※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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A-8 スレイン法国の特殊部隊

 戦うことになればアルベドの特殊技術(スキル)を盾に相手の力を推し量るのが最善だろう。

 それでも無理ならナザリックに退避する事も考えなければならない。

 敵は現在、他にも居て村を取り囲んでいると報告があった。

「これだけの魔法詠唱者(マジック・キャスター)を引き連れているところから特殊部隊の可能性がある。スレイン法国の六色聖典の一つだろう」

 だろう、と言われてもアインズには見当がつかない。

 アインズは知らないがガゼフ・ストロノーフという男は三国から命を狙われている。

 バハルス帝国とは戦争中なので仕方ないが本国から狙われる理由は貴族派閥による嫌がらせである。

 平民上がりで勇名(ゆうめい)を轟(とどろ)かせる彼が目障りなのだろう。

 王国の三割は王の領地だが、残りは貴族が支配している。

 王に忠誠を誓(ちか)う男が居なくなれば貴族の勢いは増し、王派閥を押さえ込むことが出来る。

 とはいえ、ガゼフも王国を二分する派閥間の争いは承知している。

 王国戦士長として出来ることは王の為に戦うことだけ。

「……おそらくは俺の首なのだろうな。正直、スレイン法国にまで狙われているとは思わなかった」

「ふむ。あなたは……、あなたが狙われているのが原因なのですね」

 アインズの言葉に厳(いか)ついガゼフが苦笑した。

 

 天使はガゼフから見て魔法などを使う厄介な敵だが勝てない相手では無いと判断している。しかし、それも数が多ければ勝ち目は無い。

 敵は前方だけではない。圧倒的多数で襲ってくるだろう。

 王国最強と言われているが本来の装備が貴族共に奪われて弱体化している今、苦戦は必至。

 苦戦どころか勝てないかもしれない。

「ゴウン殿。わがままを言うようだが雇(やと)われてはくれぬか?」

 天使の強さを分析していたアインズが仮面の顔をガゼフに向ける。

「報酬は望まれる額を用意させよう」

 今は味方が一人でも多い方がいい。ガゼフは部下の生命を考えプライドを捨てる。

 平民からのし上がったとはいえ他人を蹴落としてまで出世したいとは思っていない。

 今回連れて来た部下達は掛け替えの無い大切な存在だと思っている。そして、部下たちもそんなガゼフに命を今まで預けてきたのだ。

 みすみす死なせることは出来ない。

「……お断りさせていただく」

「……かの騎士をお貸しいただくだけでも」

「……それもお断りさせていただく」

 何所の誰とも知れない相手。

 アインズとしては利用する事はあっても利用される事には了承(りょうしょう)しかねる。

 今はまだ地盤固めの最中(さいちゅう)なので必要以上の厄介ごとは御免(ごめん)被(こうむ)りたかった。

 

 アインズにとって恐れるのは敵対プレイヤーの存在だ。

 悪評が広まれば彼らに正義が生まれる。身動きが取れなくなってしまう。

 その為に村と友好関係を結んでいたのだ。

 これ以上、譲歩する事は致命的だろう。

「私は村人を守ると約束しました。ですが、あなたの手駒になる気はありません。その時は多少、抵抗させていただきますが……」

 表情の見えない相手にガゼフは引き下がることにした。

 今、目の前に居る魔法詠唱者(マジック・キャスター)と敵対するわけにはいかない。それは言い知れぬ恐怖のようなものとして感じ取った。

「とはいえ、戦力に心許(こころもと)が無いというのであれば……」

 と、アインズはヤントラの居る方角に指を向ける。

「アレに声をかけてみてはいかがですか? 多少は盾として使えるかもしれませんよ」

 ガゼフも一応、ヤントラの居る方向に顔を向けた。

 負傷兵に見えるし、生き残りの兵士か何かだと思っていた。

「ケガ人を使うわけには……」

「そこらの兵士よりかは使えると思いますが? 一応、私の敵だそうですから」

 少しだけアインズは嬉しそうに言った。

 敵と言ってもヤントラは意見の相違による敵対の間柄でしかない。

 ナザリック地下大墳墓に脅威を与えるような大それた存在ではない。と思う。

 確かに大侵攻においてスパイの疑いが晴れたわけではないが、彼がNPC達を可愛がる様子はアインズも知っている。

 彼とてナザリックを大切にしている。

 メンバーに度々、手痛い(筆舌に尽くしがたい)仕打ち(あんなことやそんなこと)を受けたりはしたがアインズとしても手に余る者の仕業だったので少しは同情した。

 

