「ぷぁんぱかぱーん」
脳天気な声が響く。なんであんなに頭の中が空っぽみたいにできるのかしら。我が妹ながら腹立たしい。
高雄は頭を振った。いけないいけない。相手は純粋な娘よ。
しかし毎度毎度真横で聞かされるとイライラもしてくる。金剛四姉妹も長女が、あんなのだから、他の三人のストレスは高そうなものだが、特にそんな話は聞かない。
なら、私だけが? ああ、妙高さんのところが羨ましい。あぁ、でも三女があれか。だいたい飢えた狼なんてあだ名を貰ったのは、外国に行った時に羽目を外して男を食い漁ろうとしたからなのに。
高雄は妹の「ぷぁんぱかぱーん」を聞くたびに自動思考でいつも嫌悪感に浸される。
ーーあぁ、だめだめ。せめて提督の前くらいしっかりしないと。
「どうした、高雄さん。具合でも悪いのか」
「い、いえ、そんなことは」
「そうか、それなら良かった。なに、秘書艦と言っても気負わなくてもいい。実際は私の話相手になって欲しいだけだよ」
提督は組んでいた手指を解いて立ち上がった。
「紅茶は嫌いだったかい」
「そんな、私がお入れします。これではあべこべです」
提督はさわやかに笑いながら行動で拒絶を示した。
「秘書鑑制度が持ち回りなのは、ある意味君たちのストレスチェックでもあるんだ。だから今日は仕事を忘れてゆっくりして欲しい」
そうは言われても何だか落ち着かない。
そうだ、ストレスチェックと言われるならば、お言葉に甘えて相談を聞いてもらおう。
「紅茶でよかったかい」
「はい、提督が入れてくださるものなら何でも」
「そうか。まだ固いようだな。何かグチでもいいから言ってくれ。その気があるならアルコールもある」
チでもいいから言ってくれ。その気があるならアルコールもある」
時々この人の冗談は本気かどうか分からないときがある。だが、せっかく言ってくださるのだ。何か話してみよう。
提督がマフィンを載せたティーワゴンからソーサーごと紅茶を預かると口火を切った。
「なら提督、一つご相談が。最近小さいことですが悩みがあるんですけども」
自分用の紅茶を入れている提督が背中を向けたまま応える。
「なんだい」
「提督、ご相談とは愛宕のことなんですけど」
ぎくっという擬音が宙に見えた気がした。
「な、なんだい」
振り向いた提督はうわずった声で返す。紅茶を持った手が間違いなく震えている。
おかしい。明らかに挙動不審だ。
提督は咳払いをしてソーサーごと紅茶をテーブルに置いた。
「愛宕のことで悩み事か。それはどんな」
まさか・・・・・・。いや、いくら愛宕が能天気で開放的だからとはいえ・・・・・・。
いやな予感がして立ち上がった。
「失礼します」
ツカツカと提督の机に向かう。
「あ、そこは!」
この反応、間違いない。
イスを引っ張って机の下を見た。
「ぷぁんぱかぱーん。高雄ちゃん、こんにちはー」
机の下にいたのは放漫な胸をした我が妹だった。
そして放漫な胸は拘束具賭しての機能しか果たさない軍服を一切まとっていなかった。
いや、ストッキングとショーツだけは身に纏っていた。そして口元には乾いて半ば固形化している粘液の跡があった。
「提督、これはどういうことですか」
振り向くと怒気を一切交えずに感情を殺して尋ねる。笑顔を浮かべてはいるはずだが、提督の笑顔は張り付いたように固い。
「んもぅ、高雄ちゃんがそんなだから、私の方からお願いしたのよ。『高雄がイライラしてるからストレス解消をお願いって』 私の方が我慢できなかったけど」
もう限界だった。どうしてこの娘は何も考えずに生きていられるの。
「私は失礼しま」
開いた口の中に愛宕の指が入ってきた。
「な、なひを」
指が舌を掴んで話すに話せない。
「高雄ちゃんもイライラし過ぎですよ~」
「は、ははひへっ」
妹を引き剥がすとそのままの勢いで執務室の扉のドアノブを握った。
「では失礼します!」
~ ~ ~
執務室には提督と愛宕だけが残されていた。
「あれで良かったのか」
「あの娘がイライラしてたのは、ここ最近提督の匂いを嗅いでなかったからだし、高速修復剤も使ってなかったからだと思いまーす。だから、さっき提督の精液、お口に入れてあげたの。採れたて新鮮なのを。それと、夕張に頼んで仕込みは上々」
「ありがとう。いつも迷惑をかける」
提督が上着を掛けようとしたが、愛宕は受け取らなかった。
「できればぁ、お礼は体で払って欲しいなぁ」
ため息とともに提督はジッパーをおろした。
「高いぞ」
「ぷわんぱかぱーん。いい香りぃ」
愛宕は提督の腰にむしゃぶりついた。
〜 〜 〜
重巡である高雄は自分だけの部屋が与えられている。いや、激戦を生き抜く艦娘なら自室は持ってもよいのだが、駆逐艦や軽巡は同室を望む者も多い。
高雄は自分の密かな趣味のためにも自室を必要としていた。
それは、肛門を使った自慰行為だった。いつぞや曙を呼び出そうとした時に、部屋の扉が開いていたので、悪いとは思いながらも中を覗いてしまった。
中を覗いてしまった。
すると中には下半身を裸にした曙が腰を上下に揺り動かしていた。
それを見てからしばらくの間、高雄はその光景が頭から離れなかった。
葛藤と逡巡の後、高雄は夕張に頼んだ。
「曙が使っているのと同じものを頼む」
それが今高雄の目の前にあった。