ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
下土月も中ごろが過ぎる頃に城塞都市エ・ランテルでは魔導王を歓迎するための用意が整えられ始めていた。
戦場で散った兵士の何割りかはそれぞれ自宅や街に戻ったようだが、それでも戻らなかった兵士の家族は多く居た。
いくら魔法でも完璧とは行かない。
その者達の為に王国は慰霊碑を作ることにした。
それらとは無縁な生活を送るヤントラは自らの施設の出来栄えを色々と模索していた。
もはや一人で国を作ることも可能かもしれない。
失敗すれば永劫の孤独。
ナザリック地下大墳墓も似たようなものかもしれないが。
血の
広い土地はあるだけ欲しいが、買うより造った方が迷惑がかからないだろう。
もっとたくさんの素材を集めなければいけない。
まずはトブの大森林に向かい、様々なモンスターを狩っておく。
ハムスケにも協力してもらおうかと思うが留守がちだった。子孫が欲しければ、と思ったが鼠算式に増えては恐いので諦める事にした。特にネズミ系モンスターや虫系は危ないかもしれない。
噂に寄ればアゼルリシア山脈には『
竜王国や評議国にも居るようだが、今の段階では倒すのは早計かもしれない。
アンデッドは集めても仕方が無いだろうから次は東に移動して帝国をかすめて自宅に戻る。
帝国の四騎士達を手に入れる、という案もあったが軍事拠点を襲うのも悪くは無いかもしれない。
そこまで強引な手は取らなくて良いだろう。
無用な争いは避けておかないとまた色々と面倒くさくなる。
タダで貰うのも悪いので鉱物資源を持っていこう。
ヤントラは宝物庫から色々と金になりそうな資源を運び出す。その間に
それからすぐにバハルス帝国の首都アーウィンタールに訪れる。
検問所で引っかかるが観光と言っても信じてくれず、拘束される。
戦争が終わっても王国はまだ敵なのだろう。
一人でやってくる人間にいちいち驚かれても仕方が無いのだが、仕方ない。一人で国を滅ぼす化け物だし。
暢気に待っていると帝国の使いの者が何人か訪れた。
そのまま馬車に揺られての移動となる。
久しぶりの馬車のせいか、異常に具合が悪くなってきた。
ガタガタと揺れる感覚はヤントラの弱点だろう。
魔導国と同盟関係ということだが市民たちが急にアンデッドになったりはしていないようだ。
マーレの
質問は無く、黙って城まで連れて行かれるのは罪人の気分だろう。
今のところ帝国で悪いことはしていない。
城の城門に降り立つと開放された、というすっきりした気分になる。
首を軽く傾けてから兵士たちの案内で前に進む。
これだけの城を作ってみたいものだが、移動が大変だ。
部下が居るのは楽なのだろうが、出来れば転移での移動が可能だと良いな。
戦勝国のはずなのに物々しい警備。それは決して油断していないという表れだろう。
前に来たときと雰囲気が変わっている、ということはなく見覚えのある通路で安心した。
今回は黙って従っているが、特に問題は無いだろう。
護衛兵士達が重々しい扉を開いていく。
豪華な装飾が施された室内空間。いくつか参考にしたいところだ。
そんなことを考えながらヤントラは前に進み、軽く片膝をつく。
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
「……挨拶は良い。……ふー」
バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは少し疲れた様子で言った。
玉座に座って肩肘を突く姿は苛立ちというよりは不安が一杯でため息しか出てこない、ような有様だった。
「久しいな、アインドラ卿……だったか。今回はなんだ? 報復か?」
無駄な議論をしない姿勢は今も健在のようだ。
「報復をちょっとだけ考えました。城の窓を一枚割って逃げるとか」