 タブラさんを切り刻んだのは数回くらいだし、大半がるし★ふぁーさんの悪ふざけだから逆に応援しちゃったな。

 ウルベルトさんも止めなかったし。むしろ、殺れってヤントラを応援してたっけ。

 ああいう事でも経験値を積んだのかな。

 アインズは少しだけ昔を思い出した。

「……アルベド」

 アインズの呼びかけに黒い甲冑(アルベド)が動き出す。

「バックアップしてやれ。あくまでも死なない程度で良い。手は出すな」

「畏(かしこ)まりました」

 バルディッシュを持ったままヤントラの下に向かうアルベドが処刑人のように見えて笑いそうになった。

 ああ、死ぬなきっと。

 と、口の中でつぶやいた。

「んんっ。戦士長殿。どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない。それよりゴウン殿。この村を守っていただき、感謝する」

 ガゼフは装備していたガントレットを外し、アインズのガントレットを両手で握り締める。

「今一度のわがままを言うようで申し訳ないが、この村を守っていただきたい」

 反論の余地を許さない強い決意に満ちた言葉だった。

 熱い男。いや、漢(おとこ)。

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。アインズは記憶の片隅に名前くらいは置いておこうと思った。

 

 どう見ても負傷兵にしか見えないヤントラの側にガゼフはやってきた。

 彼よりかは側に居る黒い甲冑の騎士の方が強そうに見えたが、手助けはしてくれそうにないだろう。

 近づいてもヤントラは何も行動を起こさなかったので襲撃者というわけではないと判断する。

 ガゼフはヤントラの頭から身体全体を見回す。

 アンバランスな体型をしている。

 それは歴戦の戦士であるガゼフにとって相手の姿を見るだけで分かる感覚が養われているからだ。

 顔つきも自分の知る国には無いものだった。

 髪の毛は肩から落ちる程の長さで僅かに紫がかった銀髪。

 血にまみれた姿をしているがケガなのか返り血なのかわからない。

 瞳は宝石の如き碧玉。肌は浅黒く健康的に見えなくもない。

 このような特徴を持つ人間をガゼフは知らない。

 

