に寝そべるフェンに両手を広げる仕草を見せる。

「なあ、フェン。外から最上階に上ったら駄目だよな?」

「ガウ」

 力強くフェンは頷く。

 ヤントラは入り口の近くに腰を下ろし、待つことにした。

 門番や護衛が守る部屋というものは無数にあるが手続きが少し面倒であった。

 特に部外者のヤントラにとっては。

 第九階層は比較的楽な部類ではあるが、侵入者対策を考えれば仕方の無いことだった。

 アインズならば顔パスかもしれないが決められた手続きを踏むのも社会人としては必須の特殊技術(スキル)だろう。

「とう!」

 物思いにふけっていたヤントラの目の前に一つの影が降り立つ。

 扉の入り口ではなく外から降ってきたようだ。

「バスパ様じゃん。……ああ、ヤントラって名前だったね」

 見た目は十歳。設定では七十代後半の年齢。

 短めの金髪に浅黒い肌に長い耳。青と緑のオッドアイ。

 闇妖精(ダークエルフ)の少女であり第六階層の階層守護者『アウラ・ベラ・フィオーラ』だ。

 皮鎧をまとう姿は少年のようだが女性である。

「こっちから登っていったのに……。そんなんでいいのか?」

「あたしは気まぐれなのよ。バスパ様がここに来るなんて久しぶりじゃん」

「うん。中には入れてくれないのか?」

「ええっ! って、別に良いけど。マーレに用なら、あの子は仕事で居ないから」

「了解した。アウラが居れば充分だ。顔見知りが居るとほっとする」

 アウラは玄関から入り、ヤントラを招き入れた。

 大木の中は女性的な内装になっていて、大半がぶくぶく茶釜達女性プレイヤーの置き土産が多かった。

 ギルドメンバーで女性は三人しかいないのだが。

 マーレはその中でスカートを履かされている男の子だ。

 アウラが寝床にしているのは最上階。マーレは下の階を使用している。

 各階に寝台はあるので何処に寝ようが構わないのだが、姉であるアウラは弟より上の階を好む。

 階段を上る途中でメイド服を着た森妖精(エルフ)と思われる女性二人が立ち尽くしていた。

「ア、アウラ様……。その者は人間、なのですか?」

「そだよ。丁重に扱わなくて良いけど、飲み物要るなら自分で頼みなよ」

「しっかり食べてきたよ」

 気軽にアウラと話す人間に森妖精(エルフ)達は戦慄(せんりつ)を覚える。

 何者なのだろうか、というのが最初の疑問。

 ナザリック地下大墳墓に侵入して平気でいる者の正体が全く分からない。

 二人の森妖精(エルフ)達がヤントラを後ろから分析しているうちに最上階に到着する。

 普通に歩けば結構労力の要る家なのだが、森妖精(エルフ)達はしっかりとついてきた。

 最上階の八階に三人目の森妖精(エルフ)が部屋の掃除をしていた。

 各階はとても広く作られていて、ユグドラシル時代は多くの仲間や客人を迎えていた。

 個人の住居として作られていないので無駄に広く感じる。

 森妖精(エルフ)達が来る前はアウラとマーレとシモベ達で自由に使っていたのだろう。

 壁に引っかき傷があったりする。

 アインズとは違い、部屋の使い方はわりと雑である。

 各部屋は階段を覗けばスリッパで歩き回る。

「お邪魔します」

「どうぞ。お前たちは下で待機してて良いよ。……仕事は無いけど」

 三人はヤントラが気になるのか、八階で待機したいと進言し、アウラも頭をかきつつ許可した。

 ヤントラはいつも座る場所に座布団を敷いて座った。

 勝手知ったるアウラの部屋。

「もう少し女の子らしくても良いのに」

「面倒くさい」

 ヤントラは苦笑する。

 アウラは窓際に寝そべる。

「それにしても生森妖精(エルフ)は素敵ですな。三人も居ると仕事が重なるんじゃないか?」

 ヤントラのいやらしい目つきに三人の森妖精(エルフ)達は背中に悪寒を感じた。

