山の中、徐々に緑から赤へと色を変え始めた葉を眺めながら、一人の童はのんびりと自作した釣り竿を握り、欠伸をしていた。
季節は秋に差し掛かり、自分の身の回りで起きた奇怪な事は殆どと言って良いほど無かった。
知識は夏が終わる頃には詰め終わり、後は体を動かし続ける事のみであり、体が出来上がっていない為過度の運動もダメだと来たものだ。
やり続けているMAGの操作訓練は少しずつだが向上しているあたり、充実はしている。
仲魔となったピクシーは相変わらずLv1で自分のLvは3だ。自分だけLvが上がったのはMAG操作の向上が原因との事だ。
ベルと名付けたピクシーは夏の終わり頃から異界に潜っているらしい。
自分の回復手段がピクシーのディアのみと言うのは心もとない。と、言うのが原因らしく小石大の魔石と言うモノを良く拾ってくる。
時々紅玉(ルビー)とかが混ざっている事に驚くも、普通の場所では売れないモノらしい。然るべき所でなら200~500円で買い取ってくれるらしい。
(…売って遊び呆けたいなぁ)
次こそ、祇園で遊びたい。
そんな事を考えているダメ人間は、暢気に過ごしていた。
最近は有る程度回復道具も集まったと言う事で、相棒のベルと一緒に居る事が多い。
昔は良く家まで突入してきた年上の幼馴染も最近はやってこないので平穏である。
まぁ、今から収穫の時期でもあり労働力は足りない位なのだから仕方が無い。
そんな長閑な時間を過ごしつつ、MAGの操作修練を続けているとふと思いつく事が在る。
異界ってどんな風なんだろうと漠然としたものであり、桔梗の授業で既に習った事であり、行った事も有るが一人では入った事のない場所である。
「異界に行ってみてぇ」
「今のアンタじゃ他のピクシーに殺されるわよ?」
妖精ってそんなに殺伐としてるの?!
「あ、間違えた。ピクシー意外にね。アギトには私が居るからピクシーは襲って来ないわよ。満月の日とか腹が立ってない時とか以外は。」
結局相手しだいじゃねぇーか!!
桔梗さんに頼もうかなぁ…ダメっぽいなぁ。でも行きたいなぁ
「なぁ、ピクシーだけが集まってる場所とか知らないの?」
「…十数年、独りで過ごしてた私が知っているとでも?」
ごめんなさい。
「はぁ、良いわよ。秘密の場所ぐらい私でも知ってるわよ。私以外は知らないだろうし」
「マジで?」
「マジよ。それじゃ、ちょっと様子見てくるから待ってなさいよ。」
そう言い、飛んでくベルの後ろ姿を見送りながら再び竿を握り直す。
(試したいなぁ)
無論、MAG式の魔法の事である。まぁ、閃きも何も無いので先ずは自分のMAGがどんなモノかを理解する事から始めなくてはダメそうだが、何とも面白そうな研究だと思う。
MAG式に関しては詳しく知っているのがベルのみなので、ゆっくりと聞いて行くしかないし、大前提として自身のMAGの制御技術が高水準である事なので、今は地道に修練を続けて行くしかない。
(……ん~ベルに協力して貰うかねぇ)
そんな事を考えて居ると、竿が引っ張られた。
「あっ?!」
秋の川は冷たい。
やぁ、冷たい川にドボンしたよ。死ぬる…
火が無い、家が遠い、微風が地獄です。アカン、風邪から肺炎コースに成ったらマジ終わる。
火、つか暖を取りたい。
「ざむぅっぅぅぅぅっ」
魔法が使えたらと心底思った。MAGとかブッチャケ今も良く分かって無い。
何か、人間の喜怒哀楽によって生み出される生体エネルギーってか生体磁気? みたいなもんらしいのだが、ハッキリ言おう。
磁気なんてどう感じろと? アレですか、第六感とか第七感とかですか? 聖衣とか持ってないし星座も背負って無いんですが…
いや、まぁ、なんとなくで大まかなON/OFFは出来るし、若干の強弱の設定は出来ますよ?
駆けだしレベルと言うか…駆け出しの駆けだしレベルです。
「うぅぅぅ」
ヤバい、歯がカチカチ鳴ってる。
死ぬ、冗談抜きでヤバい。あぁ、でもこんな思考が出来るなら案外余裕は在るのか?
「クシッ、グシィッ、」
アカン、余裕の欠片も無いわ。
どうしよう、どうする? ライフカードが見当たらない。
くしゃみが止まらず、思いっきり体を動かして盛大に鼻水とかを飛ばした。
ベチャリと音を立てて地面に張り付いた。鼻で息がしにくい、辛い。
(と、取り合えず、火が必要なんだけど…)
んなもん在る訳無い。
魔法も使えない。
家も遠い。
今の時代の風呂って湯沸かしは薪です。
家に帰っても数十分…一時間は必要です。水溜めないと行けないし。
だいたいからMAG式の魔法とか時間が有って幾つかは最初から使える悪魔だから発展したんだよ。こっちは最初から学ばないといけないって言うのに無理ゲーにも程が在る。
アレだよ1+1=2って言う知識も何も無い状態で○+○=○ってしないといけないレベルの話なんよ?
しかも答えが正しくないと正しい発動はしない。間違っていても何らかの現象とか結果が在る。無発動とかも含めて。
出来るか!!
