ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
重い足取りで冒険者ギルドに向かう。
扉を破壊したりしていたハムスケのケガは既に治っていた。
通りを行き交うのは後ろを気にする敗残兵ばかり。
それはモモンには気にするほどのことも無いが、会う人、会う人にお礼を言われた。
意外に思いつつ行きなれた冒険者ギルドにはすぐ到着できた。
普段は扉が閉まっているが今は修理中だった。
「ささ、どうぞ。モモンさん」
「あ、いや、すまない」
扉は修理している職人が開けてくれた。しかもとても明るい笑顔だ。
中に入ると英雄の帰還だ、と大歓声が鳴り響く。
「えっ!?」
「すげーよ、モモンさん!」
「さすがはアダマンタイト級の冒険者だ!」
「ナーベさん、もう歩けるのか?」
「大丈夫だ、問題……手は無いがな」
ケガの様子を見せると暗い顔をされるが応援が多かった。
多くの冒険者は敗残兵から話しを聞いたり、こっそり見物に行った者達からの報告を受けたりしていたからだ。
報告だけではなく実際に
戦場の凄惨さを見ればやっかむ者など居るはずがない。
「誰がこんな事を……。殺戮王とかにやられたのか?」
モモンは唸った。まさしく当人がやりました、と言いそうになるほどだ。
二人は受付カウンターまで移動する。
「四階で都市長とギルドの組合長がお待ちです。こちらへどうぞ」
「……はい」
凄い出迎えにモモンは驚いた。
冒険者のクセにでしゃばりやがって。何様のつもりだ。くらいの覚悟はしてきた。
それがどうして
階段を昇る時、手の使えないナーベは手を使おうとして体勢を崩す。
「んっ?」
「すみません、モモンさん」
無い手で壁を触ろうとしているらしい。
「……先に上がれ。私が落ちないように見ていてやろう」
「……も、モモンさんに尻を向けるのは……」
尻を眺めたいわけではないのだが。
「そんな失礼な事は出来ません」
ですよねー。と思いつつ。構わない、と言ってナーベの背中に手を置く。
「ケガ人は黙っていろ」
「は、はい。申し訳ありません」
「モモンさんはお優しいですね。もう少しですから」
受付嬢はにこりと笑った。
部下を
厳しく突き放す事も出来るが、相手はケガ人で女性だ。
というよりは仲間でケガする奴、ほとんど居ないよな。シャルティアは例外としても。
四階の会議室に通された。
そこには冒険者組合長のアインザックと都市長のパナソレイの二人が居た。
「良く来てくれた。さあ、かけたまえ」
「ナーベさんは私が……」
アインザック自ら手の無いナーベに椅子を動かした。
「まずはナーベさん。色々と大変だったようだね。もし、具合が悪いなら言ってくれ」
「ありがとうございます。ご心配をおかけして申し訳ありません」
丁寧にナーベはアインザックに頭を下げた。
「本来は大々的に祝ってやりたいのだが……」
と、話しが不穏な空気を帯びてきたのでモモンは鳴らない喉を鳴らす。
「ご承知かと思うが、このエ・ランテルは帝国の領土として割譲されるだろう」
「その話しはしても仕方が無いので……」
と、アインザックは都市長を促す。
「うむ。まずは……」
パナソレイは丸めた羊皮紙を取り出す。それは封印が施されていない簡素なものだ。
モモンは賠償金の請求書かと思った。
「これは以前に聞いたと思うが……。冒険者が戦争に参加しても良い、という内容の書類だ」
「……はっ?」
と、モモンはつい言ってしまった。
「この度の戦争において皆から意見を徴収したがモモン君は戦闘行為は一切せず、凶悪なモンスターから兵士たちを逃がすために
「君のお陰でたくさんの感謝の言葉が届いたよ」
「えっ? そ、そうなんですか?」
モモンの言葉に二人は頷いた。
パナソレイは感動で涙まで見せている。
「私はてっきりこれを依頼した……、まあ君も知っているヤントラ殿だが、彼が名声の為に大芝居を打つと思っていたのだが……。どうやら私の思い過ごしのようだった」
