※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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F-7 廃村寸前のカルネ村

 自分に与えられた部屋にラキュース達は入り、ラキュースだけ一息つく。

「まずはこれかな」

 持って来た箱をラキュースに渡す。

 開けずとも分かる嫌な予感。

 素敵な贈り物にしては悪趣味なものが入っているのだろう。

「イビルアイと同じで嫌な予感を感じているようだね」

「生首ではないでしょうね?」

 重さからはもっと軽いものだろう。

「ちょっと待ってね」

 ラキュースは奥から愛用の排泄用桶を持って来た。

 メイドが運んだ後で綺麗に掃除されて返ってくるので匂いは無い。

 それから下半身だけ裸になり、桶に跨(また)ぐ。

 これくらい恥ずかしい事をしないと耐えられる自信が無かった。

 人に見られるのは特段、気にはならないが身体から出るものを見られるのはまだ少し恥ずかしい。

「よし!」

 そう自分に気合を入れて箱を開ける。

 数秒後に箱を閉める。

 息が止まったまま時間が流れていく。

「……ぷはー! はぁ……はあ……」

「大丈夫かい?」

「え、ええ。実物を見ると精神的にきついわね……」

 額から脂汗が出てきた。

 その後で先ほどのメイドがタオルと水桶をもってきた。

「タオルと水桶をお持ちいたしました」

「椅子が無いね」

「あ、ああ、自分で持ってまいります」

 そう言ってメイドは大急ぎで部屋から出てすぐに舞い戻ってきた。

「そこで座ってて」

「はい」

 メイドは指定されたところに椅子を置き、姿勢正しく座った。

「これ、なんなの?」

「クレマンティーヌの一部」

 微笑みながら言われたがラキュースは顔を青くしてうなだれる。

 それから箱を再度、開ける。

 大きな肉の塊が二つ。コロコロと転がりながら入っていた。

「……乳首が……。部位とはこういうものか……」

「日にちが経っているけれど魔法の効力が効いているなら大丈夫だろう」

 見た目には綺麗な肌色に見える。

 転がしてみるが傷跡が全く分からないくらい綺麗な卵型。

 おそらく本物だろう。

 クレマンティーヌの胸にしては大きいな。今の自分と比べると良い勝負が出来そうだと思った。

「これ……、何に使うの?」

「分からない。食用にする気はないけれど、処分するときはモンスターにでも食べさせた方がいいだろうね」

「尊厳(そんげん)もクソもないのね」

「非道な人間の所業としては相応しいだろう」

 何も悪びれないところも狂人たるゆえんかもしれない。

 ラキュースは思い切って一つの胸を掴む。

 さわり心地がとてもいい。

 適度な固さと弾力がある。

「……なるほどね、これはクセになるかも」

 触って初めて理解した。そして、胸を締め付けるような不安が少し抜けていく。

 ラキュースはメイドにもう一つの胸を渡す。

「バスパ様。これはなんですか?」

「人間の乳房(ちぶさ)だよ。食べないようにね」

「はい。はへー、柔らかいですー。は~、お胸ですか……。私の手より大きいですね」

 メイドは異形種のせいか、抵抗無く胸を眺めて感心していた。

「食用ではないのですね」

「毒が詰まってるかもしれないから、後で手洗いするんだよ」

「はい」

「改めて思うわ。いつも驚かされるって」

 胸はクセになりそうなので箱に戻し、水桶で手を洗った。

 メイドはしばらく掌(てのひら)で転がしつつ、箱に戻して蓋を閉める。

 箱をヤントラに渡してラキュースに倣(なら)い、手洗いした。

 それからラキュースは上着を脱いで完全に全裸になる。

 健康的な肉体美だが、桶に跨ったままなのが少しだけ残念だった。その後すぐに尿意が来たらしく、しばし部屋の中が静かになった。

 布巾で股間を拭き、改めて手洗いを済ませるラキュース。

「やるなら遠慮なくどう……ぞ……」

 と、最後まで言い切るところで倒れこむ。

 睡眠によりラキュースは沈黙し、ヤントラは彼女をベッドに寝かせる。

「メイドさん、こちらは綺麗にして、こっちは新しい水に入れ替えてください。量は少なくていいよ」

「畏まりました」

 メイドは二つの桶を持って部屋を出た。

 その間にヤントラは妻の肉体美を観賞する。

 