ヤントラの左右には豪華な鎧をまとった屈強そうな重騎士達が並んでいた。
皇帝の后は居ないようだった。
「う~ん。……苛々しそうな報復だな。……戦争はほぼそなたの言う通りの結果だったそうだな。……たった一人でたった一つの魔法で……。戦争には勝ったが……、我々は何か大きな間違いを犯したのかもしれない」
「よくお分かりで。
皇帝は
説明を受けていたはずなのに信じられなかった。
あれはあれで脅威の存在だろう。
「それで……なんだ。慰謝料か?」
「くれるのであれば……、貰いますよ。ただ、金貨ではなく……、帝国騎士の身体というのはどうでしょう?」
周りの人間たちがどよめいた。それは皇帝も同じだった。
「騎士をよこせと?」
「言葉通りです。王国では結構集まりました。人によってはおぞましい方法とも言われていますが」
「……一応聞いておこう。自分の目で見る事は大事だと思い知った」
ヤントラの言葉の殆どに偽りは無く、戦争に参加した兵士達が一様に恐怖した魔導王の力。
敵に回してはいけない存在だろう。そして、その対応に今は頭を痛めていた。
帝国でアインズ・ウール・ゴウンに対抗できる力はおそらくは無いだろう。
帝国兵士を無傷で王国軍を十万人も殺戮したのだから。
「手足をもぎっていくようなものです。もちろん再生魔法をかけます。ああ、戦争とは関係なく
最初の言葉でおぞましいことは分かった。
人間の手足を集めている、と聞こえたし、モンスターも収集対象に入っているらしい。
皇帝は唸りつつも薄く笑うヤントラを少しだけ睨みつける。
再生させると言ったが、元に戻すという事だろうか。それなら人材を失う必要は無いだろうな。
「帝国臣民全て、となると相当な数になるだろうな」
「帝国四騎士と将軍、あとは魔法学院の生徒を手当たり次第……と……」
ふざけているようにしか聞こえない。
本気かは今は重要ではない。手足をもぎ取る理由が報復としてもえげつないだろう。
「……本気か?」
つい条件反射的に言葉が出てしまった。
「貰えるものはもらう主義です。あ、国は取りませんよ。国の風土は大切にしたいので」
皇帝は苦笑した。
以前も素直で正直に話していた。おそらくは本気なのだろう。
「殺しはしないのだな」
「命は取りません。技術に関しては王国で有名なほどです。真蒼の薔薇のみんなから変態スキルと言われるくらいに」
左右に控える騎士の何人かは苦笑した。
「それはさておき、戦争の事は聞きたくも言いたくも無いでしょうから、聞きません。ところで帝国の土地は買えたりしますか?」
急に話題が変わり、皇帝は少し驚いた。
「ま、まあ買えるかもしれんな。領地でもほしくなったのか」
「王国で作っている宝物庫を帝国にも作れるかどうか気になったので」
「宝物庫……。そこに人間の手足を放り込むのだな」
「よくお分かりで」
冗談で言ったのに本気のようだ。というより人間の手足を宝と言うのか、この男は。
「領土をよこせ、とは言いません。合法的に土地を取得できないかと。お金が無いので鉱物資源で払えたりはしませんかね?」
「領土ではないと? 鉱物資源で払うとはまた……、突飛な事だな」
アインズ関連の話題ではないので少しは気が晴れてきた。ただ、手足をもぎ取る不安が新たに襲ってくる。
「専門家の話しを聞かずに作ったせいか、色々と不便で。天窓が無くて時間の感覚が分からなくなったり」
「鉱山を買い取れば……。いや、あれは今誰かが買い占めているんだったな」
皇帝の言葉に控えていた従者の一人が頷いた。
「金払いのいい客が居るようでして。国の重要資源は確保しているので今のところは大丈夫です」
「では、鉱物資源で土地は売ってやれるのか?」
「規模と質にもよります。王国の人間に売る、というのは聞いた事はありませんが……」
売るかどうかは抜きにして謎のヤントラが作る宝物庫の内容に少し興味が出てきた。
気晴らしに話しだけでも聞いておこうと思った。