 そもそも男なのか女なのか。それは分からなかった。

 自分の記憶の中にあるつわものの中に似た特徴の者が居たが、それとは違った雰囲気がある。

 第一印象としては戦力になる気がしない。

 鍛え上げた筋力というものが見当たらないからだ。

 優男(やさおとこ)ではあるのだろうが。男と仮定した場合だが。

 満身創痍(まんしんそうい)。見た目からの判断だが。無傷ではない事は分かった。

 このような人物を頼るのは正しいことなのだろうか。

 ゴウンの言うように盾くらいにはなるかもしれないが。

「私は王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ」

 地面に足を投げ出して座り込んでいるいるヤントラに声をかけた。

 今は緊急時につき、相手の格好については問わない事にした。しかし、控えていた仲間からは『失礼なやつだ』などの声が聞こえてきた。

 話しかけたにもかかわらずガゼフを見上げたまま動かなかったからだろう。

「詳細は省(はぶ)かせていただくが、今は緊急時のため村の為に力を貸してはくれぬか? もちろんタダでとは言わん。報酬は支払う」

 一応、ガゼフは側に居る黒い甲冑にも顔を向けたが、こちらは何も反応してこなかった。

「条件をつけてもよろしいか?」

 ヤントラの言葉は男性的な響きがあった。

「私に出来る範囲に限られるが。全力で答えよう」

「まずは村に護衛の為の兵などを送る」

 ガゼフは返答せずに次の言葉を待つ。

「私は旅人で右も左も分からない。町の案内をしてほしいところだが、案内役の村娘が家族を殺されたので足止めを食らってしまった」

「………」

「当面の生活費を頂きたい。この国の貨幣の持ち合わせが無いもので」

 ここまではガゼフも想像していた範囲内だった。

 無茶な要求とは思えない。

 各地の村の襲撃に対し、王都からも護衛の人材を送ることにはやぶさかではないだろう。

 ただ、護衛する人材が納得出来るだけの数を用意できるかは約束できない。

 資金については特に問題は無いだろう。金貨何千枚などという法外な事でも言われなければ。

「それと最後に……」

 頼るのだから条件が複数あってもおかしくない。

「私は冒険者になりたい。モンスター退治とかやりたくてね。手続きとかが分からないので、そこら辺は教えていただきたい」

「近郊のエ・ランテルならば冒険者組合があるが……。いくら私でも最上位クラス(アダマンタイト級)は無理だろう」

 冒険者にはランクがある。

 得体の知れない者をアダマンタイト級にいきなり推薦は出来ない。

「別に下で構わないよ。最下層でも冒険者になれればいいので」

 至極(しごく)あっさりとした言葉だった。

「村の防衛依頼。活動資金。冒険者。この三つが私の要求だ。四つ目としてはお供を一人貸してほしいところだ。これらの条件を満たしたとしても私は異邦人だから。色々と教えてくれる人が居ると助かる」

 条件の全てを満たす自信はある。

 これらの要求を呑むことは可能だろう。しかし、将来への不安がある。

 国に仇(あだ)なす存在かもしれない。

 あまりにも簡単な要求で逆に怖いとさえ思う。

 

 この男は何を考えているのか。何も考えていない事もあるが、血にまみれた男の要求に裏があるような予感がする。

 ここでケガ人だからと要求を突っぱねることも出来る。

 それは今の状況に果たして最善だろうか。

 助けを求めておいて、やはり断る、というのは失礼なことではある。

 男は条件を提示した。どれもそれ程無理のあるものではない。

 旅人という事が仮に嘘だとしても否定する材料は見当たらない。

 むしろ容易い内容の要求に彼は命をかけると言っているようなものだ。

 いや、異邦人にとっては難しい要求と言えるかもしれない。

 町にいきなり訪れて、金銭の入手や頼みごとは簡単とは行かないだろう。何より身分が保証されていない。そう考えると納得出来るものはある。

 ガゼフは深読みしすぎて怪しんだことを詫びることにした。

「このガゼフの名において貴殿の要求を出来る限り叶えると約束しよう」

「では、交渉成立ですね」

「ああ」

 ヤントラは微笑んだ。

 その笑顔は本心からのものなのか、素直には受け取れないものをガゼフは感じた。

 話しがまとまったとはいえ、ヤントラの実力は未知数だ。

 歴戦の戦士であるガゼフの印象では特別、何かある気はしない。

 敵が迫っているので、そろそろ準備を整えなくてはならない。

 それに彼はまだ手を差し伸べてこない。ただずっと座ったままだった。

「貴殿の名を聞いてもよろしいか?」

 自分は最初に名乗ったのに彼は名乗らなかったので気になった。

「ヤントラです。よろしくガゼフさん」

 ガゼフは手を差し伸べない理由を悟る。

 彼は血にまみれている。だから、配慮として手を出してこないという事に。

 それでも共に戦う仲間ならば手を取り合うべきだろう。

 ガゼフは身体を屈(かが)め、彼の手を取る。

「よろしくたのむ」

 ガゼフの強い眼差しにヤントラは苦笑を浮かべた後、軽く頷いた。

「お役に立てるかは分かりませんが、頑張ります」

 近くで見るヤントラの微笑みは素直な子供のように一瞬だが見えた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ガゼフは一旦は仲間達の下に向かい、指示を出す。

