ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
問題の部屋にたどり着くが、イビルアイは身体が震えている自分に気がつく。ティア達を見ても同様に震えているのだから、この空間は相当にヤバイらしい。
「強いモンスターがたくさんいるから仕方ないよ。襲い掛かってこないから」
「うおぅ」
ヤントラが部屋を開ける。
そこは魔法の光りで室内が明るく照らされた普通の部屋だった。
ただ、普通ではないものがすぐに見えた。
ガラス容器に人が入っている。
「ああー、イビルアイだ」
「………」
目の当たりにして始めて恐怖する。
自分と同じ顔をした存在が目の前に居る。それは双子のように見慣れているようなものとは違う雰囲気がある。
イビルアイなのだろうが容器の中の彼女は全裸で眠ったままだった。
「記憶は転写されていないから呼びかけても無駄だよ。君と同じ存在であって違う」
人体の容器のほかに眼球が複数入った小さな容器もあった。
他には内蔵も思われるものが入ったおぞましいものも。
「うわっ!」
さすがに三人は目を覆った。
入っていてはいけないものがあるのだから。
「こういう部屋が他にもあるが……。部位の方は処分した方がいいかな?」
他人のなら別に文句は言わないが、自分の内臓が漂っているのはただただ気持ち悪い。
イビルアイは力なく床にへたり込んだ。
想像を超えた悪趣味だ。
採取する時、見ないようにしていた理由もよく理解できる。
ルリマリスやクレマンティーヌの分もあるのだろう。
部屋の規模から言っても結構な数になるかもしれない。
「で、でよう」
「そだね」
「同意」
三人を部屋から出した後に扉を閉めた。
「性格が転写されたら寂しくは無いかもしれないが、君たちのような反応が羨ましくなるよ」
「でも、大切に保管されていて良かったよ」
「良くない! なんか……、辛くて悲しくなった」
ティア達はイビルアイを撫でたりして慰めた。
覚悟を決めて来たのに挫折しそうだとイビルアイは後悔し始めていた。
「一人ひとり服を用意するのは大変なので多くは裸なんだ。服代も高くつくよ」
「服を着せて容器に入れるわけにはいかないよね」
保存液のような溶液に満たされていたように見えたので。
「次に行こう! もうここに居たくない」
「メイドさんが居るけれど気にしないように」
そのメイドも複製された存在だろうと三人はすぐに思い至った。
地下二階に下りると小さな部屋がたくさん並んでいた。
「床は全てタイル張りなんだね」
「……ああ、血とか洗うのに……」
不思議と納得できてしまった。
殆どが空室になっているので通り過ぎることにした。
まずは二の宝物庫をヤントラは見せることにした。
山となった金貨が四人を出迎える。
「うぉう!」
「綺麗!」
「すげー!」
感想はそれぞれ違うが以前見た中身と雰囲気がガラリと変わっていて驚いた。
箱に入っていた金貨がここまでの量になるとは驚きだ。
壁にも色々と輝くものが入っているようだ。
「箱の中身を全部出したら、こうなったの?」
「違うけどね。壁にあるのは鉱物素材の資源だよ。金貨と分けるためにね。この金貨は生産できるんだ。上にある特殊なアイテムで」
指し示された方向に三人は顔を向ける。
四角い箱のようなものがくくりつけられている。
「嫌な予感がするぞ、ご主人」
「あれに迂闊に触らないように。あらゆるものを金貨に査定しますからね。通称シュレッダーというゴミ捨て場のようなものです」
それはつまり人間も放り込めば金貨になるということだろう。
複製された人間を捨てるのには丁度良いアイテムだ。
「……えげつないアイテムだな……」
「金貨を流通させない理由でもあります。人間程度では数枚程度にしか変換できません。石ころも相当量入れないと金貨になりません」
人間を金貨に換えるアイテム。そんなものもあるとは驚きだった。
この山は人間を入れたにしては多すぎだろう、という疑問も沸く。
「複製とはいえ良い気分はしないぞ」
そう言ってみたが金貨を増やしても使い道がなければ意味が無い、ということに気付く。
