木枯らし、壁が軋む痛い程に冷たい風が吹く。
どうも、雪が降り始めました。火を焚いても全然温かく成りません。顎です。
MAG式魔法のぶっつけ本番練習みたいな事をしたらお尻を叩かれました。痛い。三日ほど腫れたよ? 座れなかったよ? 地獄だった。
夜にベルがこっそりディアを掛けてくれなかったらヤバかった。
俺が余りにも動けなかったから見かねた桔梗さんがオモイカネと言う悪魔を出して回復してくれたけど…見た目がメチャクチャグロイ。いや、引くほどでは無かったけどさぁ。見慣れてるし。
まぁ、そんなこんなで私のお尻が腫れあがったのが二カ月ほど前でして…師走でございます。
「さて、今日は悪魔の種族について話しましょう」
「はーい」
講義をする前にそのグロイ見た目のオモイカネさんをしまって桔梗さん!!
「ソレデ、私カ」
「はい。それでは顎、私の仲魔のオモイカネですが種族は何でしょうか?」
そんな当たり前の事聞くなよ。誰だって知ってるぜ!!
「天津神!!」
「……フゥ」
え?
Side 桔梗
溜息しか出ない。
「へぇ…じゃあ、スサノオって一柱だけど二柱居んの?」
「イヤ、ソレモ正シイガ正確ニハ一柱デ合ッテオルヨ。側面トデモ言エバ良イノダロウナ。私ノ名ハ『オモイカネ』ダガ呼ビ方ニハ様々アル。ソレト同ジダ。全クノ別物モ要ルガナ。デハ童ヨ、先程オ主ガ言ッタ『スサノオ』…コレノ種族ハ天津神デモ合ッテイル。ソレトハ違ウ種族トシテ言い変エルノナラバドウナル?」
顎に対してではなく、自分の人に教える能力の低さにだ。
「ん~…英雄、破壊神に…地霊いや精霊?」
ああいう風にすれば予想以上の答えを引き出せる。考えさせる事が出来る。ただ、間違いを指摘するだけでは無い。何と未熟な事か…
(今度からは八意思兼神様と一緒に行おう。MAGは顎から貰えば良いだけですし)
監視の目を誤魔化すにも丁度いい。
生体MAGとは命だ。ソレを多量に取り出し奪う…様に見えるだろう。
そんな事を考えて居ると、機嫌の良い八意思兼神様の声が聞こえた。
「ハハハハハ!! 良ク其処マデ考エヲ発展サセラレル物ダ。地霊否精霊カ。確カニ、スサノオ殿ハ暴風・嵐ノ神デモ在ル。間違イデハナイ。シカシ、童ノ言ウ種族ハコノ国元来ノ識別ノ仕方デハ無イノ。コノ国デハ蛮力ト言ウ属性ニ成ル」
「そんなの、合ってれば大して変わりないわよ。実際に私が教えた方の方が分類が細かいし解りやすいじゃない」
「いや、うん。ベル、チョット黙ってような。Lvの差とかいろいろ考慮して」
「ヨイヨイ、己ガ知識ニ自信ガ在ルガ故ノ発言。己ガ未熟ヲ受ケ入レル事ガ出来レバ尚良イノダガナ」
流石は知識の神。器が大きい。
「んなもん当たり前でしょ? 異能を使わずにエレキテルだっけ? そんなモノを生みだす事が出来る様に成った…まだまだ及第点だけどその先を見据えていけるのなら人間も大したものよ? 昔なんて本当にアレだったんだし。まぁ、今後の頑張り次第でしょ人間は。」
何故したり顔なのかが良く分からないが、やはり変異劣化分霊…劣化する前はそれなりに高位の悪魔だったのだろう。
「いや、人間に其処まで求めないで? どの道やってる事は余り変わらないと思うから」
そして、顎は何故か重圧を感じるのだろうか?
(言えない…百年とちょっと過ぎても原油に依存してる上に牽制のしあいで、碌にエネルギー問題を解決できてないとか…宗教問題で阿呆やらかしてるとか…その前にもうエレキテルって発明されてんの? ん? あっ、江戸時代のヤツだっけか?)
