※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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F-5 イビルアイと巨乳

 家の中の気配は一応探りつつ目的地の部屋へ向かう。

 潜入スパイの存在も居るので、知らない使用人と出会ってしまうかもしれない。

 先ほど見た限りでは居ない様だが、隠れている場合も考えられる。

 自分よりも隠密に特化した存在が居ないとは限らないからだ。

 音も無く飛ぶように移動するイビルアイ。魔法の妨害があるのは重要施設のみで、あとは比較的、魔法を使っても『警報(アラーム)』などは鳴らない。

 レエブン侯には妻と幼い子供が居るので驚かさないように配慮されている。

 イビルアイは目的地の部屋の前にたどり着き、軽く息を吐いてからノックする。

「誰だね?」

「蒼の薔薇のイビルアイです。レエブン侯にお目通りに伺いました」

「イビルアイ殿か。入りたまえ」

 扉越しの命令だったが、イビルアイは構わず扉を開けて、中に入り、すぐ扉を閉める。

 機密情報を守るための処置だった。

 レエブン侯の執務室はとても狭い。

 壁中に本が溢れている。更に壁の中には感知や盗聴などを妨害するものが施されていていた。

 イビルアイは当主レエブン侯こと『エリアス・ブラント・デイル・レエブン』の前で平伏する。

 片膝をつかないのはリーダーの失態を気にしてのことで別にどちらでも良かった。

「お目通りを許可していただきありがとうございます」

「いや、顔を上げてください。……それで今日はどのような用件なのですか? 緊急性があるとお見受けいたしますが」

 イビルアイが単独で居る事自体、ただ事では無い事は理解した。

「……その前にご確認したい事が……」

「んっ?」

「カルネ村は議題に上りましたでしょうか?」

「……カルネ村……。ああ、先日頃に上がったよ。ふむ、討伐隊についてだと思うが、まだ検討段階だ」

 時間的には先手は取れそうだとイビルアイは思った。

「突然の要望をお許しください。レエブン侯のお抱え騎士をお貸し願えませんでしょうか?」

「騎士? まさか君たちが討伐しに行くのか?」

「いえ、カルネ村に騎士を常駐させたいのです。戦争開始までの間で構いません」

「常駐……。これはまた急……。……かの者(ヤントラ)の先見(せんけん)の明(めい)、というものだろうか?」

「……それもあるでしょうが、あの村にはアインドラ家がお世話になっております」

 アインドラ。

 その名前が出た時点でレエブン侯は少し納得する。

「出来ればカルネ村と『友好的』に……。それからこれがカルネ村のエンリという村娘の身辺調査の書類でございます」

 丸めた羊皮紙をレエブン侯に渡す。

 数分間、レエブン侯は羊皮紙を読み込んだ。

「要塞化の原因は再襲撃対策のためか……。人食い大鬼(オーガ)達は森の異変で匿(かくま)っているだけだと……。なるほど、理屈は通るな」

「平和な村を王国が今度は襲うとなると恥ずかしい限りでございます」

「三国全てから襲われる村か……。ガゼフ殿から聞いた話しを付け加えるとカルネ村は凄い場所のようだ。得たいが知れた存在ならば襲う理由にはなり得まい」

 三国から狙われれば要塞化しても咎(とが)める理由にはならない。

 それにアインズという魔法詠唱者(マジック・キャスター)やヤントラが支援しているとなれば彼らの方に正義がある。

「エンリを捕らえたりすれば支援しているアインズの逆鱗(げきりん)に触れるでしょう。私は彼に会いましたが……」

「会ったのか!?」

「はい」

「か、身体は大丈夫だったか? アインドラ殿は血反吐(ちへど)を吐くほどだったと言っていたが……」

「い、いえ。特に何も……」

 レエブン侯の驚きにイビルアイもつられて驚いてしまった。

 そういえばラキュースの異変はレエブン侯の方が詳しく知っているのだったなと思った。

「装備品を見る限り、尋常ではない事は確かでしょうし、かの者のシモベ達も確かに化け物です。……だが、部下の使い方は下手です。無責任極まりない!」

 怒りを込めてイビルアイは言った。

「あいつの説明不足がカルネ村の危機の原因だと思います。全く……」

 どういう話しをしたのかは分からないが、イビルアイが無事ならよかったとレエブン侯は安心した。

「村の救済は本当に困っていたから助けた、という程度でしょう。おそらく他意(たい)も無いかと」

「他意が無い?」

 レエブン侯の疑問にイビルアイは頷く。

「彼にしてみればせっかく助けた村なのだから支援しておこう、という軽いものかもしれません。現に村人に何かを要求している事も無く、部下を差し向けて様子を見させているくらいです。行商も許しているし、森へ薬草採取もさせているようです。監禁の気配も無く。でなければ村に入った私達が出られる筈がありません」

