※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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G-12 帝国魔法学院

 数日の滞在を許されたが検問所で引っかかるのはどう解決すれば良いだろうか、と思っていたが従者を付き添っていればいいと言われた。

 機嫌の良い皇帝の言葉に甘える事にした。

 生きた心地のしなかった騎士達はヤントラが居なくなった後でそれぞれ大きく息を吐き出す。

 以前の従者と共に帝都の宿屋の確認をしておく。

 手持ちの金貨の両替も頼んだ。

 従者の名前は『レーモン・クノーン』という男性だ。

 魔導王と同盟を結んでから帝都の中はどんよりとした空気に支配されていた。

 戦争に勝ったのだからお祝いしても良いはずなのに帰還兵は誰一人とて笑顔を見せなかった。

 死傷者ゼロ。いや、逃げ出した兵士達が転んだりして何人かは死亡したらしい。

 圧倒的な差で勝ちを得た筈なのに、と市民たちは不安に思った。

「まずは八足馬(スレイプニール)達を運ばなければ。あと餌やりしないと……」

 維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)でどうにかなりそうな気がしない。

 動物用も出来るかどうか聞いておこう。

「関税ってありましたっけ?」

「そうでしたね。妙なところで気が付きますね」

 レーモンは苦笑する。

 細かい法律などを大事にするところは嫌いではない。

 八足馬(スレイプニール)達は身体も大きいし、隠して持ち込めるような動物ではない。

「それと思いついた事があるんですが……」

「はい。何でしょうか」

「冒険者の移籍制度はいかがでしょう? 帝国側に移籍した場合はランクを維持したまま、ただし帝国領内の都市でのみ活動を許可する。とかなんとか」

「ああ、なるほど。急に銅(カッパー)に落とされるのは可哀相ですよね。こちらからも依頼しやすいし、なにより冒険者の実力を落とさなくて済みますね」

「魔導国は……、帝国領なのですか? 魔導国領なのですか?」

「帝国領に……なった後で魔導国領として正式に移行すると思います」

「色々と協定を結んでおくのもいいかもしれません」

 頷いた後でレーモンは関税手続きの書類を用意し、迷彩柄の服装で王国に向かう事になった。

 馬車で運ぶのかと思っていたが重い動物の入った檻(おり)を持ち上げて運ぼうとしたヤントラに驚く。

 戦士職のレベルが高いヤントラの筋力は高く、家一軒は持てないまでも四百キロ未満程度は持てるし、魔法による筋力増大であれば八足馬(スレイプニール)を三から四頭は持てる自信がある。

 そのままではなく『飛行(フライ)』などを利用するのが一般的だ。

 手持ちには『空中浮遊(レヴィテート)』のスクロールがあるので意外と運搬には重宝する。

「馬車で届けますよ、乱暴に扱ったら暴れますって」

「そうですか? では、エ・レエブルの近くにある『マグヌム・オプス』までお願いします。大きな倉庫があるのですぐ分かると思いますが……」

 従者は必要な事柄を書類にまとめて別の従者に命令を下す。

 国全体の関所は存在しないので大都市の領主宛か王宮に書類を提出すれば良いらしい。

 役人が真面目に仕事をするならば数日で許可証が発行されるらしい。

 らしい、というのはヤントラが実際に行(おこな)っていないからだ。

 檻はヤントラが運び入れた。

 凶暴な鷲獅子(グリフォン)が得体の知れない存在に恐れたのか、大人しかった。

「適当に開いている場所に置いて下さい。職人達が居れば手伝ってもらってくださいね」

 まずは先行してヤントラは従者を背負って駆け出した。

 空を翔(かけ)るように馬車よりも早く。

 現場に到着するのに数時間で済むほどに。もちろん、飛行(フライ)の連続使用があるからだ。

「……もう着いた……」

 驚きすぎて言葉が無かったレーモン。

 彼を職人達の宿舎に止める。

 その間に施設内を偵察し、異常が無いか確認した後に戦利品を収めた。

 宝物庫に箱をいくつか置き、シズの為に武器を要望しておく。

 それから大量のアイテムを持ち出して地上に戻り、倉庫の出来具合を確かめる。

 大型建築は並大抵ではないなと改めて驚く。

 中は太い柱に厚い床。二階層だが相当量の保管が可能なほど広く造られている。

 警備体制は薄いがありふれた素材を置く予定だから、特に問題は無いだろう。

 空中都市も一ヶ月では無理だろう。

 まずは王都の検問所で書類を提出し、食料の買出しに向かう。

 我が家はラキュースに任せてもいいだろう。

 『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』を大量注文。これは魔術師ギルドに依頼できるとイビルアイから聞いていた。