「ソウカノ? マァ、期待セズニ見守ルノモ神々ノ勤メデモ有ルカ…。所デ顎ヨ、オ主ハ他ノ仲魔ハ作ラナイノカ?」
「…いや、異界にいけないし」
「そうよねぇ、少なくとも近接型か魔法攻撃か壁が出来るのが欲しいわ。最低でも壁役。回復も魔法攻撃も出来るけど私じゃ最低限だし」
…丁度良いのかしら? あの子がMAG式魔法の練習をした日に随分と笑わせて貰ったと管を更に渡されましたが…
確かに、あのピクシーが言った様に壁に成る悪魔は欲しい。あの子の安全の為にも壁役は必要ですが…しかしLvの問題もある。
「解りました、冬が過ぎたら一つ低級の異界に入る事を許可します。ただし…まだいけると思った時点で引き上げる事。逃げる事を生きる事を大前提に考える事。出来ますね?」
「はい!!」
元気に返事をする顎を見つめながら想う。
(それまでに…知識を詰め込んでおきましょう)
冬は勉学漬けの日々が始まる一日前の事だった。
Side out
やっほー、ベルです。山村の冬は寒い。ピクシーだって環境に負けるわよ。アギトの服の中が温かい。
冬は桔梗がアギト抱きしめて寝ています。
(そうでもしないと凍えるわよねぇ、子供は)
今更ながらにアギトの置かれている環境が悪いと言う事に感心してしまう。
本人にそれとなく聞いてみたが、本人もソレを自覚している辺りがおかしい。なぜ怒らない。なぜ理不尽に心を乱さない。
なにこいつ、聖人の卵なの? と思いもしたがソレは絶対にないと断言できるので、ただ単に何とも思って居ないか、受け入れて居るだけなんだろう。
お互いにそれ程変化は無く、一カ月が過ぎた。外ではビュンビュン風が吹き雪が積もっている。
桔梗が居なかったら死んでるわね。アギト
それにしても、本当に此処の人間は何を考えているのだろうか? 数百年前なら…いや、今でもだと思うけどアギト見たいな存在は疎まれるんじゃなくて逆に神のご機嫌取りとかで有難がられる筈なんだけど。
私が知る昔だと、神官のエリートコース行きな上に、贅沢し放題の女抱き放題な感じなんだけどなぁ
(その辺りどうなのよ?)
(今デモ変ワラヌヨ。タダ…)
念話で話す相手は何かを悲しむように続ける
(異能ノ事ガ間違ッテ伝ワッテオル。悲シキ事ダ歪曲サレテ伝ワルト言ウノハ)
(まぁ、やっぱり人間だからね。特権って言うのにしがみ付いた結果何でしょうけど…)
その煽りを喰らっているのだから本当に笑えない。
本来ならば異能と言うのは術式を整えても真似する事が出来ないモノの事を指すのだ。
(嘗テ嵐ヲ呼ブ異能を持ッタ巫女ハ豊穣ノ神ニ愛サレタ、戦ノ神ニモ魔法ヤ技法ニヨル嵐ト異能ノ嵐デハ格モ、規模モ違ウ)
(当たり前ね。)
今で異能って言うのは手っ取り早く行ってしまえば個人で行える属性攻撃の事に成ってる。まぁ、異能っちゃ異能何だろうけど…ブッチャケ魔術とかそう言うモノの総称に成ってる。
一般人からしたら異能何でしょうけど、悪魔からしたら異能じゃないのよね。唯の技術なのよ。
(昔の異能って言ったら町一つを滅ぼすモノから…ってピンキリも激しかったけど、洒落に成らないのも多かったわよね)
(然リ。触レタダケデ脱穀出来ルト言ウ異能ヲ見タ事ガ在ルガ…異常ダッタノヲ覚エテオル)
そりゃ、脱穀した後のカスが残らないと思ったら実はその部分が亜空間に跳ばされていたなんて誰も考えないわよ。つか、普通出来ないわよ。
(ソレデ? 本題ト遠ザカッテイル様ダガ…)
あっ、そうだった。
(ごめん。アギトの事なんだけどさ…貴方、『心の海』を知ってる? )
(フム…ソレハドチラノ意味デカ?)
(両方よ)
(汝ガ本体ハカナリノ高位ノ悪魔ノ様ダ。質問ニ答エヨウ。知ッテイル、否、神ト崇メラレルモノナラバ知ラナケレバオカシイ。)
(なら、教えて…どうすればアギトは招待される?)
