※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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G-3 金をよこせ

 兵士たちは労(ねぎら)いの為に呼ばれて飲み食いするらしい。

 ガガーランが彼らの面倒を見ているのだとか。

 新しい戦士長には『ブレイン・アングラウス』が務めることになり、以前の部下達も後輩の育成に務めていた。

「ラキュースとイビルアイは色々と調べ物で忙しいようだよ。頭を使う仕事に向いているのかもしれない」

 ルリマリスは鍛錬の日々でクレマンティーヌは各都市の貧民街の調査に出かけていた。

 それぞれ忙しく働いているようで安心した。

「向こうは着々と出来ていますが規模が大きいので苦労していますよ。あと……、一人で管理するの無理だと気付きました」

「今更っ!?」

 それぞれ得意分野のあるメンバーが居たからこそナザリック地下大墳墓は運営できていた。その中のモモンガは管理職に位置していただろう。

 ヤントラは気の向くまま適当に過ごしていたし、管理に関してはずさんかもしれない。

 いや、ずさんだろう。

 整理整頓と掃除に洗濯は出来るのに。

 金遣いは荒い。

 雇うにしても無収入だから。

「冒険者以外は無職だよね……。貴族の人はどんな仕事で収入を得ているのやら」

 真っ先に浮かぶのは借地(しゃくち)による収入だろう。

「リーダーは午後には帰ってくるけれど……。旦那さんはまた行っちゃうの?」

「今日は泊まっていくよ。しばらく離れていると他人の家って感じだ」

「私達は自分達の家って気がするよ」

 それから午後になるまでヤントラは各店舗に赴き、風呂の職人や食料の買出しに向かった。

 日が暮れる頃に家の中は別の一団で賑やかになっていた。

 ナーベとティア以外のメンバーの他にクライムと王国戦士長のブレイン。そして、戦争でアインズとの一騎打ちで死亡したはずの『ガゼフ・ストロノーフ』が居た。

「久方ぶりだな、ヤントラ殿」

 野太い声は正しくガゼフ。そうヤントラは思った。

 ブレインの計らいでヤントラとガゼフの二人だけ居間に残された。

「生きていたとは……。中々にしぶとい御仁ですね」

「自分でも驚いている。……それからあの化け物を屠ったと聞いた時は驚いた」

 ガゼフの言う化け物は『黒い仔山羊』である。

「ゆっくり歩いていたお陰もありますし、逃げなかったのと消えなかったので……」

「……あれでも貴殿にかかれば手ごわいモンスターなのだな」

「……そ(・)れ(・)用(・)の武器を用意しましたからね。並みの装備では歯が立ちませんよ」

 ガゼフは聞き逃さない。

 ヤントラの言った『それ用』という言葉を。

「以前から予見されていたようだが……。偶然なのか生まれながらの異能(タレント)によるものなのか……」

「正直に言えば困っています。先の分からない方が楽しいのですが……。どことなく生まれながらの異能(タレント)に支配されているような気がして後々、自分の行動が分からなくなりますよ」

 一種の脅迫観念のようなものに突き動かされていた気がしていた。

 様々な映像が頭に浮かび、サブミリナル効果のように誘(・)導(・)さ(・)れ(・)て(・)いく。

 それが行動となって現れている、と思ったほうが楽かもしれない。

「予想というよりは予定通りの虐殺……、の方がいいですね。ちゃんと教えたのに人数を増やして……。下手したら二十万人の屍(しかばね)が散らばるところでしたよ」

 戦死者は十数万人。半数近くは死んだことになる。

 戦場をかき乱す者が居なければ、もっと大勢死んだかもしれない。

「人数を減らして大勢居るように見せかける案は確かに有用だっただろう。犠牲が出るのが戦争なら犠牲を少なくする事も大切かもしれん。勝てない戦(いくさ)に勝つ方法は奇跡以外にありえはしない」

