※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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G-14 『強欲と無欲』の返還

 皇帝や周りの騎士達は薄々はヤントラの言わんとしている事がわかって来た。

 不死であるならば永遠の統治も不可能ではないが、発展が無ければ退屈してしまうかもしれない。

 外敵が居るからこそ明日への活力となる、こともある。

 各国と政治的に戦い、民の生活も考える忙しさは無くてはならないだろう。

 極論をヤントラは言っているのだろうが、アインズにとっては考えておかなければならない問題だろう。

 アンデッドは人とは違い、永遠を生きる。

 限りある生だから今を大切に出来る。

「アインズの敵を育てるのも悪くは無いかもしれないが……。この世界の変遷(へんせん)を見るのも悪くないだろう。魔導国の街づくり。それは私も応援しよう」

 建国したからには街も造らなければならないだろう。

 エ・ランテルを丸々貰ったからといっても統治するのはアインズだ。

「応援って……。いずれは王国全てをもらうかもしれないぞ」

「属国にしてくれるなら文句は無いさ。それで国王はすぐ殺すのか?」

「はっ? ……敵国の王は生きていても仕方ないだろう。……ジルクニフ、その場合はすぐに死罪だよな?」

 怒涛のやりとりに驚いていたがジルクニフは咳払いで気持ちを整える。

「戦争の責任を取らせる意味では死罪もありえるだろう。国家反逆罪は大抵が死罪だし、敵国の王を生かしておけば謀反(むほん)のおそれがあるからな」

 自分も皇帝の地位に就くまでに家族を手にかけてきた。

 それが今は自分の身に降りかかろうとしているのだから発言は慎重になってしまう。

「殺すなら貰うぞ。地位だけ剥奪すればいい。関係者を皆殺しにするとして城や街をアインズがしっかり面倒を見られるか?」

 見られるわけがない。その時は部下に任せる事になるだろう。だが、他の都市全てとなると人員が足りなくなる。それはどうすればいいのだろうか。

 統治していた人間にやってもらうのが一番良いに決まっている。

 各都市に住む人間を従わせる事はとても大変だろう。

「都市運営に詳しい人間は残した方がいいだろう」

 法律や租税問題。それらはアインズの苦手とする分野だ。まして部下は人間社会に詳しくない。というよりは人間蔑視の傾向が強すぎる。

 全てをアンデッドに変えたら税収入が必要なくなり、資金が得られなくなってしまう。

 鉱山とて再生成されるわけではないし、資源は有限だ。

 労働力としてアンデッドはとても優秀だが、資金面では色々と問題が山積している。

 信頼厚い人間を殺すと国民の怒りは自分に向けられてしまう。それは最後の手段にしなければならないだろう。

 エ・ランテルではモモンの英雄像は揺るぎないものだ。犠牲にも出来ないほどに。

 帝国でもアインズの名声は良くも悪くも高まっている。

「殺さずに済ませる方法はあるのか?」

「無くは無いだろう。恩赦(おんしゃ)を与えて一市民として暮らすか、国外追放だ」

 王国のランポッサ三世は高齢ということもあり、国内で隠居してもらう事もありえるだろう。

「優秀な人材ならば引き抜く事も出来るぞ。俺は王国戦士長が欲しかったがな」

 王国最強の戦士長ガゼフ・ストロノーフの生存は既に知れ渡っており、引退も皇帝の耳には入っていた。

「私も人間を殺しつくすのは好きではない。平和的に統治する。それは約束しよう」

 重々しい声でアインズはヤントラに言った。

 皇帝を含めてアンデッドであるアインズが人間を殺戮するのは好きではない、と言った事にそれぞれ驚いた。

 先日、ヤントラが言った通りの言葉を聞くとは思わなかった。

 生者を憎むのがアンデッドというモンスターだ。本来ならば。

 人間をすりつぶした大魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのに、という驚きが広がる。

「絶対に殺すな、とは言わない。私とて敵は殺すが敵国だから、という頭の悪い理由では殺しはしない。帝国民だろうと仲良くしたいと思っている」

「報復に来たのかと思ったぞ」

「ちょっとだけは考えたけどな」

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の支配者アインズ・ウール・ゴウンと真っ向から立ち向かっているヤントラに騎士達は驚いていた。

 実際に二人が対面するところは初めて見るが、両者とも一歩も引かないところは凄いと思った。

 ジルクニフも驚いていた。

 何故、平気で話せるのだと。あれほどの力の放出にも驚かないヤントラにも皇帝は驚いていた。

 話しぶりから口先だけで当人が来た途端に手のひらを返すのでは、と思っていたがとんでもないことだった。

 一切ぶれない姿勢には恐れ入った。

「私は経験を。アインズは知識を与えてやればいい。高い位階魔法をたくさん習得してるんだから。超位魔法とか……は軽々しくは使えないか……」

「……お前、隠し玉を簡単に教えられるわけ無いだろう」

「魔法学院の生徒は魔法の知識を高めるために通っているんだ。教えてやれば良いだろう。言うだけで授業料か講義料がいくらか貰えるかも知れないぞ。さすがに『黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)』は犠牲が多いから実践は駄目だが」

