※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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G-10 男たちの戦い

 言いたいことはたくさんあったが何を言っても無駄な気がした。

 とにかく三人は問題の屠殺場に向かった。

 話しぶりから、本当に屠殺するための施設のようだ。

 入り口と思われる扉にたどり着くと扉の向こうから尋常ではない気配を感じた。

 一体だけではない。どれだけ居るのだろうか。

 それが真蒼の薔薇が泣いた原因なのだろう。

「返り血で汚れると思いますから、三人とも裸で戦った方がいいですよ。風呂もありますが……。側にメイドが居ますが、その子は殺さないで下さいね。お腹が空いたら、そのメイドにご飯と飲み物を貰ってください。充分な量は持たせてあります。三人の武器はこちらです」

 それぞれロングソードを渡された。

「切れ味がとても良いです。同士討ちしないようにたくさん倒してくださいね」

 三人とも防具だけは装備したままだった。

「さっきあげた鉱物はここに置いていって下さい。中で落とすと大変なので」

「………」

 三人とも言葉が無かった。

 おびただしい気配が向こうにあるのだから。

「ちなみに慣れたガガーランさんは一番討伐しましたよ」

 と、言いながら扉が開かれる。

 そこには赤一色で彩られた殺意の塊、しかなかった。

 王国どころか世界を滅ぼす赤い軍団が待ち構えていた。

「怖気づきましたか?」

 動かない三人を軽々と一つずつ中に入れた。

 そして、ヤントラも入ってから扉を閉める。

「見ていてあげますから、存分に戦ってください」

「……帰りたい……」

 そりゃ泣くわ、とブレインは理解した。

 並みの量では無い。どれだけ居るのだろうか。

「男三人なので一万体を超えたほどですね。今回用意した分はガガーランでも一人で倒せるようになりましたよ」

「……ウソ!?」

「最初はみんな恐がりますが、百体ほど倒していくと慣れていくものです。ルリマリスも五百体は倒したかな? 相当時間かかりましたけど。皆さんはどれだけ早く倒しきれるでしょうか?」

 楽しそうにヤントラは言う。というよりは、これだけの敵を前にして笑っていられるのが信じられない。

「ほ、本当に無抵抗なんだな!?」

「反撃したら部屋が壊れるので。さあさあ、頑張って」

 裸になるもう一つの理由は失禁対策だろう。

 真蒼の薔薇の参加者はきっと漏らしまくったんだろうな。

「握力が無くなったら休憩に入ります。さすがに初回で倒しきるのは無理でしょう」

 ガゼフはアインズ・ウール・ゴウンと対峙した時とは別の恐怖を感じていた。

 握力が無くなる。

 つまりはあのモンスターは身体が硬いのだ。それを千体以上も相手にしていれば手の感覚が麻痺して来るだろう。

 休憩やマッサージ無しで戦い続ける事は疲労を感じる人間にとっては重要な問題だ。

「……全て倒せばいいのだな?」

「出来れば三等分で。クライム君もしっかりと倒すように。楽すると経験になりませんよ」

「は、はい」

 まずは三方に散って攻撃を始める。

 無抵抗に攻撃を受けてくれる。それはいい。だが、一撃で殺しきれない。

「クソっ! これは、なかなか」

「押しつぶさないように言ってあるので飛び込まなくてもいいですよ」

 普通に言うヤントラ。

 クライムも攻撃するのだが刃が途中で止まる。

「切れ味悪いんじゃねーか!」

「だったら自分の武器で試して下さい」

 と、ヤントラは部屋を出てブレインの武器を持って来た。

 受け取ったブレインは使い慣れた武器で切りつける。すると、先ほどの武器よりも刺さらない、というかかすり傷しか与えられない。

「はっ!? なんでだ!」

「君が弱いからです。モンスターは強いものほど物理攻撃に強くなるんです。例えば上位物理無効化とか。渡した武器は防御スキルを突破できるもので、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)程度でも充分切れるんですよ。ちなみに、アダマンタイトよりも良い武器です」

