※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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F-2 イビルアイとルプスレギナとアウラ

 無名の魔法詠唱者(マジック・キャスター)。

 あまたの化け物を使役するナザリック地下大墳墓の支配者。

 見掛け倒しの大嘘付きというわけではないようだ。

「……性格的なところはどんな感じだ?」

「優しい人。村長、前のですが。村長が言うには腰の低い穏やかな方だと。無償で村を救い、大変感謝していると……」

「腰が低いか……」

「はい。尊大(そんだい)な態度で命令するような方ではありませんでした。喋り方も丁寧だと。代わりにもう一人のヤントラさんは……、怖い人です」

 イビルアイは唸った。

「優しい人なのは分かりましたが、あの人は恐ろしい人でもありますね。村を救ってくれた方かもしれませんが……」

 ネムはンフィーレアの腰を強く抱きしめた。

「あと、あの人。エロい人です!」

「うん」

「なんなんですかね、あの人は!」

 エンリは怒りをこめて言い放つ。それにイビルアイは何も言えない。

「男なのか女なのか分からない身体してますし」

「……見たのか?」

 イビルアイの言葉に顔を赤くしてエンリは頷いた。

「エロい人なのは私も……。んふっ。ということは……、一緒に風呂に入ったのか?」

 イビルアイの言葉にンフィーレアは身を乗り出すが言葉が出ない。

「……はい」

「ならば身体も洗ってくれたのだろうな」

「……はい。とても……、洗い方がうまい人でした」

「女性の扱いにかけては我が蒼の薔薇でも評判だ。エロい人だが、最初だけだ。一回胸でも揉ませれば大人しくなるぞ」

「いやです!」

「しつこいのは最初だけだ。狙った獲物を手に入れれば次へ行く。あれは並みの女殺しではないぞ」

「ということはそちらも被害に?」

「私は自分からだが……。怒る気持ちは理解できるぞ。だが、恩には最大限報いてくる。それは間違いないだろう」

 エンリは唸った。

 最大限の恩というには桁違いの恩恵をカルネ村に送ってくれた。

 これがエンリの胸を揉むための報酬だとすれば竜(ドラゴン)級の敵だ。

「元々は私が……悪いんです……ですけどね」

 消え入りそうな声でエンリは言い、うなだれるようにテーブルに突っ伏した。

 怒る前に自分のした事を思い出した。

「馬車で轢いた事にしては凄まじい嫌がらせなんですけど」

「ああ……、ご主人は自分を攻撃した事は気にはしないだろう。エンリが困るとアインドラ家が困る。ただそれだけかもしれない」

「アインドラさん。でも……」

「か弱きものの為に頑張る。それがご主人の行動原理だそうだ。報酬が女の身体なのだろう」

「うえー……。……私をいじめないで下さい」

「でも、ご主人は子孫を残せない身体だ。女だと思って付き合えば良い。同性愛者が受け入れられないっていうならどうしようもないが。私は異性愛者だぞ。人並みにはな」

 横で聞いているンフィーレアは耳も顔も赤くなって言葉が出てこないくらい恥ずかしい思いだった。

 ネムがイビルアイのローブを引っ張った。

「あなたは男、女、どっち?」

「乙女(おとめ)だ」

 声の感じでは老婆かもしれない。と、ンフィーレアは思った。

「話を戻そうか。この村は以前から騒動に巻き込まれていたか?」

「モンスターがたびたび出てくるくらいで、ここ最近は初めてのことばかりです。村は至って平穏でしたし」

 異邦人(いほうじん)であるヤントラの言(げん)が確かならば彼らは無関係であるはずだ。

 アインズ・ウール・ゴウンなる魔法詠唱者(マジック・キャスター)の名前も急に出てきたわけだから。

「最近では森に異常事態が発生して人食い大鬼(オーガ)達が村に近づいてきたので、小鬼(ゴブリン)さん達に任せたら、話し合いの結果、カルネ村で面倒をみることになったんです」

