ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
ボスの部屋ではあるが狭まったところに行くのは罠にかかりに行くようなものだ。
分かってて行くのはバスパ時代の名残だろうか。
執務室まで遠いな。何となくそう思ってしまう。
盗賊スキルはたぶん持っているんだろうが、使ったら最後、様々なトラップが発動して部屋の中が面白い事になるだろう。
自分の分かる範囲では罠は無さそうだ。
アインズの部屋には使用人が誰も居ないのか、静寂によるものなのかは分からないが静かだ。
孤独なアインズの心象風景のようだ。
そういえば『アインズ当番』なる
軽くノックする。
返事はすぐに返ってきた。無ければおかしいのだが。
扉を開けて中に入れば見慣れた骸骨の顔があった。
やはりというべきか、一人だ。
秘書の一人でも居れば社長室とも言えなくはないだろう。
派手なものは好まない性格だが、部下は装飾華美にしたがるようだ。
「……いつ見ても元気かどうか分からない顔をしているな」
ナザリック地下大墳墓の支配者アインズ。
「……文句はたくさんあるのだが……、一つ聞こうか……」
重々しくアインズが言ったのでヤントラは愛用の椅子を出して座った。
「戦争に介入した手法だが……、俺の偽者を用意するとはな」
「王国の英雄『漆黒』のモモンのことか……」
アインズは唸った。
「あの場にはおまえ自身が関わると思っていたのだがな」
「行ったさ。……どうしてと言われると実は……、自分でも分からん」
「?」
「この世界に来て私はこのアバターの設定に突き動かされるように行動している。それはアインズも同じではないか? 人間を殺しても別に何も感じないとか」
この言葉にアインズは身に覚えのあったので頷いた。
「お前にとっては取っておきの魔法の効果の邪魔をされたと思うのだろうが……。私のアバターは虐殺行為には否定派らしい。カルネ村もおそらくはな」
「お前の意思ではないと言いたいのか?」
「お前に関わりたくないのが本音だ。好き好んで自作自演などするものか。アインズ・ウール・ゴウンの名前はお前が有名にすれば良い。こちらはモモンをちょっと借りただけだ。ちゃんとフォローも用意したはずだが……」
そのフォローが冒険者ギルドでサインした書類であり、王の褒美なのだろう。
「ナーベを連れて行くとは思わなかったぞ」
「モモンの相棒にナーベが居なければ偽者としてモモンの名声が危うくなるだけだぞ。もちろん、ナーベには説明した上でついてきてもらった。裏切り行為にならない範囲の行動しかさせていなかったのだがな」
側に居ただけで裏切りと判断するのは確かに早計だろう。だが、当時はそう思えなかった。
今となってはやりすぎた事を少しは後悔しているアインズだった。
建国の手続きなどで仕事を与えてやれないこともあり、仕方なく蒼の薔薇の元に送っていた。
「モモンの格好でみっともない姿を晒すのも悪くない案だが、そこまで私はお前を嫌ってはいないぞ。文句は直接本人の前で言うし」
アインズは少し怒りを感じた。しかし、
シャルティアのことを除けば名声で邪魔される事も無かった。
「他にもモモンの姿で何かしていないだろうな?」
「お前の為に働きたくないな。そもそもアインズ・ウール・ゴウンを尊敬する私にとっては近隣諸国とは仲良くしてほしい。国を作ることには否定しないが世界を取るのは私にとってはつまらない事だ」
「世界征服することがか? 何故だ」
「大抵の支配者は自分より知恵がつくものを恐れるものだ。頭の悪い世の中にされるのは迷惑だ」
それはつまり
「征服した後、お前は世界をどうするんだ? どうせ何も考えていないと思うが」
「もちろん考えているさ!」
それはウソだ。だが、ヤントラにはウソでも色々と考えているところを見せなければならない。
自分にとっての敵でもあるのだから。
「平穏な世界より混沌とした方がいいのだが……。ここ最近はモンスターの姿を見ていない。お前たちが
「遠くに行けば居るんじゃないか」
「いずれ行くが……、邪魔されそうだな。聖王国。竜王国。アーグランド評議国。既に魔の手が伸びてそうだが……」
