ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
室内は通路よりも明るくなっており、部屋の中央付近に寝台型の大きな容器が置いてあった。
「うお……」
真っ先にドラウディロンは呻いた。
宰相も口を押さえて眉根を寄せる。
ジルクニフは想像絶する光景ではあったが耐えた。
「うちのメンバーの
色白の見事な裸体。それはいいのだが、近くに置いてある小さな容器がとても気になってしまう。
「……改めて見ると……、おぞまくもあるが……、凄いな」
「女体に興味があった名残です。意味の無いことをしてましたが、大事に飾る事にしました。もちろん自慢するためではありませんよ」
ドラウディロンはうずくまって目を隠していた。
早く逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「目が二つは当たり前なのだが、耳が複数もあると不思議だな」
再生魔法でなければ出来ない芸当だろう。
「仲間を保存するという意味では興味深いのだが、この者達はいずれは寿命を迎えてしまうのだろう?」
「その問題を解決する魔法もあるにはあります。第八位階以上にいくつか」
「だ、第八位階だと!?」
うずくまったままドラウディロンは言った。
「そんなものがあるのか?」
「どうやって知りえているのだ? アインドラ卿は魔法についてあまり詳しくないと聞いた覚えがあるが?」
「おぼろげながら知っている魔法はありますよ。そういえばこの位階にこんな魔法があったっけ、という程度です。どうやって知りえたか……。一覧表があって、それを必死に思い出そうとしているだけです。なにせ、六千個近くありますからね」
六千個というのは一般に知られている魔法に比べれば途方も無い数字だ。
位階魔法の全てはまだ謎に包まれているが第十位階などを入れたとしても多すぎるかもしれない。
「それほど魔法はあるのか」
「新たに開発された魔法などもあるようだし、もう少し多いかもしれませんね。知ったからと言って使えるわけではありませんよ」
「位階は十まであるのか?」
「私の知る限りでは、超位魔法以外は第十位階までです」
「
ワイルド・マジックと呼ばれているこの世界での超位魔法のような強大な魔法。
「いいえ」
「どうして未知の領域をアインドラ卿は知りえているのだ? 聞いても仕方が無いのだろうが……」
「その未知の領域を日常的に見てきたからです。何も特別な事はありません」
ヤントラにとっては普通の事かもしれないが、ジルクニフ達にとっては見るのも聞くのも初めての事ばかり。
知識欲が刺激されるが詳しく説明できない相手でもあるので少しだけもったいないと思った。
「そろそろ移動しましょうか。次は拷問室を通りますがめぼしいものは無いので」
「……いずれは我々もここに並ぶのだろうな」
配置の様子から綺麗に並べてくれそうだと少し安心した。
この施設を満たすとなるとどれだけの人間が収容されるのだろうか。それはあまり考えたくないなと思った。
部屋から出たドラウディロンは生きた心地はしなかったが、地下から早く出たいとは思った。
従者達と共に地下二階へと進む。
この階層は比較的、気持ちが落ち着くのだが、名称が拷問室というので少しだけ緊張する。
小さな部屋が上の階より多く、ところどころに出てくる開放型の部屋は明らかな拷問部屋だろう。
「モンスターなどを研究する部屋としてそれっぽく作ってもらった部屋です」
「意外と綺麗な部屋だな」
「使ってませんから」
地下に入って気付いていたが地下二階も床がタイル張りになっていた。
『
「上が手狭になれば、こちらの部屋に移動させようかと」
部屋の一つを見せてみた。そこは空室で何も無かった。
「ベッドが一つあるだけで、狭い部屋となっています」
「容器ではないのは……。宿泊施設とか?」
「いわゆる異種交配というやつです」
「……ああ、なるほど。だから拷問室なのか」
ヤントラの言葉がすぐに理解できたのでジルクニフは苦笑した。
言葉通りの施設なのは見ても聞いても分かっていたが、実際に目にすると滑稽だった。
「すぐに飽きたので、ここは羊皮紙生産の場にしようかと。羊は買ってきてないですが……」