「……その前にエ・ランテルの奪還は考えているのか?」
「市民の安全が保障されるなら問題はないかと。それらは政治で話し合ってください。皇帝を殺そうとか思っていませんよ。それから……、ナザリックに保護されていた我が妻が無事に王国で生活できるようになりました」
罪人ラキュースの生存は帝国でも噂になっていた。
真蒼の薔薇というチーム名に変更して復活してきた事もジルクニフの耳に入っていた。
「それはめでたいな」
そのナザリックとは定期的に打ち合わせて付き合いがあるとはいえ、毎回精神的に疲れてしまう。
強大な力を持つ化け物の相手をするのは自分でなくても大変だろう。
そのアインズも帝国内でアンデッドの護衛をつけようとか言い出すし。
「……アインズはアンデッドなのは分かったのだが……、あれは生者を憎んでいるのか?」
「種族の特性もありますがナザリック内では一番人間に親しみを覚えている、はずです。部下の手前では偉そうにしないと困るとか思っているのかもしれません」
普通に答えてきた事に驚いた。
「恩には報いると思いますので、気にしすぎはよくありません。王国でもそうでした」
「うむ」
「王国でも言いましたが、世界征服をさせてやったらいい。国はあげるけれど管理は任せてくれ、と言えば案外帝国は変わらずに運営できるかもしれませんよ」
「帝国を差し出せば私は死罪ではないのか?」
「死罪にするなら私が皇帝陛下を貰います。いちいち殺してたらきりがありませんよ」
「……良い案ではあるな。胸にとどめて置こうか」
ヤントラに貰われても幸せになれるかは分からないし、まだ少し不安だ。
ナザリックについて懇切丁寧に身の守り方を教わったからこそおぞましいモンスターの
伝え聞いた以上に恐ろしいところだった。
「真蒼の薔薇を抱えている私も人の使い方は……、
貰うけれど国の運営は任せた、というイメージが皇帝の脳内に浮かんだ。
早い話しが丸投げだろう。それは貰われたと言えるのだろうか。
所有物扱いかもしれないが、皇帝は皇帝か。役職名だけ変わる気がした。
「……少し気分が晴れた。礼をせねばな。領地は渡せないが借地として売る、というか
皇帝は騎士達に尋ねると一様にどよめく。
誰の土地を売るのかでもめているようだ。
「水源と下水道の完備。風呂施設が造れれば平地で構いません。帝都の近くだと屠殺場などを造った時に利用しやすくて楽なのですが……」
「と、屠殺場!?」
「誤魔化しを言っても仕方ないでしょう。モンスターをひたすら殺し続ける施設です」
ヤントラという人間が作るものにまともなものはきっと無いのだろう。
「くははは! 面白い。実に面白いな」
久しぶりに笑えた。
これほど楽しい事があるとは思わなかった。
「帝都の近くでは監視されやすいだろう?」
「保管場所を荒らされるのは困りますが、実態を見せてもいいのではと。稼動すると入れなくしますが……。造るのは帝国の職人達にやってもらう方がいいでしょうし。王国のほうは口封じとかしてませんよ」
秘密主義ではないところが不思議だった。
帝国が主導して建設すれば国家機密にするかもしれない。
「近すぎて帝国に地盤沈下とか下水道の逆流とか迷惑がかかっても困りますよね」
「そういう心配をしてくれるのはありがたいが……。どんな施設か気になるな」
「そのまんまだと思います。宝を貯蔵する宝物庫。色々とモンスターを研究する拷問室。モンスターを倒しまくる屠殺場。返り血などを洗う洗い場や風呂。これ以上、分かりやすい説明があるなら聞きたいです」
分かりやすい、というよりはそのままなのだなと呆れつつ皇帝は感心する。
「あと、
「……至れり尽くせりだな」
それを王国に実際に作ってあるのだろう。
利用者などいるのだろうかと首を傾げてしまう。
軍備にばかり金を投入していては財政が悪化し続けるだろう。
ナザリックの探査に多大な出費もしていたし、報復による城の修繕費などもバカにならない。