 マジックアイテムなので普通の包みよりかなり高い。

 以前から依頼しておいてイビルアイに負担させていたので自分で払えるものは払うようにしようと思った。

 代金はイビルアイの厚意だが、色々と迷惑をかけているのでお詫びの意味も込めていた。

 帝国からの馬車はまだ数日はかかるようなので、ナザリック地下大墳墓に赴(おもむ)く。

 巨大図書室(アッシュールバニパル)に向かい、保存液の他に培養液も手に入らないか尋ねた。それと必要機材など、色々と。

 必要な素材などをメモし、次に鍛冶師の元に向かい、同じように必要な素材を聞いておく。

 『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』も動物に効くのか尋ねる。

 第六階層の魔獣やセバス。

 虫系も大事かもしれないし、シズの命令がまだ継続中だったりと色々とやりたい事ややり残した事が多いなと思い苦笑する。

 このナザリックの全てを手に入れるかのごとき行動も苦笑する原因かもしれない。

 金貨のみで払えるものは注文し、シモベを送ってもらう。

 何度も往復するのが面倒なので。

 必要な素材はシモベ達に運んでもらう事にして宝物庫に戻る。

 転移出来ないから長距離移動は大変だ。

 戻ったらすぐに必要な素材と金貨を入れた箱をいくつかシモベに渡す。

 数万個を超えるデータクリスタルも数日かけて持って行ってもらう。

 事務的に行(おこな)うので楽しい事が何も無い。

 それと帝都用の素材も用意しておこう。それまでは量産作業だ。

 二日後に帝都から八足馬(スレイプニール)達が届き、代わりに鉱物資源を入れた箱を荷馬車に乗せる。

 重い檻を二つも乗せた丈夫な馬車なので大丈夫だろう。

 レーモンは箱の中の量を見て驚いた。

 檻は地上施設の職人達の目につかない場所に置き、餌やりをメイドに任せた。

 次の日には王都から帝都から持ち込まれた八足馬(スレイプニール)達の租税調査をするために役人が何人か来た。

 必要な税金を支払ったが、施設に関しては税は免除されていた。ただ、施設の様子には驚かれたが。

 厄介な手続きが終わったので、地下の量産を続けさせてレーモンと共に帝都に逆戻りする。

 帝都の宿屋に戻った時にレーモンは一息ついた。ただ、資源を乗せた馬車は追い抜いた。

「そういえば、地下とか案内しなくてすみません」

 量産体制と税金の事ばかりで頭が一杯だったことに気付いて、レーモンに謝罪する。

「いえ、お気になさらずに。食事とお風呂が充実していたし、職人さんたちのお話しも聞けたので退屈はしませんでしたよ」

 地下施設を作っていた人達もどういう風に作ったのか親切に教えてくれた。

 食事を終えた後、魔導国の事は忘れて城下町に出向き、色々と食料などを買い込む。ただし、帝国貨幣はレーモンに出してもらった。

 それぞれの国特有の貨幣制度があり、形も違う。

 『交易共通金貨』に両替すればヤントラの持ち金でも使えそうだが、忘れていた。

 手始めに金貨五十枚分を渡した。

「交金貨のことを忘れてましたね。すみません」

「国から必要経費は出ているので大丈夫ですよ」

 レーモンは受け取った貨幣は交金貨に両替しておいた。他の国でも必要になるかもしれないので。

 ヤントラの印象としては以前と変わらず、よく謝り、素直な人だった。

 それが物騒な施設を建設しているとは到底信じられない。というか皇帝と普通に話している分、ますますよく分からなくなったかもしれない。

 戦争に負けた仕返しかと城では緊張が走ったものだが。いや、帝国四騎士をほぼ惨殺したような人だ。まともではないだろう。

 騎士達は死んでいなかったが、不思議な光景だった。

 魔導王が生首を死の騎士(デス・ナイト)というアンデッドに変えるよりは不思議と安心できた。

「……騎士達は生者なんですよね?」

「回復魔法をかけたら分かりますよ。アンデッドは負のエネルギーで回復しますから。アンデッドならそもそも私の魔法は通じてませんて」

「そ、そうですよね」

 いきなりの質問に普通に答えてきた。これも以前と変わらないだろう。

「あと、アンデッドはポーションも飲めません。肌が焼けるはずですから」

「後で確認してもらいます」

 アンデッド化していない事が確認されれば問題は無い。

 帝国の民すべてがいずれはアンデッドに変えられてしまうのでは、と思う日々が続いていたので。

 