「人食い大鬼(オーガ)は小鬼(ゴブリン)が招(まね)いたのか。ということは知能は高いのだな」

「はい」

 エンリの人となりはだいたい分かった。

 取り立てて脅威と思える材料は見当たらない。

 ヤントラが嫌い、というか苦手なのは理解した。

「最近はどんな事が起きた?」

「エ・ランテルに薬を卸(おろ)しに行った時に検問所で止められまして。このマジックアイテムが物凄い価値のあるものとして疑われてしまいました」

「召喚アイテムといえど結構な額になるからな」

「金貨数千枚だそうです」

「……小鬼(ゴブリン)を召喚するアイテムにしては高額すぎるな」

 イビルアイは手にとって眺めてみたが価値までは分からない。

「後日、この事をたまたま来ていたヤントラさんに話したら、あの人……」

「凄い武装して行ったのだろう」

「はい。オリハルコンとかアダマンタイトとか言ってました。あと、魔剣とか……」

「ご主人はリーダーの魔剣キリネイラムを預かっている。持っていても不思議ではない」

「キリネイラム!? それ聞いたことありますよ」

「十三英雄に出てくる伝説の魔剣だ」

「そういえば、エ・ランテルの墓地に蒼の薔薇のリーダーの亡霊が出たって噂がありましたよ」

 ンフィーレアの言葉にイビルアイは首をかしげる。

「リーダーの亡霊?」

「見た人が居るそうです。仮面を付けて血だらけで魔剣を持ってて。背中に剣も浮いてたから間違いないって。あと、白銀の鎧をまとっていたそうです」

 リーダーは実は生きているのだが、とイビルアイは疑問に思いつつ思った。

 その後でクレマンティーヌの言葉を思い出す。

 リーダーにそっくりな装備をしている『アンリマンユ』という生(い)き霊(りょう)。

「それはアンリマンユと名乗ってなかったか?」

「名前までは……」

 仮に話しが事実だとして『無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)』をヤントラが装備できるのだろうか。見た感じでは体型が合わない気がする。それとも別の白い鎧だろうか。それなら話しに矛盾は生じないだろう。

 クレマンティーヌは実際にアンリマンユと戦ったのだから、彼女が一番詳しいはずだ。

 待て、クレマンティーヌはアンリマンユが『無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)』を装備していたと言っていなかっただろうか。

