※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

66 / 213
E-14 アウラシリーズ

 マーレの事を思い出し、アウラと合体などしても怒れない事になる。

 知略に長けたデミウルゴスは更にひどい事になるだろう。

 褒美としては最高に良いアイデアかもしれないが、確実にナザリックはおかしくなる。

「帳消しの券、というのは無理だっ!」

「……だよねー。アイテム類ではいい案は出ない。だから風呂くらいが妥当だと思う。無理して前面部を見なくても、お前(アインズ様)自らに頭や背中を洗ってもらうだけでも嬉しいと思うのだが、問題はアルベドだ。あれは何をしでかすか分からない」

 身に覚えのあるアインズは全身に感じないはずの悪寒を感じたような気がした。

「アルベドだけ仲間はずれにすることも出来ないだろう?」

 風呂ではアルベドは危険かもしれない。それはアインズとて同意する。

 どのような事なら安全だろうか。

「食事出来ないし、マッサージ施設なら無難か? もちろんアインズ様手ずからの」

「そ、それしかないか」

「うつぶせ限定、とすればアルベドもひっくり返ったりはしないだろう。尻の丸見えくらい我慢しろよ。お前はアンデッドなんだし。お褒めの言葉だけじゃあ……。アイムテは有限だし」

「ああ、くそ……」

 一時間のうちで百回くらい精神の安定が行(おこな)われた気がする。

「ちゃんと真面目に考えたんだぞ。あと、お前に殺されるだろうな、という覚悟を持って話した。部下を怒るに怒れないだろうが、どうするかは主人の裁量だ」

 意見を聞いて怒るのは大人気ない。

 ヤントラは確かに隠さずに話したのかもしれない。話しただけで怒るわけにはいかないのは理解している。

 元々はデミウルゴスの言葉を気にしたのが始まりだろうし。

 ユリに質問させたのは自分だ。

 ヤントラを悪者にする理由は殆ど無い。それは理解しているが、こいつはムカつく。

 意味も無く殺したくなるほどに。

 悪くは無いが誰かに当り散らしたいだけかもしれない。

 それにユリには始末を既に頼んだ後だし、遂行もしてきた。

「分かった。マーレは個人面談するし、褒美のアイデアはもう少し詰めるよ」

「資金についてはあと三千枚くらいなら、許容してやれる。……しかし、王国側を色々と買い占められると……、なんか困るな。帝国側の鉱山を買ってくれよ」

「ふんっ。話しが終わりなら出てってくれ」

 つい機嫌が悪くなってしまった。すぐに気づいたがヤントラは何も言ってこなかった。

「遅かれ早かれ、こういう事態は想定出来ただろうに。デミウルゴスというよりはそんな設定をしたウルちゃんが悪いんだけど……。私も面倒を見る人間が増えて大変だが、そちらも頑張れよ。今度、一緒に風呂に入ろうか? 身体を洗ってやるぞ」

「……いいから黙れ」

 頭を抱えるアインズを残してヤントラは部屋から出た。

 聞かれた事に答えているだけなのにムカつく人間だとアインズは思った。と、同時に親切心に答えられない自分も少しは悪いと思っていた。

 マーレが人知れず繁殖に励んでいる事実を知ったら自分は叱るのか、褒めるか、分からない。

 ナザリックの為ならば、と考えるとやはり答えは出せないだろう。

 それにしてもNPCが繁殖できる可能性があるとは想像していなかった。ありえないことではないのかもしれないが、エロから遠ざかりたい自分は避けていたのかもしれない。だから、こういう事態に陥ったのだろう。

 今は階層守護者たちに変な事はさせられない。

 とはいえ、奴ら(部下達)は生物的にはただの『交尾(性行為)』に何の躊躇(ちゅうちょ)もしていない節(ふし)がある。

 アインズは部屋の中で転げまわりたい気持ちに襲われるが連続する精神の安定により、無理やりに落ち着かされる。

 悩んでいる暇は無い。アウラが戻ってくる前に面談しなくては、とアインズは『伝言(メッセージ)』を使う。

 ヤントラに説明させたいところだが、支配者としての責務はアインズにあるのだから自分で命令を下すしかないだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アインズから別れたヤントラはルリマリスの元に向かう。