 ヤントラはまず側に居るアルベドを招きよせ、両手を出すように言った。

 アイテムボックスから無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)を出し、甲冑の篭手(こて)に水を落した。

「汚れ仕事をさせて悪かったな。これは気休めだが……」

「もったいなきお言葉でございます」

 てっきり両腕を切断するものと思い、罰として受け取ろうとした。

 自分の特殊技術(スキル)があるので簡単にはいかないことに気付き、兜(ヘルム)の中で気恥ずかしい表情を取ったが表には出ない。

「私が言うのも気恥ずかしいが……、アインズを頼むよ」

「はい」

「人間の命令は君達にとって屈辱かもしれないが、私がただ単に未熟だったせいもある」

 死体に触れて汚れた手をヤントラが丁寧に拭(ぬぐ)う。

 隙間に入っているかもしれないが、見た目的(てき)に奇麗になったところでよしとすることにした。

「君たちの忠誠心を揺るがす気は無い。君たちは君たちの思うとおりに行動すればいい。……仲間内でのケンカはほどほどにするんだよ」

 製作者の性格が反映されているので対立が無いわけではない。

 転移によってより明確な形で見ることになるだろう事をヤントラは感じていた。

「では、アルベドは村の被害を最小限度に抑えることと、彼らが戦闘不能に陥ったら速やかに、つまみ出せ」

「畏まりました」

 ヤントラの命令はアインズの命令を補完する形となり、それほど矛盾は感じなかった。

 第一はアインズ。それは変わらない。変わらなければ文句は無い。

 アルベドを下がらせた後、戦闘に入る前に身体の血を洗い流す。

 固まりかけた部分があり、こびりついたままになったところはあるが、とりあえずは無視することにした。

 天使を相手にするので装備品を一新する。

 魔法を行使する相手なのでバッドステータス対策も取らなければならない。

 

 魔法の重ね掛け。

 

 何でも重ねればいいわけではないが、一度に複数回使用したりすることも戦略として存在する。

 〈魔法三重化(トリプレットマジック)〉、〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉。

 〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)〉という合わせ技も出来る。

 死の騎士(デス・ナイト)戦も能力値の差こそあれ、ヤントラは決して甘くは見ていない。

 モンスターレベルは通常の職業や種族レベルとは違う計算方法があり、低レベルモンスターと言えども受けるダメージによっては命取りになる。

 実際に腕を切り飛ばされたのが良い証拠だろう。

 特に種族的にステータスの面で伸びの低い人間種なら尚更(なおさら)だ。

 命のやり取りをするのだから命がけの対策をするのが当たり前だ。

「空飛ぶ天使を倒すのは少し苦労するかもな」

 迎撃できないわけではない。

 下に控えている魔法詠唱者(マジック・キャスター)が邪魔をしてくるのが気になるだけだ。

 