「効率の良い羊皮紙が出来そうだな」
大量生産場としては確かに素晴らしい施設になるかもしれない。
色々と妄想すればきりが無いのだが、帝国にも作ることが出来れば色々と役に立ちそうな気がする。ただし、人間の標本は勘弁願いたいものだ。
何も入っていないせいか、ドラウディロンは大人しかった。
壁に返り血が無い事に安心したのか、静かにしていた。
「次が本命の部屋です。あえて隠していませんが、飛び込まないように」
「んっ? それは楽しみだな」
従者に行方不明が居ないかだけ確認して、本命の宝物庫の扉を開ける。
黄金に輝く光りが侵入者を出迎えた。
かなりの高さに
「ほぅわー……」
ドラウディロンの目が輝いた。
今までのおどろおどろしい雰囲気が一気に消し飛ぶ光景が目の前にある。
「随分と溜まったけれど、これらも消費アイテムですからすぐに無くなります」
「なんと!?」
「死者の蘇生の代償などに使われるからか?」
というより何万枚あるのだろうか。
「魔法の代償では数十万枚が消費されるので、これでも少ないかもしれません」
壁際に顔を向けると棚になっているが、そこには金貨以外のものが置かれていた。
遠目だったが様々な鉱物資源に見える。他には本などもあった。
「スクロールの生産などですね。こちらはまだ材料が無いので稼動はしていませんが」
「……素晴らしい景色ですね」
「これだけあれば我が国の財政は回復するのではないか?」
ジルクニフは金貨の山の頂点付近に顔を向けていた。
そこには四角い箱のようなものが吊るされている。
その下に金貨がある。
背筋に冷たいものが落ちる。
「……この金貨は
「よくお気づきで」
ヤントラが苦笑したのでこちらの意図は悟られたようだ。
この金貨は普通の金貨ではない。
「秘密ということにしましょう。これでも枚数的には少ない方ですぐになくなってしまいます。多ければいいと言うこともないのですが……。国の財政再建には適さない代物ですよ」
生産できる金貨の価値は低いだろう。それはジルクニフも理解できる。だが、荘厳な金貨の山は美しい芸術品に勝るとも劣らない。
少しもったいない気もするが、持ち出せば経済は
「ここにある宝が上に置いてあるものよりかは価値が高いです。いくつかあげますが、どれがいいですか?」
「ほう? くれるのか」
「多くはあげられませんが。記念として」
ドラウディロンは一つ一つ尋ねていく、それにヤントラは答える。
金貨よりも価値のある鉱物資源の山も素晴らしいものだった。
「あの資源も上から落ちてくるのか?」
「あのアイテムは金貨用です。資源も秘密です。……ただ、大量には手に入れることは出来ません。巨大な施設を作るには膨大な資源が必要ですから。まだまだ足りないくらいです」
ナザリック地下大墳墓も荘厳で様々な宝があったが、ここも規模は小さいとはいえすごい所だと思った。
金貨はもったいないが、帝国にも作ってほしいと思った。
便利な施設には裏があるものだ。それは忘れてはいない。
質問を受けつつ従者たちにもお土産が渡された。
それぞれ貴重な鉱物資源を眺めてうっとりしていた。
「本はどんな効果があるんですか?」
「特別な儀式で傭兵モンスターを召喚するアイテムです。それにも金貨が消費されます」
規模からすれば帝国を滅ぼせそうな気がした。
「気を悪くしないでほしいが、ここにある財だけで国を征服できるのではないか?」
「出来るかもしれませんね」
いとも簡単にヤントラは答えた。
「今の野望は空に浮かぶ星です」
「……そうか。空の星は私でも届かないがな」
「権力闘争とか嫌いなので。こういう変な研究している方がのんびり出来る気がします」
変を通り越しているがな、とジルクニフは胸のうちで言った。
貰うものを貰った後はそれぞれ真っ直ぐ地上に向かう事にした。
問題の屠殺場と大浴場は行かない事にヤントラは決めていた。
地上に上がれば新鮮な空気が出迎えてくれる。
雰囲気も落ち着いているし、もう二度と地下に行きたくない、という気持ちにさせる。
あれだけの宝があるにもかかわらず。
「……もう下に行きたくない……」
ほんの一時間足らずの滞在のはずが一ヶ月はこもったような気持ちにさせる。
