※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

99 / 213
H-4 この世界の仕組みを解明

 金貨と鉱物資源の量産の後で蘇生を開始。

 複数の命令は意外と面倒くさい。

 その合間に竜王国用の鉱物資源を箱詰めしておき、金貨はナザリックに運び入れて容器と保存液などに消費される。

 ついでに羊皮紙製作に必要な素材も頼んでみた。薬品系は余程のレアものでも無い限りは頼めるところが凄い。

 たくさん使うものなら大量注文するのだが肝心の羊が居ない。

 羊皮紙だから羊で無ければいけないわけではなく、品質としては仔牛、鹿などが良く、羊や山羊は毛穴が目立ったり手間がかかったりするらしい。

 仔牛が良いとしても買えるのだろうか。

 必要素材も提供するのだが、単純作業になっていて第九階層のメイド達とあまり触れ合えていない気がする。

 毎日数人ごとに第六階層で色々と仕事に従事できるようになり、忙しく働いていると言う。

 飲食不要の指輪の影響か、食事の大切を忘れてきた。

 日ごろの仕事ぶりなどのたわいも無い話しを聞いたり、したりした後は一人ひとりを軽く抱きしめていく。エロいことはせずに。

 シズとエントマとペストーニャも抱きしめておいた。

 第十階層の鍛冶師に羊皮紙製作の為の道具をたくさん注文してみた。ついでに武器も。

 木枠なども必要なのだが、こちらは街で製作してもらえばいいだろう。

 これまでに何を注文したのか、見事に覚えていない。

 まとめて箱詰めされるだろうから。届いたときに確認すればいいか。

 値段すら聞かなくなったな。まだ金貨はあったかな。追加しているはずだが。

 生徒達の服も要るだろう。

 必要な素材も聞いておくか。大量注文できるものは金貨の他にはありふれた素材で事足りるようだが、消費ばかりでは悪いだろう。

 ナザリックの用事を済ませた後は地上に戻る。

 数ヶ月ぶりにカルネ村に向かうと更なる要塞化、ということはなく平和な時を過ごしているようだった。

 食糧問題が解決してから農業に力を入れ、薬草類の収集は相変わらずだったがエ・ランテルに卸す許可は出ていたようだ。

 外敵はたまに森から湧き出すように現れる程度でほぼ小鬼(ゴブリン)と街から来ていた冒険者で撃退していた。

 村長となったエンリも日々働いていた。

 エ・ランテルから移住する者達のお陰で人口は少し増えた。

 とんでもない巨大な化け物(黒い仔山羊)に比べれば小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)は耐えられる、という人間が多く、行きかう人々の顔は明るかった。

「随分たったが村の様子は明るいようで安心したよ」

 村長の家でヤントラは早速エンリと向かい合う。

「はい。様々な人たちのご尽力により平和な日常を送らせていただいております」

「帝国はしばらく戦争はしたくないと言っている。この先何が起きるかは分からないが、頑張って生き延びてくれ」

「はい」

「覚悟をしているようだが、いいのかな?」

 そう言うと気丈なエンリも身構える。

 エロい人であり変態のヤントラだ。何を言われるかずっと緊張しっ放しだった。

 揉(も)む事から抉(えぐ)り取る、に変わっている。今はもっとすごいのだろう。

「人払いは済ませています」

「二時間ほどの睡眠だ。別にエロいことはしないよ」

 それでも想像を超えた方法が取られるのだろう。

 エンリは恐怖を乗り越えるために寝室に向かった。

 それから三十分おきに居間の方にヤントラは現れ、外套を取り出す。

 二時間後に目覚めたエンリは何が起きたのか全く分からないがとてもお腹が空いていた。

 身体はとても軽く、肌がヒリヒリするが服はちゃんと身につけていた。

 歩こうとすると少しだけふらつく程度だが、歩けないこともなく。

 居間に向かうと食事が用意されていた。

「お腹が空いただろう。料理の腕はなかなか上達はしないのだが、食べてってくれ」

「はあ、では……」

 手洗いの後に椅子に座り、用意された料理を食べていく。

 とてもおいしかった。すきっ腹だったからというのもあるだろう。

「君を含めて随分と人材が集まった。新天地でも有効活用できるかもしれないな」

「新天地ですか?」

「空に浮かぶ月。第二の世界へ、行けたら生きたいな。この世界はモンスターが少ない。居ない事は無いのだろうけれど……。意外と色んな種族が平和的に暮らしているから驚いたよ」