 精神操作を阻害するアクセサリーを身に付ける。

 ユグドラシルではデータクリスタルというアイテムがある。

 モンスターを倒すと手に入れられる。レアドロップのデータクリスタルも存在する。

 装備品や一部のアイテムに組み込んでオリジナルアイテムを作ることを可能とする。

 炎耐性。酸耐性。毒耐性はもちろん、筋力増強。毒効果付与。他にも色々とある。

 ゲームであるから無限に組み込むことは出来ない。

 限られた効果でも装備品次第で戦況を変えるのはゲーマーとしての楽しみでもある。

 今回は炎対策はもちろんだが、信仰系の魔法防御に特化した装備品を選ぶ。

 盗まれても良い武装の中には色々と効果を付与したものも存在している。

 だいたいは色で区別しているので、白系を使う。聖属性対策。

 自分の武器なので普通のブロードソードと属性付与のブロードソードの区別くらいは出来る。

 装備品の色を変えることもアイテムでは可能としている。

 自由度の高いユグドラシルならではと言えるかもしれない。

 白で統一された装備に身を包むヤントラ。

 精神系魔法対策。完全無効とまでは行かないがレベル3ほどの耐性が付与されている。

 ガントレットは今回は防御に徹した普通のもの。

 外套だけ迷彩柄になっている。ただ単に明るい外では白色系は目に痛いから、という理由しかない。

 頭には精神防壁のサークレットを装備。

 ヤントラは基本的に男女混合の装備が出来る。

 やろうと思えばドレスも着用可能。戦闘には不向きだが。

 ジェンダーフリーのキャラクターは万能そうだがステータス的には男女より若干落ちる。

 その代わりに豊富に装備出来る仕様になっている。

 ゲームのシステム的には個人の力量次第では誰もが頂点に登れる可能性を秘めている。それがスライム種であっても。

 

 装備し終わったが全体的には中級装備に毛が生えた程度。

 残るはどんな武器にするかで迷う。

「外套は……邪魔かな……」

 ゲームの時は特に気にしなかったがこの世界では巻きつく可能性があり、戦闘の邪魔になるかもしれなかった。

 即断即決で外套は諦めることにした。

 アッデート後の装備品もあり、ここからいきなり銃で撃ったら面白いだろうなとイタズラ心が騒ぎ出す。

 ガントレットで引き金が引けるのか、という問題はあるが。

 シューター(射手)を持っているから出来なくはないがファンタジー世界のイメージが壊れるかもしれない。

 目の前の戦闘よりヤントラはついついゲーム的な思考に陥ってしまう。

 相手の意表を突く。それは戦略的にも有効な一手。

 見た感じでは物量による戦闘になるのは明らかだろう。

 防具の装備は終わったので武器は戦闘になってから考える事にしてガゼフの元に向かい、

アルベドは距離を置いてヤントラの後ろ姿を見つめる。

 彼女は戦闘に参加する命令は受けていない。しかし、両手は拳を作っていて応援するような姿だった。

 

 少しくすんだ純白の戦士ヤントラ・サルヴァスパ。

 戦闘の再開までの時間的余裕は僅かしか残されていない。

 ガゼフは後ろから来るヤントラの姿に少し驚いていた。

 先ほどまでみすぼらしい装備だったのが急に白に統一された防具をまとっているのだから。

「敵の布陣はどうなりましたか?」

「村を取り囲むように配置されている。どれも魔法詠唱者ばかりだ」

 遠距離攻撃主体の布陣であるとヤントラは予想する。

 見えている限り、各員の頭上に天使が浮かんでいる。

「君ならどう攻める?」

「各個撃破。それで人数は分かりますか?」

 ガゼフの問いにヤントラは即答する。

「およそ四十五名」

「敵はスレイン法国で確定ですか?」

「おそらくはな」

「話し合いはしないので?」

 問いかけにガゼフも答える。

 無駄な議論をしない分、助かるが何を考えているのかは読めない。

「スレイン法国とか? 取り囲んでいる以上は無駄だと思うが」

 敵の狙いはガゼフの首。

 それが分かっているから話し合いは無理だと結論を出しているが、彼はそのことをおそらくは知らない。

 話し合いで解決できれば苦労は無い。それは間違っていない。

 