「アインズ様のご命令で面倒を見ることになったんだけど……。正直、うざい」

「翻訳の仕事とか出来ないのか? 君達は社交辞令はどれくらい分かるんだ?」

「……奴隷に綺麗な世界のことなど……」

 鋭い目つきでヤントラを見据える森妖精(エルフ)達。

「請負人(ワーカー)というくらいだから戦闘は多少は出来るんでしょうよ」

「一人もらえるならメイドとして使えなくは無いが……」

「欲しいならあげるよ。処分は任されているから」

「アウラ様!?」

「三人も要らないもん」

 ヤントラは三人を品定めするように一人ひとり頭から足元まで眺めていった。

「うちは女所帯なので。君達なら分かるかな? 蒼の薔薇という冒険者達を」

「王国の……、アダマンタイト級の冒険者チームでしょ」

「私の家で生活している。彼女達は信仰系の仲間が欲しいと言っていた」

「……ウソ……。ア、アウラ様、この人は何者なのですか?」

 三人の森妖精(エルフ)は身を乗り出して尋ねた。

「一言で言えば……、至高の御方々に連なる者。人間ではあるけれどかなり偉い人だよ。何しろ我らの創世神のご友人なのだから。部外者だから外神とも言われている」

 凄い言葉が出てきたが、何がどう凄いのかは森妖精(エルフ)達には理解できなかった。

 どう見ても女の身体を求める野獣のように見えて仕方が無い。

「弱体化した神……。神ってわけでもないけど……。ナザリックの皆とは昔から仲良くさせてもらっているよ。ここでは主にバスパと呼ばれている。ヤントラでもバスパでも構わないから」

「信仰系は右の子だから。神官(プリースト)だったと思う」

 面倒な森妖精(エルフ)が減ってくれるほうが助かるし、全員を残さなければならない命令は受けていない。

 一人でも森妖精(エルフ)が残ってさえ居ればいいのだから。

「……あ、アウラ様……。この者の性奴隷になれと言うんですか?」

「はぁ? なに言ってんの。そんなの無理よ」

「……えっ? それは……どういうことでしょうか?」

「バスパ様は性別の無い人間ってこと。何も付いてないから」

 三人の森妖精(エルフ)は数分間、口をあけたまま黙ってしまった。

 その間、アウラは少し楽しそうに眺めた。

 

 アインズの命令とはいえアウラは自由を愛する。それをメイドなどに邪魔されたくない。

 命令が無いときは好きな時に寝て、好きな時に起き、果実などを食べてすごす。

 マーレは第十階層から本を借りてきて静かな時をすごすのが多い。

「女の裸を楽しむのが好きって言ってたか……。触られる程度だから性奴隷……、に入るのかな?」

「女性は大切にするよ。所在地がはっきりしていれば問題は無いだろう」

「ナザリックはメイドがたくさん居るから間に合ってるんだよね。文句があるなら……、命令。お前はバスパ様のところで働いて。アインズ様が必要と判断されたら連れ戻すけど、いい?」

「私は構わない。というか持ち出す先が私の家だと伝えておいてくれよ。逃げ出した~、とか大騒ぎされるのは勘弁してほしいからね」

「うん。ということで、分かった? バスパ様は意外と面倒見が良いそうだから」

 物のように扱われる事には慣れている奴隷の森妖精(エルフ)とはいえ、せっかくの安息地を離れることになるとは思わなかった。

 命令ならば従うしかない。それがこの地で生きる条件なのだから、と教えられていた。

「おっと、アウラにお願いがあって来たんだった」

「んー? な~に?」

「カルネ村の為に食料を融通(ゆうずう)してくれないか。小鬼(ゴブリン)達が増えたのは良いが、元々は小さな農村だ。食い扶持の確保が喫緊(きっきん)の課題になるだろう。だから『ダグザの大釜』を使わせてはもらえないか? 村に居るエンリやルプーと直接、相談して決めてくれると助かるが……」