 ブレインは呻いた。

 こんな理不尽があってたまるか、と叫びたい気持ちでいっぱいだった。

 ガゼフも渡された武器を改めて確認する。

 切れ味自体は悪くない。モンスターが強いだけだ。

 それに倒せないわけではない。

「じゃあみんな止まって」

 と、ヤントラが手を叩くと全ての赤帽子の小鬼(レッドキャップ)が止まった。

「道理でティア達が時間がかかったわけだ。クライム君、ちょっと見ててね」

「はい」

 クライムはヤントラに武器を渡した。

「慣れれば、これくらいになります」

 それはいとも簡単に赤帽子の小鬼(レッドキャップ)が立ったまま細切れになっていく様子だった。

 薄くスライスするように。頭から右、左と刃が静かに通っていく。

 首が無くなり両腕が落ちていく。それはモンスターというよりわら人形だったのではないかと思えるものだ。

「この武器はこれくらい切れ味の良いものなんですよ。じゃあ、頑張って」

「………」

「……まじで?」

 ブレインどころかガゼフも信じられない様子で見ていた。

「殺して楽しむわけじゃないので。実際にこれだけの軍勢が攻めてきた場合、すぐ諦めて殺されますか? クライム君も頑張って。最初から飛ばすとバテますが武技などは簡単に使わないように」

「……はい」

 ヤントラが軽く手を叩くとモンスター達はいっせいに動き始める。

 それは揺れるように全く動かないモンスターに比べれば何かしでかしそうな雰囲気をかもし出す。

 不安を相手に与えるような動きだった。

 クライムだけヤントラが適度に斬った赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の止めを刺していく。

 それでも手に重い衝撃が伝わる。それを苦も無くやってのけるヤントラは見た目以上に凄い人だと感じた。

 他の二人は一体倒すのに苦労していた。

 武器が悪いわけではない。自分達の動きが悪いのだ。

 強いモンスターに抵抗しようとする弱い存在。それが良く分かる。

 十体ほどで手が震えてきて武器を落としそうになる。

 これが本当の戦場なら命取りだ。

 それを真蒼の薔薇は体験してきたのだろう。

 女たちが頑張っているのに男が負けていては沽券にかかわる。

 ガゼフは武技を使い、果敢に攻めていく。

 ブレインも同様だ。

 愛用の武器ではないけれど切れ味は申し分ない。これでも殺しきれる。

「ちぇい!」

「ふんっ!」

 やる気を出した二人に負けじとクライムも奮闘する。

 

