※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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E-12 森妖精の帰還

 毎日全メンバーと顔合わせをしていたわけではないが、愛称のセンスは自分でも良いとは言えなかった。

 無理して愛称で呼ばなくても良いのだが、数人は頑張った。

「逆らっても逆らわなくても殺される。……今から思うと……、けっこうこき使われていた気がする」

 俗に言う『パシリ』だろう。

 その代わり自由に階層を移動できた。

 第六階層にメイドが居なかったし。アウラ達は着せ替え人形のような扱いだったから。

「……ある意味、メイド達より働いていたかもしれないな……」

 普通のメイドの殆どは第九階層でモモンガ達のお世話係で動けないし、戦闘メイドも各階層の見回りはするがメイドらしい仕事はしていない気がする。

 精々がギルドマスターのモモンガの付き人的な立ち位置だった、はずだ。

「そうそう、こちらの金貨は価値が高いから、千枚以上はそうそう出せない額だからと言っておいてくれ。あと、我が家は領地は無いし、資産もかなり没収されているから。……貧乏貴族だ」

「はい」

「この先、必要になるかもしれない『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』を二百個ほど。こちらは急ぎではないから」

 数の多さに驚いたり使用目的は聞かずにユリはただ了承の意を示した。

「それから……、カルネ村に蒼の薔薇が向かうがアウラ達と会うことになっても大丈夫だろうか?」

「戦闘にならないように取り計らえばよろしいのですね?」

「うん。あと、討伐隊が来るようであれば、そちらは関知しないがな」

「畏まりました。それでは、失礼致します」

「それから……、無茶な命令を聞いてくれてありがとう」

 ヤントラは深く頭を下げてお礼を述べた。

 念のために忘れ物が無いか確認した後、改めてユリは丁寧にお辞儀してから階段を下りていった。

 

 一人残ったヤントラはベッドに腰掛ける。

 溜まっていく性欲や煩悩も経験値として蓄積してくれれば無駄な行為とは思わないのだが、捌(は)け口が無いのは問題があるだろう。

 生存本能があるのならば何がしかの変調の兆(きざ)しがあっても不思議ではない。

 下半身を切り裂いても無駄かもしれない。

 メイド達のように溜まる欲は胃袋と同じく異次元に消えていくのだろう。

「それより全女性キャラをコンプリートしそうで怖いな……」

 さすがに全メイドの裸を見ても仕方が無いのだが、様々な種族にはまだ興味がある。

 風呂場に召喚していた天使達を退去させ、自室に戻る。それから周りに置いていた荷物をひとまとめにしてシーツなどを被せておく。

 それにしても女性の惨殺死体が転がる部屋になってしまったかもしれないな、と保管場所を見つけないと刑に処されそうだ。

 よく出来たな、そういえば。

 改めてびっくりする。

 考えても仕方がないので寝巻きに着替えて、ベッドに潜り込む。

 明日からまた忙しい日々が始まるのだろう。

 城にさえ行かなければ動かなかった運命がきっとあったのだろう。

 冒険者のみに集中していれば何も疑問を抱かなかった、こともあったかもしれない。

 しっかりと睡眠を取った後、外出の準備を整える。

 増えた身体がどうなっているのかコンソールで確かめる。

 通常の複製と違い、本体から離れれば別個体として扱われる。自己分裂とも眷属召喚でもない新しい複製方法。

 でなければ同じ記憶を共有した複数固体で大きな混乱が生まれるだろう。

 今のところナザリックではなく所属不明。でなければナザリックのNPCを管理しているアルベドの見ている画面に大量の複製体の名前が並んでいることだろう。

 一体だけ袋に入れてアイテムボックスに放り込んでみる。

 アイテム扱いのためか空白にはなっているが欄(らん)が一つ消えた。

 つまり置いていくと不味い、ということだろう。それだけ分かればいいと判断し、複製体は戻した。

 今回はNPCを一から作るポイントを使用していない。

 つまり『ルール破り』によるイレギュラーだ。

 罪悪感は多少はある程度で倫理観(りんりかん)の欠如しているヤントラにとってはさして問題のある事態ではない。

 