「……やっぱりあれを教えたのはお前か……。……お前しか居ないよな……。五回も潰してこりないの」

 五回というのはアインズが使った回数だが、この魔法は他のプレイヤーももちろん使う。

 普通に考えれば超位魔法の事を一番知っているのは食らったプレイヤーと使えるプレイヤーと情報として知っているプレイヤーだ。

 わざわざ黒い仔山羊に弱いのに立ち向かったバカが居たっけな、とアインズは呆れてしまった。

「せめて第六位階まで講義してやれ。信仰系は性格に難ありだが……。ああ、ペストーニャが居たな、あれでいいだろう」

「うむ。生徒の為になるなら……。それは後で考えておこう」

 普通に会話が成り立っている。あと、ペストーニャとは何者だろう、とそれぞれ疑問符を浮かべる。

「帝国には報復ではないのは分かったが、帝国民を懐柔(かいじゅう)して私の敵を作ろうとか考えているのか?」

「そんなことは考えていない。第六位階を覚えたところでお前には上位魔法無効化があるんだから、生徒ごときの魔法でどうにかなるわけが無い」

 第六位階の魔法が通用しない事と『上位魔法無効化』という物騒な単語が聞こえてきた。

 魔導王には第六位階ですら通用しない、という絶望的な事実を告げられたような気がした。

「それもそうか。だが、第七位階以上に達する者も出てこないとも限らないだろう」

「魔法を開発する技術があるんだ。新しい魔法が作れるかもしれないぞ」

「ほう……。それは興味があるな」

 未知の力は脅威ではあるが研究したい素材でもある。

 都合が良いことに魔法に関して帝国は最先端の技術を有しているのは様々な情報から得ている。

 今は脅威となるようなものは無いが、研究施設には興味があった。

「おお、ジルクニフ。勝手に話しを進めて悪かった。つい私情を挟んでしまった」

 アインズはジルクニフに軽く頭を下げた。

 対人においてアインズはそれなりに礼は尽くすようにしていた。

 元々サラリーマンなので礼儀を知らないわけではない。

 多少の一般常識は今も持っている。

「いやいや、こちらは驚かせてもらっていたよ。それでアインズは短期間で生徒達を成長させる方法は知っているのか?」

「……あいつのやっていることが経験の積み重ねだけなら『パワーレベリング』という方法だろう」

 聞きなれない言葉にジルクニフ以下、他の者も首を傾げた。

 レーモンは魔導王が看破した事に驚いた。

「僅かな期間というところは驚くが……。魔法まで習得させるとはな」

「分かりやすい魔法だけはな。アインズだって出来るだろう」

「生徒に魔法を与える事をか? 知識は与えられるが……」

 経験を積ませる事はアインズにも難しい事ではない。もちろん理論的には、だが。

 使いたい魔法を与えるのは簡単な事ではないはずだ。

 というか、その辺は全く調べていないので、よく分からない事だった。

「そもそもお前は戦士職だろう? 魔法など教えられないんじゃないのか? いくら信仰系とはいえ……」

「経験は与えられるが魔法は秘密だ。今、お前が装備している『強欲と無欲』を返せば教えてやるぞ。この方法はお前なら出来るかもしれない」

「はっ? これは……わ、渡したくないな……」

 アインズは咄嗟に自らの手に装備して居るも(・)の(・)を庇(かば)う。

 ヤントラの言う『強欲と無欲』は今、アインズが装備している黒と白のガントレットの事だとそれぞれ気付いた。

 しかもそのガントレットはヤントラの物かもしれない、という。ただし、それぞれの憶測だが。

「今のうちに無欲を使っても良いぞ。あと、お前、二つも装備してるんだから外しても心配は無いだろう?」

 ヤントラの言う『心配はない』というのはアインズはもちろん理解している。

 世界級(ワールド)アイテムを所持していれば世界級(ワールド)アイテムによる攻撃を防げるからだ。

 現在のアインズは二つというよりは二種類の世界級(ワールド)アイテムを装備した状態だ。

 念には念を。というのと無骨なガントレットよりかっこいいから、という理由もある。

「平和的な統治を約束している限り、私は邪魔はしない。真蒼の薔薇を急に殺す、とか言い出したらタダじゃおかないからな」

「急には殺さん。……ラキュースには色々とお世話になっているからな」

 凱旋の時、色々と指導してもらったから問題なく式典は乗り越えられた。

 モ(・)モ(・)ン(・)の(・)演(・)出(・)も問題なかったし。

 さすがに二人目のモモンは現れなくて良かったが。

「……待て。その前に聞くがお前は統治には反対なのか? 賛成なのか?」

「自治の獲得は私も手を回した。それをお前が無視しただけだ。建国自体は歓迎しているよ。自国があればあ(・)の(・)子(・)達(・)も自由に外に出られるだろう」

「そうなの?」

「うん」

 ナザリック地下大墳墓の自治の獲得はヤントラも肯定派だったことにアインズは驚いた。

 建国を阻止してくるかと思っていた。

「戦争の邪魔をしたのは……」

「派手な魔法を使うと予想していたからだ。全滅は阻止出来たようだから、良かったよ」

「良くない!」

 ドンと足を踏み鳴らすアインズ。それだけで部屋が揺れる。

 騎士達も絨毯の下はひび割れているかもしれないと思ったほどだ。

「敵を蹂躙する楽しみを奪われたんだぞ。しかも、………」

 モモンのことは言えない。偽者だと言ってしまうと後でいちいち顔を見せなければならなくなる。

「殺しすぎれば『本来の敵』に攻撃の理由を与えてしまうぞ。半数だけでも逃がしたのは慈悲だろう? これはあくまで帝国と王国の戦争だ。アインズ・ウール・ゴウンやナザリックの戦争ではない。……代理戦争っていうのもあったか……」