「この金貨は何に使うんだ?」
「スクロールの製作。様々な武器やアイテムを作る人に渡すとコストとして使用されます。前にも言ったかもしれませんが、金貨も消費アイテムです。蘇生させる時にも使われますよ」
「あっ、それ鬼リーダーと一緒かもしれない」
「これだけあれば何万人も生き返せるんじゃないの?」
ティア達の疑問にイビルアイは首を横に振る。
そんな簡単に出来るはずがないと身体が言っている気がする。
「……おそらく無理だろう」
「弱い人は蘇生に耐えられません。戦争に参加していた人たちに蘇生魔法をかけたら灰になるでしょうね、きっと。君たちならまだ少し弱くなる程度ですが……」
蘇生にも詳しいとは思っていたが、イビルアイはヤントラという人間はバカではないと改めて驚いた。
「当時の財と『
「最上位の蘇生魔法か?」
「信仰系の第十位階魔法。それと大量の金貨が必要です。階層守護者を蘇らせるのに必要な枚数が五億枚だそうですよ」
聞いた事も無い単位に三人は唖然としたままになった。
「……ご、五億?」
「ケタが違う……」
「この金貨を持ってしても五億枚ということか?」
「はい。もちろんラキュースの『
この説明にイビルアイは納得した。
金貨が相当量必要で鉄クラス以上の冒険者でなければ蘇生は無理だと聞いていたからだ。
「第十位階の他に蘇生アイテムもあるそうですが……。それは持っていません」
「ご主人は本当に詳しいのだな。分かってないバカかと思ってたぞ」
「バカですよ、私は」
素直な切り返しにイビルアイは苦笑する。
第十位階と金貨が充分にあれば兵士たちの蘇生も可能ではない。ただし、理論的には。
億どころか兆を越える金貨と十万回を超える魔法の行使など一人の
「あと、アインズは魔力系ですし、信仰系は扱えませんから無理ですね、やっぱり」
「超位魔法でも無理か?」
「……無理かも。あまり期待はしない方がいいと思います。そんな魔法があれば誰も苦労しませんよ」
自らを犠牲にして仲間全てを蘇生させる魔法かアイテムがあった気はする。
「……分かった」
聞けただけ満足するしかないだろう。
「とあるアイテムを使われる前に試してみますか?」
「何をだ?」
「戦場に散った人を一人ずつ、だと思いますが復活させる方法を」
「……相当嫌な予感がするぞ、ご主人」
非合法の方法なら思いつく、というのは頼ってはいけないことかもしれない。
けれども、ヤントラは様々な奇跡を起こしてくれる。
相反する想いが交錯する。
「ご主人の所有物たる私に教えてほしい。具体的にどうするんだ?」
所有物という言葉は都合が良いな、とイビルアイは思いつつ他人だったら軽蔑しているところだ。
「詳しい方法は秘密です。一応、超位魔法の一つに便利なものがありますが……。どこまで通用するのかは私には分からないんです」
「……攻撃以外の超位魔法もあるのか?」
「あるよ。その分、ペナルティが大きいので一流の人たちは滅多に使わない」
「……ちなみにご主人は使えるのか?」
「……う~ん、前提条件が合わないからな……」
便利な超位魔法『
超位魔法自体は習得できるようになった段階で1回。レベル70を超えてから10レベルごとに1回ずつ使用回数が増える。
つまりレベル100に到達すれば一日5回、連続で使用できる、というわけではなく限界数は4回と決まっている。
習得できる数は1レベルごとに一つ。なので場合によれば30個も覚えられたりする、らしい。
いくらMPを消費しない魔法とはいえ発動まで時間がかかりすぎるし、発動時間をゼロにする課金アイテムは持っていない。
全ての超位魔法の発動が長いわけではない。
『
即戦力にならないのでヤントラは習得していない。
95レベルで覚えられるなら覚えたいが5レベルダウンはきつい。
絶対に5レベルドレインというわけではなく経験値の消費量で願える規模が変わるだけ。ゆえに最大5レベルドレインの方が良い物を出す、というだけ。
中途半端な消費で一日に4回使うより、2回分でフルに使うほうがいいだろう。
あと、5レベルドレインなので実際には一日2回までしか『
