※この作品はR-18です。

消し炭の男   作:Christmas

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衝撃の八神 -1-

俺は与えられることが好きじゃない。

知らないところで与えられるなんて特に嫌悪する。

海鳴に転入する前に事務手続きを済ませたクソグレアムには猫のねーちゃん経由で抗議の手紙をしたためた。嫌われてしまえばいい。

 

入れ込んだ途端にあざ笑うように奪われる気がして大嫌いだった。

一方的に話しかけてくる車椅子の少女の笑顔には虫唾が走った。

お前も奪われたくせに

 

 

ー境内奥

 

早朝

鍛錬はほぼほぼ順調に進んでいる。

槍裁きは爺さんが朝まで見せてくれたこともあったので目に焼き付いている。

流れるようなあの動きをトレースするための足運びにようやく近づく目途が立った。

今の俺は踏み込みで立ち止まらない。

極めればごく自然に間合いを詰めることができるだろう。

 

魔力についてはクソ木偶野郎が手紙で指導してくるお陰で無理せず伸ばせている。

力を得るにはあの尻男さえも利用する。

いい匂いのする猫のねーちゃんが俺を可愛がってくれることは関係ない。

復讐のためならば、ねーちゃんの尻を凝視するあいつをこき使う

それが俺なりの覚悟だった。

 

季節が廻り、早朝には夏の暑さが掻き消えて寒さを覚える時期になった。

 

槍や魔法とは違って行き詰まりのある分野が2つ

 

チャクラは諦めた。いろいろと試したがチャクラが何かわからなかった。

インド的なチャクラのことかと思ったら夜に金縛りに遭った。

トラウマスイッチでしかなかった。

 

稀少技能の制御を試した。

初日に木の葉を2枚滅却した。

その日は放課後まで教室で爆睡した。

 

燃費が悪すぎる。

感情が高ぶっていないと強い力が出ない。

しかも燃やすものを見極める技術が無ければ空間ごと消滅させるのだ。

木の葉を滅却するのに空間を消失させたのだった。

 

方針を変更した。

まずは燃すものと燃やさないものを認知すること

認知の次には燃やし分け

燃焼の度合いの調節もしなければ魔力のタンクがあっても数を相手取ることなんてできなかった。

 

万能とは程遠い力だった。

復讐の心と村と精霊への誇りが無ければとっくに投げている。

あの村で育てられた俺の復讐だ。

村の力で復讐をする。

そうして得られた首級だけが良い首級だ。そう思えてならなかった。

 

 

ー放課後

 

授業も終わって軽くなった体で帰宅する。

授業はなるべく寝て過ごしている。

学校で勉強はしていない。

学習塾で教えられればそれで十分だった。

事務手続きは書類を手に入れて、木偶に根回しをすれば問題なく通塾できた。

 

今日もご飯を買わなくてはいけない。

学校にお金を持ち込めないので急いで帰宅する。

 

前の家とは違う、

両隣の家に遠慮するかのように

敷地に割り込むようにして建てられた縦長の一軒家

まるで工場で生産された家をそのまま敷地に放り込んだような角ばった造りの家

それが僕の住処だ。

 

施錠を忘れた玄関の扉を開けると、変な臭いが立ち込めた。

帰宅した俺を鍛錬に使う道具や学校から持ち帰ったガラクタが出迎える。

中央には物がない。中央は通路だ。

 

時間をかけられない。

遅くなれば人が多くなる。

優しく声をかけてくる女性が嫌いだ。

心配したように世話を焼いてくる店主が嫌いだ。

商店街へ行けば異質な人間に対して哀れみと心配の目線で心をやられる。

 

俺は一人で生きる覚悟はできている。

 

親しくなって

また奪われるのが嫌だった。

 

いつか魂を徴収されるかもしれない。

中途半端に親しくなって相手を傷つけるならば親しくなるべきではない。

 

だから身を紛らわすためにスーパーへ向かう。

ここなら目をぎらつかせたやつばかりだ。

俺のことなんてこれっぽっちも気がつかない。

 

店に入ると前まで入り口に積み上げられたペットボトルたちは撤去されていた。

今日は鍋物のスープパックが大量に並べられている。

どうやら季節によって商品の配置を変えているらしいことを知った。

 

この店では口に合う弁当はすでに見つけている。

入って買ってすぐに帰る。それだけだ。もはや習慣だ

 

それに、この時間ならあいつに会うこともないはずだ。

 

「またそれかいな」

 

