万物は流転する
昨日という日でさえ今日を保証しない。
当たり前のことなのに誰かに教えられるまで忘れている。
いつかの決意もいつかの教訓も失われてしまう。
僕の人生はそんな出来事の繰り返しでしかなかった。
朝
いつもの朝
遮光カーテンの隙間から夜明けを確認する。
そうしてしわの寄ったシーツからそっと体を起こす。
となりで狸寝入りしている娘を起こさないためだ。
最近になるまで気がつかなかったが、今更この習慣をやめることはしなかった。
服を着て朝の支度をしなくては
なぜなら家主に負担をかけたくないからだ。
たたでさえこの娘の家に居候をしているのに
しかも昨年ようやく歩けるようになった娘
なにもしないわけにはいかなかった。
そう思って衣類を身に纏う
想いの矛先はベッドの主
ふと視線を移す
「・・・」
目が合った。
「・・・」
長い付き合いでわかる。
これは相手してほしいということだ。
朝の挨拶をしよう。
「おはよう。はやて、」
「・・・」
どうやら違ったようだ。
”キスはどうした”
そういうことだったのだ。
お互い思春期だからだろうか何度しても飽きないもので
僕が上、彼女が下
この状態で互いに優しく唇、いや口を重ねた。
服を脱いで朝の支度をしなくては
いつか得たはずの教訓だった。
こうして教訓を忘れて時を過ごすのが僕の日常。
今日こそは
と、いつも思うのに彼女を前にするといつもこうだ。
そして、このような日常でさえ何かをきっかけに流転するのだ。
何度も経験してきた。
ただ、
”この日常だけは”と強く思う。生きてきてこんなことはいままでに無かったはずだ。
知らない感情が生まれているという認識がある。
驚きとともに完全に自発的な感情と行動をはっきりと認識できた。
やはり、彼女にはかなわない。
”愛している”
そうはっきりと言える。
この日常だけは失いたくない。この生活を守るためならばなんでもする。
苦手な雷にだって逆らえると胸を張って宣言してやる。
ー1階リビングにて
清々しい朝
軽く運動を済ませて1階へ降りる
いつもの朝
ドアの前に立つと朝の番組が聞こえてくる。
愛に溢れたいつもの朝だ。
もっとも湿ったパンツが張り付くので清々しさはパンツには及ばないし
あふれた愛は現在家主が起動する洗濯機に揉まれているのだろう。
どうやら僕が最後に起床したらしい。
彼女の家族は全員リビングに揃っている。
「おはよう。リイン」
朝の挨拶だ。
「ああ」
銀色の髪をした彼女はソファーで求人誌を読んでいる。
いろいろな都合上パートタイムを希望するらしい。頑張れ
「おはようドスケベピンク」
朝の挨拶だ。
「精が出るな。マラ野郎。」
同じくソファーの新聞の向こう側のピンク畑から木霊した。
そう、朝の挨拶だ。
「おはよう。ちびすけ。」
無視された。
朝の挨拶だ。
「おう」
「ああ」
犬の挨拶だ。
キッチンで働くのが性に合っている僕は
家主の隣で支度をする金髪美人の臀部を見つめる。
そうだ。挨拶だ。
「おはよう。シャマルさん。」
「ふふ、今日も配膳お願いします♪」
罪悪感で目を合わせられない。
頭の中ではひたすら臀部を叩く僕がいるからだ。
「わかった。いま手伝う」
「ありがとうございます。」
間髪入れない応答は、まるでこちらの考えを見透かしているようでいまだにこの人が得意ではない。つい、顔が熱くなる。
「これ持ってくぞ」
「ほなお願いな」
彼女と暮らせることをとてもうれしく思う。
この朝はいつもの朝のようでいて、その実僕が最も満たされた朝だった。
僕の望みが満たされたと実感できるとても平和な世界だった。