●↓●

 探知妨害魔法と静寂をかける。

 メイドが来るまでの間、綺麗に張り出した胸の感触を確かめる。

 健康的に育った果実のようだ。

 強めの弾力があり乳首が固め。筋肉で引き締まっているようだった。

 NPC達と違い、無限に近い体液は噴出しないだろう。

 アンデッドでも噴出する原理は謎のまま。

 色々と思案している頃にメイドが訪れた。

 桶をそれぞれ置いて椅子に座る。

「君は服だけ全部、脱ぎなさい」

「え、はい……」

「頭はいいから」

 言われた通り、メイドは裸の状態になった。

 形の良い胸が小刻みに揺れる。

 まずメイドに猿轡と目隠しをしておく。

 それからメイドの腕を軽く切る。ホムンクルスとはいえ血は出る。

「!?」

 その後、回復魔法をかける。

 以前、お腹を割いた時は治ったので、今回も傷はすぐに塞がった。

 今、切った腕を濡らしたタオルで拭う。

「少し待っていなさい」

 メイドは返事は出来なかった頷いた。

 

 ラキュースの呻く声が断続的に聞こえてくる。

 人間なので眼球と胸を十数組み。性器の肉塊は数個。子宮ごとが数組み。

 原住民だからか、睡眠をかける回数は多くなってしまう。

 子宮などは別に用意した盥(たらい)と無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)で血を洗い流す。

 胸などを片付けた後でラキュースの身体を拭いた後、メイドの顔の拘束を解く。

「部位は取らないでおこう」

 人造人間(ホムンクルス)では何も期待できないようだと判断し、服を着るように命じた。

 食欲増大の彼女たちが暴れれば世の中は食糧不足になってしまう。

 『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』があれば色々と解決するかもしれないけれど。

「服を着たら食事してお風呂に入り、身体を休めなさい」

「はい」

「脅かして悪かったね。優しく出来なくて悪かった」

 メイドの着替えを手伝い、肩を揉んで行く。

 最後に軽く抱きしめる。

「あ、ありがとうございます」

「こちらこそ。申し訳なかったね」

「いえいえ。では、失礼します」

 その後、部屋からメイドが退出した。

 残ったヤントラはラキュースの全身をマッサージしていく。

 睡眠から目覚めたラキュースに採取した胸を見せる。

「これが自分の胸……。さっきのと違うし、私の胸にそっくりだ。……同じなんだろうが……」

 二つの胸を揉み比べても同じなのは変わらないようだ。

 本物だとしてもどうやって取ったのか分からない。

 寝ている間(あいだ)なのだろうが、信じられない事の連続だった。

 

