※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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G-5 保管庫の名は『マグヌム・オプス』

 食堂に行き、食事を済ませてメイドの一人に部屋を借りようかと思ったが布団類の予備だけ借りる事にした。ついでに風呂に入る事にした。

 お礼を兼ねてメイドの身体を丁寧に洗ってあげる。

 背中などは一人で洗うのが大変な部分ではあるが人造人間(ホムンクルス)だからか、NPCだからかは分からないがとても綺麗だった。

 仕事が残っていると言うのでメイドは先に上がらせた。

 休んでいるとMPがどんどん回復するようだ。

 MPの量は『魔力の精髄(マナ・エッセンス)』で調べる事が出来る。

 HPは『生命の精髄(ライフ・エッセンス)』という。

 それよりもよく考えたら女湯しか入ってなかったな。

 男湯の方に向かうが誰も居ないかのごとく静かだった。

 使用頻度はやはり女性の方が多いのだろう、きっと。

 ギルドメンバーはよく利用していただろう。ほぼ男所帯だったし。

 一人では寂しいので早めに上がる事にした。

 別のメイドに第六階層に箱を二十個と送り届けるシモベを待機させるように頼んだ。

「箱は返却した方がいいか?」

「必要な数だけ生産されますから返却の必要はございません」

「それはありがたい。必要な数だけ良いなら増やしたくなるな」

 更に五十箱を追加してみた。現地に送ってもらうときは時間がかかってもいい事を伝えておく。

 新たな送り先を地図で示し、先ほど借りる事にしたメイドの部屋に向かう。

 布団一式の予備を受け取り、シズを連れて食堂へ行く。

 エネルギーを補給する飲料を多めに受け取らせた。

 それから第六階層に向かい金庫を開けさせる。運び役のシモベが箱を置いてはどこかへ行く作業が続けられていた。

 まずはアインズから回収したものを箱詰めする。これだけで七箱近くになった。これらはすぐに送ってもらった。送り終わったシモベ達に待機を命じておく。

 シズの命令は継続中となっているのでここからは長期戦だ。

 間に準備運動したり、宝物庫のイラストを回収したりする。

 睡眠を交えて作業すること丸三日。三時間ごとの休憩。

 MP量が少ないので回復も早い。それでも時間はかかる。

 一日ごとに再起動させてエネルギー補給させる。その度に着替えさせたり、金庫内が揮発性の気体で満たされないようにしたりする。

 全ての箱が満杯になった後、金貨一万枚をシズに渡す。

 また必要になるかもしれないので命令は継続にしておこうと思った。

 途中で帰らないと箱を開けられるかもしれないし、少し不安でもあるから。

 

 たかが三日、それでも積み上げられた箱は圧巻だろう。

 調子に乗った結果は凄まじいものだと実感する。

 全く誰がこんな嫌がらせをするのだろうか。そんな気さえする。

 それが夜な夜なまだ運ばれるのだから驚きだ。

 全ての箱が届けられたのは同じくらいの日にちが経った頃だろう。

 中身は全て仮設の施設の中には入らないだろう。

 王都に置いてある荷物などは全て仮設の施設に移動させる。

 問題はナーベだが、王都にモモンが顔を見せに来るようになり共に仕事に向かうが宿代を浮かせるためと言う事でナーベだけ『蒼薔薇の園』に置いていく。

 気がつけばハムスケまで着いてきた。

 さすがにタダで利用するのは悪いと思ったのか一日銅貨三枚を払う事にしたらしい。これは主に風呂の利用料に当てられる。

 三日に一度はモモンは顔を見せに来るようで王都のほかの都市の冒険者ギルドにも情報集めに行っているようだ。

 イビルアイはモモンに会えるだけで幸せを感じているようだが、ナーベとは仲良くなれそうにないらしい。

 資金調達も大事だがモンスター退治もモモンは楽しみにしているようだ。

 その間にヤントラはユリのチョーカーに似たものを作ってもらったり、鍛冶師達の暮らしぶりなどを聞いてたりしていた。

 お風呂を沸かすのに便利そうだから、とは言えなかったが。

 小さなナザリック『マグヌム・オプス』は着々と工事が進められていた。

 宝物庫は巨大な空間と化し、壁は敵の侵入というよりは様々な重みに耐えられるように設計される予定だが今は大穴が開いている。追加でもう一つの宝物庫を作ってもらうことにした。