 食堂で色々と食べていたようだが、仮面は外さないようにずらしながら食べていた。

「仮面は外してもいいですよ。外に出るときだけで」

「そ、そうでしたか」

「言い難いことを言うのも大変でした。荷物整理をしてくるので困った事があればメイド達に頼んでください」

「はい」

 口唇蟲の世話をしていたメイドの居場所を聞き、エントマに相談しながら数日間は世話を任せる事にした。

「必要になったら取りに来るから。ちょっと予定が早すぎたようで。丸投げするようで申し訳ない」

「いえ! エントマ先輩と相談しながらしっかりとお世話いたします」

「お願いします。あと二週間ほどですが。一日おきに非番の方にお世話をお願いできたら頼むよ」

「畏まりました」

 次はシズを探し出す。ついでにシモベに複数の箱の用意を頼むことにする。

 彼女の自室は把握しているので見つけるのは容易い。

 それにしてもアインズに言い難い事を言えた自分が凄いなと思った。

 神器級装備で身を包むアインズの物理攻撃も侮れない。

 というより人間の身体が、とさっきも思った言葉が浮かんだ。

 シズを見つけて共に第六階層に向かう。

 戦闘メイドは役割上、単体でも転移は可能である。

 今回は金庫開放と第十階層を往復する予定なので、シズに椅子を渡し、第三金庫で物色しても良い事を伝えた。

 第二金庫は結構な物量に変貌していた。

 ユリに渡した『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』が側に置いてあり、中は綺麗に掃除されていて綺麗だった。

 大荷物となりそうな部位を入れた『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』もここに保管する事にした。ひとりでに動かないか心配になるが自我が無いから大丈夫かもしれない。念のために縛り付けてあるし。

 第三金庫はほぼ銃器のみとなっていたが、第二金庫は様々なアイテムの宝庫となっていた。

 様々な特殊技術(スキル)を持っていればいいが、全ての特殊技術(スキル)と魔法は手に入れられない。

「えっと、必要なアイテムは……。いっぺんに詰め込むのは良くないよな……」

 分かる範囲で必要なアイテムを整頓していく。

 金貨の山が崩れる。

 自分が積み上げたのならば仕方ないが、無造作に投げ込まれたものは、泣けてくる。

 第一金庫は被害は少ないようだが。

 アイテム用の皮袋に素材アイテムなどを詰め込む。

 シズ単体でも相当量の金貨は運べるが今回はシモベ達にやらせようと思った。

「帰り際に声をかけるから」

「……了解」

 銃器に夢中になっているシズの真っ直ぐな赤金(ストロベリーブロンド)の髪を軽く撫で付ける。

 

 第十階層に荷物を運びいれ、別のシモベを二体運び役として呼んでもらった。

 シモベ達に鍛冶師の元に金貨や素材を運んでもらっている間、他の金貨やアイテムの整理も行う。スクロールやポーションも無駄に使いすぎてしまったから。

 品物は一日では無理だろうから、今日はとにかく運んでもらう事に集中する。

 総金貨は三千万枚は超えるだろう。

 新しい素材も入っているようだし、新たに見積もりも出してもらい、更に金貨千五百万枚が消費される事になる。

 少し減らせば荷物も置きやすくなるだろう。

 忘れかけていた部位の保存で巨大図書室(アッシュールバニパル)に居る死の大魔法使い(エルダーリッチ)に保存液について相談する。ただの水ではさすがに問題があるだろうと思ったからだ。

「こちらで手配しても構いませんが、お時間を頂きますぞ」

「構わない。……黒魔術的な趣味に走ってる気がするが……。それは生物、アンデッド、どちらでも保存できそうか? 溶液の色は?」

「もちろんでございます。溶液の色は成分や入れるものに左右されると思いますが……」

「無色透明がいいのだが……」

「無色は人気がない分お安いですよ。効能はちゃんとありますし。入れるものによっては濁ってしまうと思いますが」

「後で濁るのは仕方が無い。あっ、そうか。水と大差なくて混乱するか」

「はい。間違って飲まれますと……、お身体に障ります」

「私の肌の色に合いそうな奴で安いものはどんな色がある?」

「やはり……、赤色でしょうか。こちらはポーションと間違われやすいので不人気です」

「……うん。毒っぽい色が安全なんだろうな」

「はい。特に紫は大人気でございます」

 嬉しそうに死の大魔法使い(エルダーリッチ)は言った。

 緑、青、発光する蛍光色なども人気で高額。

「無色で……。混ぜても……、そう変わらないか……。無色でいい」

「畏まりました」

 目安となる容器を見せる。ただ、一メートル規模のルプスレギナの尾や下半身があるので、どう保存したものか、と頭を悩ませる。

「金貨五百枚からとなりますね。もし、生きたまま保存されるのでしたら一割り増しの保存液がございます」

「溺死しないやつがあるのか?」

「いわゆる液体呼吸を可能とするものでございますよね?」

 質問に質問で返したがヤントラは頷いた。

「その一割り増しの保存液は入れた時から素体の寿命が尽きるまで有効となっておりますが……、長くて五百年が限界かと。途中で出された場合でも効果は持続しておりますので再度、素体を入れても問題はありません。入れ替えが面倒ならば活動停止の魔法をかけた方が早いかと」