 そんなものは無くていい。

 

 既にユグドラシルは『終わったゲーム』なのだから。

 残滓(ざんし)に引きずられて人間面する必要はどこにもない。

 興味がある内は何でもやり、もういいやと思えば終わればいい。

 ただ、その選択肢を選ぶだけでヤントラは終われる人間なのだから。

 

 顔を洗ったりしながら食堂に向かうとメンバーが勢揃いしていた。

「おはよう。女ばかりの風景は圧巻だね」

「昔はパーティとか開いてもっと賑やかだったけれどね」

「……ご主人、資金が凄く減っていたぞ」

「森妖精(エルフ)代だと思って耐えました」

 イビルアイは一度だけルリマリスを見たが黙った。

「向こうに置いてきた武器にも関係があるから仕方が無いのだが……。あの野郎……、貧乏貴族ってこと知らないらしいな」

 ヤントラが珍しく口を尖らせたのでティア達は苦笑する。

 不満でも良いので一人で悩みを溜め込まないでほしいと思った。

「と、とにかく、三ヶ月は極端だが、あれぐらいの規模はもう無いだろうな?」

「無い事を祈る。その話しはやめておこう。さて、決戦の日は近い。私の見立てが現実になるかどうか、全員で確認しようか。ルリマリスさんも覚悟を決めておいてくれ」

「私も戦争に参加しろってことですか?」

 満足な装備も魔法も持たない自分が役に立つか分からない。

 罠避けなのだろうか、とルリマリスは背筋に冷たいものが走る。

「全員で行った方が家を襲撃されたとき困らないもんね」

「アイテム類は奪われるよね?」

「別の拠点に避難させたら良い」

「近くのエ・レエブルに拠点借りておこうよ。今からなら充分間に合うと思うよ」

 蒼の薔薇はそれぞれ意見を出し合った。

 その間、ルリマリスは大人しくしていた。自分がこれからどんな目に合わされるのか、心配なのだろう。

「顔を上げろよ。お前も手伝ってもらわないといけんだからな」

「性奴隷だの罠避けのことを考えているのか? お前より特殊技術(スキル)に優れている者が居るから心配するな」

「そんなに心配なら、私のお供として来てくれますか?」

 ヤントラは優しく言った。

「ど、どこへですか?」

「ナザリック地下大墳墓」

 ルリマリスは椅子を思いっきり倒して転がるように後ずさった。

「入る時と出る時は目隠ししますから、大丈夫でしょう」

「やっぱ返すのか?」

 どう表現して良いか分からないルリマリスは自分の髪の毛を掴んだまま身体を震わせた。

 ガガーランとティア達がルリマリスの背中などをさすった。

 クレマンティーヌも敵の本拠地には興味があるがエ・ランテルに近づくのはスレイン法国と距離的に近いので避けたいところだった。

 ルリマリスが足手まといになりそうだし、迷惑などを考えると王都から遠い場所はためらわれる。

 