今のアギトには兎に角、手が足りない。ソレを増やさないと私を含めて詰む。
(…何カ大キナ試練、ソレモ悪魔関係者ヲシテ異常ト認識シナクテハナラナイ事柄ノ核ニ居ルカ…)
(自分で見つけ出して引き出すしかない。普遍的無意識群の中で尚主張出来る自我が必要って事ね)
思った様に行かないわねぇ
(スマヌナ…)
(良いわよ。貴方が謝る必要はないじゃない。契約している訳でもないし)
(ワタシモ気ニイッテイルノダ。アノ童ハ…古イ、本当ニ古イ時代…我等ガ当タリ前ノ様ニ世ニ居タ時分ノ…童ニ良ク似テイル)
そうなのかしら? まぁ、でも…人懐っこい、じゃなくて悪魔懐っこいかもしれないわね。
(そうなの? まぁ、私からすれば好ましい人間では在るけど)
(何、世ニ出レバ解ル…豊穣神ニハ気ヲ付ケルヨウニ。攫イニ来ルカモ知レヌ)
何でそこだけ念を押すのよ?!
(ハァ…チャネリングでも試してみようかしら? )
Side out
葛葉顎は夢を見る。
アギ・スプリングフィールドは夢を見る。
まるで、箒星に乗ってしまったかの様に止まらない記憶と記録の流れの中で温かいモノと冷たいモノを感じながら加速する。
吸血鬼が居た、自動人形が居た、殺戮人形が居た、半魔の狙撃手が居た、未来人が居た。
悪魔が居た。精霊が居た。多くの仲間が居た。家族が居た。
鬼が酒を持ってくる。悪魔が書を書き始める。嘗て神と呼ばれたモノが歌を歌い、精霊が躍る。
幻想の中に有る筈の命が高らかに声を上げ、宴を盛り上げて居る。
ソレを壊した記憶と記録が眼前に迫る。
心が軋む。
魂が叫ぶ。
剣の侯爵が放つ一閃が、自分の頭を断つ。
だが、それだけだ。中身は既に退避し、分かたれた頭部が瞬時に再生した時、中身は元に戻った。
悲痛に歪む仲間達の顔が見える。家族の顔が見える。
死んでやれれば良かったのかもしれない。
でも、死んでやれない。
自分の事で、相手を悲しませたくない。何よりも生きて居たい。
そんな夢から覚める瞬間ソレと目が在った。
「何だコレ?」
一月も半ば、雪に埋もれた外には余り出たく無いなぁと思いながら吐いた寝起きの言葉は何とも言えない感じだった。
冬の山村には食料が乏しい。文明開化と言う時期にて帝都ではモダンが流行っていようと、田舎には関係ない。しかも、隠れ里ともなれば徳川幕府の頃とそう変わりはしない。
言い過ぎかもしれないがそう言うモノだ。
薪は夏から集める。干し芋、芋蔓で作った荒縄、餅、干し柿、干したきのこ。
基本は乾物、ソレに味噌や醤油等の調味料。贅沢をすれば干し肉と言った所だ。
だが、この隠れ里は普通の隠れ里では無い。裏稼業を生業とする者達の里である。金は在るのだ。在る所にはだが。
里長が纏めて買い、ソレを良心的な値段で村民が買う。
仲間意識と言うのは強く在るのだ。例外を除いて。
その例外と言うのが顎なのだが、例外と言うのはあらゆる意味で例外と言う事を忘れてはいけない。
「鍋が出来たぞ」
「ヒャッハー、獅子鍋だ!!」
(あれ? カキタウラじゃないのコレ?)