 一般的なのは標本用の保存液。不老不死のアンデッドなどはこちらで充分こと足りる。

 呼吸を必要とする生物用は割高だが腐らせるのはもったいないので、どちらも注文しておく。

 単純に対象の生命活動を止めるならば魔力系の第八位階『仮初めの停滞(テンポラル・ステイシス)』が適当だろうか。

 解呪の魔法が必要だが第六位階『上位魔法解呪(グレーター・ディスペル・マジック)』で充分だったかな。こちらは信仰系でも扱えたはずだ。

「都合のいいアイテムは無いか……」

 異形種は不老になりやすいので気にしなくてもいいが、それ以外は寿命を持っている。

「若返りの魔法ならば経験値の消費はありますが第八位階『上位覆す雪辱(グレーター・リヴァース・ラヴィッジ)』を行えば……。永続を望むのでしたら毎回使用しなければなりませんね」

 それも一つの手段だろう。

「ここに居る死の支配者(オーバーロード)達は殆どの魔法を扱えるのか?」

「超位魔法以外は……。スクロールに必要な魔法は一通り扱えなければなりませんので。系統ごとに精通したシモベを用意しております」

 五体の死の支配者(オーバーロード)達のことらしい。

 部位を全部入れられる予算は百万枚以下程度になればいいか、と思い注文しておく。

 人間大も入れなければならないから、相当な分量は覚悟しなければならないだろう。

 更に五百万枚まで考えておく。一度に運ぶ量としては多すぎるのでまとまった量はシモベに我が家まで直接運んでもらおうと思った。

「生ものの素材は保存が大変だな」

「繊細な素材は尚更でございます。大型のものとなると直立型と寝台型がございますが、ほぼ同額でございます。こちらは取り出し口が違うだけで容量的な差はございません。持ち運びに不自由すると思いますので、運搬用の丈夫な車輪が付いた台車がございます。……購入していただく事になりますが、こちらは二千五百枚ほどかと」

「ちなみに例えで君を丸々保存する規模となると、金額的にはどうなる?」

 死の大魔法使い(エルダーリッチ)は大体の計算を導き出す。

「大きな容器と溶液込みですと七千百枚ほどかと」

「では、台車を……、予備を入れて二台。持ち帰れないと困るもんな。シズにシモベを使ってでもいいから第三金庫に入れるように。製作期間はそちらの都合に任せるよ」

「ありがとうございます」

「……君の保存は例えだからな?」

「分かっております」

「……そういえばフールーダさんは姿を見かけないが研究中かい?」

「はい。休憩に第九階層もご利用されておりますし、アインズ様の命によりご帰還も許されております。向こうに置いている資料の調査などをされているようです」

「それは私には良い傾向だと思う。この大墳墓は第一から第八階層の攻略のみ防衛できれば世間とうまく付き合えると思っている。もちろん、転移の秘密は秘匿されなければならないが……」

「はい」

「ずっと気になってたことがあるんだけど」

「はあ」

「第四階層にある湖が陥没して下に流れたり、第七階層の溶岩が下の階層に流れ落ちたりしないのかな、と……」

「あー……、確かに……。ですが、聞いた話しでは各階層は超位魔法や世界級(ワールド)アイテムを使用しても破壊できない仕組みになっているとか。溶岩程度ではびくともしないのでしょう」

「おお、それは素晴らしい。なら安心してこういう施設が利用できるのだな」

「作用で。偉大なる皆々様の御造りになられたナザリック地下大墳墓は誠にすばらしいものにございます」

「おっと、眼球などの繊細な部位を容器から取り出すような器具なども扱っているか? 素手で扱うのも問題があるだろう」

「拷問器具、医療器具と目録がございますが」

「両方見せてくれ。やはり説明を受けたほうが安心するから」

「畏まりました。それでは、少々お時間を頂きます」

 これだけの散財は蒼の薔薇のためを思えば我慢できる。

 保存とかは関係ないのかな。容器は蒼の薔薇とは関係ない。はい、証明終了。

 