確実に聖王国の周辺は標的であったのでアインズは唸った。
世界を取るのだからどこへ
そうすればヤントラと何処かで戦う事態になってもおかしくはない。
階層守護者を出さなければシモベ風情で止められるとは思えない。
「戦争に関して仕返しなどは……、ちょっとだけ考えている。冷やかし程度だが。それでエ・ランテルは破壊するのか? 住人の未来も考えてやれよ」
「考えている。エ・ランテルは今までどおりの生活を保障しようと思っている。それは凱旋セレモニーの後で詰めていく」
「魔導国民なのか? 帝国民なのか?」
「魔導国の預かりになるだろう」
「いいなあ、豊富な人材が居るから国造りも楽だろう。ナザリック周辺もどう開拓されるのか楽しみだ」
アインズ・ウール・ゴウン魔導国として周辺の開拓は確かに
地下都市にすることは転移の問題で出来ないので、色々と解決しなければならない問題が山積している。
「それで……次だが……、ナーベラルはどうしている?」
「次の命令を心待ちにしている。真蒼の薔薇の面々が各都市に連れて行って情報収集の手伝いをしているようだ。今は王国領内だが」
「ふむ」
「帝国の方はお前が連れて行けよ。一人でぽつんとしている姿が痛々しい」
「も、もうすぐ連れて行く。仕事はしているのだな」
待機命令したまま忘れていたなどとはいえない。
下手をすれば宿でずっと待機している事もありえただろう。
「モモンの姿で知らない人と面識には……、なってないはずだ。王様の顔は見たが……。後は知らんな」
「そうか」
「うちのイビルアイがモモンにご
「んっ? ……そういえば、そのイビルアイがお前の『所有物』と言っていたが?」
「要らない命ならば貰う、と言ったまでだ。もちろん、ナーベラルも見捨てるなら貰うぞ、と。すっかり変態キャラとなってしまったがな」
羞恥心が無いのか、とアインズは呆れた。
「それにしてもお前の予言めいた忠告を聞かされているようだが、……驚いたぞ」
「それは私もだがな。今から考えれば何故、お前を危険視したのか……。アバターに良いように操られているのかもしれないな」
「色々と情報漏洩しているようだし、いよいよ、お前がスパイではないかと思えてきたぞ」
スパイの事は後でアルベドから説明は受けた。
自分の知らない情報もあって大変驚いたものだ。
「後々に引き伸ばすより最初に説明した方がショックは
「はっ? 人々の希望が私だと知れば英雄像は
「……ならその顔でモモンと名乗って活動しろよ。隠さずに。お前のアバターではその辺りが分からないようになっているようだな」
「ん……」
「王国側は少しずつだがモンスターというか一部の友好的な異形には抵抗が出来始めている。レエブン侯がまさにそうだ。だがまだ多くの人々はお前の顔を見たら驚くぞ。悪い意味で」
異形種であるから人間に恐れを抱かせるのは、なんとなくアインズにも理解できる。
「今ならエンリ達だって素顔を見せれば良い付き合いが出来るんじゃないか」
そもそもエンリが怯えたから仮面を被るようになった。
今となっては隠す事はやめた方がいいのかもしれない。そう思うのだが、エンリの怯えた顔が脳裏に残っていて踏み出せない。
「今更モモンの正体を王国で披露する必要は無いだろう。あれはもう別個の存在として割り切れば良い。帝国側がお前の拠り所なら、それでいいじゃないか」
確かにそうなんだろう。
帝国騎士達に素顔は見せた。今更隠す事はない。
王国ではモモンは幻術で作った素顔で生活しなければならないだろうし、ナーベラルはナーベとして活動しなければならないかもしれない。
それはそれでナーベラルに不自由な思いをさせることになる。
「……しかし、声でバレるとか思わなかったのか?」
「別個の個人が動いているんだ。似た声で済むさ。片方が無口なら魔法による遠隔操作、影武者を疑われるかもしれないぞ。あと、私だとバレても問題は無い。顔は変えていないから」
「そういう問題で済むのか」
済むんだろう、きっと。
こちらは幻術で作った顔を王都で披露している。
顔が違っていれば不利になるのはヤントラの方だ。
ナーベは騙された、で済むし。
「それで、モモンは廃業か?」
「利用価値はまだあるだろう」