●↑●

 驚く妻に別れを告げて休んでいるガガーランと共にカルネ村へと戻った。

 開戦まで残り五日。王都から軍の派遣の報(しら)せが戦士の一人によって告げられた。

 数日とはいえ冒険者や一部の兵士達の宿泊施設が作られ、様々な物資や情報がやりとりされた。届いた情報で村に緊張が走ったりする。

 女子供、年寄り連中は秘密裏に隠れ家に移動させていく。

「我々は王国の軍勢に弓引く事が出来ません」

「命令が下(くだ)れば拘束しなくてはならなくなると思います」

「はい」

 エンリはギリギリまで手伝ってくれる兵士達に深く感謝した。

 一部の冒険者も王国の軍勢とは交戦できないのでエ・ランテルへ避難せざるを得ない。

 イビルアイを含む蒼の薔薇の面々はエンリを囮(おとり)に避難誘導を整え有効な手が無いか検討していく。

 戦うのは楽なのだが、貴族や王の権力や立場が混乱してしまう。

 先頭の軍勢を指揮するのは第一王子という報告が上がった。

「決戦の地へ向けて王国も動き出したか」

 六大貴族が揃って戦地に赴き、国王も武装して現地に向かっていた。

 エ・ランテルから兵士達が設営のために動き始めている。

 カルネ村は城砦都市エ・ランテルに向かうわき道にある。

 進行方向を変更されることも想定しなければならないだろう。さすがに王国の総攻撃は無いとしてもどこかの軍勢には狙われるかもしれない。

 今のところエ・ランテルに集められていた二十五万人ほどの兵士はカッツェ平野に向かいつつある。

「エンリは我々が避難させる。小鬼(ゴブリン)達は隠れ家でみんなを守ってくれ」

 イビルアイの言葉に小鬼(ゴブリン)達は苦渋の決断を迫られた。

 召喚主から離れたくないし、エンリの命令ではないので動く事が出来ない。

 人食い大鬼(オーガ)達は武装を整えて戦う事も避難する事にも対処できるようにしていた。

「村長として命じます。小鬼(ゴブリン)さん達は村人の警護をお願いします。森からのモンスター達の襲来に備えて」

「姐さんのご命令とあれば」

「死ぬ覚悟は出来てるぜ!」

「駄目です! 生き延びなさい!」

 エンリが一喝すると小鬼(ゴブリン)達は黙った。

「森のモンスターなら我々も対処しますよ」

 冒険者の一部が言った。

「数日間、潜伏し、戦争が終われば自由だ。無駄に犠牲になることは無い」

「壊れたら再建すればいい」

「もし蛮行が行われれば冒険者達から噂が広まるだろう。我々も微力ながら村の再建を進言してこう。……スレイン法国はおそらくガゼフのせいだ。あのおっさんは恨んでいいぞ」

「頼りっぱなしで申し訳ありません」

「それはいい。とにかく、出来る事をやるだけだ」

「はい」

 避難誘導や家畜の移動も行いながら、カルネ村は王国の軍勢を受け入れられる状態にしていった。

 村に残っていた兵士はエ・ランテルを目指し、冒険者と村人たちは家畜などを森の隠れ家に移していった。

 何も起こらなければ、それでいい。

 

 イビルアイはカルネ村を通り過ぎる王国の軍勢が村を本当に襲うのかと疑問に思いそうになるが貴族たちの性格では向かってくる確率は高い。

 レエブン侯の言葉を信じるなら議題が上がった時点で誰かは来るだろう。

 こんな状態で帝国から別働隊など来るとは思えない。

 イビルアイとエンリは村の様子を眺めた。

 人気(ひとけ)のない廃村(はいそん)のようだ。

 荷物は持っていけるだけ持ち出した。戸締りもした。

「ほんの数日の我慢だ、村長」

「はい」

「私一人だけでも残るが後はアインズの手の者が……、守ってくれるかな……」

「守るっすよ」

 家の裏手から現れたのは赤い三つ髪ツインテールに浅黒い肌に金色の瞳を持つ女性。

 背中に聖刻をかたどったような大きな武器を背負い、メイド服を着ているルプスレギナだった。

「あちゃー、随分と寂(さび)れたっすね」

 避難誘導している者を除けば村人の数はかなり減っていた。

「避難しているからな」

「森の方はアウラ様達が見張ってるんで、大丈夫っす」

「そうですか。後は待つだけなんですね」

「私らはエンちゃんを守れればいいんで」

「交渉決裂時は隠れ家に連れて行ってくれ。私は最後まで抗(あらが)ってみるよ」

 イビルアイの言葉にルプスレギナは頷き、後方宙返りを何回かしつつ姿を消していった。

 身のこなしが軽やかで少し見とれてしまった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 残り四日。

 戦地へ軍が進む中、ヤントラは保存液などの整理整頓をしたり追加発注の思案に暮れていた。

 金貨四千五百万枚もの散財のお陰で第二金庫に余裕が生まれたのだが妙な荷物が増えている。

 ユリに頼んでいた飲食不要の『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』が二百個入った箱が置かれていた。数が多いので完成に時間はかかったが、これで生身の素体の保存は楽になる。