いた。やつだ。

車椅子にかごを乗せた同年代の女

柔らかそうなセーターを着た女

特徴的な方言でキャラを作る女。こいつが嫌いだ。

 

「バランスよう食べな大きくなれんで?」

 

無視だ。

 

「自分うちより小さいんと違う?」

 

無視だ。余計なお世話だ。

 

「なあ?」

 

おそらく面識は俺の方が先だろう。

いつだったか暗い顔して野菜コーナーを行ったり来たり。

野菜を見つけては思い出したように暗い顔をする女だった。

 

一目でわかる。

こいつも奪われた。

 

何を望んだかわからない。

足で済んで幸運だったろう。

より多くを失う日がこいつにも来るかもしれないが。

 

あの日弁当を購入して店から出るときにも

依然この女は野菜コーナーで立ち尽くしていた。

失ったばかりのような惨めな姿は、俺の鍛錬への入れ込みを一層強くしたのだった。

 

いつからかこいつは俺を見つけると話しかけるようになった。

同じ境遇だとでも思ったのだろうか。

ときには楽しそうに、友人に接するように

最近は今日のように心配そうに

当然、すべて無視した。

 

手を変え品を変え

こちらの関心を引こうとしているのだろうがその手に乗るつもりはなかった。

 

どうせまた奪われるのに。

 

「黙れ。俺に話しかけるな。」

会計するために速足で去る俺に

 

「待ち!」

 

「ゴェッ⁉」

 

こいつは後ろから車椅子でチャージを掛けた。

つんのめった俺は前を歩くばあさんを巻き込まないように体幹を地面に押し付けて無様に転ぶ。

顔から行った。意味が分からない。

転ばされた俺はアホ面構えて見上げることしかできなかった。

この町の人間に害を与えられるのは初めての体験だった。

 

「自分、」

 

「そのかっこ、、、虐待されてるやろ?」

 

ふさっふさの髪

前髪を切り落とせばそれでいいのでは?それを実行したのだ。

密度を上げられた頭髪は行き場を無くして不自然に盛り上がっていた。

冷えてきた季節にも関わらず、上半身は首が伸びたシミだらけのシャツ1枚。

まだ着れるから服としての機能は問題ないだろう。そう思って着続けた。

先を見越して買った、ダルダルのジャージは裾を結んで履いていた。

成長したときに買い直すよりも同じものを着ていたい。

服装のバランスも戦術を考えると手放せなかった。

だから

 

「どこが?」

 

自分が否定されたように感じて

返事をしてしまった。

 

「!その恰好がや!まぬけ!そんな恰好しとる子供がどこにおんねん!」

 

「!」

 

衝撃だった。

知らなかった。

この格好をの人間がいないのは皆おつむが悪いから。そう判断していた。

俺は特別な才能を持つから誰よりも早く実行している。俺はすごい。そう誇ってさえいた。

 

これくらいはいいだろう

と世間を甘く見ていた。

子供一人で買い物をすることが怪しいように

誰よりも汚れた格好で街をうろつく子供もまた怪しかったようだった。

 

かなわない

 

そう思った。女は俺よりも生活し慣れている。俺が知らない常識をどこからか取り入れて行使しているのだ。

恐ろしい女だ。

 

「それ置いてついて来ぃ!」

イラついたように女に指示された。

 

動転した俺は

「あ、ああ」

何もわからないガキのように従うのだった。

 

この日はこいつにいろいろ世話を焼かれた。

これを着ろこれを買っておけ

髪はどうしているのか?自分で切った?馬鹿か

すいません

その靴下は何日目だ。昨日は履いてない?馬鹿か

っすいません

ならばパンツはどうだ?無い?馬鹿か

ひぃ!すいません!

 

恐ろしい女だった。

虐待は弁明しないでおこう。

また怒られるかもしれない。

 

何が琴線に触れたのかわからないが

女は急に攻勢に出た。

人に慣れない俺にはとにかく従うしかできなかった。

 

 

ー海鳴 一軒家にて

 

あの後有無を言わさず俺を連れまわした挙句

飯ないだろ?食ってけ

そう言われた。

俺は親に叱られるなどと適当なことを言って怒られるのが怖かった。

虐待されている設定は長持ちしないことなんてわかりきっていた。

 

俺は他人の家には入りたくなかった。

ガキの管理する家ならばなおさらだ。

なぜなら家の玄関は変な臭いがするのだ。

まして水周りは酷いに決まってる。

家よりも大変なことになっていそうだ。

掃除しろと言われたら帰ろう。強化魔法で速攻で帰ろう。

 