 魔導国という呼び名が暫定的に付けられてはいるが、ログハウスと墓地のような施設があるだけで都市のような街並みは無く、周りはほぼ平原だった。

 その地下には人知を超えた化け物がおびただしい数だけ存在し、どの化け物も並みの冒険者では太刀打ちできないほどの強大なモンスターだという。

 帝国四騎士ですら恐れさせたほどなのだから計り知れない。

 同じく帝国四騎士たちを恐怖に陥れたヤントラは暢気に飲食店で食事を楽しんだり、料理の作り方などを教わっていた。

 傍目からは普通の人間にしか見えない。

「帝国魔法学院の生徒たちを何人か拉致(らち)して……、いえ……」

「……アインドラ卿……、わざと言い間違えていませんか?」

「疑われる前に素直に言おうとして間違えただけですよ」

 苦笑している顔がウソをついているように見えて仕方が無い。

 おそらくはこちらの不安を感じ取っているからなのだろう。

 美辞麗句を並べても拉致に聞こえるような話しに聞こえるのかもしれない。それならそのまま言ってしまえばいい、という考えかもしれない。

「活きの良い生徒に屠殺場で試してみたいですね。皆さんが苦労されている未知の領域というものを」

「生徒を殺す、とか?」

 さすがにそれは無いだろうが、あえて尋ねた。いや、言った、が正確か。

「高い位階の魔法を使う方法です。私は何も技術がありません。敵を提供するくらいしか思いつかない。魔法もただ勉強しただけでは時間がかかりますからね」

「敵を倒すだけで第四位階以上を扱えたりするんですか?」

「もちろん色々と乗り越えなければならない壁はあります。膨大な数の魔法を全て習得する事は私の知る限りでは存在しません」

 レーモンは魔法には詳しくないが興味はある。

「生徒を連れ出すのは難しいかもしれません」

 興味のある生徒なら多少は連れ出せるかもしれないが。

 レーモンの権限では限界がある。

「大魔法使いには出来ませんが、第五、第六位階くらいまでは使わせてやりたいですね」

「……簡単におっしゃってますが前代未聞だと思います」

「出来るかどうかはやってみないと分かりません。それから時計って売ってますか? 今更ですが、買うのすっかり忘れてました」

「あ、ああ。はい、ございますよ、たぶん」

 時計一つ買うのを忘れるくらいアバターはおかしくなっている気がする。

 世界の最適化は意外と厄介なものらしい。

 

 レーモンはその前に気付く。

 移動が八足馬(スレイプニール)より早いのではないのかと。自力の移動は疲れるから、という理由があるのかもしれない。

 魔法と併用すれば更に早くなるかもしれない。

 時計を複数個、購入し、レーモンはヤントラを宿屋に残して報告の為に皇城に戻った。

 往復する帰還が早い事にジルクニフは笑っていたが満足していたようだ。

 後日に届く鉱物資源も少し楽しみだった。

 過剰な供給は価値を下げるので大量には渡せない事と用意できない事が告げられた。

 それには皇帝も納得したようで物資の話しは済んだ。

 竜王国からの返事はやはりすぐには来ない。普通なら十日かかっても不思議ではない。

 上水月(四月)に城塞都市エ・ランテルで魔導国による凱旋が催される事になった。

 同時進行で『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の建国式典も行(おこな)われ、帝国の関係者も出向く事となった。

 王国と長年に渡る戦争状態だが、今回ほど相手国が気の毒だと思ったことは無いし、素直に自分たちも喜べない事態になっていた。

「こちらは気晴らしも必要だろう。それでアインドラ卿は魔法省に行きたいとか言っていたのか?」

「いえ、魔法学院の生徒を……、その屠殺場に連れて行き、強くしたいと……」

「ほう。そういう実験か……。あれは王国にあるんだったな……。生徒が強くなることにはやぶさかではないが……。帝国にそのような施設が無いから仕方が無いな。生徒数人に行ってもらおう。アインドラ卿なら生きて返してくれるだろう」

 騎士達のアンデッド化は確認したが全員無事であることが証明された。

「……しかし、おそれながら。話しが突飛過ぎてにわかには信じられません」

「魔導王なるものが居るくらいだ。信じられない事などたくさんあるだろう。じい(フールーダ)が居れば即決するだろうがな」

 鉱物資源を報酬として受け取るどころか贈呈(ぞうてい)するような人間だ。どんな欲を持っているのか分からないが、言う通りにするのも面白いかもしれない。

「お試しとして行って貰おう。期間はどれくらいになる?」

「そ、それは聞いておりません」

「数十年もかかるようなら諦めてもらえ」

「はっ」

 レーモンにいくつかの権限を与え、宿屋に戻ってもらった。

「私に出来ることは強くする事だけ。知識はそちらで勉強してください」

 皇帝の言葉や自分の考えを伝えた後でヤントラから言われた言葉に驚いた。

「ええっ!?」

「こればっかりはどうにもならないんです。いきなり第十位階魔法が使えたりはしないので。強くすれば新しい魔法は覚えやすいんです。あと過度な期待はしないように。期間は……、様子を見るために二日ほどですね」