 最初から無謀だったのだ。

 アインズ・ウール・ゴウンの引き連れた異形の軍勢を見た瞬間に悟るべきだった。

 その前からも皮装備で戦争させること自体が間違っていたとも言える。

 ヤントラの言葉を無視した結果が戦死者の数として現れている。

「戦死者は回収されてアンデッドの材料にされているかもしれませんね。今頃カッツェ平野は戦争があったことなどを示す証拠などが隠蔽されて綺麗になっているかも」

「むっ……」

「ところでアインズと会ってみてどう思いました? 一騎打ちを挑んだのでしょう?」

「うむ。アンデッドであったのは驚いたが……。雰囲気は最初に会った時と変わらぬ御仁だった」

「仮面をかぶる理由が分かったでしょう?」

 不敵な笑みを浮かべるヤントラ。

「ヤントラ殿はご存知だったのだな?」

「腐れ縁ですから」

「魔法は凄いが話しの通じない相手ではないというのは理解した。これから王国はゴウン殿と戦えると思うか? これは興味からだが」

「物理的には無理でしょう。出来るだけ政治的に戦ってほしいです」

「それほどの高みに居るのか、ゴウン殿は」

「機会があれば私が半殺しにしておきますよ。戦争前にお互い殴りあう事態になってましたし、ちょっと本気を出そうかなと……」

 楽しそうにヤントラは言う。

 普通の人間ならば魔導王の力を見て、軽口など叩けはしない。しかし、ヤントラは黒い仔山羊という超ど級のモンスターを単身で屠るものだ。

「倒せるのか? 以前は無理だとはっきり言っておられたようだが」

「完全装備のアインズには勝てません。それは変わりませんよ。あと秘密にしておきます。変な希望を抱かれても困りますから」

 聞かれた質問に答えるヤントラが秘密と言うのだから何かがあるのだろう。

 アインズ・ウール・ゴウンを倒せない、または倒さない秘密などが。

「建国に忙しい相手をつついてもろくなことはありません」

「エ・ランテルの住民はどうなると思われる?」

「生きた人間はアンデッドの材料か食料なのですが……。いきなり皆殺しはしないと思いますが……、統治の実験として活用されるのではないかと。カルネ村の例もありますし。滞在拠点としているモモンも黙ってはいないでしょう」

 漆黒のモモンが居るのであれば、とガゼフは少しだけ安心する。

「そろそろこちらも質問してもよろしいですか?」

「自分の事ばかりですまなかった。もちろん、答えられることは答えよう」

「一騎打ちで死んだ、というのは?」

「うむ。確かに一騎打ちで俺は死んだ、と思った。事実、数日間は死体安置所に置かれたのだからな」

 それに蘇生も拒否したし。何者かが勝手に蘇生魔法を使ったとも思えない。

「魔法無しで奇跡でも起きたのかと思ったよ」

「蘇生魔法では?」

「蘇生魔法を使えるラキュース殿は居ないのだ。誰にも出来はしないだろう」

 あえて言えばスレイン法国だが、と胸のうちでガゼフは言った。

「……なるほど。……仮死状態かもしれませんね。それなら納得できます」

「? 仮死状態とは?」

「息の根を止められても実は生きている、という状態です。人間というのは簡単には死なないんですよ。えっと、アインズと戦った時はどんな感じだったんですか?」

 ガゼフは首を傾げつつも決闘の現場を思いだそうとした。

「剣を振り上げた所までは覚えている。ブレイン達が言うには独りでに倒れたと言っていた」

 それだけでヤントラは理解する。

「『時間停止(タイム・ストップ)』からの『死(デス)』ですね。戦士の決闘にえげつない方法を取るものだ」

 ヤントラは苦笑した。

「トゥルーデスというのは聞いた。タイム・ストップとは?」

 第八位階の『死(デス)』より上位の第九位階の『真なる死(トゥルーデス)』の方だったか、とヤントラは少しだけ驚く。

「その名の通り、時間を止めるような魔法です。止まった時間の中では術者は自由に動けますが相手に攻撃を当てることが出来ません。効果が切れるところを狙って『真なる死(トゥルーデス)』を発動する、という連続技みたいなものを食らったのでしょう」