 なにしてんだか。

 

 持ち帰るアイテムも詰め込めるだけ詰め込んだ。

 金貨を運ぶだけで一時間はかかっただろうか。重火器の整頓を終えたシズも手伝ってくれることになった。

 シモベは最終的に五体になり、更に一時間後に全ての作業を終えた。

 第一と第二金庫は一旦閉じられ、第三はシズに判断をゆだねた。

 シズに手間賃と空のポーション瓶を入れた皮袋を渡しておく。

 第九階層に居るユリに荷物の一部を木箱に詰めて王都にある自宅の片隅に運び入れた上で隠蔽しておくことを頼み、一休みすることにした。

 食堂に居るルリマリスはやる事がなかったので、一泊する胸を伝えて寝袋を与えてメイドに眠る場所を案内させておいた。

「行ったり来たり……。精神的に疲れる」

「……ご苦労様、バスパ様」

「膨大な量は時間がかかる。ナザリックの秘宝も動かすだけでどれくらいかかるのやら」

「……規定の時刻、任務に戻ります」

「ありがとう」

 礼儀正しくシズはお辞儀して自室に戻った。

 アイテムボックス内がすごいことになっているだろう。

 色んなことがあって疲れたのでヤントラはラキュースの部屋に向かい、睡眠不要の指輪(リング・オブ・サステナンス)をはずす。

 ラキュースは暗号や書類の精査に取り掛かっていた。

「隣りで寝かせてもらうよ」

「どうぞ」

 その後すぐにヤントラは寝息を立てて眠ってしまった。

 夫婦の時間はあまりにも短い。

 今は入れ違いだが、いずれは王国でひと時の安らぎを得るのだろうか。

 戦士として冒険者としての自分ならば戦いに身を投じることこそが生きがい。

 それに武具を置いていってくれたということは戦士としての道も歩ませてくれるという事だろう。

 本来はそうなのだろう。ただ、自分が弱い存在だっただけだ。

 それにしても王国の闇は深すぎる。未解読の暗号がたくさんあるが、これらが王国全体に散らばっているのは確実だ。

 蒼の薔薇をもってしても全てを制圧するのは不可能に近い。

 たとえ『八本指』を殲滅しても新しい『八本指』のような組織を作られてしまうかもしれない。

 大元を絶たなければ王国に未来は無いだろう。それにある程度の証拠は握りつぶされている予感がする。

 自分達に出来る事は小さい手下を捕まえる事くらいかもしれない。

 今頃、蒼の薔薇のメンバーはどうしているだろうか、という思いに耽る。

 

 マーレとアインズの個人面談は秘密裏に行われ、繁殖計画は無期限停止となった。

 怒られると覚悟していたマーレはお叱りが無く、他言無用を言い渡された後は住居に戻った。

 優しく諭(さと)された彼はバスパに感謝しつつアウラとどう話せばいいか悩みだす。

 それからデミウルゴスに改めて繁殖計画について聞かれた場合はアインズの命令でメイドは使ってはいけないと説明するように教えられた。

 仕事を終えたアウラが戻ってきた時、それとなく『部位の搾取』について告げてみた。

「手足とかもぎ取るのかしら?」

「どうなんだろう……。僕の身体……、鏡で見たかぎり、無くなったところが無いみたいだけど……」

「しばらく会わない内に変な趣味に目覚めたようね」

 頬杖(ほおづえ)を付きつつメイド達が用意した飲み物や料理を一口ずつ食べていく。

 飲食不要のアイテム(リング・オブ・サステナンス)を身につけているが成長した方がいいとアインズに言われていたので少しずつ食べるようにしている。

 とはいえ、先日言われたばかりだからすぐに効果が現れる事はない。

「あの子の耳とか狙われている!?」

 メイドの森妖精(エルフ)達は顔を青ざめた。

「治るなら心配知らないでしょ。っていうか、怖がりすぎよ、あんたたち。バスパ様に殴られたりしたの?」

「い、いいえ」

「そそ、そういえば、お姉ちゃん。この人達に『飛行(フライ)』が付与された、装備アイテムとか、渡して良いかな? 上り下りが大変だと、思うから」

「あんたたち『飛行(フライ)』は使えないんだ」

「も、申し訳ありません」

「……それは仕方がないわね。人数が増えると面倒見るのが大変だわ。メイド達にメイドを見てもらうのも、おかしな話しよね……」

 仕事がもらえて喜ぶかもしれないけれど。

 料理と掃除以外の仕事も考えたいところだが、第六階層でメイドに出来そうな仕事が浮かばない。

 畑仕事はアンデッドがやった方が楽だし。

 様々な場所に作っている施設が完成しない限りは何も出来ない、という結論しか出てこない。

 至高の四十一人を除き、ナザリックは人材に事欠かない。それが急に増えたものだから面倒を見る立場の者達にはどう扱って良いのか分からない事態だ。

 メイドだけで一人減ったとはいえ、まだ三人。

 仕事を失ったメイドが多数。

 