 数千体という数の暴力に簡単には抗えない。

 それでも善戦した三人に休憩を与える。

 そばの扉が開き、中にもう一人メイドが控えていた。

「ゆっくり休んでください。段々と戦いが楽になるはずです。クライム君も手助けが要らなくなる、かもしれません」

「はい」

 数十分の休憩の後で戦闘が再開される。

 下手な訓練よりキツイ。

 素振り五百回が無駄な行為に思えるくらいだ。

 それでも不思議と剣を振るえている。最初よりは、という意味で。

 ガゼフもブレインも気付いてきた。

「おいおい、なんだこりゃ。身体が軽くなったのか?」

「実戦に優る訓練は無し。この世界はモンスターの遭遇率が低いんです。それでは強くなれませんよ。冒険者が強いのはその辺りが関係していると思いますが……」

 そう言われると納得できるものがある。

 一般兵士より冒険者の方が強い。それは帝国も同じことだろう。

 それに気付くヤントラは本当に何者だろうかと。

「私は皆さんと戦いませんから、好きなだけ強くなってください。後世に残せるものはそれくらいです」

「……ヤントラ殿……」

「それと、すみませんが必殺技は教える事ができません。私自身、その手の技は不得意なようで……。自力で覚えてください」

 ヤントラは深く頭を下げた。

「ええっ!? 武技とか無いんですか?」

 たしか前も技が無いと聞いていた。

 技なしで物凄い実力を持っているとは、相変わらず不思議な人だとクライムは苦笑した。

「色々と覚えるの面倒くさいので。普通に攻撃した方が早いです」

 それだけで赤帽子の小鬼(レッドキャップ)を簡単に倒す辺り、口だけではないのだが変な人だ。

「うちでは変態スキルと呼ばれるものは覚えましたよ」

「変わった御仁だとは思っていたが……。桁違いのようだな」

 と、ガゼフは話しながら敵を一体、一体と倒す余裕があることに驚く。

 どんどん討伐が楽になってくる。楽というか刃の通りがとても良い。

 もう少しで一太刀で複数体を切り伏せられそうだ。

 それはブレインも同じようで刃が途中で止まる深さがどんどん深くなるのが感触で分かる。

 この調子なら数万体も無理ではない気がしてきた。

「このモンスターより強いモンスターが居るのだな?」

「裸の美女が。服を用意する余裕が無いので仕方が無いのですが……。それでも赤帽子の小鬼(レッドキャップ)より遥かに強いです」

「いいねえ。どんなモンスターなんだ?」

「雪女郎(フロストヴァージン)というモンスターを数体」

 とにかく裸美女の為にブレインは斬って斬って切りまくった。

 最後までいけるかと思ったが疲労には勝てず。ガゼフも善戦はしたが肉体的な強固さの前では武技でも限界はあるようだ。

 疲労しない防具を身につけていればまだ戦えたかもしれないが。

 クライムも息が上がってきた。

 実際は休憩など出来ないのだが、こんな死地はめぐり合いたくないだろう。

 食事を取って排泄も済ませ、戦闘再開する頃には日が暮れ始めていた。

 屠殺場の天井は塞がっているので外の様子は分からないが、随分と日にちが過ぎているような不安が過ぎる。

 休憩を挟んでも数万体は多すぎた。

 どんどん効率的になるが、倒しても赤い殺意が減らない。

 自己増殖でもしているような気がする。

「……たった三人で敵国の兵士を倒している気分です」

「そうだな」

 圧倒的戦力を切り崩す三人。

 普通ならばありえない。

 敵が無抵抗だからこそ成り立つのだ。これで小さな斧でも持っていれば形勢は変わっているだろう。

 クライムも赤帽子の小鬼(レッドキャップ)を切り裂くのに慣れてきたが肉体的な強度があるため、疲労感がすごい。

 三人が苦労して倒した数は既に千体は越えているだろう。だが、まだかなりの数が目の前に控えていた。

 確かに早くて三日はかかるかもしれない。それぞれそう思った。

「そろそろ限界ですか?」

「数が……多すぎる」

 まずガゼフとブレインに風呂で休んでもらう。

 一人残されたクライムは回復魔法をかけられた。それもかなり強力なものだろう。

 一気に疲労が解消さていくのだが、蓄積された筋力の効果が失われてしまうおそれがあった。

 魔法とポーションの効果を勘違いした事は城に帰ってから気づいた。

 試しに赤帽子の小鬼(レッドキャップ)に切掛かると持っていたよりは刃の通りは悪くないと思った。

 強くなったのであれば筋力の効果が失われても攻撃力までは完全に失われたりはしないようだ。

 ヤントラは長大な斬馬刀『殲剣ヴァージンカルマ』をクライムに渡す。

 周りに気をつけて一気に横薙ぎに振りなさい。

「はい! でやぁ!」

 ドズドズっとモンスター達をまとめて斬り付けるが武器が大きいので振るだけで大変だった。

「〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉もう一度」

 魔法により筋力を上げられたクライムはもう一度、大剣を降りぬく。今度は少し楽に切り裂けるようになった。

 雄たけびを上げながら何度も振りぬく。

 分断されていく赤帽子の小鬼(レッドキャップ)達。

 一体ずつ倒すのが困難だったものがどんどん効率が上がっている。

 気が付けば剣を構えたまま走っている。そして、振りぬく。それだけで十数体は分断されていく。

「クライム君には大きすぎる武器だが、結構倒しているね」

「身体が持っていかれそうです」

 周りにはまだ敵は残っているがかなり倒してもいるだろう。

 武器自体は重いので使いこなすのに時間はかかりそうだが、この調子ならもっと早く全滅させられるだろう。

 数十分の後に息が上がってきた。

「よし、お疲れ様。一気に討伐数が増えたね。君も休憩しておいで」

「はい。……では、お先に失礼します」

 三人がお風呂に向かった後で赤帽子の小鬼(レッドキャップ)達は一斉に壁際まで走って移動した。その後にどこからとも無くメイド達が現れて死骸を運び出し、飛び散った血を洗い流していく。

 床がタイル張りなのですぐに綺麗になっていく。その間、ほんの数分の出来事だった。

 三人が出てくる間に赤い色に変化をつけるために他のモンスターを追加する。

 ガゼフ達が風呂から上がり、屠殺場に入ると異様な一団が増えている事にそれぞれ驚いた。

「今回はあくまでモンスターを倒すだけが目的です。実際のモンスターは動きますし、反撃してきますし、武器も持っています。それを忘れていると危険ですから、それらは日を改めて挑戦してもらうとして、まずは全滅が目標です」