 正確には時間が止まったように感じるほど素早く動く魔法らしい。

 魔法なので慣性の法則などは色々と無視されている。

 時間を止める魔法など聞いた事が無いのでガゼフは頭に疑問をたくさん浮かべた。

「いかに『真なる死(トゥルーデス)』でも射程距離がありますからね。万能な魔法ならばそれだけで全てを即死させて終わりです」

 ちょっと時間を止めて王様の下まで行って殺せば戦争は一人の犠牲で終了したかもしれない。

「『時間停止(タイム・ストップ)』に対抗する方法はあるけれど高い位階魔法だったりするので大変ですよね」

 魔力系では第六位階、信仰系では第八位階魔法に『魔法拒否の場(アンティマジック・フィールド)』というものがある。

 時間停止(タイム・ストップ)の魔法が発動している間は魔法拒否の場(アンティマジック・フィールド)によって守られた範囲に入ることは出来ない。

 この魔法が付与された武具でも装備していればガゼフも対応が出来ていただろう。

「……そんな魔法もあるのか……」

「ありますよ。相手は七百近い魔力系の魔法を持っています。同じアンデッドならまだしも。人間であるガゼフさんは色々と対抗アイテムを持っていないと無理ですよ」

「ううむ。聞けば聞くほど絶望的になってしまうな」

「信仰系を極めたアンデッドの仲間でも連れていれば良い戦いは出来るでしょう」

 当然、近くに都合の良い仲間は居ない。

 ガゼフはただただ唸るばかりだ。

「正直なところ、アインズとは戦わずに済ませたいところです」

 ガゼフが生き残ったのは即死耐性の装備品のおかげかもしれない。

 現場に居合わせたブレインとクライムも即死耐性を持っていたならば対抗しえた可能性は大いにありえるだろう。

 本人の意思の強さも加われば、抵抗した末の仮死状態化。

 当人も驚いているようだから生き残ったのは確かに奇跡かもしれない。

「実は生きていたガゼフさんは戦士長に戻られるのですか?」

「いや、このまま引退して後進の育成に励(はげ)もうかと考えている」

 運が良かっただけだ。

 死ななかったとはいえ敗北は敗北だ。

「命を無駄にしてしまったが王国の至宝は勘弁願いたいものだ」

「なんとなく分かりますが……。無理に欲しがったりはしませんよ。鑑定はさせてもらいたいですね。特に武器は」

「鑑定だけなら……、構わん」

 奪われることを覚悟していたのか、ガゼフは王国の至宝の一つ『剃刀の刃(レイザーエッジ)』をテーブルの上に置く。

 ヤントラは早速鑑定のスクロールを用いて調べる。そこに躊躇(ためら)いはなく、武器に対する驚きも無い。

 ただ、一つの武器を客観的に鑑定する顔だった。

 鑑定が終わると軽く素振りする。その動きはとてもなめらかで、とても素早く、武技を使わなければ追えないほどだった。

「どうも。伝説の武器などは持っていても仕方が無いようですね」

 ヤントラは武器をガゼフに返却する。

「特に私から言うことは無いのですが……。ゆっくり過ごしていてください」

「しばしお世話になる」

 多くは語らずヤントラはガゼフを開放する。

 先ほどの剣の扱いでガゼフが帰り際(ぎわ)に身体がバラバラになるようなことは無かった。

 しばらく姿を見せなかった夫と共にラキュースは食事を楽しんだりしていた。

 そこだけ見れば普通の夫婦にしか見えない。

 血生臭い裏があるとは誰も思わないだろう。

 それを指摘するような者は居ないのでガゼフ達はアインドラ家でしばし食事を楽しんだ。

 

