※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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F-3 イビルアイとモモン

 馬車はティアが回収し、イビルアイはエンリの家に宿泊しつつ複写作業までこなした。そして単身でエ・ランテルに向かう。

 カルネ村から一番近い都市なので数時間で到着できる。

 最初に向かうのは冒険者ギルド。

 見た目にも目立つイビルアイが向かうと外に大きな毛玉が転がっていた。

「これが噂に聞く『森の賢王』か……」

 イビルアイの背丈よりも少し大きな存在は大人しく待機していた。

「ということはモモン様がいらっしゃる」

 毛玉をさっさと無視して扉をくぐる。

 中に居たたくさんの冒険者達がイビルアイに顔を向けて、そして、一様に驚く。

 小柄な姿だが王国に三組み居るアダマンタイト級の冒険者『蒼の薔薇』のイビルアイはかなり有名な存在だった。

 そんな羨望を無視してイビルアイは目的の人物を探す。

 奥まったテーブルに目的の人物『漆黒』のモモンと美姫ナーベが椅子に座っていた。

「居た!」

 と、イビルアイの声に驚いたモモンは椅子から腰を浮かせた。

 すぐにナーベが腰の剣を抜き放とうとする。

 イビルアイは彼女の行動に気付き、手を前に出したが、それが魔法による攻撃と判断されたのか向かってきた。

「おっ……」

 一直線に突っ込んでくるナーベの剣を魔力を込めた手で受け流す。

 あまたの戦場を潜り抜けてきたイビルアイはただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではない。

 無手(むて)による攻撃も少しはたしなんでいる。

 普通の剣士ならば魔法なしでも勝てる自信はある。

「戦いに来たのではない。剣を納めてくれ」

「なに?」

 剣を抜かないか、注意を受けた事を思い出した。

 体験して始めて理解する。

 ヤントラはこうしてモモンと仲が悪くなったのだと。

 室内での攻防にも関わらず二人の息は乱れない。

 剣を納めたナーベはイビルアイから距離を取る。

「それで……。我々に何の用だ、下等生物(ゴキカブリ)」

「ん……」

 本当に言いやがった。と、イビルアイは呆れた。

 そして、なるほどと思った。

 ヤントラの忠告は聞く価値がある事を改めて知った。

「話しを聞いてもらいたい」

 イビルアイとしてはモモンとお話しが出来るだけで満足だった。

 

 場の雰囲気が収まる頃、イビルアイは仕事の一つを思い出し、受付嬢に都市長との面会を取り付けられないか頼んだ。

 それからモモンの近くに座る。

 自然と身体がモモンに近くなる。それをナーベが本当に下等生物を見るような目で睨んできたがイビルアイは気にしなかった。というより気にならなかった。

「そ、それで私に話しとは?」

 イビルアイの仮面がモモンを注視し、少しずつ近づいているような気がした。

「あっ、そうでした。ごほん、失礼しました。モモン様はカルネ村はご存知だろうか?」

 モモンは軽く唸った。

 先日、カルネ村のエンリに会ったので、そのことだろうかと思った。

「あ、ああ」

「ある一人の村娘を巡って事態が混乱しそうなのだ」

「……それはエンリという娘の事か?」

 隠しても仕方が無いと判断し、名前を出してみた。

「ご存知だったか。そうだ。その……」

「検問所の事なら解決済みの筈だが?」

 同じ質問かと思い、先に問題を潰しておこうと判断した。

「いや、それはご主人が後で解決してくださった。確かにモモン様のお口添えがあったのでしょうが、兵士達の疑念は取れてなかったようです」

 ええっ、とモモンは叫びそうになったが飲み込んだ。

 漆黒の英雄の名声でも疑いは晴れなかったのかとがっかりした気分になった。

「彼女が持っていたマジクッアイテム。私も見てきましたが、あげた当人が説明しなければ村娘程度の意見など通りません。なので、ご主人、ヤントラはそれよりも価値のある武装で黙らせたのです。それはこの目で見たくなるほど滑稽な事だったでしょう」