 扱いに困る部位達だ。部位どころではないものも混じってはいるが。

 新しく完成した武器を持ってみた。

 部位の搾取に適した『処女の業(ヴァージンカルマ)』は色は白地に赤い斑点模様。

 形状はナイフとロングソード。素材はアポイタカラ製。

 斬撃に特化。煩悩が生み出した悪魔のごとき魔剣に相応しいだろう。

 魔法抵抗突破(ペネトレートマジック)が付与され特殊技術(スキル)による防御も無効化されにくい。

 その上位版『殲剣(せんけん)ヴァージンカルマ』は巨大なバスタードソードのような斬馬刀型の武器である。しかもかなり頑丈である。

 効果は処女の業(ヴァージンカルマ)と一緒。

 アポイタカラ製は青地に赤い斑点が散りばめられており、雷耐性を有する。

 ヒヒイロカネ製は揺らめく赤い炎を模した刃で炎耐性が付与されている。それらが二本ずつ。

 非実体には全く役に立たない武器ではあるが硬い敵を切り裂く事に長けているだろう。しかし、粘体系には弱い。

 防具はアダマンタイト以上のプレートメイルにガントレット。

 ポーション類も急に減りだしたのでスクロールと一緒に補給。

 生産系に特化した仲間とか欲しいな、とヤントラは思った。

 戦争への準備は終わった。あとは数日をのんびりと過ごせば運命の分かれ道だ。

 第十階層に向かうと玉座には誰も居なかった。

 姿は見えないが『八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)』の見張りが居るので巨大図書室(アッシュールバニパル)に向かった。

 スクロールの製作をしている司書長『ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥス』という骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)の様子を眺める。

 素材となる羊皮紙に金貨を消費して文字を描く。その後に魔法を込めればスクロールは完成する。

 羊皮紙は位階ごとに素材が違う。

 最高級の竜の皮を使ったものなら第十位階魔法を込められるらしい。

 大量のアイテムを消費するヤントラにとってもアイテム補充は重要な問題だった。

 補給するすべがなく、手持ちのアイテムも数年後には枯渇(こかつ)するだろう。

 普通の冒険ならば食料だけで済む。

 だが、ナザリックの妙に強いモンスターが暴れると厄介な事態になる。

 アインズ同様に国でも作ろうかと思ってしまうほどだ。

 少なくとも自由に活動できる広めの拠点は必要だろう。

 贅沢(ぜいたく)は言わないが蒼の薔薇が焼き払った村とか手に入れてみたい。

「何かご入用かな?」

 ティトゥスが尋ねてきた。

「その羊皮紙はどうやって作られているのかなと……」

「こちらは外の世界で使われているものを購入したものにございます。……ただ、第二位階以上の魔法には耐えられず……。難儀しております」

「やはり竜(ドラゴン)を見つけたほうがいいか……。そうではなく、羊皮紙の作り方だ」

「その名の通り、羊や山羊などの皮を剥ぎ、余分な脂分を除去して薄く削り、乾燥させて作られるのではないでしょうか」

 竜(ドラゴン)の皮を使うぐらいだから生物なら色々と試すのも良いだろう。

「高い位階魔法は安物の羊皮紙では込められないか……」

「作用でございます。すぐに燃え尽きてしまうかと」

 羊皮紙に魔方陣を描く金額は第一位階が金貨三枚。第十位階が金貨千四百三十六枚という中途半端な金額に設定されている。

 羊皮紙の素材のみ入手が困難となっている。

 素材集めがとても大変なのだ、ユグドラシルというゲームは。

 買えないこともないが高額になっていく。

 今のところ有力なアイテムはナザリックでしか買えない状態だし、外での買い物は割高感がある。

 買い物よりは保管庫の確保が先決だろう。

 巨大図書室(アッシュールバニパル)を後にして第九階層に移動する。

 ほぼ複写作業を終えていたためかメイドの姿がまばらだった。

 口唇蟲の世話を頼んでみたが、この軟体生物のような虫はかなり長生きするらしい。

 エントマはお気に入りの口唇蟲を数年も愛用している、と言っていた。

 死んだ時の為に予備の虫も頼んでいたが、大丈夫そうだと思い安心した。

 全く同じ声を入手出来ないのが悩みの種だとエントマは元気なく言っていた。

 それぞれ広い部屋の掃除、洗濯、後片付け。第十階層の掃除。指令を受けた一部のメイドは上の階層にも赴く。

 今日はアルベドが居るらしい。

 会ってもいないのに分かる理由はラキュースの使用している部屋の壁に『アルベド避け』のような防具やアクセサリー類が飾られているからだ。これらはメイド達に命令が下された仕事の一つでもある。