 夜中になり、メンバーは自室に行き、ヤントラとラキュースは二人っきりの時間を過ごす。

 風呂に一緒に入るがやましい事はなく互いの身体を洗ったりするが、やはり夫の手際の方が上手かった。

 髪の毛もだいぶ伸びてきたので来月辺りはロールに挑戦しようかなとラキュースは思った。

 失われた時間が戻ってくる。

 平穏なひと時はすぐ破られる。それが当たり前だったのだが、今日は静かに過ごせそうだ。

 就寝も二人で眠ることが出来た。

 夫婦としては当たり前の幸せなのだろう。

 夜の営みの最中にクレマンティーヌやイビルアイが邪魔しに来る事は無く、本当に静かな夜を過ごすことが出来た。

 翌朝にはヤントラお手製の朝食を頂く。

「はて、何か忘れているような気が……」

「掃除なら二人でするって事かしら?」

「……ガゼフさんが生きている事が分かったらアインズがどう出てくるんだろうか」

「……実は生きていた、やっぱり王国を攻めるって事になるのかしら?」

 一騎打ちで敗北しているのだから今更戦争の結果に撤回などは求めはしないだろう。

 多少は何か文句でも言ってくるかもしれない。

「その時はその時か……。後で土地の活用法について教えてくれるか?」

「いいわよ。領地も確か戻ってきたのよね。多少は削られていると思うけれど」

 二人が真面目な話しをしている頃にガガーラン達が起きてきて食卓が賑やかになってくる。

 それから数日後にはナーベ達も戻ってきてメンバーが勢ぞろいする。

 彼女たちが戻るまでヤントラは一日おきに王都と建設現場を往復していた。

 ナーベは各都市の情報を集めながら与えられた部屋で黙々と報告書作りに励む。

 とても仕事熱心でのんびりと休暇を楽しむような事は無く、飲食店にも興味が無さそうだったと同行者達は語る。

「ところで、下等生物(ウジムシ)。ちょっと来い」

 ウジムシ、と言われたヤントラは苦笑してナーベに与えられた部屋に向かう。

 ヤントラを中に入れた後は部屋の中を確認する作業に入る。

「みんなと仲良く付き合っているようでなによりだ」

 そう言うとナーベは顔をしかめた。それから『兎の耳(ラビッツ・イヤー)』を発動する。

 下等生物と馴れ合う気など最初から無い、と主張しているような顔だった。

 それはそれで元気な証拠だと思えば微笑ましいことかもしれない。

「まず一つ。あの『防具(モモンの装備品)』はどうする気なんだ?」

 いきなりの質問だったので思わず苦笑した。

 命令を受けてきたのだろうが、いきなり過ぎるな、と思った。

「黒い鎧の事ならいずれ城に献上しようかと。あれはあれで優秀な武具だからな。潰すのはもったいない」

「ん……。では、次はあの鎧を着て悪さはしていないのか、と」

「みっともない姿を晒していないか、という質問ならしていないぞ。腹いせにやってもよかった気もするが……。君たちの為に自制したよ」

「……よし、それらは報告する。では、次は金貨三千枚をよこせば不問にしてやる、と」

「段々額が上がってきたな。貧乏貴族って言ったはずなんだがな」

 次は二万枚くらい要求されそうだ。

「帝国側のいくつかの鉱山を購入するのだが、王国よりも割高で困っている、とおっしゃられた」

 何の鉱山かで値段も変わるのだろうが、自分も鉱山とか買った方がいいのだろうか。

 天然素材は確かにヤントラも欲しいのだが、入手方法が分からない。

 買ったところでミスリルも出てこないとなると結構な散財で終わってしまうだろう。

 ダンジョン作りには役立つかも、というのが脳裏を掠(かす)めていった。