「あー、そうだったね。カルネ村は守るように命令されていたっけ」

「この階層で食料生産も考えてみたが……、時間がかかりそうだし。マーレの協力も要ると大掛かりになりそうな気がしてね」

 真面目な話しにアウラは姿勢を正す。

 アインズからも食糧生産の命令は受けているし、既に畑などを作っている最中だった。

「コスト、払ってくれるの?」

「三年から五年を目処とするなら……、金貨七百万枚程度だろうか?」

 金額だけ聞いた森妖精(エルフ)達は小さく悲鳴を上げた。

 原住民にとっては金貨の枚数は驚くべき数字に聞こえたのだろう。

「アインズ様も関係していらっしゃるから金貨五百万枚で手を打ってあげるよ。カルネ村だけでしょ?」

「他の村は関知していないからな。戦争が近いせいで食料の調達が難しいんだよ」

 ヤントラはアウラに向かって土下座する姿勢を見せた。

「恥を忍んで頼む」

「あっははは。任せといて。金貨はシズに徴収させればいいんだよね?」

 元気に笑いながらブイサインをヤントラに見せるアウラ。

「ああ。しばらくは様子見だろう。その後は面倒見切れない」

「商談成立。それにしてもバスパ様はお人よしだね」

「皆から言われているよ」

 控えている森妖精(エルフ)は空恐ろしい人間を目の当たりにしているような気がして身体の震えが止まらない。

 ナザリックというとんでもない世界で平然としている人間。只者ではないだろう。

「アウラ様の……、ご命令ならば……」

「んっ? そんなに震えなくても良いのに。バスパ様はナザリックの負担を軽くしようと考えているだけだよ。拷問とかしないと思うけど」

「得体の知れない相手だ。私を怖がる分には構わない。……アウラ、階層移動の時、目隠しした方がいいのかな?」

 アウラに小声で尋ねた。

「……あー……、……念のために目隠しは必要かもね。それから彼女達の装備品はとてもじゃないけれどゴミばっかりだったから、それ着たまま連れてっていいよ。ミスリル製らしいけど」

「カルネ村の件は言ったな……。アウラ達も忙しいだろうが、よろしく頼む」

「うん。……持って行きやすいようにするから、離れて」

 アウラの言葉にヤントラは頷き、アウラの後ろに移動する。

 肺の中で成分を調節し、アウラは森妖精(エルフ)の一人に向かって息を吐き出す。

 アウラの魔獣使い(ビーストテイマー)の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)が発動される。彼女は様々な効果を持つ吐息を吐くことができる。

 今回は睡眠効果を持つ。ただ、範囲効果なので他の森妖精(エルフ)達もバタバタと倒れるように眠ってしまった。

「立派な誘拐犯だな。……ここ数日まで、アインズに殺される事ばかり考えていた気がする。どうにも世界にもてあそばれている気がしてならないよ」

「そうお?」

 目的の森妖精(エルフ)の手足を縛り、目隠しと猿轡(さるぐつわ)をかませる。

 残りの森妖精(エルフ)は邪魔にならないように床に並べた。

「私はナザリックと敵対したくない。原住民と仲良くしてほしいと思っている。なのに最初の時から異常な危機感に襲われていた。アウラ達は大丈夫か?」

「大丈夫だと思うよ。……たぶん」

 ヤントラには口止めされているが異常事態は起きていた。それはもちろん口外できない。

「そうそう、この階層は排泄や風呂は大丈夫なのか?」

「ちゃんと用意してあるよ」

「では、カルネ村は頼んだよ。頼みを聞いてくれてありがとう」

「いいって。森妖精(エルフ)を一人処分できると思えば安いものだよ。報告などはこちらでやっておくね」

「ああ」

 縛り上げた森妖精(エルフ)を担いだところでアウラが窓の外を親指で示す。

「そこから降りて良いよ。力になれることがあれば相談くらいは聞いてあげる」

「ありがとう」

 靴を持ってヤントラは窓の外に飛び出す。

 『飛行(フライ)』を使い、ゆっくりと地面に降り立つ。

 

 靴を履いてからフェンに手を振る。

 去るときはフェンやクアドラシルなどに挨拶すべし、とぶくぶく茶釜の指令が下っていたので実践している。

 あくまで運んできた相手は自分の仕事を全うしようとするので勝手なことをすれば凶暴化してしまうおそれがある。

 転移で森妖精(エルフ)をログハウスの中に置き、セバスに様子を見ているように頼んで第十階層に向かう。

 大図書館の様子が気になったからだ。

 ヤントラが中の様子をうかがうといつも作業しているアンデッド達の数が減っているが問題はなさそうだった。

「これはバスパ様。ようこそおいてくださいました」

「仕事で出払っているようだが、問題は無いか?」

「はい。主な仕事は我々だけで充分こなせますので」

「八肢刀の暗殺蟲」

 ヤントラが天井に向かって『エイトエッジ・アサシン』と言った。

 すると姿は見えないが気配が生まれた。

 普段は不可視化で姿を隠し、隠密行動を取っている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)というモンスター。