ああ、この扉の向こうに入りたくない。

そう思っていた。

 

この家の玄関は、家とは違う。

散らかっていないし変な臭いはしない。

 

まるで家主が帰るのを待っているかのように

両親がいて、ご飯を作ってまっていて、子供を暖かく向か入れてくれる

そんな風景がしっくりくるようなきれいな玄関だった。

 

そんなはずはない。

玄関には靴が一足もないから。

 

この女は奪われたはずだ。

なのにそんな事実はなかったかのように生活していた。

俺は諦めた。

いつかの光景を直視するようで。

お前からこれを奪ったと誇示されているようで見たくなかった。

しかしこの女は、真っ向からあの絶望感に打ち勝ったのだ。その立ち振る舞い、この家の様子が何よりの証拠だった。

 

なんて女だ。クソッタレ

俺がビビるわけだ

 

当然、台所もきれいだった。

 

俺が手伝うことなど何かあるわけもなく

出された食事に手を付ける。

暖かい食事など久しぶりだった。

 

「なあ、自分なんで逃げとったん?」

 

食事を終えてから、

食器を洗いながら八神が問いかける。

 

「一人暮らしで寂しなかったん?」

 

いつかの教訓だった。

親しくなるためには踏み込むことを恐れてはいけない。

傷つけるかもしれないリスクなしに親交を持つことは叶わない。

 

「お前は」

 

「怖くないのか?また、無くすかもしれないんだぞ?」

少しだけ

踏み込んでみた。

怒られたら、謝ろう。

 

皿を洗いに苦戦しながらそのままの姿勢で八神は問うた。

「ほんならそのままがいいんか?」

 

それくらい何度も悩んだ。いつも通りだ。

「あんな思いをするくらいなら、最初から何もなければよかったと思うよ。」

 

「そんで塞ぎ込んでも失ってくだけや。自分から取りに行かなまた無くすで?」

 

つまりは

そういうことだった。

この女は現実と向き合ったうえで再び生きることを決意したのだ。

俺にはなかった自我の強さを持っていた。

だから奪われなかったんだろう。

どこまで奪えばこの女を壊せるのだろうか?

だからだろうか、柄にもなく甘えてしまっている俺がいた。

 

「たとえ1人でも、失うことを受け入れれば覚悟もできるさ。」

声が震えて格好がつかない。

こんな情けない姿をみられて恥ずかしいったらない。

 

「うん」

優しく続きを促される。

本当にかなわない

 

「覚悟はしたんだ。けど、怖かったんだ!幸せになればまた失って、そのたびにあんな思いをするのが怖かった!また、俺だけ生き残って」

 

ああ、畜生

女の前だってのに、、、

 

「俺のせいで誰かを死なせるのが怖かったんだ!!」

俺はついに抑えきれずに泣いてしまった。

 

辛かった。

本当は誰かに助けてほしかった。

憎しみは確かにあった。

しかし同時に寂しさと罪悪感で壊れそうだった。

幸せそうな家族を見るのがつらかった。

公園なんて最悪だった。

やっと歩けるくらいの子供が笑いながら駆け寄り、微笑みながら子供を迎える母親をみるのが辛かった。

いっそ俺なんていなくなればいいのに

と思い始めていた。

 

「俺なんていなくなってしまえばよかったんだ!俺なんて!チクショウ!」

 

「あかんよ」

 

察していたのだろう

八神は俺の頭を引き寄せた。

 

「君はここにいていいんよ?」

 

「!ああ、、あああっ!」

 

こらえきれず泣きついた俺を

今までつらく当たって

そのことについて一度も誤ったことのない俺を

八神は優しく抱きしめてくれた。受け入れてくれた。

 

「ひとりでは、無理や。でも支えてくれる誰がおったら、もう失わへんよ?助け合って乗り越えることだってきっとできると思うんよ。」

柔らかいセーターに包まれて

安心する俺がいた。

 

「だから、いなくなりたいなんていったらあかんよ?」

 

柑橘類のいい匂いがする。

堰を切ったように泣き続ける俺を

八神は洗剤で泡だらけになった手で抱きしめてくれた。

 

それだけのことなのにササクレ立った俺の心は救われたような気がした。

 

 

 

 

泣き止んだことを察したのか八神は一旦おれから離れた。

 

「風呂入ろか。自分臭いで?」

 

本当に、かなわない

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