 楽しそうにイビルアイは言った。

「検問所はしばらくは黙りますが……、問題はカルネ村です。ご存知かと思いますが、もうすぐ王国と帝国とで戦争が開始されます」

「はい」

「カルネ村はとある魔法詠唱者(マジック・キャスター)によって救われた、ことになっております」

「噂のアインズ、ですね」

 そう言うとイビルアイは感心したように歓声をあげる。

「そのアインズを巡って村は危機に晒されようとしているのです」

「……はっ?」

「信じられないかもしれませんが、アインズは今は帝国の魔法詠唱者(マジック・キャスター)として受け入れられました。……なので敵と繋がりのあるカルネ村として調査、というよりは討伐隊が組まれるおそれがあります。……それに小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)を使役する村長のエンリ……。手を打たなければ手遅れになるでしょう」

「何故、討伐隊なのでしょう? 護衛の兵士とか村を守る軍勢という線は?」

「モンスターと仲良くしようと考える貴族は一人くらいしか知りません。大半はすぐ敵は捕縛しろ、とか言うやつらばかりなので……。それにいきなり軍を村に差し向ける支援など聞いたこともない」

「………」

 聞いているだけで呆れる事態だ。

 解決したと思ったらまた騒動の渦中に落ちている。本当に不思議な村だとモモンも感心してしまう。

「……そ、それで、その村をどうしろと? 先に討伐するのですか?」

「いえ、モモン様にはぜひともカルネ村に常駐していただきたいと思いまして」

「んっ? 村に住めと?」

「戦争が終わるまでで結構です。既にガゼフや他の信頼できるものに連絡をする予定です。漆黒の英雄モモン様がご利用していると知れば迂闊に討伐隊も手が出せないでしょう」

 そう言うとナーベは手を合わせる仕草をして感心したようだ。

 モモンも村を守る手としては素晴らしいと感じた。

「本来ならマジックアイテムを渡したという魔法詠唱者(マジック・キャスター)のアインズに直接会いたいのですが……。使いの者たちは格上の存在を連れてくる事ができないと言い張るのです。それは仕方がないと理解しておりますが、部下に丸投げしておいて責任を取らないのはどうかと思います」

 モモンは唸った。

 イビルアイの言い分は正しい。

 こちらにはこちらの言い分があり、忙しく動いていた、と言いたかったが言えなかった。

「アインズに会ってどうされる、おつもりなのでしょうか?」

「私が直接会って話しを聞けば『蒼の薔薇』の責任でエンリはただの村娘……。今は村長でしたね。彼女の身元を保証できると思います」

 責任、という言葉が嫌いなモモンは逃げ出したくなった。

「ちなみに私では駄目なのですか?」

「モモン様はアダマンタイトになられたばかり。貴族に知り合いはおありか? それも王家に連なるような者とか」

「……居ませんね」

 モモンは正直に答えた。

「王都での悪魔討伐で頂いた短剣は役に立ちませんか?」

「大貴族派閥の連中には通じません。それにモモン様が責任を持つ理由はありませんよ。エンリの身辺調査などの依頼は蒼の薔薇が請け負っているので」

「蒼の薔薇が依頼で動いているのですか? あの村の為に?」

「はい。他の冒険者では解決できない事態だと悟りました。こんな仕事を依頼する人物に敬服いたしております」

 モモンには心当たりとなる人物は数人が浮かんだが、真っ先に浮かぶのはヤントラだろう。

「色々と悩んでみたものの良い案が浮かばず……。アインズに直接会えたらいいのですが……。ちなみにですが、モモン様は会う方法はご存知か?」

 モモンは喋る前にナーベを手で制しておいた。

 目の前に居るお方こそ、とか言い出しそうだったからだ。

「参考までにどんな事を聞こうと思っているのですか?」

「はい。カルネ村を救った理由と支援する理由です。ご主人のようにアインドラ家が居るから支援する、という理由ならば納得できるのですが……。アインズは何を目的として要塞化するほどの支援をしたのか分からないのです。理由がはっきりしないからエンリが疑われてしまうのです。全く、無責任な奴ですよ」