「これは人道支援に寄与した者を讃えるものだが、名前だけ記載されていない。どうだろう? モモン殿の名前を書いても良いだろうか。特別な報酬というわけではないけれど、後世に残る偉業の一つの証しとして残すのも悪いことではないと思うのだが」
「……それは本当ですか? 戦闘に参加して混乱を招いた責任追及……、とかではなくて?」
「……貴族たちはそう思うかもしれないが、我々は君の行為を誇らしく思うよ」
「そうだとも。誰にも文句は言わせないさ。君は大勢の兵士の命を救った英雄だ。王都の件などよりも立派な……。いや、次代に残すべき偉業だろう!」
都市長達も調査隊を用いて調べさせているので戦場の様子はだいたい把握していた。
どれほど凄惨な戦いだったのか、涙なしに語る者が居ないほどだった。それも一人や二人ではない。多くの帰還兵が言うのだから冒険者ギルドとしても罰則など取れるわけがない。
仮に他の冒険者が行ったところで蹴散らされるだけで、無駄死にしかしないだろうとまで言っていた。なにせ十メートルほどの化け物が猛烈な勢いで迫ってくるのだから。などなど。
化け物の様子や確認できた仲間の死に様などを聞かされれば
モモンの耳には『
「それにナーベさんは人道支援を行ったにも関わらず敵に大怪我を負わされてしまった。帝国はなんて酷いことをするんだろうね、全く……!」
話しがすごい事になっている。それだけはモモンには分かった。
その書類とやらは冒険者の規則を破らない方法で戦争に参加出来るもの。
確かにヤントラはそれらしいことを言っていた。それがまさにあの大芝居というわけだろうか。
英雄モモンとして完全に伝説に残ってしまうではないか。
目撃者が大勢居る。それらの記憶を
少なくとも生存者が十万人だとしても、それだけの目撃者の前でモモンは大活躍してしまったのだ。
アインズ・ウール・ゴウンの敵であるモモンが英雄になった。
「ヤントラ殿は名声や報酬は欲しかったらあげるように言われているが……。どうかモモン君。ここに名前を書いてくれないか? 代筆でいいならそうするが……」
報酬が貰える、と聞いて兜のスキマから覗く目が輝く。
「報酬と言っても犠牲者が多い。王国の財政も圧迫されていると聞く。……少なく見積もっても金貨千から二千枚が上限かもしれない事は覚悟していてくれ」
それでも充分な大金だ。
確かに無尽蔵に金が手に入るわけでは無い事は理解している。
帝国側からもそれなりに受け取れる事になっているが、断ろうか受け取ろうか。
モモンはここで無理に名前を書くと変な契約をされるのではと思い至った。
文字が読めない事を良いことに妙な請求や責任を押し付けられるのではと。
詐欺に引っかかる一歩手前のような気分だった。
儲け話しには裏がある。
ヤントラがモモンを貶めるための書類ということも考えられる。むしろそっちの可能性が大きい。
魅力的な話しだが、保留にして解読アイテムで調べてからでも遅くは無いだろう。
「誠に嬉しいのですが……。真実が書かれているとは限らないので保留とさせていただいてもよろしいですか?」
「お、そうだね。すまない。興奮していたようだ」
「後で嫌な思いをされても困るだろう」
「モモン君は予定が空いていれば王都に向かってほしい。王が直々に礼を述べたいと言っていた。君の都合でいいらしいよ」
今度は王様からの呼び出しを食らってしまうとは。
二重の罠に引っかかった気分だ。
王様相手にパンドラズ・アクターは使えないだろう。
「この書類は疲弊した民兵たちの希望となるかもしれない、というので製作を依頼された。決してやましい内容ではない。解読アイテムなりをこちらで用意しようか?」
「い、いえ。お気遣い無く」
用意してくれるのではあればうれしいが、やはり自分のアイテムで無ければ信用できない。
「そういえば、ギルドの扉の修理費だが……」
「……む」
「既に蒼の薔薇から報告を受けたヤントラ殿より修理代は頂いている。モモン君は気にしなくていいからね」
「そ、そうでしたか」
「それにしてもヤントラ殿は貧乏貴族なのに散財が激しいそうだ。お人よしはモモン殿以上なのに欲が無い不思議な人だね」