その点、ヤントラは人を差し出すだけで元に戻してもらえる、らしい。
「その……なんだ。腕を切り落として貴様に渡せば良いのか?」
「それは私がやります。勝手にすると痛いだけです。あと、軍団を作るわけではありません。いずれは空でも飛んで遠くで平和に暮らそうかな、と。……空中都市っぽい施設が造れたら……」
壮大な夢だなと皇帝は思った。
「自分の思い通りの世界というのは寂しいものですよ。資源しかり。敵国同士かもしれませんが、仲良くできるところは仲良くしたいと思っています」
「アインドラ卿は世界を取ろうとは思わないのだな」
「もう取っているかもしれません。あまりにもつまらないので、倫理観を捨ててやりたいようにやっているのです」
「それは……、人間の首から
騎士の一人が言った。
「アンデッドは何かと問題があるので。私は生身の方が好みですよ」
アインズの御技はこの場にいる者も目撃している。では、ヤントラはどんな方法を取るというのだろうか。それはとても見てみたい事だった。
「仮にそこの騎士にやった場合はどのようになる? アンデッドではないのだな?」
皇帝に顔を向けられた騎士達は一歩引き下がった。
「ああ、本体は裸になってしまいます。頭が基本のようで、後は記憶の無い人形のような身体だけ残ります。それは本体が死んでも転写されないので……。……そういえば、魔力系の第八位階だったと思いますが『
「んっ? 裸になるのか」
第八位階と聞こえたが、今はフールーダが居ないので頷くだけにした。
「首からボコボコと再生する感じです。大事なのは死んでしまうと何も起きません」
それは技術的に洗練されていなければ出来ない、ということだろう。
それから、再生するから防具などが無く、裸になってしまうのだと理解した。
「……なんと恐ろしい……」
「そんなことが可能なのか?」
可能なのだろう。
皇帝は目の前にいるヤントラは出来もしないことは言わない事を理解していた。
出来ない事は出来ないと正直に言える男だ。
「復活したばかりの『不動』……。お前が体験してみろ」
「ええっ!?」
「一応、お名前は?」
「ナザミ・エネック。帝国四騎士の一人だ」
ヤントラは名前を覚えた後、エネックの頭から足元まで眺めた。
「死んでも心配しないで下さい。こちらの責任で復活させます。皇帝陛下」
「んっ?」
「妻の復活魔法で
そう聞いてヤントラの妻ラキュースの噂を思い出す。
復活魔法が使える人間という事に思い至る。
「分かった」
ヤントラはエネックの側に行き、装備品を軽く叩く。
「他の皆さんは口だけ閉じててください。あと、身体は貰っていきますね」
そう言いながら装備品を外していく。途中から自分で外し始める。
もう破れかぶれだ、という感じだった。
皇帝の命令だからこそ聞くのだ。
本当は今にも泣きたい気持ちだった。せっかく復活したのに、また死ぬ事になるとは、と。
ある程度、装備を外した後で『
躊躇いの無い人間なのか、やる気充分という意志が伝わってくる。
それからどこからとも無くロングソードと青と赤のスティレットが現れる。
天使を召喚すると『
天使はエネックの後頭部をしっかりと掴んだ。
「一瞬で終わります」
「お、おう」
青のスティレットによる睡眠でエネックは沈黙し、見慣れない道具でまず眼球が抉り出される。再度の睡眠の次に武器が奮われる。
頭以外が床に倒れる前にヤントラはすぐさま魔法を唱え続ける。
事が終わってから首の無い胴体が床に倒れる。
「うわっ!」
一斉に逃げだそうとする他の騎士達。
ヤントラは残りの服を剥ぎ取ってから胴体を包みに入れる。
天使の持つ首のほうは既に再生が始まっていて背骨などが見えていた。
何も無くなった身体を血管や骨などがどんどん湧き出し、元の姿を取り戻す為に再生していく。
「再生は時間がかかるので、しばらくお待ちください」