 食事を終えたものから食器を片付け、朝風呂や鍛錬などを始めていく。

 ルリマリスを椅子に座らせた。

「ご主人、我々は準備を整えたら出立する」

「後で合流するかもしれませんが、お気をつけて。ポーションは金庫に追加しておきました」

「ありがとう、旦那さん」

 イビルアイとティアは準備を整えてカルネ村へと向かう。

 ティナはクレマンティーヌと共にエ・レエブルで保管庫に適した物件の調査に向かう事にした。

 位置的にも近いのでクレマンティーヌも文句は無かった。

「いつも黒だけど、他の色もある?」

「買わないといけないけれど、どんな色が良いかな? 緑? 赤?」

「目立っても仕方ないけど……。白髪にしたら? 一番年上っぽいし」

「むー。まだ二十代だよ、私は」

 二人は打ち合わせの為に外に出た。

 ガガーランは毎度、留守番役になるが城で稽古の仕事につくことが多くなった。

「実際に活動すると留守にする家が心配になりますね」

「留守は任せてくれ。ガゼフのおっさん連中を入れてもいいか?」

「二階の執務室は立ち入り禁止、ということなら。アルファ達が今日も来るのかは分からないけれど……」

「了解したぜ」

「普通のメイドや執事も偽装の心配があるから雇えないわけだが……。一気に居なくなるが気をつけてください」

「ありがとな」

 ルリマリスを連れて二階の大広間に向かった。

 執務室に行っている間に服は全て脱ぐように言っておいた。

 奴隷として主人の命令を聞くように教育されていたせいか、疑いも無く従ってしまう。

 ヤントラは彼女の為に様々な防具を持ち込んだ。

 裸の観賞は皆と風呂場で済ませた筈だが下着まで脱ぐとは思っていなかったヤントラは少し驚いた。

 全て脱げと言った気もするので、申し訳ないと思った。

「下着は脱がなくていいよ。軽装鎧だが着てみてくれ」

「は、はい」

 急いで下着を身につけるルリマリス。

「怯えなくていいから。仕方ないな……」

 ざっと装備品を眺めて、ヤントラ自らルリマリスに装備を身につけさせた。

 抵抗しようともヤントラの力はとても強く、抗えない。

「はい、両腕を真っ直ぐ上げて」

「はい」

 次々と服や鎧を着せられていた。

「苦しくないか?」

「大丈夫です」

 ものの十分たらずで装備が完了した。

 見事な手並みにルリマリスは驚く。

「冒険者っぽい」

「あ、ありがとうございます」

「まずは検問所に向かうよ。はい、仮面」

 有無を言わさず指示を飛ばす。

「あっ、はい」

 言われるまま仮面を付けるルリマリス。

 

 必要な物を持ってヤントラは留守をガガーランに任せた。

 途中で『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』や容器やタオル類を新たに購入。ルリマリスはどうしてそんなものが要るのかと不思議そうに眺めていた。

 それから、二人は検問所に向かう。

「装備の調子はどうかな?」

 ルリマリスは身体を何度かひねったり、脚を高く上げたりした。

「問題ないです。……とても柔軟性に富んでますね」

 ダンサー(踊り子)のクラスを持っているためか、踊るような姿勢が美しく決まっていた。

 ラキュースも柔軟性にとんだ動きが出来るが森妖精(エルフ)もまた美しい。

「柔らかい身体のようですね」

 両足を広げつつ地面すれすれまで体勢を低くする。

「森妖精と言われておりますから。様々な地形に対応しないといけませんので」

 片足を完全に天に突き上げる。

「……調教のしがいがありますな。今回はその装備で我慢してもらおう。では、行きますよ」

「は、はい」

 調教と聞いて背中に悪寒が走り、つい股間をかばうような仕草になってしまった。

 それから検問所にたどり着き、迷彩柄の外套をルリマリスに身に付けさせた。

 彼女の身分はまだ保証されていないがヤントラの権限と数枚の銀貨を渡す。

 旅人は身分が保証されていないので身元引受人のような扱いになっている。

 ルリマリスは旅人扱いにしてもらい、外に出る。

「背中に乗って」

「はい」

 まずルリマリスに保存食と水筒を渡し、ヤントラは自分も仮面を付けて『飛行(フライ)』と『早足(クリック・マーチ)』と盗賊(ローグ)系の特殊技術(スキル)を動員して空をかける。

「!?」

 目的地まで数百キロはあるのだが尋常ではない移動速度にルリマリスはただただヤントラにしがみつくだけで精一杯だった。

 通常なら馬車で数日はかかる距離を数時間に縮める。

 転移魔法があればもっと早いのだが、今回は保留する。

 カルネ村付近の草原でルリマリスを下ろす。

 尿意が近いという事で立ち止まった所は見晴らしがよく遮(さえぎ)るものが無い場所だった。周りを確認すると誰も居なかったので外套で身を隠しながら済ませる。

 ヤントラは必要な布巾や無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)などをルリマリスの側に置いた。