「空に行くには色々と広大な土地と建設の資材と人材が必要です。それは何年もかかるでしょう。移動だけでも途方も無い。今すぐに世界がどうなるとか、そういうことはありません」
「そうか。だが、野望は大きい方がいいだろう」
「……ジルクニフ陛下、もう帰りたいです」
ドラウディロンの言葉にジルクニフも同感だったが、少しだけ地下施設のことを考えてみた。
仮に作ったとしても税収の問題が残る。
利用者から料金を取れるような施設は必要だろう。それはおそらくはヤントラも考えてはいるのだろうが。
独自に色々と計画を練らせてみようかな、とジルクニフは帝国独自の宝物庫の計画を夢想する。
帰りも箱に入れられて帰還するが帝国に到着した途端にドラウディロンは宿泊施設に向かう事にしていた。
従者たちも何も考えたくない、という顔をしていた。
自国の問題よりも深刻な事態ではないかと思えるほどだ。
多少の免疫のあるジルクニフも地下一階は精神的にきつかった。
あれ以上のおぞましい部屋が無いことを祈りたい。
「地下一階以上に人に見せるのが酷い部屋はあるのか?」
「たぶん、地下二階ではないかと。あと、少し前の大浴場は酷かったけれど、今はただの洗い場になってます。屠殺場も使用後は掃除しますから綺麗なものですよ」
「綺麗好きなのだな」
「綺麗にしないと変なモンスターが発生するかもしれないので、気をつけています」
それは聞きたくなかったな、と思ったが大事な事なのだろう。
容器に入っている者たちが暴走するような事になっては困るだろうし。
繊細な部分は嫌いではない。
「実際にモンスターを用意した屠殺場は皆さん、驚かれます」
「……想像したくないな」
今日は一旦解散し、ドラウディロン達は帝城で晩餐会を催すがヤントラはレーモンの監視付きで城下を巡った後に宿屋で休む事にした。
城に戻ったジルクニフは執務室で小休止しつつ色々と宝物庫について思索を巡らせる。
色々と説明してくれるヤントラだからこそ耐えられたが、アインズ・ウール・ゴウン魔導国は今の何十倍も恐ろしいところだろう。
モンスターの規模からいっても桁違いだ。
規模は小さいかもしれない。けれども、魅力的な場所でもある。
財は迂闊に市場に流せば値崩れを起こし、経済は混乱するだろう。
一通りの説明を受けた資源は帝国魔法省の連中に伝えれば大喜びするかもしれない。あれはアイテム製作に特化した財なのだろう。
金貨も豊富にあるが蘇生の魔法の代償と考えれば、あるだけ安心だろう。
なかなか機能的な場所だ。あれを手に入れられるなら身体の代償もいとわない価値はあるかもしれない。
凶悪なモンスターで脅迫される事を覚悟していたが、あの施設そのものがとんでもないモンスターかもしれない。
我が国であれば国家機密指定にされるだろうな。
仮に接収したとして帝国に運営できるかと言えば無理かもしれないし、アインズに使われては独占されてしまうかもしれない。
ヤントラのように他国にも公開するやり方は有効な方法かもしれない、とジルクニフは思った。
翌日には竜王国側も気持ちが落ち着いたのか、顔色は少しずつ明るくなってきた。
ヤントラの方は食料の買出しや必要な資料、帝国側のギルドの見学などを続けていた。
冒険者組合はバハルス帝国の各都市にも存在し、内容もだいたい似通っている。
帝都には他に奴隷市場や闘技場もあるのだが、没落貴族の住宅街もあった。
ジルクニフ皇帝が鮮血帝と呼ばれるゆえんとなった大規模な貴族の粛清の成れの果てともいえる。
過去の栄光を引きずり、浪費家が多く住んでいるらしい。
非合法な元冒険者の
それらを帝国はうまく使いつつ他国に圧力をかけていた。
その帝国が強大な
常識外れの魔法の数々と尋常ではないモンスター達になすすべも無く言いなりになっているという有様だった。
その中で王国から来た変態、ヤントラの出現で力関係が歪んでいく。
何を考えているのか分からない。いや、こと細かく説明してくれているのだろうが、理解しない自分が腹立たしくなる。
気がつけば敵国なのに生徒達の能力を上げてくれたり、暗殺どころか身体の心配までしてくれる親切さ。
兵士たちの為に
人助けするのに理由は要らない、を地で行くような変わった人間だった。