「そうなのですか」
正直、
それ以前に文字が読めない事がバレてしまった。そんな気がした。
少しかっこ悪いなと残念に思いはしたが、思いのほかバカにされなかったな。
確か識字率がかなり低かったような。
後日改めて解読アイテムで羊皮紙の内容をあらためた。
「兵士救済をエ・ランテルの組合全てが認める。これは戦闘行為ではない善意である。以下の、未記入、の尽力は冒険者の垣根を越えて
印象としては人道支援に限り一切の罰則は与えない、というものだった。
この中に報酬や名声に関連したものは無く、人を救った人は怒らないでね、ということだ。
記入は任意だろう。だが、貴族からの指摘によれば書類というものがあった方が都合が良い。
後で難癖を付けられないようにするためのもの、ということだろう。
仮にモモンとすれば、冒険者ギルドはモモンの人道支援に文句を言わないことを認めます。そうなれば貴族が何か言ってきてもモモン君は何も悪くない。我々が責任を持ちます、と言ってくれるかもしれない。
そういう書類なのだ。名前を書いた方が何かと便利かもしれない。
後で偽造される可能性が残るが。
「……偽造の可能性はあるのでは?」
「おお、複写か。うむ。それはすぐに用意しよう。提出する相手だが……、レエブン侯で良いかね? それとも直接、王に届けたほうが?」
レエブン侯は聞いたことがあるし、知らないわけではない。
「このエ・ランテルが帝国に渡った時に色々と都合の悪い書類は処分されるかもしれない。早めに渡せれば死んでいった兵士たちも浮かばれるだろう」
英雄と呼ばれるためにアンダーカバーを作り上げてきたはずなのに、今はとても罪悪感がある。
それでもエ・ランテルという都市は欲しい。世界を統治する足がかりとなるのだから。
問題は王国側にとってアインズ・ウール・ゴウンは最悪の敵と認識されてしまった事だ。
それらを解消するには力ずくで王国も手に入れる必要があるだろう。
今は無理に急ぐ事は無いけれど、少なくともモモンは王国では英雄なのだから、それは素直に嬉しく受け取ろう。
支配してしまうとせっかくの伝説が無くなってしまうかもしれないな。それはどうすればいいのだろうか。
アンダーカバーはいま少し利用価値があるので書類にサインする事にした。
ナーベへの見舞金は今のエ・ランテルではすぐには用意できないと言われてしまった。
王都で報酬として上積みできないか検討はする、という話しで終わった。
エ・ランテルが割譲されるに当たって冒険者の仕事の依頼は一時中断されることになった。
他の都市で仕事をするか、帝国の都市となったエ・ランテルで新たに仕事を始められるか、色々と問題が山積している。
あとカルネ村をどうしようか、というのもモモンの頭を悩ませる。
部下に仕事を与えるのは意外と難しい。
時を同じくしてロ・レンテ城の国王の謁見の場にヤントラは呼ばれていた。
「この度は敗走する兵士を守るため、とんでもない怪物を退治してくれたそうではないか。彼らを守ってくれて感謝する」
「私は兵士たちのためではなく趣味であるモンスター退治をしただけですよ。お陰さまで七回ほど負け続けた上位モンスター『黒い仔山羊』を撃破出来ました。ただ、本気で向かってこられたら危なかったですね。火とか毒とか吐かれてたら負けてました」
「はっはっは。なかなかに面白いお人よの」
素直なヤントラに王は
「こたびの働きに褒賞を与えたいが……。何か希望はありますかな」
「では、欲を言わせてもらえれば……、少し広い土地と建物でしょうか。今の家は蒼の薔薇に譲渡するとして……。保管庫のような家が欲しいです」
「それはまた……、想像できない代物のようだ」
「武器庫と化していますから。いずれは王都を襲撃して乗っ取る、とか言われるかも知れない。それなら土地をくれ、と素直に言った方がいいかなと思った次第です」
素直な感想は小気味良い。しかし、武器庫とはまた物騒だ。
冒険者であり、蒼の薔薇を住まわせているのだから仕方が無いのかもしれない。
