※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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H-3 ラキュースの懐妊

 宰相が無事に復活したのでドラウディロンの拘束を解く。

 見た目は少女だが、耐え切ったのか涙は流れていない。

「……もう無茶な事は言わないでくれよ……」

「はい、陛下。それでどうでしたか?」

「……驚いた。……漏らす所だったぞ。首からニョキニョキと再生される様は気持ち悪い」

 そんな魔法などあるわけがない、と言っていたが常識を覆す魔法を見てしまった。

 おぞましい方法。それはジルクニフも目撃しているのだろう。

 見てしまったのなら信じるしかない。

 こいつは間違いなく変態だと。

 足元に転がる『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』の中はどうなっているのだろうか。ピクリとも動かないようだが。

 それが動いて喋ったらびっくりするだろう。

「ご自分の身体を見てみますか?」

「そうですね」

 宰相は包みの中をのぞき見る。そこには複数の自分の身体があり、側に眼球を入れた容器が転がっていた。

 叫びそうになるのをこらえ、口を押さえつつ確認作業を続ける。

 間違いなく自分の身体だ。叩いても動く気配は無いが呼吸しているのか、胸が少しだけ上下している。

 生きている、ということになる。

「喋ったりするのでしょうか? というか記憶とかは?」

「まっさらです。本体の記憶は移せません。本体であるあなたが死ねば、どちらかに宿るかもしれませんが……。その手の魔法はあるにはありますが、寿命の問題もありますので。模索中です」