 問題は天井部分なのだがヤントラも頭を悩ませる。

 ナザリックのように魔法的なものや仕様的な支えでもあれば気にしないのだろうが、今回は上に湖や溶岩を溜めたら間違いなく陥没するだろう。

 上位物理無効化の石でもあればびくともしないのだろうが、これはどうすればいいだろうか。

 破壊するだけなら自信はあるのだが、防りとなると強固な金属でも使えば良いのだろうか。

 『黒い仔山羊』の皮膚なら色々な攻撃には強そうだ。

 問題はあれを加工できるのかどうかだが。

 専門の拷問官の意見を聞くしかないか。

 天井は何本もの太い柱で支えたり、アーチ状にする案が出たがどれだけの重量に耐えられるだろうか。

 地上二階までぶち抜き構造にすべきだろうか。

 悩みは尽きない。なにせ自分なら物理的に突破できる自身があるから。

 こっそり穴でも空けられてはたまらない。

 一日かけて考えた挙句、宝物庫の上に保管庫を作ることにした。そうすれば地面を故意に狙われる事は無くなるだろう。

 仮設よりしっかりしたものを造ってもらうことにした。

 下からの支えは頑強にしなければならないが。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 今年最後の月。雪は少ないが降るようだ。

 極端な大雪にはならないが肌寒い季節でも職人達は働き続けた。

 寒さ対策もヤントラは用意していく。

 下風月(一年目の十二月)。十二月とも言える月。

 一年は三百六十日。十二の月と三十の日にち。

 最初に作られた『マグヌム・オプス』の地下部分は完成に近づき、宝物庫の一つもあと数日で完成するだろう。そして、もう一つの宝物庫は半分近くが掘り進められたところだった。