「ガゼフ殿は自分の暗殺部隊が送り込まれたと言っていたが……。カルネ村は……、普通の農村か……」

「……あいつが余計な敵を引き寄せたって事ですか?」

「んっ? スレイン法国の者はガゼフ殿を暗殺するよう命令されただけで村とは関係が無いそうだ」

 騒乱の一つはガゼフのせいだとイビルアイは呆れた。

「……村人を盾にしてでも殺しに来るか……」

 イビルアイが大きくため息をつくのを見て、相当呆れているのが理解できた。

「アインズは王国領内のカルネ村を支援していようが文句を言う資格はありません。とにかく、討伐隊の編成はそちらで阻止できるかお願いしたい」

「う、うむ。だが、第一王子が手柄ほしさに動いている噂があるからな。何処まで出来るかわからん」

「……ったく、あのバカ王子か! ああ、レエブン侯。仮に討伐隊が向かってもそちらで処分して良いと伝えて居ます。バカのことは関知したくないです」

「そうならないように努力するよ。騎士の方もすぐに声をかけておく」

 苦笑しつつレエブン侯は頷いた。

「それで……。噂のアインズ殿はどういう御仁だった?」

「ご主人の知り合いというだけに正体不明……。話しは確かに通じるようです。物腰も丁寧で聞かれた質問にも答えてくれました。政治的に交渉できない相手とは思えません。……無責任なところは否(いな)めませんが……。魔法で従わせたりする傲慢さは感じませんでしたが……」

「高圧的な人物ではないと?」

「私が見た限りは……。貴族に比べれば、アインズの方が物分りがいいかもしれません。それから、我々を招待する施設が出来ていないそうです。いずれは奴と対話する機会が出来るかもしれません。侵入はご主人も危険だと言うので、それに従った方がよろしいかと」

「おお、色々と情報が得られたようですね」

「今回は緊急性があったため、対話は僅かしか出来ませんでした。それだけで判断されるのは早計です」

「うん、分かった」

「騎士達に村の中に居る小鬼(ゴブリン)は話しの通じる相手と伝えてください。あと、宿泊施設が無いので、設営できる者もお願いしたい」

「話しは承(うけたまわ)った。こちらでも手を回しておこう」

「では、レエブン侯。ご武運を」

「うむ」

 イビルアイは静かに退出した。

 レエブン侯は早速自らの騎士、元オリハルコン級の冒険者達の招集を命じた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 依頼を終えて王都に帰還したイビルアイは早速ヤントラを連れて冒険者ギルドに向かった。

 ブレイン達と手合わせしていたらしいが、ヤントラは疲れた様子は見せていないようだった。代わりにブレインは汗だくになって庭に倒れていた。

 ギルド本部二階で受付嬢立会(たちあ)いの下、仕事の報告が伝えられる。

「やれることはやった。この後はどうするのだ?」

「待つしかないですね。我々に出来ることはここまで。見捨てはしませんが、こちらも下準備が必要なのでね。それから、ご苦労様でした。妙な依頼ですみません」

 ヤントラは深く頭を下げて、報酬金額の残りを受付嬢に渡した。

 多少、補助金で減額されたようだが、数枚程度だった。これには受付嬢が呆れ果てたようだ。

「……これで金貨千五百枚が吹き飛んだか……。私が言うのも変だが、ご主人。散財(さんざい)すぎだぞ」

「未来への投資はこんなものですよ」

 なんでもないことのように言うヤントラ。

 イビルアイは怒るに怒れない。そもそも自分のお金ではないからだ。

 依頼料を受け取ったイビルアイとヤントラはギルドから出て真っ直自宅に戻った。

 それから二人は居間で顔を付き合わせる。

「モモン様に一人で会った。会ってしまったと言うべきか。特に大それたことは起きなかったぞ」

「そうですか。君が無事なら何も言わないよ」

「……ご主人。もし、私に人を恋する資格があるならモモン様に恋してもいいだろうか?」

「それは難しいですね。彼は……、もてますからね。恋敵に襲われると思いますよ」

「他にも女が居るのか!?」

 今まで考えもしなかった事態にイビルアイはテーブルを強く叩いて身を乗り出す。

 だから、やめた方がいいと言っていたのだなと、イビルアイはがっかりした気持ちになった。

 聞きたくない事実。それは確かに言い難い事だったのかもしれない。

「結婚を抜きにすればイビルアイ、君も私の大切な人だ」

「ありがとう……」

「君達にもいずれは私のことを伝えなければならないだろうね」

「んっ?」

「ラキュースには話しているが、私は意外と倫理観の欠如した悪魔だよ。……変身はしないけれど、善人ではないよね」

 聞きたくない内容に聞こえた。

 ラキュースはヤントラを狂人と呼び続けた。それに関連することだろう。

 変態ではなく狂人。

 さすがに『実は人肉が大好物』ということは無いだろう。

「待て……。それは私の正体を知った上で言っているのか?」

「もちろん。だが、最後に裏切って皆殺しにする、ということはしない。私は私一人で滅びる存在だからね。その時が来たら全てのアイテムを好きに使わせよう」

 イビルアイは言葉が出てこなかった。

 自らの全てを捧げると聞こえたが、それはどういう意味だろうか。

 とても大事なことなのに聞き返せない。

「意外だったかい? 私の個人的なことは大抵が面白くないものだ。それ以外は出来る限り答えてやりたいが、答えられないことで君達を不安にさせてしまうかもしれない。それは素直に申し訳ないと思っている」

「……い、いえ……」

「秘密を知ったからには……。みたいな事は言わないって。分からないことで不安にさせることになるかもしれないけれど。……なにせ、ほら。私は一人で活動する人間だから、協調性も欠如しているのだよ」