「出来るだけ叶えたいと思うが……」
「私の大それた野望です。願望や煩悩にまみれたものかもしれませんが……」
いつもながら素直で正直な人だと王は思った。
「それは後で検討させよう。あれを……」
と、王が側に控えている従者に声をかける。
従者はヤントラの側に行き、羊皮紙の巻物を差し出す。
「蒼の薔薇に加入した
「いえ」
「その者の
王の言葉にヤントラは両手を差し出して羊皮紙を受け取り、近くに寄ってきたイビルアイに渡す。
「ありがとうございます」
「そなたの妻となったラキュースの復権。反対する者はおらず、ラナーも戦争が終わった今は何も言わないと言っておった」
王は苦笑する。
「とはいえ、多くの犠牲を出した手前、無罪放免とはいかんだろう。凍結した資産の三割は没収させていただくことになった。それらは遺族への補償金に当てようと思うのだが、異存はあるかな?」
「いいえ。皆様方のご判断にお任せいたします。妻が喜ぶかは分かりかねますが……」
別の従者がいくつかの羊皮紙の巻物を運んできた。
「我々に出来る限りの戦士への
「
羊皮紙はイビルアイに任せた。
「なんだ?」
「超位魔法『
王は唸った。
あの魔法だからこそ救出が可能だった。それはどういう意味だ、と少しだけ混乱する。
あれほどの殺戮魔法に救いなど無いと思っていた。
「で、では、別の魔法であったなら……。私はここに居ないということか?」
「それは分かりません。ですが、あれだけ派手に演出したのです、しばらくは大人しくすると思います。少なくとも王国側に悪の印象を植え付けてしまったのだから。未知の敵に知られれば良い顔は出来ません。スレイン法国は少なくともかばう理由は無いと判断したかもしれませんし」
「スレイン法国は動くか?」
「軍は差し向けられないと思いますが……。色々と地味な戦いが始まると思います。あと……、魔導国でしたっけ? 建国に忙しくなると思うのでしばらくは大きな動きは……無いかもしれません。少なくとも王国側では」
「……ふむ。しばらくは国の建て直しに集中できるということだな」
「いずれにせよ。ナザリックの戦力に真っ向から当たるのは得策ではありません。……帝国がまた進軍するつもりなら私も本気で潰しにかかりますが……。数年間は大人しくしていてほしいものです」
「そなたの言葉は胸に置いておくとしょう」
「お役に立てず、申し訳ありません」
話し合いを終えたヤントラはイビルアイと共に我が家へ戻る。
「ルリマリスは正式に王国民になったわけで、顔はもう隠さなくていいよ」
「はい」
「それでご主人はこれからどうするのだ?」
「保管庫のような施設作りかな。庭の箱が随分と溜まってしまったが……」
自分で用意したとはいえ随分と山積みになってしまった。
隠蔽どころか山だから目立つ。
「『黒い仔山羊』は……、あれはすげーな。デカイとは聞いていたが……」
「あれで空とか飛ぶようならお手上げですけどね」
「……うわー」
「とにかく、みんな無事で良かった。ご苦労様でした」
「……怯えているばかりで何も出来なかったよ」
「さすがにあんなの見るとね……」
想像以上の化け物で驚いた。
本当にレエブン侯が描いたまぬけな姿だとは。
「……それとナーベのこと、ありがとうございます」
「一命は取り留めたようだけど……。ウサギの耳が出てきて驚いた」
「それは魔法です。では、装備が届いているから君たちのお色直しといきましょうか」
「おおっ!」
「可愛い服は着ないぞ!」
「……イビルアイはその格好で晩餐会とか行くの?」
「その時はローブだけ変えるよ。いちおう特別な催し用の服はあるんだ」
「滅多に見れない綺麗なイビルアイだよ」
「それはいつか見せてもらおう」
それからヤントラは届いた箱の中から装備を探したりするのに時間をかけ、蒼の薔薇の新装備を用意していった。
次の日に冒険者モモンはナーベを引き連れてロ・レンテ城に訪れた。
声でバレるかもと思って今まで避けていた城。今は気にしなくてもいいと判断することにした。