 同時進行で大きな仮設の保管庫が造られ、物凄い数の箱が山積みされていた。

 給金が払われ、食事と寝床付き。風呂も完備されている、というので多くの職人が集まっていた。

 王国に居るナーベはすっかり『蒼薔薇の園』を下宿扱いしているようだ。

 仕事がある時は銅貨十枚まで払うようになった。食事は不要だが風呂はしっかり入るようになった。

 モモンも真蒼の薔薇と打ち解けているナーベの姿を見て安心したのか、自分の拠点にするつもりでいるようだ。

 それはそれでヤントラは構わないのだが、この家はあげないぞ、とモモンには言っておいた。

 モモンに構っているわけには行かないので、全体的な建設計画を練っておかなければならないだろう。

 マグヌム・オプス以外に必要な施設。

 風呂。将来的に宿屋のような施設。食事処。食糧を生産する田畑も居るかもしれない。

 余計な建物を増やしているような気もするが、自分も工事をするので少しは経費を浮かせようと努力している。

 総工費だけで既に金貨五万枚は消費しているのではないだろうか。

 道具類や材料費が給金に加算されるし、彼らの食事や衣料品も上積みされる。

 大掛かりな工事に金貨一万枚は普通にかかる。一般住宅の建設とは違うのだから。

 数日後に宝物庫の一つは完成し、続いて職人達はその上の保管庫の製作に取り掛かった。

 彼らが働いている間にヤントラは宝物庫の中を一通り見回す。

 数本の太い柱で天井を支える。建設中の施設とはいくつかの通路によって往来が可能になっていた。

 とにかく広いし、天井が高い。その全てが宝を貯蔵する部屋となっている。

 地下は階層ごとにトイレと風呂、洗い場はしっかり完備している。

 風呂は数十人規模が入る事が出来る広さがあり、下水道の完備もしっかり整えられている。

 地上は少し広めの浴場となっている。

 夜間のうちに広い空間に全ての箱を並べておく。

 通路は大きく、かなり大きな箱も問題なく持ち出せる。内装については華美な装飾は必要ないので室内を照らす光りがあればいい。

 使うばかりの資金を増やすには商人が必要だろう。

 武器はナザリックの出現で売れそうにない気がするから素材製作が中心となるだろうな。

 食料もしっかり確保しておかなければ。

 水源も必要だしな。欲しいものはどんどん増えていく。

 王都にこれだけの規模の施設を作る余裕があるわけではないから仕方が無いが、ナザリック地下大墳墓はやはり相当すごいところなんだろう。

 牢獄の方は部屋数が多いのでまだ少し時間がかかるようだが、地下二階部分はほぼ完成していた。

 鉄格子を入れると思われていたが扉付きの小さな個室となっている。地下の宿泊施設には丁度良い造りになっていた。

 調度品はまだ置かれていないがベッドを各部屋に設置する予定だ。

 大きな部屋は拷問室。そんな様相の部屋もいくつかあり、職人達は自分たちが餌食になるのではと恐がっていた。

 地下一階部分は部位の展示室兼研究施設などにする予定だが、職人達は何も分からずに作らされている。

 とにかく全ての部屋は密閉されないように造ってもらった。空気の逃げ道がないと爆発とか火災とか起きたときは困るので。

 アンデッドなら毒を充満されても平気なのだろうが。ヤントラは人間であるし、変な罠は仕掛けたくなかった。

 全体的にマグヌム・オプスは格子状に施設が配置されることになりそうだ。なのでもう一つの宝物庫の製作も依頼しておこう。

 三つ目は宝物庫というよりは屠殺場になるだろう。

 四つの施設は他の施設と繋げてもらうことにする。

 地上部分の施設がどうにも決まらないが、これで巨大な正方形の施設となるだろう。

 造りが単純なのと職人の数が急に増えたお陰か、工期が短くなってきた。

 ヤントラ自身も工事に参加しているためでもあるだろう。

 ひと段落したあたりで自分が冒険者だということを思い出す。

 鉄プレートとして仕事をしたのは随分と昔のような気がした。

 そもそもパーティメンバーが居ない。ルリマリスとクレマンティーヌでは圧倒的な差がありそうだし、また辞めるというのももったいないだろう。

 初手から躓(つまづ)くのは珍しくはないが、一人で出来るところまで来たが随分と時間がかかるものだ。

 ナザリックが便利すぎたのも原因の一つだろう。

 自分が寝泊りする部屋が完成するまでまだ少し時間があるので、冒険者の仕事に行ってみることにした。

 