 人間大の大きさを持つ忍者服を着た蜘蛛(くも)に似た姿をしていて八本の脚から刃が生えている。

「……お呼びでしょうか?」

「この部屋に君達は何体居るんだ?」

「私を含めて二体でございます」

「一体以上居れば良いか……。ちなみに第九階層は何体で監視している?」

「三体ほどかと」

 様々な施設のある第九階層としては充分な数かもしれないと納得する。

 夫婦の営みもこそり覗かれているかもしれないが、異形種にはどうでもいい事かもしれない。

 仮に見られてアインズに報告されたらどうなるのだろうか。

 夫婦だから文句を言われる筋合いは無いよな。

 メイドの部屋にはこっそり探知妨害しているし、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)よりもヤントラの方がレベルは上だ。

「気の緩み無く行動してくれ。それが私であってもな」

「はっ、しかと心得ました」

 ギルドメンバーが居た頃はもっと活気があって彼らシモベ達も暇をもてあますことは無かっただろう。

 それぞれに仕事を与えて、次の冒険に出かけるのだから。

 

 ヤントラはそのまま武器を製作する鍛冶師の元に向かった。

 要望に応じて様々な武具を作ってくれる職人達が揃っている。

 魔法付与ともなれば少し割高になる。

 専門職のモンスターは基本的に非戦闘員。図書館に居る死の大魔法使い(エルダーリッチ)も同様に。

 中には演出のためだけに配置されているモンスターも居る。

 武具を主に製作するのは全身を炎の鱗で覆われたようなトカゲに似た火の精霊系のモンスターだった。

 激闘で傷ついた鎧、という細かい要望にも応えられる職人気質溢れる者達だ。

 手の空いている鍛冶師を呼びつけて、用意していた武具を並べる。

 必要な金属は手持ちの武具をいくつか潰して用意するが魔法付与は後で考えよう。尻拭い代としていくつか要望してみようかな。

 自分の為の武具も欲しいが、ラキュースの新装備にも使いたい。

 実際に作るには早いので話しだけ聞くことにした。

 必要な材料のリストを作ってもらい、玉座の間に向かう。

 アルベドがコンソールを呼び出してナザリック内に点在する施設の状況やNPCの様子の管理を行っていた。

 守護者統括のアルベドも非番の日はあり、他の階層に赴いたり、休養することもある。

 自室で休む事も当然ある。

「……このところタレントに振り回されている気がして、自分でも混乱してきたよ」

「それはお気の毒に……」

「ナーベラルにアルベドが疑われてしまった。裏切り行為にならないように説明するのは難しいな」

 アルベドは苦笑した。

「下準備は終わった。後はどうなるか、だ。ああ……メイドが増えていくようだが、仕事を与えないと困るだろう?」

「第九階層と第十階層は一般メイドに仕事が割り振られていますから。第六階層は……、アウラ達が扱いに考えあぐねていて……」

「暇になるメイドと新しいメイドで不協和音が出ないように気をつけてくれ。私に良いアイデアでもあればいいのだが……」

「第六階層に村を作っておりますし、外の世界にも拠点を一つ製作中でございます。それらが完成すればメイド達にも仕事を与えられるかと」

「人材は大切にしければいけない。その割りに帝国に報復(ほうふく)を行(おこな)ったと聞いたが……」

 アルベドは再度、苦笑する。

「命令の行き違いでございます。その件は既に済んでおりますので」

「皇帝と順調に会談したと聞いていたから……。……いい、関知しない。なにやら面倒な事態の予感がするから」

「ありがとうございます」

 深く詮索しないヤントラにアルベドは軽めのお辞儀で答える。

 ラキュースの新しい武具に必要な材料リストを見せて、融通できるものだけ頼んでみた。

 もちろんそれはアインズに報告しても良い内容のものだった。

 