「手当たり次第に天然資源を買い占められては困るな。出来れば帝国領内で大人しくしてほしいものだ」

 普通に手に入りそうな資源を根こそぎ奪い取られるのはヤントラとて見過ごせない事態だ。それが例え活用できなくても、なんかもったいない。

 だからといって、急いで土地を購入しても管理できる自身が無いわけだが。

 向こうはアンデッドで採掘作業を行(おこな)うのだろうけれど。

 潤沢(じゅんたく)な資源と活用する労働力に富(と)んでいるナザリックが羨(うらや)ましい。

「あんまりふざけた事ぬかすと鎧を着て手当たり次第に土下座しまくるからな」

「なっ!? それはやめろ!」

 ナーベはヤントラの胸倉を掴んだ。しかし、それはヤントラの腕力で引き剥がされる。

 戦士職のヤントラに魔法詠唱者(マジック・キャスター)のナーベでは力比べで勝てるはずが無い。

「建国作業で忙しいはずなのに鉱山を買うとは……、よく分からんな。金が欲しければ一日黙って斬られ続けろ、と言っておけ。装備アイテムを外して、目隠しもしてもらおうかな」

「……なんて恐れ多い事を……」

「ナーベは黙って報告すれば良い。……殴打武器で殴ったりはしないよ。人間の犠牲が多かったんだ。一日くらい好き放題に斬らせてくれてもいいだろう。ちゃんと回復もするけどな」

「ぐうぅ……」

 唸りはしたが、今の言葉をそのまま伝えれば下等生物にアインズが制裁を加えてくれるかもしれない。

 なので一言一句漏らさずに伝えた。

「確認するまでも無く、こちらの金貨なのだろうが……。急に倍の要求をするとは……。皇帝に頼めば貰えるんじゃないのか?」

 こちらから乗り込む手間が省けるなら結構な事だが。

 ナーベの武装もよくしてあげればいいのに、とヤントラは少し残念に思う。

 数分後に連絡が届いたようだが、ナーベは身体を震わせ始めた。

 ナーベが代わりに斬られろ、とでも言われたのだろうか。

「……一言一句伝える」

「………」

「上等だ。その要求を飲んでやろう。待機場所次第だがな。……以上だ」

 一言で言えば、ついにプライドも捨てたのかな、とヤントラは首を傾げた。

 支配者としては相手の要求を素直に呑(の)むなど考えられない事態だが、何か企んでいる可能性は大いにある。

 ヤントラとしては逆にこちらこそ上等だ、と思っている。もちろん、迎え撃つ覚悟はある。

 これこそが待ち望んでいた結果の一つかもしれない。

 アインズはもしかして、物凄く素直な性格なのではないだろうか、という事も脳裏を掠(かす)める。

 ゲーム時代はギルドマスターとして真面目だったし、ありえない事も無い。

 周りが変(色んな意味で)なだけなのかも。

「別に殺す気は無いからな。清々しい返答に応えてらねばならないだろう。アインズの自室に直接金貨を持っていく、と伝えろ。日時はそちらの都合で良いぞ」

 ナーベが連絡を取ると明日、来い。という短い返答が帰ってきた。

「……罠の匂いがぷんぷんするが……、行ってやろうじゃないか。というより、今から行かないと駄目ってことか……」

 王都からナザリックまで普通の旅なら数日はかかる。

「まずは金貨を数えなければ。ナーベは待機か?」

「……おそらくは」

 任務の変更などは無かったので継続なのだろう。

「連絡が来る辺り、ナーベは見捨てられたわけではないことは分かった。別命あるまで滞在してくれていいよ」

 どの道、待機命令は継続中なのだから王都内の調査などをするしかないだろう。

 単独で仕事の依頼を受けてはいけない、という命令も受けていたので帰還命令がとても待ち遠しかった。

 

