故に、見逃してください。
バランスと言うモノは大切な物だ。
例えば体型
例えば国
例えば世界
例えば空気
どれもバランスが在って、その中の何かが崩れたり、突出しすぎたりするとソレ自体が崩壊してしまう。
コップ一杯分の水にたった一滴の水滴を入れればソレはもう適量ではない。
見えるモノで分り易いのいはこれだろう。
表面張力ギリギリの量に、前述の一滴は間違いなく毒だ。
ソレは見えない物にも適応されている。
抑圧された衝動が突然破裂し、事件になるのは21世紀以降では珍しい事ではない。
そして、殆どのモノが言うのだ
「そんな事をするような人間には見えなかった」
何事にもバランスが在る。それの一部が突出すると、その器は崩壊してしまう。
ソレは、アギ・スプリングフィールドも同じだった。
少し、話しをしよう。
今から凡そ百年ほど前に、魔法使いが居た。希有な出会いをした魔法使いは、悪魔から一つの指輪を貰う。
魔法使いは精霊と悪魔を従え、修行に行く事になる。
其処で様々な出会いをした。長く成るので省くが、魔法使いは様々なモノを切り捨てて己の夢を成し遂げた。
否
成し遂げる最中だった。
悪魔と人のハーフ、吸血鬼、自動人形、殺戮人形。
その四人の仲間…いや、あの時でも既に家族か。その家族と共に異界へと旅立った。
最初に旅に出たのは、魔法使いと殺戮人形。その旅で、彼等は以前分れた筈の科学者を拾った。其処でイロイロ有って、私達が合流する頃には家族が増えていた。
私たちからすれば30年と言う時間は、彼等にとっては一世紀近い時間だった。其処まで時間にずれが在った事に驚きはしたが、殆ど変わらない魔法使い達にとっては楽しい日々だったのだろう。
私達が住む楽園を作ろう。
それが私達の当面の目標だった。
表面積だけで既に火星を超える広大な大地は、魔法使いが従える悪魔や旧い神が己の領地をそのまま持ってきたモノだった。
それでも足りない。海が無かった。
故に、魔法使いは最初の時点で海そのモノである原初の悪魔、最強の獣を捕まえるように命令していた。事実、一度戦い勝利した事のある悪魔を使っての計画だったので思いの外旨く行った。
全員で地を耕し、森を拓き、家を建てた。
その頃だ、一体の悪魔がやってきた。
見惚れる様な貴公子の姿をした悪魔は興味深げに魔法使いを見ながら言う
『勝負をしよう』
魔法使いはやる気なさげに頷いた。丁度仕事がひと段落した所で、手持無沙汰だったのもある。
だが、勝負をする前に魔法使いは言った。
『いいよ。でもゲームでな』
取りだしたのは線の入った板。白と黒の表裏を持った丸い石。
『オセロをしよう』
簡単なルールを説明し、一時の遊戯を行った。結果は魔法使いの圧勝だった。初めての遊戯、初めてのルール。やり慣れている遊戯で魔法使いが負ける事は無かった。
『いやぁ、良い暇つぶしだった。また来るよ』
貴公子は最後まで貴公子の様で、そのまま去って行った。
次の日、貴公子は別の悪魔と一緒に来た。
次の日も、また次の日も、その次の日も
魔法使いは悪魔との遊戯を楽しんでいた。悪魔が持ち込んだチェスやトランプも行った。
在る時、悪魔は言った。
『もし、思うがままに知識を蒐集するモノが罰せられるとしたらソレは何の罪だと思う?』
悪魔に魔法使いは言う。
『さぁ? なんでも良いと思う。でも、もし罰するとするならそれは罰する方も悪いと思う。なぜなら、知りたいと思う事は成長でもある。好奇心無くして人は本当の意味では学ばない。痛い思いをして、必要に迫られて身に付ける事も出来るけど、それだけじゃ、楽しみが無い。だろ? 「暴食」殿?』
悪魔大笑いし、己が名を名のり言う。
『コンゴトモ、ヨロシク』
魔法使いは、笑って言う
『おう』
仲間が増えた魔法使いは何時も通りだった。
世界に大地が増えた。
また、別の悪魔は魔法使いに戦いを挑んだ。
別の悪魔は魔法使いに幸せとは何かと訪うた。
別の悪魔は魔法使いに金銀財宝の魅力を問うた。
最後に来た悪魔は魔法使いに命じた。
『汝が全てをゆだねよ』
魔法使いはこう答えた
『嫌だね』
最後は本気の魔法使いが悪魔を打倒す事で収まった。
魔法使いが最初に得たのは色欲
次に嫉妬
それからは順番に、暴食、憤怒、怠惰、貪欲、傲慢
それら七つを総べ悪魔の王と呼ばれる様な存在になった魔法使いはどんなに力を持とうと変わらなかった。
作物対する愛情、仲間に注ぐ慈愛、契約には誠実であり、いざとなれば行動できる勇気、仲間にも臨機応変に平等に接し、夢と言う希望を持ってその道を歩んでいた。
結局、バランスが大事だったのだ。
七つの大罪と呼ばれるソレをその身に収めた時に変化が無かったのを、私達は疑うべきだったのだ。
強固な理性、自制心、仲間や家族に対する愛情や友情…絆といったモノで魔法使いはそれを抑え込んでいただけだった。
嫌われるかもしれないという思いも在ったのかもしれない。そんな事になる訳が無いのにな
結果だけ言ってしまえば、魔法使いは崩壊した。
アギ・スプリングフィールドは、その力を十全に発揮しながら暴れた。残った理性が最悪の手段だけは使わせなかった様だが…結果は無残なモノだった。
七大悪魔は消滅はしなかったモノの敗れ、他の悪魔や妖鬼、精霊、そして私達もまた敗れた。
唯一、最悪に至らなかったのは…
魔法使いが、万一の時の為に自分に施したであろう魔法だった。
恐らくこう成る事も考えていたのだろう。
純粋な自分の魂のみを他の世界に転生させ、力と体をこの世界に残し、私達や世界を癒す為の柱にした。
「っと、言う所か。馬鹿者め。」
とっと帰って来い。必要なモノを学んで、速く帰って来い。
一人で寝るのはもう寂しいんだ。
吸血鬼だった少女がポツリと吐いた
ハンドルネームは使われているらしくBINではなくB-INで登録しました。