 土を掘り返しつつ、身支度を整えるルリマリスは仮面で隠れていたが頬は赤くなっていた。

「あと少しだ」

「すみません」

 ルリマリスはヤントラの背中に覆いかぶさる時に掘り返した部分に顔を向ける。

 割りと目立つ目印になってしまったなと恥ずかしくなった。

 それからまた凄い速度で空を駆けていく。

 ものの数十分でナザリック地下大墳墓の入り口であるログハウスに到着した。

 今回は監視要員の数は少ないように感じた。

 それらは特に問題ではないが、とにかくすばやく入り込む。

 不可視化しようと入り口を開けなければならないのだから意味の無い事はしない。

 建物に入り、ルリマリスを椅子に座らせると執事のセバスが奥から現れた。

「ようこそ、いらっしゃいました」

 胸に手を当てて丁寧に客人を出迎える。

「この人は付き添いだ」

「はい。アインズ様が玉座にてお仕事をされていますが……」

「あとで会っておこう」

 ルリマリスに見せないように指輪を受け取る。それはセバスもすぐに気づく。

「じゃあ、目隠しするけど慌てないでね」

「はい」

 両手に力が入っていたルリマリスは仮面を付けていたが瞼を閉じた。

 彼女の仮面を外して布で目隠しする。猿轡は必要ないだろう。

 それから仮面を上から被せた。

 目をつぶってすぐに目隠しが外されると世界が一変していた。

 目の前には大勢の人間。いや、一般のメイド達が行きかっていた。

「わぁ……」

「アウラのところが良かったか?」

「えっと……、いちおうご挨拶とか、他の二人の様子とか知りたいですね」

「そっか……。分かった」

 ルリマリスの手を握って彼女の視界を塞いだ瞬間に世界は再度、変化する。

「おぁ!?」

 感覚的に周りの雰囲気や気配の変化を感じた。

「ついたよ、第六階層。転……、移動は始めてだったかな?」

「連れてこられたときに少しだけ……。改めて驚きました」

 現在位置は土が見える平地。遠くに闘技場と森林が見えた。

 彼女にまた背中に乗るように促し、魔法で『ジャングル』を突破していく。

「君たちには恐怖の世界だろうけれど……」

「……こんなに簡単に侵入されるとは……」

「簡単に見えるようで実はあらゆる場所から監視されている事は気づかないだろうね。階層守護者は既に我々の動きを把握しているよ」

「ええっ!?」

 森の中の開けた部分に降り立つ。

「詳しく説明すると怖い思いをするだろうからやめておく。少し待っててね」

「は、はい……」

 ルリマリスが大人しく佇んでいると森の中から巨大な黒い獣が音も無く姿を現した。

「フェン……さん、様?」

「敬称をつけろと言われているのか?」

「そ、そういうわけではありませんが……」

「フェン。アウラのところまで案内を頼むよ。今回は背中に乗せてほしい」

 十メートル以上の魔獣フェンリル(大地の狼)のフェンは軽く唸ってから地面にうつ伏せになる。

「いつもはかぶりつかれるんだけどね」

 ヤントラはルリマリスを持ち上げで『飛行(フライ)』でフェンの背に乗った。

 彼女を後ろに座らせでヤントラの腰を掴むように指示した。

「じゃあ、お願いします」

「グゥ」

 落ちるんじゃねーぞ、を一言で表す返事をしてフェンは無音で樹海を駆ける。

 振り落とされないようにルリマリスはヤントラにしがみ付く。

 フェンの速度を持ってすれば数分で現場に着く。

 世界をじっくりと観察などルリマリスには出来るわけもなく、ただ振り落とされないようにしがみつくことしかできなかった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アウラ達の住居となっている大木の前に降り立った。