「あ……、そう、だったな……。いや、ご主人にはいつも驚かせてくれる」

 他人とのふれあいに不慣れな人だと思い出し、イビルアイは少しだけ安心した。

 物騒な単語が出てきた気もするが、それはいずれ理解していくのだろう。

 

 ブレインがカルネ村に出立(しゅったつ)し、クライムは城へ戻る。

 それから日が暮れてメンバーが寝静まった頃にイビルアイはヤントラの自室に訪れた。

 黒いローブは身につけていたが仮面の他は白い寝巻きに着替えて素足の状態だった。

「お邪魔するぞ」

「いらっしゃい」

 イビルアイは仮面を取り、椅子に乗せた。そして『飛行(フライ)』で宙を漂(ただよ)う。

「一つ質問させてもらうぞ」

「どうぞ」

「ご主人にとってカルネ村はどの程度の重要度なのだ?」

「最初に訪れた村という程度でしょう。あえて高いのはどん底から這い上がる村娘エンリの成長でしょうか? あの子は私の敵として育ってもらったほうが張り合いがありそうなので」

「頑(かたく)なに嫌われていたぞ」

「それでいいんですよ。地獄から這い上がる人間は強いですよ。将来が楽しみです。だからと言ってモンスターをけしかけたり、討伐隊をけしかけたりはしませんよ」

 イビルアイはゆっくりとベッドの上に降りた。

「アインズに会ったよ。意外と無責任な奴だな」

「ナザリックのことは責任を持っているよ。仲間以外は敵だと思ってるだけです」

「んん。それで……友への恩返し、みたいなことでカルネ村を救ったそうだな」

 ヤントラは黙ったのでイビルアイ続ける。

「困っている人が居たら、どうのこうのと……。その友とは?」

「たっち・みーですね」

「たっちみー? 聞き慣れない名前だ」

「私の恩人であり、アインズを仲間に引き入れた諸悪の根源みたいな人です。正義感に厚くて敵には容赦しない。しかも世界最強の強さを得た化け物の中の化け物です」

「……今更だが……、とんでもない化け物なのは分かったよ」

 強さの基準となる物差し(スケール)は壊れてしまったようだ。

「アインズもたっち・みーを尊敬していましたからね。カルネ村を救ったことに不思議は無いでしょう。……後の責任は部下に丸投げしたようですが……」

「うむ。それははっきり言っておいた」

 ヤントラは苦笑した。

「ナザリック以外を管理したことが無いから仕方が無いかもしれません。その点では私も一緒なのですが……」

「そ、そうだったのか。それと……、ご主人たちには共通の『敵』が居る気がするのだが……。それは教えてもらえないだろうか?」

「……しいて言えば同じ強さを持つ存在です。アインズからすれば私は正しく『敵』の基準に入ります。それが他にも居ないか探している、という感じですよ。ほら、ナザリックを攻めるのに二百人くらい必要、というのはそいうことです」

「ご主人並みの強さを持つ者……。私の中では『神人』と呼ばれる者が浮かぶが……」

 人の身でありながら尋常ではない力を持つ人間。

 伝説に登場する英雄など。

「私は敵はどうでもいいので。向かってきたら戦うだけです。意味も無く殺す気もないですけど……」

「やはりご主人は不思議な人だ」

「そうですか? アインズは数多くの秘宝アイテムを所有しています。敵の侵入を恐れるのは不思議ではありませんし、彼の側に居る階層守護者達は仲間たちが作り上げた子供たちですから。それを守りたいんですよ」