勇者と魔王を兼任する事にヤントラは呆れつつため息をつく。
このまま二重生活して世界を取るのは精神的に不健康極まりないだろう。
人々の支持は捨てきれない、とでもいうのか。アインズの貧乏性なのだろうか。
「早くモモンとして仕事に従事しないとナーベが可哀相だ」
「う、うむ。それは早急に対処する」
軽く咳き込む仕草をし、アインズは本題に移ろうかと思った。
イビルアイについてはもう少し聞いた方がいいだろうかと迷った。
「……お前は蒼の薔薇のメンバーとどういう暮らしをしているんだ?」
話しぶりからするとハーレム要素満載にしか聞こえなかった。
「普通に暮らしている。エロいプレーとか言っていたが……、このアバターは冷めやすい性質があるようだ。性欲はあるのだが……、今は女性達とお風呂に入ったところで別段、やましいことはなにもないぞ」
アインズは女性達と風呂に入るヤントラが羨ましいと思った。しかし、自分もアルベド達と入れば済むのだが、どうにも決意が揺らぐ。あと、あいつらと一緒だと恐い、というのもあった。
「その姿で恥ずかしいとか言っている辺りはもったいないな。支配者のクセに」
「大きなお世話だ!」
ダンと机を叩くが丈夫な材質なのか、ビクともしなかった。あと、すぐに精神が安定化される。
「現地の人間と結婚するのは良いのか、悪いのか……。そういうことは考えずに、私はやりたいようにやっているだけだ」
「そうか。そうだよな……」
「人は殺せても結婚は苦手とか……。そっちの方が不思議だ。真蒼の薔薇はもともと女性チームだから急に男を入れるのは難しいってだけだ。私は男性とも風呂に入れるぞ」
結婚か、とアインズは自らの身体を見下ろして
色んなものを手に入れるアインズとて他人の妻を奪おうとは思っていない。
結婚は自由だとさえ思っている。
いずれは自分も誰かと結婚するのかもしれないが、今はそういう気持ちは
「では、そろそろ本題と行こうか。……お前はこのナザリックで何をしようとしている?」
「別に何も」
「様々な注文をしてナザリックの収入がグンと増えているのだが……」
すごんで見せてもヤントラには通用していないのか、表情に変化が無い。
「無理が無いように注文しているさ。こちらは資源が無いからな。ナザリックはその点で便利なところだ」
「それだけか?」
「このナザリックを害しようとは思っていないさ」
「なにやら拷問じみた事をしているようだが?」
目隠しされたりしていて詳しい内容は誰も知らないという。
シャルティアも刑罰を受けたらしいが身体に傷は残っていないと報告を受けている。
「睡眠が効かない相手は仕方が無い。ちゃんと回復させているよ」
「精神支配のアイテムを持っているのか?」
「シャルティアの話しは聞いた。
この指摘にアインズは少しだけ記憶を探り、ヤントラが喉を切り裂いたところを思い出す。
通じているから対抗策が発動した。つまりアイテムは所持していないことになる。
仮に対抗アイテムを所持していた場合は喉を切り裂くような物騒な効果は発揮されない。当たり前だが、所有者を害するアイテムが対抗アイテムというのは非常識極まる。呪いのアイテムならまだ理解出来るが。
「目的というものは無い。何も考えていないからな。ギルド保有の
ヤントラは人間種なので宝物庫には入れない。
毒無効化を装備すれば良いのだが、宝を狙うような人間ではないかもしれない。だが、アインズは素直に信じきることが出来ない。
人を疑う性分だからなのかもしれない。
拷問じみた攻撃を受けたらしいが知りうる限りは誰も死んでいないし、怪我もしていない。魔法で治したんだろうが、意外と証拠隠滅がうまいことに驚いた。
紛失した重要アイテムが無いか確認したが、それは一つたりとも無いようだ。
拷問器具を注文していたのは少し驚いたが。
どんな目的があるのか尋ねても何も考えていないから答えられないのかもしれない。
目的の無い相手もアインズは少し苦手だった。
「……盗賊スキルを持っているよな?」
「使った事ないよ。やれって言われても……、練習した事ない……」
無難なアイテムを集めつつ貯蔵する毎日で手一杯で盗んでいる暇の方がむしろ無かったと言えるかもしれない。