「これはこれで気持ち悪いですね。食事はどうするのですか?」

「便利なアイテムがあるのでご心配なく」

「せっかくですから陛下。今のうちに体験されてはいかがですか?」

「……いやです……。というか、痛くなかったのか?」

「不思議と痛みはありません。肩こりが取れたような、すっきりした気分です。お腹は空きましたが……」

「後でお風呂に入って充分、休んで下さいね。出来立ての身体なので」

「……なるほど。分かりました」

 肌と服が擦れ合う時は少し痛みがある。安定すれば気にならないのだろうが、一日の休息は必要かもしれない。

「アンデッドかどうかは回復魔法を受ければ分かりますので」

「おお、そうですね。それは後にしましょう」

 宰相はドラウディロンに近づき、片膝をつく。

「後々になる方が騒ぎが大きくなると思います。それとも二人っきりにしましょうか?」

「変態と二人っきりはいやだな。……どの道取られるのか……、しかも複数体も……」

 ドラウディロンはヤントラを睨む。

 女の敵め、という意味合いだったが、人間の敵かもしれないと思った。

 いや、もっと最悪のす(・)べ(・)て(・)の(・)種(・)族(・)の敵かもしれない。

 宰相に食事と風呂の用意を頼んだ。

「獣人(ビーストマン)は皆殺しでいいな、もう……」

 破れかぶれにドラウディロンは言ってみた。

「それは不味いかもしれませんよ。お怒りは理解できますが……」

「絶対にあのロリコンも同じ目に遭わせてくれ」

「畏まりました」

 覚悟を決めたドラウディロンに一礼し、食事と風呂の用意の為に宰相は退出していった。

 変態と二人っきり。

「姿ごとがいいのか?」

 それしかないのだろうが、あえて尋ねた。

「そうですね。これが終われば数箱分の鉱物資源を届けます。財政の足しにしてください」

「……財政破綻しても困るからな。……あと、ジルクニフ陛下も頼むぞ」

「そうですね。あっ、せっかくなので玉座に座らせてもらうことは出来ますか?」

「国はやらんぞ」

 短い会話の後は覚悟を決めたドラウディロンが玉座を離れる。

 その後は尋常ではない地獄の儀式が続いた。それも段階ごとに。

 袋が無情に増えていく。どれだけ持ってきているのだと言わんばかりだ。

 休憩の合間に玉座に座り、必要な事をメモしていく。

 数時間ほどの作業とはいえ、城に乗り込んでやる事ではないなとヤントラは苦笑するが、手に入るうちにやれることはなんでもやっておこうという思いはある。

 この世界は最適化されているとはいえ、自分達の力が圧倒的なのは変わらないだろう。

 蹂躙するのは簡単だが、それを楽しいと思えない。

 多くの部下を抱えて国を統治する立場であったなら、また違う気持ちが芽生えていたのかもしれない。

 必要な人材は手に入れたが、短時間で必要な情報は集められそうに無いな。

 魔法による効率化を図っても三時間、下手すれば五時間以上はかかりそうだ。なので、ドラウディロンには休憩してもらうことにした。

 様々な項目は翻訳してもらわなければならないが、バハルス帝国でも確認作業は必要だろう。

 各都市にも行く必要はきっとあるかもしれない。

 

 休憩を終えてドラウディロンに玉座に座ってもらう。

 適度に肩などを揉んでおく。

「……もう二度と嫌だからな」

 二度と、というよりは一度でもやりたいとは思わない。

 横目には山と積まれた『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』が置いてある。

 見るたびに冷や汗が出る。

 一袋、ロリコンに渡せば少しは楽が出来るだろうか、という考えが浮かんだがすぐに捨てた。

「はい。しっかりと働きますよ」

 痛みは一瞬なのかもしれないが、手並みは凄まじい。

 高位の魔法だからこそなせる業(わざ)なのかもしれない。それはとても自慢できる技術ではないだろう。

「……これは妻にもやったのか?」

「はい」

 それにしてもこんな化け物が世の中に居るとは、とドラウディロンはうんざりしてきた。

 とはいえ、二度は無さそうなので少しは安心する。

 質(たち)の悪いアサシン(暗殺者)だと思って諦めることにする。

 宰相達を戻して、改めて作戦が伝えられる。

 その後は一日休む事にした。

 代わりにヤントラはすぐに行動に移す。

 竜王国の前線基地に向かい、一緒に連れてきた従者に話しを任せる。

 敵獣人(ビーストマン)は部族単位で各地から襲ってきて街のいたるところに潜伏している。

 制圧された都市の重要施設の位置を教えてもらった後は漆黒のヤントラが先行していく。

 残りの者は全て迎撃の準備を整えていく。

 アサシン(暗殺者)のクラスを持っているヤントラにとって大型猛獣だろうと大した敵ではない。

 虎の頭の虎人(ワータイガー)だと思えば倒せない事も無い。

 肉体的に強固な部分があり、俊敏(しゅんびん)な生物で獰猛だが強さ的には中位モンスターほど。

 悪魔騒動の時よりも装備類は充実しているので楽に進めた。

 日が暮れてもヤントラには関係ない。夜行性のモンスターだろうと。

 必要な素材は『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』に入れていき、全て帝国軍に回収してもらうことになっている。

 ヤントラが通った後は獣人(ビーストマン)の死骸と謎の袋が転がっていく。

 朝になれば一つの都市が開放される。

 極端なモンスターが居ない分、単純作業ではあるが無理なくことが進められる。

 一泊した後は次の都市に向けて進む。

 竜王国側は敵の猛攻が止んだのが信じられないのだが、何人か調査隊を向かわせると獣人(ビーストマン)の全滅が確認された。

 言われた通り都市の調査の過程でたくさんの『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』が転がっているのだが、死体の数に比べれば少ないだろう。

