ー八神家 寝室
週末の夜
二人で映画を見て、
ネット調べたおかずを一緒に作って
新作のサイダーを味見しあって
お風呂で感想を話し合った。
今日も、楽しかった。
いま、はやては寝入った。
腕の中で胸を上下させて安心して眠る彼女を見て幸せを嚙み締める。
今日まではやてに世話になって好きになって
そして、力を手に入れて
とうとう日常が恐ろしくなってしまった。
壊し壊される因果が想起されて恐ろしかった。
恐怖で心が竦んだ。
標的を見つけたら殺せる。
必ず殺せる。
他人の空似だったとしても殺せる自信はある。
しかし何故か、彼女といると自分がこのままでは弱くなってしまう気がして
自分が無用者になってしまう気がして恐ろしかった。
ー境内奥
槍を振るう
こいつを振っている間は何も考えずに済む。
ただ、爺さんを模倣する。
こんな踏込みだった
視線はここ
姿勢はこれぐらい
重心の流れを感じて
足先を滑らす
穂先を返して柄を振りぬく
姿勢を返せばカポエイラのごとく槍は転換して穂先は前方へ
心臓
首
鳩尾
を突く。突く
相手の親指を切り飛ばし上腕を掠める
柄をしならせて胸を突く
血で埋まる肺に溺れる相手を足元を掬って転がす。
喉を突く鎖骨を突く脇を太ももを股関節を
突く。突く。
「その槍、気に入ってくれてうれしいよ」
高町さんだ。会えてよかった。
「会えて嬉しいです。高町さん。」
やっぱり鍛錬場がかぶっているのだろうか。
ただ、気にかけてもらえて嬉しい。
「何かお悩みかな?」
「実は、、、」
ー喫茶店 翠屋
洗いざらい話した
経験値が違う
中途半端にごまかしてもすぐに指摘されそうな気がした
本気で悩んでいた。
もし、心当たりやアドバイスをもらえるのなら、
と頼りになる大人の意見を求めた。
「愛する人と一緒にいられる。満たされていくうちに身動きが制限されていく。気がする。」
「そんな感じです。鍛錬が軌道に乗ってから、余計に」
うーん
と悩まし気な声をされた。
勘違いと言われればそれまで。
それは自覚していた。
ただ、一言でいい。
勘違いだよと言ってもらって
小粋な話と落ち着くコーヒーを貰いたかった。
「そりゃあ、そんなもんさ。」
現実は厳しかった。
「ジャック君は、どうなりたい?どうなりたかった?」
「どうって、今も昔もずっと同じです」
殺しだけが救いだ。
今も昔も変わらない。
「強くなって、それで?その結果誰かを助けたいのかい?」
「助けたいというか、救いたい。皆の魂へ救いを恩として返したい。」
「、、、今も昔も?」
変わらない。
「そこは変わりませんよ。俺が怖いのは壊し壊されが日常に及ぶことです。」
「そして、進むことが怖くなったんだろ?」
いや、そうだけど
「ジャック君は日常を壊されたくない。」
その通り
「はい。」
「壊されないために努力を重ねた」
その通り
「はい。」
「そして努力した君は自身の変革を望んだ。ただし彼女との日常を送る君は成長を止めたままでいて欲しい。」
まあ、「そうです。」
「未来に向かっていながら過去のままでいたい。つまり君の頭に未来が無い。今、未来を想像できるかい?5年後でいい。きみと彼女はどうしている?学校の専攻は?夢はどうする?そもそも隣に君はいるのかい?」
つまり、「どういうことですか?」
「多分、君は既に変わってしまったんじゃあないかな。だから、新しい目標や未来を作らなきゃあ努力の仕様もないだろう?」
目標も無しに過去を引きずって、俺は変化を拒んでいた。
「よくわかりました。流石ですね。」
高町さんは嬉しそうにコーヒーをご馳走してくれた。
恰好のいい大人だな。全く
夜
「なあ、はやて」
「んー?」
「俺とさ、恋人になってくれないか?」
「うんー」
これ、どっちの意味に捉えんだ?