世の中何事も裏がある。
事件事故の背景には必ず起点となる事象が隠れている。
前日のばか騒ぎ
取りだめの消化による寝不足
あるいは功績への嫉妬
ー第一管理世界 首都クラナガン
男は理想を信じていた。
治安を維持し、傘下の市民を悪から守る
その大義名分のもと、親友とともにキャリアを重ねてきた。
男と親友はいつからか袂を分かった。
男は現実の壁を越えられなかった。
志したのは地上部隊の装備の刷新と人員の補てんだった。
引き継ぎの利かない個人技能に頼った治安維持では守備範囲に問題があったのだった。
誰もが見て見ぬふりをする問題だった。
男は難問に諦めずに挑戦した。
武装の研究と検証を重ねた。
時には親友に愚痴をこぼしながらも懸命に改正案を練った。
ただ一つ男の頭に足りなかった事実があった。
それは予算の不足だった。
彼らの動かす予算は現場の人間から見れば、概算にバッファを足したとしても到底説明のつかない金額だった。
現行兵器の導入の陰には斡旋、製造、販売、教導、人事
これらの利権が予算をすっぱ抜いていたこと。
それを彼は想定していなかった。
彼は理想を信じて委員会へ改革案を提出した。
度重なる上司への懇願がようやく成果を結んだのだった。
男の提示した案は現行案とは比較にならない破格の提案だった。
現実は非情だった。
結果、それは嘲笑とともに却下された。
利権の根は深かった。
委員会は現行案に対して了承するだけでキャッシュバックがあるのだ。
勇気あるものはいるもので、改革案は数年に一度上がってくる。
サンダース夫妻も同様だったそうだ。
改革案が提出されるたびに彼らは退け、受け取る見返りにいやらしく笑うのだった。
現場からの悲鳴は彼らには届かない。
届くのは欲に汚れた金だった。
前回の改革案は確か下士官が準備を重ねて提出したものだったろうか。
現行案と比べていささか見劣りする文章のフォーマットの稚拙さを理由に目を通さなかったはずだ。
大笑いをしながら書き直しを命じた。
再提出された際には出典元のデータに信用がないことを指摘した。
現実味がない改革案を提出して委員会を停滞させたことを痛烈に非難した。
提出した職員と上司を呼び出し、 責した。
委員会メンバーはその晩ホテルで接待を受け、
彼らはおのおの気に入った女と部屋へと向かったのだった。
レジアス・ゲイズは現実に苦悩した。
委員会メンバーまで上り詰めさえすれば甘い汁を吸って生きていける。
昇進は無理でも子分になれれば十分に美味しい話しだ。
彼の周りはそう言った打算的な連中であふれていた。
改革案は失敗に終わった。
彼の改革案には委員会メンバーにとって旨みが無さ過ぎた。
現状を変えるには金が要る。
金を作るのは権力だ。
いつしか彼の正義はただ、のし上がることに終結した。
権力を手にして独裁的に改革を実行すること。
レジアス・ゲイズの方針はここに固まってしまったのだった。
ー数年後
レジアス・ゲイズは管理局の顧問団への恩を売る機会を狙っていた。
彼の標的は英雄ギル・グレアム
男が現職に就任する前から功績を重ね、自然と英雄と呼ばれ始めた職員だった。
どうせ現実を知らない甘ちゃんの癖に。
泥水を飲み続ける自分を非難しているようで疎ましかった。
彼は品行方正で優秀だった。
そんな英雄は顧問団や各委員会にとって面倒な相手だった。
近くには置けない危険な男だった。
彼の存在は体制の崩壊を導きかねなかった。
自然と次元航行艦でテロの内偵や次元世界の調査団への組み込みのような遠方で時間の掛かる任務を命ずるようになる。
そんな彼を失脚させれば男の評定はうなぎのぼりだ。
暴利をむさぼる連中にとっては英雄とは男のことを指すだろう。
そして男は親友から英雄の動きを聞かされる。
なんでも管理局員の絡む違法研究の可能性、そして調査への協力を受けたということだった。
男は衝撃を受けた。
管理局が違法研究を主導したことへ
ではなかった。正義組織などではないことはとうの昔に見ていたからだった。
男が衝撃を受けたのは自らの幸運に対してだった。
こんな幸運は二度とはないだろう。
すぐさま顧問団へと通報した。
研究所の検挙は時間の問題だった。
人狩り人員を乗せた艦船は派遣済み
この状況で尻尾切りに掛ける時間の長さ
それは顧問団の政治生命をも意味していたのだから。
事実、事件が白日の下に晒されたが
かれらの誰一人として更迭されなかった。
せいぜいどこかの捜査官が人知れずこの世からいなくなっただけだった。
男は見返りに人事委員会への口利きを約束された。
さらに幸運は続く。
人狩りの被害者に英雄の仲間が含まれていた。
元職員らしかったがそこはどうでもよかった。
英雄の見殺し
これだけで酒が美味くなった。
まだ幸運は続いた。
なんと英雄は事件解決のために親友を対艦兵器で爆殺したのだ。
英雄の親友爆殺
大爆笑だった。
英雄は度重なる取調べ、そして葬儀に疲弊した。
すっかり塞ぎ込んだ英雄は長期の休暇をとってしまったのだった。
これには管理局の上級士官や委員会、顧問団は大いに賑わうのだった。
こうして管理局の闇は体制を維持し続けた。
従ってレジアス・ゲイズは着実にその体制を盤石にしていった。
男は知るだろう
かつて自分が正義燃えたその理由を
何を守りたかったのかということを。
男は一生知らないだろう。
自身の出世の裏には、かつて抱いた志の同士の死があったことを