つい最近まで色々と勘違いしていた。おそらくまだ勘違いしている事が出てくるだろう。
得意分野ではないので、何事も手探りだ。
「あと、死んでいた方が幸せだったということもあるかもしれません。それでもいいですか?」
「……権利は無いが……、戻してあげてほしい、という気持ちはある」
便利ならまた戦場に行け、と命令されるかもしれない。
それでは戦争の形が変わってしまうだろう。
「厄介な貴族は除外してほしい。兵士だけでも……」
宝を物色していたティア達もイビルアイの下に駆けつけて平伏する。
「今一度、尋ねておきます。あなたは誰にものを頼んでいるのか、しっかり認識した方が良い。それでも頭を下げるんですね?」
傲慢な態度ではない。
イビルアイはヤントラという人間を今一度、真剣に考えなければならないだろう。
悪魔よりも恐ろしい人間だ。
異形種すら恐れるのではないかという究極の悪。
そんな人間に物を頼むのだから並みの覚悟では足りないだろう。
「……私の複製を金貨に換えてくれても構わない……。仲間を殺せと命令したならば……、殺して見せよう」
そう行った後、ヤントラはイビルアイの頭を軽く叩いた。
「大事なメンバーを殺したら駄目ですよ。……それと、無駄だったとしても怒らないで下さいね」
「……うん」
「とあるアイテムと言いましたが『強欲と無欲』というものがあります。これを使われていたら蘇生は無理……、かもしれません。……多分ですが」
「?」
「死者の魂みたいなものを集めてしまうものですが、集められていれば諦めてくださいね。蘇生魔法は上位のものになれば肉体は残って無くてもいいので」
魂を回収されていれば蘇生魔法はそもそも通用しない、とイビルアイ達はそう解釈した。
実際に魂を集める魔法は存在する、はずだ。それは蘇生を阻止するための魔法だったと記憶している。うろ覚えで魔法名までは思い出せない。
経験値を吸い取った程度で蘇生を阻害するかまでは分からない。
そういう実験は正直なところやりたくはない。
「うん、分かった」
「……秘密事項なのでお見せ出来ません。この施設を潰されては困りますので」
部位のところは潰してもらいたい気持ちだったが、仕方が無い。
それから、小さな物なら持って行っても良いと言うとさっそくティア達は狙っていたものを手に取った。
「それらは普通の宝石ですね。鑑定はしていないけれど……。ゆっくりと調べたいところです」
「こういう宝石はアイテムの作成に使われるのだろうな」
「素材は貴重なので。では、一旦、地上に戻りましょう。用意するのに時間がかかるので職人達の施設でくつろいでください。イビルアイも欲しいものがあればこぶし大くらいなら持って行っても良いですよ」
「んっ。で、では……」
『飛行』で棚にある素材を物色し始める。
鑑定するまでもなく、素晴らしい素材にイビルアイは一つ一つ驚きの声を上げていた。
魔法の研究に必要な素材も豊富にあり、稀少なものは量が少ないので色々と迷ってしまう。
これだけの財を集めるのは並大抵のことではない。
おそらくまともな方法ではないだろう。
「ち、ちなみに特定の素材を大量に得ることは可能か?」
「……大量は無理だと思います。ありふれた宝石ならばまだしも魔法金属に至っては微々たるものですよ」
「やはりか」
「一ヶ月かかって桶一杯になればいいところかもしれませんね」
それでも可能であるならばすごい事だ。
それだけのことを可能とする施設なのだろう、ここは。
とんでもないものを造ったものだ。
あまりにも微量なものが問題の魔法金属の一つなのだろう。
「これらの財はこの世界の人たちから盗んだものは入っていませんから安心してください。造ったばかりの施設なので大した量が無いのですが……」
「そう、なのか……。それはそれで……」
それでも人間を金貨に換えるアイテムがあるのだ。
素直には喜べないだろう。
邪悪な錬金術だとイビルアイは感じた。
「それと金貨だけですよ、人間だのモンスターを放り込んだのは。それと排泄物もかなりの量を入れると金貨になります。なんでも査定するので扱いが大変です」
「うわぁ……。臭そうな金貨もあるってこと?」