 殆どの獣人(ビーストマン)は身体がバラバラに解体されていた。

 心臓を一突き、という死体が少なく、両目をえぐられているのが多かった。

 中には去勢されていたり、胸を切り取られている死体もあった。

「おいおい、俺たちは夢を見ているのか?」

「とにかく死体を集めて基地を作ろう」

 人間の十倍は強い獣人(ビーストマン)をものともしない謎の人間が居るとは。

 アダマンタイト級でも簡単ではないはずだ。

 それらはすぐに竜王国に報告される。

「……一日で都市を開放したのか?」

「そのようです。殆どの獣人(ビーストマン)はバラバラにされていましたが、現場近くに集められていたそうです。掃除しやすくしてくれたのでしょう」

「……まだ帝国軍が来ていないのだぞ」

 バハルス帝国が到着するまでまだ早くて二日はかかるはずだ。

 兵士たちの装備の重さもあるし、距離的に時間もかかってしまう。

 それを考慮に入れても早すぎだ。

「到着する頃にはゴミを回収して帰宅されるのでしょう。それに早く帰らないと『あれ』らが腐ってしまうかもしれませんから。また欲しいと言われるかも知れませんよ」

「うえ~。それは困るぞ。二度とごめんだからな!」

 だからこそ短時間で制圧しているのだろうと宰相は感心していた。

 この『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』は中に入れておけば腐敗は止まると聞いているので、腐りはしないだろうけれど、少しだけ心配だった。

 いい気分はしないので。

 

 報告を受けて驚かされる。

 ヤントラという人間は掛け値なしの化け物だと。

 たった一人で大群を制圧するのだから敵に回せば恐ろしい事になる。

 たった一人で戦争を終わらせる魔法詠唱者(マジック・キャスター)の噂はあながちウソではないようだ。

「この調子だと三日で都市は取り戻せますね」

「嫌な思いをしたんだ。それくらいやってもらわなければな」

 大侵攻に割いた獣人(ビーストマン)の戦力は一万数千体ほどだが、三つの都市が開放される頃には半数が消えていた。

 帝国軍も後始末程度で命令された通りに『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』を箱詰めしていく。