「おう」

 最初の時より戦える自分に驚く。

 戦うたびに強くなっているのが確かによく分かる。

「では、頑張って下さい。まだ六時間しか経っていませんよ。一日は長いです」

「うえっ!? 二日目とかじゃないの!」

 数日は経っていると持っていた。

 とにかく、三人は目の前に迫ってくる敵を倒し続けた。

 ガゼフは戦う前に気付く、床が綺麗であることと肉片などが片付けられている事に。

 これだけのモンスターを倒せば金貨も溜まるだろう。

 ここは恐ろしい場所だと改めて感じた。

 武技などを使っても良いが壁や床は壊さないように言われた。

 数千体なので残りはまだ数百体は居るだろう。

 三人とも今は効率よく敵を倒していた。

 効率を上げるため『殲剣ヴァージンカルマ』をブレインとガゼフに与え、筋力増強の魔法を唱える。

「互いに斬らないように頑張って下さい」

「おうよ」

 歴戦の戦士はすぐに武器の扱いになれ、一気に敵の数を減らして行った。

 二人とも武技も使えるのでより効率がいい。

 瞬く間に数百体を屍に変えていく。

 その様子にクライムは呆然となって見つめていた。

 華麗に戦う戦士の姿はとてもかっこよくて美しかった。

「クライム君も頑張って」

「あっ、はい」

 武器が良いのか、よく斬れる。

 最初から持っていても大して斬れなかっただろう。それが一振りでなぎ払えるのだから面白いものだ。

 一時間もすれば敵は数百体まで減っていた。

 残りはクライム一人で倒す事になり、三十分後には全滅させる事ができた。

「初回でここまで出来たのは素晴らしいです。今日は終わりにして明日、更なるモンスターに挑戦してもらいましょう。それが終われば終了です。武技とか覚えるわけではないので、大したことはないのですが」

「新しい技でも出来そうだよ」

「よ、よくあれだけのモンスターを倒せましたね、我々は」

「勝てないと思うのは浅はかだったか」

 いや、そうではないとガゼフはすぐに自分の考えを否定する。

 何度、休憩を挟んだだろうか。

 普通の戦闘なら何度も死んでいる。

 自分たちは生かされただけだ。

 