 そう言われてアインズは唸った。

 ナザリックの自治の獲得の為に帝国が代理戦争を仕掛けた。

 互いの利益の為に。

 無理にアインズが活躍してしまうと色々と不都合な事があるかもしれない。

 既に終わってしまったが、本来の敵である『敵対プレイヤー』に大義名分が出来るだろう。だが、今のところ反撃が来ないし、もう居ないものとして力を奮(ふる)う事にしたのだからヤントラの言い分はもう聞く必要は無いだろう。

「その敵の問題は終わった事だ。向かってくる者が居れば叩き潰すと決めた」

 慎重なアインズが決めたのなら仕方がないとヤントラはすぐに結論を出した。

 ナザリック地下大墳墓は防りから攻めに転じた、ということになる。

「冒険者モモンは大活躍で英雄だ。アインズも帝国で臣民の支持を得ると良いな」

「戦争に勝ったのだから支持は得ているだろう」

 戦争の様子を見ていない国民は戦争に勝った事でアインズを支持するかもしれない。けれども、現場に居た者たちはアインズを『魔王』などと呼び、将来の不安を招いてしまった。

 強大な魔法がいつ自分たちに向けられるか、恐怖しているからだ。

「力だけなら知能は要らないぞ。ここは知性ある支配者、帝国では……、なんて呼ばれているのか知らないが……」

「……魔導王閣下です」

 話しに口を挟めなかったレーモンが小声でヤントラに伝えた。

「姿は恐いだろうが、慣れれば気にならなくなるだろう」

「そう思うか?」

「私はお前の骸骨面は慣れたよ。あとあと正体を明かす方がびっくりすると思うけどな。あと、お前が説明しないから私が一つ一つ教える立場になってるんだが、いい迷惑だよ」

「……それは、すまない」

「!?」

 魔導王が謝った事に皇帝と騎士達が驚いた。

 皇帝は驚きっぱなしだった。

 話しぶりが全く変わらない。相手によって口調が変わることはあるのだが、ヤントラは変わらない。

 正直で素直。言い訳もしないし、秘密は秘密と言える。

 相手が魔導王でも一歩も引いていない。それが素直に凄いと思った。

「だいたいお前の部下でもないんだから話したところで、止める権利はお前には無いだろう」

「……はい」

 ヤントラに命令する権利はアインズには無い。

 そもそも論で言えば仲間ではないのだから。

 ナザリック地下大墳墓を利用するだけの友達の友達。

 友達でもない気がするが。

「一通り世界を回ってから、お前と係わり合いにならない場所に行こうかと考えている」

 世界を取れば係わり合いにならない場所など存在しなくなるのでは、とアインズは疑問に思った。

「例えば、何処に行くんだ?」

「夜空に輝く星、というのはどうだ? 宇宙まで征服すると言い出したら、殺すぞ」

 宇宙征服。それは壮大な夢物語だが、今は地上の世界を征する方が先だろう。

「お前の顔を見るくらいなら星のひとつくらいくれてやってもいいだろう」

「行っている間に死にそうだが……。統治方法が無難なものなら平和に暮らしたいな」

「お前の言う平和が生徒達の成長と関係するのか?」

「生徒の夢を手伝ってあげるのが大人の役目だろう? 第三位階で人間の限界などと言っているんだ。もう少し足掻(あが)かせてやってもいいだろう?」

「……お前みたいなのをお人よしと言うんだ。帝国の民まで面倒を見る気か? それよりお前には守秘義務という概念が無いのか。ポロポロ喋りやがって」

「私にも守る秘密はあるさ。別にアインズだから喋っているわけじゃないぞ。重要度はちゃんと選んでいる。ラキュースにだって言っていない事があるさ」

 その点で言えば戦争時に何をするのか最後まで分からなかった。

 味方にもちゃんと秘密にしていたところは凄いと思う。

 聞かれて答えられる部分は何でも答えているのだろうが、アインズとしては恥ずかしい部分は言ってほしくなかった。

 文字が読めないとか。

 それは小さな事かもしれないけれど。

 『強欲と無欲』を渡せばパワーレベリングで分からなかった事も教えてくれるのだろう。しかし、それは自力で解き明かしたい気持ちがある。

 どうやって魔法を習得させたのだろうか、という点だ。

 それを行(おこな)う場合はコンソールなどが必要なはずだし、ナザリックでは玉座の間に行かなければならないことだ。

 ましてステータスは今ではスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを。と、まで考えが進んだところで疑問を感じた。

 それは違和感のようなものだ。

 呼び出すこと自体はヤントラにも出来るだろう。

 呼び出す者によってコンソールに制限が設定されているのだから。

 アルベドや天井に控えさせている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の目をかいくぐる事は不可能だ。