 モモンは何度目か分からないくらい唸った。そして、言い返せない。

「そ、それは困っていたから救った……。では駄目なのでしょうか?」

「そういう事を本人から聞きたいです。聞けないから困っているのです」

「どうしても本人と直接話さないと駄目ですか?」

「エンリという女性に会うまで、私も変な想像をしていました。アインズ側がどうしても言えない事情を持っているのならば仕方が無いでしょう。ですが……」

 イビルアイの説明一つ一つが全身鎧を貫いていく。

「エンリの生活を思うのであれば理由は言うべきでしょう」

「……そうですか」

 今後の計画に必要だ、では駄目かもしれないとモモンは思った。

 いや、アインズ本人の言葉なら可能かもしれない。とにかく、イビルアイは言質(言質)さえ取れれば満足するのではないだろうか、とひらめいた。

 それには姿を見せなければならない。

 ラキュースの件で姿は見せているのだから問題は無いか。まずはまだ聞かなければならない事を尋ねてみようと思う。

「イビルアイは……、アインズの言質さえ取れればいいのですか?」

「そうですね。最善ではありませんが、それで書類は完成します。少なくとも……、正式な書類が出来ればいいのですから。今は会う方法が無くて、未完成品になりましたが……」

 イビルアイは出来た羊皮紙をモモンに見せる。

 当然、モモンは文字が読めなかった。しかし、イビルアイは構わず話し続ける。

「エンリの人となりが書かれています。少なくとも……、個人的には害は無いという。村への支援が過剰な部分で疑念を抱かれる内容になっています」

「あー……、過剰……なんですか」

「誰が見ても過剰です」

 ばっさりとイビルアイは言い切る。

「経緯(いきさつ)を知れば納得しますが、不味いのは村人に要塞化する技術が無い事です。人食い大鬼(オーガ)でも無理なのは私でも分かりますよ。動像(ゴーレム)がやったそうですが、出所(でどころ)を疑われると……」

「アインズに繋がると」

「はい。証拠隠滅に走るかは分かりませんが、アインドラ家が居るのでご主人がアインズと戦ってしまうかもしれません」

 ナーベが椅子から立ちあがった。

 イビルアイは少しだけ驚いた。

「彼女とご主人は……、仲が悪いようだが……? 裸でも見られたのか?」

「そういうわけではないようですが、生理的に嫌いなのかもしれません」

 というよりナーベの反応はモモンも理解できない。

「ご主人とアインズは似ているところ、というか共通点があるので……」

「……ほう」

「共に大切にしている者が居るようです。それを守るためにご主人は頑張っているのだと理解しました。敵と味方に別れておりますが、手を取り合えるならば私も応援したいと思っております」

「……大切なもの……。妻とかですか?」

「それもありますが……。おそらくは、もっとたくさんの者達だと思います」

 その言葉で思い当たるのは国民だろうかとモモンは首を傾げた。

 国民ではアインズとの共通点になりえない。

 では、と思って浮かぶとすればただ一つ。

 『ナザリック地下大墳墓』だけだろう。

「……奴らしいか……」

 不思議と納得できた。

 カルネ村を救う事がナザリックのためになるとヤントラは考えている、ということになる。

 エンリの調査でそうなるだろうか。

「すみません。カルネ村を討伐されるとエンリは困るでしょうが、それだけですか?」

「討伐隊が来たら支援しているアインズは怒るでしょう。そして、余計な戦乱が始まる。つまり、今回の依頼はカルネ村にまた戦乱を起こさせないための処置、だと思います」

「……はい」

 言い分が理解できると反論が出来なくなるな、とモモンは反省しっぱなしの気分だった。

「王がカルネ村を庇護(ひご)すると言えたら良いのですが、辺境の小さな農村に割(さ)く兵力はありません。守る兵は居ないのに討伐する兵は豊富です。ったく、バカかあいつら! ……失礼しました。……なので、冒険者の休憩所にしてしまえば討伐隊も手が出しにくくなる、かもと。……モンスターが居るのが問題ですが……。ずっと常駐しなくても適度に利用してもらえれば結構です。アインズの部下にもてなしの上手なメイドが居るそうですから」

 ずっと冒険者に占領させるのは不味い事態の気もするが戦争が終わるまでなら我慢は出来るだろう。

 それに平和的に解決する方法としては有効な手ではある。

 討伐隊など始末すればいいと考えてしまったが、エンリの生活が危うくなるのも気が引ける。

 アダマンタイトの『蒼の薔薇』は先輩に当たる。リーダーの他からも意見を聞くのはアンダーカバーには都合がいいだろう。

 ただ、問題が一つあった。

 声でバレそうだ。

 会わずに解決するならイビルアイの冒険者の常駐を選ぶしかないだろう。

 それにモモンは別にアインズと知り合い、というわけではないのだから。

「イビルアイの提案はとても有意義なものだと私は思います」

「そ、そうか」

「ですが、常駐は無理です。せいぜい数日が限度かと……」

「それでも構いません。モモン様がご利用した村だと分かれば良いのです。あとはこちらのガゼフや彼の兵士達に使わせます。私の知っている者たちなので信用も出来ますし。もしすぐに向かわれるのでしたら宿泊費として金貨三枚、三日分をお渡しします。二人なら六枚か……。……このところご主人の出費が物凄いので正式な依頼料をお支払いできませんが……」