「なるほど。では、彼らとは対話している限りは脅威度は低いのだな?」

「油断はしないように。異形種揃いなので私みたいに女の身体を要求されることは無いと思いますが」

「ううっ。情報をありがとう、ご主人」

 質問した感じではヤントラはいつも通りの変人だった。

 精神的に疲弊していると思って心配していたが。

 いや、目の前に果実が転がっているから元気なのでは、とイビルアイは全身に悪寒が走る。

「情報料として私を抱きたいなら……、っと。むう……」

「収入についてはおいおい考えますが、それらは戦後からです」

 ヤントラはイビルアイの身体をうつぶせにする。

 抵抗する気は無かったので黙っていた。

 ヤントラはイビルアイの背中を押したり、腕や足をしっかりと揉んだ。

「……おおっ」

 痛みを感じないはずのイビルアイも関節のマッサージは心地よかった。

 無理なく曲げられる手足。首周り。ぎゅっ、ぎゅっという音が耳に気持ち良い。

 それらが終わると仰向けにされた。

「そういえば、ラキュース以外で私は女の身体を求めたことがありましたっけ? ルリマリスは頭を観察させてもらいましたけど……」

 イビルアイは少しだけ過去を遡(さかのぼ)る。

 数分後にクレマンティーヌは媚薬(びやく)。その後で自分。

「……リーダー以外は自分から……、かも……」

 顔が一気に赤くなるイビルアイ。

 あたり構わずヤントラを変態呼ばわりしたことが思い出される。

 表情が崩れていくイビルアイ。今にも泣きそうな顔になってきた。

 エンリも裸は見たが身体を洗われただけだと聞いている。

「ああもう! 私をめちゃくちゃにしてくれ!」

「落ち着いてください」

 苦笑しつつヤントラは言った。

「……ああ、自分が情けない……。言葉にだまされた……。いや勝手な想像していた私が悪いんだ」

 女体観賞とか変態的な発言は多かったが、ヤントラは各女性達の扱いは紳士的だった。

 それを何処で曲解してしまったのか、イビルアイは箱の中にでも入りたい気持ちだった。

 犯してくれ、って言ったの自分だった、など色々と思い出してしまった。

「ご主人の悪名を色んなところに広めてしまった……」

「いいですよ、今更だし」

 イビルアイを抱き起こし、優しく抱きしめた。

「好きにさせてくれるなら遠慮はしませんけどね。それに私は悪魔、みたいな人間ですから」

 イビルアイから離れて様々な探知妨害魔法を展開する。

「何もしませんよ」

 と、ヤントラは言った。

「そういえば、君用の装備を考えている。エロくないよ、きっと。それを着てもらえたらいいな。他のメンバーのものも考えているけど……」

「可愛いのは、ちょっと……。いや、着る。全裸でなければ」

 お詫びをかねて、とイビルアイは決意を固める。

「それは後でみんなにお披露目する。その前に死なないように気をつけるよ」

「うむ」

 落ち着いたところでアイテムボックスから『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』を取り出す。その包みから箱を一つ出してイビルアイの目の前に置く。

「……その袋に入っている時点でよ(・)く(・)な(・)い(・)も(・)の(・)だな」

「ご名答」

 イビルアイはそれでもヴァンパイアの端くれ(国堕とし)だ。

 肉塊程度では動じない。

 箱は三十センチメートル四方はあるくらいの大きさだった。

 それをイビルアイは開けてみた。

「……ん?」

 大きな卵のような綺麗な塊が二つ入っていた。

 それはとてもよく知っているような物体だった。

 色合いは肌色より白っぽい。

「触っても襲ってこないよ」

「………。あ……」

 イビルアイは目の前の物体の正体が理解できた。そして、それが何故、この箱に入れられているのかは理解できない。

「何の冗談だ……、と……」

「魔法とは便利なものだ」

「いや、そうではない。……倫理観が欠如とはこういうことか……」

 それは怒りだろうか。

 イビルアイの中では様々な感情が渦巻く。

「私は……、ご主人は良い人であってほしかったぞ」

「それは真(ま)っ平(ぴら)ごめんですよ。イビルアイ、私は煩悩にまみれた存在だ」

「……悪魔、か……。ラキュースは知っているのだったな……」

 変態的趣向も悪魔側ともなると悲しくなってくる。

 何をどうすればヤントラのような人間が出来るのだろうか、とイビルアイは少しだけ嗚咽する。

 精神的に疲弊している、というよりは既に狂っている。狂人の所業(しょぎょう)。

 ラキュースはこの事を言っていたのだろうかと。

 

 イビルアイは箱の中にあった肉塊の一つを手に取った。

 それは自分の手のひらよりも大きく、とても肌触りの良いものだった。

 傷跡らしきものもなく、とても綺麗だった。

「……それでこれをどうする気なのだ?」

「効能を調べて、何かの素材になるか、飾るか、処分するか……」

 処分、という言葉はもはや尊厳(そんげん)と言う概念を破壊するものだ。

 確かに悪魔のような人間なのだろう、目の前のヤントラという存在は。

 命は大切にする。だが、それ以外は異形の者共と変わらない。

「移植してみたいとかか?」

「私の身体はよく潰れたりするから必要ないでしょう」

 潰れたところは見た事が無かったのでイビルアイは首を傾げた。

「さすがに食べはしませんが。これもまた普通は出来ないことです」

「持ち主は……。魔法か……。部位を再生する魔法……」

 イビルアイは普段は部位まで治せる魔法を見た事が無かったので、それが気がかりだった。

 魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるイビルアイは信仰系魔法とはそれほど縁が無い。というか、相性が悪い。