モンスターのドロップでも持ち帰れれば御の字だ。
そもそもPK戦に使う暇があるわけがないだろう。
「あれ? そうなの?」
「
無計画なプレーばかりしていた気がする、とヤントラは過去の自分の姿を思い浮かべた。
盗むよりアイテムを下さい、と頼むほうが多い。
「人がのんびり冒険しようとしている間に色んなところを占領し、資源まで独占しようとしてるだろ? ささやかな抵抗くらい大目に見てほしいものだ」
全体としてはアインズの方が圧倒的な資源と人材に溢れている。その点で言えばヤントラは小粒の抵抗に過ぎないだろう。
「私の想像する世界征服が悪いイメージかもしれないが、狩り場は残してほしい。鉱山とか。あとはなんだ……。住民全てをアンデッド化とかせず、市民生活はあまり変えてほしくないな。奴隷のように働け~、とか頭の悪そうな支配体制は勘弁してくれよ」
アンデッドを労働力として活用する社会は夢想していた。
世界征服した後の市民生活まで考えてはいないが、それなりに統治しなければならないことは分かっている。
それらはデミウルゴス辺りに任せようかと思っているのだが、きっと良くないことが起きるんだろうな。
王都の時でもかなりの人間をさらってしまったし。
返すに返せない。
第六階層に村を作って様子見をさせようと今は完成を待っているところだ。
「それは……、頭の片隅に置いておこう。だが、お前はいずれナザリックに攻め込む気がしてならない」
「お前を倒すだけで良いから、ナザリックを攻める理由は私には無いよ」
一度は安定した怒りが
「ナザリックは利用するには大変素晴らしい施設だ。攻撃なんてもったいない。メイド達は可愛いし。上の階層はとっても恐いけれど」
「プレイヤーとしてダンジョン攻略には興味が無いのか?」
「最下層に来て、色々と見たから別に攻略しなくてもいいのでは? この世界のダンジョンがどこにあるかは調べてないから分からないが、そっちは行きたいな。まだトブの大森林を調査してないから興味あるけど。ああ、そこに
「ほ、ほう……。
「養殖で食料を確保しようとする
養殖という言葉で更に汗が流れるアインズ。
「聖王国の大森林にもいつか行きたいと思っている。だからナザリックは特に攻略対象には入ってないよ。宝物庫の外観だけイラストでいいから欲しいくらいだ」
「宝物庫? お前、知っていたのか?」
「タブラから聞いていたから存在だけはな」
「……そこに行きたいか?」
「毒が充満してるんだろ? すぐ即死するから送り込めないと言われた」
ヤントラが宝物庫に入ればすぐ死ぬ。対策無しでは確実だろう。
タブラ・スマラグディナから聞いているのなら知っていてもおかしくはない。彼の作る罠にヤントラはよく実験台にされていたから。
確か毎回のようにヤントラから八つ裂きにされていた気もする。
「イラストでいいのか?」
「今、作っている保管庫の参考にな。自分で色々とデザインを考えるのは苦手だから。色々と参考にしたい。広大な土地があっても一人で管理できる自信がないと気付いたし」
「……無欲な奴だな。煩悩まみれなのに」
「しっかりとした保管設備のあるナザリックが羨ましいよ」
「イラストくらいなら後で用意させてやる」
正直に話しているようだし、とアインズは気になっていた疑問に殆ど答えるヤントラに多少の礼は必要だと判断した。
秘宝さえ無事であればいいのだから。
被害者の多くは治癒されていて問題視していない。
問題ではあるのだが殺害には至っていないところが
「聞きたいことは以上だ。金貨の方は持ってきてくれたのか?」
「その前にナーベラルを慰めてくれよ」
「もちろんだ」
「……金貨と引き換えにお前を切り刻む
それだけで怒りが
何がムカつくかと言えば普通に言っているところがだ。
隠さないところはある意味すごいのだが、確実に自分の敵だなと改めて思った。
上等だ、とか言った気がするな。と、アインズは少しだけ後悔した。
「私を叩き斬る、と聞こえたが……。並みの方法では無理だろう」
今は
「もちろん装備は外してもらうさ。指輪は引き出しにでも入れておけばいい。無防備な相手には私は負けない」