 ヤントラは敵の狙いがただの普通の村とは思えなかった。

 既に戦う気でいるけれど、このまま戦ってもいいのだろうかという疑問が残っている。

 カルネ村をスレイン法国が滅ぼす理由は分からない。

「……敵の狙いは私の命だろう。村はただ巻き込まれたに過ぎない」

 そうガゼフが言うとヤントラは少し驚いたようだ。

 やはり知らなかった。

「悪い事をしたのなら謝ったらどうですか?」

「そうではない。そうではないのだが……、私は色々と人から恨まれていてね」

 考えてみれば、事情も分からずに一緒に戦えと言うのはひどい話しだろう。

 彼は村を守る為に戦う気でいるのだから。

 利用だけして何も説明しないのは確かに悪い事だ。

 他の仲間達もガゼフの側に集まる。残りは馬に乗ったまま待機していた。

「スレイン法国は人類の防り手だが、何らかの命令で私を殺せ、と命じられたのだろう」

 ガゼフの予想では敵は法国の特殊部隊の六色聖典の一つ。

「身内にも敵が居るのでな。お恥ずかしいかぎりだ」

 王国の何者かがスレイン法国を利用してガゼフを抹殺しようと企んでいる。

 大雑把に言えば、こんなところになる。

 ヤントラには詳しい理由は分からないが『大変ですね』と口の中で言った。

「ヤントラ殿を巻き込む形になって申し訳ないと思っている。しかし、私はまだ死ぬ訳には行かない。多くの民のために戦わねばならない」

 他の兵士もガゼフを応援する。

 ヤントラはアルベドを一瞥(いちべつ)する。

 戦いの行方(ゆくえ)次第(しだい)ではガゼフを始末することも考えておこうと思った。

 冒険の計画が邪魔されるのはヤントラとしても受け入れがたい。

 視線をガゼフに戻す。

「私を利用した報(むく)いとして王国を滅ぼしても良い。そう思ってもいいのですね?」

 先ほどまでののんびりした態度とは違い、明らかな殺意がヤントラから吹き出した。

「それは……困るな。王を守るためならば命は惜しくは無いが……。……いや、ヤントラ殿の言われる通りだ。私は君を利用している。だが、民の命は奪わないでほしい」

「……弱い者を虐げるわけにはいきませんね。今後の冒険に支障が出るのも嫌ですし」

 ヤントラの殺気がゆっくりと消えていく。

 言葉を選ばなければ危険な男かもしれないとガゼフはヤントラをそう認識する。

「……しかし、天使は私の好きなモンスターですから倒すのがもったいないですね。召喚モンスターは手に入らないか……。う~ん」

 空に浮かぶ天使を見るヤントラは先ほどの殺意とは別人に変わったようだ。

 暢気に数を数え始めている。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 そろそろ戦闘を始める。

 ガゼフは馬の背に跨(またが)る。

「まずは我々が先陣を切り、村から奴らを引き剥がす! この村を戦場にするわけにはいかない!」

「はい!」

 村をあえて戦場にし、アインズと敵をぶつける案もあるにはあった。

 広場には死の騎士(デス・ナイト)。アルベドが居る。彼らは強い。ガゼフよりも。という予感がガゼフ自身にあった。

 今の案は最終手段ではあるが、自分でも愚かな選択だと思う。

「もし、彼らの目的が私の首ではなかった時は……、ヤントラ殿。ゴウン殿に村人の護衛をお願いしたい」

 ヤントラはもう一度、アルベドを一瞥する。

 ガゼフの言葉が聞こえていた彼女は頷きで答えた。

「では、準備は終わりですね」

 両手を広げてヤントラは言った。

「感謝する」

 それだけ言ってガゼフは駆け出した。

 仲間達も彼の後ろを追っていく。しかし、ヤントラは馬を持っていないので一緒には行けない。

 

 ガゼフは後ろを振り返らずに村から強行突破するように飛び出していった。

 それが戦闘開始の合図となったようで彼らに天使達が襲い掛かる。

 のんびりと歩き出したヤントラはスクロールを取り出す。

 戦闘用に取り出しやすいように色々と工夫してきた彼が最初に使うのは『飛行(フライ)』の魔法。

「アルベド」

「はっ」

「もし、村を襲うヤツがいたら捕まえて情報収集に使え。その後の処理はアインズに任せる」

「御身(おんみ)をバックアップせよと……」

「これも立派な仕事だ。任せるよ」

「は、はい。畏まりました」

 命令の優先順位はもちろんナザリック地下大墳墓の支配者であるアインズが上。

 敵の情報を得るのもヤントラの言うように重要だと判断できる。

 バルディッシュを構えて村に侵入する敵に意識を傾ける。

「……そうだな。戦うことも大事だが敵を知ることも大事だ。それならばバックアップの大事さも納得がいくだろう?」

 ヤントラはガゼフの後を追う前に告げて、アルベトの返答を待たずに飛び出していった。

「バスパ様……。ありがとうございます」

 離れて行くヤントラに向かって軽く頭を下げる。

 スレイン法国の部隊はガゼフに狙いをつけているようで、ほぼ全ての魔法詠唱者(マジック・キャスター)が彼を追っていった。

 狙いは村ではなくガゼフである証明だ。

 ヤントラはざっと敵勢力を見渡す。

 天使と魔法詠唱者(マジック・キャスター)のみの構成で一般兵士の姿は無いようだ。

 