 外套やアルベドによる妨害も報告されていない。

「……いや、まさかな……」

 他人のステータスを見る魔法は存在するが改変する事は出来ない。

 それとも未知の魔法が開発されたとしたら、それはとても恐ろしいことだろう。

 第五位階程度までしか覚えていないのであればレベル突破はしていない事になる。

 下手をしたら第三十七位階とかバカみたいな事もあったりするのかと思ってしまった。

 そんな魔法があればとっくに世界が征服されたり、崩壊しているだろう。

「話しを戻すが、生徒達はステータスが物凄い上昇とかしているのか?」

「していないが、たくさん増えただろうな」

「限界を突破するくらいか?」

「あまりにも飛びぬけた上昇ならあちこちすぐ壊れるって。常識外れな増え方は無いよ」

 ヤントラはアインズがある程度の予想がついて質問しているのだろう事は気づいた。

 ステータスを改変する事ができるのであればワールドチャンピオンにだって勝てるだろう。チート中のチートだろうがユグドラシル時代はそれをなしえた者は居ない。

 課金で出来るかもしれないが、さすがに課金関係はヤントラにはどうにも出来ない。

 出来るかと言われればヤントラはその方法は知らないと答える。

 自身の持つす(・)べ(・)でも出来はしないだろう。

 だが、一部の設定は常識外れの効果を見せている。

 試すのが恐いと言う事もある。

 大きい小さいはあるがヤントラにも恐いと思う事はある。

 世界を壊すこと。永遠に平坦な世界に生きること。

 誰も居ない世界に一人で取り残されること、などなど。

 あまり考えたくない事でもある。

「文句があるなら魔法禁止法でも作れば良い」

「そんなものは作らない。……生徒達を鍛えた事に文句は言わない」

 脅威になるなら第四位階以上は禁止、というのも、と禁止法を少し本気で考えてしまった。

 帝国は魔法詠唱者(マジック・キャスター)に寛大(かんだい)な国で様々な研究が行(おこな)われている。それをみすみす失うのはもったいないだろう。

 急な成長には驚いたし、パワーレベリングについても驚いている。

 従順な市民のままの方が統治も容易いだろうが新しい発見が無いのも虚しいだろう。

 ここまで考えたところで、帝国の国民は自分の国民ではないことに気付き、肉体があれば恥ずかしさで顔が赤くなっている事態だ。

 帝国の国民を同盟国であるというだけのアインズがとやかく言う権利は無い。

 同盟相手としては生徒達の成長は褒めておいた方がいいだろう。

 中途半端な成長だと叱責(しっせき)すれば、それこそ逆効果になり、驚異的な力をつけるかもしれない。というか付けさせてくるかもしれない。

 自分が直接指導する訳ではないし、要望があれば話しくらいはするかもしれない。

 いざとなればフールーダに代役を頼めば済む。

「帝国の国民……、ジルクニフ達が喜んでいるならば私は文句は言わない」

「おお、ありがとう、アインズ」

 魔法の講義は出来るとは思えないが、細かい事はフールーダに任せよう。

「だが、敵対行為が認められれば例えお前でも殺すぞ」

「敵対とはアインズのことか? ナザリックのことか?」

 もちろん我々(アインズ陣営全て)の事だ、と言いそうになったが昔から敵だし意味が無い事に気づく。

「……建国されるアインズ・ウール・ゴウン魔導国とその国民達も含めて、だ」

 そう言ってアインズは今まで溜まった怒りを発散する事にした。

 ガゼフ・ストロノーフは運よく助かったようだし、話しからも仮死状態であったようだから無理に追撃はしないことにした。だが、ヤントラは確実に殺しておきたい相手だ。

 それにヤントラは真のプレイヤーだ。

 

 〈魔法即効無詠唱・時間停止(タイム・ストップ)〉

 

 第十位階の魔法で戦争の決着にも使ったものだが、相手はプレイヤーだ。

 いくらヤントラとて対策はしているだろうから、近づくのは当然得策ではない。

 効果が切れる間に試してみよう。

 歯ごたえのある冒険者の実力を見るのも今後の対策になるだろうから。

 続けてアインズは『魔法三重化(トリプレットマジック)・上位魔法封印(グレーターマジックシール)』の後に『魔法三重最強(トリプレットマキシマイズ)位階上昇化(ブーステッドマジック)・魔法の矢(マジック・アロー)』を唱えて、すぐに、しまったと思った。

 最強位階上昇化にすると第一位階の『魔法の矢(マジック・アロー)』が第十位階相当の威力になってしまう。

 でもまあヤントラだからいいか、と思い、諦める。

 ただ、部屋が壊れてはジルクニフに叱られてしまうだろう、ということで『魔法三重化(トリプレットマジック)』に留(とど)めて『魔法の矢(マジック・アロー)』を時間いっぱいまで唱えてみた。

 軽く三百発分になっただろうか。

 避けようものなら近くに居るレーモンが巻き添えになるだけだ。

 避けるヤントラが悪いという言い訳が出来る。

 そんなことを考えているうちに『時間停止(タイム・ストップ)』の効果が切れる。

 それと同時に『開放(リリース)』とタイミング良く唱えた。

 ヤントラのすぐそばで魔法陣が三つ展開される。

 当然『警報(アラーム)』は発動するが手遅れだ。

「!?」

 アインズの常人を超えた感覚で捉(とら)えた光景では打ち出される『魔法の矢(マジック・アロー)』を無骨なガントレットで叩き落しているところだった。最初の攻撃は腕を犠牲にして防いだのか、貫通は避けられていたようだ。残骸が落ちるまでの間に再生魔法を使った後で『鎧強化(リーンフォース・アーマー)』で防御を高めている。