 肉体的にも、という意味で。

 リーダーが蘇生魔法を使えるのは知っているが、第五位階がせいぜいだろうと思っていた。

「……自分でもバカなことをしていると思いますけどね。部位はもちろん再生させましたよ。再生後の調子も確認するのは忘れません」

「……改めてクソったれな御仁だな、ご主人は。……部位の為に多くの女性を殺したのかと……。女殺しはそういう意味じゃないけどな」

「私は殺人快楽主義者ではないよ」

 もみもみとイビルアイは肉塊を揉む。

 魔法で再生できるなら再生後にまたもぎ取る事も可能だろう。

「……これがまだ他にもあるようだな」

「イビルアイは予測のうまい人だ」

「これでも人生経験は長い方だ。……長い人生でこんなことをする人間は始めて出会ったけどな。内臓とか目玉とか脳みそもあるのだろう?」

「気持ち悪いのは苦手。脳みそは……ちょっと考えてしまいますね」

「これも気持ち悪い部類だと思うけどな。おもちゃだと思えば我慢は出来るかもしれないが……。元(・)の(・)持(・)ち(・)主(・)が見たら泣きそうだな」

 綺麗な腕コレクターとかしそうな予感がした。

 あと、気持ち良い感触なのでいつまでも揉んでいたくなるのが腹立たしい。

 綺麗な肌で大切にしてきたのだろうものを、とイビルアイは思いつつ優しく肉塊を撫でた。

「……リーダーはもっと肉厚か……。これは誰の……」

 それは聞くのが恐ろしい。そんな気がした。

 それとこんなに大きな肉塊の持ち主は身近ではクレマンティーヌとガガーランくらいかも。

「……変態だったな、ご主人は。だが、私はすぐには受け入れられない。こんな悪趣味な事は……」

 こんな悪趣味に走るほどヤントラの精神は既に狂っている、ということだろうかとイビルアイは思った。

 リーダーはそんな狂人を最後まで信じていた。

 自分も信じようと必死になっていた。

 再生するすべを持っているならば他人の趣味に口出ししても仕方が無いだろう。

 殺人快楽主義者ではない、というのなら信じたい。

「はっきり聞こう。誰の胸だ?」

 これほどの巨乳をもぎ取るのだから並みの存在ではないだろう。

 イビルアイに耳打ちして説明するヤントラ。

 聞いているうちにイビルアイの表情がころころ変わる。

「……立派な悪魔だよ、ご主人。というか、文句一つ言わない方もすごいな。そうか、あの御仁の胸とは……。……私も巨乳なら搾取されていたかも!?」

「そうですね」

 ヤントラは苦笑する。

「……移植できたら素晴らしいが……」

 自分の胸に巨乳を当ててみる。一つでは不恰好(ぶかっこう)なので二つ並べてみた。

「わぁお。体形に似合わねー」

 外見年齢が十二歳なのに物凄い巨乳では不釣合(ふつりあ)いだ。

 もう少し小ぶりなら、なとど考えてしまった。

「移植は試していないが、生物的にどうなるかは未知数です。適当な女性型モンスターでも捕まえて実験したいところですよ」

「……ご主人はやはりナザリック寄りの人間なのだな」

「そうですよ。異形種に囲まれて育ちましたから。グチャグチャと潰れたものとか腐りかけているものとかは苦手ですけどね」

 人間に見えて中身は異形。

 そういう人なのだ、ヤントラという存在は。とイビルアイは不思議と納得できた。

 それにさっきから自分は巨乳を気に入ってしまっている。

 なかなか触ったり、揉んだり出来ないものだから。

 その点ではヤントラの気持ちを少し理解したのかもしれない。

「錬金術の観点からは立派な素材の一つなんですけどね。何かに使えたらいいのですけど……」

「血なまぐさいのは……。これは臭くは無いが……」

「アインズの特殊技術(スキル)はもっと血なまぐさいと思いますよ」

「……なんか聞きたくない」

 イビルアイは巨乳で耳を塞いだ。

 あまりにも持ったままなのでくっついたのではと心配になった。

「……良かった」

 ベッドに置かれる巨乳達。だが、揉み心地は手に吸い付くようだった。

「クレマンティーヌも素材として頂こうかな」

「我々も拷問などをするが……。ちなみにご主人は悲鳴を聞くのが好きなのか?」

「いいえ。嬌声、というのは多少は好きです。変態ですから」

 本当にどうしようもないな、この変態め、とイビルアイは胸の内で言った。

「猿轡をしてもらうことはありますが……」

「もう一つ……。たぶんまだ他にもある気がするが……」

「保管場所に困るくらい大きなものが……」

 中身は見たくないな、とイビルアイは呆れた。だが、それはもう今更の問題だ。

「搾取するときは相手の意識がある方がいいのか? 他人の苦しむ顔を見るのが好きとか?」

 それで真っ先に浮かぶのはクレマンティーヌだ。

 人を殺すのが何より大好きで愛していると公言しているメンバーだ。

「睡眠が利く相手なら眠っていてくれた方がいいですね。ラキュースに変な暗示をかけたと思われていますが……。安眠できるように、と自害しないように、の二つくらいです」

「自慰をやめられなくする、ではなくてか?」

「はい。何しろ初めて手に入れた女性ですから。色々と大変でした。今は彼女も自制が利いているようで、自害もせず。健康的に暮らしています」

「……そうか。……ますますご主人のことが分からなくなった」

 確かに初めてヤントラと二人で風呂に入ったときは嫌な気持ちは無く、自分から身体を預けてしまった。

 あれはウソではないだろう。労(いた)わる手さばきに悪意は感じなかった。

「睡眠とはいえダメージで切れるだろう?」

「そこは素早く再睡眠と回復」

「変な特殊技術(スキル)を覚えたな、ご主人」

「自分でも驚いていますよ。変態特殊技術(スキル)の経験値が増えたかな」

 朗(ほが)らかに笑う変態ヤントラ。

「拷問好きではないようだな。それは安心した」

 自分達は拷問するのだが、優しいヤントラにはやってほしくない、という気持ちが強かった。

 反対にクレマンティーヌはそのまま殺してしまうので困る。

「だが、正直に話してくれたご主人をこれ以上、責めることは出来ないだろう。思っていたよりも残酷というわけではないが……。でも、う~ん」

 両手には波打つ弾力の巨乳が二つ。正直、これ欲しい、と思った。

「残酷は残酷なのだが……。いい感触だ、クソ」

「嫌悪(けんお)を抱(いだ)く気持ちは想定内だ。それが正しい人間のあり方だろう。私はそれをやめることにした」

「な、何故!?」

「それはいつか話せるときに。まだ持っているかい?」

「……うん」

 イビルアイは巨乳を頬に当てたり、自分の胸の上で転がしたりした。

 かぶりつくと危険なモンスターになるかもしれないし、破裂して妙な毒液が漏れるかもしれない、という注意は受けた。

 寝る前に手洗いは必要だろう。

 物置にはまだ得体の知れないものが詰まっているという。

 とりあえず、誘拐した子供などは入っていないし、見た目に気持ち悪い内臓類、今のところは眼球と耳。後は口(・)に(・)出(・)せ(・)な(・)い(・)も(・)の(・)がちらほらとある事は聞いておいた。