 戦士たちと戦うのだから距離を置く。ガゼフの仲間の中には弓兵が居るが恐れていないようだ。

 防衛対策を施しているのだろう。

 戦士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)の戦いでは魔法詠唱者に分がある。

 接近戦では戦士に分があるけれど距離を取った敵は倒しにくいものだ。

 人数的にもガゼフ側が不利だろう。

 使役しているのが炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だけとは思えないが。

 ヤントラは大量のアイテムを使用して戦う。

 それでアインズと戦えば勝てる見込みがあるか、と問われれば無理だと答える。

 高レベルプレイヤーであるアインズは低レベルの物理攻撃と魔法攻撃に対して無効化の特殊技術(スキル)が存在する。

 手持ちのアイテムでは何の役にも立たない。無駄遣いに終わるだけだ。

 頼れるのは魔法で強化した近接武器くらいだろう。

 ヤントラのレベルは八十台なので多少はダメージが与えられるかもしれない。

 相手は慎重なアインズ。生半可な装備やアイテムでは太刀打ちできない。なによりレベル百の守護者達も居るのだから不可能とさえ言っていいだろう。

 とはいえ、ヤントラ個人としてはアインズは確かに敵ではあるが徒党を組んでまで倒したい相手ではない。

 アインズの方は徒党を組んで倒しにくるかもしれないが。その時はその時理論だ。

 

 戦闘は既に始まっているが兵士は天使に苦戦しているようだ。なおかつ魔法攻撃も受けている。

 この世界の人間は迫力は伝わってはいるが実力はヤントラが思っているものとは随分とかけ離れている気がした。

 一言で言えば弱い。序盤の戦闘シーンのようだ。のちのち激しい戦闘になるんだろうな、とぼんやり思った。

 弱いうちに身体を慣らしておかないとヤントラものちのち苦戦するようになる予感はした。

 装備が心許(こころもと)ない今は自分も初心者と変わらないか、と独白(どくはく)する。

 一旦、地面に降りて新たにスクロールを取り出す。

 マジックポイントの温存という意味もあるが、戦闘に際するスクロールはかなりの数を用意している。

 物理攻撃を主体としているので攻撃魔法はあまり無い。

 第六位階程度が最大戦力。

 アインズに対しては全てを無効化するくらい弱い。

 今はアインズではなく天使が敵だったなとヤントラは雑念を振り払う。

 空を飛ぶといってもかなり上空に居るわけではない。

 居たところで問題は無いが、ガゼフ達は苦戦するだろう。

 ヤントラは柄の長い、およそ四メートル以上はあるハルバードと呼ばれる武器を取り出す。色は血のように赤い。

 炎に対抗する魔法補助を追加する。

「さてと、蹂躙を開始んす」

 二度ほどその場でジャンプした後、脱兎の如く戦場に駆け出す。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ガゼフ達は馬が精神攻撃を受けたのですぐに降り立ち、天使を迎え打っていた。