 それが本当なら謎が深まるな。

「頻繁に出るのか?」

「一度だけだと思います。その後の調査でたくさんの人骨が散乱してて、切断された人の腕があったとか」

 その腕はクレマンティーヌのものだろう。

 少なくともアンリマンユは部位を再生する事が出来る。

 その正体はおそらくはただ一人に絞られる。

 そもそもなぜクレマンティーヌがエ・ランテルに居たのだろうか。

 秘密組織に所属していたと言っていたな。

 会いたい人間に会えるところは凄い運の良い人間だとイビルアイは改めて驚いた。

 狙った獲物を仕留めるすべは尋常ではないな。

「色々とゴウン様のこととか解説していただき、感謝はしますが……。裸は勘弁してほしいです。……裸は終わったから胸揉みでしたね」

「リーダーに比べれば優しいほうだ。それで、それが新しい話しか?」

「その後で、ゴウン様の使いの方から小鬼(ゴブリン)達の食料について考えてくださるそうです。働き手を失っておりましたので」

「至れり尽くせりだな、この村は。というか王国は何かしてくれたか?」

「最初はガゼフ様の使者が謝罪に来られたっきりかと。ヤントラ様が受け取る筈だった報酬をこの村の再建にと……。その後は護衛が出せないとか言われてしまいました」

「……クソだな、リ・エスティーゼは。だから、リーダーが見限るんだ!」

 ダンとイビルアイはテーブルを叩いた。

 ネムはビクッと身体を震わせて奥の部屋に逃げ込んだ。

「……申し訳ない」

 王国側が何もしていないからヤントラが支援しているのだろう。

 しかも敵と味方が協力関係になっている状態とは。イビルアイも驚きだ。

「アインズとご主人、ヤントラは揃って村の支援に来ているのか?」

「いえ。ヤントラ様はアインドラ家の様子を見に来る程度です。ゴウン様は使いの者に命令しているようです。二人が揃っていたのは最初だけかもしれません」

 表立っては支援していない、つもりなのかもしれない。

 ただ、二人が支援するだけの価値があるとは思えない。

 もちろん、村の事や国のことを知っている側の意見では、そう評せざるを得ないだろう。

 ヤントラはアインドラ家の心配をしているから仕方が無いとしてアインズはどのような目的があるのだろうか。

「アインズは村に何を求めている? というか、どんな魅力があるのだ?」

「分かりません。最初だけでゴウン様とはお会いできなくて」

 イビルアイはンフィーレアに手を差し出し、意見を求めた。

「カルネ村はごく普通の村だと思いますし、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の興味を引くような大それたものは無いかと」

「王国と帝国に脅威を振りまく存在が何を思って救いの手を差し伸べたのだろうか。やはり当人に会うしかないか」

 話しが一段落する頃に客人に飲み物を出していない事にエンリは気付いた。

「も、申し訳ありません!」

「いやいや、結構だ。……聞けば聞くほど分からないな。エンリに魅力でも感じた、というのなら分かるが……」

「それは私も知りたいです」

 話しが一段落する頃にティアが顔を出してきた。

「村の偵察、終わったよ」

「ご苦労。こちらも一通りは終了した。では、次だ」

「は、はい」

「小鬼(ゴブリン)達を呼んできてくれ」

 イビルアイとティアは外に出た。

 ンフィーレアはネムの様子を見るために中で待機となった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ティアは出会う村人たちの確認作業をしていたが、家の中までは調べなかった。

 だいたいの見取り図を製作するのが目的だ。

 村の特産や栽培品目も聞けるだけ聞いてきた。

 少しアインドラ家で休憩を挟みつつ自分の仕事に集中した。

 エンリは自宅に隠れてもらっていた小鬼(ゴブリン)達を呼び寄せる。

 居間では狭いので外に集まってもらった。

 武装した小鬼(ゴブリン)は全部で十九人。

「野良小鬼(ゴブリン)よりしっかりしているな」

「姐(あね)さん、こいつすごいヤバイ奴ですぜ」

「……ん?」

 それぞれ職種の違う小鬼(ゴブリン)だったが一番多いのは兵士タイプだった。

「人食い大鬼(オーガ)と他に誰が居る?」

「悪戯小鬼(ホブゴブリン)です。トブの大森林から逃れてきた者達です」

 イビルアイは小鬼(ゴブリン)達を眺めつつ、メモに記載していく。

「戻って良いぞ。……それで小鬼(ゴブリン)達の仕事はどんなものだ?」

「はい。村の警備や森で薬草採取が主な仕事です。ただ……、料理とか特定の仕事はどうしても出来ないらしいんです」

「ふん」

 軽く鼻を鳴らしただけで不機嫌を表したものではない。

「召喚アイテムを友好的に活用しているのだな。……んっ? いつ召喚した?」

「ゴウン様が帰られて数日後だったかと。働き手が居なくなりましたので、つい……」

「未だに消えていないのか……」

「ああっと、このアイテムで召喚されたものは消えないそうです」

 イビルアイの疑問にエンリは正直に答えた。

 ティアは小鬼(ゴブリン)を一人ずつ家の中に戻ってもらった。

 小鬼(ゴブリン)の個人面接があると思ってエンリは胸に手を当てて心配していた。

「カルネ村の戦力で王国に害をなすかと言われれば無理だろう。私一人でも殲滅できる」

「王国に害とか、そんな大それた事は考えてませんよ」

 エンリは両手を振って否定した。

「ただ、王国側はそう思わないだろう。かの魔法詠唱者(マジック・キャスター)が帝国にいる。その魔法詠唱者(マジック・キャスター)から支援を受けているカルネ村は危険だ。人食い大鬼(オーガ)も居る。討伐隊編成。……ごく自然な流れになるだろう」