予想に反してエ・ランテルでは大盛況だったが王都ではどうなのか心配だった。
距離的に離れてはいるが悪魔騒動での活躍のお陰か人々は口々に歓迎の言葉を述べていた。
複数の従者たちに城内を案内されるが皆は笑顔で出迎えてくれた。
正しく英雄を歓待する雰囲気だ。
本来は自らが客人を出迎える立場であるが今はモモンが客人だ。
謁見の間に入ったモモンは三人の身なりの良い貴族の間を進む。
ただ、貴族の内二人は険しい顔をしていた。
貴族の反応こそモモンが想像していたものだ。
一人の貴族レエブン侯は穏やかな表情だったが、こちらは以前依頼した付き合いで笑顔を向けているのかもしれない。
ある程度、進んだところで片膝をつく。
ラキュースから教わった姿勢を実践する。
装備している全身鎧だが間接部分は割りと柔軟な動きに対応できていた。
少し後ろに居たナーベは片膝をつこうとして体勢を崩したようだ。床に手を付こうとしたが今の彼女は両手が無い。
室内に控えていた従者たちがナーベを起こしていく。
「連れがすまない」
「よい。よくぞ参ったモモン殿」
「はっ」
「いきなりですまぬが、こたびの戦争で活躍してくれた貴殿に聞きたいことがあるのだが」
モモンは唸る。あまり質問は受けたくない。
「人道支援は理解できるのだが……。何故、あの時、撤退を叫ばれた?」
「そ、それは……」
それは自分ではない偽者だ、と言いたかった。
「かの魔導王の魔法がどのようなものかご存知の様子だったからこその言葉とお見受けしますが……。その情報は……」
「ふんっ。そやつとアインズなる
大貴族派閥の盟主ボウロロープ侯亡き今、残った大貴族はほぼ王派閥のみ。
そのうちの一人ペスペア侯。
六大貴族の一人として自分の権威を示そうと声を上げた。
言われたモモンは正に真理を突く言葉だったので軽く呻く。
「その点ではヤントラ殿も一緒です。彼はかの魔導王とは昔からの知り合いと聞いていますし」
あれ、とモモンは思う。
ヤントラが普通にバラしている事に驚いた。
いや、カルネ村でアインズとヤントラが居ることを知るのはカルネ村の住人とガゼフとその仲間達。別段、不思議では無かった事を思い出す。
「異邦人の彼らはそれぞれ考え方が違うそうですから、色々と理由があるのかもしれません」
落ち着いた雰囲気で話すのはレエブン侯だった。
「では、モモン殿もヤントラ殿と同じく異邦人ということか?」
「いえ……。その前に質問が……」
モモンは片膝をついたまま手を上げた。
「どうぞ」
「その……、ヤントラという人と魔導王がグルだと皆様方はご存知だったのですか? グルというか、知り合いというか……」
ガゼフ達が知りえていれば貴族の耳に入っていてもおかしくはないが、冒険者モモンは知らない立場として尋ねてみた。
「最初からそう言っていた。昔からの知り合いで敵同士だと。かの超位魔法のことも既に伝え聞いていたのだが……、実際に見た事が無かったので誰も本気にしていなかったよ」
「はぁ!?」
モモンは驚いた。
「モモン殿が驚くのは無理も無いかもしれないが……。かねてよりヤントラ殿は我々に兵士をたくさん送り込むことに否定的だったのだ。十万の犠牲が出る事も聞いていたのに聞く耳を持たず、本当に十万の犠牲を出してしまった。嘆かわしい事だとは思っているのだが……」
あいつはナザリックの事をバラしただけではない、ということか。
それよりもなんだ、その予言めいた内容は、とモモンは驚きっぱなしだった。
そういえばラキュースも超魔法で蹂躙とか言っていた事を思い出す。
既にあの時から何が起きるのか予見していた事になる。
セバスの件も事前に書物を持たせていた。
思い出せばきりがない気がする。ということは蒼の薔薇がエントマと仲良くしたり、王都の闇である『八本指』の対応も繋がってくる。
異形種である自分たちにやたらと協力的だったし。
「モモン殿はヤントラ殿から色々と話しを聞いたから駆けつけてくれたのではないでしょうか。知り合いだからこそ信じられる仲間……。そう考えるのが自然ではないかと」
レエブン侯がモモンの代わりに言った。