「どうでしょうか? そういう物騒なものがあるので勝手に部屋に入らないように。助ける事は出来ませんから」
「うっ。……ちなみにあのアイテムはどれくらいあるの?」
「四つくらいですかね? 他はメイドが監視しているので。屠殺場にはありませんが、倒した死体処理には最適なんです。あと、破壊できますから。さすがに黒い仔山羊を丸々入れることは出来ませんよ。細かく切り分けないと」
「聞けば聞くほど恐ろしいな。ご主人がうっかりはまったらどうするんだ」
「世界が平和になるかもしれませんね。……その上は触らないほうがいいです。化け物になるかもしれないので」
イビルアイの視線の先には見慣れないアイテムがあった。
触ると化け物になる、ということは異形種に変化するということだろう。
自分としては別に触っても良い気がした。本当は良くないのだろうが。
「……転職アイテムという奴だな」
アンデッド化や魔法生物化するアイテムなどは聞いたことはあるが実物を拝めるとは思わなかった。
「……丁度、複製があるから試すのも……。ふむ、そういう実験にも使えるな。……なんて恐ろしい真似を」
悪いことばかりではないようだ。だが、認めるには時間がかかりそうだ。
念のために安全なものを尋ねてからこぶし大の金属を受け取った。
ヤントラ達は地上に上がりイビルアイ達を施設に案内した。
用意が出来たらイビルアイはカッツェ平野の戦場跡地に行ってもらい、ティア達は大量の敵と戦ってもらうことになる。
屠殺場の用意が整うまで一時間はかかっただろうか。
ティア達はしっかりと食事と排泄を済ませた。
イビルアイはまず戦場に死体があるかどうか確認する。無ければ魂が回収されているかもしれないと言われた。
それでもイビルアイは確認の為に向かうことにした。
そして、ティアとティナは屠殺場の入り口で全裸になる。
一緒に風呂に入る仲でもあるのでヤントラに見られるくらいは平気だった。
「いいですか、赤い敵が多いと不安が高まります。数は減らしていますが確実に倒してください。間違っても混乱して味方を攻撃しないように。もし、全滅が無理ならメイドに降参と言ってください」
「分かった」
「うん」
それぞれに切れ味の良い剣を二本ずつ渡された。
出来れば同数を倒すように。食料と飲料はメイドから貰うように言われた。
そして、二人は扉を潜る。
「……わお!」
「ひゃえー!」
物凄い数の赤い殺意が目の前に広がっていた。
事前に言われたはずなのに身体が震えてきた。寒いわけではない。
「仲良く漏らしちゃおうっか」
「クレマン……、ごめんね」
想像を遥かに超えた恐怖は何度も見ている気がするのに、全く世の中は狂っている。
さっき排泄を済ませたばかりなのに失禁しそうになる。
武器を持っていれば間違いなく殺される。攻撃に転じても同じだ。
無抵抗の相手をここまで恐いとは思わなかった。
いや、本当に無抵抗だと思えなかったからこそ恐い。
「……漏らしても頑張る」
「……ニンジャとして負けられない」
武器を持つ手に力を込めて二人は駆け出した。
ティア達が戦う間、アンデットの量産を始めていた。
うち一体に『
死体が無い場合でも基本的には死んだ場所で復活する可能性が高いらしい。実験していないから正確な事は分からないようだ。
場所まで贅沢は言わない。とにかく、金貨のコストなく復活を試みてもらう。あっても施設の金貨を消費してもいい。微々たるものであれば量産するまでだ。
死んだ場所。日時はだいたいの見当。
一般兵士なので名前などは分からない。
射程距離は無く、死んだ場所さえ分かればいいようだ。
試しに魔法を発動すると聞き届けてもらえたらしい。複数人は無理で、一人ひとり復活させていくしかないようだ。
後は量産して唱えまくればいいだけだ。効果が無くなれば素材の作成だ。
量産が終わり、金貨の様子を見ると金貨が唸っていた。どうやらコストはかかるらしい。
五億枚ほどではないが数百万枚は消費されているかもしれない。
十万人ともなればかなりの日数はかかるだろう。
ラキュースに
大浴場に行き、例によって金貨生産の為の準備を整えるしかないだろう。