食べてる物まで例外と言う事は本人は知らない様だが。
「この度はお招きいただき…」
「良い。したくてしている事だ。この童には普段から手伝いをして貰って居る。」
そう桔梗に言い、杯を煽るのは多田羅目鎚丸。この隠れ里にある異界の本来の管理者でもある。
ソレを知る桔梗は、何故今まで顎が無事だったのかを知った。
簡単に言えば、この多田羅目のお気に入りなのだ。葛葉顎は…ヤタガラスに属する…否、この国のサマナーならばその名を知らないモノは居ない。
悪魔を使役する管を作る数少ない職人の内の一人であるのだから、大量生産品と違い個人に合わせた高性能の管を作る数少ない職人の一人にして…
(転生体…いえ、転生体を喰らった人間。多田羅目…漸く思い出しました。嘗て葛葉四天王一角を担った悪魔召喚士。十三代目と唯一交友の深かった男)
紅蓮を飼いならし、風を共に歩む者。
「昔の事だ」
「っ…ご無礼をお許しください。此処は嘗て『麻倉』の修錬場だったのですね」
嘗て、麻倉と名乗る術師の一族が居た。各式は低く陰陽連にさえ入って居ない、吹けば飛ぶような弱小勢力が在った。
上に立ちたいと言う欲が在った。欲が有れど、場が無かった。機会も無かった。故に、場を作る事に一族の全てを賭けた。
嘗て、霊峰富士が噴火した際に飛ばした巨大な岩。唯の岩では無い。この国の龍脈の中に有ったモノだ。ソレを古い資料から割り出し数十年の時を経て掘り出し、この山に埋めた。
岩に蓄えられた自然のMAGを山に行き亘らせ、異界を作り易く、山の小さな植物から選定し出現するだろう悪魔の種族を限定した異界を作り上げた。
既に一族は一人を残し滅びたが、その呪法は今もヤタガラスの中に残っている。異界送り、これを更に精密にしたのもこの呪法の応用が在ってこその物だった。
故に、この男は葛葉でも、ヤタガラスの中でもある種の特別なのだ。
この里が未だに機能しているのは、何か在ってもこの男の膝元でなら瞬時に解決してしまうからだろう。
(この里自体が餌…あの里長の野心をそのまま野放しにしていると言う事ですか)
今ならば良く分かる。今はもう居ない妹達が何故、新たな居場所を求めたのか…
視線が無意識に顎に行く。
供の妖精と肉を頬張りつつ雑穀飯をかき込む姿は年相応の幼児で、崩れる表情には何処か面影が在る。
(この子に見せたくなかったのね…)
策謀など…子供には見せたくなかった。そして同時に…今は此処に居ないあの娘への責任も有ったのだろう。
「…『新牧』の娘は来春に家に戻す事が決定している。今は別の葛葉の者が一緒に居る」
「それはそれは…あの里長は反対したのでは?」
「アレは典型的な小者だ、直に自滅する。里事か一族事かは別だがなアレは欲に目が眩んだ典型だ。老い先短い老害はただ惨めに死ぬ。」
「すみません今はそういう話は…」
ちらりと顎の方を向くと食事を既に食べを得たのか大の字に成って寝て居た。子供は寝るのが早いと言うが…無理をさせ過ぎたのだろうか?
「すまんが、一服盛らせて貰った。害はない。朝には普段よりも元気に成って居るだろうさ。」
「はっ」
強烈な威圧が桔梗を包んだ。
「俺は、この童を気に入って居る。MAGやら性格やらではなく。この童の魂の在り方をだ。」
「…」
言葉が出ない。体の芯まで凍ってしまった様なそんな感覚が体を犯している。その所為か、多田羅目の言葉は驚くほど素直に頭に入って来た。
「この山の裏に異界が在る。少々荒い場所だが、今の童と其処の劣化変異分霊でもギリギリ生きて逃げ帰る事が出来る場だ。巧くすれば悪魔の一、二匹は殺して帰って来れるかもな。童にはその異界を使わせろ、そしてお前は手出しをするな。解らねば…」
童を隠そう
隠そうと言う言葉に全身が粟立った。
「解りました。」
神隠しなぞさせて堪るモノか。確かな思いが沸き上がった。
そして、理解してしまった。
昔の自分が気づいてやれなかった者が、正に顎なのだと。
顎とは正に過去、自分の腹から流れてしまった命と同等の存在であり、これを護り育てるのが今の自分が出来る事で在り、したい事なのだと。
桔梗は自分が成れなかった物に成った事を理解した。
下げた頭を上げ、そっと顎を抱き上げる。
軽い癖に重い。あどけない寝顔を覗き見ると胸の内が暖まった。
その背に多田羅目は声を変えた
「あぁ、童に言って置けMAGに形は無い。とな」
「必ず」
タンと音を立てて閉まった戸から目を放し、パチパチと音を立てる囲炉裏の炭を足す。
「あぁ、よく似ている。人で在ろうとして、人で在れ無かった…奴に良く…似ている」
懐かしいモノを思い出しながら多田羅目鎚丸は薄く笑みを作った
次回。初めての異界、まぁまて、まずは話し合おうにご期待