「ふむ。そうであった。それにしてもあの大きな声はすごかった。戦場全てに響き渡る大号令はあっぱれであったぞ」
「王よ。褒めてばかりでは示しがつきませんぞ」
「あの声が無ければ更に数万人は犠牲が増えていたであろう」
「モモン殿が戦士職なのは理解できますが……。あの無数の天使達はどうやって……」
レエブン侯の疑問にナーベは一歩前に出ようとし、体勢を崩す。すぐに従者がナーベの身体を支える。
「……おそれながら、それらはスクロールによるものでございます」
「スクロールにしても多すぎやしないか」
「蒼の薔薇にも最近入った信仰系の
そう言うと二人の貴族は納得したようだ。
そのナーベにスクロールを渡したのがヤントラなのは間違いが無い。
モモンは王国側の計画はほとんど知らないので発言が出来なかった。
「撤退は魔法の内容を知りえていたから……。では、モモン殿はあの強大な魔法を途中で打ち消せると思われるか? あのおぞましいモンスターを出さないような方法とか」
そのような事はモモンは知らない。
超位魔法は発動した時点で取り消せはしない。
天空の黒い塊に仮に魔法を撃とうが地面に飛び散るだけだ。
『
楽しみにしていた『
出来るかと言われれば、知らんと答える。
魔法陣が展開している最中ならば止める事は可能だろう。
「魔法を発動する時に魔法陣が展開される時ならば……。可能性はあるかもしれません」
答えられる範囲でモモンは言った。
「だが、それは相手も承知しているだろう。彼の側に居た者たちが警戒役のはずだ」
「……やはり使われてから対応するしか無かった、ということか」
王は少し残念に思い、そして納得する。
「最初に片翼が倒れた時点で勝負はついていた。今更蒸し返しても死んだ者は帰ってこないだろう」
「戦場に残した兵士たちの遺体は……」
一つもまともな形として残ってはいないかもしれない。
黒い仔山羊の攻撃に晒されたものは殆ど一撃で砕け散っていた。
「暗い話しばかりではモモン殿を責める為に呼んだようなものだ。犠牲は大きいがモモン殿に救われた命もまた多い。この国の臣民を預かる国王として厚くお礼を申し上げる」
王は玉座に座っていたが深く頭を下げた。
「もったいなきお言葉です」
「エ・ランテルから届いた書類により戦争介入については不問。結果としてそなたの相棒が大怪我をする事態になってしまった事は残念に思う」
「自業自得ではないのかね? かの魔導王の怒りを買ったのだ。生きているだけで充分すぎるだろう」
この言葉にはナーベも納得して軽く頷いたほどだ。
「腕を切り落として剣を刺したままギルドへ行け、とは正気の沙汰ではありません。あれは人間……、いえ、アンデッドでしたな。
「アインズ・ウール・ゴウンはただのアンデッドではありません。確か『
種族までバレてる。
モモンは唸った。
「普通のアンデッドと違うのか?」
「
「所詮は化け物ではないか」
「敵対する事は簡単です。ですが、残念ながら我々にはナザリックに対抗する力はありません。彼らと共存する道を選ぶほうがいいとヤントラ殿が言っておりました。でなければ犠牲だけが増えてしまうと……」
「モモン殿はそのようなモンスターと共存できると思われるか?」
「……冒険者である私にはお答えできかねます」
既に帝国と共存関係みたいなことにはなっているけどな、とモモンは胸の内で言った。
「このままではモンスターに国を奪われてしまいますぞ」
「その時はヤントラ殿が我々の為に戦うと言ってくれています。彼にとっては自らの友ともいうべき者達を殺すのは抵抗があるようで……。蒼の薔薇には話し合いを試みるように言ってくれていたのです」
モモンはレエブン侯に顔を向ける。
彼が一番の理解者のようだった。
戦闘メイド達が蒼の薔薇と仲が良い理由は理解した。だが、自分達の潜在的な敵には変わらない。それをどう解決すれば良いのだろうか。
「ささやかな抵抗として帝国には色々と戦後賠償や遺体の回収作業などを提案しようかと思っております。イビルアイ殿の話しではアインズ殿は部下に仕事を丸投げする無責任さがあるようで、ここでアインズ・ウール・ゴウンに責任ある対応を取ってもらおうと思います」