 短時間で素早い判断力。これこそがプレイヤーとしての力量だろう。

 あとは単純作業だ。既に結果は見えている。

 アインズはいくつか納得し、感心する。

 数秒間で予想結果が判明するのだが、周りは事態に驚くばかりで叫び声などを上げていた。

 三十秒後には魔法攻撃は止んだ。

 全身の肉が抉り取られるような状態だったがすぐに塞がり始める。

 足元には無数の肉片が散らばる。

「さすがだな」

「……室内で魔法の弾幕はキツイな……」

 三百発以上の魔法の洗礼にもかかわらずヤントラは平然としていた。

「行く先々で血まみれになるの、久しぶりだな。最初の十発はびっくりしたぞ。城を破壊するつもりか?」

「それはうっかりミスだ。すまなかったな」

 攻撃されたのに普通にやり取りしている事に皇帝は唖然(あぜん)としていたが、騎士達も口をあけて驚いたままだった。

 ヤントラの側に居たレーモンも失禁しそうになって壁際に逃げ出す。

「この程度で死ぬような奴ではないと思っていたが、手加減しすぎたな」

 三分の一は叩き落し、残りは身体で受け止める。

 的確な判断力が無ければ後ろに居る人間や周りに被害が広まっただろう。

 転移系でさっさと逃げるのが一番楽なのだが、見捨てる事は出来なかったようだ。

 すんなり逃がす気は無かったけれど、とアインズは思っていた。

 両手を振りつつ、一息つくヤントラ。

 全身血まみれだが、既に軽い運動を始めていた。

「アインズ……、今のはいったい……」

「ああ、すまない。驚かせてしまったな。ちょっと頭に来ただけだ。お陰ですっきりしたよ」

「アインドラ卿は大丈夫なんですか?」

 レーモンはヤントラに尋ねた。

「んっ? 私より後ろに居たあなたは無事ですか?」

「は、はい。……なんとか」

「こういう時の為に魔法があって良かったなと思いますよ。こいつと一緒に居るとケンカにしかなりません」

「それはこちらも同じだ」

 化け物同士の会話は騎士達を唖然とさせるものだったが、ジルクニフはヤントラの評価を改める事にした。

 ただのバカではない。

 強大な力に怯まない化け物だと。

 それは侮辱ではなく、尊敬の念が込められていた。

「皇帝陛下。絨毯が汚れてしまい、申し訳ありません。洗濯して返しますから」

「んん、それには及ばん。それよりも身体は大丈夫か?」

「身体はね。装備品がめちゃくちゃですけど」

 回復魔法で装備品は治らない。

 長く愛用していた無骨なガントレットもアインズの『魔法の矢(マジック・アロー)』には歯が立たなかったようだ。

 というか最初の『魔法の矢(マジック・アロー)』は威力がありすぎる。それが続いてたら身体を貫通していただろう。

 『鎧強化(リーンフォース・アーマー)』でもアインズの魔法は強力だった。

 避けてたら室内は大惨事だった。

「装備がめちゃくちゃか……。それは悪いことをしたな」

 全然、悪いと思っていない調子でアインズが言ったと騎士達は思った。

 表情は分からないが、軽い口調だったのでそう思っただけだ。

 その後でアインズは装備していたガントレットを外す。

 指輪をはめた骨の手があらわになる。

「これをしばらく預けておこう」

「預けたのはこっちだ。というか無欲は使わないのか?」

「ん……。そ、そうだな」

 経験値を消費するスキルはいくつか持っているし、超位魔法でも重宝する。

 五レベルドレイン系では無くてはならないアイテムと言える。だが、急には使い道が浮かばない。

 ヤントラの足元に落ちている肉片を媒介にして高レベルのモンスターを作るのに使うか、とアインズは思い、歩を進める。

 溜まっている経験値の量は超位魔法『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』を最大源利用するとして二回分は使えるだろう。