控えていた戦闘メイド達を集める。
魔将達も複数用意しなければならないかもしれない。
効率を上げるために。
身体に血が付着するだろうから担当するものは裸にし、洗い物担当も付けて行動を開始する。
三日くらいで金貨百億、正確な枚数は分からないがたくさん出来ればいい。
設定の調節が終われば流れ作業だ。
減っていく者は増やせば良い。
そうして三時間が経過する頃にティア達の様子を見に行く。
クレマンティーヌでも耐えられないのだからティア達が挫折してもおかしくはないだろう。
屠殺場の扉を開くとメイドの側で力尽きている二人が居た。
「けっこう倒しましたね」
二人は血まみれの身体で泣いていた。そして、かなり身体が震えている。
武器は既に握れなくなっているのか、床に落ちていた。
握力が無いために扉も開けられないのだろう。
「お風呂でゆっくりと休んでください。クレマンティーヌもこれくらいが限界でしたから」
「……ごめんなさい」
「あ、あいつら身体が……、硬い……」
「君たちの筋力が低いからです。休めばもう少し楽に戦えると思いますから。ささ、温かい湯に入ってください」
ティア達ははいずるように風呂場に入った。そこには仮面を被ったメイドが控えていた。
「彼女たちをしっかり洗ってあげてね」
そう言うと仮面を被ったメイドが頷いた。
モンスター達を立ち止まらせてアンデットの量産に入る。
およそ数千体は必要らしい。足りないなら追加すればいい。
二十体目でティア達の様子を見に行く。すると彼女たちは既に戦い始めていた。
「無理せずにね」
「んっ? うん」
「本当にさっきより楽になってきたよ」
それだけ確認して量産を始める。
五百体済んだところでティア達の様子を再度、見に行くと全滅させていた。
「お風呂に入ってて下さい。その間に掃除するので」
「……これはキツイわ」
「実際の戦闘なら死んでるね」
ティア達が休んでいる間に死体や血などはメイド達により掃除されていった。
その時間は二十分ほど。恐ろしく手際が良かった。そして、すぐに隠れるように消えていく。
「掃除が終わったから服を着てください」
二人が屠殺場の様子を見て驚いた。
殺戮があったとは思えない清潔感溢れる
それから服を着た二人に目隠しさせて地上に上げる。その後は施設で休むように言い、ヤントラはそのまま地下に戻って屠殺の現場でアンデットの量産を続けて数時間後に設定も変えてから地上に上がる。
後は待つだけだ。
復活が出来たなら兵士たちは裸かもしれない。ということに気付き、ティア達に休息した後に着る物とバスタオル、運ぶ荷馬車などの依頼を頼んだ。
帝国にバレないように、と付け加えてヤントラもカッツェ平野に向かう。
一時間でエ・ランテルに到着し、兵士たちの迎えと着る物とバスタオルと運ぶ荷馬車の依頼を秘密裏に頼んだ。
冒険者組合にはハムスケが居なかったのでモモンは不在だろう。
バレるとうるさいのでカッツェ平野には
噂でも出るとエ・ランテルに黒い仔山羊が襲ってくるかもしれないから、と釘を刺しておいた。
問題のカッツェ平野に行くと案の定、全裸の男が複数人、歩いていた。
イビルアイが先導しているようで無言のまま手で合図を送っていた。
走る余裕は無いのだろう、歩くだけが限界のようだ。
見ていると次々と人間が現れてくる。
それはとてもゆっくりとしたものだが確実に復活していく人間たちは増えていった。
数時間後には数百人規模となっていった。
応援も駆けつけてきて、次々と運ばれていく。
「この手は何度も通じないと思って下さいよ」
「……感謝しきれない……」
イビルアイは地面に仮面を付けるような平伏で感謝を示した。
ヤントラは何も言わずに引き返し、宝物庫の様子を伺うために戻っていった。
三時間後にたどり着いたが今ところ問題なく稼動している。
戦場で散る命を見逃したのは
そうでなければ『強欲と無欲』に経験値として魂を吸わせていたはずだ。
怒らせたのが
それよりも金貨の減りと投入される金貨の量がせめぎ合うような形になっていて面白かった。