「……二日」

 二日で帝国の魔法の歴史を覆す気か、と信じられなかった。

 多少は期待していたところはある。

 思っていたのと違うのは残念な点だが、それはこちらの考えすぎなので仕方が無い。

「大勢に対応は出来ないので魔力系と信仰系一人ずつくらいで。帝国に命を差し出しても良い人と落ちこぼれがいいですね。極端な方が最初は分かりやすいでしょう」

 レーモンは自分の頬を叩いて気合を入れる。

「分かりました。かけあってきます」

「私も行きますよ。ちょっと確認したいことがあるので」

 少しだけ唸った後、ヤントラを魔法学院に連れて行った。

 前回のように物騒な事態は避けられそうだが、緊張しっぱなしだった。

 

 帝国魔法学院は教育機関なのだが大半の生徒は魔法を扱えない者ばかり。

 金銭的に余裕のある貴族以外の平民たちの中には才能を持っている者だっているのだが開花する前に散ってしまうことがある。

 金はあっても無能のままでは教育機関の意味が無いだろう。

 この帝国魔法学院は優秀な生徒と認められれば無償、または報酬まで出してもらえる。

 そこに貴族や平民の差は無い。

 ヤントラ達はまず学院の頂点に位置する学長の部屋に訪れる。

 レーモンは首を傾げたが、向かう事にした。

 学長は帝国最高峰の大魔法詠唱者(マジック・キャスター)『フールーダ・パラダイン』に憧れて白いひげを生やしている人物だった。

 まずはレーモンが生徒の貸与(たいよ)などを説明する。細かい説明は臣民同士の方が早いだろう。

 信じられない話しの為に顔をしかめられるが想定内だ。

「生徒を屠殺場に連れて行くと!?」

「生徒を殺すわけではありませんよ。回りくどい説明は苦手なので」

 バカかこいつは、学長は言いそうになったが皇帝からの許可が出ているのであれば無下に断れないだろう。しかし、素直に従う事もできない。

「それはさておき、この学院の中でその椅子、というかその場所が最高権力者が座るところで間違いがないですね?」

「はっ? どういう意味だ?」

 学長の疑問にレーモンも小首をかしげる。

「一番偉い人が座るのはその椅子かと聞いているんです。これ以上に分かりやすい質問があるなら教えてください」

「その質問の意図を尋ねているのだが……」

「秘密です」

 素直に答えてきた。

 レーモンは少しだけ苦笑する。

「素直に答えるならば、そうだと言っておこう」

「では、少しの間だけ座らせて頂けますか? 権力とか取りません」

「し、失礼な奴だな。……前にも来たな、貴様」

「まあまあ、やらせてみようではありませんか」

 ヤントラの行動には無意味な事は無いはずだ。実際に色々と飛びぬけた事を目にしているのだから、きっと意味があるに違いないと思った。

 勝手に行動せず、許可を求めているし。

「重要書類とかはどけておいて下さい。いっそ、机も移動させましょうか?」

「い、いやいい。そのままで結構だ」

 椅子だけあればいいとはどういうことだろうか、と二人は首を傾げた。

 学長は唸りつつも席を立った。

「では、話しの続きはお任せします。あと、少しだけ質問は無し、で」

「え? はい。分かりました」

 席を離れた学長とレーモンは遠目から眺めつつも生徒の事で相談を開始する。

 その間、ヤントラは学長が座っていた椅子に座った後で外套を取り出し、外部から見えないように周りを覆い尽くした。

「おおっ!」

 不思議な光景だった。

 外套の中から光りが漏れ出ているのが分かるのだが、何をしているのか外からでは分からない。

 物は燃やしていないようだが、とても気になる。

「しばらく時間がかかると思いますが、すみません」

 中からヤントラが声をかけてきた。

「……学長。何か重要な書類とかアイテムなどがあるんですか?」

「いいえ。引き出しには色々と入っておりますが……。光るようなものは何も……」

 外套に顔を近づけると何がしかの音が聞こえる。

 カリカリと何かを引っかくような。

 聞きなれた音なので、それが羊皮紙に文字を書く音だと分かった。

 