しかもMAG自体が個人で質や何らかの差が在るから個別のモノに成っていく。ベルの話によれば絶対に似てくる所は出てくるらしいけども。
エネルギー? 生体磁気?
あっ
Side out
Side ベル
久しぶり訪れた嘗ての寝床には、以前自分が集めて居たモノが多量に転がって居て正直今までの苦労は何だったのかと凹んでしまった。
こんにちは、ベルです。
「はぁ~…何やってるんだろう私」
舞い上がって居たんだろうなぁと漠然と思う。
だが考えても見て欲しい。
数十年間独りで、漸く独りじゃ無く成った上に個人的には極上なMAGまで供給されると言うこの天と地の差。
舞い上がるに決まってるでしょ!!
「って…誰も居ないのに何言ってるのかしら。」
此処には私以外は誰も居ない。
此処の場所はこの異界の主ぐらいしか知らないだろう。
なんと言ったって、此処の場所は今の異界の主の先代とも言える悪魔が根を下ろしていた場所なのだから。
神樹ユグドラシル。
ソレが、嘗て此処に住んでいた主の名。
恐ろしくバカみたいな理由で、悪魔としての在り方を捨てた馬鹿野郎だ。
残留思念を残す程の馬鹿な理由は「恋」や「愛」と言うモノだ。この馬鹿げた大きさの切株の中にあるこの場所から見える外には、一本の枯れた梅の木が一本だけ其処に取り残されたかのように残っている。
樹が木に恋をした。
だが、その樹故に木の寿命を縮めてしまった。何とも馬鹿らしい話だ。木よりも強い樹、更に言えば神樹なのだから…弱い木達が枯れてしまうのも当たり前だろう。
「だから、此処には他の悪魔達は近寄らないんだけどね」
強かったのだろう。大いなるモノだったのだろう。
その残り香が妖精を遠ざける。本来なら友好的な関係なのだが、此処だけは違う。
「梅が香に、追いもどさるる、寒さかな…ね」
春は恋の季節と言うけれど、その恋は叶うモノなのか…疑問しか残らないわ。
季節が変わる様に、心も変わる。
特にこの国は四季がはっきりと分かれて居るんだから、少し考えれば分かると思うんだけどなぁ
そんな事を考えてしまう。
「何時か私も…」
アギトと離れてしまうのだろうか? いや、人間のアギトが離されてしまうのか…
「その時、私は何を思うのかしら…貴方になら答えられる? ユグドラシル」
とうの昔に消え去った残留思念が其処にあるかのように話しかけて見た。答えは返って来ない。
久しぶりの隠れ家は、どうやら私をセンチメンタルにしてくれたらしい。
「はぁ…昔に戻ったみたいで腹が立つわ。さっさとアギトを呼んでこよう」
そう言い、その場を後にする。
異界を飛び出ると、【ダイン】級の火炎が私の横を通り過ぎて行き、川の近くに即席で掘られた様な溝にに着弾。中に入って来ていた水を蒸発させて白い靄を作りだした。
「お~…今のでも多いのか。もうチョイ少なくしよう」
取り合えず犯人の頬に体当たりしてやった。死ぬかと思ったわ!!
はぁ? 自然現象と同じ原理? そんなんで普通は出来ない事が出来て堪るか!!
Side out
自然現象を真似して魔法の真似事したら怒られた。理不尽だと思う顎です。
焚火あったけぇ。適当に造った温泉気持ち良い。
「で、説明しなさいよ」
「いや、それよりも何で服脱げるん?」
あれ? 衣服とかも体の一部じゃ無かったの?
「? お風呂に入るなら服は脱ぐ。常識でしょ?」
「そう言う意味じゃなくてね」
「冗談よ。結局は悪魔の体はMAGで出来てるの。正確には核と成る部分から情報が流れて体を構築してるのよ。だから、衣服に限っては自由よ。流石に武器類は無理だけどね。それよりも、自然現象の真似ってどういう事よ?」
「ん~と、つまりはMAGってのはつまり感情のエネルギーな訳でしょ? 正確には感情の起伏に因って揺り動く生体磁気…いや、コレも正確じゃないかもしれないけども。まぁ、そう言うモノでMAGが在るからその存在は証明されている。この世にあるモノなんだから恐らく粒子とかが有るんだろうなぁと仮定した。此処までOK?」
「…まぁ、何となくわかる」
だから、思いっきりMAG同士を擦り合わせて見た
「いや、火が出るわ、雷が出るわで魚が浮いて来るし余熱で服乾いたし…命が助かった!!」
「アホ!! 普通死ぬわよ!!」
「だから、自分が出せる最小限のMAGを放出してその場に留めて、その中からチョットづつ掬い取ってやってたんだけども…戦闘には使えないね」
手間が掛かり過ぎる。
「…もう良いわ。ソレを早く的確にするのが術式よ。今度私の秘密の場所に連れて行って上げるから其処で練習しましょ。」
(じゃないと危なすぎて見てらんないわ)
何だかなし崩し的に魔法の練習が出来るぞ、やったね!!
「まぁ、今は…」
後ろに仁王立ちしているお姉さまを何とかしないといけないんですがね? ハハッ
「顎? 申し開きは有りますか?」
「命の危機を感じたんです?」
「何で疑問形?」
絶賛俺の危険が危ないんだよ!!
謝ったら許して……貰えないんだろうなぁ
お尻百叩きはリアルにキツイと言う事を身を持って理解した。