 アルベドに用意できる武具の書類作成だけ頼み、第九階層に移動する。

 食堂に向かうと口唇蟲のお世話をしていたメイドから蟲を受け取り、お礼を述べる。

 次にラキュースの居る部屋に向かうと控えていたメイドが取り次いでくれた。

 ずっと部屋に張り付いているわけではなく、気が付いたら対応するように教え込まれていた。

 とにかく仕事を欲するメイド達だった。

 中に入ると柔軟運動するラキュースと飲み物の用意をしているメイドが居た。

「あら、あなた。来てくれたのね」

「元気そうで何よりだよ」

「だいぶ筋力がついたわ。後は髪の毛くらいかしら」

 見事な腹筋を披露するラキュース。

「君の武器を置いておこう。それと防具も」

「いいわよ。あなたが持ってて」

 過去の武具は良い思い出が無く、装備する気には今はなれなかった。

 国の為に戦うかつての冒険者にはまだ程遠い気がした。

 ヤントラは魔剣などの代わりにオリハルコン製の剣と軽装鎧を取り出した。

「更なる高みを目指せばいい。戦争後までにもっと強くなってくれ。その時、君を連れ出すよ」

「つ、連れ出す?」

「またナザリックに来るかは君が判断すれば良い。蒼の薔薇は今はナザリックと共闘しているからね」

「みんなが……。モンスターと一緒に……」

「新生蒼の薔薇のリーダーとして戻ってあげてくれ。モンスターだけが敵ではない」

「……その話しはじっくりと考えさせてもらいます」

「うん」

 自分がナザリックに居る間に夫は様々な事を考えてくれていたことを知り、嬉しかった。

 ただ単にナザリックの人身御供として送り込まれたのではないかと思いはしたが、頑張って信じようとした。

「……もし、戻れるなら戻りたい……」

 栄光は捨てても良い。仲間たちの下に帰りたい。

 その気持ちは今も僅かに残っている。

「案外、私は死ななくて済んでいる。それも世界の悪戯(いたずら)かもしれない」

 ラキュースはメイドを下がらせた。

「用意してくれた薬草、大切に使っているわ。夫婦なのにずっと離れ離れになっていたんですものね」

 そう言いながら服を脱ぎだすラキュース。

「今でも私はあなたの一番かしら?」

「私は女性を大切にするよ」

「前の武具よりは破壊の女神らしい物がいいな。もう純白にはこだわらないわ」

「色については完成してから相談しないといけない」

 裸になったラキュースと布団の上で重なる。その時にクレマンティーヌとログハウスに居る森妖精(エルフ)に蒼薔薇の装飾が施された武具を与えたほうが良いのか思案する。

 それは後でも良いか、と思い探知妨害を施(ほどこ)してから妻を愛撫(あいぶ)していく。

 

 服装を整えてラキュースに別れを告げる。

 妻を愛する行為とは自分にとっても大事なことなのだろう。

 本来の自分には決して出来ない。

 だから、この世界で死んでも良いとさえ思える。

 普通の死に方が出来るとは思えないが、ラキュースの為に生きてやろうと思った。

 交わした約束は忘れてはいけない。と、自分に言い聞かせつつ食堂で話し込んでいた三人のメイド達の下に向かう。

「随分と待たせてしまったね」

「いいえ」

「ご無理なら、それでも……」

「自分で頼んだことを忘れては君達に悪い。仕事のアイデアが浮かぶかもしれないし」

 ヤントラはメイド達を引き連れて『スパリゾートナザリック』に向かい、彼女たちに全身をマッサージしてもらった。

 しっかり三人に仕事を勤めてもらい、メイド達にもヤントラにも充実感が生まれる。

 ヤントラはお礼に彼女達の身体を洗った。

 優しく自然な動作さはメイド達もうっとりするほどの腕前だった。

 クノイチ(女忍者)の特殊技術(スキル)というわけではないだろうが、日ごろの鍛錬の賜物かもしれない。

「ああ……、眠くなりそうです、バスパ様~」

「私もお世話頑張ります」

「くっ、私達のお世話はまだ序の口だったか……。精進いたします」

「喜んでくれて何よりだ。第四階層には行けないが、溺れたりしないようにね」

「は~い!」

 そう言うと三人は元気よく返事をした。

 風呂上りの着替えもメイド達にやってもらい、ユリの元まで案内してもらった。

 現在、ユリは書類の整理をソリュシャンと共に行っていた。

「ご苦労様」

 そう言うと二人は静かに頭を下げた。

「シズの為に第三金庫は自由に使わせようと思う。仕事に差しさわりが無い範囲はユリが許可を出してくれ」

「戸締りの管理ですね。畏まりました」

「金貨は第三が空になったら第二、第一の順番で開けていくこと。一年以内に使い切りそうな気がする……」

 ユリは口元に手を当てて薄く笑った。

「第三は元々少ない枚数だから仕方が無いが……。銃器以外でアイテムが残っていたら第二に移動。その後はシズに使ってもらっても良い。念のためにアインズに報告しておいても良いから。メイドの部屋が散らかるのは頂けないだろう。小さなミスは命取りだ」