 種族アレルギーのようなもので、近づくだけで不快感の後に嘔吐、悪化すると吐血。

 直に声をかけられると顔、というか目が破裂し、鼻血。鼓膜が破れる。吐血に血尿。

 それはそれは酷い有様になる。

 身体を鍛えても身体は拒否反応を起こしてしまう。

 『伝言(メッセージ)』や『水晶の画面(クリスタル・モニター)』などの魔法でのやりとりならば我慢できるようだ。

 近くて遠いやりとりにアルベドもラキュースも頭を悩ませている。

 完全防備で望めば嘔吐と失禁はするが会話は出来る。

 アインズはその点ではもう少し軽くはなるが装備は手放せない。

 メイドの仕事が増えるのでラキュースの痴態は咎められる事は無くなった。ただ、階層守護者達からは失礼な奴だと思われている。

 新しいラキュースの装備はその点を重点的に付与されたものになっているが、着せてやれるかは分からない。

 ナザリックで装備していても意味が無い、というのもあるのだが。

 ラキュースは一日、部屋にこもり続ける事になるが鍛錬や両親への手紙などをしたためたり、特に苦痛は感じていない様子だった。

 王都から持ち込んだ書籍の翻訳作業もあるらしく充実した日々は送っているようだ。

 食事もメイドが運んできてくれるし。

 

●↓●

 せっかくアルベドが仕事休みのようだから会いに行ってみるか、という軽い気持ちとたくさんの不純な気持ちが入り混じる。

 普段は玉座に入り浸り、自由な活動が制限されている。

 カルネ村の時のように外に出してもらえる機会は本来は無い。

 外には出ないが階層内は移動している。

 ヤントラはアルベドが使っている部屋を目指す。

 彼女の自室はゲーム時代には存在せず、玉座の側に固定されたNPCのような扱いだった。

 それが今は自分の意思で動き回れる。もちろん、勝手に一人で出歩く事は出来ないのだろうけれど。

 地位の高さにより、広い部屋が与えられたのだが元々は至高の四十一人の予備部屋だった。

 自室が無いのは不味いという理由でアインズが与えた。ほぼメイドの入室は出来なくなっていて掃除に入れないという話しをたまに聞く。

 その問題のアルベドの部屋の大きな扉の前には二メートル以上の身長を持つ巨大昆虫型モンスターが出入り口を守っていた。更に天井には八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の監視付き。

 アインズを除いて第九階層の各部屋に門番は居ない。ラキュースとツアレは例外的にお世話係のメイドが付いている程度だ。

 守護者統括の扱いにしては物々しい。

 他の至高の四十一人専用の部屋は担当メイドが仕事の為に入る事はあるが門番は居ない。

「物々しいな。何かあったのか?」

「アルベド様はアインズ様の怒りを買い、三日間の謹慎処分が言い渡されたのです」

 と、不可視化している八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が答えて来た。

 とにかく、ノックをする。

 部屋の奥に引っ込んでいると数分は声が返ってこない。

「あ、アインズ様……?」

「ヤントラだよ。顔でも見に来たのだが……」

「あうう……」

 扉の向うで泣き崩れる声が聞こえる。

「入れてくれるかな? サンドバッグは勘弁願いたいが……。話しを聞いてあげよう」

 ちょっとした攻撃でもアルベドの力はとても強い。

 伝え聞いたところに寄れば飛び上がったら天井に埋まるほどだとか。なので八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達はアルベドの反応に神経を尖らせている。

 油断をすると突っ込んできそうだから。

 門番たちが身構える中、扉は開かれた。

「……ど、どうぞ」

 さすがに謹慎処分が解かれていないのに飛び出して行ったりはしないだろう。

「……守護者統括ともあろう者が……、珍しいな」

 アルベドを奥にやり、扉を閉める。

 