 執務室に戻ったヤントラは金庫の一つを開けて金貨を机の上に並べる。

 結構な量になるので時間はかかる。

 それと同時に武器の選定と『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』の用意をしておく。

 予備がたくさんあるので問題は無いが、アルベドが出てくるのかが心配だった。

 シャルティアはまだしもアルベドはモモンガの事になればヤントラを殺しに来るか、強引な手法で階層を壊滅させてしまうおそれがある。

 アインズを表に出せば監視が複数、付いてくるだろう。

 どのような結果になるか分からないが、迎え撃つ覚悟はあるので問題は無い。

 生まれながらの異能(タレント)よりは運命そのものがヤントラを動かしているような感じだった。

 お互いプレイヤー同士。

 敵であり味方でもある。

「……何しに行くんだか……」

 即日に呼び出して制裁かと思われたが意外と日数が過ぎたのは想定外かも。

 モモンへの報奨金でも出たのかな。

 それはヤントラが関知するところではないから分からないが。

 モモンの鎧は今しばらくは手元に置いて様子を見よう。まだ凱旋などを祝う式典が始まっていないのだから。

 金貨三千枚は結構な量だが、王国の金貨が帝国に通用したっけ、という疑問が浮上する。

 ユグドラシル金貨よりは両替がしやすいかもしれないな。

 仮にアインズの身体にダメージを与える場合はそれなりの武器が必要だ。

 尚且つ上位物理無効化を突破しなければならない。というか、特殊技術(スキル)などは解除してもらわないとダメだろう。

 『処女の業(ヴァージンカルマ)』

 この武器はアインズの防御とて突破するだろう。何も装備していなければ、の話しになるかもしれないけれど。

 完全装備のアインズを倒すのは並大抵の事ではない。

 全身を神器級(ゴッズ)で埋めているような怪物だ。

 普通に考えれば戦士職で市販品の装備で戦うのは無謀以上に滑稽だろう。

 色んな思いが脳裏を出たり入ったりしながら金貨千枚ずつの皮袋を三つ用意できた。

 いざ、決戦の地。ナザリック地下大墳墓へ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 途中で階層守護者達が待ち構えていて邪魔される、などという事は無い。

 城塞都市エ・ランテルにまだ入れるのかな、と考えつつ移動するくらいヤントラは暢気だった。

 まさかあんな事態になろうとは、とか下らない言葉は良く浮かんだ。

 保管施設を一通り見回り、カルネ村は上空から眺めてエ・ランテルに向かう。

 強行軍ではあったが維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)のお陰か、飢餓状態は起きていない。

 もうすぐ魔導国、正式名称は『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』という長い名前の都市となるが街の様子は至って平穏で検問所も普通に通れた。

 薬師(バレアレ)はカルネ村に引っ越したらしく店は売家の文字が張られていた。

 他の店も各都市に移動を開始し、閉店が目立つ。

 名物のアンデッド生産工場こと巨大な墓地には行かなかった。

 骸骨(スケルトン)とか夢中になって倒して時間を忘れそうだから。

 戦争が終わった後のエ・ランテルはモンスターの破壊活動は認められず、多少の帝国兵の姿があるくらいだ。

 主(おも)に彼らは治安維持の為に派遣されているだけで王国の兵士に危害は加えていないし、尊大な態度も見せていない。見えていないだけかもしれないけれど。

 敗走した十万人規模の兵士の姿は殆ど無く、今は疲弊した市民が新たに建国される魔導国に戦々恐々としていた。

 冒険者モモンの姿は無く、今はどこで何をしているのか街の噂の一つになっていた。

 毛玉ことハムスケの姿が見当たらない事に気付いた。

 ナーベを置いてどこに居るんだろうか。

 宿にずっと待機しているわけではあるまい、とヤントラは心配になってきた。

 一通り街を散策したがハムスケの姿は無かった。

 大きな身体をしているのだから見つけやすいはずだが、エ・ランテルには居ないのかもしれない。

 とりあえずは宿屋で一泊する事にした。

 市民のために開放されているのか、営業は許されているようだ。

 泊まり慣れた宿という印象があり、眠ることは容易かった。

 アバターのお陰か、恐怖心というものがあまりない。

 すぐにでもアインズと戦える気がする。

 戦争時に見た虐殺も見慣れた光景のように身体が震えるような恐怖は感じなかった。

 ただ、殺しすぎる、と思っただけだ。

 元の身体ではないんだし、世界を楽しまなければもったいない。

 転移するならちゃんとした性別に決めておけば良かったのだが、今更後悔しても仕方が無い。

 本来のジェンダーフリーはこんな変な身体(適当に設定したもの)ではないのだが。

 