 経験値を消費して呼び出す高レベルモンスターも複数体は作り出せるほどだ。

 肉片が小さいのが気になるので、ちょっと腕を落とせと命令してみた。

 聞いていた皇帝と騎士達はとんでもないことを言っていると思い、それぞれ慌てる。

「しょうがないな……」

 と、アインズの言葉にヤントラが従い、あっさりと自らの腕を切り落とす。

 本当に腕を落とすとは思わなかった者達が声を上げる。

「あ~、失礼。びっくりさせてしまいましたね」

「そ、それより、よく平気で……」

 皇帝は驚いていたが、騎士達の首を平然と落とす人間だから自分の身体を傷つけるとは思っていなかった。

 相手に痛みを与える事はできるが自分は痛いのは苦手と言う者はたくさん知っている。

 それなのにヤントラは自らの腕を平気で切り落とした。

 とにかく、凄いとしか言いようがなかった。

 アインズは血で汚れる絨毯には目もくれず、無欲を掲げて経験値消費で行(おこな)えるモンスター作成を行う。

 『具現した死の神(グリムリーパー・タナトス)』と『死者の支配者の賢者(オーバーロード・ワイズマン)』を交互に一体ずつ呼び出すごとに腕を落とせと注文を付けていく。

 明らかに凶悪極まりないモンスターが皇帝のそばに二体出来上がった。

 まだ経験値に余裕があるので『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』を使うことにした。

「何がいいかな?」

「ドラゴンハイドはどうだ? 素材アイテムも願えるのだろう?」

「んー。それはそうなのだが……。試すだけやってみようか」

 アインズならば気がつくだろう。ゲーム時代には出来なかった超位魔法の凄さを。

 五レベルダウンの経験値を消費して発動すれば不可能を可能にする願いの項目が現われる。

 ヤントラは自分で確かめたいのだが、魔法職ではないので、もどかしい気持ちだった。

 いっそ死んでクラスをやり直そうかとさえ思うほどに。

「……んん。これは素晴らしい。素材が願えるのか、しかもレアアイテムなのに」

 見た目には分からないが、アインズの目には色々と見えているのだろう。

 貴重な課金アイテムを使う必要が無いとは言え、この魔法は中々使うのに覚悟が要る。

 思い切って願ってみると少し上の方から大きな物体が落ちてきた。

 それは加工前の『ドラゴンハイド』という皮アイテムだ。しかも三枚も。

 貴重なアイテムらしく一枚から切り出せる枚数は少ないのだが数十枚近くは確実に取れるだろう。

 たとえ数十枚とはいえ対プレイヤー戦では一回の魔法の使用が勝敗を分けることもある。

 ドラゴンハイドから作られるスクロールには第十位階魔法を込める事ができる。

「素晴らしい! 天然の竜(ドラゴン)は出会うのが大変だ聞いているが……。しかも三枚も!」

 ただの皮に何がそんなに凄いのか、アイテムに詳しくないものにはただのゴミにしか見えない。

「運がいいな。一枚でも出たら御の字だろうに。ドロップ率向上のスキルとかアイテムでもあったのかな?」

 ヤントラももちろん驚いた。

 神器級装備や様々なアイテムを装備しているからこそ成しえた事かもしれない。

 ドロップ率を上げる課金アイテムがあるらしいが、クラスによっては探索系クラスを取得すればいいなど色々と条件はある。

 スクロールの素材については自前で用意するつもりだったので試した事は無いが、それでも貴重なアイテムの出現は素直に驚いたし、我が事のように嬉しかった。

 まだ経験値が残っていたので残りをかけてレアアイテムを願ってみた。

 無欲に頼むので足りない分は勝手に経験値を消費したりはしない。

 次に現われたのは一冊の本だった。それは何の本かは願った人物にしか分からない。

 本来は願うたびにレベルダウンするものだから便利であっても多用は出来ない。それは一流のプレイヤーは熟知している。

 だからこそドラゴンハイドなどのアイテムは願うより竜(ドラゴン)を狩る方が経験値も手に入るので効率がいい。

 だが、それはあくまでレベルダウンを恐れるようなプレイヤーの考えだが。

「……さすがに課金アイテムは願えないようだな」

 今の願いで強欲が蓄えた経験値が無くなったようだ。

 アイテムを懐に仕舞うと満足したようだ。

「良いものが手に入った」

 アイテムに満足した後で『強欲と無欲』をヤントラに渡す。

 貴重な世界級(ワールド)アイテムなので投げ渡すようなぞんざいな扱いは出来ない。

「奪われるような事はないと思うが、ナザリック以外には奪われるなよ。絶対だぞ!」

「犯人がお前たちならどうしようもないがな。大切に扱うよ」

 ちょっと帰り道に襲撃しようかと思ったが我慢した。

 今は皇帝の前で結構迷惑をかけたので大人しく引き下がる事にした。

「それと生徒の事はジルクニフに任せる。全員の面倒を見る余裕は無いからな」

 魔法習得の興味はあったが面倒までは見ることが出来ないし、生徒達に講義するのも気恥ずかしい。

 自分達の国造りで手一杯というのもあった。

 法整備とか部下達の配置など問題が山積みだから。

「用を思い出したので、失礼させてもらうよ。ジルクニフ、部屋を汚すようなまねをして悪かった」

「そ、そうか。また機会があれば来てくれ」

「次は国造りについて相談させてもらおう」

 そう言ってアインズは物騒なモンスターを引き連れて退出して行った。

 ヤントラは『強欲と無欲』を装備する。

 数年ぶりに持ち主の下に戻ったような感触があった。

「うむ」

 軽く観察した後はアイテムボックスに放り込んだ。

 これでしばらくは安全だろう。

 掃除用具を取り出して、残りのゴミなどを片付けていく。ただ、血の跡は消せない。

「……それにしてもアインドラ卿は肝(きも)が据(す)わっているな。我々はたじたじだったぞ」

 強大なアンデッドが居なくなってからジルクニフは玉座に身体を預けた。

「そうですか? 奴とは付き合いが長いですからね。それにしてもなにやら迷惑ばかりかけたようで申し訳ありません」

「いやいや。こちらこそだ」

 しばし室内が沈黙する。

「おおっ、そうだったそうだった。アインドラ卿を呼んだ理由を忘れていたよ」

 ジルクニフは苦笑した。それから従者に合図を送る。

「竜王国から返事が届いた。内容は……、行ってやるから首を洗って待っていろ、という内容だ。おそらくは……三日後には来るんじゃないかな。あの若作り婆(ばばぁ)は……」