 アルベドの部屋は複数あり、寝室には巨大なベッドがある。

 腰の黒い翼の影響もあるのだろうが寝るのに不自由しそうだが彼女は当たり前のように眠ることが出来る。

 部屋のそこかしこに骸骨のぬいぐるみが散乱していた。

 アルベドお手製のアインズである。

 設定を書き換えられたせいかは分からないが、彼女の妄想の産物が部屋全体に現れている。

 創造主のタブラ・スマラグディナが作り上げたアルベドの姉『ニグレド』は見た目は怖いが性格は子煩悩。その表現方法がぶっ飛んでいるだけ。

 これが『ギャップ萌え』というそうだが、ヤントラはよく理解できなかった。

 いや、自分自身がタブラに性格などを書き換えられていたNPCという線で考えれば『ギャップ萌え』になるのかもしれないな。

 世界に最適化されて精神的にぶっ飛んだ存在になったのなら不思議は無いし、納得も出来てしまう。

 本来の身体は人を惨殺しないし、眼球を抉って楽しんだりしない。というか魔法など使わない。あと、とても大(・)人(・)し(・)い(・)性(・)格(・)でお喋りは苦手。

 そもそもソロプレイヤーがお喋りなわけがない。

 物思いに耽(ふけ)りつつアルベドが向かった居間に向かう。

 メイドを入れていないわりには小奇麗な部屋だった。

 椅子にうなだれるアルベド。余程のことがあったのだろう。

「……怒られる事はあるだろうが、謹慎(きんしん)までとはね」

 ヤントラも椅子に座る。

「つい、出来心で……。なかなかじっくりと落ち着いて話せないものだから」

 異常な愛情により暴走することはあるだろう。

「片思いの付き合いはもどかしいだろう。それは誰もが思うものだが……。決めるのは相手だからどうしようもない」

 というか、自分で設定書き換えておいて突き放すのはどうかしている。

 書いた途端に満足してしまったのだろうか。

「君達に褒美を与える方法を相談されたが……」

 アルベドは聞かなくても分かる気がする。

「……モモンガ手ずからのマッサージを受けられたら嬉しいか?」

 そう言うと暗い顔から一転して興味ありそうな明るく輝く表情になった。

 金色の縦割れした瞳が輝いている。

「それはもちろんです!」

「逆にモモンガは骨を砕きそうだが……。部下を労(ねぎら)うのも大変そうだったぞ。平等に扱わなければならないし、君達をケンカさせないようにと」

「……ああ、モモンガ様は我々の事を……」

「一部、私の想像だが……。序列を作ってしまうと互いに争い始めてしまうだろう? ナザリックを平和にするモモンガとしては頭の痛い問題だろうね」

「そうですね」

「話しは変わるが……。戻すが、かもしれないが。私の例えで申し訳ないが……」

「い、いえ。どうぞ、続けてください」

「私とラキュースの間には子供が出来ない。養子を取るしかないのだが、何か良い方法とかアイテムとかあればいいのだが、都合の良いものは無いんだよな」

「………」

「交尾の真似事は出来るのだが……。というか、あいつ設定変えたのに放置プレイって酷いな。胸を揉んだり、接吻(せっぷん)くらいしてやればいいのに」

 憤慨(ふんがい)するヤントラに対し、頬を紅潮させるアルベド。

「全ての階層守護者は変えていないと思うが……。二人の時は愛の形くらい……。失礼、恥ずかしい話しだったな」

「……いえ、代わりに言ってくださって嬉しく思います、むしろ」

「こういう話しをするとモモンガのやつ殴ってくると思うから、言い難いけどな。タブラの娘だから、と思っているんだろうけれど。モモンガの娘ではないから、問題は無いだろうに。じゃあ、なんで書き換えたんだよってことになるわけだ」

 言う度にアルベドが何度も頷く。

「種族の壁みたいなものはあるだろうけれど」

「ですよねー。くふふー。お風呂でもお背中をお流したくなるのが女心というものです」

「骸骨なんだから性別はどうでもいい気がする」

 その後、しばしのガールズトークが続いた。

 ヤントラはモモンガへの不平不満が言えて少し気分が晴れた。

 アルベドは部屋に置いてある様々な飲み物を持って来た。

「ふー。少し気分がすっきりしました。そういえば、バスパ様はお酒は召し上がらないのですよね?」

「お酒はどうしても駄目だ。飲んだら……、きっと第九階層のメイドを皆殺しにするくらい暴れるかもしれない」

「まあ」

 アルベドも至高の御方々の話を思い出した。

 