兜の中で流れないはずの脂汗が止め処も無く流れ落ちる。
「具体的には?」
「
十万人も頭を下げられるか。首が取れてしまう。
「話しが
「ありがとうございます」
「……それにしてもアインズ・ウール・ゴウンの住まうナザリック地下大墳墓だったか?」
「は、はい」
「我が領内であれば自治権を認めるだけで戦争は回避できたのではないか?」
王の疑問に三人の貴族は首を傾げた。
「そ、そういえば! ヤントラ殿は土地を取得する内容の書物を渡したのに力づくで奪った事を疑問に思っておりました」
モモンの身体が跳ねた。
自治権を認める前に帝国側についてしまった。
確かに今から考えれば戦争を起こしてまで奪う事はやりすぎだったかも、などなどモモンは思った。
戦争を口実にするには無茶すぎる。それは自分でも分かっている。
支配者としては己の力をどこかで堅持しなければ部下に示しがつかない。
あと、難しい法律は分からん。
「異形の化け物にやる土地はございませんよ!」
「結果論を言っても仕方あるまい。……それでも聞いてみたいものだ。エ・ランテルを得る理由を。使者の対応はどうだったのだろうな」
ナザリックに近いし、トブの大森林の通り道だから欲しかった、とは言えない。
使者の対応には満足している。その点で言えば悪いことをしたと思っている。
これだけ見ると責められて文句を言う資格は無いかもしれない。
「聞いているだけだとアインズとやらは頭の悪い大
悪口に反応してナーベが顔を上げる。
正直、モモンもそう思った。
アインズはとんでもないバカだな。そのバカの顔を一度は見てみたいものだと。
「モモン殿には関係の無い事だったな。まず、ナーベ殿の見舞金を上積みして用意したのは金貨千五百枚。戦後処理が終われば更に金貨千枚を送ろう。人道支援にしては多すぎるかもしれないが……相手が相手だ」
「今更ですが自治権をすんなり認めはしないでしょう。ナザリックの事を理解する時間が足りなかったのも否めませんが……。対話を重ねていけば良き隣人として迎え入れる事も可能かと。敵国同士となってしまいましたが……」
従者が金貨の入った箱を運んできた。
「モモン殿、どうか受け取ってくれ。重ければ運ばせよう」
「ありがとうございます。では、ありがたく頂戴いたします。持てるので大丈夫ですよ」
「モモン殿はこれからどうされるのだ? エ・ランテルに行くなら冒険者ランクを
「えっ?」
「国を変えると職人でも見習いから始める決まりなのだ。君さえ良ければリ・エスティーゼ王国のどこかの都市で仕事を続けてもらいたい。もちろん王都でも構わないが……」
その事は失念していたのでモモンは少しぼーっとしてしまった。
「……それは万国共通のものではないと?」
「自国の有名な冒険者を他国に渡したくない、ということだ。各国で協定を結んでいればまた条件は変わるだろうが……。必要な時に何処にいるか分からないと困るからね」
王国の冒険者。帝国の冒険者。
少なくとも国に居る事は分かるし、居なくても伝言などは頼みやすい。
モモンもエ・ランテルに居る冒険者達の話しで引越しの話題が多かった理由を理解した。
ギリギリまで残るのは愛着がある都市だからだろう。
魔導国の一部となるエ・ランテルに王国の国民が居残るのはおかしな話しだ。すぐに国外退去させるのが普通だろう。
「……後で考えます」
「三組み目のアダマンタイト級冒険者を失うのは王国としても大きな損失だ。良い結果を望んでいるよ」
王国のアダマンタイト級の冒険者が次の日から帝国のアダマンタイト級冒険者に切り替わるのは確かにおかしいだろう。
統治する時、ギルドの事も考えなければならないな。
様々な問題が山積している予感がする。
「はい」
モモンは立ち上がり、それぞれに一礼し、金貨の入った箱を軽がると持った。
後で更に金貨がもらえるので、すぐに王国から出る事は出来ないだろう。
金はあるだけ欲しいから。