 突飛な事が続いたが話しぶりは本当に普通の人にしか聞こえない。

 それが人間の身体をいとも容易くバラバラにしたりするとは信じられないことだ。

 何となく分かってしまった。労働によって汚れた手足が新品のように綺麗になっているのだから。

 傷が治るように、身体を奪われたのだろう。それも文字通りに凄まじい方法で。

「ネムはやめた方がいいな。姉妹揃っていた方がいいのだろうが……」

「いえ、ネムも一緒がいいでしょう。今の方法だとそれほど恐怖は感じないようだし」

 自分としても姉妹一緒の方が安心する。

「ならば、あの薬師の青年(ンフィーレア)も。それからいくつか欲しいものがあるのだが……」

「こちらで用意できるものであれば」

「作物の種や植物の苗木をいくつか。量は……どれくらいがいいだろうか。多くの種類が欲しいのだが」

「この村にある作物は多くはありませんが、ご用意いたします」

「お礼というか協力してくれたお詫びも兼ねて金貨十枚分を払っておこう。農耕器具や家畜も欲しいが、この村以外でも手に入るものか?」

 食事をしながらエンリは必要なものの情報をヤントラに伝えていく。

 とても勉強熱心なのは理解できるのだが、村でも作るのだろうかと疑問に思った。だがすぐに新天地用なのだと思い至る。

 月を開発すると言うのは簡単な事ではないだろうが、ヤントラならやってのけてしまうのではないかと根拠は無いが思った。

 羊皮紙用の仔牛は簡単に手に入れられるものではないので、別の酪農家の下に行く必要がある。

 カルネ村以外にも様々な作物を育てる村があるので、購入についてはそれぞれの村で検討するように言った。

「ところでエンリ。君も強くなってみる気はあるかな?」

「強く?」

「農耕器具を持ってモンスターを倒すとか」

 エンリは見た目に似合わないクラスを持っている。

 小鬼(ゴブリン)達を使役する上で身についたものなのだろうが、どう育てたらいいだろうか。

 分かりやすいクラスなら良いのだが、商人とか料理人などは扱いが難しい。

「今の数倍程度といったところかな。それほど目に見えた強さは得られないが……」

「小鬼(ゴブリン)さん達は強く出来ないのですか?」

「召喚されたモンスターの強さは固定されている。それ以上は無理だな。蘇生魔法も通用しないはずだ。大切に扱うといい」

 蘇生できないのは仕方が無いかもしれないが、居なくなってしまうのは寂しい。

 強大な敵が現われでもしない限りはずっと仲良くしたいと思っている。

「私個人としては今のままがいいです」

「農家(ファーマー)は何かと便利だぞ。便利な魔法はあるにはあるのだが、私は使えない。それでこんな事になっている。おぞましくて申し訳ないな」

「大変驚きましたけど……」

「全員女性というわけではないぞ。モンスターも居る。私の死後に捜索されたらすごい事になるだろうな」

 それは笑い事ではないのだろうが、エンリも顔は青ざめたが楽しそうに言うヤントラに苦笑する。

 その後はネムとンフィーレアが餌食となるが、見事な手並みのせいか本当に何が起きたのか分からないほどだった。

「ちょっとした錬金術だな。ンフィーレア君。君は強くなってみる気はあるか?」

「なりたいです」

 即答だったのでエンリは苦笑した。

「一日いっぱいの特訓でもいいかな?」

「一週間とかではなく?」

「君さえ良ければだが……。ついでに必要な品物について教えてもらおうか。植物とか集めて小さな農園でも作ろうと思ってる」

「農園ですか?」

「月に農園を作るかもしれないわよ。手伝ってあげたら?」

 話しが飛躍したのでンフィーレアは驚いた。

 絵空事だと思いたいところだが、相手は只者ではない。本当にやってのけるかもしれない、という思いがあった。

 まず月にどうやって行くのかだが、それはヤントラも考えている最中だという。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 必要な素材を手に入れた後はアインドラ家にラキュースの懐妊を話してみた。