少したってからヤントラは大事な事に気づいた。
「……即死耐性の防具を付けるの忘れてました……」
「おおい! それ重要だろう!」
騎士達が一斉に声を荒げる。
申し訳無さそうにヤントラは謝ったが、笑い事ではないのだがジルクニフは笑いをこらえていた。
手遅れだが、即死耐性の額飾りを装備させた。
無意味だとヤントラも分かってはいる。
少々
そういえばラナー王女の時も忘れていた気がする。
よく無事だったと今更ながら苦笑してしまった。
裸になる理由を現実に見ると恐ろしいものだと皇帝は思った。そして、
「今は来るな。そのまま待機だ!」
他の騎士が声を上げた。
ヤントラは護衛には見えないように外套で天使の持つ首を隠した。
「寝ている限り無事ですよ。死ぬと再生が止まります」
皇帝の側からはよく見えるのだが再生が止まらない。
普通なら死んでいるはずだ。何故、死なないのだろうか。いや、死んでもらっては困るのだが、不思議な光景だった。
「出来立ての身体はヒリヒリするらしいのでしばらく裸のままでいてもらいます」
「記憶や身体の中は無事なのか?」
「食事も出来ますし、排泄も出来ます。ただ、お腹が空きます。誰か消化に良いものを持ってきてください」
そう言うと騎士の一人が護衛に頼んだ。
数十分後に身体は出来上がり、エネックはただ直立不動で寝ている男にしか見えない。
死ぬと再生が止まるという事は生きているのだろうが、完成しても信じられない。
このような方法は始めて見る。
生きていると色んなものが見られて面白いなとジルクニフは苦笑した。
ヤントラはエネックの額を弾いて目を覚まさせる。
「う、うう……」
「おはようございます」
ゆっくりと身体を動かすエネック。天使はすぐに消えて彼は前のめりに倒れこむ。
外套で身体を包み、床に下ろす。
「ん……。おあ! ど、どうなったんだ! あ、あれ。か、身体は無事だ……」
復活したエネックの様子に一堂が言葉を失っていた。
慌てている彼を無視して残りの騎士達に『
そこには眠っているもう一人のエネックが居た。もちろん首もある。
「!?」
「こちらは何も喋りません」
喋らせる方法が無いわけではないのだが、今の時点では喋らない。
「……すごい」
「……恐れ入ったアインドラ卿。しかし、首で無ければならないのか?」
騎士の一人に包みに入っている身体の確認をさせた。
眼球の方は小さな容器に入れられていた。こちらは変化が無かった。
「胴体だと切り口が大きすぎますので大出血しますし斬るのが大変です。手足は復活しにくいんです。首から下の再生が始まれば大体止まりません。自己再生能力のあるヴァンパイアは再生力が弱く、首の切り口が塞がってしまいます」
色々と実験したのだなと呆れつつも感心する。
今の技術を獲得するためにどれだけ犠牲になったのだろうか。
無理を言って眼球だけ数度の摘出をする。これはオリジナルの肉体がどうしても必要で複製からでは意味が無いおそれがあるからだ。
「そうポンポン取られると滑稽だな」
「複製だけでは心もとないので。元の身体から、というのが重要だと思うので」
「元に戻してくれるからいいが……。その者も俺の大切な部下だ」
扱いは少しぞんざいになったが、居なくてはやはり困る。
帝国最強の四騎士なのに三人しか居ない、では格好がつかない。
エネックは服を着た後、用意された食事を食べ始める。
空腹の為に食が進んだ。
それから道連れ的に帝国四騎士の残り三人。
四人の中の紅一点『重爆』のレイナース・ロックブルズ。
彼女の場合は顔に呪いの影響の膿があるのだが、こちらは治すべきか尋ねた。
「……今は忠誠が揺らぐと大変なのでまたの機会とさせてください」
という小さな声で言われた。
同意が無いと効果が現れないことがある。だからこそ、彼女の意思は尊重する。
魔法というものは治さなくていいとこは治さない、都合のいいところがある。