 ドラウディロン達の分は別に用意してもらった。獣人(ビーストマン)達に潰されたくなかったので。

 帝国軍は解放された都市の調査と被害状況を調べていくが、死体が多すぎる。

 生き残りは居るようだが、大半が食料として処分されていた。

 謎の黒い風によって獣人(ビーストマン)達が次々とバラバラにされていった、という証言が多い。

「……本当に三日で終わるとは……」

「帰ってきた後、更なる無理難題が待ち構えていたりしますかね?」

「じょ、冗談じゃないぞ」

 今度は子供を産んでくれ、とか言われたらどうしようとドラウディロンは戦々恐々とヤントラの帰りを待つ事となった。

 人知れず城へと帰還するヤントラ。

 どこかで身体を洗ったのか、返り血などは見当たらない。

 極秘任務のように活動していたので女王の謁見も静かに行われた。

「ご、ご苦労であった」

「無用な殺戮は控えたかったのですが……。都市部の有様を見て、少し痛めつけすぎましたね」

「生き残りは少ないようだが……」

「食料となっていたのでしょう。ところで、帝国軍はしばらく駐屯(ちゅうとん)されますか?」

「数日は居てくれると思うが……」

「では、箱は施設の方に商人に偽装して送り届けてください、と伝えてください。それとアダマンタイト級の冒険者は今、どちらに居るのでしょうか?」

 矢継ぎ早の言葉に宰相は従者に命令と同時に複数の従者を呼びつける。

 様々な命令が飛ぶが今のところ無理難題は無い。だが、いいように使われている気がして、少しだけ腹が立つ。けれども、感謝はしている。

「彼らはじきに来る。それよりアインドラ卿、貴殿は恐ろしい御仁のようだな」

「人間型にはそうそう負けませんよ。世界最強の人間に鍛えられましたから」

「世界最強? それは凄いな」

「新たな褒美として土地を頂きたい、と言った場合はいただけるものですか?」

 土地と聞いて宝物庫のことが浮かんだ。

 それも人間が安置されている方を。

「……普通ならば検討しても良い、と答えているところだ」

「大きなものを建造するには広い土地が必要です。今のは聞いてみただけですので……。人間と亜人は仲良くは出来ないものですかね」

「うむ。向こうは我々を完全に食料だと思っておるからな」

「かつて牛頭人(ミノタウロス)の『口だけの賢者』というものは人間の味方をしていたそうですよ。様々な技術を伝えようとしましたが誰にも理解されなかったとか」

「そやつの言葉で有名なのが『手術(しゅじゅつ)』という身体を裂いて治療するおぞましい治療法がある。……そなたの技術も充分におぞましいのだが……」

「それはいつごろの話しですか?」

「二百年くらい前だろう」

 亜人とはいえ牛頭人(ミノタウロス)なら既に死んでいるかもしれない。

 不死になる種族とは思えないが、二百年前には同族が居たかもしれないと思うと感慨深いものがある。

「そういう伝説も調べないといけませんね」

 褒美の書物に神話や伝説関係が入っているといいなと思った。

「『大治癒(ヒール)』のような高い位階魔法が使えれば手術はあまり必要ないかもしれませんね」

 身もふたも無い事を可能とする魔法。

 便利ではあるのだが、使い手が居ないと苦労する。

「今回はこれで失礼しますが、次回も身体をよこせ、とは言いませんよ。協力は惜(お)しみませんが……」

「おお、そうか。それは安心だ。……色んな意味でな」

「全滅させたわけではないので再侵攻が予想されますが……」

「激怒した相手は恐ろしいですからね。けれども都市さえ取り戻せば……、兵力が足りませんね……」

「数日間耐えてくれれば私がまた始末してきましょう。一旦帰らせていただきますが……」

 土地を要求してきたが与えるものは既に与えた。これ以上は何も無い事を祈るだけだとドラウディロンは何かに祈った。

 その後でアダマンタイト級冒険者の一団が来るのだが、彼らを報酬として与えてヤントラは帰郷する。

 王都というよりは宝物庫が我が家のようなものだ。

 地上の確認の後、地下の確認に移る。

 執務室を地下一階にも作っておいた方がいいだろう。

 羊を手に入れる方法も模索しないとメモ用紙が無くなってしまう。

 一通りの人材は集まってきた。

 あとは本格的に空中都市を作れば第一段階は完成する。

 性急過ぎるがのんびりと製作したいものだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 今回は二日かけての量産体制だ。こればかりは自動的には出来ないだろう。

 八足馬(スレイプニール)達も保管しておこう。外で飼うのは大変だ。

 ヤントラは休憩の合間に宝物庫の効率的な設計を模索する。

 今のままでは使いにくいし、保管制限によって手狭になる。

 移動や作業に数日かかるせいか、王都やカルネ村に顔を出せなくなっている。

 冒険者としての活動も休止状態。

 なにをしているんだか、とヤントラは自嘲する。

 まずは王都に戻る。

 いつ行っても懐かしいという気持ちが蘇ってくる。

 帝国もカルネ村も同じ調子になるんだろうな。

 我が家は廃墟になっていらなかったが花がたくさん植えられていた。

 室内も少し明るい雰囲気になっており、女性らしさが現れている。

「お帰りなさい」

 出迎えてくれたのはティアとティナだった。こちらは服装の変化はないようだった。

 食堂には一通りいつものメンバーが揃っていて、新しい顔は無い。

「ちょっとあなた……」

 と、髪の毛がすっかり長くなり、ロールが出来るようになった妻のラキュースが別室にヤントラを連れて行く。

「んっ? どうしたんだい?」

「……赤ちゃんが……出来たみたい」

 と言いながらお腹をさするラキュース。

「それはおめでとう。ちゃんと出来たか……」

 感情のこもった声として報告されると嬉しいものだと思う。

 自然とヤントラは破顔する。

「悪阻(つわり)がひどかったけれど、しばらくすれば母乳も出るんでしょうね。……母になるのね、私は」

「一応、父親か。ろくでもない変態と呼ばれる親を持つ子になるのか……。死んだ事にするか」

「子供が可哀相よ」

 でも、そうした方がいいかも、と少しラキュースは思った。

 いずれお腹が大きくなり、出産することになったら剣を握る仕事はやめた方がいいのだろうか。

 子育てに関しては保母でも雇った方がいい気がする。

「じゃあさっそく保存だ。と、言った方が私らしいか?」

「出来れば……、育てたいわ」

「君の望むままに。私は空中都市でも模索するよ。私のような変態にならない子がいいな」

「させないわよ」

 原住民との子供が出来たとてヤントラにはさして重要ではない。

 どう育とうが文句も邪魔もしない。

 元気に前向きに育ってくれれば幸せだろう。

 愛情は注げる自信は無いが。

 

