管理外世界には夢があった。
魔力を生成する方法論は過去に失われていた。
従って魔導工学分野へは盛んに投資がなされたし、
魔導工学の発展も同時期に最盛期を迎えた。
管理外世界ではロストロギアの管理は杜撰だった。
神聖なもの
恐ろしいもの
人の手に余るもの
こういった理由で忌諱され、忘れ去られていた。
管理局が現地の政府に取引を持ち掛ければ快くはないものの、
立憲君主制の彼国の王は喜んだ。
プレシア・テスタロッサは同期の中でも抜きんでた天才だった。
才女である彼女は研究において他の追随を許さない。
汚いやり口で彼女を嵌めようものならどこからともなく情報は漏れ、
企む者は自然な流れで更迭される。
彼女はとことんまで魔女だった。
彼女が魔女をやめるのは家庭にいるその間だけ。
アリシア・テスタロッサと過ごす時間は魔女の休息を意味し、
同時に魔女が人間味を取り戻す時間だった。
だから彼女が所属ラボから引き抜かれ、プロジェクトリーダーとして
管理外世界への渡航を余儀なくされたとき、
当然彼女は娘とともに移住した。
当時の研究は公的機関においてもし烈な競争に晒された。
魔導工学は投資市場であり、早く、大きな結果を残したプロジェクトは人事に直結した。
従って局内では優秀な研究者と管理外世界に眠る遺産を求める将官が目をぎらつかせていた。
プレシア・テスタロッサが担当したロストロギアは負の感情を魔力に変換する装置だそうだった。
既に装置は稼働を停止しており、その存在は封印されてた今も語り継がれた。
曰く、大津波を引き起こし大都市を飲み込んだ。
曰く、大規模な地殻変動で住民を地の底へいざなった。
曰く、悪意を以て人類に破滅しかもたらさない災厄だと
猛威を振るった災厄は当時の英雄によって封印されたそうだ。
思念を媒介としているのか、あまりにも強固な封印に手こずった。
プロジェクトを統括した将官はプロジェクトマネージャーを 責する。
中央で報告を受け取るだけの彼は慌てて現場に激を飛ばした。
現場はオーバーワーク気味になってしまった。
すっかり帰りが遅くなったことに罪悪感を感じた彼女は
現場の指揮権限を情けないプロジェクトマネージャーから完全に奪った。
娘のためだった。
プレシア・テスタロッサ主導のもと、封印の解析と解除方法が判明し、制御装置の開発発注が済んだ。
それにとどまらず彼女は駆動炉のロジックを打ち立ててた
感情に端を発するクリーンで高出力な駆動炉の可能性に将官は大いに喜んだ。
プロジェクトを具象化させた功労者の彼女は一生稼いでも得られない額の報酬を約束された。
魔女はプロジェクト終了とともに引退するつもりでいた。
そしてとうとう、テスト運転の日が来た。
朝には娘と未来を約束して指切りをした。
現場にはプロジェクトマネージャーが来ていた。
何一つ功績を残せていない彼はせめて現場で指揮らしきことをしたいらしかった。
上長に抗議したが後の祭りだった。
テスト稼働は恙なく進んだ。
報告に挙げた理論値を達成し、
テスト運転としては安定した出力を示したそれは本格的な研究へと進む大きな助力だった。
ここでプロジェクトマネージャーがしゃしゃり出た。
理論値を超えるエネルギーを内包しているはずだと。
安定稼働の証明だけではなく高出力の証明をするようにと
一切の権限を失った彼はテスト運転の仕様、
出力の上限の理論値の算出方法を知らされていなかった。
実はテスト運転によって出力の最大値は示されていたのだった。
しかし癇癪を起し始めたプロジェクトマネージャーに辟易した
将官を含む全員は出力の微上昇を実行してしまった。
暗黒が目を覚ました。
その場に一瞬悪意の塊があるような錯覚
暗黒の塊が一瞬だけ顕在した。
魔女は即座に制御理論から逆算した領域を展開して身を守り、
無理やり悪意の塊の沈静化した。
悪意に染まった魔力は一帯を汚染した。
魔女が構築した急ごしらえの領域をも侵食した魔力は職員たちの体を侵した。
モラルを崩壊させる悪意の波動は心を砕いた。
建物を透過した魔力は更に多くの施設従業員の命を奪った。
それにとどまらず、宿舎に預けたアリシア・テスタロッサをも魔力で汚染した。
かくして魔女は魔女を続けるしかなかった。
魔女は離れた場所から娘を守れるよう、次元跳躍攻撃を完成させた。
口止めと示談金を上乗せされた報奨金は彼女の研究の助けとなった。
魔女は狂気を身にまとった。
何重にも。
衣が復讐の炎に焼かれるその時まで