『激風』のニンブル・アーク・デイル・アノック。
『雷光』のバジウッド・ペシュメル。
今度は忘れずに即死耐性の防具を着けた。
アインズへの対処方法などの苦労を解消するため、それぞれ餌食になっていく。
他の将軍は諦める事にした。軍事力を付けるわけでは無いので、将軍じゃなくても良かったと思ったからだ。
「見事な手並みだ。それで大帝国でも築くのか?」
「アインズに関わらない世界を作ろうかと。途中で寿命が来そうですが……。この世界に迷惑のかからないようなところでひっそりと暮らすのも良いかな。色々と気苦労があると思いますが、思いつめすぎるのは良くないですよ。……注意すべきは悪魔だけです……」
最後の言葉は人差し指を唇に当てて言った。
それぞれ復活が完了する頃、ジルクニフは土地の売買について考えてみようかと本気で思った。
作った後に活動を始めるのだろうが、ただの宝物庫ではないだろう。
調査隊を送り込めば手痛い反撃がありそうだ。
それについては急に返答は出来ないので検討だけしておくことにした。
「造るとすれば広大な土地が要るだろうな」
「戦争の為の施設ではなく、人が簡単に死なないためのものにしたい。ただ、施設作りが不慣れなものでいまいち使い勝手が悪くて。あれもこれも欲しくなる。騎乗動物。その他色々と……。この後は竜王国にでも行こうかと思います」
「……欲が出てきたのだな。ふむ。竜王国の女王は
帝国の利益となるかは分からないが、魔導王に悩むくらいなら道連れは多い方が良い。
ついでにアーグランド評議国も巻き込むか。と思ったがさすがに
「騎乗動物も欲しているようだが……、どれほど必要だ?」
「一体だけで結構です。予算内であれば買っていきたいです」
「ふふ。希望は?」
「
「ふむ。
「払いましょう。……帝国に王国の金貨って通用しましたっけ?」
四騎士達が装備を整え始める頃には皇帝は商談を始めていた。
今のところ危害を加えたり恐怖を振りまく情報は無いようで、それぞれ安心していた。
それと首周りに違和感があり、空腹がひどい。
「……一日しっかり休んで下さいね。変な暗示はかけてないので急に化け物に変身したりはしませんよ」
「うむむ。……恐ろしい御仁だな」
「よく言われます」
ヤントラは苦笑した。
護衛に小声で食事の用意を命令する。
「両替は効くが価値は同じだったはずだ。……それよりも人間的な話しで安心した」
「そうですか?」
ヤントラは皮袋を取り出した。
「今、人を呼ぶ。ここで金貨を出しても意味が無いぞ」
「すみません」
皇帝は複数の従者に色々と命令を下していく。
竜王国や騎乗動物、土地売買についてなど。
「帝国四騎士を頂けたから前金、というわけではありませんが鉱物資源を持ってきました」
ヤントラの胸からたくさんの皮袋が取り出され、それらの袋から大きな箱が出てきた。
数個の箱には重さ限界まで入れられた輝く金属類の塊が詰まっていた。
「おお」
「これは凄い眺めだな。良いのか?」
「迷惑をかけるつもりで来たので。土地が無理なら書物を買えるだけ、これと取り替えてもらおうかな、とか思ってました」
「ははは。なかなか面白いな、アインドラ卿は」
提示された鉱物だけで広い土地は買えるかもしれない。
「これらは
「しばらくは戦争はしたくないな……。各都市の状況などを把握する仕事はたくさんあるからな。……それから一つ確認したい」
「はい」
「アインドラ卿は戦争に参加する事はあるのか? 将来的に、という意味で」
「出来れば……、国の
「規定ではそうなっている」
復活した騎士が答えた。
「……アダマンタイトが急に銅ランクからというのもおかしなものだ。それは何とかできない事なのか?」
皇帝の言葉に騎士達は苦笑を浮かべる。
自分たちにその権限は無い、と言いたげだった。
「互いの国のギルド同士なら話し合いは問題ないと考えますが……。魔導国とはいえ帝国領として扱うなら色々と働きかけは出来ると思いますが」