 大層喜ぶ両親を惨殺するわけには行かないので二人には平和に暮らしてもらう事にした。

 本当に殺すわけではないが、お世話になった人間には最大限の感謝は示さなければならないだろう。

 恩を仇で返すようだが、活きのいい農家を十人ほど頂く事にした。それと移住してきた冒険者も数人。

 それぞれに身体は大切に扱う事を約束し、カルネ村を後にする。

 人にそんなことを言う資格が無いけれど、と後になって気付いた。

 ンフィーレアは後日、連れてくる事にして宝物庫の中を整理する。

 大量の金貨はまだ少し足りないようなので、増やしておくが強欲の経験値の溜まり方は凄まじいものがある。

 レベルの低いエネミーとは比べ物にならないだろう。

 もう一つ同じような効果のアイテムが欲しい所だが贅沢はいえないな。

 全部で二百ある世界級(ワールド)アイテム。

 残りは未知の存在のようだし。というか、秘匿されすぎて効果が分からない。

 考えても仕方が無いか。

 次は他の村を巡っていこう。

 酪農の村を探し出し、仔牛を集めていく。大きく育てば貴重な食料にもなる収入源なので手に入れるのは簡単ではない。豚の方がまだ楽だが。

 三日ほどかけて身体に特徴となる模様などが無い仔牛十頭分は集まっただろうか。その場で殺すわけにも行かず放牧する場所が無かったので八足馬(スレイプニール)達を入れていた檻に入ってもらった。

 ついでに村人も五十人ほど集まったが、それはまあいい。

 後は作物や植物も豊富になってきた。

 作物に適した土や育て方も集まった。

 集めただけで結局は捨てる事になりそうな気はするが、仔牛たちの放牧場所は必要だろう。すぐ逃げそうだが。

 逃げる前に採集を済ませておく。

 食肉用の動物も本当は必要なのだが、こちらは後でいいだろう。

 地下二階は拷問室から研究室に変わりつつあるな。当初の予定と違っているのだが、問題は無いだろう。

 他人に任せられない事が多いが、人手は欲しいな。

 頑丈な柵かは自信が無いが、それぞれ首輪をつけてロープで繋ぎ、買い込んだ牧草を与える。

 作業の合間に届いた箱が随分と溜まってきた。

 箱に使われている資材もバカにならないだろうが無駄に多くても困るので適度に処分しておく。

 既に金貨五億枚相当に達していそうだが。まだまだ足りない気がする。

 竜王国への再度の準備を整えてンフィーレアを連れてくる。

「な、何なんですか、この施設は?」

「外からはみすぼらしいところだが、大錬金術の実験施設みたいなものだよ」

「へー。じゃあ地下の方が凄いんですね」

「そう。口封じはしないよ。地上の活用方法が下手で困っている。宿泊施設はあるのだが、新たな施設建設までは無人だからね。一般人にも利用できるようにはした方がいいのだろうけれど、物騒な施設に来る勇気あるものは犯罪者くらいだろうか?」

「おばあちゃんなら喜んで来そうですよ。あの人は錬金術関係には目が無い人ですから」

「……口は固い方かな?」

「研究者としては一流ですから、固いかも知れませんね」

 代わりに孫は口がとても軽そうだ。

「一人で居ると寂しいのだが……。街造りが下手で土地を提供してくれた国に申し訳ない」

 ンフィーレアは仔牛達に顔を向ける。

 こんな施設には似合わない生物に見えた。

「あれらは羊皮紙用に手に入れたものだ。もう用済みだから元の農家に返そうかな、と」

「用済み?」

「献体はもう手に入れているからね。色々と予定を考えるときりがないから。じゃあ、降りるよ」

「はい」

 この施設は一体何なんだろう、疑問符が歩くたびに増えていく。

 