「はい。私も確認いたします」

「金庫の管理については手が開いたらシズに指導してくれ。それと……、侵入者対策は大丈夫なのか? 例えば、そこで……、ああ、思い出した『複写(ふくしゃ)』だ。複写作業をしている者たちが混乱したりはしないか?」

「非戦闘員への連絡は最後に回す予定でございます。ソリュシャン、エントマが静かに彼らを誘導するので」

「仮にログハウスを襲撃されても転移を管理する我らの末妹が遮断いたします」

 ソリュシャンも答えた。

「何事にも備えは大切だ。火事とかな。後で鍛冶師達とアルベドに会い、私が頼んだ見積もりなどを用意できたら書類と共に、……王国の方に持ってきてくれ」

「畏まりました。第十階層へは作業が終わり次第、向かいします」

「……シズをあまり叱らないように頼むよ……」

「はい」

 他に言うべき事は無いはずだと思い、部屋を出た後、第九階層を軽く散策する。

 

 再度、第十階層の鍛冶師の下に赴き、見本として武具を置き、シズに回収に来てもらい第二金庫に保管するように命令した。

 それからログハウスに戻る。

 指輪をセバスに渡し、ナザリックでの仕事はひとまず完了した。

 外はだいぶ暗くなっていた。

「……問題は王都までどう運ぶかだな」

「………」

 縛られた森妖精(エルフ)は起きていたようだが猿轡を強くかみ締めていた。

「しばらく寝ていなさい」

 まず魔法で眠らせて寝袋に入れた。森妖精(エルフ)の顔は仮面で隠し、背中に背負う。

 落ちないように身体に縛り付ける。

 立派な誘拐犯の出来上がりだ。

 迷彩柄の外套で身を包み、仮面を付ける。

「ではまたな」

「いってらっしゃいませ」

 セバスのお辞儀を見届けて、ヤントラは夜にまぎれて疾走する。

 今回は睡眠や飲食不要の装備品(リング・オブ・サステナンス)を使っているので無茶な強行軍を行える。

 強大なモンスターと長期で戦うために手に入れておいたアイテム。

 取られても良いように複数、持っているが本来なら使いたくは無かった。

 熟睡したい睡眠欲があるからだ。

 『飛行(フライ)』などを使い、空を翔(かけ)るように移動する。

 それでも王都までは三時間くらいはかかるだろう。もちろん、物凄く急いでいる場合だが。

 睡眠不要にすると待ち時間まで待機するのが苦痛になる。

 王都の前にエ・ペスペルが待ち構えているが無視する。

 実際のところは長距離移動で精神的に疲れてきた。

 森妖精(エルフ)を一人背負っている分は負担になっているのかもしれない。

 途中で休憩して、森妖精(エルフ)の生存を確認する。

 猿轡したままなので呼吸困難に陥っていないか確認する。それから王都に到着したのは五時間後。

 数日かかる移動に比べれば早いほうだろう。

 王都に極秘に侵入しなければならないのだが、夜間は警備が厳しい。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の扱いは悪いのだから魔法的な対策はヤントラにとっては突破することは造作も無いだろう。

 盗賊(ローグ)系の特殊技術(スキル)を使い、かつ探知妨害の魔法を展開し、城壁を乗り越える。

 反対側に着地し、物陰に森妖精(エルフ)を入れた寝袋を置く。そして、城壁の外に戻る。

 後は普通に検問を通るだけだ。

 警備が手薄と批判は出来るかもしれないが、ここはまだ王城から離れているので人員はあまり割かれていない。

 無事に検問を通り、寝袋を回収し、自宅に向かう。

 音も無く道を縫うように帰る姿は不審者以外の何者でもないだろう。

 

 アインドラ家に到着すると窓から光りが漏れてた。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「……ご主人、お帰り」