 鉄プレートは近場の警護が多く、モンスターの遭遇率が低くなった王国では貴族や商人の警護が多い。

 パーティプレイの苦手な自分はつくづく仲間を得ようとした理由を見失いがちだ。

 寂しいとか、役に立つとかは考えたことがない。

 憧れはあるけれど何となく良いように利用しているのが気になってしまう。

 ルリマリスに回復だけでもいいのか訪ねてみたが、役に立てるならそれでも構わないと言った。

 自分なら戦わせろ、と言っているところだ。

 わがままなところもあるようだ。

 まずはナザリックで指輪の追加。さすがに二千個は無茶すぎるだろうから五百個。

 拷問器具のいくつかと医療器具。シズの補給飲料を少し。それから箱一つに金貨を半分ほど入れておく。

 全部で箱一つ分。それを送ってもらった後は冒険者としての仕事を始める。

 とにかく建物が出来ない限りは本格的に始められないので。

 依頼を終えたらナザリックへと往復する作業が始まる。

 今度はメイド達全員に協力してもらうのだが、四往復は必要だろう。

 一往復の後に冒険者としての依頼。

 資産がどんどん減っている気がするが単価的には微々たるものだ。

 そして新年を迎える。

 上土月(二年目の一月)から少し日にちが過ぎた頃に新たな住まいが無事に完成した。しかし、他の施設はまだまだ建設中である。

 内装を早速改造する。

 マグヌム・オプスは全てアイテム保管庫にする予定ではあるが人も泊まれるように造ってある。

 二階は下界を一望するためと玉座の間、あとの空室は適当に武器でも保管しておこうと思っている。

 一階の方が居住空間としては優れているだろう。

 地下にもあるが風呂とトイレはかなり投資して整備してもらった。

 水源の確保も万全である。

 完成した施設をラキュースに見学してもらおうかと思ったが悪魔が居るのでイビルアイ達に見せる事にした。

 言葉も無く驚かれたが、呆れてもいるのだろう。

 クレマンティーヌはモンスターが居ない事に不満を示していたが。

「……ご主人の道楽は凄まじい事は分かった。この施設は今後はどうするんだ?」

「後世の者達に残せるものは残したいですね。見ての通り、まだ何も置いていないけれど小さなナザリックとなるかもしれない」

「想像できない」

 完成している部分を一通り見せた後、建設中の施設も見せた。

「地下は物騒な施設になるけれど、地上部分は農業とか宿泊施設にする予定だ。ただ、管理する人が居ない……」

 施設全体の管理はまだヤントラただ一人。

 それが最大の問題かもしれない。

 信用の置ける管理できそうな人間は誰もいないかもしれない。

「冒険者を引退する事になったら私が管理人になってもいいぞ」

 イビルアイの言葉にヤントラは素直に感謝した。

「私とクレマンとリリーの三人はこちら側。ティア達は王都を守ってくれれば完璧だな」

「鬼リーダーはどちら側になるの?」

「ラキュースは王都側で良いだろう」

 こちら側に来ると間違いなく体調を崩すだろうから。

「来るのは別に構わないけれどね。寝床、トイレ、風呂はしっかり整備してもらったから」

「おおっ!」

「信頼できる人を雇(やと)えない、というのが問題かな……」

 ナザリックのように人材にあふれているところとは違い、ヤントラただ一人。

 ラキュースは悪魔に対応できないし、イビルアイ達も倫理(りんり)に外れた施設は苦手としているだろう。ルリマリスは口が軽いし、クレマンティーヌは問題外だ。

 武闘派のクレマンティーヌに事務的な仕事は難しいだろう。

「……ところで箱の中、見たいですか?」

「見たい!」

 と、即答したのはクレマンティーヌだった。

 元気はつらつで笑顔の彼女は精神的に安心させるものがある。

「ルリマリスは……、この箱を開けて良いよ」

「えっ? い、いいんですか?」

「拷問器具が入っているけれど、新品だから。……あと、金貨も入っているよ」

 拷問器具は見たくないが金貨は少し見てみたいと思った。

 女性は光り物に弱いのだ。

 ルリマリスが開けた箱には確かに見慣れない道具と半分近くを埋める金貨が詰まっていた。

「おお、すげー」

「この金貨が旦那さんの資産なんだね」

 自分たちが知っている金貨では無い事は手にとって確認した。

 ゆがみが無く、どこの国の金貨なのか分からなかった。

 イビルアイも覗いて確かめた。

 黄金の輝きがまぶしい。

「この金貨は……、市場に流すのか?」

「いや。消費アイテムとして何かに使えないか、持って来ただけ。ナザリックでは通用する金貨だけどね。じゃあ、クレマンティーヌだけ、こっちにおいで」

「ほいほーい」

 箱の一つをいとも簡単に運ぶヤントラ。

 イビルアイ達から離れた後で蓋を開ける。

「ほ-! 死体?」

「死体ではないよ。あれらにも入っているわけだが、この施設の各部屋の存在理由はだいたい分かってくれたかな?」