 騎士は別の従者を呼びつけて絨毯の片づけを命じた。

「帝国の生徒達は鍛えてもアインズには太刀打ちできんか?」

「人間ですからね。異形種の魔力系に特化した相手には分が悪いです。毒、睡眠、即死、精神支配系は通じませんから。炎対策もしているでしょうし。無理に戦うのは自殺行為ですよ」

 『絶望のオーラ』や広範囲に即死効果をもたらすスキルも持っている。

 無駄死にする光景しか浮かばない。

「倒さずにうまく付き合うしか無いと。……いや、その方が犠牲が出ないと言うのだな」

 世界を滅ぼせる化け物と仲良く付き合うのは大変だが、今は大人しくしていた方がいいのだろう。

 アインドラ卿の出方を伺うために呼びつけたが意外な展開に度肝を抜かれた形になってしまった。

 アインズとは違った意味で一筋縄ではいかない人間のようだ。

 王国に籍を置いているのは妻の存在があるからとはいえ、手元に置いておきたい逸材でもある。

 土地の購入も進めておかなければなるまい、とジルクニフは密(ひそ)かに思ったが顔に出ないように気をつけた。

「……アインドラ卿。先ほどのアイテムはどのようなものなのですか?」

 レーモンが興味半分で尋ねた。

「う~んと、倒したモンスターの魂を吸うのが強欲。強欲が吸った魂を別の力に換えるのが無欲。そんなアイテムです。防具としては……、もったいなくて使えませんが……」

 魂を吸うアイテム。それはそれでおぞましいと聞いていた騎士や従者たちは思った。

「あの皮は……?」

「ドラゴンハイドですか?」

「はい」

「あれはスクロールに加工する中では超一級品です」

 ヤントラでさえ顔がにやけるような物凄いアイテムだというのは分かった。

「第十位階までの魔法を込める事ができるんですよ」

「あのアイテムに第十位階の魔法が込められるのですか!?」

「とても貴重なアイテムです。私でも手に入れるのは難しい一品なのですが……。実物を近くで見られて良かったです。三十枚以上は取れるかもしれませんね」

 第十位階の魔法のスクロールともなれば街が買えるかもしれない、とレーモンは金貨に換算しようとしてしまった。

 だが、とても値が付けられない。

「仮に売りに出されても誰も買えませんよ、高すぎて。あれくらいになると全財産を投じても買えない場合があるので殺し合いになったりします」

「うわー……。それは凄まじいですね」

 買えないほど高いなら殺して奪うしかないかもしれない。それはレーモンも納得できた。

「我々のところは貴重なアイテムを巡って殺し合いが始まります。下手なモンスターよりも凶悪な敵ですからね。互いに手の内を読みあう、そうやって強くなっていったんですよ。モンスター退治は素材集めや趣味になるほどです」

 凄まじい世界だなとレーモンは驚いた。

 想像できない修羅場なのだろう。

「それにしても……、魔導王閣下に一歩も引けを取らないアインドラ卿は凄かったです」

「ありがとうございます」

「それで、アインドラ卿は生徒の育成にこれからも貢献するのか?」

「目標は全員です。あと、野盗に堕ちないように教育はしっかりしてください」

 つまり全員の身体を奪う、ということだろうかとレーモンはまた少しだけ背筋に冷たいものを感じた。

 力を持った生徒が悪の道に向かえば色々と脅威だろう。その辺りの教育も今後の課題となるだろう。

「気の済むまで鍛えてやってくれ。……もし将来的に死罪になる時は我々をもらってくれるのか?」

「もらいたいところですが、私が生き残っていないと駄目ですよね」

「……ん、そうだな。つまらないことを聞いたな。絨毯に関してはこちらで処理する。まずは……、身体を洗ってくれ。城の風呂を貸そう。そのまま外に出られては国民に顔を顰(しか)められてしまう」

 気がかりはあるが、ヤントラの優しさに少しだけ感謝する事にした。

 長生きして帝国を大きくする上で利用できるものはなんでも利用する。

 だが、今回は利用する相手を間違ったかもしれない。

 後悔しても仕方が無いが今は前を向いて歩くしかない。

 

 帝国から戻ったヤントラは早速『強欲と無欲』の強欲を使う。

 本来なら使っても仕方の無いアイテムなのだが、今はとても重宝している。

 一気に経験値が溜まるが、限界というものがあるのか、何処まで溜まるのだろうか、それは使ったことの無いヤントラには知りえなかった。

 一日かけての量産の後で自宅である『蒼薔薇の園』に戻る。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国が正式に建国されたとはいえ、特別何か大きな変化があるわけではないが、一つの大きな山場は終えたような気がする。