 外の世界では寝静まる時間帯に入り、メイド達とマーレがそれぞれ就寝する。

 アウラも明日の仕事を控えて眠ろうとした時、バスパの趣味を思い出し、話しでも聞いておこうかと思い、第九階層に向かう。

 書類の複写作業の殆どが終わり、細かい暗号を残すのみになっていた。

 一人、二人と死の大魔法使い(エルダーリッチ)達は第十階層に引き上げて自らの作業に戻っていく。

 夜間はメイド達も見回り以外は就寝するので昼間より静かになっていた。

 戦闘メイドの一人シズ・デルタが定期的に階層内の見回りをしている。

 アウラは起きてる一般メイドに目的地の案内をさせる。

「こちらでございます。魔法の光りが消えておりますのでご就寝中かと」

「……いいから開けて。……静かに」

 人差し指を当てつつアウラが命令するとメイドは軽く会釈(えしゃく)し、扉を開ける。

 先にメイドが中の確認をする。

「お二人とも、ご就寝しておりました」

「分かった。そういえば、他に空室って無かったっけ?」

「確認してまいります」

「悪いねー」

 メイドが空室を捜索している間、アウラは部屋を覗き込む。

 使用人室とはいえ割りと広い空間に大きめのベッドと仕事机。衣装箪笥(だんす)などの簡素なたたずまいが一般的だが、ここは使用している人間に合わせて植物などが持ち込まれていた。

 本来の主であるメイドは他のメイドの部屋に行っていて共同利用しており、この部屋にはお世話をするメイドが来る以外は人間しか居ない。

 広いベッドはアインズの計らいで用意してもらったものだ。

 その大きめのベッドには一組の夫婦が静かに眠っていた。

 一人は元アダマンタイト級の冒険者にして大罪人のラキュース。

 もう一人はラキュースの夫ヤントラだ。

 アウラは恐怖効果の吐息を吹きかけ、扉を閉める。

「あっ、あぅわ!?」

 扉の向うで飛び起きる声が聞こえた。その後すぐにベッドから転げる落ちる音が続く。

 声の主はラキュースだろう。もう一人の声は聞こえない。

「アウラ様、こちらでございます」

 空室を見つけてきたメイドがやってきた。

「その部屋の前に行ってて」

「はい。畏まりました」

 メイドは引き返し、アウラはラキュースの部屋に入った。

 ラキュースはベッドに戻り、身体を小さくするように丸まっていた。

 片方のヤントラは気持ちよさそうに眠っていた。

 

●↓●

 恐怖ではびくともしなかったようだ。

 アウラは感心しつつ寝ているヤントラを軽々と肩に担ぐ。

 ラキュースの方は身体を震わせていたがアウラに気付かず眠ろうとしていた。

 部屋から出た後、扉の前で待っているメイドを探し出し、中に入っていく。

 ベッドにヤントラを置いて、メイドは仕事に戻ってもらった。

 寝ているヤントラの額を指ではじく。

「……んっ」

 軽くやった事だが、普通の人間なら頭蓋骨にかなり衝撃を食らう攻撃だ。

「起きた? 寝ているところ悪いけど……。少しだけ起きてくれるかな」

「……アウラか……。もう朝か?」

「まだ夜だよ」

「……アインズの呼び出しか?」

「違うって」

 ヤントラは少しだけ呼吸を整え、上体を起こす。

 弾かれた額に回復魔法を唱える。

「眠る前に聞きたいことがあってね。バスパ様って……」

 言いつつ相手の様子をうかがう。

 眠そうな状態だが、懐からタオルと無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)を出し、タオルを濡らす。そのタオルで軽く顔を拭(ぬぐ)う。