駆け引きする気が無いのは分かったが、勘ぐるクセは無くせない。
もらった鉱物資源も調べさせれば物凄い代物だという結果が返ってくる。
その変態の野望が星で静かに暮らす事だという。
この世界に迷惑はかけたくない、という意味なのだろうが、突飛な話しだ。
「陛下、疲れが残っているように見えますが……」
「親切にされたことが無いから戸惑っているだけだ」
「はあ……。かの者の施設とやらはいかがでしたか?」
「宝の山だったぞ。……おぞましい研究の結果なのかもしれんがな」
正しく錬金術の結晶。
実物というか本物を見たような気がした。
「恒久的な施設には……色々と課題が残るんだろうな」
便利な施設かもしれないが、それでも収入は無い。つまりは利用者に適した施設ではまだない、ということだ。
宿泊施設の収入では維持するのも大変かもしれない。
今のところ運営できる人間がヤントラただ一人。
洗練された技術を継承する人間が居れば屠殺場くらいは運営できるかもしれない。その為には再生魔法を扱う人間を育成する必要がある。それも第六位階魔法相当は必要だろう。
普通に考えれば不可能な事だ。
剣術に長けて第六位階魔法を扱える戦士など。
「多くの土地が未使用ならば農家も入れた方がいいだろうな」
遊ばせたままよりはましだろうし、色々と活用方法を考えれば有効活用も無理な話ではないだろう。
あとは何処の土地を使うかだ。
それはまあ急ぐ必要は無いだろうが、竜王国側の意見もあることだし。
生徒全員を育て終われば王国に引っ込んでしまうかもしれない。
ここは無理に性急な計画は進めずに様子を見ることも大事だろう。
鉱物資源も充分な量を確保しているから。
一日だけとはいえ疲労感が凄まじい。
生徒達が体験したという屠殺場。それは見なくて良かったのかもしれない。
国の行く末などもうどうでもいいくらいの現実を見せられたドラウディロンは大人しく朝食を食べていた。
今日が最後の食事のような気がして、丁寧に味わった。
見てはいけないものを見せられた気がする。
「……
「民を捨てるような事はおっしゃいますな」
「お、おう。そうだったな。……世界は広いな、と思っただけだ」
離れた席に座るジルクニフも大人しく朝食を食べているので自分と同じく疲れているのかもしれなかった。
鮮血帝と呼ばれた皇帝が大人しくなるほどの世界。
自然とお互い苦笑してしまう。
「参りましたな、ジルクニフ陛下」
「ああ、全くだ」
帝国からの支援どころではないかもしれない。
先の戦争で兵士たちは常識外れの現実を見せられて今は戦意を消失していて、救援に向かったとしても足手まといにしかならないだろう。
城内がそういう雰囲気なのだから参加した兵士も数ヶ月経ったとはいえまだ戦える状態ではないかもしれないな。
「背に腹は変えられんか……」
「もしかの者が途中で死んだところで問題はあるまい。自己責任だ」
と、形式上では言えるが、宝物庫の者達が暴走する恐れはあるだろう。
その辺りを解決してから救援に行くなりしてほしい。
機能不全に陥ったらナザリックの者達に任せればいいだろう。少なくとも地下施設に居る者達を黙らせる戦力はあるだろうから。
あの仮面をつけたメイド達だけならば、だが。
屠殺場に巨大なモンスターが居るおれはあるのだが、生徒達の話しでは
「あ~、変態に毎日裸を観賞されるのは嫌だな……」
「ロリコンに観賞されるよりはましかと」
「どちらも地獄だな」
複数体欲しい、という意味もなんとなく理解したが頼みたくないな。
王国のアダマンタイト級に救援を頼もうかなとドラウディロンは食事が中々進まなくなってきた。
スレイン法国の支援を途絶えさせた責任を取らせる意味でもヤントラの力を貸してもらう方が良いのだろう。
金銭の報酬は必要なく、というところが最大の問題なのだが。
「いったいこの世界はどうなってしまうのだ」
なにやら知らない間に世界に危機が起こっている気がしてきた。
あんな変態は見たことも聞いたことも無いぞ、と怒りが沸いてくる。
実力を見るといって
あわよくば死んでくれればいいのに、という考えも浮かぶ。
「道連れにスレイン法国の秘密部隊やアーグランド評議国も巻き込んで見るのも……。喜び勇んで頑張ってしまうかもしれないな」