 数百にも上る部屋は箱の中身のためにあるのだとクレマンティーヌは理解した。

 どこからこれだけの量を手に入れてきたのだろうかとクレマンティーヌは顔を引きつらせつつ冷や汗を流す。

 殺しを専門としてきた自分が震え始めている事に気づく。

「す、すごいねー。ご主人はすごい」

「ありがとう。……寒気でも感じているのか? 一般人は殆ど居ないから」

 ヤントラはクレマンティーヌの身体にバスタオルを巻いた。

 イビルアイはクレマンティーヌの様子からまともではないものが入っていたのだろうと思った。

 手足の詰め合わせなどがすぐに浮かんだ。

「別に気持ち悪くは無いだろう? 誘拐に手は出していないぞ。誘拐じみてはいるが……」

「誘拐じゃないの?」

「ショックが大きいから個人的に後で見せてやろう。君さえ良ければ、だけど」

「は、はは……。大抵の怖い体験はしてきたつもりんだけどねー。上には上が居るんだねー」

「アンデッドにしたり食料にしたりはしないよ。今はそこまで考えてはいないけれど……」

 口封じもしないだろう。

 正直に話しているのだ。

 クレマンティーヌは今更だが彼を恐がる事はあっても疑う事は何も無い。そんな彼のことがとても愛おしく思える。

 強くて優しく精神的にぶっ飛んでいる化け物。

 身も心も捧げられる存在が居るならばヤントラだけだろう。

「ご主人の鮮やかな手並みで……、優しくお願いします」

「もちろんだ。それは……、帰ってからだ」

 その後は施設内を案内して回った。

 建設中の場所には多くの職人達が働いていた。

 週に一度、給金を払うことにしているので皆真面目に働いていた。

「身体を休めることも大事なので休息は必ず取らせているし、食事も与えている」

「みんな健康的って感じがするよ」

「笑顔が絶えないっていうか。良い顔だ」

 ケガをした場合はヤントラが癒す。

 信仰系の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居るのだから即死級のケガでもしない限りは五体満足に働ける環境だろう。

「宝物庫。もう一つは……、人には見せられないような施設になりそうだ。最後は……、屠殺場(とさつじょう)かな……」

 物騒な単語にそれぞれ驚く。

「と、屠殺……」

「大量虐殺。……イビルアイ達が思い描く通りかは……、自信が無いが……」

「……う~む」

 素直に言っているのに驚くのは悪い気はするのだが、それはどうしても唸ってしまう事態だった。

「弱い冒険者を強くするには大量の標的を殺すほうが早い。……そうなのだが、それを実現する施設はなかなか造りにくい。イビルアイはどこぞの貧乏人を大量投入すると思っているのかもしれないが……」

 敗残兵達を投入するイメージは浮かんだ。

「それがあの箱の中身ってわけ?」

「あれは弱いから駄目だ。幾体か探してくるよ。クレマンティーヌはどんな相手でも構わないようだが……」

 ヤントラが苦笑するとクレマンティーヌはにっこりと微笑んだ。

「屠殺で強くなれるのか?」

「私は少なくともたくさんのモンスターを倒し続けた。数十億匹くらいは。強くなったり弱くなったりを繰り返したけれどね」

「……数十……億匹……」

 無限召喚で数を稼いでいる分もあるけれど、とヤントラは苦笑しつつ思った。

 数えた事は無いけれど十年近く、いや、実質では七年かもしれないけれどモンスターを倒し続けたのだから百億匹になっているかもしれないし、数十兆匹かもしれない。

 適当な数字で実際には数千万匹という結果かもしれないけれど。

「君達を強くする目的はあったんだけど、戦争の方が早く来てしまったからね。ルリマリスに稽古(けいこ)をつけることも出来なかった。ラキュースが悪魔系を苦手とするとは思わなかったし。色々とやる気をなくしたよ」

「旦那さんは私たちを強くしようと色々と頑張ってたの?」

「かっこいい冒険者は好きだよ。……これだけ言っても最後に殺すつもりだと思われてしまうから、あまり言いたくなかったけれど……」

 ガガーランとクレマンティーヌ以外はそう思っていたので唸ってしまった。

 心のそこから信じているわけではないし、やはり何処かでヤントラを恐れている部分はある。

 それでも彼は素直に教えてくれた。

「……一つ聞いて良いかな、君達に」

「な、何?」

「この国の人間は……、思い込みの激しい人達が多いのか?」

 この質問にそれぞれ首を傾げた。

「そ、そんなことはないと思うけれど」

「例えば、昔、魔法詠唱者(マジック・キャスター)にいやな目に遭わされたから憎んでいるとか。何をするにも怪しい、殺せ、みたいな公式が成り立っているように思えて仕方が無いんだ。こちらは最大限、聞かれた事は答えているのに信じられないと言われている気がしているのだが……」