 出迎えの声は全て女性。

 そんな風景が今では当たり前になっていた。

 居間にティアとティナ。食堂にクレマンティーヌ。

 ガガーランは入浴中。イビルアイは二階。

「……これが全て幻……」

「いやいや、居る居る」

「旦那さん、お疲れかな?」

 没落した貴族家を占拠しているのだ。蜘蛛の巣が張り巡らされ、様々な調度品は壊れ、死体なども転がっていてもおかしくはない。

 彼女たちはアンデッドに生身の幻影魔法を重ねて。

 そんな下らない事が浮かんだ。

「今日は何も聞かないから」

「ささ、二階で少し休んで」

 一人が長かった為に家族や仲間にまだ慣れていないのかもしれない。

 ナザリックと同じく正式な仲間ではない。

 疎外(そがい)感かもしれない。だから、現実味を持てなくなる時がある。

 アバターである時点で現実味など幻想でしかないのかもしれないが。

「……単独行動の私には仲間や家族がまだ現実として受け入れられていないのかもしれない……。すまない、このところ調子が悪いみたいだ」

 長期に留守にすると本来の自分に戻るのだろうか。それともタレント能力の影響などだろうか。

 考えたところで答えは出ないだろう。

 自分の部屋に向かい、大荷物をベッドに置く。

 睡眠不要などのアイテムを外す。

 一気に睡魔が襲ってきた。本来は起きていられないほど眠りを欲していたのだろう。

 眠る前に部屋の様子を確認し、軽く掃き掃除をしてみる。

 思ったより汚れてはいないようだ。ほんの数日程度しか留守にしていないから、かもしれない。

 寝袋から森妖精(エルフ)を取り出し、仮面を外す。

 目隠しに猿轡と手足に結んだロープを外す。

 軽く顔を拭き、観察する。

 整った顔立ちに長い耳。横に向けては後頭部などを見る。

 同じ人間種なので首から下は普通の人間と同じものだろう。

 長命な種族だが、彼女の実年齢はどれくらいだろうか。

 アウラ基準で言えば百四十は超えているのかなと思う。

 ゲームでの設定だから普通に二十歳くらいと言うこともあるのかもしれない。

 靴を脱がして、体勢を整えて掛布団を乗せる。そして、自分の寝床が無い。

 添い寝しても良いのだが、手足だけ改めて縛っておこうかな。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 翌朝、ヤントラが目覚める頃には疲れらしきものは解消していた。