 彼らもバスパのお酒嫌いについて語り合っていた。

「どうしてもお酒は駄目なんですか?」

「あれで身体を壊しているんだ。無理に飲ませないでやってほしい」

「社会人なのに、もったいないですね」

 モモンガはそう言ったが死の支配者(オーバーロード)の身では飲食は無理なので説得力にかける。

「もし、飲ませたらワールドチャンピオンの私でも殺されてしまうよ。あれは豹変(ひょうへん)という言葉がよく似合う」

「へー。それほど暴れますか」

「上の上プレイヤーになるよ。怒るよりも恐ろしい人間だよ、バスパは」

「たっちさんが言うほどの実力、見てみたいなー」

「弟、その時は私の防御も通用しないと思うから、勝手に死ね」

「ええっ!?」

「PKされている時は大人しいけど、酒が関わると……。たぶん、あいつの『2』はその事で殺されたんじゃないかな? リアルだったら逮捕するのに機動隊が必要になるよ」

「わーお」

「……モモンガさん、ケンカはしても酒は駄目だ。ナザリックが崩壊する」

「えっ? そこまでなんですか?」

「ゲーム内でも駄目。私が言うのも変だが……。バスパは我々の側に置いているかぎりナザリックを害したりしない。そういう子……、人なんだ」

「うむ。酒以外は無防備だからな」

 ウルベルトがたっち・みーの言葉に何度も頷く。

 とにかく、バスパに酒だけは飲ませるな。

 数人の至高の存在は言っていた。

 

 普通の果実水を飲ませてもらい、ヤントラは軽く息を吐く。

「私にとって忌(い)むべき液体だ。だけど、他の者が飲むのは止めないさ」

「分かりました」

「あと数日で戦争が始まる。一つの通過点だが、我々はそこからどこへ向かうんだろうな」

 アルベドは黙って聞き入る。

「私には高尚な目標は無く、楽しめればいい。毎回、殺されたり死ぬ事ばかりだったが、それはモモンガの能力がそういうものに特化しているからだ。もし生き続けられるなら……。モモンガに関わらないで済む方がいい」

「ナザリックを攻めたり、秘宝を狙う事は無いのですか?」

「第十階層に居る時点で目標は達成だろうし。モモンガを倒しても……、君たちが襲ってくるだけだろうし……」

 という言葉にアルベドは苦笑しつつ頷く。

「鍛冶師や巨大図書室(アッシュールバニパル)、第九階層は普通に使わせてくれるなら秘宝は要らないな……。眺める分には良い美術品だろうけれど……」

「欲が無いのですね。世界級(ワールド)アイテムを欲(ほっ)しないなど……」

「欲はあるよ。煩悩まみれだ」

「アイテム以外の欲とは?」

「今は悪魔的な欲だ。アルベドの腰の翼とか欲しいな」

「私の翼ですか?」

「角とか眼球とか身体とか……。再生はさせるけれど……。貰える身体は全て。保管庫が無いのが悩みだね」

 アルベドは腰の翼を軽く動かし、頭の両脇に生えている角を撫でた。

「デミウルゴスの実験みたいなものかしら?」

「否定はしないが……。私は痛みを感じないようにするよ。アルベドに睡眠が効けばいいのだが……」

「意識が無い方がお好みなのですか? 悲鳴を聞きながら実験をするものと……」

「拷問が目的ではないよ。採集と再生の繰り返し。身体を元に戻さないとモモンガに殺されてしまう。あと、採集したものをどうするか、よく聞かれるけれど集めているだけで研究は保管庫が出来てからだね。それらは戦争後に考えるよ」

 悪趣味ではあるけれどデミウルゴスより優しい方法を取られるのだなとアルベドは少し感心した。

「戦争へ向かう選別に君の身体を貰おう……。装備品は外すとしてアイテム類は取らないぞ」

 言うだけタダ。拒否されれば諦める。

 そういう意味合いがあるから思い切った言葉が使える。

「これもモモンガ様の罰だと思えば……」

 選択肢の決定権はアルベドだ。

「女性の身体は優しく扱うよ。反撃特殊技術(スキル)が発動すると厄介だが……」

「私の防御特殊技術(スキル)は厄介でしょうね。……ふー。戦争でどのように行動されるのか拝見させていただきます」

「ラキュースにも様子を見せてやってほしい。戦争が終わってナザリックに帰還出来たら作ってもらった装備は鍛冶師に……。いや、やめた。あれらはイビルアイにあげよう。冒険者モモンにご執心のようだから。あらぬ誤解を受けないように気をつけるが」