 ヤントラの言葉を聞いて、納得する者や信じられないと思う者が様々だった。

 イビルアイもカルネ村やアインズに会う前は様々な想像をしていた。

 ラキュースに至ってはメンバーの中でも想像力のたくましい人間だと言えるだろう。

「……ご主人の言う通りかもしれない。なにぶん、見るのも聞くのも初めての事が多いから……」

「私は確かに眼球をくりぬくような人間だが、拷問が好きなわけじゃないぞ。あと、箱の中は事前に説明した者達だ。魔法でさらったりした者は一人も入っていない」

 クレマンティーヌは首を傾げた。

 箱の中の者はさらっていないとは何なんだろう、と疑問に感じた。

「えっ? でも、箱の中に……」

「不思議だろう? 例えばだ、クレマンティーヌ。胴体を真っ二つにしたらどうなるかな?」

 クレマンティーヌは自分のお腹が両断された場合を想像してみた。

 それからどうなるのか。

 ボコボコと再生していく肉体。

「……ウソっ!? マジでっ!? えっ! あれ全部がそうだっていうの!?」

 どれだけの数が詰まっているというのだろうか。

 いや、それよりも箱の中の者達はどうなっているのだろうか。

「いや、そんな話しは聞いたことが無い。出来るわけがない!」

 普段のにこやかな笑顔から驚愕に彩られた顔へと変わっていくクレマンティーヌ。

 胸にしても凄いと思った。

 いや、そうそう第六位階魔法など『あんな』ことに使う者など見たことが無いから知らないだけかもしれない。

 容易(たやす)く扱う者にとっては造作も無い事がありえるのかもしれない。

「き、記憶はどうなるの?」

「それは実験しないと分からないが、片方が死亡すると生きている方に記憶は優先されるだろう。私の場合はそうだった。記憶がある方が死ぬと転写されるかもしれないな。とはいえ、殺してみないと分からない事だから、あまりやりたくはないがな」

 クレマンティーヌは神をも愚弄(ぐろう)するにも程がある狂気の沙汰に自然と涙が出てきた。

 人をたくさん殺してきた自分が神を超越するような愚考(ぐこう)を平然と行(おこな)う存在を目にして恐怖しているのかもしれない。

 両手を合わせて何かの神に祈る自分の姿に驚くくらいだ。

「すごい! 凄いよ、ご主人! もう愛しちゃうよ!」

 ここまでクソったれな狂人とは思わなかった。

 最高に素晴らしい人間だとクレマンティーヌは心の底から歓喜した。

「ああー、屠殺場が出来上がるの、楽しみだなー」

 それはきっと好き放題に殺しが楽しめるんだろう。

 どれだけ殺しても良い施設。

 対するイビルアイも薄々は気付いた。

 自分の身体がどんな風に使われるのかを。

 ヤントラにとって生物は全て『物』でしかない。それはあの超ど級のモンスター『黒い仔山羊』やアインズ・ウール・ゴウンも一緒かもしれない。

 それでも人間を皆殺しにしたり、食料やアンデッドにするわけでもない。

 けれども、尊厳の敵ではあるのだろう。

 ラキュースの言う狂人の真の恐ろしさかもしれない。

「あの……、敗残兵も実験材料なのか?」

 言ったあとでイビルアイはしまったと思った。

「す、すまない。今のは言葉のあ(・)や(・)だ」

「あの兵士たちは材料だから助けようと思ったわけではありません。人助けは私の基本理念です。最初こそは敵は殺す、というつもりでしたが、あまりにも弱い人間が多いのと、モンスターの遭遇率が低いので、別の楽しみを模索していただけです」

「……悪趣味な楽しみだよ、旦那さん」

「弱くてごめんなさい」

 ヤントラはメンバーに近くに寄るように指示を飛ばす。ただ、ルリマリスは怯えるという理由でその場に留まるように言った。

「わ、私は口が軽いと思いますし、先ほどの話しだけでも身体が震えていますので」

「嫌な話しは聞かない方がいいだろう」

「すみません。お世話ばかりかけて」

 ルリマリスが深く頭を倒したところで探知妨害などをかけていく。

 それから箱の中について伝えられるだけ伝えた。

 一部は秘匿したが、それでもそれぞれかなり驚いていた。

 当たり前だが、数が想像を絶するほどだったのだから。

 

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