良い素材だ、と喜ぶヤントラの姿しか浮かばない。
「最強の
「終わりであれば空に飛んでいくかもしれないな」
次の冒険の旅に、ということもありえるわけだ。
邪魔者として追い出すのももったいない気はする。それにアインズほど恐ろしいかと言えば、そうでもないし。
憎むに憎めない変態。
それはそれで困ったものだと思う。
「あの者に弱点などはあるのか?」
「……確か馬車移動が苦手と聞いた。揺られるのが駄目らしいのと酒だな。これは絶対に駄目だと言っているようだ」
無理やり飲ませたら危険そうだなと、とドラウディロンは思った。
正体不明の相手なのだから、何が起きるかわからない。
「その前にお伺いしたい。アインドラ卿でしたか……。あの者の手勢はどれほどなのですか?」
「真蒼の薔薇の七名くらいだろう。後は地下に居た者たちか……。あれは表に出さない気がする。伝え聞いたところに寄れば単独行動が好きな人間だと言う話しだ」
「……つまり一人で戦われると」
「一人で帝国を滅ぼせるだろうな。第六位階の信仰系
「戦士職で第六位階!? そ、それは凄まじいな」
確かに第五位階の蒼の薔薇のリーダーが居るくらいだ。それよりも強いのかもしれない。
第六位階は帝国でも主席宮廷魔術師のフールーダただ一人しか扱えないほどの高位の魔法。
「下手に軍隊を持っているよりかは……、安全度は高いだろう」
変態の軍団に救援は頼みたくないな。
だが、竜王国は今も
その救世主が変態なのだから、困ったものだ。
「あのロリコンももらってもらおう」
「それは良いお考えですね。女性でなければ嫌だ、ということは?」
「見た感じでは男女は関係無いようだ。レイナース以外ももらっていったぞ」
男性も可、ということが分かれば充分だった。
帝国からの支援として二軍ほどの軍勢は出してもらえる事になったが、大型モンスターが現れたら敗走する覚悟だけするように言われた。
既に兵士たちの
「先行して
「異論は無い。……しかし、帝国の兵士達に犠牲が出てしまうかもしれん」
「犠牲が出ないようにアインドラ卿に頑張ってもらおう。戦死者は蘇生でもしてもらって」
死者を蘇生する魔法があるからといって安易に死んでもらうわけにはいかない。
兵士一人育てるのも大変なのだから。
良い働きをする者には手厚い褒美を与える。
鮮血帝と呼ばれてはいるが兵士たちの人望は厚い。
ヤントラの実力は正直なところは未知数だ。
アインズによる『
それを踏まえて疑うわけではないが、実際のところはどうなのかが問題だ。
本物の実力を見せられたとき、自分たちは色々と知ってはならない真実を突きつけられるようで恐いと思う。
ジルクニフたちの不安を知ってか、侵略行為は極力
その代わりにジルクニフを含めて身体を頂く事になってしまうのだが、未来の住人として使うかどうかは未定。しばらくは側に置いて丁重に保管する事を約束した。
「空に上がるにしても素材の調達に時間がかかるし、様々なものを製作してもらわなければならない。今すぐどうこうなるわけではありません。だから、どうするのか聞かれても答えようがありません」
「うむ、それは了解した」
「こちらもだ。……毎日、嘗め回すような事はやめてくれ」
「妻にやりますから。女体を嘗めるために集めているわけではありませんよ。美しい女性は大好きですが」
褒めているのか、やましい目的なのかは分からないが不安いっぱいだった。
「……ドラウディロン陛下。その中に男性も入ると思うのだが……、そろそろ変態から抜けようではないか」
「じゃあ、しっかり嘗めさせていただきます。それでいいですね」
「いやだ!」
「まず帝国兵士達に戦利品を入れる箱を二十個くらいでいいかな。運んでもらいたいですね」
制圧された都市に居る
ついでにこちらも多少の被害が出るという有様になるが、仕方が無いだろう。
「荷物を入れるついでの箱でいいな」
箱の用意は帝国側が
やむをえない事情ならば聞く用意はある。ということを相手に知らせる必要があるのだが、聞く耳を持っていなければ倒すしかないかもしれない。
多くの冒険者が侵攻を食い止めているようだが、苦戦している。