「そ、そんな……」

「バカみたいなことだが、バカなんだ。こっちが申し訳なくなるほどにな」

 ティアはエンリの背中をさすった。

「……ご主人が我々に正式に依頼した気持ちがよく分かるよ。ああっ! 今は聞かなかったことにしてくれ」

「えっ? は、はい」

 ついうっかり依頼主の事を喋ってしまった。

 本来なら罰則ものだ。

「ねえねえ、小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)で柵って作れるの?」

 ティアがエンリに尋ねた。

「動像(ゴーレム)さんにやって頂きました。完成した後でどこかに連れて行かれたようです」

「動像(ゴーレム)がここまで丁寧な仕事をするとは、すごいよ」

「……エンリ」

 ため息交じりにイビルアイは言った。

「はい?」

「諦めて胸を揉まれてくれないか?」

「えっ!?」

「ヤントラの支援があれば王国もそうそう手出しは出来ないだろう。あくまで立ち寄った村をたまたま魔法詠唱者(マジック・キャスター)が救ったが……。という感じに……」

 エンリは自分の胸を守るように顔をしかめる。

「……大々的にゴウン様の名前を出してしまいましたし……」

「口裏あわせも時と場合によると思うがな」

「イビルアイ。報告書は正しく書かないといけないんだよ」

 不敵な笑みを浮かべてティアは言った。

「ところで、エンリ。……ゴウンって人の使いの者って今居ないの?」

「あ、ああっと……。神出鬼没な人がよく来るんですが……。今日は居ないみたいです」

「そこだぁ!」

 ティアはクナイをエンリの家の屋根に向かって投げた。

 真っ直ぐに飛んだクサイは空中で停止する。

「やっほ~。また見つかったっすね」

「ルプスレギナさん!?」

 クナイを投げ返す人物は赤い髪を三つ網のツインテールにし、浅黒い肌に狡猾そうな金色の瞳を持つ女性だった。

 屋根から前方に回転しつつ地面に着地する。

 背中に自分の背丈ほどもある聖印をかたどったような巨大なメイスともいうべき武器を背負っていた。

「私は姿を消す能力はあるっすけど、アサシン(暗殺者)系は習得していないんすよね」

 後頭部をかきつつ不思議な服装のルプスレギナは言った。

「話しは聞いてたんで、一から聞かないっすけど……。このままだとカルネ村はヤバイっすか?」

「ああ、そうなる予感はしている。だから、事前に彼女の身辺を調べているんだ」

「依頼主の……、ああ、規則って言うやつっすね?」

「うん。冒険者は『表向き』は色々と大変なの」

 ルプスレギナの疑問にティアが答えた。

「ルプーって名前じゃないんだ……」

「ああ、そうっすよ。あと、名乗れない立場もあったんで自己紹介はしなかっただけっすけどね」

「この者がアインズの手の者でいいんだな?」

 イビルアイの質問にエンリは頷いた。ルプスレギナも指摘しなかった。

「改めて、自己紹介は必要だろうか?」

「結構っす。面倒くさいから」

 朗らかに笑いながらルプスレギナは頭に手を回して言った。

「アインズはこの村をどうして救った? どんな魅力があるんだ?」

 ど直球にイビルアイは尋ねた。

「それは私にも分からないっすね。ご命令だから私は様子を見に来てるだけだし」

「当人に会えないだろうか?」

「難しい問題っす。それは私個人で判断できる問題ではないので」

 ティアはルプスレギナの側に向かう。

 そして、手招きして体勢を低くしてもらった。