「……あ、戻ってきた……」

 ほんの数日前まで暮らしていたはずなのに遠い存在に感じた。

 ルリマリスはゆっくりと扉まで近づき、そして、扉の前に崩れ落ちるように蹲(うずくま)る。

 ヤントラは彼女の背中をさすりながら立つように言ってみたが、嗚咽するばかりで動こうとしない。

「外で待っているかい?」

「はぁぁん!」

 号泣しているようで言葉にならない。

 逃げ出す事はないだろうから、好きなだけ泣かせておこう。

 ヤントラは扉をノックする。

 八階もあるのだから返事が来るまでに時間がかかる。

 通常はノックの音は全階層に響く作りになっているので聞こえない時は部屋の中が賑やかな時くらいだ。

 森妖精(エルフ)達なら降りたり上がったりするだけで大変だろう。

 慣れていないものなら留守だと思って帰るところだ。

 アウラ達が揃って留守の時はフェンは現れない。

 五分後にようやく返事が返ってきた。

「どちら様でしょうか?」

「先日お邪魔したヤントラです。……お仲間も連れてきました」

 そう言うと扉が開けられた。

 出迎えてくれたのは少し疲れ気味の顔をした森妖精(エルフ)が二人。

「彼女を慰めておいてくれ。アウラとマーレはご在宅でしょうか?」

「い、今はマーレ様が居られます」

「上るの大変でしょう? 『飛行』の魔法を習得していないと辛いですよ。アイテムでも借りられたら良いのに」

「い、いえ。贅沢は……、言っていられないもので……」

 とにかく、ルリマリスを二人の森妖精(エルフ)に任せて中に入った。

 マーレは基本的に七階で待機している。

 飛ぶように上がっていき、七階に到着する。

 

 マーレの部屋は本が置いてある。殆どが第十階層から借りてきた本だ。

 転移が大変なのでまとめて借りる事が多く、溜まる事が多い。それでも一生懸命に読んでは返していく。

 彼の基本職は森祭司(ドルイド)。

 大人しく気弱な性格に見えるが階層守護者としての強さは本物である。

「……アウラが居ないから別に来なくてもよかったかな」

「バスパ様、ようこそ」

「あ、ああ。お邪魔しに来たよ」

 靴を脱いで部屋に上がる。

 マーレの衣装は殆どが女性物。そういう風に設定されたものだから男物は着たがらない。というか着ると創造主(ぶくぶく茶釜)に怒られてしまうと思っている。

 アインズが命令すれば男物を着るかもしれないが、アウラ同様に戦闘用の装備を愛用している。

「森妖精(エルフ)を一人頂いてすまないな」

「い、いいえ。お役に、立てたのであれば……」

「入れ違いになるかもしれないから、アウラに礼を言っていたと伝えてくれ」

「分かりました」

「無茶な要求だった気はするが……。下の森妖精(エルフ)達に『飛行』の履物(はきもの)とか……、ネックレスだったか。それを用意してあげたらどうだ? 階段移動はけっこう大変そうだが……」

「そ、そうですか? そうですよね。いつも苦しそうにしてます、ものね。考えて、おきます」

 たどたどしい喋り方だがレベル百の階層守護者。扱う魔法は強大である。

 見た目は少年だが、七十代の闇妖精(ダークエルフ)。

「……いざとなれば第九か第十階層に放り込めば良いか……」

「そうですね」

「帝国に竜(ドラゴン)をけしかけたそうだが、命令系統はどうなっていた?」

 そう言うとマーレはビクっと身体を震わせた。

 皇帝と会った後で請負人(ワーカー)の事を聞き、制裁しようと姉に言われて行ってしまった。

 軽い脅しだと思っていたが意外と大事(おおごと)になったしまった。

 そのことで、アインズからは『やってしまったのならば仕方ない。次からは気をつけるように』と言われた。

 アインズから小言でも叱られた事は辛かった。

「侵入者を、送り込んだのが、帝国って聞いたから……、その……」

「情報共有は大切だぞ。王国に居る私は帝国まで面倒は見切れないが……。やむを得ずに君たちと戦う事になるのは嫌だぞ」

「……は、反省してます」

 マーレ達の事は既にアインズがとりなしているだろうから、今更叱る事はしない。

 