 地下一階からどんよりした空気が漂ってきたが見学はせずに地下二階に降りる。

 無数の部屋が規則正しく並ぶ様は圧巻だった。

 地上とは違い、地下はとても広い。

 数百メートル規模の地下施設は始めて見るので一つ一つ見学したいところだった。

「拷問室から研究室になりつつある。施設作りが下手だから足りないものとか、欲しいものが増えてしまうよ」

「おばあちゃんなら飛びつきそう」

 拷問室らしい部屋を一つ見せておいた。

「拷問器具だ。手入れはちゃんとしているよ。君に見せる為に置いてあるだけだ」

 見たことも無い金属製の器具。

 錬金術者なら調べ居るところだ。

 医療器具も見せてもらったが、こちらも洗練された素晴らしい道具に見えた。

「拷問と言っても実際に罪人を入れて痛めつけるわけじゃないよ」

「そ、そうですか」

「ここは今のところ荷物置き場のような感じで拷問室らしい使い方はしていない」

 ンフィーレアは地下に入って床がタイル張りになっている理由が理解できたが言うのが恐くなった。

 そのまま宝物庫を見せる。

「……うわぁ」

 部屋にはちきれんばかりの黄金が輝いていた。

 山が崩れれば生き埋めにされるほどだ。

 金貨にして数万枚ではきかないほどの金貨の山。

「金貨は大したことが無いのだが……」

 ンフィーレアをお姫様抱っこして『飛行(フライ)』で棚に向かう。

 そこには金貨以外の鉱物資源が納まっていた。

「これはすごい。様々な宝石まで……。あ~、すごい……」

 すごい、という言葉でしか表せないほどの財宝があった。

「研究素材として使えそうか?」

「もちろんですよ! これだけの素材は手に入れるのは……。もし、使わせてくれれば良いアイテムが出来るかもしれません」

「武器を作れ、とは言わないが空に上がる為の施設を作るのに膨大な資源が必要だ。これらも金持ち自慢するために見せたわけじゃない。君、というか君たちの知識を教えてくれるのなら、いくつか進呈しよう。この中には種族を変えるものもあるから触らないように」

「そ、そんなものまであるんですか!? あ、いえ、すみません。僕らで協力できる事ならば……」

 月を開拓する話しは本気かもしれないし、それを可能にするだけの素材が用意できるヤントラは改めてすごいと思った。

「ルプーに知られたら……、荒らすかもしれないな。ところで、あいつは村に良く来るのか?」

「えっ? たまに姿を見せますよ」

「様子見だけで退屈して悪巧みしていないか心配になるのだが……。そろそろ本題に行こうか」

 大浴場に向かうと白いタイル張りの明るい部屋が広がる。

 いくつか小物が散乱しているが、特にめぼしいものは無かった。

「ここは浴場であり洗い場だ。返り血などを洗ったりするところでもある。この施設にはメイドさんが居る。彼女達が身奇麗にするところでもある」

 この施設に入って誰とも出会わなかった。

 誰かが居る気配は何となく分かるのだが、知るのが少しだけ恐かった。

 そのまま扉を抜けると屠殺場に出る。そこでやっとメイドらしき人物の姿を目撃する。

「どこも広いですね」

「広くないと困る。ここは数千から数万体のモンスターを討伐するところでもあるからね。これでも狭いくらいだ。さすがに巨大生物は施設が壊れるだろう。だが、天井は高くしない方が良かったかもしれないけど……」