 最後にヴァンパイアの眼球を貰うかもしれない、と聞いた時は息を飲んだ。

 ヤントラにとって身体の部位はアイテム扱いなのかもしれない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 翌朝になり、疲れきった様子のイビルアイは朝食を食べたいとは思えないくらい疲弊していた。

「どしたの?」

「ご主人の闇の部分を垣間(かいま)見た」

「闇のヤントラ? キリネイラムの影響かな?」

「……私にとやかく言う資格は……無いのだが……。改めて恐ろしい人間の所有物になったものだと後悔しているよ」

 ティア達はイビルアイの頭を撫でた。

「それから……、ご主人の持ち物は調べるな。後悔するぞ」

「うわ……。こりゃ相当ヤバイもんだわ」

「大丈夫。私たちは闇に生きる者。……それに仲間だ」

 三人が話している間に食堂にガガーラン達三人が訪れてヤントラ以外が揃って椅子に座る。

「おいおい、イビルアイ。なんか元気なさそうだな」

「脳筋。イビルアイも乙女なの」

 クレマンティーヌは今回、上下ともに黒い薄手の上着を着ていたが足元は裸足だった。

「ご主人に叱られた?」

「闇を見た」

「ありゃりゃー。イビルアイが言うほどならすごい闇だろうね」

「……クレマンティーヌ。お前、自分の胸を切り落とせるか?」

「えー。痛いのヤダよ。やるのは大好きだけど」

 どうしようもないな、とイビルアイは思った。

「研究対象として狙われるかもな」

「ご主人ならきっと優しくもぎ取りそうだね。あの人は身体を痛めないようにするの上手いもん」

 その言葉通り、優しくもぎ取るだろうな、と。

「胸が無くなったら、どうするんですか!?」

 と、ルリマリスが椅子から立ち上がって叫んだ。

「再生魔法をかけてくれるだろう」

「ああ、アンリちゃんに腕を持ってかれたけど、ちゃんと再生したよ」

「ええっ!?」

 ルリマリスはクレマンティーヌの腕を少し揉んで確かめた。

「仮にそんなことして、その胸はどうすんだ? 食うのか?」

「素材アイテム扱いだろう。……いや、ごめん……」

 イビルアイはテーブルに突っ伏した。そんな彼女の背中をティア達はさする。

「いいじゃん。役に立つならあげるよ、私は」

 にこりと微笑むクレマンティーヌ。

「そう割り切れる人間が羨ましいな。私は……慣れるのに時間がかかりそうだ」

「ナザリックも時間かかったし。無理は禁物だよ」

「わ、私も何か取られるんでしょうか?」

「森妖精(エルフ)と言えば耳だ。後は目玉。内臓類は気持ち悪いそうだよ。どこも気持ち悪いかもしれないけれど……」

 ルリマリスは自分の長い耳を掴んだ。

 そういえば興味深く触られた事を思い出し、顔を青くする。

「治してくれるんだし。暴力を奮うわけでもないし。食卓に君たちの肉体が並ぶわけでもないじゃん」

「旦那さんも色々と溜め込んでいるんだろう」

「女性の惨殺遺体とか無いよね?」

「それは無いだろうが……。殺しが好きなら私らも自分の周りは調べているさ」

「ティア達の部屋は異常なし」

「……ところで、それってイビルアイが調べて判明した事実なのか?」

 ガガーランは疑問を口にした。

「ご主人から色々と教えてもらったし、見せてもらったよ」

「ほう。なら疑問は本人に聞けばいいってことか」

「聞かされて初めて怖いと思う真実があると思うのだが……」

「イビルアイでも怖いものとかあったんだ」

「……得体の知れない化け物は怖いさ」

 ティナはイビルアイの肩を揉む。

「リーダーの暗示も教えてくれた」

「んっ? ああ、止まらなくなる暗示か?」

「いや、安眠と自害防止だそうだ。本当にそうかは分からないが……」

 ルリマリスは手を上げた。

「リーダーってラキュースさんですよね?」

「そうだ」

「骸骨(スケルトン)と戦ってました。凄い引き締まった筋肉で……、思わず見とれました」

「脳筋と化したか……」

「その事は王国では内密にな。帝国のお前は知らないかもしれないが……。ラキュースはまだ罪人の汚名を着せられたままだ」

「えっ!? そうだったんですか!? すみません。奴隷生活が長かったもので……」

 気弱な信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の森妖精(エルフ)は何度も頭を下げた。

「それから、あまりナザリックの事は喋(しゃべ)るな。ご主人ならいざ知らず。お前はすぐ処分されるぞ」

「は、はい。気をつけます」

「我々はナザリックは承知しているが、我々の中でだけ話して良い」

「はい」

「何でも喋るようだが、ご主人はナザリックの秘密は上手く避けている。話す相手も選んでいるところがある。アインズとは違う意味で慎重な人だ。お前を連れ出すとき、ちなみに言える範囲でいいが、どんな風に連れ出された?」