「ふう……」

「部位を集める趣味に目覚めたって聞いたけど、集めてどうするの?」

「んっ? 特に決まってないよ。手に入るうちに集めているだけ……」

「それって……、部位だけ? 内臓とかは? ……内臓も部位と同じか……」

「……今のところ心臓や脳のような命に関わりそうなところは避けているよ」

 話しを聞いていてもよく分からない。

 目的などは決まっていないのだろう。

 長話しを聞いていると眠ってしまいそうだった。

「ふあ~。あたし、ここで寝るけど……。あたしの部位を取れるものなら取ってみせてよ。明日、どうなっているか興味出てきたわ……。はわわ……」

「睡眠が効けば良いが……。装備は外させてもらうよ」

「おー。やる気充分だねー。精神支配と殺害はナザリックが全力で阻止すると思うけれど……。明日、あたしが生きていたら文句は言わない事を約束してあげる」

「……殺したりはしないさ。後で鏡で確認してくれ」

「……ふあ~い。お休み……。……さすがに殺し損ねるような事態になった時は敵だと判断するけどね」

 腕くらいはもがれるかもしれない。

 階層守護者の部位を取るような敵は身に覚えがないから全く想像出来なかった。

 激痛を感じた時に敵対行為と見なそう。敵(かたき)はアインズ様にとってもらうんだから、とアウラは敵意を振りまくが睡魔には勝てそうにない。

 五分も過ぎればアウラの寝息が聞こえてくる。

「容器の追加をしなければな」

 探知妨害と静寂を展開し、アウラを裸にする。

 幼い胸はさすがに搾取は出来ないだろう。乳首だけ、っていうのは虚しい気がした。

 耳と目と尿と排泄物。

 魔法による効率化とはいえレベル百。暴れられると手ごわくなる。

 他のNPC同様、物理ダメージには精神的に強いようで性器と膀胱つき子宮は楽だったので少し多めに搾取した。

 最終的にはアルベドに行き着きそうだ。だが、防御にかけてはナザリック最強。

 今の段階では腰の翼がせいぜいだろう。

 気分はお医者さん。というか、どうやらペロロンチーノの霊に取り憑(つ)かれている様だ。

 最後の段階の狂乱ではかなり縛り付けておかないとタオルを引き千切りそうな勢いだった。

 無装備でもアウラはレベル百。力はかなり強い。

 装備品に頼っても良かったが、選ぶのに時間がかかりそうなので諦めることにした。

 ガチャガチャうるさくなって気が散るかもしれないし。

 拘束していなければ部屋どころか階層が壊滅的被害を被るだろうし、部位を収集しているヤントラは殺されるだろう。または永遠の拷問や実験だろうか。

 その程度で動じるヤントラではないが、周りへの被害が起きないように努力した。

 間違いなくアルベドが相手では止められる自信が無い。

 自信が無くても工夫はしなければならないだろう。所謂(いわゆる)、仮想敵のようなものだし。

 それにしても暴れはするが睡眠が解けない。普通に殴れば簡単に目覚める、というのが不思議だ。

 マーレ同様に複製体を多めに採取。

 闇妖精(ダークエルフ)とはいえNPCが餓死するのか気になるが、それは後で考えよう。

 バレないように行動する気持ちがあるのはナザリックに居るからなのか、敵対したくない気持ちがあるからなのか。

 ウソをつかない自分は意外とまだ人間的な部分があるようでおかしかった。

 身体に目印が無いかの確認作業は証拠隠滅の基本特殊技術(スキル)、かもしれない。

 複製といえば複製か。魔法は常識の概念を超越してくるな。

 痛みに強いと落ち着いて作業が出来る。

 最後に身体が機能するか確認。

 人体解体術とも言うべき技術だろうか。

 それを可能にする為には常識を覆す魔法の存在も必要不可欠。しかし、ヤントラ自身は武器を使ってモンスターをバラバラにしているだけ。そこに難しい理屈も技術も無い。と、思っているかもしれない。

 本能の赴くまま。それが恐ろしい技術に見えているだけだろう。

 そんなことはアウラやマーレは知る由(よし)も無く、されるがまま。

 

 エロい煩悩とやましい探究心が生んだ無駄に凄い技術。

 