 室内にぽつんと置かれた椅子にンフィーレアを座らせる。

「食事は用意してあるし、風呂の用意も出来ているから」

「はい」

「君を殴り続ける特訓じゃないから、それは安心してね。まずは……服を全て脱いだ方がいい。これらは洗っておこう」

「えっ? 脱ぐんですか?」

「汚れたまま帰すわけには行かないだろう。特訓は色々と汚れるものだ。寒くても大丈夫。次第に身体が温かくなるよ」

 ヤントラが手を叩くと数人の仮面を付けたメイドが走り寄る。

 慌てるンフィーレアに構わず、服は脱がされて、準備が整えられていく。

「特訓が終われば温かいお風呂とマッサージが待っている」

 メイド達に身体を押さえつけられた全裸のンフィーレアは恥ずかしさでいっぱいだった。

 抵抗しようにも力が強くてビクともしない。ただのメイドでは無い事は理解した。

 その後に現れたのは凶悪というか悪魔そのもののようなモンスターが一体現れる。

「攻撃魔法は使えるか?」

「は、はい……」

 使える魔法を伝え、悪魔が一定距離の位置で立ち止まる。その横に回復役の頭巾を被った者が数名控える。

「魔力切れでも回復させるから君はただひたすらに魔法を使い続けること。尿意と便意を感じていようと。これはそのための椅子だ」

「ええっ!?」

「ここは屠殺場だ。足元には色んなものが転がる。汚物程度は後で掃除するから気にするな。では、始め。……単純作業は精神的にもキツイ。食べ物と飲み物も充分に用意してある。あと、このモンスターは決して反撃しない。数時間ごとに様子を見に来るから」

 一人というかメイド達に囲まれて裸で魔法の特訓をする事になろうとは思わなかった。

 ンフィーレアの膝にタオルだけ乗せておいた。

「ただひたすら魔法を唱えるように。出来れば連続的に。メイド達の判断で食事を取らせる事があるから」

「が、頑張ります」

「話しかけても誰も答えないから。とても孤独を感じるかもしれないが……、耐えてくれよ。一日いっぱいの特訓だ。何年も拘束したりはしない」

 自然と手が震えてきた。しかし、その手もメイド達がしっかりと支える。

 ンフィーレアの背後に複数の気配があり、誰かに肩を掴まれた。

「じゃあ、頑張ってね」

「は、はい」

 ヤントラが居なくなった後、部屋の中は一団と静かになった。

 無数の人の気配はするのだが、息をしていないような静寂が広がっている。

 空間が広いせいもあるだろう。

 覚悟を決めて魔法を放つ。

 