 メモ用紙として大量購入していた羊皮紙とはいえ項目が多いと大変だ。

 膨大な文字の羅列。

 二時間はかかるかもしれない。

 レーモン達にはかなりの時間がかかる事を告げて、羊皮紙の追加購入の代金を渡した。

 学長は念のために大事な書類などは別の場所に移動させて、待機する事になった。

 尋ねれば答えてくれるが、秘密は秘密だった。

「生徒を借りる、とのことだが王国に連れて行くのだな?」

「施設が王国にあるので」

「具体的にはどんな事をさせようと?」

「ひたすらモンスターを倒してもらったり、魔法を使わせるだけです。互いに殺し合いとかはさせませんよ」

 モンスターを殺し続けるから屠殺場なのだと素直に答えてくれた。

 間違ってはいないのだが、不安しか感じられない。

「知識は学院に任せます。実戦経験をさせるのが目的ですね。私は王国だろうが帝国だろうが気にしませんが、身を守る方法くらいは身に付けさせてもいいのではと思います」

 言っている事は正論かもしれないが生徒を送り出してモンスターと戦わせるのは無茶だと学長は思った。

 魔法の能力を持たない生徒が多いし、才能は簡単には伸びない。

 一部の天才だけが第三位階を手にするというのが一般的だったからだ。

 かのフールーダも相当の年月を経て第六位階まで到達したのだから。

 王国からやってきたどこの馬の骨とも分からない者に何が出来るのだろうか。

 新たに購入してきたメモ用紙を受け取り、作業が終わったのは二時間半後だった。

 待っている間に学長は開いているテーブルの空間で肩身の狭い思いを感じた。

「ふー。よし。すみません。時間かかりました。では、生徒を狩りに……、じゃなかった。なんでしたっけ?」

「活きの良い生徒を育てるんでしょう」

「そうでしたそうでした」

 生徒を狩りの標的にしているようだとレーモンは苦笑しつつも仕様がないなと呆れてしまった。

 笑い事ではないのだけれど、言い間違いの中に本心が隠れているのかもしれない。

 確か生徒も狙っていたはずだ。特に身体を。

「もし生徒を借り受けたら、五体満足で精神支配もせずお返しします。あと、……なんでしたっけ? あの、宗教的な……」

「宗教?」

 言いたいことが出てこない。

 自分の知識に無い事は都合よくは出てこないようだ。

「相手の国の悪い部分を吹き込む教育です。なんていいましたっけ?」

「あー……、そういえば……」

 レーモンも何となく言いたいことは分かるのだが、言葉が出てこなかった。

「思想教育や情報操作などのことですかな?」

「情報操作……。まあ、そうですね。そういうことはしません」

「生徒全員を狩り取ろうとしているのは隠せていないようですね」

「全員というか、何がしたいんでしょうね、私は」

 それは自分たちが聞きたいぐらいだ、とレーモンは思うが、素直な感情を吐露する部分は本心かもしれない。

 話している雰囲気ではそう思った。

 傲慢で高圧的な人間ではないし、帝国四騎士にも一人ひとり話しかけていた。

 うまく誘導する才能はあるかもしれない。

 そして、ウソはつかない。いや、言い訳をしない、が正しいかもしれない。

 

 半ば強引に生徒を物色しに行く事になったレーモン達は近くの教室に入った。

 そこは以前にも訪れたところだが、一番近くにあっただけという理由だった。

 今は授業の真っ最中で魔法の効果について勉強しているようだった。

「授業は続けてもらっていいよ。そこまで迷惑はかけられない」

「はい」

 遠くにある黒板に書かれているのは帝国語のようで王国とはまた違った文章となっていた。

 解読魔法やアイテムを使えば判明するのだろうが、独力で解読したい気持ちも少しはある。

 言葉は聞き取れるので、そこから予想するしか今は出来ない。

 一部の生徒はヤントラの容貌を覚えているようで、チラチラと振り返っていた。

 茶化す事無くヤントラは黙って授業が終わるまで大人しくしていた。

 教師の説明が終わる頃にレーモンは教壇に向かい、教師といくつか話し合う。

「えー……、皆さんに言いにくい事があるのですが……。聞いていただけますか?」

 いやです。と言う生徒は居なかったが、ヤントラは言いそうになった。

「この中で魔力系と信仰系の魔法が使える生徒で一名ずつ。特訓を受けても良い生徒が居れば挙手を願いたいのです。期間は二日ほど。優秀、落ちこぼれは問いません、……とのことです」

「はっ?」

 生徒たちの冷たいの視線を一気に受けるレーモン。次に教壇とは真逆の位置に居るヤントラに顔を向ける。

「実験台になってくれる勇気ある生徒は居ますか、ということだ。極端な対比だといいな。君達、魔法の勉強も良いが教わるだけでは使えないぞ」

「じ、実験台……」

「帝国の為に死んでも良い覚悟のあるものなら、歯ごたえがあって良いのだが……。もちろん、私はこの学院全ての生徒を対象にしている」

 ヤントラの言葉は今すぐ全員を皆殺しにしてやるぞ、と聞こえてしまった。

 レーモンは頭を抱えるようにうずくまる。

「……王国の人間であるあなたが私たちを強くする、というのですか?」

「国は関係ない。君達が強くなるかどうかが問題だ。早い話しが経験を積んでもらう。新しい魔法などは教えられないが、きっかけは与えられるだろう。病気を治す。ケガの治癒も高い位階の魔法が扱えた方がいいだろう?」