 留守中は大きなことは無いが適度な犯罪が横行していたらしい。

 強くなった今のメンバーは多少の無茶も出来るようになっていた。

 急な増強は不安を呼び起こすのだが、真蒼の薔薇はきちんと制御しているようだ。

「ルリマリスとクレマンティーヌはもう少し増強かな」

 せめてルリマリスとラキュースには高い位階魔法を覚えてもらいたい。ただ、ラキュースは無理な事は出来ないだろう。

 彼女たちはまだ経験値を積んだだけだ。

「イビルアイも残っているし」

「おう? これ以上強くなれるかが問題だが……」

 二百年近く戦ってきたのにまだ弱いと思うとこれ以上の増強は無理かも、と思ってしまう。

「私も参加したいわね」

 ラキュースが名乗りを上げてきたが、妊娠中ということを忘れていないのだろうか。

「数日くらいなら平気よ」

「そういう問題ではないと思うのだが」

「リーダー。お前はどうなってもいいかもしれないがお腹の子は大切にしろよ」

「お腹がかなり大きくなったら諦めるけれど……」

 ガガーランも止めたいところだが、ラキュースの言葉は尊重したい。

 胎児に良い影響は無いかもしれないが、無茶な事はさせられないだろう。

「楽して倒せるように考えておこう」

「リーダーの付き添いで見ててやる。どうしようもない妻になったものだ」

 イビルアイは呆れてしまった。

 クレマンティーヌは技術の研鑽で忙しく、しばらくは辞退すると言ってきた。

 能力はバランスよく延ばしたい、とのことだった。

「旦那さんは何処へ行ってきたのかな?」

「このところ忙しく動いているみたいだけど……」

「帝国に行って、竜王国に行ってきた」

 新しい国にまで行ってきたのかとそれぞれ感心する。もちろんただの旅行ではあるまいと期待に胸が膨らむ。

「……ドラウディロン女王を君達、知っているかな?」

「知ってるよ」

 それだけで結果が目に浮かぶようだとティア達は顔がほころんでいた。

「ちょっと獣人(ビーストマン)の侵攻に困っていたので片付けてきたよ。というか獣人(ビーストマン)って倒していい種族なのかな?」

「人間食べるからいいんじゃない? 妖巨人(トロール)も野蛮だし。牛頭人(ミノタウロス)は人間を奴隷にしているらしいよ」

「……ちゃんと冒険しているみたいね」

「冒険者としては休止状態だけど。なんで冒険者になったのかな……。検問所対策のためだったのかな?」

 今から思えば旅人と言う身分では入国が難しいと思っていたのかもしれない。

 ラキュースも少しだけ気持ちが理解できるので黙っていた。

「宝物庫が賑やかになるのは確実だね」

「空に浮かぶ月を開拓して住人にするかな」

「出来たらすごいね」

 地上を複製体に埋め尽くされるよりかは明るい野望かもしれない。

 月を征服した後は他の星も開拓するのだろうか。

 そうなるともうお別れの予感がする。

「地上は私達に任せて」

「生き延びて見せるよ」

「空だと敵が居なくなるよね……。私は……地上で死ぬよ」

 身体が欲しければあげてもいいとクレマンティーヌは思った。

「まだ空を飛ぶ建物は作ってないけれど、いつぐらいに実現できるかな。今一度、みんなの身体を頂こうかな?」

「ええっ!?」

「今すぐじゃないけれど、男女種族問わず。全てを収容は出来ないけれど、空への餞別として頂きたい」

「……供となる住人は必要だもんね」

「人形のような状態でいいの?」

「ご主人が良ければ私は着いていってもいいぞ」

「永劫の孤独が待っているかもしれないぞ」

「今更だよ、ご主人。お前達は地上で生を全うしろよ。ラキュースも子供を育ててもらわなければならないだろう」