 檻に入れっぱなしの八足馬(スレイプニール)達の活用方法をど忘れてしていたが空腹の問題は無いだろうが、運動不足に陥っては困るだろう。

「エ・ランテルで魔導国の建国式典を見てきたぞ」

「凄まじい化け物共が歩いていた。あれはすごいな」

「戦争に現れたモンスターよりも危険な気配を感じたよ」

 それぞれ今まで見たことが無かったモンスター達に驚きつつも感心していた。

 出会う事が難しい強敵たちが一同に介しているのだから不安はあるが、何かを期待させるに充分な気持ちを得た。

「頭に角の生えた美女。あれもすごいね」

 その式典に現れたモンスター達に石を投げた子供がいて、その子供を殺そうとしたときにモモンが颯爽と現れたらしい。

 それだけでヤントラは予想出来るのだがイビルアイ達は感動していたようだ。

「その美女、どこからともなく黒い斧を出したからびっくりしたよ。あれ、ご主人と同じ原理なのかな」

 ナザリックのNPCの一部には創造主より様々なアイテム、装備類が与えられている。それらをアイテムボックスから取り出すことも、もちろん可能としている。

 一般のシモベよりも多機能なので敵として出会えば相当な苦戦、というか戦い難い相手となるだろう。

「……ナーベは?」

「二人ともエ・ランテルに拠点を移すそうで、出て行ったよ。あと、冒険者組合の方で色々と話し合いがあるらしくて」

「帝国側が『移籍制度』について協議したいと言うのでモモン様が話しを聞きに行ったんだ。私たちからはラキュースとガガーランが話しを聞きに行った」

 あの案を検討してくれたのだなとヤントラは少し安心した。というか、聞き入れられたことには素直に嬉しさがある。

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国。迂闊に敵対するのは得策では無い事は充分に理解した。だが、あれらと対等に渡り合わなければならないとは……」

「統治が始まったばかりです。大きな動きはしばらくはないでしょう。軍備を増強するにしても強引な手に出るか、少しずつ話し合いで何かが決まっていくのか。不安は大きいかもしれませんが、様子見は必要です」

「あれらが世界に広がればすぐに制圧されてしまうだろうな」

 無抵抗で支配された方がいいのか、少しでも抵抗すべきなのか。

 どちらにせよ、犠牲を出してまで戦う価値があるのかどうか、イビルアイを含めて頭の痛い問題となってしまった。

「私はジルクニフ皇帝と色々と話し合いが出来たのでバハルス帝国とは仲良く出来そうです」

「はっ? 勝手に皇帝と取り決めでもしたのか?」

 というよりは留守の間に帝国で何をしてきたのだろうか。

「帝国にも屠殺場を作ろうかと。今、あちらの生徒達を鍛えている最中で」

「ご主人もある意味、世界を取る人だよね」

 クレマンティーヌはにっこりと微笑んだ。

「探究心を伸ばすのも大人の役目ですよ。強大な敵が居るんです。生き延びる方法の模索はさせてやらなければ」

「それはいいが、敵を強くしてどうする? ますます王国が不利になるのではないか」

「こちらも強くなれば良い。今は帝国も王国も戦争を再開できる状況ではないと思うけれど」

 魔導国の出現で帝国も同盟を結んでいるとはいえ領土を手に入れた。更なる強引な方法で戦争を開始するわけにはいかないだろう。

 次の大義名分が出来るまでは。

 来年はその魔導国に国を奪われるかもしれないし。

「シモベが暴れていれば倒せば良い」

「倒せるかな……」

「市民に危害を加えている報告は無いようだが、あれらは集団で居ると恐ろしいな。一体ずつなら何とかできそうだが……」

 一糸乱れずに行進するアンデッドモンスターの数々。他には巨大な昆虫なども居た。

 それらと戦うには戦力が足りないし、個別撃破以外は太刀打ちできそうに無い。

「みんなー。戦う事ばかり言ってるけど、あのモンスター達、ご主人にとって大事な友達みたいなものなんだよ」

 と、クレマンティーヌの言葉にイビルアイは呻いた。

「そ、そうだったな。つい討伐癖が……」

 モンスターではあるがヤントラにとっては大切な友達に匹敵する者達。

 その友達を倒そうと言っていれば良い気はしないだろう。

 イビルアイも人間の敵という立ち位置に居るのだからもう少し配慮すべきだったと反省する。

「アンデッドの兵士たちは倒していいです。一般メイドを除けば多くは量産されたモンスターですから」

「そ、そうか」

「とはいえ、今のままでは太刀打ちできないので、みんなの力を底上げしなければなりませんね。少なくとも一方的な蹂躙を避ける意味でも」

 それが屠殺場の役目なのはイビルアイ達もすぐに理解できた。

 モンスターをただ殺すだけで能力が底上げされる。バカみたいな事だが、クレマンティーヌやガガーランの強さは以前よりもかなり高くなっている。

 ティアとティナも動きが更に洗練されていた。

 ルリマリスは性格は変わっていないようだが、一撃一撃が重くなっているのは確認した。

 難度が上がっている。それもかなり。

「生徒達が終わればイビルアイ達も挑戦してもらおうかな」

「数千体の赤帽子の小鬼(レッドキャップ)が相手だけどイビルアイは平気?」

「……数十体からお願いします……」

 弱気になると可愛らしい声で言うのだが、仮面の影響で可愛い声が台無しだ。

 イビルアイは既に充分な経験を積んでいる。それ以上ともなると赤帽子の小鬼(レッドキャップ)では力不足だろう。

 あと、魔法の開発も出来るのだから、その辺りの才能を伸ばすべきだろう。

 楽しみが出てきたところで女性陣達と食事を始める。

 大きな目標が出来た。

 世界を旅する楽しみも出来た。

 ようやく冒険らしい冒険が始まると思うと、心が踊る。

 みんなの期待に応えてやらなければならないだろう。

 絶望と選択肢との新たな勝負が静かに始まった。

 

●↑●

『第八章 新たなる目標』へ続く

 

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