「……なにを言っているんですか。経験を積むだけでできる事ではないでしょう」

「経験を積めばバカみたいな魔法が使えるよ。最高位階までは無理だろうが第六位階程度なら君たちだって到達も無理では無いだろう。ただ、魔法職に偏ってしまうから戦士系の力は弱くなるかもしれないが……」

 話しぶりからはふざけていないとレーモンは感じた。

 魔法職に偏らないと高い位階魔法は得られない。それはなんとなく理解できる。

「二日で第六位階まで覚えられるんですか?」

「無理ですね。さすがに敵も倒せない人では一週間以上はかかりますよ」

 一週間で第六位階まで行くものだろうか。と、レーモンは疑問に思った。

「何を覚えるか。どんな職業を選択するか。それは人それぞれです。うちの妻は聖職者(クレリック)、神殿騎士(テンプラー)、女神官(プリエステス)、踊り子(ダンサー)、料理人(コック)と職業(クラス)を得ていますが、強さ的には第五位階止まりです。鍛えれば『蘇生(リザレクション)』を覚える事は不可能ではないでしょう」

「妻……、ラキュース様ですね。第六位階はまだ到達されていないのですね?」

「これからです。種族アレルギーがあるのでモンスター退治が出来るのかが……、心配ですが……」

 普通に説明しているのだから本当かもしれない。

 蘇生魔法が使える事は帝国でも知られているのでウソではないはずだ。

「勉学抜きなので頭は使わなくて良いですよ。宿泊施設も完備してます。それと魔術師(ウィザード)とかなりたいクラス、職業があれば教えてくださいね。なぜか戦士職になって魔法が使えない、とかは困りますから」