 そう聞くと身に覚えのある金額がモモンの頭に浮かぶ。

 金はあるだけ欲しいが受け取るかどうかは悩みどころだった。

「たった金貨六枚……」

 と、ナーベが言った。

 貨幣だけで言えばそうなるだろう。だが、価値としては贅沢さえ言わなければ半月分くらいの生活費になる。

「アダマンタイト級の正式な依頼料からすれば微々たる額だが……。別に無理は言いません。様々な冒険者に適正金額を払うと……、ご主人の資産は……、三ヶ月も持たないかもしれません」

 どこかで聞いた期間だなとモモンは思った。

「私が資産管理をしているのですが、収支と支出が合いません。というかまだ鉄プレートです。……あまりにもお人よしではありますが……、私は嫌いではありません」

 金貨六枚とはいえ収入には違いない。

 三日と言わずに一日で退散というのもありえるかもしれない。

「何しろ討伐隊が本当に来るかは分かりませんので。村で冒険者を泊める宿泊施設とか用意できておりません。それも同時進行で進めるしかないのですが……」

「大変ですね」

 他人事(ひとごと)のようにモモンは言った。

「ありがとうございます」

 イビルアイはモモンとたくさんお喋りが出来て気分は舞い上がっていた。

 言葉が少ないモモンも魅力的に感じるほどだ。

 だが、お互い顔を隠した状態なので表情の確認は出来ない。

 王(・)都(・)で(・)モ(・)モ(・)ン(・)の(・)素(・)顔(・)は(・)見(・)て(・)い(・)る(・)のでイビルアイも二人っきりの時には見せようかどうか悩む。

「そういえば、モモン様はモンスターと一緒の生活は平気な方だろうか?」

「言葉が通じるのであれば大丈夫だと思います」

 イビルアイは胸をなでおろす。

「そちらにもご都合がおありでしょう。無理にとは言いません。お話しを聞いてくださっただけで嬉しく思います」

「いえいえ。先輩方の貴重なお話は胸に染み入ります」

 モモンの謙虚(けんきょ)な態度にイビルアイは顔を真っ赤にする。

「……もし仮にイビルアイの依頼を受けると言った時……」

「はい」

「君の全てを渡せと言ったらどうします?」

「ひゃえ!?」

 奇妙な言葉がイビルアイの仮面から出てきた。

 思わず立ち上がり、そしてすぐに尻餅(しりもち)をつく。

「す、全て? この身を捧げろと……」

「そうです。それだけの覚悟はおありかと……」

 這(は)い蹲(つくば)るように椅子に胸を押し付けつつ体勢を整えるイビルアイ。

 お嫁に来てください、という意味だろうか、と思って驚いてしまった。

「そ、それは……。あ、あい、愛の告白だろうか!?」

「はっ? あ、ち、違いますよっ!」

 モモンは両手を振って否定する。

 

 二組みのアダマンタイト級の話し合いに周りは既に聞き耳を立てる事に集中していて静かになっていた。

 確かに聞きようによっては『結婚すれば』、または『俺の女になれば』言う事を聞いてやろう、に聞こえなくもない。

「こほん。失礼した。この身を欲しておられるかもしれないが、既に我が身はご主人の所有物。いくらモモン様とて差し上げられません。……申し出は大変、嬉しいのですが」

 所有物と聞いてモモンは唸る。

 聞きようによっては怪しい雰囲気を感じた。

「所有物……」

「モモン様はご存じないかもしれませんが……。王都での悪魔騒動の前に起きた事件について、アインズの手の者の力を借りるために命を粗末にしてしまいました。ご主人の口利きにより、一命は取り留めたものの自分の不甲斐(ふがい)なさに、より情(なさ)けなくなりました」

 長くなりそうな身の上話しの予感をモモンは感じた。

 その時の事は実(・)は(・)モ(・)モ(・)ン(・)は(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