 クレマンティーヌ以外のメンバーは顔をルリマリスに寄せてきた。

「は、はい。確か……、目隠しされました。この前もナザリックに入る時、目隠しされる事が多かったです。一瞬で風景が変わってびっくりしました」

「……それだな。階層構造のはずだから移動手段を隠しているのだろう」

「階段は無いのか?」

「あるようですが、護衛の巨大な昆虫のようなモンスターが守ってます」

「侵入に対しては鉄壁というわけだ。迂闊に行けば……手痛い反撃。恐ろしいところだな」

「トラップもあるそうですが、侵入者が居ない時は作動させないとバスパ様……、ヤントラさんに教えられました」

「君たちが自由に動けるのはそのお陰なんだろうな。ひとたび発動すれば地獄が待っているということだ」

「はい。私達も下の階層に落とされる変なトラップにかかりました。請負人(ワーカー)達は分断されて今はどうなっているのか分かりません」

 クレマンティーヌがメンバーの背中を叩いていく。

「んっ?」

「ご主人、来てるよ」

 メンバーはそれぞれルリマリスから離れて椅子に座った。

 自然と姿勢を正した。

「わ、私……。つい……」

 食堂に現れたヤントラは優しい微笑でメンバーを見渡す。

「おはよう、みんな」

「おはよう、旦那さん」

 それぞれ挨拶して行く。

 何もしていないが微笑むヤントラが怖いと思った。

「……別に私は粛清(しゅくせい)したりはしないよ。……あと、盗賊(ローグ)系のお陰か話し声はけっこう聞こえている」

「はぅあ!?」

 床に平伏そうとしているルリマリスをヤントラは抱きとめる。

「トラップ(罠)も場所が分からなければそれでいい。階層移動は確かに秘密だ。もちろん、対抗策は施されているので、君たちでは看破は無理だよ」

「……うむ」

「ナザリックは無理にこじ開けられるのを防ぐ方法は無数にあるが、こちらからの招待の時はすんなりと間口(まぐち)を開ける。そういうところだ。私でも行けない階層が存在する。ルリマリスに目隠しするのはもちろん口封じをさせないための処置だ」

「……申し訳ありません」

「よくよく考えると旦那さんはよく利用しているよね」

「規則は守るからな。ちゃんと護衛も付けるし。だいたいあの場所を害そうとは思ってないからね」

「耳に痛いですな」

「ご主人、一度は連れてってもらいなー」

 指をくわえつつクレマンティーヌは可愛らしい声で言った。

「憩いの場所くらいならな。ただ、モンスター退治となると交渉しなければならない」

「モンスターだらけなのに?」

「主はアインズだし、それぞれの階層には責任者となる階層守護者が管理している。頭を下げて頼まないと筋(すじ)が通らないだろう。森妖精(エルフ)三人を連れ出せないのは利用価値があるから置いているだけで、おそらく三人全部は駄目と言うだろう」

「た、確かにアインズ様に殺されるはずだった私たちを置いてくださった時、何かに使えるかもしれん、とおっしゃっていました」

「それなりに交渉ってしてるんだね」

 ティア達は簡単に考えていた。

 ヤントラも大雑把なようで色々と考えている人なのは理解していた。頭の回転も遅くはないだろう。

 ナザリックの秘密を教えてはいるが自分で責任を取れるからこそ言えるのだと思った。

「そういえば、繁殖とかの話しってアインズという人に言ったの?」

「言った。ちゃんと取り成してくれるだろう。説明するとき二度ほど殴られたが……」

「あらー」

 なんてことは全部、ウソ。と、言いそうになった。

「ということは全部、ウソ。だったらすごいよね?」

 ルリマリスはただでさえ色白の肌が真っ青になり、卒倒(そっとう)した。

「……私が言いたかった言葉だ……」

「ごめん、って違う。大丈夫、ルリマリス?」

 ヤントラはティナに言われてがっかりした様子を見せたが、すぐに立ち直る。

「ご主人。本当のところはちゃんと言ったんだよね?」

「もちろん。約束は守るよ。結果は保証できないけど……」

「そっか……。ご主人、だーい好き」

「いいのか、おっぱいもぎ取られるぞ」

 ガガーランの言葉にヤントラは苦笑する。

 ヤントラは秘密をバラされても怒ることは無い。それがイビルアイには不思議だった。

 優しい人間であろうとしているか。

 鬼畜の極悪人になろうとしているのか。

「口の軽い蒼の薔薇ですね。困ったものだ」

「……ただ、不安なのだ。何も知らないということが」

「イビルアイ。それは『国堕とし』がどんな存在か知らない人に言えるのか?」

 痛いところを突かれたイビルアイは唸った。

「人の事は言えなかったな。申し訳ない……」

「知らないことを知るのが私の楽しみだ。その点ではアンデッドの実験をしているアインズとさして変わらないかも知れない。私にも欲求はあるからね。ただ、それがいずれ君達を殺さないか心配になることはあるよ。君達にナザリックの事を伝えて大丈夫かどうか。不可視化のシモベで襲われていないか、とか」