 何の事か理解できないが、レーモンは確実に強くする自身はあるようだと思った。

 見た事も聞いたことも無い方法なのだろう。

 化け物にするとかではないだろうか、と思うのだが、そこまでひどい事をするだろうか。

「……すみません。生徒を化け物にするわけではありませんよね?」

「そんなことはしません」

「命を落とすということは?」

「生徒の中で生き残りを選定するわけではないので、大丈夫ですよ」

 それでもまだ心配だった。

 ここでどんな質問をしても安心はしないかもしれないとレーモンは気付き、俯(うつむ)く。

 想像できない方法なのは確かだろう。

 胸の辺りが痛くなってきた。

「殉教者(じゅんきょうしゃ)になれ、とは言いません。二日間の報酬も……、私が個人的に出してもいいです。勇気ある子は居ますか?」

 今にも泣きそうな顔と声でレーモンは言った。

 生徒たちも不安一杯の様子で彼らを見たり、小声で話し合っていた。

 その中で一人、力強く手を上げる者が居た。

 前回、ヤントラに負けずに言い返した女子生徒だった。

「帝国臣民が王国の人間を恐れるなど、恥さらしな真似は出来ません」

「あと一人……。それよりも皆は魔法を習いに来ているんだよね? それは間違いないかな?」

「魔法学院の生徒は全員そうだと思いますが?」

「……いえ、一部の貴族のご子息となると金銭で簡単に入学出来てしまうので、箔付(はくつ)けのみの生徒も居ないとも限りません」

 レーモンが申し訳無さそうに言った。

「それでも武器でも持たせて無理やりでも経験は積ませますから、ご心配なく」

 しばらくの沈黙の後で一人の男子生徒が手を上げた。

「行ってもいいが条件がある」

 と、男子生徒は言った。

「何かな?」

「病気を治す高位の魔法は使えるのか?」

「『大治癒(ヒール)』で良ければスクロールをあげるよ。信仰系の人でなければ使えないけれど」

「第六位階の!? スクロール?」

 噂では聞いたことがある、という生徒たちがどよめいた。

「蘇生関係のスクロールは無いが……。まだ何かあるのかな?」

「……い、いや特には……」

「……ん、神殿関係者に目を付けられるか……」

 レーモンは聞き逃さなかった。

 すぐにヤントラの側に行く。

「大きな声では言えませんが……。派手に目立つのは良くないと思います」

 既に充分目立っているが神殿関係の目に留まることは避けたいところだった。

「迷彩柄の外套をまといますよ」

「……あ、その手がありましたね」

「魔力系はどちらかな?」

「私は信仰系です」

 もう一人も信仰系を目指しているのだが、ヤントラとしては魔力系も欲しかった。

「学生は全員連れて行くつもりだから、今のうちに立候補した方がいい」

「連れて行ったっきり帰ってこない、ということは無いですよね?」

「責任を持って帝国まで送り届けますよ。一緒に来ても不安は変わらないと思いますけど……」

 それはそうなのだが、生徒たちが心配で仕方が無い。

 さっき一緒に自分は行けたのに不思議と不安が拭(ぬぐ)えない。

「魔力系は次回だな。まずは二人とも、家族に連絡してきなさい。食事や風呂は宿舎があるので心配は要らないよ。ベッドもあるし」

 それから待ち合わせは検問所であることを伝える。

 先ほどの青年には魔法が必要な理由を尋ねてみた。

 よくある親が病気で高位の魔法が必要だと言う。そういうことがよくある世界らしく、他の生徒も似たような理由で学院に来ているらしい。

 さすがにいっぺんに連れて行けないので、今回は二人だけで我慢する事にした。

 レーモンには羊皮紙の造り方や様々な書物の事を調べてもらう事にした。

 ヤントラはまず青年の家に行き、病気の親の様子を診る。

 スクロールを使うものだと思っていたが普通に魔法として唱えたヤントラに驚く。

 あまりにもあっさりと終わってしまったので拍子抜けした。

「また誰かが病気になるかもしれない。覚えておいて損は無いだろう」

 ふざけた人間だと思っていたがこうもあっさりと第六位階を使われるとは思わなかった。というより第六位階を容易く使う人間など聞いたことがない。

 伝説にうたわれる大魔法詠唱者(マジック・キャスター)のフールーダ・パラダインに匹敵するのではないだろうか。

 青年はヤントラを見る目が変わったのか、従順になり、出かける準備を始めた。

 ほんの数日だが、家族に別れを告げておく。ただ、ヤントラはちゃんと生きて帰しますから、と伝えておいた。

 荷物らしい重装備は必要なく、せいぜい着替えと洗面用具くらいだった。

 約束の『大治癒(ヒール)』のスクロールもくれたが、それは大切にしまうことにした。

 待ち合わせの検問所に向かうと女子生徒が既に待機していた。

「……この人、すごいよ。口だけじゃなかった」

「そうなの?」

「高位の信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのは確かだよ」

 二人が小声で話しているがヤントラはもちろん聞こえていた。

「行く前に言っておこう。生徒全員の身体を頂くつもりだ。覚悟は良いかな?」

「えっ!?」

「帝国四騎士は頂いた。次は君達生徒だ」

 急な事に二人は口をあけて呆然とした。

「殺すわけではないし、痛みは一瞬だ。あと、強くする事にウソは無いよ」

「あ、あ……」

「強くなってからでもいいか。約束した事は守る」

 驚く二人に迷彩柄の外套をまとわせる。

 それから鮮やかな手並みで二人を担ぎ上げて、一気に駆け出す。

 それは誰もが驚く光景だろう。

 二人の生徒も信じられなかった。

 人間二人を担いで物凄い速さでかけていくのだから。

 見た目の印象からは強そうに見えないはずなのに、と何度も思った。

 数時間ほどで目的地についただろうか。物騒な場所などを避ければ意外と早く進む事が出来る。

 馬車など意味を無くすほどだ。

 二人をまず宿舎に案内し、寝泊りする場所を伝えて荷物を整理させた。

「まずは二人は名前と希望のクラス、聖職者(クレリック)などの職業を書いてくれ。将来的にこうなりたいとか。途中でやり直せないから、しっかり考えておきなさい。あと、ここに居る人たちは普通の人間だから。食事とか風呂の事は聞いておくように」