「事件に取りかかる前に自害……、まあ自害みたいなことを勝手にしてしまい……。ご主人に多大な迷惑をかけてしまった。一度は捨てた命を彼に拾ってもらったのだ。化け物の実験に使われるくらいなら彼の所有物であるほうがマシかもしれないと……」

「そんなことが……」

 話しに乗るように言ってみた。

「……身体に虫を入れられるという屈辱を味あわせてくれたアインズの面々にはこの身はやれんがな! ……失礼、モモン様にはお耳汚しの話しでしたね」

 イビルアイは丁寧に頭を下げた。

「誓いを立てた手前、モモン様の為に破る事が出来ません」

 ここでイビルアイはモモンと一人で会ってはいけないと言われていたことを思い出す。

「ん……」

 モモンと出会えて気持ちが舞い上がり、約束を破ってしまった。起きてしまった事は仕方が無い。後で謝罪しようと思った。

 今のところは何も問題なく話しが進んでいるし、とイビルアイは思った。

 モモンとしては少しだけ眉根を寄せる言葉だった。

 だが、身体に虫を入れるとは酷い話があったものだ、とモモンは思いつつ今の話しを忘れようと思った。

「話しを聞く限り、ヤントラという人はイビルアイというか『蒼の薔薇』にとって大事な人なのですね」

「性格は突飛な方ですが……」

 と、イビルアイは苦笑する。

「最初は女の身体を貪る変態野郎だと思いましたが……。彼は自分の全てをかけて弱きものの為に戦う人……。いつ死んでもおかしくないからこそ、彼は人間の生存本能である種の保存……。つまり女の身体を求めてしまう、と私は考えています。とはいえ、淡白な所もあり、女体観賞……でしたか。見るもの、触るものを済ませれば……。ああっ! 失礼しました! 恥ずかしい話題でしたね」

 イビルアイは何度か頭を下げた。

 聞かされているモモンは恥ずかしさは少し感じていたし、周りで聞き耳を立てていた冒険者達は『すげー変態野郎だ』や『女の敵だ』という意見が聞かれた。

 歳若い冒険者は顔を赤くして恥ずかしがっていた。

「と、とにかく、女殺しなのは間違いないのですが、我々女性パーティ……。これも駄目だ……。えっと……」

 どう言えばヤントラの魅力が伝わるのだろうか。

 女の扱い方がとてもうまい。でも駄目な気がしてきた。

「女体……。つまり女の敵には違いが無いようだ」

 何が女体観賞だ、と怒りだしそうになる。

 マーレの件といい変態特殊技術(スキル)が知り合い以上に広がっていそうだ。

「それもこれも最初だけです。掃除に洗濯、料理にとかいがいしくお世話してくるのです。身体の洗い方は好評という。変態行為は最初だけで後は紳士的になります。モモン様にはお怒りの事かと思いますが……」

「当たり前です!」

 モモンがテーブルに拳を打ち付けて破壊してしまった。

 ナーベとてびっくりしたようだ。

「変な話しを聞いてくれたお詫びとして私が弁償しますので」

 と、受付嬢に手を振って合図する。

「人知を超えた化け物と戦ってきたから、ああいう性格になったのだと思います」

「蒼の薔薇は全員、手篭めにされたってわけかよ」

 と、後ろから声がかかった。

「何とでも言え。国を守るためなら安いものだ」

 イビルアイは怯まずに言った。

「そのヤントラは名声や報酬は求めないのですか?」

「元々はのんびりと平和的に冒険がしたいのでしょう。立て続けに起こる事件にとんでもない化け物が見え隠れしているせいで身動きが取れないようです。あと、ご主人は生活費があれば充分な人らしいです。なのに我々や新しい仲間の為に散財しているようで、ちょっと心苦しいですね。家賃も払っていないので……」

 家賃を取っているとモモンは思っていた。

 色々と国に没収されたような話しは聞いていた。

「そうだとすると……、生活費が無くなるのでは?」

「戦争が終わってからリーダー、ラキュースの名誉回復の処置が下されれば、没収されていた資産も少しは返還されるかもしれない。悪魔騒動で王より検討が始められたようなので……」