 アウラの部屋に比べて整理整頓されているが色々なものが置かれている。

 自由奔放なアウラは調度品が少ないが、マーレは内にこもるタイプなのか本や羊皮紙などが置かれていた。

「……ふむ……」

「?」

 アウラは眠るときはハンモックのようだが、マーレはベッドのはずだ。

 部屋の使い方ではマーレの方が上手なのだろう。

 よくよく考えれば茶釜姉さんの弟ペロロンチーノをモデルにしているはずだ。

 見た目とは裏腹に怪しい雰囲気を隠し持っているかもしれない。

「マーレ達は眠るんだな?」

「はい。飲食は必要、ありませんけど……」

 さずかに変態設定は組み込まれていないだろう。

 特殊な器具は無さそうだし。

「そ、そういえば聞きたいことがありました」

「なんだい?」

「交配実験の方法です」

 その一言で様々な事を理解できるヤントラは立派な変態さんだ、と自画自賛した。

「うん。続けてくれ」

 ヤントラは微笑みつつ言った。

「以前、デミウルゴスさんが……、子供を作ってみないかと、言われて。ナザリックの戦力増強になるよう、なので協力したいのですが……、やりかたとか、方法が分からなくて」

 各階層に行けるマーレなら第七階層で様々な知識を得る事も出来そうだが、未だに出来ていないのは分かった。

 あと、第十階層の巨大図書室(アッシュールバニパル)にその手の本はあったかな、とヤントラは首をかしげる。

「近親種の森妖精(エルフ)が居るので……、交配ではなく繁殖実験でした」

 言葉を変えても内容はほぼ一緒だろう。

「あの時はアインズ様の許可が必要という事で、話しが、終わって。……今まで忘れてました」

「……さすが諸悪(炎獄の造物主)の根源(デミウルゴス)……」

 ヤントラは腕を組んで何度か頷いた。

「私が言うのもなんだが……、それはとても残酷な事実を突きつけられる事になるだろうな」

「え、ええっ!?」

「まず、ちょっと待っててね」

 ヤントラは急いで階下に向かう。

 森妖精(エルフ)達は三階あたりでルリマリスの背中をさすったりして落ち着かせていた。

 残り二人の森妖精(エルフ)の未来が心配になった。第七階層に連れて行かれるよりはましかもしれないが、問題はアウラがどう思うかだ。

 正直、考えたくない。

 自分は子孫を残せない身体だ。とやかく言う資格は無いだろう。

「君達はここから上には来ないように」

 ヤントラを森妖精(エルフ)達に向かって手をかざす。

「一階まで降りて、そこで待機してほしい」

「は、はい」

「それから飛行のアイテムについては言っておいたから。とにかく、少し……、私が降りるまでの間だけ上には来ないでくれ」

「どうも……」

「いいから、早く降りなさい」

 言葉が聞こえたのであれば大丈夫だろう。

 森妖精(エルフ)達が下に移動するのを確認してからすぐに七階に向かう。

「お待たせ」

「は、はい」

 ヤントラは先ほどと変わらない微笑を湛えていた。

「ナザリックのシモベの数を、許可無く増やすわけにはいかないのは、分かっています」

「村を作っていると聞いたが?」

「は、はい。最初は疑問、だったのですが。い、いよいよ戦力増強するのかなって」

 村の製作についてはヤントラは関知していないからよく分からない。

 階層の利用方法でも思いついたのだろうという程度の認識しかなかった。

 一応は探知妨害を施しておこう。というかマーレの方がより強い妨害魔法を扱えたはずだ。まあ、別に良いか、と思い魔法を唱えておく。

「……ちょっと手遅れ気味かと思うが、一応ね」

「な、なら僕も」

 マーレはヤントラよりも上位の探知と感知妨害魔法を展開する。

「得意分野は凄いな」

「えへへ」

 単純にレベル百なら強いのか、というと同レベル帯ではクラスの取り方などで勝敗が左右される。

 