 ペロロンチーノが居れば仲良く遊んでいる事だろうし、デミウルゴスは『なぜ、寝たままにするのですか。意識がある方がいいのに』とがっかりされるかもしれない。

 当然のようにアンイズは大激怒だろうが、ヤントラは『でも、殺してないし。アイテムも奪ってない。脱がしただけ』と開き直るかもしれない。

 あとナザリックは命の価値が軽い。支配者がアンデッドということもあるだろう。

 仲間が攻撃されれば怒りは覚える。だが、復活の手段が無いわけではない。

 それだけのことだ。それでもポンポンと簡単に殺されてはやれないし、無駄な犠牲を出す必要も無いだろう。

 アイテムや魔法の無駄遣いなのは自覚している。

 ヤントラにとって仲間という概念はまだ邪魔者かもしれない。愛(いと)おしいのはレアアイテムを愛でるようなものと大差ないかもしれない。

 完全な無関心にならないだけ幸せなのだろう。

 

 色々と疑問に思うことは適当なモンスターで実験しなければならないだろう。

 今回の収穫品はアウラシリーズとマーレシリーズ。セットでレア度がアップ。

 採取を終えた後はアウラの全身をタオルで拭いてマッサージし、ポーションを飲ませて服を着せてベッドに寝かせた。

 寝ているとはいえ優しく注げば意外と飲んでくれる。それはラキュースで実践済みだ。

 本来は飲食不要のはずだがアウラのお腹が鳴ったのが聞こえた。

「丸ごと無くなったからな」

 アウラ置いて、食堂に向かう。

 深夜組みの為に夜間でも食事が出来るので消化に良いものを色々と注文した。

 寝ているアウラに少しずつ食事を与える。野菜類は事前に潰し、肉類も同様に細かくする。

 筋力低下で身動きの取れないラキュースの世話が役に立つとは。

 顎は無事なのだから咀嚼しなくていいだろう。

 食後の歯磨きなども行(おこな)う。水で口をゆすぐ事も忘れない。

 寝たまま、大人しくされるがままなのはヤントラの作業が優しく丁寧な証拠だろう。

 手際の良さと素早さは職人クラスかもしれない。

 翌朝にメイド達が目覚め、それぞれ仕事に向かっていく。

 アウラも目が覚めたが昨日の事はよく覚えていなかった。

 起きたり寝たりを繰り返した後、意識が何処かへ持っていかれる感覚があったな、と思うくらいだった。

 柔軟運動をしても特に異常は無く、気分的にはいつも以上に身が軽い気がした。

 耳は触れるし、景色はちゃんと見えている。

 首をコキコキと音を鳴らしつつ動かす。

 いくつかの装備品が外されていたが改めて自らの身体を確認し、装備しなおす。

「んっ、異常なし」

 部屋に備え付けの姿鏡を見て鼻や耳、手足や指が欠損している事はなく、髪の毛も眉もあった。

 最後に両目の確認。

 舌もあり歯が抜かれている事も無かった。

 問題のヤントラは床のほうで寝袋に入っていた。

「……生きているって事は文句は言わない約束ってことになるわね。むー」

 腕を組んで口を尖らせるアウラ。

「……つまり、敵対行動は起きていない……。むー。ますますわけ分かんない」

 しばらく柔軟運動しているとヤントラが目を覚ます。

「おはよう、バスパ様」

「ああ、おはよう。もう朝か……」

「そうだよ。それじゃあ、確認だけど……。あたしの耳、見せて」

「騒がないようにね」

 下手に濁さず、あっさりと言ったヤントラにアウラは少しだけ唸った。

 そして、懐から箱を取り出し、中から浅黒いものをベッドに置いた。

 その物体を見たアウラは総毛(そうけ)立つ思いを感じ、叫びそうになるのを必死にこらえた。

 顔つきは怒りの形相になっているだろう。

「………」

 鏡で見たはずの耳。

 その耳(・)だ(・)け(・)がベッドの上に置かれている。

「おーう。なかなか、衝撃的だね……。敵の肉塊は平気な方だけど……」

 手袋を取って、素手でベッドに置かれた耳に触ったり、持ったり、匂いなどを確認する。

 姿鏡で比べたりした。

「……間違いなく、あたしの耳だわ。しかも生暖かい……。ふん……、恐れ入った」

 というよりはわけが分からない。

 よくここまで出来たものだ。

 傷跡も綺麗に消えている。なので、ちょっと解体風景を見てみたい気持ちにはなったが、見たくないという不快感も少しある。

 自分が被害者になったからなのだろうが、もどかしい気持ちだとアウラは不満に思う。

「それはどうも。段々と悪魔側に傾きそうで怖い」

「こっちのセリフ」

 再生した耳があるのだから、切り離された耳を持っていても仕方が無い。