 ラキュースとしては一緒に行っても良いと思うのだが、子供を育てなければならないし、共に行けるとすれば十五年ほど先のことになるかもしれない。

 共に塵(ちり)になるまで一緒に居る覚悟はある。

「往復してくれるなら問題ないけどな」

「植物とか動物も運ばないといけないだろうかね。今日明日、来年と迫っている話しではないよ。計画案は一年以内に出せそうだが……」

「計画をじっくり練ってよ、ご主人。まだ外には色々と敵が残っているし、そいつらも狩ってしまえばいいよ。漆黒聖典とか」

「スレイン法国は人類の守り手じゃないのか?」

「んー? 気に入らない者は人間でも殺すからねー。宗教で世界を支配しそうで気に入らない」

「聖王国にも行ってないしな」

 考えればきりが無いのだが、次にやるべきことは帝国の生徒全員のことだ。

 一つ一つ自分の決めた計画を遂行していかなければならないだろう。

 ラキュースの懐妊(かいにん)は素直に嬉しかったが食事の事とか必要な事とか考えなければならないだろう。

 領地の運営については真蒼の薔薇が話し合っているという。

「羊を飼って羊皮紙の量産でもしようかな」

「……なんか、効率良さそう……」

「色々と今はやることがあるから帰ってこられないのだが、ラキュースは忙しいか?」

「城勤めを始めたから忙しいわ。……でも懐妊したことでしばらく休暇が取れるかもしれない。カルネ村の両親にも報告しないと」

「折角だから私とイビルアイがご主人の手伝いをしてもいいよ」

 クレマンティーヌの提案にヤントラは少し申し訳ないと思った。

 当初は三人で冒険の旅に出るはずだったのに連れまわせなくなってしまった。

「そういえば、ポーションの方は大丈夫か?」

「充分な本数は確保しているよ」

 五百本ほどは金庫に入れてあったはずだが、量産しにくいアイテムだし、ナザリックが公開すれば外貨稼ぎで手に入るかもしれない。

 ぼったくられそうだが。

「ガガーランは特に問題は?」

「食費がヤバイという以外は問題ない」

「それはただ単に食べすぎ」

 一通り元気な顔が見られただけ安心した。

 本格的に宝物庫で活動する事になるだろう。

 エ・ランテルがどうなったかは分からないがモモン達が頑張ってくれるだろう。

「資金面で足りない事があれば出してあげるわよ。領地の収入も少しずつ出てきたから」

 一ヶ月で金貨数百枚ほどだが。意外と入ってくるものだと少しだけ驚いた。

「ありがとう」

 当分は手持ちの資金でやりくりできるので貯めておいてもらうことにした。

 食料の買い込みをクレマンティーヌとルリマリスと共に行う事にした。

 風呂用具も女性視点というか好みの意見を聞くのに役立てる。

 クレマンティーヌは情報収集のついでに城で礼儀作法を習っているらしい。

 暗殺に役立つかは分からないが宮廷舞踏も少したしなんでいるとか。

 イビルアイからは不満の声が上がったが、今のところ城で悪さはしていないようだ。

「宝物庫に行って竜王国の様子を見てくるよ。王都にはなかなか戻れなくて悪いな」

「折角拾ってもらった命だから大切に使うよ。竜王国はスレイン法国と付き合いがあるから、私は行けないかも」

「漆黒聖典が出てくるからですか?」

「それもあるけどね。奴らが出てきたら迎え撃つけど」

 買い物を済ませた後は二人分かれて宝物庫に向かう。

 今のヤントラはとても忙しいから。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 金貨の山は既に低くなりつつあった。