一刻も早く本国に帰って指示を飛ばす必要があるのだが、数日はかかってしまう。
「二人は抱えていきましょう。後は現場で聞きます」
「数体ずつか……」
「会うたびに身体を要求したりは……しませんよ。最初の一回で全てを済ませるようにしているだけです」
必要になれば再度もらうかもしれないとヤントラは思った。
「聞いている分には助かるのだが……。ちなみに二回目の要求があったら、なにを報酬にするのだ?」
「うちのチームに入れ、ですかね? それくらいしか思いつきません」
「真蒼の薔薇にか? 一国の女王が……」
ドラウディロンは
「竜王国の一部の土地をくれ、というのもありますね」
「宝物庫を作るためですね。それなら無難そうだ」
「……屠殺場とか拷問室とかあるのだぞ。……女体の展示会でもやる気か?」
あんなものを展示されたくは無いが、やりそうで恐い。
「当人に怒られますから、それは却下ですね」
「本人と対面させた事はあるのですか?」
「胸などは見せたり触らせたりはしましたね。同じ顔を見せるのは精神的にキツイでしょう」
この話しは続けても不毛な気がしてきたので宰相は切り上げる事にした。
とにかく今は国を救う事が先決だ。
帝国から軍隊の派遣を取り付けられただけでも評価しなければならないだろう。
我が国の秘宝をよこせ、などと言われなかっただけましかもしれないし。
竜王国と
人間側には悪趣味としか言いようの無い催しに人間の国は侵略されつつあった。
能力的にも亜人の方が高いので冒険者などで防衛してはいるが苦戦している。尚且つ
過去に
亜人の国において竜王国は絶好の餌場となっている。
いち早く竜王国に戻ったドラウディロンはぐったりしていたものの小休止後は女王らしく姿勢をただし、部下達から報告を受ける。
竜王国のアダマンタイト級冒険者『クリスタル・ティア』のリーダー、セラブレイトが前線で戦っていた。
「戦況は
普通の人間の十倍の強さを持つ、という
リーダーは居るかもしれないが、今のところは発見できていない。
肉食獣型のモンスターは人間にとっては脅威でしかないし、負ければ食われてしまう。
「まずは周辺の地図と
「うむ。では、彼に情報を」
急に現れた謎の人物に従者達は戸惑った。
スレイン法国の漆黒聖典でもなく、帝国の四騎士でもない謎の人物。
冒険者ランクが
ついに女王の頭がおかしくなったのかと思うほどだった。
命令に従い攻め落とされた都市や
侵攻の理由は不明。それが一番の問題だった。
通年であれば適度に侵攻しては人間を持ち帰っていくのだが、今回は大侵攻をかけてきた。
話しを聞いている間にヤントラは装備品を次々と取り出す。
何処からとも無く現れる武具に従者は驚く。
「今回は隠密でやらせていただきます。あくまでも帝国の援軍が最終的に
「うむ。しかし、名声を得るチャンスなのではないのか?」
ロリコン、リーダー、特定の言語も通じているのは不思議だと思ったが、翻訳の仕様なのだろう。
「あ、それから、この国の書物をいただけたらお願いしますね」
「んっ? そんなものをどうするのだ?」
「勉強です。法律に歴史、料理など。知らない事がたくさんあるので」
「全ては無理ですが、検討しておきましょう」
「ありがとうございます。私は名声などは求めておりません。ご覧の通りの変態ですし」
「それはそうなんだろうけれど……。冒険者として名声を高めないのか?」
「アダマンタイト級を倒してしまったので、もう要らないです」
普通に言っているが、それはとても恐ろしい言葉に聞こえた。
鉄クラスがアダマンタイトを凌駕するなど、聞いた事が無い。
名声を得ていない、ということは冒険者の飛び級を断っている可能性もある。
他の冒険者からみれば
「歯ごたえのあるモンスターがたくさん居れば話しは別でしょうが、無理して狩りつくすと楽しみがなくなります」
物凄い自信家に聞こえるのだが、それは実際に結果を出してもらえば分かる事だろう。
黒い装備品で身を固めると立派な戦士、というか
「では、ドラウディロン陛下」
「んっ?」
「最終確認です。落とされた都市の開放。
かの国を攻めてしまうと冒険者組合に色々と難癖を付けられるだろうし、外交的にも不味くなるかもしれない。