 そう言ってヤントラは立ち去った。

 あまりにも怒涛の展開に二人は驚きっぱなしだった。

 ヤントラは地下施設を確認してから我が家に向かった。

 メモした内容を妻に翻訳してもらう。帝国語ではあったが単語は読めるようで一枚一枚書き直していった。

 殆どが何かの名簿のように思えたが、ラキュースは丁寧に教えてくれた。

 翻訳作業を二時間で終えた後は宝物庫に戻る。

 数時間でかなりの移動距離だが、八足馬(スレイプニール)達の存在価値が薄い。それはまだ活用段階ではないので仕方が無いのだが、移動は面倒くさい。

 宿舎に戻ると生徒の二人は逃げ出す事無く、大人しくしていた。

「あ、書いたかい?」

「……はい」

 壁際に移動して震えている二人に移動を促す。

 一日目は過酷だが、単純作業だと言われた。

 風呂用具と着替え持参で目的地の地下二階から屠殺場に向かう。

 地下に降りた途端に感じる不穏(ふおん)な空気は気のせいではないだろう。

 屠殺場入り口で服を脱ぐように言われた。

 二人は恥ずかしいので制服だけ脱いだ。

「中にメイドが居る。一日一杯居てもらうけど食事などは用意してある。まずは入って」

「はい」

 屠殺場に入ると広大な空間が姿を現す。所々に『永続光(コンティニュアル・ライト)』の光りがあり、室内はとても明るかった。

 確かに入り口横にメイドらしき人物が椅子に座っていた。

 それ以外は何も無く、それでいて嫌な予感が強くなる。

 中はとても広い。真っ直ぐ先にある壁まで数百メートルはあるだろう。

 数十メートル先に椅子が置かれていた。

 その椅子の座る部分の中心に大きな穴が空けられ、クッションも乗せてあったが同じ大きさの穴が開いていた。

「二人はそこに座って」

 言われる通り、椅子に座った。

「まずは君達は今、どんな魔法が使える?」

「簡単な回復魔法くらいです」

「俺はまだ『保存(プリザーベイション)』とか簡単なものしか……」

 メモに書かれたことを復唱させ、ヤントラは自分の分かる文字へと翻訳しなおす。

「これから色んな化け物と戦ってもらうわけではないが……。過酷な特訓だ」

 ヤントラが手を叩くと何処からとも無く仮面を付けたメイドが音も無く、素早く近づいてきた。

 椅子の下に桶を置き、それぞれのスボンなどを脱がしていく。

「きゃっ」

「本来は全裸が良いのだが、恥ずかしいなどと言っていられないぞ。……タオルは乗せておくから」

 男子の方も脱がされた後でタオルを乗せられる。

「そこで垂れ流してもらう。ただひたすら君達は魔法を使い続けるだけだ」

 続いて現れたのは赤い帽子を被ったモンスターが一体、物凄い速さで女子生徒の前まで移動してきた。

「信仰系なので倒す必要は無いから安心して良い」

 見たことも無いモンスターに身体が震え始めた。

 その後で別の入り口から続々と頭を頭巾で隠した一団が現れた。その数は二十人は超えているだろうか。とにかく、多かった。

 仮面を被ったメイドが荷物を持ってそれぞれ配置につく。

「彼女たちは君たちの食事担当だ」

 赤い帽子を被った凶悪な顔のモンスター、赤帽子の小鬼(レッドキャップ)の側にナイフを持ったメイドが近づいた。

「君達は一日一杯魔法を使い続けること。魔力切れだろうとね。後ろの者達が魔力の回復役だ。安心して続けてくれ。過酷な環境の方が経験も積み易いだろう。魔力系の方がもっと楽かもな」

 ずっと座ったまま魔法を使い続ける。

 勉学だと思っていたが、拷問のような方法に二人とも戦々恐々となった。

「君はモンスターの傷を治し続けなさい。メイドが様子を見ながら刺していくから。君が刺されるよりはいいだろう? 次の君は……、同じモンスターでいいか」

 新たに赤帽子の小鬼(レッドキャップ)と裸の女性が現れた。

 それらはヤントラによってバラバラにされてしまった。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 無残な死体を男子の前に積み上げていく。

「これを保存し続けてね」

 気持ち悪い死体が転がっている。しかも人間の死体。

 逃げ出したいが二人とも頭巾を被った一団にしっかりと身体を固定されているので動けない。

 頭に頭巾を被った者達の力は凄まじくビクともしない。

「人間に見えるけれどれっきとしたモンスターだから」

 そう言いつつ合図すると今殺されたはずの女性が数人現れた。

「まだ居るから、大丈夫」

「うえっ!」

「では、始め! 緊張感も出しておこう」

 更に合図するとモンスターがどんどん部屋に入ってきた。

 その数は百を超える。

「ここは屠殺場。その名に恥じない施設だよ。ちゃんと魔法を使ってね」

 二人は逃げ道を塞がれた。

 赤い殺意が周りを取り囲む。

「特訓なんだから、これくらいは普通だよ。他のモンスターはちょっと用意するの忘れたから凶悪な面構えの連中で申し訳ない」

 メイドは早速モンスターに一撃を入れていた。

 すぐに回復の魔法を唱える。

 回復させないと殺される気がした。

「……帰りたい……」

「君達は身体に何か細工はしているかな?」

「……いいえ」

「俺も……」

 絶望に染まっているのか、素直に答えた。

「眠る前に身体を貰っていこう。一日頑張れば明日は帝国に帰すからね」

「身体を? 死体でってこと?」

「ちゃんと再生させてだ」

 再生と聞いても想像出来なかったので二人は相槌(あいづち)だけした。

「帰れるなら……、なんでもあげるわよ」

 男子も惨殺死体に魔法をかけ続けた。

 

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