 返り血を洗い流し、持った鉱物も持って地上に戻れば夜空が広がっている。

 空気がとてもおいしかった。

 死地から戻ったのは戦争以来の気分だろう。

「職人達が変身してモンスターになったりしませんから、安心してお休みください」

「う、うむ」

 ヤントラは宝物庫に戻り、ガゼフ達は眠る前に軽い鍛錬の後、食事と風呂を済ませて無理についた。

 酷く疲れていたためか、三人とも熟睡した。

 翌朝になり、身体がやけに重く感じる。

 日ごろ滅多に使わない筋肉を酷使したためか、筋肉痛がわずかにあった。

 それでも朝食時には鍛錬が始まる。

 確実に筋力はついているだろう。

 筋力以外部分が鍛えられていないところだ。

 持久力はあると思っていたが強い敵にはまだまだ通用しないようだ。

「……しばらく赤い敵は見たくないな……」

「同感です」

 鍛錬が終わる頃にヤントラが迎えに来た。

 三人共に無言のまま死地である屠殺場に向かう。

 今回の相手は美女だが、確かに美しい女性だった。それも裸だ。

 雪女郎(フロストヴァージン)というモンスターが各五体ずつ。

「赤帽子の小鬼(レッドキャップ)のように簡単ではありませんが、頑張って下さい」

「……本当にあれを倒すのか?」

「そうですよ。氷系の立派なモンスターです」

 クライムが先行し、切りかかる。だが、剣が途中で止まる。

 傷はなんとか付けられたが赤帽子の小鬼(レッドキャップ)とは比べ物にならないくらい硬い。

 数度の切り込みを加えても薄く斬れるだけだ。

「実力差があると攻撃もここまで通らなくなります。甘く見ているとどんどん死にますよ」

「はい!」

 たかが五体の女性なのに勝てる気がしない。

 ガゼフも武技などを使って切りかかるが確かに硬い。

 単純に物理防御が厚いのだろうが、以前カルネ村で戦った天使達のようだ。

 攻撃に転じればどんな災厄が起きるのか、想像したくない。

「圧倒的な相手と戦うのも良い経験でしょう。弱い敵ばかりでは成長が遅いです」

 氷系ならば炎が弱点だが普通の武器しかない場合は剣技のみで倒さなくてはならない。

 か弱い女性にしか見えないのに肉体的強度は厚い。

 数度の切れ込みも強固な弾力で弾き返される。

 アインズ・ウール・ゴウンならば傷一つ付けられないと言っていた意味がよく理解できる。

 『剃刀の刃(レイザーエッジ)』でも無ければ無理かもしれない、と思ってしまう。

 一体でも苦戦するのに五体も居るのだから笑いそうになる。

 ブレインも全ての斬撃が当たっているとはいえ切り傷程度しか与えられていない。

 深く切り込めない。

 武技を使ってこの程度なのだから、自分の知っている化け物には到底倒しようが無いのかもしれない。

 大きな胸を揺らして進む白雪のモンスター。

 その乳首でもと思うのだが、切れ味の良い武器が乳首で止められる。

 多少は切れているようだが、滑稽すぎて力が抜けてしまう。

 クライムは切れなければ突きで刺さらないか試した。

 少しへこむがすぐに押し返される。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)を全滅させた自分たちにはまだまだ到達し得ない化け物が居ると理解してがっかりした。

「ガガーランは倒したのに、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の数が足りなかったのかな?」

「倒したのか、あの脳筋は!?」

「苦戦はしましたが。武器も皆さんと同じですよ」

 よく倒せたな、とブレインは感心した。

 ヤントラは三人に筋力増強をかけた。

「もう一度頑張って下さい」

 ブレインは武技を使って切れ込む。

 乳房が横一文字に切り裂かれた。

 手に重い感触はあるが、先ほどよりも深く切り込めた。

 一撃にかけてばかりでは時間がかかりすぎる。それは分かっているのだが攻撃力が足りない。

 クライムも大上段からの一撃で女性の顔を縦に切り裂いた。

 モンスターは悲鳴も上げず無表情のまま動き続ける。

 全裸の女性を無抵抗で倒すのは気が引ける。それはたとえモンスターでも。

「す、すみません。私はここまでのようです」

 ヤントラは軽くため息をつく。

「優しいクライム君には荷が重いか……。でも、今の段階で傷を付けられただけ相当な物理攻撃がなければ無理だ。よく頑張った」

 クライムの担当するモンスターは引き下がった。

「じぇい!」

 ガゼフは雪女郎(フロストヴァージン)の腕を切り飛ばした。

 細い腕でも剣に伝わる感触はとても重かった。攻撃に転じていたなら相当な破壊力を生んでいたかもしれない。

 渾身の力でも斬り難い身体をしているのだが、まだ後ろに無事なモンスターが控えている。

 これも倒すのに時間がかかるだろう。

 数千体も居れば勝てる見込みは無いかもしれない。

 ガゼフは様々な武技を用いて切り刻む。

 見るも無残な姿になってもまだ歩き続ける。

「なんというタフさだ」

 三人で一体を倒すがやっとかもしれない。

 それをガガーランは一人で倒したのだろうか。信じられない。

「ガガーランはこのモンスターと同じくらい強い別のモンスター数百体を一時間くらいで倒しました。皆さんも数をこなせば無理ではないと思います」

 一時間で数百体も美女を倒すとは。ただただ驚いた。

 というか数百体も居るのか、と驚く。居るというよりは増やしたのだろう。

 モンスターを増やすヤントラは更に化け物だろう。

 何度も思ったがヤントラとは恐ろしい人間だ。

 

 ブレインとガゼフは一生懸命になって一体を倒したのは一時間くらいたった後だろう。

 滅多切りに近い状態だ。

 僅か一時間とはいえ休憩を挟み、続けるか撤退するか考える。

 クライムは今の段階ではあのモンスターは倒せないと判断した。

 時間をかければ一体ずつは倒せるだろうが。なかなか大変だと苦笑する。

 三人が休んでいる間にヤントラは赤帽子の小鬼(レッドキャップ)を一体だけ連れてきた。

 手に武器を持っていることから無抵抗な相手では無さそうな気がした。

「ガゼフさん、せっかくですので。本当の赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の力を見るのはどうですか?」