 ンフィーレアが地獄の特訓をしている合間に量産体制を整える。

 金貨の方はだいぶ楽になっているが蘇生はやはり大変だ。

 五時間かけて用意できても一都市全ては賄(まかな)えない。

 宝物庫が狭く感じる。

 都市のために作っているわけではないが見返りは欲しくなってしまう。

 五時間後のンフィーレアはしっかりと特訓は続けていた。

 身体は興奮状態のためにタオルは落ちてしまっていた。

 ヤントラは一度、ンフィーレアの側に行き、様子をうかがう。

 他の生徒も似たような状態になるので対処方法は考えてある。

「我慢は身体に悪いぞ。君の仕事は魔法を唱え続ける事だ」

 メイドの行動に驚きはするが魔法は唱え続けた。

 何かの容器を股間に被せられた気がする。

 下に少し顔を向ければ大人しいメイドが容器をしっかりと持っていた。

「眠くても続けてもらうからね。大切な人の顔を思い浮かべたり、無心になるのもいい。とにかく続ける事だ」

「はい!」

 声に力がこもっていた。

「どこまで経験を積むのか楽しみだ。唱えている魔法が急に変わったりはしないが……。使うことと当てる事が目的だ。ここまで魔法を使ったことはないだろう?」

 返事は出来なかったが頷いた。

 それも目の前のモンスターに殆どダメージが与えられていない。

 人生でこれほど多く魔法を使ったことは無いだろう。

 ヤントラはンフィーレアを残して宝物庫の様子を見る。

 金貨のうねりが大きい。一度に数十万枚も消費されるのだからすぐに山が崩されてしまう。

 中には数百万枚の場合もあるかもしれない。

 もう少し価値の高いモンスターを見つける必要があるのだが、解体に手間がかかる。

 人的資源もバカにならない。

 五時間後に強欲を使い、無駄な項目の処理も確認する。

 更に五時間後に朦朧とするンフィーレアを開放する。精神的な疲労なので搾取も楽だ。

 顔をしっかりと拭いてメイド達に風呂に入れてもらい、マッサージを受けて綺麗な服と共に地上の宿泊施設に寝かせておく。

 その間に箱が届くので地下に運び込む。

 ヤントラが地下に戻る頃には屠殺場も綺麗に掃除されていた。あとは量産体制をここにも広げれば今日の仕事は終わりだ。

 部屋に金貨を満たすには早くて二週間はかかるだろう。その間に竜王国に届けられるものは用意しておく。

 翌朝、目覚めたンフィーレアにアンケートを聞いておく。それからカルネ村に届ける。

 散々魔法を使ったのに強くなった気はしないが経験は確実に積んでいた。

 一日で低レベルの人間が強くなれるのは多くて二十程度。それも攻撃魔法などが伸びやすい。

 ンフィーレアは十五も増えていたが新しい職は望まなかった。

 魔術師(ウィザード)として上級職にもなれるようだが、本人の希望は尊重すべきだろう。

 三十個近い魔力系魔法も覚えられるし。

 一覧表を与えて、選ばせた。

「もう数日の努力で第三位階に行けるかもね」

「本当ですか? あんな特訓で……」

 確実に第二位階は扱えるので『闇視(ダークヴィジョン)』を試してみる。

 室内を暗くしてみたが景色は真昼のように明るく見えているので成功しているのかもしれない。

「ええっ、なんで!?」

 初めて魔法を覚えた時は既に自分のものとして扱えた。今回は教えられた途端に自分のものになってしまった、という驚きだ。

 それだけで簡単に使えるはずは無いのだが、とンフィーレアは不思議に思った。

 同時に不可能を可能にする人間にも驚きだ。

「低い位階魔法に集中していると高い位階魔法の分が無くなる。当然、強くなれば経験はなかなか溜まらない。まだまだ伸びる可能性はあるかもね」

「じゃあもう一度、お願いします」

「こちらも忙しい。ひとりであれこれやっているものだから同時進行が難しい。帝国の生徒達と一緒でいいなら呼ぶよ」

「で、では。えっ? 帝国?」

「帝国の生徒達も能力の底上げをしている。生徒全員と言ってあるので、そろそろ準備しないといけない」

「王国領内なのに?」

「王国は魔法詠唱者(マジック・キャスター)の扱いが悪い。もちろん、こちらも真蒼の薔薇の特訓もやったよ」

「また戦争になるのではと……」

「戦争を始められるほどには強くは出来ないよ。未来ある若者のためだ。堕落しないようには言ってあるけどね」

 不安はあるけれど能力向上という観点はとても魅力的だ。

 第三位階以上は一般人からは未知の領域。

 普通の特訓ならば一日で強くなれないだろう。まして羞恥心が邪魔をするし、得体の知れないモンスターも用意できない。

 ヤントラだからこそ出来るのかもしれない。

「争いたいなら争えばいい。様々な可能性に能力を使うのであれば応援する。でなければ魔法を禁止する事だ」

「……そ、そうですね。我々の使い方次第ですものね」

 厳しくも優しい言葉だと思った。

 ンフィーレアとしては知識の探求は続けたい。

 自分にはまだまだ知りたい事がたくさんあるのだから。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 ヤントラは既にこの世界の仕組みを理解しつつある。後は実際に空へ上がれば新たな発見があるかもしれない。