「……王都の件ではお世話になりました、と伝えてください。……暗号のほうは期待しないで。……たぶん揉み消しもあるだろうから」

「……了解っす」

 今の口ぶりだと連絡できる手段はあるようだとティアは思った。

 つまりは内容で伝えられない事もある、ということになる。

 伝えられる手段はあるが連れてこれるかは別問題なのかもしれない。

「アインズという魔法詠唱者(マジック・キャスター)の狙いが分かれば対処も出来るのだろうが……」

「狙いっすか?」

「この村を支援する理由だ。ご主人はアインドラ家が居るから、という理由が成り立つからな」

「そういえば、そうっすよね。そこら辺は知らないっす。命令を受けただけっすから」

「手詰まりか」

「困ったっすね」

 ルプスレギナは言葉とは裏腹に楽しそうに言った。

「エンリが近隣で商売できなくなるが、いいのか?」

「嫌です」

 はっきりとエンリは言った。

 これからも街で売り買いをしないと食費も恩返しの資金も稼げなくなってしまう。

「私はエンちゃんとネムちゃんの安全の確保っすから。後は知らないっすよ」

「そういう命令なんだ」

「そうっす。アインズ様のご命令は絶対っす」

 腕を組んで自信満々に鼻息を荒くしてルプスレギナは言い放つ。

「あなたの知り合いでアインズという人に連絡が取れて連れてこられそうな人は誰か居ないの?」

「みんな忙しいっすからね。格上(かくうえ)の人に来てもらうって失礼な話しっすよ」

「来てもらわなくても一階ずつ上に伝えたらどう?」

「とんとんと、上ってアインズ様に報告っすか? 人間のクセに悪知恵が働くっすね」

 ルプスレギナは呆れつつも楽しそうだと思った。

 一気に頂点に報告は出来ないけれど悪い案ではない。

「悪知恵って……。この村の為に考えてるんだよ!」

「わ~。ごめんっす」

 イビルアイの怒鳴り声にルプスレギナは両手を合わせる仕草で目を瞑る。

「イビルアイ、落ち着いて。よ~しよし」

 ティアはイビルアイの頭を撫でた。

 

 手詰まり感はあるが集めた情報を整理していく。

 エンリ個人に異常は無い。周りが異常なだけだ。それは理解した。

 小鬼(ゴブリン)も人食い大鬼(オーガ)も脅威というほどは無い。

 王国に脅威を与えるような戦力ではないのだが、最終的な問題としてアインズ・ウール・ゴウンの存在がある。

 帝国側に就いた魔法詠唱者(マジック・キャスター)。

 手柄欲しさに動く愚か者が居るのが王国だ。

 特に貴族連中は行動が早い。

「アインズ様に直接聞かないと仕事は達成できそうに無いっすか?」

「代理人の言葉だと部下が勝手に言ったことは信用出来ない、と言われるから」

「……ああ、なるほどっす」

「例えば、カルネ村には凄いお宝が眠ってるとか。地下には強力なアンデッドを封印しているとか。隠し財産を保管しているとか。そんな理由があるから守っているのかなと」

 ティアは思いつくかぎりの例を言ってみた。

「今の例えは全部無いっすね。うちの方が安全だし、厳重さでは誰にも負けない自信はあるっすよ」

「うちのご主人は色々とアイテムを持ってくるようだが、管理体制は厳重なのか……」

「バスパ様はご自分の隠し金庫をお持ちだから。あと、金貨を払っていくし、許可を得て対価を支払いアイテムを手に入れているっすよ。そういうのを調べる人が居るから勝手は無理っすね。それに……っと、これ以上は言えないっすね」