「そうだな。相手の実力を知ることは大事だ」

「こちらから攻撃はほぼしませんが防御と回避だけします。多少の打撲はあり、ということで」

 そう言うと赤帽子の小鬼(レッドキャップ)は了解の合図をヤントラに示す。

 ガゼフは赤い帽子を被ったモンスターに剣を向ける。すぐに赤帽子の小鬼(レッドキャップ)は移動を開始した。

 今まで無抵抗だった相手が素早く動いたので身体がうまく反応しない。

「!?」

 攻撃するふりしては逃げていく。とても素早いモンスターだ。

 急いで距離をつめようとするが相手の方が上手だった。

 簡単に倒せていた相手が実力を見せた途端に剣術が通じなくなるのは戦闘においては命取りだろう。

 それが数万体も相手となれば絶望的よりも酷いだろう。

 人類になすすべがあるのだろうか。

「これくらい手ごわい相手と戦うために鍛錬を積んでいるのでしょう? 挫折するのは早いですよ」

「そうだな」

「今回の鍛錬はここまでにしておきましょう。急な成長は身体に悪いかもしれませんし。またいずれ機会があれば……。手ごろなモンスターが少なくてすみません」

「なかなか経験できない事を経験させてもらった。それは素直に感謝している」

「次はガガーランを超えてやるからな」

 自己鍛錬も必要だろう。

 信じられないモンスターは確かに存在する。

 自分たちはまだモンスターの本当の恐ろしさに全然触れていないのだと分かっただけで充分だろう。

 クライムも剣の通じない強敵に驚いていた。

 今のままではラナー王女を守れないかもしれないが、強くなる事は諦めたくなかった。

 最後にヤントラはモンスターを一瞬でバラバラにする妙技を見せた。

 それはとてもいとも容易く行われた。

「こんな私でも実力的にはまだまだ中くらいです。上には上が居ます。その程度を理不尽と思わない方が良い。なにせ私はろくに必殺技が無いんですから」

「……それで中くらいとか……、ヤントラ殿の世界とは凄まじいのだな」

「そうですよ。武器は返してくださいね。それは斬り味だけはいいだけで色々と弱点がありますから。対抗手段を持つ相手には脆(もろ)いところがあります」

「これでもか?」

「ある特定の武装には歯が立ちません。良い武器なのですが上には上が居るんです」

 神器級の防具には歯が立たないなど。

 装備品が無いからこそ真価を発揮する。

 

 返り血などを拭(ぬぐ)ってから三人を地上に上げる。

 ヤントラは帰りの挨拶をした後、地下に潜り色々と増産体制を整えていく。

 それから数日後には中の様子を聞きつけたラナー王女がクライムを伴ってお忍びでおぞましい施設の『マグヌム・オプス』に訪れた。

 ローブをまぶかに被り辺りを見回す。

 特に興味を引くものは無いのだが大きな倉庫はよく目立つ。

「職人達は普通の人間のようです」

「そうですか」

 地上部分に異常が無ければ地下が異常なのだろう。

 秘密裏に入ると何が起きるか分からないがメイドが潜んでいるのでワーカーや盗賊の侵入があれば撃退されるのだろう。

 正しく小さなナザリックかもしれない。

 地上施設の入り口は一つしかなく、そこに向かうと簡単に入れた。扉に鍵がかかっていないようだ。

 一階部分の客室でくつろぐ。

 地下へ通じる入り口がなぜか見つからない。

 確かに階段があったはずなのに不思議だった。

 二階への階段はあり、クライムは一応確認してみたが誰も居なかった。

 一階の宝はしっかりと置いてあった。

「無用心なのか、慎重なのか……」

「……面白い建物ですね」

 下に行くには床を破壊すればいいのかもしれないけれど、そう簡単には大事なものは見せない、ということだろうか。

 見た目以上に賢い御仁なのかもしれない。

 クライムが部屋中を確認していると仮面を被ったメイドが二階から降りてきた。

 二階は確かに誰もいないことを確認したのに。

 クライムは髪の毛が総毛立つ思いを感じた。

「……不可視化ですね」

 ラナーの言葉に仮面のメイドは口元に手を当てる仕草をするが声は出さない。

 声が出せないのかもしれないとラナーは思った。そう思うのは身振り手振りで先ほどから色々と合図を送っているためだ。

 二人はメイドが指し示すところに向かうと階段があった。

 そこもクライムは確認した。なのに急に部屋の一部が変化したとしか思えない小部屋が出来ている。

「……ラナー様。……相当危険かもしれません」

「面白いじゃないですか。行きますよ」

 軽い足取りでラナーは階段を下りる。

 本来は従者であるクライムが先行して調べていくのだがラナーがどんどん先に進んでしまう。

「ラ、ラナー様。あまりお急ぎになるのは危険です。ここには人間を金貨に換える危険なアイテムがあるそうですから」

「あらあら。そうだったわね。箱のようなアイテム、だったわね」

「は、はい。高い位置にありましたので詳しくは見る事ができなかったんですけど」

 そう言いつつも地下一階の広い空間に降り立つ二人。

 そこは地上とは比べ物にならない雰囲気をかもし出し、明らかに空気が違う。

 おどろおどろしい邪悪さがあった。

 ラナーは寒気を感じたが耐えられないほどではない。

 この場所が目的地なのだから。

 