 翌朝、ナザリック地下大墳墓へ真っ直ぐに向かった。

 行きなれた所とはいえ、期間をあけていると普段の見慣れた場所とは思えなくなる。

 ログハウスの裏手は色々と開拓されていて、小さな農場と化していた。

 既に王国からは独立したようなものだから文句は言わないが、国としてどう造っていくのかは興味がある。

 大きな城でも作るのだろうか。

 早朝だから、ではないだろうが周りはとても静かだった。

 確定はしていないが帝国領内を意識して迷彩柄の装備でログハウスに近づく。

 不法入国についてはどうなるのか気にしつつ入室する。

 特に変わった事も無く数分後にセバス・チャンが姿見せる。

「不法入国に当たる気がするのだが、その辺りはどうなっている?」

「建国式典までは王国領の扱いでございます。確かに検問所などについてはまだ検討段階ですので、ご面倒をおかけいたします」

「法外な入国料は勘弁してほしいが……。どんな街を造るのかは気になるな」

「これから色々と決まっていくのでは、と愚考いたします」

「あんまり現地のモンスターを根絶やしにしてほしくはないがな」

 長話をしていても仕方が無いので転移の指輪を受け取り、まず第十階層の巨大図書室(アッシュールバニパル)へ行き、基本的な外観(がいかん)を紙に描いていく。

 施設の参考として司書長ティトゥスにも意見を貰っておく。

 一部の素材はモンスターを倒せば手に入るものがあったのだが、こちらの世界では入手が困難だった。

 魔法付与の鉱石類。データクリスタル。その他の細かいアイテム類。

 アイテムの供給源はヤントラとしても手に入れておきたいところだった。

 ナザリックの貯蔵資源は膨大ではあるが供給元が無ければ減り続けてしまうだろう。

 モンスターをある程度確保する事も必要かもしれないな。

 施設が出来る前に素材候補ばかり溜まってしまうのが悩みだが。

 続いて第九階層に移動する。

 アインズの私室以外を一通り描く。

 メイド達は自分達の仕事に従事しているが彼女たちも建国後には何か仕事が増えたりするのだろうか。

 そういえばツアレの姿は見かけないが元気で過ごしているのだろうか。

 各施設はメンバーが造ったのでメイドに造り方を聞いても仕方が無いだろう。

 前回、恐がらせたメイドを見つけ出してお詫びも兼ねて供として連れて行くことにした。それからお風呂を一つ一つ観察していく。

 メイドには風呂掃除の仕方を教わって、男湯と女湯の確認を終えた後はメイドと別れる。

 それからいよいよ、ラスボスの元に行くことにした。

 ナザリックの支配者を倒すとNPCやシモベ達はどうなるのだろうか。

 創造主が置いていった者達は消えずに残っているけれど、これからも各階層に存在し続けるのだろうか。

 主無き階層を永遠に。

 資源が枯渇(こかつ)した時、完全に地獄と化すだろうな。それは前から思っていたことだが、先のことはやはり考えたくないものだ。

 この世界の資源は時間が経てば再生成される、とは思えない。

 余計な事は振り払おう。

 迷わずにアインズの自室の前まで来てしまった。

 支配者といえども苦手な相手のところには中々行きにくいものだ。

 軽くノックをし、数分後には返事が返ってくる。

 中はいくつかの部屋に分かれているのだが入った瞬間には探知阻害などが発動しているようだ。

 味方に対しても油断しない姿勢はある意味では誰も信用していないと見られてしまうかもしれない。

 人に見られて困るところは理解できなくもない。

 

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