 追加で増やさなければならないのだが、自分でも何をしているのだろうと思ってしまう。

 人助けも楽ではない。

 それでいいのだろうかとも思う。

 たっちお兄ちゃん、間違ってたら教えに来てほしい。そう天井に向かって祈った。

 数時間かけて準備を整えた後、強欲で経験値を集めておく。光りの加減から身投げ分が集まっている。経験値だから当たり前かもしれないが、普通に倒したモンスターからは何も得られないのだろう。

 凄い量が集まったのでパワーレベリングも問題なく使えるだろう。

 効率化を図るために優秀なシモベは必要だろうか。

 ブレインやガゼフのような。

 レベル八十台を多く倒したガガーランが適任かも。

 献体は色々あった方が都合がいいだろう。

 表札のようなものも居るだろう。すっかり忘れていたが。

 色々と悩みながら魔将などを使い、量産を続けて更に二日が経った。

 施設に竜王国からの箱が続々と届く。それらは地下一階に運び込まれてメイド達によって徹底的に洗浄された後は人間を優先的に容器に入れる。

 一部の金貨はナザリック用に箱詰めし、容器と液体と指輪の注文に使う。

 量産を任せて竜王国に向かってみる。

 占領された都市では奇妙な事態が起きていた。

 死んだはずの人間がよみがえり竜王国の首都に避難してくる事態になっていた。

 それらは常駐する事になった帝国兵によって次々と保護されていく。

 獣人(ビーストマン)の侵攻は止まっており、今のところは小康状態だった。

 女王への挨拶はせずに宝物庫に戻る事にした。

 数時間しか経っていないはずだが、広い空間に金貨が山となっている。

 それらは特注のスコップでならし、量産体制を続ける。

 二百五十メートル四方も広いのだから相当量の金貨が溜まるだろう。

 五日後には山も小さくなってしまうのだが、結果は凄いだろう。

 竜王国に再度訪れると首都は大賑わいだった。

 交金貨に両替して買い物を楽しんだ後は城へと向かう。

 数日間の奇跡だが、挨拶だけはしておこうと思った。

「よく来てくれた!」

 少女の姿のドラウディロンは元気よく挨拶してくれた。

「ご機嫌よさそうですね、ドラウディロン陛下」

「むふふ。民が生きて戻って来たのだ。顔がにやけてしまうではないか」

「それは良かった。そんな奇跡は長続きしないと思いますが、助かった命は無駄しないように」

 この言葉で宰相は奇跡が誰が起こしたものなのか理解したようだ。

 あえて黙ってヤントラを見据える。

「それで貴殿は報酬でももらいに来たのか?」

「陛下の笑顔を見に来たのです。よい女王となってくださいませ」

「おおともよ」

「あっ、そういえば鉱物資源を忘れてましたね。次回までに用意しておきます。それまでお元気で」

「こたびの尽力はまことに助かった。大した礼は出来ぬが入国を容易にしておこう。……身体の方は勘弁願うがな」

 宰相は感謝の文言が書かれた羊皮紙と入国に必要なアイテムをヤントラに渡した。

 そして深く頭を下げた。

「大層ご迷惑をおかけしたので……。これは謹んで承ります。では、近いうちに鉱物の方をお運びいたします」

「うむ。楽しみにしているぞ」

 上機嫌でヤントラを送り出した後、ドラウディロンは玉座に深く沈みこむ。

「変な恩を着せるのかと思ったぞ」

 正直、変な要求を言ってくると思って覚悟していた。

「あの調子だと民の蘇生に迷っていたのかもしれません。次は無いかもしれませんよ、陛下」

「うう。微々たる数とはいえ……、民は民だ。それは素直に喜ぼう」

 大勢を一度に蘇生させる魔法はないものか、とドラウディロンは思うのだが、宰相はきっとありませんよ、と涼しげな顔で答えた。

 

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