 戦士にとって天使というモンスターはなかなかに厄介な敵だ。

 身体は物理攻撃に耐性があり、再生もする。

 魔法を付与した武器でなければ苦戦するのだがガゼフは技だけで撃破している。

 それは『武技(ぶぎ)』と呼ばれる戦士版の魔法のようなもの。

 精神力を消費して発動する大技。しかし、連発は出来ない。

 天使の数は最初より増えて今は三十体以上。

 それぞれ硬い身体をしているし、倒されても再召喚されてしまう。

「うぉぉぉ!」

 ガゼフも王国戦士長。武装が完璧なら今の勢力でも引けは取らないだろう。

 今は手持ちの装備だけで危機を脱しなければならない。

 そこへ弾丸の如く飛んできた者が居た。

 赤い槍が天使の身体を貫く。

「ヤントラ殿!?」

 空中で天使を蹴り飛ばして、すぐに次の標的に向かう。

 ヤントラのハルバードはとにかく柄が長い。

 重量軽減のデータを組み込まれた特注品だ。それでもランク的には中級ほど。

 地面に降りた後はハルバードの長さを利用して魔法詠唱者(マジック・キャスター)達をなぎ払う。

 間(かん)髪(はつ)を入れずに次の標的に向かう。

 殺したのかどうかの確認はしていないようだった。とにかく、倒す。それだけに特化した戦い方だった。

 意表を突かれた魔法詠唱者(マジック・キャスター)は互いに距離を取ろうとするがヤントラの速さが勝(まさ)り、逃げられない。

 各個撃破の戦法とはいえ狙われた者は確実に仕留められてしまう。

「縦横無尽。なんて無茶苦茶な……」

 一見すると戦いが有利になったような錯覚に陥るが、攻撃が大振りになるので体力勝負ではいずれヤントラがバテてしまうだろう。

 そうなる前にガゼフ達は敵を確実に倒さねばならない。

「……いや、盾としては上々か……。この機会を逃すな!」

「おお!」

 天使に向かってハルバードを投げる。当然のように天使は避けるが柄が長い為に避けられた瞬間には柄を掴んで飛び蹴りに入る。

 その瞬発力は人間業(わざ)ではない、とガゼフの仲間は思った。

 魔法で素早さを上げているのだろう。でなければ空中で投げたものをまた掴むといったことが出来るはずが無い。

 いや、突きと投げを併用すれば可能かもしれない、と思う者も居た。

 というよりは本当に投げているのかは柄が長くて確認出来ない。

 見惚(みと)れていたいところだが、魔法詠唱者(マジック・キャスター)はまだ残っている。

 

 ヤントラの攻撃は至極単純。

 突きの時に手を離し、スルスルとてのひらを滑る。そして、ギリギリのところで掴んでいるだけ。最初こそ、本当に投げたけれど。

 柄(え)の長い武器ならではの戦法だ。

 問題はガゼフ達を巻き込まない自信が無い事。

 ソロプレイヤーのヤントラにとっては無数に居るガゼフの仲間達が邪魔だった。

 一応は気を使ってはいるが、当たったら運が無かったとして諦めてもらう。

 ハルバードに突き刺した天使はそのまま地面に叩き付け、次の標的に向かう。

 それでも魔法詠唱者(マジック・キャスター)はまだ控(ひか)えているので、戦況はまだまだ分が悪い。

 ヤントラが倒した天使は五体。魔法詠唱者(マジック・キャスター)は七人。まだ敵のほうが優勢だった。

 殺しても良いのだろうが距離があって攻めるのは骨が折れる。確実に詠唱を阻害していく方がガゼフ達にとっては楽になるだろう。

 無秩序に戦っているように見えるヤントラだが、指揮官の姿も探していた。

 全てが魔法詠唱者(マジック・キャスター)だったら確実に撃破しているところだ。だが、皆殺しにするのは後々、問題になりそうだから考えつつ倒している。

 スレイン法国が『本当に敵なのか』という疑問があるからだ。

 ガゼフ達が正しい理由は無い。

 三国共に色々と思惑があって行動しているのだろう。それは理解している。

 だが、ヤントラは各国の事情を知らない。

 攻撃は既に始まったし話し合いもお互いする気はないようだ。

 ならばどちらかの指揮官を倒せばまた何かが見えてくるかもしれない。

 今のところカルネ村はリ・エスティーゼ王国の領土内。スレイン法国は他国の領内で戦闘を開始した。

 立派な大義名分が出来たわけだ。

 他国の領土内で勝手に武力介入している、というもの。その点で言えば異邦人たるヤントラも罪人になってしまうがガゼフに頼まれた以上は悪いほうには傾かない、と思う。

 

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