その言葉の後に精神が安定化される。
怒りが沸騰すると身体全体に怒りエフェクトが走る。
「……本当に良い度胸をしているな」
と言った後でヤントラの頭を粉々にした件を思い出した。
素直にやられてくれた、という報告があるくらいだ。これくらいの度胸はあるのだろう。
「アンデッドだから目隠ししておけば気がつかないうちに終わっているかもしれないし。裸を見せられないというならタオルの用意もあるぞ」
金と引き換えにするわけではないが、今のうちに対策の為の魔法でも使おうかな、と思った。
下手に防御魔法を使えば攻撃の意味が無くなるだろう。
「無抵抗で居てくれればいいのだが。お前を滅ぼせばナザリックはきっと大混乱だ。世界と共存する気なら敵対は……、出来る限りはしたくない」
「共存か……」
「仮に腕をぶった切ったとしてアルベドに渡したらどうなるかな?」
アインズは自分の腕をアルベドに渡した時の光景を想像してみた。
最初は喜ぶか、悲しむだろうが、新しい部位を要求されて最終的には想像を絶する使い方をするかもしれない。
獲物に群がる野獣のようなアルベドの顔が浮かんだ。
「……おおぅ」
アンデッドなのに寒気を感じる。
「そ、それは駄目だ。絶対にっ、駄目だ!」
怒鳴りはしたが精神は安定化されなかった。ギリギリのところで怒りは沸騰しなかったようだ。
「了解した」
ヤントラは持って来た箱を二つ逆さまにして台の代わりとした。それらの上にシーツを乗せてバスタオルのようなものを置く。
「ちょっとした人体切断マジックだ。ここに横たわって目隠ししたまま休んでいればすぐだぞ」
「用意がいいな」
あまりのことに怒りが一気に加工していく。
落差の激しい感情に自分でも驚く。
「箱は返そうと思って持ってきていただけだ。残りもいずれ返すよ」
やはり上等だ、と言った手前、やっぱやめますとは言いにくくなった。
アインズに背中を向けて椅子に座るヤントラ。
彼の背中をしばらく眺めたが諦めたようにため息らしきものを吐く。
警戒心が無いというか、自分だったら慎重に対応しているところだ。
身代わりを立てても無駄だろう。というよりはこの部屋には基本的に誰も入れたくなかった。
ヤントラを入れているのは何かあればすぐ殺すためだ。
では、今がそのチャンスではないかと思うのだが、正直な相手はさすがに殺すのに抵抗がある。
ナザリックの収入に貢献しているようだし。というか全部奪えばいいのではないだろうか、とは思うのだが。
居ないと寂しい気もする。
同じプレイヤーであるし、ナザリック地下大墳墓に理解ある存在だ。
戦闘メイドになにかあっても困るが、ヤントラのお陰か彼女たちは人間と触れ合えている。
口封じをする事はあるが情報共有は大事だと思っている。
そこでルプスレギナから報告が上がっていない事を思い出した。
「カルネ村に
「今日は見てないな」
アウラがカルネ村に行った時は居たそうだが、全然報告に来ないのは何故だ。
それからヤントラに聞いても仕方が無い事だということに気付いた。
指輪類は引き出しに仕舞い、装備を外す。
腰の部分だけバスタオルを巻いた。
骨だから見られたところで恥ずかしいとか関係がない気もする。
それから『
他の部下には見せられない全裸のアインズ。
肋骨の下には赤い球がはまっているが、これはそのままにしておいた。
寝心地は悪いが重みで箱が潰れなかったのは自分の身が軽い証拠だろう。
「乗ってやったぞ。骨を一本ずつ取る気か?」
振り向いたヤントラはアインズの姿に軽く感心した。
見事な白骨死体だ。
死体安置所のように見えて笑いそうになった。
素直なアインズが今はとても『可愛く』見えた。
本来の
それがアバターの影響を受けて印象を悪くする結果となっているのが、とても残念に思った。
自分の事ばかり考えていたが、モモンガが困っていれば先輩として助けてあげなければならないだろう。
ヤントラのタレントはアインズを
「お客さん、身体がこりまくってますな~」
軽く見渡した後、装備品を確かめる。
やはり胸の球ははまったままだったが後は装備の無い状態なのは確認できた。
このままでもアインズを倒せるかもしれない。
いや、そんな考えよりは