●↓●

 現在、ヤントラがレベル百になってもアインズには勝てそうに無い。

 油断させれば分からないかもしれないが、正々堂々では負ける率は高い。

「……とにかく、これは秘密会合になりそうな議案だな……」

「そ、そんなに重要な事になるんですか!?」

「階層守護者のマーレが関わるんだから重要だろう。闇妖精(ダークエルフ)の部下でも居るのか?」

「い、いえ……。うわぁ、僕、そんなこととは……」

 マーレはただの闇妖精(ダークエルフ)ではない、というところが問題だ。

 茶釜姉さん、ウルちゃん。あなた達の子供が大変な事になりそうです。

 マーレは良いとしてもデミウルゴスは誰かに止めておいてほしいな。

 微妙に階層守護者達が制御を離れている気がする。

「交配も繁殖も調べなければいけないだろう」

「調べ……、ど、どうやって?」

「同じ質問をアインズにすると困った様子を見せるかもしれないだろう。……それはアインズと二人の時に尋ねてみなさい。まずは私がアインズに報告する。いくつか聞きたいこともあるから、ついでだ。まずは寝なさい。君が寝ている間に色々と調べておくし、アインズに聞いておく。というか会う予定だ」

「……はい。あ、眠くないけど、寝ればいいんですね?」

「武器を盗んでもすぐに分かるだろうから、あと、支配は無効だな?」

「ぬ、盗まないで下さい。これ神器級(ゴッズ)の武器ですから」

「神器級(ゴッズ)なら何でもいいっわけじゃないぞ。効果は抜きにして見た目に綺麗でかっこいい剣とか好きだな」

 マーレの愛用する杖は神器級(ゴッズ)武器『シャドウ・オブ・ユグドラシル』という名前だ。

 見た目は捩(ねじ)れた黒い木の杖だが。

「階層守護者は支配は無効で睡眠は有効ならいいのだが……」

「……つまり装備品を、外して、魔法で眠ってもらおうと?」

「起きていない方がいいぞ。いたずら書きはしない。これでも女性の身体の扱いは得意だ」

「僕、おとこのこです」

 マーレは口を尖らせつつ寝室に向かう。

 寝室にも数冊の本が置かれていた。どれも丁寧に整列されていた。

 ヤントラは風呂場などで必要な道具を探してまとめておいた。

 マーレの寝室に向かうと服を抜き始めていた。妨害魔法は改めて展開されたようだ。

「普段は武器は立てかけたままか?」

「近くに置いて、ます」

 女の子の部屋のような内装だが、それも創造者の趣味なのだから仕方ないのだろう。

 アウラもマーレも少しは疑問に思っているのかもしれないが、変えようとはしない。

「ところでバスパ様」

「なんだい?」

「『おとこのこ』はみんな僕みたいなかっこうをしなくちゃ、ならないんですか?」

 スカートを履く男の娘。

「可愛い少年に着せるようだよ。あくまでも少年ではなく『可愛い少年』だ。あと、強制ではないが……、茶釜姉さんの願望だから……。私には止める権利が……、ございません」

 各NPCは創造者達の願望が詰まっている。それを止める権利はヤントラには無いが、文句は言う。

「は、はぁ。ぶくぶく茶釜様のお望みなのですね?」

「アウラもそうだよ。本当はそれぞれ自由に服を着てもいいんだが……。装備品が立派だけど、いろんな服を着てみたら良いのにな。……個人的にはデミウルゴスにメイド服を着てもらいたいな。一度で良いから見てみたい」