 ヤントラに渡して深くため息をつく。

 何度も思うが見事な手並みだと感心した。

「装備してたら魔法が効きにくくなるものね。起きてたらどうなっていたことか」

「暴れっぷりからすると半狂乱は確実だ。第九階層に魔獣の軍団が押し寄せていたかも」

「……むー。でも、約束は守らなきゃね。お見事、バスパ様。それじゃあ、あたしは仕事に行ってきます」

「こちらこそ。ありがとう。……ちょっと待て」

「んっ?」

「敵対プレイヤーの実力はどうだ? アインズが恐れるものはもっと凄いぞ」

 敵。他のプレイヤー。その単語を久しく忘れていた気がした。

 笑顔を作ろうとするが頬が引きつるのが自分でも分かる。

「本来、君たちが戦うべき敵だ」

 アウラはヤントラの首を掴む。

「それが正しい階層守護者としての反応だ」

 首を握りつぶそうと思ったが約束をしたことを思い出す。

「……よくあたしを殺さなかったわね」

「部位を頂けるのだから殺す理由は発生しないだろう」

「……うん。そうだね」

 理由があれば殺す、ということだろう。それでもアウラは目の前の存在を殺すべき敵に見えてしまった。

 自ら敵地に飛び込んだのに相手を悪者にしようとしている。

 これが命令ならば平気だが、今は自己責任だ。

「油断ならない人ね。……それで、また欲しくなったら取るの?」

「来るたびには取らない……かな。種族別って感じだから。粘体(スライム)とかアンデッドは……、回復手段が難しいから……。シズはどうしようもないだろう。髪の毛数本かな、あれは」

「どうしようもない趣味に目覚めたようね」

 バカを通り越して呆れてしまう。

 ぶくぶく茶釜がよくバスパを肉塊にして遊んでいた事を思い出す。

「ここにいる時は肉ボールよ」

「もう一つあったら、茶釜姉さん運営に消されるよ」

「姉貴……、友達だからボールにしていいルールは無いからね。というか、どこで蹴る気なの?」

「盛り上がったところが足だよ、弟」

「……わかんねーよ。ヘロヘロさんみたいに人型になってくれないと」

 その後、住居から蹴り出され、中央にある小さな湖に入れようと奮闘していたっけ。と、当時からおもちゃにされていたバスパ。

 というか、潰れた姿しか思い出せないな、とアウラは首をかしげる。

 う~む、と唸りつつ前の姿のバスパを思い出そうとするアウラ。

 肉塊の姿しか思い出せないほどなのだから変な趣味に走っても不思議はないかもしれない。

 創造主達の考えや思考は崇高すぎて理解に及ばないのだから、彼らに近しいバスパの考えが理解できないのは仕方がないか、と諦める事にした。

「恐れ入りました。……でも、戦うときは容赦なく殺すから」

「そんな日が訪れたらお相手をよろしくお願いします。互いにしっかり武装した上でね」

「正々堂々でやる気?」

「アサシン(暗殺者)クラスだけど、暗殺よりは真っ向勝負が好みなんだよ。……今回は無防備にさせてもらったし。敵は殺すかもしれないけれど……、殺人に飢えてはいないよ。うまく言えないけど……」

 モンスター退治は趣味だが、どう言えば伝わるのだろうか。

 アウラが困った顔をしているのが分かった。

「あー、はいはい。あたしも自分で言った事を覆す気は無いわよ。……ちなみになんだけど、唇も取った?」

「取らなかったよ。種族的な特徴のある部分がいいから」

 森妖精(エルフ)種は耳が特徴だから納得は出来る。他はどんなものなのか、知るのは怖いが気にはなる。

 再生されたのであれば今更返されても戻せない。

「……やってみろ、と言った手前、文句は言えないわね。ふ~、いい、聞かない。それじゃあ、あたしは退散するわ」

「すまないな」

 アウラは苦笑しながら手を振って第九階層を後にした。

 第六階層に行った途端に背筋に冷たいものを感じた。敵に対して臆(おく)することなど無いと自負する自分が少しだけ身体の震えを感じている。

 装備が無ければ危ない相手。

 レベル的には自分より下だが、侮ってはいけない相手ではあるのだろう。

「……でもまあ……。身が引き締まったよ。こっちこそ、礼を言うよ」

 目元に力を込め、口元を大きく歪めて笑うアウラ。

 階層守護者としての誇りにかけて、あの程度で動揺などはもうしない。

 それから空腹を感じたのでメイドに朝食の用意を命じる事にした。

 

●↑●

『第六章 魔王アインズ』へ続く

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。