 『マグヌム・オプス』は四つの区画から出来ている。

 その中の一つが入り口を兼ねた地下に拷問室があるという一の宝物庫。

 その地下一階には複製された人間が置いてあるという。

 広さは二百五十メートル四方はあるのではないかという広さがある。

 大きめの部屋が規則正しく並んでいるし、通路の幅がとても広い。

 下は逆に部屋が小さく通路も狭いらしい。

 先行していたメイドが手招きで合図してきた。

 気が付けば周りに仮面を付けたメイドが無数に通路を塞ぐ形で立っていた。

 それも数十人以上。

 これだけの人数が誰にも気付かれずにそこかしこに潜んでいると思うと生きた心地がしない。

 奥に進むと帰り道が分からなくなりそうな気がした。

 軽く振り向けば既に上り階段が見当たらない。

「……詰みましたね……」

 精神的に追い詰める建物とは思っていなかった。

 ヤントラは思っていた以上に秘密を持っていて簡単に全てを晒してなどいなかった事が証明された。

 ここがこれだけ厄介なのだからナザリック地下大墳墓も相当厄介なところだろう。

 人間の職人達が作り上げたはずなのだが、ヤントラが改造を施(ほどこ)したのだろう。

「ちょっと脅かしすぎましたか?」

 明るい調子の声が聞こえた。

 気か付けば風景ががらりと変化していた。

 広大な空間に見えていたものがぎゅっと縮んだようになり、地上への階段とそこから漏れる天然の光りが見えた。

 メイドも一人だけは残っていて、あとはいつ消えたのか分からない。

 音も無く姿を現したのは施設の主であるヤントラだった。

 すぐ近くに居たようだが、全く恐れ入る、とラナーは驚きつつ感心した。

「ちょっとした幻術です。は(・)ま(・)る(・)と恐いんですけど。罠はありませんからご安心を。あと物騒なアイテムは遠ざけあるので大丈夫ですよ。ようこそ『マグヌム・オプス』へ」

「勝手に入ってしまい申し訳ありません」

「いえいえ。王女には精神的にも良くないところかもしれませんが、部屋を見ていきますか?」

「はい。そのために来ました。……それよりこの施設は何か目的でもあるのですか?」

 モンスターを大量に生み出して戦士達に戦わせる。宝物庫の宝はどうやって生み出されているのか、などなど。色々と不明な部分はあるけれど。

 その施設は本来は何のために造られているのだろうか。

「自前でアイテムを得るための施設、でしょうね。減る一方だったものを増やす方法を見つけないと財が無くなってしまいますから」

「働いて給金を得るのではなくて?」

「貨幣価値が違う、ということもありますから。アイテム作成には膨大な金貨が必要なんです。それを扱える人材を私は持っていません。ナザリック頼み、ということですね。今はすごいことになってますが……」