「あのアインズが自らの敵を育てるような事をするとは思えないのだが……」
「ナザリック内に特訓場を作らせたくらいです。目の届く範囲なら許容すると思いますよ。駄目もとで言うくらいの権利はあってもいいと思います」
「それが出来るなら苦労はしないのだがな」
アインズと出会って随分と弱気になったものだとジルクニフは自嘲する。
いつも何かに怯えている弱い皇帝になってしまったような気がする。
それが今日は頼もしい友人を得たような元気が沸いてくる気がした。
最初はアインズを手に入れて世界に打って出るぞ、と息巻いていた。今はそんな自分を殴りたくなっている。
「何でもできるならとっくに敵は殲滅してますよ。王国に籍を持つ私ですが、頑張って下さい」
「おう。それは言われて無くても」
早速、騎乗動物の用意が整ったと従者が報告に来た。
「元気ならよいそうだ」
「活きの良い
「ケガしても治すけどね。金貨七百枚ですか?」
ヤントラの質問に従者は首を傾げた。
皇帝が使うために用意させたのだと思い込んでいたようだ。
「はっ? ああ、値段ですね。即金で買う気ですか!?」
「王国貨幣だが、構わないな?」
「え、ええ」
皇帝の言葉が続いたので返事を返した。
それからヤントラが金貨の入った皮袋を渡す。
本当に即金で買うとは思ってなかったので驚いた。
台の代わりに椅子の上に金貨乗せて数え始める。
「……アインドラ卿。アインズはどのくらいの攻撃に耐えられるのだ? 部下がなげた石とか、動物の攻撃とかは?」
「それくらいなら無傷だと思いますよ。歴戦の戦士の必殺技と物凄い武器でもない限りは……。アンデッドならではの弱点はありますが、それでも微々たるものでしょう。あまり自信を持って答えられませんが、謝れば許してもらえるかと。そんなことで部下とか殺してたらきりが無いです。基本的に友好相手は大事にすると思いますので、これも過度に思いつめない方がいいです」
「そうか。部下思いなのだな」
「偉そうにして
苦笑するヤントラの様子は本当に普通の人間に見える。
誰もが恐れる魔導王を全く恐れない人間とは思えないほどだ。
従者たちが鉱物資源を運び出す頃に騎士達も気持ちが落ち着いてきたのか、緊張が和らいできた。食事をしっかりと取ったから、ということもあるだろう。
「今は実験段階で、色々と試行錯誤しています。今度は書物用に資源を持って来ましょう。敵国同士とはいえ手を取り合える日が来るように祈っております」
「貴殿は滞在していくのか? 竜王国に手紙を出してしまったが……」
騎士達はこんな危険な人間を滞在させたら市民が全て餌食になってしまいそうな気がした。それに魔法学院の生徒も貰う気でいたはずだ。
「往復させてもらいますよ。荷物を置いて街で買い物とか」
「前に担当した従者を付けよう。金貨の両替も頼むと良い」
「ありがとうございます」
「……記憶の無い人形ばかりでは寂しかろう。何か解決策は無いのか?」
「本体が死んで複製に記憶が宿ると混乱するかもしれない。あと、同じ記憶を持った人間がたくさん居たら精神的に不安定になる気がするので」
と、ヤントラは周りの騎士達を見回す。
「どちらが本物だ、とか不安になると思いますよね?」
「う、うむ」
「……確かに」
「帝国に複製の大群を送ったりしませんよ」
皇帝は複製体の大群を想像してみた。
騎士達はそれほど恐くは無いのだが、恐ろしい光景が一つ浮かんだ。
「……ラナーの大群は……キツイな……」
嫌いな女第一位のラナーが笑顔で帝国を取り囲む。
悪夢を通り越した絶望の幕開けかもしれない。
「面白そうですね。……そこまで都合の良いことは無理ですが……」
やろうと思えば出来なくは無い。その為には素体の性格を把握しなければならないだろう。
いずれ建造する究極の宝物庫。今は妄想の類ではあるが、挑戦してみたい事ではある。