 自分は知っているけれど人間相手に開示できるのはここまでとルプスレギナは微笑みながら言った。

 自らの拠点にある凄い宝は我が事のように自慢したかったが、我慢した。

 それはもちろん自分の身体を含めて持っているアイテム、装備類も宝ではあるのだが。

「結論から言えばお前に聞いても無駄ってことか」

「ちょっと傷つくっすね」

 とはいえ事実だから仕方ないとルプスレギナは苦笑する。

「エンリとアインズの関係の疑念が解消されないとこの先、良くないことが起きるぞ」

「ただ村を救った、だけじゃ駄目っすか?」

「相手を納得させられる材料が無いと。私、イビルアイが直接聞きました、となれば私の責任で事を収められる」

「おおっ」

「何かあれば私の首でエンリが、カルネ村が助かる、かもしれないぞ」

 ルプスレギナは感心した。

 人間のクセに、と侮っていたところはあるがイビルアイは意外と楽しい人間かもしれない。

 命令が無ければ殺し合いをしてみたい。そんな気持ちが渦巻き始める。

 ティアも不可視化が通用しないようだし、蒼の薔薇はそれなりに戦える『おもちゃ』だと改めて認識する。

 

 ルプスレギナの殺気に似たオーラなどを感じ取ったイビルアイは一歩後退する。そして、ティアに顔は前を向いたまま手を向ける。

 顔は笑っているが邪悪な気配が増大していく。それはきっかけがあれば破裂する危うさを持っていた。

「は~い!」

 突然、上空から声がかかった。

 それはイビルアイやティア、ルプスレギナも驚くことだった。

 気配は突然に生まれた。

 イビルアイ達、三人は空を見上げる。しかしそこには何も無かった。

 不可視化しているのは分かったが、気配の規模からは相当な大きさのモンスターが居る、ということしか分からない。それも尋常ではない規模だろう。

 その何も無い空から点が生まれて何者かが降りてくる、というよりは落下してくる。

 それは小さな存在だった。

 ゆっくりと回転しながら、地面に小さな音のみを響かせて着地したのは少年のような姿をした存在だった。

「よっと!」

 軽く背筋を伸ばすのは肌が浅黒く、短く切りそろえられた金髪に青と緑の色違いの瞳。

 特徴的な長い耳。森妖精(エルフ)の近親種の闇妖精(ダークエルフ)。

 赤黒い竜王鱗を貼り付けた軽装鎧の上を白いベストを羽織り、スボンを履いていた。

 靴はヒヒイロカネ合金版を上部にはめこんだ運動靴。

 武器は携帯しておらず、軽く埃(ほこり)を払うような仕草をした。

「ア、アウラ様っ!?」

 ルプスレギナは一歩下がり両手を前で組んで軽く頭を倒す。

「話しは聞いていたよ~。この村にとって不利な事態になるか~」

 身長はイビルアイと良い勝負という低さだが、放たれる威圧感は尋常ではない。

「……まさか、階層守護者か!?」

 セバス並みか、それ以上ともなれば限られてくるだろう。

「自己紹介はしないよ。蒼の薔薇の人間たち。ルプーはあっち行っていいよ」

「は、はい」

 素直に引き下がり、姿を消すルプスレギナ。

 エンリは先日、現れた存在を前にして平伏の体勢を取った。

「で、カルネ村を支援する理由があればいいの?」

「ああ……。ただの人助けにしては仰々(ぎょうぎょう)しすぎる事態になっているからな。納得させるためにも意見は必要だ」

「そうかな~? 防りとしてはたいしたことないと思うけど……」

「相手が納得しなければならない。エンリを守る価値とは何なのか、などだ」

「ただの気まぐれ、じゃ駄目なのかな」

 そういう理由もあるかもしれない。

 それはそれでイビルアイは充分だと思うのだが、貴族はとことん疑う。

「そうそう、必要な食材の詳細が出来ていたら……、ルプスレギナよりはユリがいいか。ユリを寄越すから、その人に渡すか言いつけてね」

「はい」

 平伏したエンリが頭を上げずに言った。

「我々が王国に書類を提出しても結果が出るのは十日以上かかる。エ・ランテルだけなら二日あれば充分だろうが……。エンリの将来を真面目に考えてもらいたいものだ、支援するならな」