「作った鍛冶師に返品されると次の装備品のために潰してしまうかもしれませんね」

「あの装備は将来的に王国に寄贈(きぞう)すれば良い宣伝となるだろう。……モモンが悪評を振りまく人間でなければ、だが」

「伝説となりましょうか?」

「将来的な話しだから今はなんとも言えないよ。百年後とかに凄い英雄譚とか作られればいいが、そこまでの活躍をしてくれないと薄っぺらくなる。分厚い伝説となるように頑張ってほしいものだ。漆黒のモモンには。……美姫ナーベも忘れてはいけないが……」

 アルベドは苦笑してから椅子から立ち上がり、寝室へと向かうがすぐに戻ってきて他の部屋を巡る。

 色々と物を移動する音が聞こえる。

 数分後にアルベドが戻ってきた。

「こちらへどうぞ」

 アルベドが指し示した部屋に入る。

 広い寝室の片隅は白いシーツで何(・)か(・)を覆い隠したようになっている。

「部屋が汚れると困りますが、血まみれも当然、おやりにならないのでしょう?」

「掃除はするよ。……例えば君が片腕のまま玉座に行(い)ったら大混乱になると思うけれど……。痛みを与えて喜びたいわけじゃないからね」

 どうしてもデミウルゴスの印象ばかり浮かんでしまい、アルベドは苦笑しつつ軽く頭を下げた。

「翼を取るとしても大変だと思いますが、まず何をすればいいのでしょう?」

「全ての装備をはずす事かな。睡眠を効きやすくする為だが……」

 アルベドは胸に飾られている蜘蛛の巣を模した胸飾りに視線を落とす。

 腰の翼を取るとしても服が汚れてしまうだろう。結局は脱ぐしかない。

「ゆ、指輪は?」

「近くに置いておけばいい。ニセ物とすり換えられていないか鑑定は忘れないように」

 アルベドは化粧机に向かい、ヤントラに見えないように貴重品を仕舞った。

「アルベドは香水は持っていたか?」

「いくつかありますよ。ああ、血の匂いとかの心配がありますよね」

「……女性の部屋が血生臭いと困るだろう。芳香剤は持ってはいるが……、空気の入れ替えは出来るのか?」

 謹慎しているとはいえ密閉空間で生活するのは精神衛生上よくないと思う。

 そう言いつつ香水を何本かヤントラに見える位置に並べた。

「炭とか観賞用の植物とか置いておくと良い」

 アルベドは苦笑しつつ頷いた。

「選別を差し上げる代わりに、念のために私が目覚めて再生を確認してからお帰りいただくことをお約束してください」

「外の門番たちが途中で入ってきたら困るが。痛みで何度か目覚めるかもしれないが、帰るときはちゃんと起こすよ。運搬用に部屋の外にシモベと大きな箱の用意も」

 ダメージによる睡眠の解除だとアルベドは理解し、頷いた。

「不審に思われますものね。箱はどの程度がいいでしょうか?」

「シモベに小箱を運ばせるわけではないからね。部屋に入るくらいでいいよ。……出来れば丈夫な箱を頼みたい」

 アルベドは苦笑する。シモベに運ばせるのだから大きい箱が必要なのだろう。

 どれだけ採集する気なのだろうかと怖くもあり、興味もあった。

「畏まりました。包むものも必要でしょう」

「うん。頼む」

 アルベドは出入り口の扉を開けて、不可視化している八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)にまず部屋に入るくらいの大きさの箱を二つと身体を身奇麗にするのに必要な石鹸類、消臭関係。数十枚近くのシーツ類。そして、箱を運ぶシモベを数体呼びよせるように命令する。

 届いた箱を部屋に搬入させた後、部屋の外で待機しているように命じた。

 運ばれた箱は完全に密閉できる厚い代物だったので、満足したが重そうだった。

 それから門番たちに秘密の会議の為に探知妨害魔法を使うからアインズ以外の階層守護者を含めて誰も通すなという事を伝えてから寝室に戻った。

 

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