レベル的に少ない兵士だから良かったのかもしれないが帝国騎士の連中であれば需要と供給は完全に崩れているところかもしれない。
後は噂があまり広まらないことを祈る。
殺した人間が生きていて困る事は帝国側には無いはずだ。
シズ・デルタ型も追加しよう。
よくよく考えたらこちらの方が効率的だ。
命の冒涜もやりすぎると、いよいよ、自分が死んだら世界が平和になりそうな気がする。
一日経つとさすがに大騒ぎになるが報復を防ぐために慰問の人間であるという噂を流すように頼んだ。
黒い仔山羊の恐ろしさを知っている生き残った敗残兵達の協力もあり、
全員の復活はおそらくは不可能だろう。生き返りたくない者も居るだろう。灰になって消えるもの。ただし、戦争好きの貴族は復活対象から外れてもらった。
金貨の山が勢いを増して大きくなる。
死者の為に金貨があるわけではないのだが今回限りにしてもらおう。毎回、頼られるのはきっとダメだろうから。
大浴場で命の冒涜を続けていたが虚しくなってきた。
あまり眺めても気分が沈むだけなので地上に上がることにした。
充分な数は用意したからあとはもう一日だけ待つだけで良い。
自分はナザリックの者達を大切に思っていないのだろう。
貴重な資源に過ぎないのかもしれない。
人的資源という意味では問題が無いのかもしれないが。
本物のシズが傷つけばやはり辛いと思うだろう。いや、そう思いたいだけかもしれない。
嫌な事は考えても仕方が無い。もう寝る。
睡眠は取れるだけ取っておく。指輪のお陰で空腹は感じないが、睡眠は精神的にも回復するから気分はすっきりする。
翌朝になる頃には投入した人材は尽きているだろう。
確認するとアンデットは既に無く、シズ型の生産だけ続けられていた。それらはすぐに止めて処分できるものは処分して清掃させた。
金貨の山は一日だけとはいえ結構大きくなっていた。
シズ型を数体とアンデット型を数体用意し、希少金属を抜き出せないか実験させた。
ゲーム時代とは違い、かなり強力な願いも聞き届けられる魔法へと変わっている。
さすがに経験値を最大にしたり、
まとめていっぺんに奪うことも出来ないようだ。
金属を奪われたシズに再生魔法をかけると復活するという妙な事態も起きる。
便も試してみた。こちらはまとてめ一塊にすれば解決する。
本体に影響がでないように名前は変えておいた。ナザリックに居るシズが突然、ガラクタになっては困るから。距離的な事も関係があるのかもしれないけれど、用心はしておいた方がいいだろう。
メイド達にそれぞれ命令を与えて効率化を図る。
半日続けさせたら接収させる。
代わりに超レアアイテムを要求し続ける。
淡々と無感動に行動するのは流れ作業のようで面白みが無い。
それを一日費やした後に地上へと上がる。
巨大な倉庫はしっかりとした足場が組まれ、建設が続いていた。
資材置き場は早くから完成していた。
無収入のままではいけないのだが、どうすればいいのやら。
我が家へ戻るとティア達が居た。居ていいのだが数日しか経っていないのに世界は良く変わってしまう。
イビルアイも居た。兵士たちは都市から派遣した別の兵士達に任せたようだ。
数万人と言いたい所だが、実際には数十分の一も復活していないだろう。
MPの関係もあるだろう。本気でやれば一ヶ月は続けなくてはならない。
まだまだ色々と研究が必要なので今は効率の悪い方法しか取れないのがもどかしい。
「あとは灰になったと思って諦めてもらいましょう」
王都で死んだ者達もできる事なら復活させてやりたかった。
そう何度も繰り返す事は良くないのだろう。それに規模が膨大だ。
金貨生産のおぞましさが奇跡の代償を伝えている。
改めて平伏しようとしたイビルアイを抱きとめる。
「そろそろ証拠隠滅しなければなりません。……金貨の生産は正直、楽しくないんですよ。戦争の事は少し忘れて前を向きましょうか」
「……うん」
「ティア達は引き続き、続けましょう」
「お、おう」
「……休憩しながらでも良いなら」
ティア達を先に向かわせた後、ヤントラはラキュースの手料理を食べた。
久しぶりの夫婦の食卓。時間は無常に過ぎていくが大切にしたいと思っている。