「面倒だね、人間社会は」

「森妖精(エルフ)も人間だと思うが……」

 イビルアイの指摘にアウラは眉根を寄せるがすぐに元の表情に戻した。

「ねえねえ。村はアインズが『気まぐれ』で支援してるけど、実際は旦那さん、ヤントラが気にかけている、ってことにすれば良くない?」

 ティアの意見にイビルアイは頷いた。

「だそうだぞ、エンリ。いよいよ、胸揉みの覚悟だな」

「ううっ」

「確かにアインズ様がどうして村を守るようにあたし達に命令しているのかは分からないけれど、そっちで取り計らってくれるなら文句は無いよ」

「カルネ村から王都を攻めるにしても遠いし。エ・ランテルにはモモン様が居る」

 モモンという言葉を聞いてアウラは目を大きくした。

 しかも敬称が付けられたのだから少しだけ嬉しかった。

「確かに……、ヤントラ様は私が街に行きやすいように色々とご支援を頂きました。けれども……、村の者はゴウン様こそが村を救った存在だと思っております」

「そこは口裏あわせでどうにからないか? 少なくとも時間稼ぎは出来るだろう。それとも将来的にカルネ村はリ・エスティーゼから独立してナザリックに割譲(かつじょう)される気なのか? エ・ランテルどころかカルネ村までとなると……、それこそ討伐隊が編成されて領土保全の言い分が立ち、争いになるぞ」

 事態が王国全体に広がりそうな予感がしてエンリの身体が震えてくる。

 ただ平和に暮らしたいだけなのに、と胸のうちでは叫びたかった。

「……そうなったらなったで、バカを粛清してくれると思うから私の都合は悪くならないがな」

 イビルアイは鼻を鳴らすように言った。

「……村の立場やエンリの将来は不安になると思うよ。何処で商売するの?」

「森での薬草採取なら帝国の都市に近くて森に近いところに引っ越してもらうしかないだろう」

「……黙って聞いてたけど、面倒くさいね」

 アウラは頭の後ろに手を回して呆れつつ言った。

「面倒くさいんだ」

「あっ、でも。アインズ様が戦争に勝ってエ・ランテルを貰えば解決じゃん」

「そうなったら帝国領になって、貿易相手国としての覚書(おぼえがき)とか色々と面倒くさい手続きが待っていると思うけどな。あと、国境警備についてもめたり。……色々と問題は残っているが無血(むけつ)で済む方法を考えているんだよ」

 アウラにバカかお前、と言う所だった。

 勝つか負けるかの問題は置いておいてエンリやカルネ村の将来を考えなければならない。

「少なくともエ・ランテルはまだ王国領内の都市だ。事態が変わってエ・ランテルは要りません、となったらどうするんだ?」

「むう」

 アウラは口を尖らせる。

「王国とナザリックが対等に交渉しているね。これが旦那さんの望んだ姿なのかな」

 ティアはのんびりとイビルアイ達を見つめた。

 力では圧倒的かもしれないけれど、話しが通じる相手と交渉する事はとても大事だ。

「つまりなに? 討伐隊が来ないようにすればいいわけ?」

「……大きな声では言えないが……。平穏のまま維持したければ協力してくれ。と、そう言っている。いいか、お前たちは戦争に勝つだろうさ。その裏では粛清だの交渉だのは続く。カルネ村もまた巻き添えになるだろう。一時(いっとき)でも村の注意をそらせば穏便に彼らは生活できる。アインズという魔法詠唱者(マジック・キャスター)と繋がりがあるエンリを捕縛せよ、という理由を無くす方法が欲しいんだ」