 自分達も報酬は頂いたが奴も色々ともらえる事になったのか、とモモンは思った。

 長々と話しているがエンリのことは良い案が浮かばないので保留にしたかった。

 棚上げにすれば村を襲われるかもしれない。

 金は欲しいが金額が少ないかも、と欲が出てしまう。

「お話しはここまでにしましょう。それから……、これは興味からなのですが、噂のアインズをヤントラはどうすると思います? 漠然とした質問で申し訳ないが」

「どうするのでしょうか。敵とは聞いていますが……、倒したいと思っていない、気がします。戦士職だから強大な魔法には勝てない、という意味で言っていたのでしょうけれど……。憎んでいるとは思えません。というよりは彼らには共通の『敵』が居る気がするのです」

「ほう」

「たぶんですが、ご主人はアインズなどどうでもいいと思っていると思います。相手にしたくない、というか、苦手というか。戦うと面倒くさくなる」

 モモンは苦笑した。

「我々もアダマンタイト級というモンスターです。話しが通じる強大なモンスターも付き合ってみれば仲良くなれそうな気がします」

「冒険者なのにモンスターと仲良くするんですか?」

「無駄に死ぬのが冒険者の務めではありません。生きて依頼主の要望をかなえなければならないので。戦って死ぬ方がいい、と思っている奴は勝手に死んでくれればいい。国を救えるなら私は泥水(どろみず)もすすり、汚名も被ろう。我らのリーダーも国の為に身体をささげ、国に捨てられた。……あ、すまない。興奮してしまいました」

「い、いえ。強い決意をお持ちなのですね」

「そんなことはありませんよ。我らのリーダーの決意に比べれば可愛い方です」

「なるほど。貴重なご意見は大変、参考になりました」

 殆ど頭から抜け出てしまった気もするが、とモモンは思った。

 とにかく話しが長かった。

「あっ、そういえば……。戦争が始まる時は皆さんも参加されるのですか?」

「冒険者は国の諍(いさか)いに参加することは出来ません。ですが、兵士達の物資の搬入などは手伝えるようです。荷物運びでしょうか? 高みの見物のようになってしまうので参加されると後々、貴族連中に圧力をかけられるかもしれません」

「……やはりそうでしたか」

「仮に参加すると戦後交渉の時に色々と難癖をつけられるかもしれません。規則破りは相手に有利に働いてしまうものなので」

「……小耳に挟んだ事だが、ヤントラはその戦争に参加するようだが?」

 相手の出方を伺うために尋ねてみた。

 ナーベがモモンの横で眉根を寄せる。

「冒険者ギルドの規則を破らない方法……。戦闘行為は禁止されているので参加という言葉が適切かは分かりませんが……。色々と計画しているようです」

 規則を破らずに参加。それは以前も聞いた気がした。

「詳細は分からないのですね」

「戦争開始の数日前あたりにならないと分からないかもしれません。他の冒険者をかき集めて敵魔法詠唱者(マジック・キャスター)アインズ、またはフールーダを討伐、かと私は思ってたんですが……。違う気がします」

 アインズが敵、という扱いになり少しだけ怒りが生まれるが王国側だから仕方がないと諦めた。

 それにアインズという名前に過剰(かじょう)な誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)が無い。スレイン法国との繋がりも聞いていないなとモモンは思った。

「そのアインズとスレイン法国がよく関連付けられると聞いたが?」

「無関係なのはご主人から聞かされているので。王国内ではしつこいくらいスレイン法国と関連付けようとしているので私も呆れています」

「そ、そうでしたか」

「確かにアインズは噂でしか知りませんが、強大な魔法を使うのでしょう。けれども話しは通じるようなので交渉できない相手とは思えません。戦争なので互いが敵になるのは仕方がありませんが。それを抜きにしても会ってみたいです」

「会ってみたいですか、やはり」

「本当は会いたくないですが、敵の顔は見てみたいです」

 イビルアイとモモンはしばし仮面と兜(ヘルフ)越しに見つめあう。

 

 兜(ヘルム)越しとはいえ憧れのモモンと顔を突き合わせることになり、イビルアイは鼓動しないはずの胸が高鳴る思いだった。

「そ、そうだ。仕事が空(あ)いているのでカルネ村の様子だけでも見てこようか。一泊だけでも構わないなら引き受けても良い」

 そうモモンは言った。

「そうですか!? それはありがたい」

「こちらも物入りなので色を付けていただきたい」

 報酬交渉は基本だ。

 だが、額はそれほど期待できないだろう。

「長話しに付き合っていただいたのです。二人分として金貨十五枚。お二人で一泊だけなら……、充分でしょうか? 後、外の森の賢王だと思いますが、そのモンスターの餌代なども」