 彼らは純然たる原住民にして自然発生した知性ある存在だ。

 最適化の影響もあるだろうが、ここはきっと『そういう』世界なのだろう。

 それともまだ何か忘れている事があるかもしれない。

 例えば遥か過去に自分たちと同じプレイヤーが転移していたとか。

 同じ時間軸に転移する必要は無く、それぞれの時間に転移している可能性も充分にある。そして、未来に転移する予定の存在も。

 それは誰でも思いつく事なので頭から抜けていたが、そう考えればまとまって存在するプレイヤーの数が少ない事も頷ける。

 ギルドごとに様々な場所に呼ばれるのだろう。それこそこの世界のシステムを構築するきっかけとなった者達とか。

 自分はもう元の世界に戻る気は無いし、戻れない。

 アインズ、モモンガと別行動さえ取れれば何も心配は無い。

 過去へ戻る魔法で伝説の原点を倒すのも面白いかもしれないな。

 六大神とか。

 八欲王。

 イビルアイも関わったという十三英雄。

 モンスター退治の欲が溜まればの話しだが、今は野望は大きく抱いている最中だ。

 下らない模索はやめて鉱物資源を竜王国に運び込む。

 国の復興に使ってもらおう。

 都市部で人々が復活しているのは気(・)の(・)せ(・)い(・)という事にして街で植物や作物の種などを買い込む。

 報酬として集めてもらった方が良かったのかもしれないが、次回に期待されても困るだろう。

 獣人(ビーストマン)は恐ろしい相手が居ると悟ったのか、今は戦力を増強しているようだ。それはそれで脅威なのだが。

 獣人(ビーストマン)の周辺では『漆黒の死神』という噂が立ち始めたようだ。

 また漆黒という単語が生まれてしまったことにヤントラは苦笑する。

 無用な殺生をするわけには行かないので宝物庫に戻った。

 放牧(ほうぼく)していた仔牛達はメイドに見張らせていた為に無事で、購入した村にそれぞれ返品した。

 返金は要求しないことにした。引き換えに料理の造り方などを教わった。

 一人で管理するのは大変なので無駄なものが置けないのは少し寂しくもある。

 イビルアイ達を常駐させるわけにも行かない。

 何か良い方法が無いものかと頭を悩ませる。

 作物の種などは保存液に入れたら、そのまま発芽(はつが)しそうな気がした。

 試験的に入れて様子を見ることにした。

 金貨の量産はもはやナザリックをパンクさせるのではないだろうか。

 維持費とか抜きにしても何に使っているのか、さっぱり分からない。

 届けられる金額は数十億という膨大な数ではないけれど、シモベを使って十箱分ともなれば凄いだろうな。

 アルベドに素材などを見せてみたが満足したのか、どうなのか未知数だ。特にこれといって言うほどの反応を示さなかったので。

 ナザリックが潤(うるお)う事は嬉しいようだが、モモンガの愛が届かない事にストレスでも溜めていないか心配になる。

 荷物の整理の後は生徒達だが、まずは膨大な金貨と引き換えに保存液と容器を注文する。

 この施設に収容できる数は数十万体以上。はっきり言えばまだまだ余裕がある。

 膨大な注文が出来ようと完成するのに時間はかかる。

 保存液で地盤が崩れないようにするのも大変だ。

 培養液は一通り揃ってきたが使い道はまだ無い。

 