「あたしらが守るだけじゃ不安なの?」

「小鬼(ゴブリン)を使役するエンリだ。直接見ない相手は妙(みょう)に歪曲された噂となって広がる。公式見解として私達が直接調べているんだ」

「へ~。アダマンタイト級って周りを黙らせるほどなの?」

「貴族には通用しないが、街の人間には有効だ。国民が支持するものを貴族は無下に出来ない」

 アウラは感心した。同時にアインズが行っている計画の重要性も分かり、ますます嬉しくなった。

「あ、あの……」

 平伏していたエンリが手を上げた。

「なんだ?」

「エ・ランテルの兵士さん達を村に常駐させる……、というはどうでしょうか?」

「いや、いいアイデアだが。貴族……、六大貴族の半数は厄介な連中だ。一般兵の……、ううん。何かが足りないな」

 批判しきれない良いアイデアだが、貴族派閥の連中は自らの権力を行使してくるだろう。

 それこそ王子などをけしかけて。

 既に第一王子は貴族派閥の傀儡と化している。

「ガゼフのおじさんを常駐(じょうちゅう)させれば? あと、ブレインとかクライムとか。それにカッツェ平野に近いし。ほら、レエブン侯のお抱え騎士とか居たじゃん」

「おお! だが、彼らは全員王国に居るぞ」

「ほら、モモン様にも滞在してもらえば討伐隊も手が出せなくなると思うけど」

「すぐ動くぞ!」

 即断即決。

 イビルアイはエンリの家の中に入った。様々な計画や集めたメモを書類の形にしていくためである。

「……ということなのでナザリックの人達は安易に殺戮に入らないでほしいな。ということをお伝えください」

「そうだね。伝えてみるよ」

「命令が下ればこちらも覚悟するよ。凄い忠誠心ってことは聞いているから、こっちも理解してる」

「話しが早くて助かる。敵にしてはなかなかやるな」

「ありがとう。……王国側だからアインズと敬称を付けなかった事は勘弁してね」

「むっ……。それが分かってるなら仕方ないか……」

 頭の回転の速い敵だな、とアウラは口を尖らせた。

「そうそう……。私たちは仲間と合流して色々と話し合うけど……。三日以内に討伐隊が来るようだったら……。そちらで処分して良いよ。バカの面倒は見たくないから」

「止めないの?」

「小さな村を襲うような恥さらしの運命なんか知りたくないよ。私ら冒険者は『依頼』を受けて仕事をするだけだよ。もちろん、自分でやるかやらないかの判断はするけどね」

「へ~」

 アウラは感心した。

 ナザリックに属していないとはいえ、こういうシモベが欲しいものだと思った。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アウラに一礼した後、ティアはイビルアイと打ち合わせし、十分後に外に出てきた。

 外に出るとアウラが村を散策している姿が確認できた。

「村長エンリ。一応、村人の避難計画と防衛計画を立てておいてね」

「分かりました」

「……胸揉みを拒否しているとあの男の子が狙われるかもしれないよ。……なにせ、性別的にはどちらとも取れるからね」

「……覚悟はしておきます」

「私らも汚い仕事をしてきたから良い人ではないけれど……。旦那さんは信頼に応える人だよ。他の冒険者が来てたら騒ぎになってただろうね」

 小鬼(ゴブリン)を見ても、ルプスレギナを見ても、アウラと出会ってもイビルアイ達は毅然(きぜん)と対応していた。

 頭から否定されなかった事は嬉しい。自分の言い分が通じるのだから。

 エ・ランテルでのやり取りを思い出すと対応の違いに驚かされる。

 村への常駐は将来的な移住者へ良い宣伝になるかもしれない。

「頑張ります」

「そう簡単には兵士は来られないと思うから、討伐隊への警戒はしておいて。特に偉そうな態度は危険。村人の意見を聞かない奴は敵だと思っていいから」

「はい。……いろいろとご面倒をおかけして申し訳ありません」

「それが仕事だからね。イビルアイは置いていくから。では、私は仲間と合流して手分けして連絡する。あと、あまり期待しないでね」

 そう言って、ティアは言うが早いか駆け出して居なくなった。

 エンリは身のこなしの素早さに唖然としてしまった。

 

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