 軽く伸びをしてからベッドの方に顔を向ける。

 森妖精(エルフ)の姿は無かったが靴は落ちていた。

 逃げ出したところで意味は無いのだが、とりあえずは身支度の確認をしてから下に降りようと思った。

 階段を下りて洗面所兼風呂場に向かう途中で蒼の薔薇の面々に囲まれた森妖精(エルフ)が椅子に縛り付けられていた。

 手足しか縛っていないはずが、いつの間に、と疑問に思った。

「あ、おはよう、みんな」

「旦那さん、よく眠れた?」

「ん~、熟睡は出来たよ」

「……ご主人、無視するのも悪いから、聞いて良いかな?」

 クレマンティーヌは森妖精(エルフ)の頬をつついていた。

「貰ってきた。メイドとして使うか仲間として使うか……」

「……言い方は悪いが、ご主人が迎えたのであれば我々も歓迎するぞ」

 森妖精(エルフ)は鋭い目つきでクレマンティーヌ達を見ていたが、黙って大人しくしていた。

「プリースト(神官)だそうだけど、実力は未知数」

「おっ、信仰系だね~」

「仮ギルド『蒼薔薇の園』へようこそ。何か言いたいことがあればどうぞ」

 ヤントラはクレマンティーヌに頷きの合図を送り、縛っていたロープを解いた。

「か、厠(かわや)へ行かせて下さい」

 下水完備されている都市では厠の他にトイレや便所(べんじょ)という呼び名があるのだが、ヤントラは他の呼び方を聞いた事が無いので厠と認識している。

「どうぞ、こっちだよ」

 ティアが森妖精(エルフ)を案内する。

 数分後に戻ってきた森妖精(エルフ)は気持ちが落ち着いたのか、表情が少し柔らかくなっていた。

「本当に身売りされるとは思わなかった……」

「君、奴隷なの?」

「ええ。奴隷として売り飛ばされて他の二人と共に請負人(ワーカー)として働いていました」

「お腹すいてるでしょう。とりあえず、朝ごはんを食べよう」

 ティア達はそれぞれ食事の用意を始めた。

 クレマンティーヌは風呂場に向かった。

「私は奴隷についてよく知らないのだが、どう扱えば良いかな?」

「普通なら性奴隷。戦闘では罠避けが相場だな」

 腕を組んだガガーランが言った。

「どこぞの娼館のような扱いが多いみたいですぜ、旦那さん」

「実力は期待できそうに無いな。留守番も怪しいものだ」

 厳しい意見が出てくるが森妖精(エルフ)には反論できる言葉が無かった。

「お前にやる気があるのなら鍛錬に付き合ってやるぞ」

「戦うとしてお前はどんな戦い方をするんだ?」

「基本は弓です」

「弓だけ?」

「ナイフも少し……」

 女性達の質問には答えているようなので、ヤントラは少し安心した。

 戦力にならなくてもいい。森妖精(エルフ)の女性が手に入っただけで満足だ。

 クレマンティーヌもそうだったが彼女たちを本格的に使うのは先の話しだ。

 何事も顔合わせなどの下準備がいる。

「では、まずは自己紹介から始めようか」

 風呂場に行っていたクレマンティーヌが戻った頃に森妖精(エルフ)にそれぞれ自己紹介した。

「私は『ルリマリス・ワードラー』です。弓とナイフを少し。あとは調理担当とダンサーを少し……」

「よろしくね、ルリマリス」

「蒼の薔薇の皆さんのお役に立てるかは……」

「仲間は……、死んだのか?」

「他の二人はナザリックに居ます」

「ナザリックから連れ出して平気なの?」

 ティナはヤントラに尋ねた。

「階層守護者の許可は得ている。森妖精(エルフ)は私も縁のある種族だから、側に置きたくなってね。多少、口裏あわせは必要になるかもしれないが……。少しの間、この家で暮らしてみてくれ。ご覧の通り、男っぽいのは私くらいだ」

「あっ、脳筋を数に入れないの? 優しいな、旦那さんは」

「奴隷は期待できないかもしれないけど、森妖精(エルフ)は癒しだよね。あれ、でも、耳が長いね?」

 奴隷の森妖精(エルフ)は大抵が耳を中ほどで切られてしまう。それが奴隷としての目印となっていた。

「治していただきました。高い位階の治癒魔法でなければ治せなかったのですが……」

「ペストーニャだね」

 ヤントラが言うとルリマリスは口をあけて驚いた。

「そ、そうです」

「高位の信仰系魔法を使えるからね、彼女は」

「……あれは人間ではないと思いますが……」

「あそこに居るのはほぼ異形種だよ」

「耳が長いなら奴隷ってバレないか……。主人はどうしたの?」

「死にました」

 薄笑いを浮かべてルリマリスは言った。

 死んでくれて良かった、という狂気の笑みにティア達は見えた。

「このご主人は奴隷的な扱いはしないけれど、女の身体を求める習性があるからね。あと、……付いてない人だから」

 クレマンティーヌの言葉にルリマリスは頬を少しだけ赤くする。

「……それは聞きましたが、本当なんですか?」

「……実際に見たもん。一緒にお風呂に入ったら分かるって。何なら私も一緒についてってあげるよ」

 ルリマリスとクレマンティーヌの視線はヤントラの股間に向けられていた。

 ティア達とイビルアイは彼女達の雰囲気は察したが黙っていた。

「俺も一緒に風呂に……」

「蒼の薔薇が如何(いかが)わしい園に染まっていく……」

「ガガーランも一度はご主人の姿を見ておけばいい。私は大人数の中には入らないからな」

 イビルアイとしてはヤントラと二人っきりのような少ない人数なら入っても良いと思った。

 全員で入るのは気が引けるし、仮面を取りたくなかった。

「ティア達は食事を作っているから、先に朝風呂に入ってきなよ」

「名前は偽名の方がいいんじゃない?」

「王国かご主人の庇護下(ひごか)に置く事が認められれば実名でも構わないだろう。耳も治されているし。私が掛け合ってみよう」

 イビルアイの言葉にルリマリスは少し暗い顔をした。

「私だけいい思いをしてもいいのでしょうか?」

「細かいことなど知るものか。クレマンなどは、お尋ね者だ」

「あははー。君より命の危険があるよー、私はー」

 微笑むクレマンティーヌ。

 ルリマリスはクレマンティーヌを瞼を大きく開いて見つめた。

 『お尋ね者』という単語に驚いたようだ。

「元漆黒聖典第九席次。スレイン法国の裏切り者だ。それに比べれば奴隷など可愛いものだろう」

「漆黒聖典のクレマンティーヌ!? 名前はなんとなく聞いたことがありますが……。蒼の薔薇に居たとは……」

「色々あってねー。じゃあ、続きはお風呂で」

 クレマンティーヌはルリマリスの背中を押しながら風呂場に向かった。

 

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