 ンフィーレアと最(・)初(・)の(・)特(・)訓(・)を受けた生徒二人の再特訓を含めて全てが終わったのが下水月の中ごろ。

 帝国の歴史は確実に覆った。

 生徒の殆どが第三位階から第五位階までに到達。

 扱える魔法は少ないのだが、確実に能力の底上げが行(おこな)われた。

 低位の魔法も勉強で次々と扱えるようになってきた。

 報酬としては農産物とその育成方法や調味料などの地味なものと数匹の家畜類。

 当然関税手続きの書類付きで。

 そしてジルクニフ本人、と后(きさき)や愛嬌(あいきょう)付きでも構わないと言ってみた。

「ついに来た、という感じだな」

「竜王国の女王様もお望みのようでしたし」

「それほどまでに必要か……」

「素材はあるだけ必要、ということでしょうか。無理に皇帝という必要も無いのですが……。個人的に皇帝を特訓に出すとどういう風に強くなるのか気になるところです」

「……皇帝が強くなったら……、独裁者や為政者だろうな」

「暴君……というクラスになるかもしれませんね」

 聞く分には面白いが本当になったら国民が泣くだろうな、とジルクニフは少しだけ想像した。

 そこまで非道な存在になって国民を苦しめる気は無い。

「例えば腹に子を宿す者が居ればどうなる?」

「妊婦はさすがに……。再生して子供が消えると困りますので、辞退した方がいいですね。それと、処女は回復魔法で治りますから」

「精神的にも肉体的にも負担となるな」

 そこまで万能であれば魔法というものは意外とおぞましい存在かもしれない。

 武力としては魅力的なのだが、と皇帝は少しだけ唸る。

 都合のいい魔法ばかりでは皇帝すらも要らなくなってしまうだろう。

 強大な魔法を持ちながらも手に入れた都市を平和的に利用しているアインズ・ウール・ゴウン。

 静かな時期のうちに帝国も治安維持のために動かなければならない。

 王国を打倒した後は丸々魔導国に奪われてしまうかもしれない。こちらに面倒な仕事を押し付けてくる可能性もある。

 その他もろもろ頭の痛い事態が続くのだろう。

 その点で言えば手の内を平然と見せてくる目の前の男の勇気ある発言はおぞましくもあるが清々しさもある。

 皇帝の身体をもらいに来るのだから。しかも竜王国の女王を本当にもらった様だし。

 獣人(ビーストマン)も単独で撃破。

「仮に他国が俺を殺せば全てをやると言ったらどう答える?」

「そこまで奇特な人は知りませんが、国ごとくれるならさっさと皇帝を殺しに来るかも……」

「では、仮に魔導国だった場合は?」

「その時は無理です、と答えます。勝てない相手と戦わない。というのもありますが、ナザリックは別格です。自分の故郷を自分の手で滅ぼせ、と言われれば逆に帝国を火の海に変えるかも、しれません」

「ふむ。アインドラ卿にとっては相当大事な場所なのだな」

「十年ほどお世話になった場所であり、そこに住む者達は愛おしい存在です。……ただ、今は自分から手放そうとしている感じで……。彼らとは離れて暮らした方がいいのでは、と思っております」

 利用するには便利だが、このところは空への移住のため彼らのことは大切に出来ていない気がする。

 オリジナルは全て丁寧に保管しているが複製は雑な感じがして申し訳ないと思う。

「こちらの要求をほぼ満たしている相手だ。要求は飲んでやらねばな。四騎士にも悪いだろう」

 ジルクニフは首を落とされるのはいい気分はしないが竜王国が条件を飲んだのには驚いた。

 こっそり証拠の献体を見せてもらったときは戦慄したものだ。

 妊娠していない愛嬌などを呼びつけるまでしばし待機する事になった。

 その間、他の褒美を集めさせる為に従者にも命令を下す。

 后を含めた者達が集められた後、従者達は部屋の外で待機となった。

 まずは妊娠していないかの確認をヤントラ自身が行う。

 それが終われば一気に全員を寝かせるだけだ。

 一人ずつ丁寧に。

 待機する間は玉座に座ってみる。採取自体は二時間ほどで終わった。後は充分な睡眠を取らせる。

 事前に長時間かかることは伝えているから公務に影響は出ないだろう。

 そして、六時間を過ぎた頃には全ては終わった。

 十分ほどの休憩を挟んで皇帝を玉座に座らせてから起こす。残りは邪魔にならない位置に寝かせておいた。

 愛嬌達は低位の睡眠により放っておいても目が覚めることを伝えた。それでも心配ならダメージを与えると良い、と教えておいた。

「ご気分はいかがですか?」

「……ん、少し頭が痛い程度だ。……うむ。なんとも言えんな。死罪も簡単には出来ないようだ」

 首に多少の違和感はあるが身体は問題なく動く。

 アンデッドとして蘇るよりはマシかもしれない。まだ自分の意思で動けて喋る事が出来る。

 話しには聞いていたが空腹の為にお腹が空く。

「一日いっぱいは休んだ方がいいんだったな」

「戦いに参加するようなことが無ければじっくりと休養してください」

「うむ。自国の運営に精を出すよ」

 それから静かに従者たちを呼びつけて后達に毛布などをかけて、ヤントラの褒美の用意は城の外に置かれた。

 それらを回収し、宝物庫に戻れば帝国でのクエストは終了だ。

 竜王国も今のところ戦力増強を図り再度の侵攻への対策を整えていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。