「……全部を教えてくれ、と言うのは無茶なのだろう。仮に言ったところで我々は信じないかもしれない」

 イビルアイの言葉にヤントラは頷く。

「こういうことは少しずつだ。ラキュースも人食いメイドになれるまで時間をかけたよ。ちゃんと食事も取っているようだし、暗号解析に苦心(くしん)していた」

「う、うむ。我々も少しずつ前に進むよ」

「人食いメイドってどんな奴だ?」

 ガガーランの問いにヤントラは気が付いたルリマリスに手を差し出す。

「君が説明してごらん」

「人食いメイド、のことですか?」

「ああ」

「あそこに居るメイドは一般メイドと言って人間と同じ姿をしています。種族は人造人間(ホムンクルス)。人食いといいますが、調理された人肉料理を食べるだけで普段から人間を食べているわけではありません。あと、とても弱いそうなので私も実験でかぶりつかれましたが、普通に噛まれた痛みだけで顎は強くありません」

「つまり彼女達は人間を襲っても丸かじりするほど強くないということだ」

「食堂があって、そこで出される料理はとてもおいしいです。様々なメニューがあって野菜や様々な穀物料理なども作ってくれます」

「行きてー!」

 ガガーランは叫んだ。そして、お腹が盛大に鳴る。

「……戦争などのごたごたが終わるまでは無理だろう。……でも、今だったら、君ならすぐ連れて行けそうだ」

「おお? 本当か?」

「活躍の場をあげることが出来ないお詫びだ」

「リーダー代行としての罠避けには充分だよ」

「うん」

 ティア達は嬉しそうに言った。

「全ては決戦を終えてからだ。……それでルリマリスさんは耳をくれるんだったか?」

「い、嫌です……。痛いの嫌です」

「直球で言われても胸に来るな……」

「内臓も確かにアイテムとしての価値はあるだろう。手や足まで並ぶと異様だろうな」

「でも、どうしてそんなことをするの?」

 ティアとティナは同時に尋ねた。

「そういうことが出来なかったからだ。実際に手に入れると未知の発見があるかもしれない。無駄ならしないだけだ。調査に無駄はつき物だと思うよ」

「うん。でも、気持ち悪い趣味かもしれないね」

 聞かれた質問に普通に答える。

 それはある意味、自分達の知りたくない事も答えてくる怖さがある。

「希少なアイテムは欲しいさ。冒険者だから」

「冒険するところ間違ってると思う」

「むしろ冒険しちゃいけないよ」

「蒼の薔薇も闇の中を冒険してんだから、とやかく言うんじゃねーよ」

 ティア達とガガーランが睨みあう。

「……確かにご主人の楽しみならば仕方が無いだろう。ただし、討伐されるような悪事(あくじ)は働かないでくれ」

「それは無理かもしれない。ナザリックに関係しているだけで、いずれは、と覚悟しているさ」

「そうではない。大量の女の死体がどこかの倉庫とかに出てくるような事態だ」

「部位の為に殺しは……。あっ、見たら惨殺死体に見えるものが……」

「……あるのか……」

 胸以外に何をもぎ取ったのだろうか。

「ご主人の趣味は女を殺して解体すること?」

「今は解体だけだが、語弊(ごへい)があるが……。いずれそうなるかもしれない。否定はしないでおこう」

 クレマンティーヌは苦笑した。

「……ついでに……」

 ティアとティナが手を上げる。

「庭の片隅に増えている箱は開けない方がいい?」

 草木で覆われて隠蔽されているが夜間に何者かが置いていく、のは気づいていた。

「開けたらびっくりされると思いますので。あと、向こうに置くのも不味いでしょう」

「……お宝だった良いな」

「今は部位がお宝みたいなものです。金銀財宝でなくて申し訳ない。落ち着いたら見せてあげるよ」

「……たのしみだなー……」

 引きつり気味の顔でティア達は棒読みの感想を述べた。

 ろ(・)く(・)で(・)も(・)な(・)い(・)も(・)の(・)が間違いなく入っているのだろう。

「人体の神秘には興味があるけど、内臓が好きってわけじゃないよ。綺麗な目がほしくなるのと変わらない」

「……さらっと言ってるが……、それはとても恐ろしい、というかおぞましい趣味だぞ」

 部屋を見た限りは異常は無かったが衣装箪笥などに無数の手足が納められているかもしれないと思うと背筋に悪寒が走る。

「殺してまで奪いたいとは思いませんよ。例えば吸血鬼(ヴァンパイア)はアンデッドの部類ですが、これはどう判断すればいいんですか?」

「死んでるから問題なし」

 と、ティナが即答した。

「ふざけんな!」

「そういえば、イビルアイって結構、解体されたよね? あれは旦那さん的には嬉しい事なの?」

「心臓を刺したことですか?」

「そう」

「純粋に申し訳ないと思いましたよ。まさか恐怖公の眷属を仕込んで返してくるとは思いませんでしたから」

「ほら、ちゃんと心配してくれてんじゃん」

 イビルアイは心臓部分に手を当てた。

 内臓の話しばかりしたせいか、ルリマリスは食欲不振になったようだ。

 ガガーラン達は急いで朝食を食べ終えて荷物整理を始める。

 

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