 モモンも何も無い村に何泊もしたくないので折れる事にした。

 ここで『いや、金貨三十枚は硬いでしょう』と言うのは、なんか小(・)物(・)っ(・)ぽ(・)く(・)てみっともない気がした。

 無償で引き受ける、とは言わない。それは『タダより安いものは無い』という言葉があるからだ。

 モモンは慈善活動がしたくて冒険者になったわけではない。生活費や情報を得るためだ。サラリーマン時代でも相手方の要求を何でも呑(の)んでしまえば自分の会社経営が危うくなる事は知っている。

 利益を出さなければ倒れるのは自分たちだ。時には大きな投資が必要だろう。

 イビルアイが提示したのは二倍以上。

 ここで三倍を提示させる為には何泊もしなければならないだろう。

 自分達にも仕事があり、金の為に無駄に出来る時間的余裕は限られている。

 

 金か仕事か。

 

 脳裏で様々な打算的戦闘が始まる。

 長考が出来ないのも打算的な戦闘において重要なポイントだ。

 仮に戦争後まで泊まるとしても蒼の薔薇が用意した兵士たちに見張られてしまうかもしれない。そうすると途中で抜け出して楽が出来なくなる。

「非公式の依頼ではありますが、お時間代と思って下さい。本来ならばモモン様に頼まず自分達で解決したいところですが、今回ばかりは人手を必要とするようなので」

「いえいえ。そちらの事情は理解しております。その報酬で手を打ちましょう」

 この交渉は単なる金銭的な授受(じゅじゅ)だけではない。

 アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』とのパイプを太く繋げることにもなる。

 それと同時に周りの冒険者からの情報も集め易くなる。

 運が良ければ『不届き者』がのこのこ近づいてくれるかもしれない。

「おお。これからも意見交換をさせていただけたら嬉しく思います」

 イビルアイは懐から皮袋取り出し、金貨十五枚を手のひらに乗せてモモンに見せた。

「ご確認を」

 五枚ずつ並べられているので一目で数え終わったが、相手への敬意を込めているのかもしれない。

「確かに。ナーベ」

「はっ」

 モモンが受け取ると思っていたので、イビルアイは手を引っ込めようとした。

 少しだけ唸ったがナーベに金貨十五枚を渡した。

「イビルアイはこの後はエ・ランテルに泊まっていくのか?」

「都市長と会って書類を渡して、すぐに王都に向かう予定です。貴族どもは手柄のためなら行動が素早いので……」

 うわっ、凄く忙しそう。と、モモンは顔をしかめる思いになった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 一礼して受付嬢の元に向かう間、モモンはナーベに耳打ちする。

「……何とか外に連れ出せ。手合わせでも構わない。……人通りの少ない道にな」

「……畏まりました」

 言うが早いか、ナーベは素早くイビルアイの背後に立ち、ローブを掴んで一気に上の方に引っ張った。

「むう!?」

 モモンは手だけ出して様子をうかがう。勢いあまって全裸になるのでは、と少しだけ思ってしまった。

 ローブを引き剥がされたイビルアイはナーベに背中を蹴られ、カウンターに打ち付けられる。

「がっふ……」

 いきなりの不意打ちに驚き、対処が出来なかった。

 振り向きざまに仮面を踏みつけられ、背後のカウンターに後頭部を打ち付けるイビルアイ。

「失礼。つい、下等生物のお手並みを見せていただきたくなったもので」

 そう言ってローブを奪ったナーベは冒険者ギルドから出て行った。

「お、おい!」

 ローブを頭から被っていたとはいえ全体的な装備が見えていないわけではない。

 肩口を露出する黒い服装。黒いスカート。黒い皮手袋。黒い靴。

 身体の各所に装備されている数々のマジックアイテム類。

「連れが、すまない」

「えっ? あ、はい。私は大丈夫です」

 モモンは頭を倒して謝罪したので、イビルアイはモモンの顔を立てる形でナーベを追うことにした。

 短く切りそろえられた金髪に他の冒険者も感嘆(かんたん)の吐息を漏らした。

 普段は隠れているイビルアイの背中。

 それぞれ珍しい光景が見られて嬉しがる。

 

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