哀れだと思ったのか、愛おしいと思ったのか。
そんなことを思いつつ、新たにタオルを出して目隠しする。
「んっ?」
それから両手を枕代わりするようにした。
もう一つタオルを出して肋骨部分に乗せた。
下半身は僅かに移動させる。
「後はお客さんはしばらくお休みください。それと、金貨を忘れたというオチは無いから」
言った後で皮袋を取り出し、中身を確認する。
金貨の入った皮袋三つを床に置いた。それとは別のいくつかのアイテムを並べる。
「それと忘れないうちに宝物庫のイラストは大体の外観が分かればいいよ。では、解体を開始んす」
スクロールで筋力などを上げていく。
狙うは背骨。
スカッ。
「!?」
アンデッドであるアインズでも驚く。
「変に動くなよ。手元が狂うと困るから」
『死者の安らぎ』というメイスにより回復が始まる。
最初の作業を終えた後、色々と重さなどを確かめる。
次の作業に移り、滅びるかどうかを確かめる。
「後は単純作業だ。楽にしていればいい」
「むうぅ」
「意味のある行動かは自分でも分からないさ。指圧マッサージだと思えば楽だろう」
指圧どころではない。
本当に人体切断のマジックじゃねーか、いやマジックじゃねーし。いや、魔法は使っているけどさ、と文句を言いそうになった。だが、すぐに回復される身体に気付く。
これが傷跡の残らない方法の正体なのだろう。
魔力系の自分には考え付かない方法だが、侵入者に対して
それから手際の良い作業が続けられる内に気にならなくなってきた。
本当に指圧マッサージを受けているかのごとく。身体が軽くなっていく。いや、本当に軽くされているのだが。
殴打武器で粉々にされたり身体を切り刻まれるとばかり思っていたのだが、変な気持ちだ。
アンデッドにとっての癒しを受けているからだろうか。
「どうですか、お客さん。すっかり大人しくなりましたが」
「……む~」
痛みを感じにくい理由はすぐさま回復されているからだろう。
最小限の攻撃。余計な場所を傷つけない、などの理由もあるだろう。
「MPの限界までやらせていただきますよ。……私のMPはそれほど多くないですけどね」
苦笑しつつも作業は続く。
四十五回目で小休止。
静かな時が流れていく。
アインズはヤントラのことなど忘れてこれからのことを思い浮かべた。
国がもうすぐ出来る。エ・ランテルも手に入る予定だ。
これから次の手を考えなければならないだろう。
帝国側の思惑を利用して。
少しの間、アインズにとっては僅かな思案の合間にスカッスカッと小さな音が聞こえてきたが気にならなかった。
作業が終わったのは三時間くらい経ってからではないかと思われる。
MPの限界まで費やしたのか、数時間の休憩が必要な状態に陥っていた。
ヤントラは床に散らばっているかもしれないアインズの骨のカスも集めておいた。
「好き放題斬ろうにもMPが少ないから休憩が長く必要だな。それともこのまま数時間寝ているか?」
「そこまで待てるか」
と言いつつもかなりの時間が経過していたらしい事に驚く。
「仕方ないな」
ヤントラはアインズの目隠しを解いた。
その後は装備を身に付けさせた。
アインズは一応は身体に異常が無いか確認したが見事になんとも無かった。
気のせいか、身体が少し軽くなったような、というか、疲れが取れたような気さえするほどだ。
「違和感あるなら『
装備品の欠品は無い。当たり前だが調べた限りは異常は無かった。
攻撃と回復を交互にされていたとはいえ、変な気分だった。
「ふん。では、金貨を」
用意していた皮袋を机の上に置く。
アインズが金貨を確かめている間にタオルや箱をしまう。
片づけが終わった後は椅子に座って目を瞑る。
MPを限界近くまで使うと疲労感が凄まじい。すぐに眠っておかなければならないくらいだ。
数十分後には疲労感はだいぶ和らぐが今日は泊まっていこうかなと思う。
そんなことを思っているとアインズは金貨を数え終わったようだ。
「うむ。確かに確認した」
「無収入の貴族にはとんだ大出費だ」
アインズに一泊する事を伝えるとその間にイラストを描かせておく、と約束してきた。
用が済んだ後はさっさと出て行け、という態度で追い払われた。