 ナザリックを必要としない施設を作ろうとしていたのか、とラナーは思い至る。

「まだ試行錯誤中です。後世の人間にも何か残せたら、とか色々と考えていたりしますよ。すっかり冒険者らしくなくなってしまいましたが……」

「やはり『つまらない』冒険になってしまいましたか」

「多少は楽しくやってます。倫理観の無い施設ですが……。元より長く旅が出来るとは思ってなかったので。殺す事も無く、世界を潰す事も無く、割りと忙しく過ごせました」

「楽しめたのですね。それは良かった」

「ついつい調子に乗ってやりすぎてしまうくらいに」

 ヤントラは苦笑する。

 ラナーは談笑するために来たわけではない。ここからが本題だ。

「部屋を拝見させていただけますか?」

「どうぞ」

 メイドが扉を開ける。

 そこにはベッドはなく、代わりにガラス容器が横たえられていた。

 壁際の棚には小さなガラス容器がいくつか置いてあった。

「標本室、とでもいうんでしょうか。集めた素材を保管する部屋です。一杯になれば下の階も使うかもしれませんね」

 見せられた部屋にある容器には何も入っていなかった。

 大きい容器には人間大。小さな容器は眼球とかを入れるのだろう。

 そう考えると確かに標本室だろう。

「……では、ラキュースの部屋を見せていただけますか?」

 ヤントラは軽く手を叩いた。それだけでメイドが動いていく。

「隣りの部屋です」

 ラナー達はメイドが控えている部屋に向かう。

 黙って扉を開けるメイド。そして、その中があらわになる。

 中身の入っている容器が並んでいた。

 それも見る事を躊躇(ためら)うようなものばかり。

「……思っていたものと……、違いますね……」

 クライムは一目で吐き気を覚えた。

 ラナーは部屋の中に一歩進んだ。

 大きな容器には眠っているように佇むラキュースの全身が溶液に浸かっていた。

 棚には眼球の他には下腹部の内蔵らしきものが入っている。それと乳房と妙な丸い肉の塊。

 それらはよく見て何なのか理解する。

 一言で言えば悪趣味だろう。

 悪魔の趣味とも言う。

 だが、それらはとても綺麗に整頓されていた。

「……記憶は宿っていないのですね」

「宿らないと思います。さすがに都合よくはいかないようで」

 それは少し残念だとラナーは思った。

 寝ているラキュースは記憶が真っ白の肉の塊という事だろうか。では、メイド達はどうして動いているのだろうか。

 あれらも複製体だろうとラナーは予測する。

 それは答えられない秘密だろう。そこまで聞いても意味は無い。

 見る者は見たので約束は果たそうとラナーは軽く息を吐いて覚悟を決める。

「クライム。少しそこで待っていて下さい」

「ラナー様?」

「命令ですよ」

「わ、分かりました」

 ヤントラはクライムの側にメイドの一人を待機させてラナーと共に部屋の中に入り、扉を閉めた。

 それから数十分後に音が聞こえなくなり、地下の静寂が深くなった。

 気が付けばメイドは三人ほどに増えていて一様(いちよう)に片膝をついていた。

 お腹が空いていないか確かめようとしているのか、食事がクライムの目の前に置かれた。

「あ、すみません」

 メイドはずっと無言だった。

 続いて飲み物も差し出された。

 一時間後に扉が開くとラナーがフラフラした状態で出てきた。

 すぐにメイド達は食事を差し出してきた。

「だ、大丈夫……ではないですね。すみません、ありがたく頂戴いたしますわ」

「ラナー様。何があったのですか?」

「複製体の秘密を知りました。……それはとてもおぞましき手法のようです」

 ラナーは自分の意思で動く手足を確認するが信じられない。

 複製の方法は簡単に出来るものではないだろう。

 それをやってのけるヤントラは悪魔かもしれないが、とても慈悲深い存在かもしれない。

 ラキュースの肉体が綺麗に保存されているのだから、他もそうなのだろう。

 ただし、それは彼らの中であって、ラナー側からすれば慈悲でもなんでもない。

 たくさんの複製体で様々な実験をするのだろう。

 それがクライムが経験した数千体のモンスターの正体なのだ。

 凶悪なモンスターでさえも恐れるだろう、尋常ではない方法。

 それが表に出れば世界は滅びるかもしれない。

 アインズの超位魔法とは別の意味で危険だろう。

「……一応確認させてください。……食べませんよね?」

「食べませんよ。食料は別に困ってないので。大丈夫ですよ」

 苦笑しながらヤントラは言った。

 それだけ聞いて安心したのか、ラナーは宝物庫を見る事無く地上に上がる事にした。

 ヤントラが道案内し、無事に地上に上がれただけで幸せを感じられた。

「世界は取らずに静かな楽園でも造りますよ。……無反応や何も喋らないのは寂しいのですが、それはまだ色々と研究していきます」

「恐ろしい方ですね」

 ラナーの言葉にヤントラはただ苦笑する。

 自分のやっていることは理解しているようで、狂人と言うにはいささか疑問が残るが、彼の中では未知の発見なのかもしれない。

「本物と偽者の区別がつかない問題はあるでしょう。そうそう都合よくはいきませんよ。種族的に可能な者はいるのですが……、そこまで再現する気はありません」

「我々は不安ばかり口にしているようですね。……必要な数のモンスターを用意するのは容易な事ではありません。その点では素晴らしい施設だと思います。……侵入者対策は恐かったですよ」

「すみません。実際は入り口はしっかり閉じますから」

 何度か深呼吸すると気持ちがだいぶ落ち着いたラナーはクライムと共に王都に戻る事にした。

 多くを語っても仕方がないと判断したのだろう。

 

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