「敵の拠点は潰してほしいところだが……。高望みはせん」
「書物と身体ですか……。それはやはり欲しいのですか?」
「様々な国の人間は手に入れておきたいですからね。厄介な再生生物とかアンデッドはさすがに問題が発生しそうですが……」
「よいよい。そなたの働き次第だ」
「陛下、……本当によろしいのですか?」
よろしくないが
「……聞き忘れておったが……、その方法はとても痛いものか?」
普通に考えれば拷問じみているし、痛くないわけがないだろう。
生徒達が餌食になったというが、どういう方法なのか聞きたくなかったから聞かなかったが、大事な事だろうから勇気を出して、いや、勇気を振り絞って尋ねてみた。
「身体の搾取ですか?」
控えている従者はびっくりしてヤントラを見据える。
「ああ、そうだ」
「睡眠で眠らせてポンポンと……。痛みは一瞬ですので意外と皆さん、驚きますが叫びません。意識があると危険と言うこともあります。……アンデッドだと痛みを感じにくいのでわりと平気のようです」
アンデッドにも試したのか、と宰相は呆れた。
「……知りたくない技術というのもあるものだな」
どの道、
「うっかり死ぬという事は?」
「失敗はありませんが……、即死耐性のアイテムは装備してもらいますよ」
「睡眠が利かない場合は……、耐えてもらいます。全力で癒しますけど、無理に抵抗しない方がいいですね」
「……おおぅ……」
急に全身に痛みを感じるような恐怖が襲ってきた。
「悲鳴を聞いて喜ぶ趣味はありませんので、それはご安心を」
「安心できるか!」
睡眠が効かなければ想像を絶する激痛が襲ってくるではないか、とドラウディロンは気が気でなかった。
「過去に睡眠が効かない相手はいたんですか?」
「我慢強いのが一人。三体以上は耐えましたかね。その時は搾取を始めたばかりでしたので、よい勉強になりました」
宰相の想像では耐えるのはとても難しい気がした。それを耐え切った存在が居るのは驚きだ。
心臓ごと取られる様なことなのに死なないとはどういうことだろうか、という疑問が浮かんだ。
「……陛下。やはり一度はご確認した方がよろしいでしょう」
「はぁ!? 何を言う」
宰相は従者達に部屋の警戒を解くように命令し、しばらくの入室を禁じた。
戸惑う従者は命令受けたので実行しなければならず、すぐに退出していった。
「思い込みだけでは解決いたしませんよ」
「私を一人にするなよ……」
「……失敗した場合は蘇生させてくださいませ」
宰相はそう言って時間を確認する。
数分後に扉から規則正しいノック音が聞こえた。
「準備が整いました。では、アインドラ卿の手並みを見せてくださいませ」
「私は遠慮はしないので」
天使を複数体呼び出し、まずはドラウディロンを玉座に縛りつけ、猿轡だけした。
それだけで脅威度が上がるが叫ばれるのを防いだと思えば納得できる。
まずは宰相に即死耐性のアイテムを身に付けさせて、眠らせる。
お腹に一撃を加えたりする方法もあるにはあるが腹筋を鍛えていた場合はただ痛いだけになってしまうので、色々と模索している。
薬で眠らせる方法も考えたが効き目が現れるのに時間がかかるのが難点だ。
宰相の頭を天使にしっかりと持ってもらい、眼球と身体。流れ作業のように続いた。
ドラウディロンは始めて見る凶行に叫び声をあげようとしたが声は防がれているし、身体は押さえつけられている。
数十分後には再生し終えるのだが、複数の採取ということで、同じことが繰り返された。
さすがに二回目は外套で隠したが、生々しい音が聞こえているので今にも失禁しそうになった。
作業を終えた後は何でもないことのように返り血などを拭いたり、宰相の服を着せたり、特に感情は見せなかった。
人間をいとも簡単に殺すような化け物に見えた。
これが鉄プレートの冒険者だとは到底信じられない。
数分後に全身マッサージを終えて睡眠を解くと宰相は少しだけフラフラしていたがちゃんと動いた。
「ん……。何かすごい事があったような……」
「お腹の中が空なので何か食べてくださいね」
「そういえば……」
搾取した後、体内の老廃物を洗浄するのも意外と大変だ。
体内洗浄には
普通の人間なら物理的に身体をへし折る事も可能とする。