「で、デミウルゴス様にメイド服を!?」

「スタイル良いから案外似合うかもしれないな」

 自慢しそうな予感がする。

「何を着るかはマーレが決めたら良い」

「……はい」

 ヤントラに見られながら服を脱ぐのは少しだけ恥ずかしく感じた。

「転移の指輪(リング・アインズ・ウール・ゴウン)はそのままでいいとして、装備品は離して置こうか」

 離れた場所に大きめの敷物を敷き、服を丁寧に並べていく。

「マーレの手足は細いなー」

 闇妖精(ダークエルフ)というが日焼けした森妖精(エルフ)と大差ない気はする。

 薄黒い肌。

「……本当に取らないで下さいよ?」

「じゃあ、部屋の片隅に立てかけて置けばいい。……杖の代わりに君の部位を頂けるか?」

「ぶ、ぶい?」

「色々と集めるようになってね。もちろん再生させるよ。ダメージで目が覚めてしまうのが難点だが……。これまでの経験から君達は普通の物理ダメージには割りと平気らしい。眠っていれば気にならないだろう」

「……でも、怖いですね」

「痛みを感じる前に回収する努力はする。見ないでいた方がいいだろう。再生については実証済みだ。部位の使い道は……、考えてない。それらはゆっくりと調べていくさ。それと、杖は持ち出さないよ」

 大切なシャドウ・オブ・ユグドラシルを部屋の隅のほうに立てかける。

「……えっと、部位というと、耳とかですか?」

「種族的な特徴のあるところとかだね。その例だと私は眼球しか無い」

「お、お姉ちゃんの部位も必要、なんでしょうか?」

「くれるなら貰いたいところだ。……保管場所に困っているが……」

 マーレは痛いのは嫌だがアインズに叱られるのはもっと嫌だった。

 勝手な事をして怒られるぐらいならバスパに任せてみようかなと思った。怒られるのは自分(マーレ)ではないだろう。

 姉は姉で怒らせると怖いので。

「一つ、確認を。……僕が、みんなの前で怒られることに、な、なりますか?」

「内容的には個人面談にしてもらおうと思っている。アウラは伴わない方が良いぞ。私は怒られるかもしれないが、マーレは怒らないだろう。帝国の事は関知してないから分からないが……」

「個人面談になりますか?」

「なる。そうしなければならないと判断する。もし、そうなったらアウラを説得……、は難しそうだな。……部位は事前に引き千切っておかれても困るし……」

「僕個人を、よ、呼ばれますか?」

「今日は泊まっていくから、話しが違ったら私を呼び出せ」

「はい。そ、そうします。ぶ、部位の方はよく分かりませんが、戻してくれるなら……。どうぞ、鼻とか無くなったままはちょっと……」

「第六位階の治癒はしっかり再生する事は確認済みだ。何度も目覚める事態になって頭がクラクラするかもしれないが、休息を充分に取れば良い。終わればマッサージもするよ」

「わ、分かりました」

「杖は偽物かどうか鑑定魔法で調べるように」

「はい」

 一部を残して装備品を外し終わると普通の少年が出てきた。

 残るは指輪と下着類だけだ。

「精神支配に疑念があればアルベドに尋ねればいいだろう」

「はい」

 本当に魔法が効くかが最後の関門だろう。

「アインズからの命令があるまでは……、保留という事でいいね? 保留というか、まあ、私がどうこう言う権利は無いけれど」

「はい」

「では、お休み。起きたら風呂にでも入ってすっきりしなさい」

 マーレが返事をしようとする前に『無限のまどろみ(エンドレス・スランバー)』の魔法を使う。それから改めて探知妨害の魔法を展開する。

 階層守護者が崩れ落ちるように倒れ込む。床に落ちる前にマーレの身体をヤントラは優しく支える。

 術者が意識を失うと効果を失う事があるので念のための処置だった。

 

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